特許第6043708号(P6043708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043708
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】金属加工用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 135/22 20060101AFI20161206BHJP
   C10M 163/00 20060101ALI20161206BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   C10M135/22
   C10M163/00
   !C10M159/24
   C10N10:04
   C10N30:00 Z
   C10N40:22
   C10N40:24 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-210796(P2013-210796)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-74694(P2015-74694A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(74)【代理人】
【識別番号】100191330
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】八木下 和宏
(72)【発明者】
【氏名】辻本 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】千本木 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 智宏
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−001686(JP,A)
【文献】 特開平06−158074(JP,A)
【文献】 特開平10−219268(JP,A)
【文献】 特開2003−253287(JP,A)
【文献】 特開2010−174091(JP,A)
【文献】 特開2008−248213(JP,A)
【文献】 特開2007−254559(JP,A)
【文献】 特開2003−183686(JP,A)
【文献】 特開2011−256299(JP,A)
【文献】 TPS32 Product
【文献】 ARKEMA SAFETY DATA SHEET TPS 32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M,C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油、(A)硫黄の架橋数が4以上のものが50モル%以上を占めるジ−tert−オクチルポリサルファイドまたはジ−sec−ドデシルポリサルファイドおよび(B)金属比が6以上の金属系清浄剤を含有する金属加工用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属系清浄剤がカルシウムスルホネートであることを特徴とする請求項1に記載の金属加工用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素を含有しない金属加工用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から切削加工や塑性加工等の金属加工において種々の組成物が用いられているが、加工性向上効果に優れ、かつ安価な塩素系極圧剤が金属加工用油剤として特に多用されてきた。
しかし、近年では塩素系極圧剤を配合した潤滑油は、焼却処理時のダイオキシンの発生や焼却炉の腐食、損傷等の問題が指摘されており、また一部の有機塩素化合物は、発がん性を有することが報告されている。したがって、塩素を含有しない金属加工油の開発が求められている。塩素を含有しない金属加工油としては、ポリサルファイド、硫化油脂、カルシウムスルホネート、ZnDTP等の硫黄基材や、リン酸エステル等のリン系基材を使用したものが従来から知られている(下記特許文献参照)。
しかしながら、これらの潤滑油組成物では加工性能が充分ではなく、近年の材料の硬度化、高塑性化、また加工効率の高効率化等により、切削加工では工具寿命や加工精度の低下、塑性加工では材料破断や工具破損等の問題が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−313182号公報
【特許文献2】特開平6−330076号公報
【特許文献3】特開平10−226795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、加工性能に優れ、難加工条件下に適用できる加工油として好適に用いることができる非塩素系の金属加工用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、潤滑油基油に(A)特定構造のポリサルファイドおよび(B)特定の金属比を有する金属系清浄剤を配合して得られる潤滑油組成物により、課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、潤滑油基油、(A)硫黄の架橋数が4以上のものが50モル%以上を占めるジアルキルポリサルファイドおよび(B)金属比が6以上の金属系清浄剤を含有する金属加工用潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、塩素系極圧剤を含有しないため環境問題が少なく、かつ加工性能に優れた金属加工用潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳述する。
【0009】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、潤滑油基油、(A)硫黄の架橋数が4以上のものが50モル%以上を占めるジアルキルポリサルファイドおよび(B)金属比が6以上の金属系清浄剤を含有する。
【0010】
本発明の潤滑油組成物の潤滑油基油としては、鉱油、合成油および油脂が用いられ、これらは混合物であってもよい。炭化水素油からなる鉱油または合成油が好ましい。
【0011】
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1種又は2種以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油又はナフテン系鉱油が挙げられる。
【0012】
合成油としては、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレンとプロピレンとのコオリゴマー、エチレンと1−オクテンとのコオリゴマー、エチレンと1−デセンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン(PAO)又はそれらの水素化物;イソパラフィン;モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン;ジオクチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジトリデシルグルタレート等の二塩基酸エステル;トリメリット酸等の三塩基酸エステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンオレート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリールモノエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコールモノエーテル、ポリエチレングリコールジエーテル、ポリプロピレングリコールジエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコールジエーテル等のポリグリコール;モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、モノアルキルトリフェニルエーテル、ジアルキルトリフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル等のフェニルエーテル;シリコーン油;パーフルオロエーテル等のフルオロエーテル、等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
油脂としては、例えば、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、これらの水素添加物もしくはこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0014】
潤滑油基油の100℃における動粘度は1〜100mm/sが好ましく、2〜80mm/sがより好ましく、3〜50mm/sがさらに好ましい。40℃動粘度が1mm/s未満だと潤滑性が低下し、またミストの発生で作業環境が悪化するため好ましくない。一方、100mm/sを超えると、被加工物に付着して持ち去られる油剤の量が多くなるため好ましくない。
【0015】
潤滑油基油の40℃における動粘度は1〜500mm/sが好ましく、3〜400mm/sがより好ましく、5〜50mm/sがさらに好ましい。1mm/s未満だと加工性が低下するため、500mm/sを超えると洗浄性が低下するためそれぞれ好ましくない。
【0016】
潤滑油基油の含有量は、組成物全量基準で70〜99.8質量%が好ましく、75〜95質量%がより好ましい。
【0017】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分として、硫黄の架橋数が4以上のものが50モル%以上を占めるジアルキルポリサルファイド化合物を含有する。
【0018】
ジアルキルポリサルファイドとは、下記一般式(1)で表される化合物である。
−(S)−R (1)
(式中、R、Rは炭素数1〜24、好ましくは6〜18の直鎖または分岐状のアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていても良い。nは2〜8の整数を示す。)
【0019】
上記一般式(1)におけるR、Rの具体例としては、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ドデシル基などを挙げることができる。
【0020】
ジアルキルポリサルファイドの具体例としては、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、ジ−tert−オクチルポリサルファイド、ジ−tert−ノニルポリサルファイド、ジ−sec−オクチルポリサルファイド、ジ−sec−デシルポリサルファイド、ジ−sec−ドデシルポリサルファイド、ジ−sec−ヘキサデシルポリサルファイド等が挙げられる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物における(A)成分は、全ジアルキルポリサルファイド化合物中に占める硫黄の架橋数(上記式(1)におけるn)が4以上のジアルキルポリサルファイド化合物の含有割合が50モル%以上のものであることが必要であり、好ましくは55モル%以上であり、60モル%以上がより好ましい。硫黄の架橋数が4以上のジアルキルポリサルファイド化合物の含有割合が50モル%未満の場合、極圧性能が充分ではないため好ましくない。一方、硫黄の架橋数が4以上のジアルキルポリサルファイド化合物の含有割合は90%以下であることが好ましく、より好ましくは85%以下である。含有割合が90モル%を超えると安定性が低下するため好ましくない。
【0022】
(A)成分の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で0.1〜20質量%が好ましく、0.3〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量%がさらに好ましい。(A)成分の含有量が0.1質量%未満だと極圧剤としての充分な効果を得ることができず、20質量%を超えると潤滑油組成物の酸化安定性が低下する傾向がみられるため、それぞれ好ましくない。
【0023】
本発明の潤滑油組成物は、(B)成分として、金属比が6以上の金属系清浄剤を含有する。
【0024】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属スルホネート又はアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート又はアルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ金属サリシレート又はアルカリ土類金属サリシレート等が挙げられる。
【0025】
スルホネートとしては、分子量が300〜1500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が挙げられ、特にカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0026】
上記アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的には、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
上記石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、炭素数2〜12のオレフィン(エチレン、プロピレン等)のオリゴマーをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0027】
フェネートとしては、例えば、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。具体的には、下記一般式(2)、(3)及び(4)で表されるものを挙げることができる。
【0028】
【化1】
【0029】
上記一般式(2)、(3)及び(4)において、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ個別に、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、M、M及びMは、それぞれアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム又はマグネシウムを示し、xは1または2を示す。
【0030】
上記R、R、R、R、R及びRで表されるアルキル基としては、具体的には、それぞれ個別に、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等が挙げられる。これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
【0031】
サリシレートとしては、例えば、アルキルサリチル酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。具体的には、下記一般式(5)で表される化合物を挙げることができる。
【0032】
【化2】
【0033】
上記一般式(5)において、Rは炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、Mはアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム又はマグネシウムを示す。
【0034】
上記Rで表されるアルキル基としては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられ、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
【0035】
また、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートには、上記のアルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性(正塩)アルカリ土類金属スルホネート、中性(正塩)アルカリ土類金属フェネート及び中性(正塩)アルカリ土類金属サリシレート;あるいは中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレート;更には中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートの存在下で、アルカリ土類金属の水酸化物と炭酸ガス又はホウ酸とを反応させることにより得られる過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0036】
(B)成分の金属系清浄剤の金属比は6以上であることが必要であり、好ましくは6.5以上であり、7以上がより好ましい。金属比が6未満のときは加工性が不十分となり好ましくない。
なお、ここでいう金属比とは、金属元素の価数×金属元素含有量(mol)/せっけん基(即ち、アルキルサリチル酸基などの基)含有量(mol)で表され、即ち、金属比はアルカリ金属又はアルカリ土類金属系清浄剤中のアルキルサリチル酸基、アルキルスルホン酸基含有量に対するアルカリ金属又はアルカリ土類金属含有量を示す。
【0037】
金属系清浄剤は、金属比を高くできる観点からアルカリ土類金属系清浄剤が好ましい。またアルカリ土類金属系清浄剤の中でも、加工性の観点から、アルカリ土類金属スルホネートがより好ましく、カルシウムスルホネートが特に好ましい。
【0038】
(B)成分の全塩基価は特に制限はないが、50〜500mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは100〜450mgKOH/gである。全塩基価が50mgKOH/g未満の場合は潤滑性向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、全塩基価が500mgKOH/gを超えるものは製造が非常に難しく入手が困難であるため、それぞれ好ましくない。
なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価[mgKOH/g]をいう。
【0039】
(B)成分の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜8質量%であり、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。
(B)成分の含有量が0.1質量%未満の場合、加工効率及び工具寿命の向上効果が不十分となる傾向にあり、10質量%を超えると金属加工油組成物の安定性が低下して析出物が生じやすくなる傾向にあるため、それぞれ好ましくない。
【0040】
また、本発明の金属加工用潤滑油組成物には、必要に応じ上記した(A)成分および(B)成分以外の従来公知の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、(A)成分以外の非塩素系極圧剤;(B)成分以外の金属系清浄剤;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス等の造膜剤;脂肪酸アミン塩等の水置換剤;グラファイト、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、ポリエチレン粉末等の固体潤滑剤;アミン、アルカノールアミン、アミド、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸、リン酸塩、多価アルコールの部分エステル等の腐食防止剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等の金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミンアミノアミド等の無灰分散剤;等が挙げられる。これらの公知の添加剤を併用する場合の含有量は特に制限されないが、これらの公知の添加剤の合計含有量が潤滑油組成物全量基準で0.1〜10質量%となるような量で添加するのが好ましい。塩素を実質的に含有しないこと、塩素元素含有量が10質量ppm以下、特には1質量ppm以下が好ましい。
【0041】
本発明の金属加工用潤滑油組成物の動粘度は特に制限されないが、加工部位への供給容易性の点から、40℃における動粘度が500mm/s以下であることが好ましく、450mm/s以下であることがより好ましく、400mm/s以下であることがさらに好ましく、50mm/s以下であることが特に好ましい。一方、40℃における動粘度は1mm/s以上であることが好ましく、3mm/s以上であることがより好ましく、5mm/s以上であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、加工効率、工具寿命などの加工性能、更には取扱性に優れるものであるため、金属加工分野の広範な用途において好適に使用することができる。ここでいう金属加工とは、切削・研削加工に限定されず、広く金属加工全般を意味する。また、本発明の金属加工用潤滑油組成物は、通常給油方式による金属加工の他、極微量油剤供給式切削・研削加工(MQL加工)などにも適用可能である。
【0043】
金属加工の種類としては、具体的には、切削加工、研削加工、転造加工、鍛造加工、プレス加工、引き抜き加工、圧延加工等が挙げられる。これらの中でも、本発明の金属加工用潤滑油組成物は切削加工、研削加工、転造加工などの用途に非常に有用である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1〜3および比較例1〜7)
潤滑油基油に添加剤を配合した組成物を表1に示す。各添加剤の添加量(質量%)は潤滑油組成物全量基準である。
(a1)ジ−tert−オクチルポリサルファイド(硫黄量:33.5質量%、硫黄架橋数4以上の存在比:35モル%)、(a2)ジ−tert−オクチルポリサルファイド(硫黄量:31質量%、硫黄架橋数4以上の存在比:15モル%)及び(a3)ジ−tert−オクチルポリサルファイド(硫黄量:20質量%、硫黄架橋数4以上の存在比:35モル%)は、市販品である。
(A1)ジ−tert−オクチルポリサルファイド(硫黄量:37質量%、硫黄架橋数4以上の存在比:70モル%)、(A2)ジ−tert−オクチルポリサルファイド(硫黄量:37質量%、硫黄架橋数4以上の存在比:70モル%)及び(A3)ジ−sec−ドデシルポリサルファイド(硫黄量:26質量%、硫黄架橋数4以上の存在比:55モル%)は、(a1)、(a2)及び(a3)をそれぞれ、シリカゲルクロマトグラフにて、硫黄架橋度の高い部分を分取したものである。
得られた各組成物について、以下に示すタッピング試験により加工性能を評価した。その結果を表1に示した。
【0046】
(タッピング試験)
工具摩耗に対する性能を評価するため、実施例1〜3及び比較例1〜7の潤滑油組成物について、下記の加工条件にて標準油に対するタッピングエネルギー効率Eを測定し、この試験による切削性能評価を行った。
・被削材:S25C
・工具径:8mm
・タップピッチ:1.25mm
・タップすくい角:10度
・タップ食いつき角:1.5度
・タップ下穴径:7.0mm
・回転数:360rpm
・加工数:1穴
・標準油:DIDA(アジピン酸ジイソデシル)
・供給油剤量:9.0ml/分
【0047】
なお、タッピングエネルギー効率Eは、タッピングエネルギー効率E(%)=(比較標準油を用いた場合のタッピングエネルギー)/(油剤組成物を用いた場合のタッピングエネルギー)により定義される。
【0048】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の潤滑油組成物は、塩素系極圧剤を含有しないため環境問題が少なく取扱いが容易であり、加工効率の向上、工具寿命の向上を達成することができるため有用である。