特許第6043718号(P6043718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043718スポット検出用セット、スポット検出方法、及び被転写シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043718
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】スポット検出用セット、スポット検出方法、及び被転写シート
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/92 20060101AFI20161206BHJP
   G01N 30/95 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G01N30/92
   G01N30/95 A
   G01N30/95 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-522949(P2013-522949)
(86)(22)【出願日】2012年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2012066563
(87)【国際公開番号】WO2013005642
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-147664(P2011-147664)
(32)【優先日】2011年7月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】蓑田 稔治
(72)【発明者】
【氏名】池田 勇
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−187452(JP,A)
【文献】 特開平03−273163(JP,A)
【文献】 特開平07−234225(JP,A)
【文献】 特開平02−280054(JP,A)
【文献】 特開平03−246466(JP,A)
【文献】 特開平05−232099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 − 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離剤層を有するTLCプレートと、分離剤層に重ね合わせられて分離剤層のスポットが転写されるための被転写シートとを有し、
分離剤層は目的物質に対する分離性と紫外線に対する光学応答性とを有し、
分離剤層の分離剤が多糖誘導体であり、
被転写シートは分離剤層とは異なる光学応答性と多孔性とを有する、スポット検出用セット。
【請求項2】
被転写シートがシリカゲルシートであることを特徴とする請求項1に記載のスポット検出用セット。
【請求項3】
TLCプレートと被転写シートとを所定の位置関係で重ね合わせるための位置合わせ構造をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスポット検出用セット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のスポット検出用セットを用いて薄層クロマトグラフィーにおけるスポットを検出する方法であって、
TLCプレートの分離剤層に試料中の目的物質を展開させる工程と、
分離剤層の少なくとも目的物質を展開させた位置に被転写シートを重ね合わせる工程と、
重ね合わせられた分離剤層及び被転写シートを転写用溶剤で濡らす工程と、
分離剤層に重ね合わせられている被転写シート側から転写用溶剤を揮発させて分離剤層のスポットを被転写シートに転写する工程と、
被転写シートに転写されたスポットを光学的に検出する工程とを含む、スポット検出方法。
【請求項5】
目的物質を展開させた分離剤層を、この分離剤層に被転写シートを重ね合わせる前に乾燥させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載のスポット検出方法。
【請求項6】
TLCプレートに対する所定の位置関係で被転写シートを重ね合わせることを特徴とする請求項4又は5に記載のスポット検出方法。
【請求項7】
目的物質に対する分離性と紫外線に対する光学応答性とを有する分離剤層を備えたTLCプレートにおける分離剤層のスポットを分離剤層から転写するために用いるための、分離剤層とは異なる光学応答性と多孔性とを有する被転写シートであって、
分離剤層の分離剤が多糖誘導体である、被転写シート
【請求項8】
シリカゲルシートであることを特徴とする請求項7に記載の被転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TLCプレートにおける光学応答性を有さない分離剤層における目的物質のスポットを検出するためのスポット検出用セット、それを用いるスポットの検出方法、及び前記セットにおける被転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
混合物中から特定の成分を分離、検出する方法としては、薄層クロマトグラフィー(以下、「TLC」とも言う)が知られている。TLCは試料中の目的物質の検出や分取に用いられる。TLCでは、目的物質のスポットは、通常、TLCプレートの分離剤層と目的物質との光学的な応答の差によって検出される。したがって、TLCでは、分離剤層と目的物質との光学応答性が同じである場合には、スポットを光学な応答によって検出することができないことがある。
【0003】
このような問題点に対して、同一基板上に、目的物質に対する分離性を有するが光学応答性を有さない第一の分離剤層と、分離性は有さないが光学応答性を有する第二の分離剤層とが並んで形成されているTLCプレートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このTLCプレートでは、第一の分離剤層から第二の分離剤層まで試料中の目的物質を展開させ、第一の分離剤層で分離したスポットが隣接する第二の分離剤層まで移動し、そこで光学応答性に応じて検出される。
【0004】
このTLCプレートでは、試料中の、第一の分離剤層により吸着されやすいエクストラクト成分は、第二の分離剤層まで十分に到達しない場合がある。また、一般に各分離剤層におけるスポットの移動速度が異なることから、第一の分離剤層におけるスポットの位置関係は第二の分離剤層まで正確に維持されないことがある。このように前記のTLCプレートは、第一の分離剤層での分離状態が正確に検出することができないことがあり、少なくともこの点について検討の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3140138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光学応答性では目的物質を検出できないTLCプレートにおけるスポットを正確に検出する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、TLCプレートのスポットを、目的物質に対して光学応答性を有する被転写シートに転写させることによって前述の問題点を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、分離剤層を有するTLCプレートと、分離剤層に重ね合わせられて分離剤層のスポットが転写されるための被転写シートとを有し、分離剤層は目的物質に対する分離性と紫外線又は発色試薬に対する光学応答性とを有し、被転写シートは分離剤層とは異なる光学応答性と多孔性とを有する、スポット検出用セットを提供する。
【0009】
また本発明は、被転写シートがシリカゲルシートである前記のスポット検出用セットを提供する。
【0010】
また本発明は、TLCプレートと被転写シートとを所定の位置関係で重ね合わせるための位置合わせ構造をさらに有する前記のスポット検出用セットを提供する。
【0011】
また本発明は、前記の本発明のスポット検出用セットを用いて薄層クロマトグラフィーにおけるスポットを検出する方法であって、TLCプレートの分離剤層に試料中の目的物質を展開させる工程と、分離剤層の少なくとも目的物質を展開させた位置に被転写シートを重ね合わせる工程と、重ね合わせられた分離剤層及び被転写シートを転写用溶剤で濡らす工程と、分離剤層に重ね合わせられている被転写シート側から転写用溶剤を揮発させて分離剤層のスポットを被転写シートに転写する工程と、被転写シートに転写されたスポットを光学的に検出する工程とを含む、スポット検出方法を提供する。
【0012】
また本発明は、目的物質を展開させた分離剤層を、この分離剤層に被転写シートを重ね合わせる前に乾燥させる工程をさらに含む前記のスポット検出方法を提供する。
【0013】
また本発明は、TLCプレートに対する所定の位置関係で被転写シートを重ね合わせる前記のスポット検出方法を提供する。
【0014】
また本発明は、目的物質に対する分離性と紫外線又は発色試薬に対する光学応答性とを有する分離剤層を備えたTLCプレートにおける分離剤層のスポットを分離剤層から転写するために用いるための、分離剤層とは異なる光学応答性と多孔性とを有する被転写シートを提供する。
【0015】
また本発明は、シリカゲルシートである前記の被転写シートを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、TLCプレートの分離剤層に重ね合わされる前記被転写シートを用いることから、分離剤層に重ね合わされている被転写シートの背面から転写用溶剤を揮発させることによって、分離剤層のスポットの少なくとも一部が被転写シートに転写されるので、光学応答性では目的物質を検出できないTLCプレートにおけるスポットを正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のスポット検出方法の一例を示す図である。
図2】第一及び第二の分離剤層を有するTLCプレート1におけるトレガー塩基のスポットを示す図である。
図3】TLCプレート1におけるフラバノンのスポットを示す図である。
図4】TLCプレート2からスポットを転写した被転写シートにおけるトレガー塩基及びフラバノンのスポットを示す図である。
図5】TLCプレート3からスポットを転写した被転写シートにおけるトレガー塩基及びフラバノンのスポットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のスポット検出用セットは、分離剤層を有するTLCプレートと、分離剤層に重ね合わせられて分離剤層のスポットが転写されるための被転写シートとを有する。
【0019】
前記TLCプレートは、目的物質に対する分離性と紫外線又は発色試薬に対する光学応答性とを有する分離剤層を有するTLCプレートであれば特に限定されない。ここで紫外線に対する光学応答性とは、蛍光等の紫外線による発光、又は紫外線の吸収を言う。また発色試薬に対する光学応答性とは、発色試薬による発色を言う。このようなTLCプレートとしては、基板とこの基板上に形成される前記の分離剤層とを有するTLCプレートが挙げられる。このようなTLCプレートは、公知のTLCプレートから適宜に選び出すことができ、また前記の分離性と光学応答性とを有する分離剤のスラリーを基板上に塗布し、乾燥させて分離剤層を形成することによって得ることができる。
【0020】
前記基板には、TLCにおける公知の基板を用いることができる。このような基板としては、例えば、ガラス製、樹脂製、金属製、又は紙製の平板が挙げられる。基板の形状は、特に限定されないが、TLCで通常使用される長方形であることが好ましい。
【0021】
分離剤には、粒子状の分離剤を用いることができる。このような粒子状の分離剤としては、分離剤のみからなる粒子、粒子状の担体に分離剤が担持されてなる粒子、が挙げられる。
【0022】
分離剤としては、前記光学応答性を有する低分子系の分離剤や高分子系の分離剤のいずれも用いることができる。低分子系の分離剤としては、例えば、配位子交換型の分離剤、電化移動(π−π)型の分離剤、水素結合型の分離剤、包接型の分離剤、イオン結合型の分離剤、インターカレート型の分離剤、クラウンエーテル又はその誘導体、及び、シクロデキストリン又はその誘導体、が挙げられる。高分子系の分離剤としては、例えば多糖誘導体、ポリアミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、タンパク質、及び酒石酸誘導体が挙げられる。
【0023】
前記多糖誘導体としては、例えば光学異性体用分離剤に用いられる、多糖と多糖の水酸基或いはアミノ基の一部又は全部と置き換わった芳香族エステル基、芳香族カルバモイル基、芳香族エーテル基、及びカルボニル基のいずれかとからなる多糖誘導体が挙げられ、例えばセルロースのフェニルカルバメート誘導体、セルロースのフェニルエステル誘導体、アミロースのフェニルカルバメート誘導体、及びアミロースのフェニルエステル誘導体が挙げられる。これらの誘導体におけるフェニル基は炭素数1〜20の炭化水素、及びハロゲンからなる群から選ばれる一以上の置換基を有していてもよい。
【0024】
前記担体は、多孔質体であることが、分離性能を高める観点から好ましい。前記担体としては、例えば架橋ポリスチレン、架橋アクリル系ポリマー、エポキシ重合物等の合成高分子、セルロースやそれを架橋によって強化した架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストラン、及び架橋マンナン架橋体等の多糖、及び、アルミナ、シリカゲル、メソポーラスシリカゲル、ゼオライト、珪藻土、溶融シリカ、粘度鉱物、ジルコニア、金属等の無機物、が挙げられる。
【0025】
分離剤の粒径は、TLCプレートにおける分離の目的に応じて決めることができ、例えば中圧カラムクロマトグラフィーの条件検討のためであれば、中圧クロマトグラフィーに適用可能な結果を得る観点から、10μm以上であることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、20〜100μmであることがさらに好ましい。各分離剤の粒径は、通常の粒径測定装置で測定される平均粒径を採用することができるが、カタログ値であってもよい。
【0026】
前記分離剤層を作製する場合では、分離剤層はTLCプレートを作製する公知の方法を用いて、例えば、前記分離剤と塗布用溶剤とを含有するスラリーを、スプレッダを用いて支持体の表面に塗布することによって、又は前記スラリーを支持体の表面に噴霧することによって、形成することができる。
【0027】
前記塗布用溶剤には、水、有機溶剤、及びこれらの混合溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン等のスルホン類、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等、芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等の含ハロゲン化合物類が挙げられる。
【0028】
塗布用溶剤としては、好ましくは水溶性の有機溶剤と水との混合溶剤であり、より好ましくはアルコールと水の混合溶剤、さらに好ましくはエタノールと水との混合溶剤である。前記混合溶剤におけるアルコールの含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
なお、互いに隣接する二つの分離剤層を基板上に形成する場合では、それぞれの分離剤層を形成するそれぞれのスラリーにおいて、分離剤層の境界の乱れを防止し、この境界の乱れによる各分離剤層でのスポットの移動への影響を抑制する観点から、塗布用溶剤の種類が同じであることが好ましく、塗布用溶剤の組成が同じであることがより好ましい。
【0030】
前記スラリーにおける塗布用溶剤の含有量は、形成される分離剤層の均一性、層の厚さ、及び、経済的な観点、から決定することができ、分離剤100質量部に対して10〜5,000質量部であることが好ましく、50〜1,000質量部であることがより好ましく、100〜300質量部であることがさらに好ましい。
【0031】
前記スラリーは、形成される分離剤層の強度の向上の観点から、バインダをさらに含有することが好ましい。前記バインダには、基板の表面において分離剤の層を形成する結着性をもたらす成分を用いることができる。このようなバインダとしては、石膏やコロイダルシリカ等の無機系バインダ、ミクロフィブリル化セルロース等の有機繊維、及び、アルカリ水溶性共重合体、ヒドロキシエチルセルロースやカルボキシメチルセルロース等の増粘剤、ポリビニルアルコール、アクリル酸等の有機系バインダが挙げられる。バインダは一種でも二種以上でもよい。
【0032】
前記スラリーにおけるバインダの含有量は、形成される分離剤層の強度と、分離剤層における移動相の適正な上昇速度との観点から、バインダの種類に応じて適宜に決めることができる。例えば石膏であれば、バインダの含有量は、分離剤100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましく、10〜20質量部であることがさらに好ましい。また、例えばカルボキシメチルセルロース等の有機系のバインダであれば、バインダの含有量は、分離剤100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましく、1〜3質量部であることがさらに好ましい。
【0033】
前記被転写シートは、分離剤層とは異なる光学応答性と多孔性とを有する。ここで「異なる光学応答性」とは、紫外線の照射又は発色試薬の発色処理による一方の光学的応答と他方の光学的応答とが、色や明るさによって光学的に識別できる程度に異なることを言う。
【0034】
また被転写シートが有する「多孔性」とは、被転写シートを分離剤層に重ね合わせ、両者を溶剤で濡らし、被転写シート側から乾燥させたときに、分離剤層のスポットを形成している成分の少なくとも一部が被転写シートに移る程度の速度で溶剤が被転写シートに吸い上げられる隙間を有することを言う。このような観点から、被転写シートの空隙率(Total porosity)は、0.1〜0.9であることが好ましく、0.2〜0.8であることがより好ましく、0.4〜0.8であることがさらに好ましい。被転写シートの空隙率は、例えば、被転写シートに溶剤が吸い上げられた状態での重量から被転写シートの重量を差し引いた重量差、吸い上げられた溶剤の比重及び被転写シートの外寸法から計算される体積から算出することができる。
【0035】
被転写シートの多孔性は、TLCプレートからスポットを形成する成分を移動させる観点から、被転写シートのTLCプレートと重なり合う部分において均一である(例えば空隙率が一定である)ことが好ましく、被転写プレートの全体において均一であることがより好ましい。
【0036】
被転写シートは、種々の方法によって作製することができる。例えば被転写シートは、多孔質の支持体にシリカゲル等の前記担体のスラリーを塗布し、乾燥させることによって作製することができる。多孔質の支持体としては、例えばパンチングによって孔を設けた板、焼結板、メッシュ(網)、及び多孔質のフィルムが挙げられる。また支持体の材料としては、例えばガラス、プラスチック、金属、及びセラミックが挙げられる。
【0037】
また被転写シートは、前記担体と前記塗布用溶剤とを含有し、必要に応じて前記バインダや骨材を含有するスラリーを基板上に塗布し、乾燥させて形成してなる層を基板から剥がすことによって作製することができる。骨材としては、例えばメッシュやフィラー(繊維)が挙げられる。被転写シート用のスラリーにおけるバインダの含有量は、被転写シードの強度の観点から、前記担体100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜30質量部であることがより好ましく、1〜20質量部であることがさらに好ましい。また、被転写シート用のスラリーにおける骨材の含有量は、被転写シートの強度の観点から、前記担体100質量部に対して0.1〜0.9質量部であることが好ましく、0.2〜0.8質量部であることがより好ましく、0.3〜0.7質量部であることがさらに好ましい。
【0038】
また被転写シートは、ゾル−ゲル法によってシート状に成形された多孔質のシリカゲル(モノリスプレート)として作製することができる。
【0039】
このような被転写シートの中でも、被転写シートは前述のうちのいずれかの方法によってシリカゲルがシート状に成形されているシリカゲルシートであることが、被転写シートの空隙率の調整や溶剤との親和性の観点から好ましい。
【0040】
被転写シートの厚さは、目的物質の浸透性、目的物質のスポットの拡散の防止及び被転写シート強度の観点から、10〜2000μmであることが好ましく、50〜1000μmであることがより好ましく、100〜500μmであることがさらに好ましい。
【0041】
被転写シート用のスラリーを用いて被転写シートを作製する場合では、前記の多孔性の観点と、被転写シートとTLCプレートとの適度な密着性との観点から、前記担体の粒径は、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、5〜40μmであることがさらに好ましい。
【0042】
被転写シートは、紫外線の照射による光学応答性によってスポットを検出する場合には、蛍光指示薬をさらに含有することが、より明確な検出の観点から好ましい。このような蛍光指示薬としては、公知の蛍光指示薬を用いることができ、例えば、タングステン酸マグネシウムや、マンガン含有ケイ酸亜鉛等が挙げられる。このような被転写シートは、前記の被転写シート用スラリーに蛍光指示薬をさらに添加することによって得ることができる。蛍光指示薬の含有量は、目的物質の分離が可能な範囲で決めることができ、一般には前記担体100質量部に対して0.1〜5質量部である。
【0043】
また被転写シートは、発色試薬による光学応答性によってスポットを検出する場合には、発色試薬及びその発色処理の公知の技術を採用することができる。このような発色試薬としては、例えば、アニスアルデヒド溶液、リンモリブデン酸溶液、ヨウ素、ニンヒドリン溶液、カメレオン溶液、DNPH溶液、塩化マンガン溶液、及びブロモクレゾールグリーン溶液が挙げられる。発色処理としては、例えば、発色試薬を被転写シートへ塗布、散布、又は暴露によって付着させ、必要に応じて被転写シートを加熱して発色させる処理が挙げられる。
【0044】
本発明のスポット検出用セットは、TLCプレートと被転写シートとを所定の位置関係で重ね合わせるための位置合わせ構造をさらに有することが、分離剤層におけるスポットのより正確な検出の観点から好ましい。このような位置合わせ構造としては、例えば、両者が重なる位置が特定され、かつ重なり合った両者の水平方向へのずれを防止する構造が挙げられ、より具体的には、TLCプレートと被転写シートとを端部で蝶番で蝶着する構造、TLCプレートとそれに重ね合わされた被転写シートの両方を、水平方向に対して隙間なく収容する枠、TLCプレート及び被転写シートの一方に設けられた杭等の突部とそれに対応する他方に設けられた孔等の凹部、及び、接着テープや面ファスナ等のTLCプレートと被転写シートとを接着又は着脱自在に接着させる接着手段、が挙げられる。
【0045】
本発明のスポット検出方法は、前述した本発明のスポット検出用セットを用いて行うことができる。
【0046】
本発明のスポット検出方法は、TLCプレートの分離剤層に試料中の目的物質を展開させる第一の工程と、分離剤層の少なくとも目的物質を展開させた位置に被転写シートを重ね合わせる第二の工程と、重ね合わせられた分離剤層及び被転写シートを転写用溶剤で濡らす第三の工程と、分離剤層に重ね合わせられている被転写シート側から転写用溶剤を揮発させて分離剤層のスポットを被転写シートに転写する第四の工程と、被転写シートに転写されたスポットを光学的に検出する第五の工程と、を含む。
【0047】
第一の工程は、通常のTLCと同様に行うことができる。すなわち第一の工程は、分離剤層の一端部に試料を点着し、必要に応じて試料のスポットを乾燥させ、試料を点着した分離剤層の一端部を下にして移動相に浸し、分離剤層において試料中の目的物質を展開させることによって行うことができる。なお目的物質は、分離剤層において分離剤層と同じ光学応答を示す物質である。
【0048】
第二の工程において、被転写シートは、分離剤層における目的物質を展開させた位置に重ね合わせればよく、移動相が展開した部分等の分離剤層の一部のみに重ね合わされてもよいが、分離剤層の全体に重ね合わせられることが、スポットの位置の検出の観点から好ましい。第二の工程は、TLCプレートに対する所定の位置関係で被転写シートを重ね合わせる工程であることが、分離剤層におけるスポットの位置をより正確に検出する観点から好ましい。
【0049】
また第三の工程は、重ね合わされた被転写シートと分離剤層とを、被転写シート側から被転写シートの全体に転写用溶剤を噴霧することによって、又は転写用溶剤に浸すことによって、又は重ね合わせたときに分離剤層まで十分に濡れるように重ね合わせ前に被転写シートを転写用溶剤によって濡らすことによって、行うことができる。
【0050】
前記転写用溶剤には、分離剤層のスポットを形成している成分の少なくとも一部を分離剤層から溶出する溶剤を用いることができる。このような転写用溶剤は、前記の移動相であってもよいし、公知の有機溶剤であってもよいし、公知の有機溶剤、水、酸、及びアルカリからなる群から選ばれる二以上の混合物であってもよい。転写用溶剤は、目的物質の溶解性や目的物質の溶出力の観点から、エタノール、メタノール、2−プロパノールのようなアルコール類、THF、酢酸エチル、クロロホルム、アセトンといった溶剤を用いることができる。分離剤層が、前記担体に前記多糖誘導体系の分離剤が担持されたコーティングタイプのものを用いて作製される場合には、担体に担持された前記多糖誘導体系の分離剤が溶解しないように、アルコール類を用いることが好ましい。
【0051】
第四の工程は、分離剤層に重ね合わせられている被転写シート側から風乾させることが、被転写シートにおいて適度な吸い上げ速度で転写用溶剤を吸い上げる観点から好ましく、冷風10〜30℃によって風乾させることが、さらに転写量の増加の観点から好ましい。この風乾は、被転写プレート全体に対して行ってもよいし、スポットが存在するであろう部分等の被転写プレートの一部分に対して行ってもよい。
【0052】
第五の工程は、被転写シートを分離剤プレートに重ね合わせたまま行ってもよいし、被転写シートを剥がしてから行ってもよい。第五の工程において、目的物質は被転写シートの光学応答に対して識別可能に異なる光学応答を示す。また、第五の工程における光学的な検出は、転写したスポットの光学応答が得られる範囲において、被転写シートの分離剤プレートとの接触面を表側としたときに、被転写シートの表側で行ってもよいし、裏側で行ってもよい。
【0053】
本発明のスポット検出方法は、本発明の効果が得られる範囲で、さらなる工程を含んでいてもよい。このような他の工程としては、目的物質を展開させた分離剤層を、この分離剤層に被転写シートを重ね合わせる前に乾燥させる工程が挙げられる。この乾燥工程をさらに含むことは、分離剤層におけるスポットの位置をより正確に検出する観点から好ましい。この乾燥工程は、温風20〜80℃によって風乾させる工程であることが、作業性の向上の観点から好ましく、冷風によって風乾させる工程であることが、安全性の観点から好ましい。
【0054】
本発明のスポット検出方法は、例えば図1に示すように、多糖誘導体を塗布したシリカゲルによる分離剤層を有するTLCプレートを用意し(図中のA)、このTLCプレートの分離剤層の一端側に光学異性体のラセミ体の溶液等の試料を点着して試料中の光学異性体を一端側から他端側に向けて展開させ、ドライヤーによる冷風で一旦乾燥させ(図中のB)、シリカゲルによるシート等の被転写シートをTLCプレートの分離剤層に重ね合わせ(図中のC)、重ね合わされた被転写シートの裏面の全体にエタノール等の転写用溶剤を噴霧して被転写シートと分離剤層の両方を転写用溶剤で濡らし(図中のD)、重ね合わされている被転写シートと分離剤層の両方をドライヤーによる冷風で被転写シートの裏側から徐々に乾燥させ(図中のE)、被転写シートの裏側にUVを照射して、被転写シートに転写されたスポットを光学的に検出する(図中のF)ことによって行うことができる。
【0055】
本発明での被転写シートにおけるスポットの光学的な検出は、TLCプレートにおける分離結果の観察に用いることができる。本発明では、TLCプレート上のスポットであればラフィネート成分及びエクストラクト成分の両スポットを、TLCでの分離によるこれらの位置関係も含めて正確に検出することができる。また本発明では、TLCプレートに複数の試料を並べて点着し、同時に展開させたときの各試料における分離状態をそれぞれ正確に検出することができる。また被転写シートから転写された特定のスポットを含む部分を採取し、抽出操作を行うことによって、目的物質の分取に用いることもできる。さらに目的物質の分取では、被転写シートで検出された特定のスポットを含む部分に対応する分離剤層の部分も併せて採取して目的物質の分取に用いることもできる。
【実施例】
【0056】
[Rf値の確認]
まず、ダイセル化学工業株式会社製CHIRALPAK IA(同社の登録商標)の充填剤(「IA充填剤」とも言う)4.00gと、石膏0.60gと、2%CMC(カルボキシメチルセルロース)1110(ダイセル化学工業株式会社製)水溶液4.00gと、20%スノーテックスC(日産化学工業株式会社製)水溶液0.60gとを、水0.40g、エタノール1.60gの混合溶液に添加し、超音波を照射しながら十分に攪拌して第一のスラリーを調製した。また、シリカゲル4.00g(ダイソー株式会社製液体クロマトグラフィー用、IR−60−5/20−U)、石膏0.20g、2%CMC(カルボキシメチルセルロース)1110(ダイセル化学工業株式会社製)水溶液6.00g、マンガン含有ケイ酸亜鉛0.04gとを、水2.02g、エタノール2.80gの混合溶液に添加し、超音波を照射しながら十分に攪拌して第二のスラリーを調製した。これらのスラリーを、仕切り板を装着したTLCプレート作製用スプレッダを用いてガラス板の表面に均一に塗布し、塗布したそれぞれのスラリー層を風乾し、真空ポンプで引きながら60℃で3時間真空乾燥することによって、第一のスラリーによる第一の分離剤層と、第二のスラリーによる、第一の分離剤層に併設された第二の分離剤層とを有するTLCプレート1を12枚形成した。
【0057】
第一の分離剤層は幅が2cm、長さが10cm、厚さが150μmであり、第二の分離剤層のは、幅が3cm、長さが10cm、厚さが110μmである。第一の分離剤層がIA充填剤による層であり、第二の分離剤層が前記シリカゲルの層である。また、IA充填剤の平均粒径は20μmであり、シリカゲルの平均粒径は14.4μmである。
【0058】
トレガー塩基(TB)のラセミ体の1%の酢酸エチル溶液の約1μLを、TLCプレート1の長手方向を縦とした時の下から約1.0cmの位置に点着した。n−ヘキサンとエタノールを体積比で9:1で含有する混合溶剤を収容した展開槽内に、試料のスポットを下にしてTLCプレート1を収容し、第一の分離剤層の長手方向に試料中のトレガー塩基の光学異性体を展開させた。この第一の展開の後、一旦冷風でTLCプレート1を乾燥し、次いでエタノールを収容した展開槽内に第一の分離剤層が下になるようにTLCプレート1を収容し、第一の分離剤層から第二の分離剤層へトレガー塩基の光学異性体をさらに展開させた。
【0059】
この第二の展開の後、TLCプレート1を冷風で乾燥し、TLCプレート1に紫外線を照射したところ、第一の分離剤層から第二の分離剤層に移動したラフィネート成分RTB及びエクストラクト成分ETBのスポットが、第二の分離剤層にてそれぞれ緑色のスポットとして確認された(図2)。第一の分離剤層は紫外線を吸収して黒い領域として観察された。第一の分離剤層における試料の点着位置、展開液の到達位置、及び第二の分離剤層におけるスポットの中心位置とから、各スポットのRf値を求めたところ、トレガー塩基のラフィネート成分のRf値は約0.5であり、エクストラクト成分のRf値は約0.35であった。
【0060】
また、別のTLCプレート1を用いて、フラバノン(FLV)のラセミ体の1%の酢酸エチル溶液の約1μLを、前述の操作と同様にTLCプレート1に点着し、フラバノンのラセミ体を第二の分離剤層に展開させ、第二の分離剤層においてラフィネート成分RFLV及びエクストラクト成分EFLVのスポットの位置をそれぞれ確認したところ、両成分が第二の分離剤層において緑色のスポットとして確認された(図3)。フラバノンのラフィネート成分のRf値は約0.3であり、エクストラクト成分のRf値は約1.75であった。
【0061】
[実施例1]
次に、第一のスラリーを、TLCプレート作製用スプレッダを用いてガラス板の表面に均一に塗布し、塗布したスラリー層を風乾し、真空ポンプで引きながら60℃で3時間真空乾燥し、幅が2cm、長さが10cm、厚さが150μmの、第一のスラリーによる第一の分離剤層のみを有するTLCプレート2を形成した。
【0062】
次いで、トレガー塩基のラセミ体の1%の酢酸エチル溶液の約1μLと、フラバノンのラセミ体の1%の酢酸エチル溶液の約1μLとを、TLCプレート2の長手方向を縦とした時の下から約1.0cmの位置にそれぞれ点着し、n−ヘキサンとエタノールを体積比で9:1で含有する混合溶剤を収容した展開槽内に、両試料のスポットを下にしてTLCプレート2を収容し、TLCプレート2の長手方向に両試料を同時に展開させた。この展開後、一旦冷風でTLCプレート2を乾燥させ、スポットの展開を停止させた。
【0063】
このTLCプレート2の第一の分離剤層上に、同じ大きさの矩形に形成されたシリカゲルシートを重ね合わせ、重ね合わされたシリカゲルシートの全体にエタノールを噴霧してシリカゲルシート及び第一の分離剤層の両方をエタノールで全体的に濡らし、シリカゲルシートを第一の分離剤層に重ね合わせた状態でシリカゲルシートに冷風を当てて第一の分離剤層及びシリカゲルシートの両方を乾燥させ、第一の分離剤層のスポットを第一の分離剤層からシリカゲルシートへ転写した。
【0064】
なお、シリカゲルシートは、第二のスラリーをガラス板上に前述のように塗布し、乾燥させて形成された厚さ約300μmの第二の分離剤層をガラス板から剥離し、前記の矩形に形状を整えることによって形成した。
【0065】
エタノールを乾燥させた後に、シリカゲルシートをTLCプレート2から外し、シリカゲルシートにおけるTLCプレート2との接触面に紫外線を照射したところ、トレガー塩基及びフラバノンのラフィネート成分RTB、RFLV及びエクストラクト成分ETB、EFLVのそれぞれが、緑色のスポットとして検出された(図4)。
【0066】
[参考例]
さらに、IA充填剤に代えてダイセル化学工業株式会社製CHIRALPAK IC(同社の登録商標)の充填剤(「IC充填剤」とも言う)を用いた以外は第一のスラリーと同様にして第三のスラリーを調製し、この第三のスラリーを用いる以外はTLCプレート2と同様にして、第三のスラリーによる第三の分離剤層のみを有するTLCプレート3を形成した。そしてTLCプレート3を用いて、TLCプレート2による同時展開と同様に、トレガー塩基のラセミ体の1%の酢酸エチル溶液の約1μLとフラバノンのラセミ体の1%の酢酸エチル溶液とを同時に展開させ、シリカゲルシートへのスポットの転写を行った。なお、この充填剤とこの混合溶剤との組み合わせでは、カラムでもそれぞれの試料の光学異性体が分離しないことが判明している。
【0067】
エタノールを乾燥させた後に、シリカゲルシートをTLCプレート3から外し、シリカゲルシートにおけるTLCプレート3との接触面に紫外線を照射したところ、トレガー塩基及びフラバノンのそれぞれが、光学分割していない状態で、単独の緑色のスポットSTB、SFLVとして検出された(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0068】
TLCは、カラムクロマトグラフィーによる分離条件の主な検討手段として従来より用いられており、また目的物質の分取にも用いられている。本発明は、光学的な応答によって分離状態の検出が困難であった分離剤による目的物質の分離状態を従来に比べて正確に検出することができることから、このような分離剤の用途のさらなる拡大やこのような分離剤を用いる分離精製技術のさらなる発展に貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0069】
A〜F 本発明のスポット検出方法の一例における各状態
RTB トレガー塩基のラフィネート成分のスポット
ETB トレガー塩基のエクストラクト成分のスポット
RFLV フラバノンのラフィネート成分のスポット
EFLV フラバノンのラフィネート成分のスポット
STB トレガー塩基のラセミ体のスポット
SFLV フラバノンのラセミ体のスポット
図1
図2
図3
図4
図5