(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(D)成分である粘度指数向上剤の含有量に対する(B)成分であるホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドの合計含有量の比が6以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては、鉱油系でも合成油でも使用できる。
【0009】
鉱油系潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、100℃における動粘度が上記条件を満たす基油が使用できる。
【0010】
本発明に係る潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油。
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)。
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)。
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油。
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油。
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)。
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)。
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0011】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0012】
更に、本発明に係る潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油。
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0013】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0014】
上記水素化分解、水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0015】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr
−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
【0016】
本発明に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は5.0mm
2/s以下であることが必要であり、好ましくは4.5mm
2/s以下、特に好ましくは4.2mm
2/s以下である。一方、当該動粘度は、3.0mm
2/s以上であることが必要であり、3.4mm
2/s以上であることが好ましく、より好ましくは3.7mm
2/s以上である。
なお、ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。
潤滑油基油成分の100℃動粘度が5.0mm
2/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、3.0mm
2/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがあるため好ましくない。
【0017】
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は120以上であることが好ましい。より好ましくは125以上、さらに好ましくは130以上、最も好ましくは140以上である。一方当該粘度指数は160以下であることが好ましい。
粘度指数が120未満であると、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が160を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0018】
また、本発明に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。
本発明に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0019】
また、本発明に係る鉱油系潤滑油基油の%C
Pは70以上であることが好ましく、より好ましくは80以上、さらに好ましくは85以上、最も好ましくは90以上である。また、好ましくは95以下である。
潤滑油基油の%C
Pが70未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また添加剤の溶解性の面から、5%程度の%C
Nを含有することが好ましいため、95%以下が好ましい。
【0020】
また、本発明に係る潤滑油基油の%C
Aは2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下であり、最も好ましくは0である。潤滑油基油の%C
Aが2を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0021】
なお、本発明でいう%C
Pおよび%C
Aとは、それぞれASTM D3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。
【0022】
本発明に係る合成系基油としては、ポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。
ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、特に1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、1−ドデセンのオリゴマーやコオリゴマー、およびそれらの水素化物が好ましい。
これらは先に挙げた鉱油系基油と同じ粘度範囲であれば、市販されているものを使用できる。またこれらの合成基油は単独でも、前述した鉱油系基油と混合して用いることができる。またその混合割合に制限はない。
【0023】
本発明のエンジン油は、(B)成分としてホウ素化コハク酸イミドを含有する。
また、本発明においては、ホウ素化コハク酸イミドと共に、ホウ素化していない非ホウ素化コハク酸イミドを混合して使用することが好ましい。非ホウ素化コハク酸イミドとは、ホウ素化コハク酸イミドをホウ素化する前のコハク酸イミドを意味する。
【0024】
コハク酸イミドとしては、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド又はその誘導体が挙げられる。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にあり、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を超える場合は、内燃機関用潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基あるいは分枝状アルケニル基等が挙げられる。また、コハク酸イミドとしては、モノタイプ及び/又はビスタイプのコハク酸イミドが好ましく用いられる。
【0025】
コハク酸イミドの製造方法は特に制限されないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等を例示することができる。
【0026】
コハク酸イミドのホウ素化は、一般に、コハク酸イミドにホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
例えば、ホウ素化コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42−8013号公報、同42−8014号公報、特開昭51−52381号公報、及び特開昭51−130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。なお、この様にして得られるホウ酸性コハク酸イミドのホウ酸含有量は通常0.1〜45質量%とすることができる。
【0027】
また、本発明で用いるホウ素化コハク酸イミドにおけるホウ素含有量については特に制限はないが、通常0.1〜3質量%であり、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。また、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
本発明においては、ホウ素含有量がこの範囲内のホウ素化コハク酸イミドを使用することが好ましく、特にホウ素含有ビスコハク酸イミドを使用することが望ましい。なお、ホウ素含有量が3質量%を超える場合、安定性に懸念があるだけでなく、組成物中のホウ素量が多くなりすぎ、硫酸灰分の増加とともに、排ガス後処理装置への影響が懸念されるため好ましくない。また、ホウ素含有量が0.1質量%未満の場合、添加効果が期待できない。
【0028】
本発明においては、ホウ素化コハク酸イミドと共に、ホウ素化していない非ホウ素化コハク酸イミドを混合して使用することが好ましい。上記ホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドの割合(ホウ素化コハク酸イミド/非ホウ素化コハク酸イミド)は、重量比で1.0〜3.0の範囲で使用することが好ましい。より好ましくは1.2以上であり、また好ましくは2.6以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
ホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドの比が3.0を超える場合、安定性に懸念があるだけでなく、組成物中のホウ素量が多くなりすぎ、硫酸灰分の増加とともに、排ガス後処理装置への影響が懸念されるため好ましくない。一方、比が1.0未満の場合には、ホウ素化コハク酸イミドの添加効果が期待できない。
なお混合使用が好ましい理由は、ホウ素化コハク酸イミド単独ではホウ素化化合物が不安定でホウ素化物が析出すること、ならびに清浄性のバランスに優れるためである。
【0029】
また、本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の成分(B)の含有量は、内燃機関用潤滑油組成物全量基準で、ホウ素元素量として0.007質量%以上であることが必要であり、好ましくは0.01質量%以上である。また、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下である。
0.007質量%未満ではホウ素の効果が期待できず、0.1質量%を超えると組成物としての安定性に欠けるためである。
また、本発明において、ホウ素化コハク酸イミドおよび非ホウ素化コハク酸イミドの合計含有量は組成物全量基準で5質量%以下である。
【0030】
成分(B)の分子量は、アルキル基あるいはアルケニル基の炭素数とポリアミンの構造によって決まるが、分子量としては好ましくは2500以上、より好ましくは3000以上、さらに好ましくは3500以上である。また10000以下が好ましく、7000以下がより好ましく、5000以下がさらに好ましい。2500未満では清浄性効果が小さく、10000を超えるものは組成物の低温粘度が悪化する。
【0031】
なお、ホウ素化コハク酸イミドや非ホウ素化コハク酸イミドは、その製造上、一般には溶媒として潤滑油基油に相当するものに溶解した状態で提供される。本発明でいう含有量とは、溶媒を含まない化合物としての正味の含有量である。
したがって、例えば溶媒に溶解したコハク酸イミドを用いる場合、溶液におけるコハク酸イミドの有効濃度を算出して、添加量が正味のコハク酸イミドとなる量を添加する。
有効濃度の算出法としては、例えば、天然ゴムを原料とした容量が50mlのサックス状のゴムに、当該コハク酸イミドを含む添加剤溶液をゴムサックスに1〜2グラムを正確に量り取る。そして内容物が出ないようにゴムの上部を糸状のものでしっかり結ぶ。これをろ紙を入れたソックスレー抽出装置に入れ、ヘプタンを抽出溶媒として、50℃で24時間抽出する。終了後、サンプルが入ったゴムサックスを24時間室温で放置した後、計量し、ゴムサックス内に残ったサンプルがコハク酸イミドとし、最初に入れたサンプル重量から、有効濃度を算出する方法を例示することができる。
【0032】
本発明のエンジン油は、成分(C)として、フェノール系酸化防止剤を含有する。
フェノール系無灰酸化防止剤としては、具体的には、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の硫黄を構成元素として含有しないフェノール系酸化防止剤、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等の構成元素として硫黄を含有するフェノール系無灰酸化防止剤、及びこれらから選ばれる1種又は2種以上の混合物等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、ヒドロキシフェニル基置換脂肪酸と炭素数4〜12のアルコールとのエステルであるヒドロキシフェニル基置換エステル系酸化防止剤(オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等)及びビスフェノール系無灰酸化防止剤が好ましく、ヒドロキシフェニル基置換エステル系酸化防止剤がより好ましい。また、分子量が240以上のフェノール系化合物は、分解温度が高く、より高温条件においてもその効果が発揮されるため好ましい。
【0034】
なお、さらにアミン系無灰酸化防止剤を含有しても良い。アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0035】
本発明のエンジン油は、成分(D)として、重量平均分子量とPSSIの比が1.2×10
4以上である粘度指数向上剤を含有する。
【0036】
本発明に係る粘度指数向上剤の重量平均分子量(M
W)は、600,000以下であることが好ましく、より好ましくは500,000以下であり、さらに好ましくは460,000以下である。また、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは50,000以上であり、さらに好ましくは100,000以上であり、特に好ましくは200,000以上である。
重量平均分子量が10,000未満の場合には潤滑油基油に溶解させた場合の粘度指数向上効果が小さく省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがある。また、重量平均分子量が600,000を超える場合には、粘度増加効果が大きくなりすぎ、省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、せん断安定性や潤滑油基油への溶解性、貯蔵安定性が悪くなる。
【0037】
本発明に係る粘度指数向上剤のPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)は20以下であることが好ましく、より好ましくは17以下、更に好ましくは16以下、特に好ましくは15以下である。PSSIが20を超える場合にはせん断安定性が悪化するため、初期の動粘度を高める必要が生じ、省燃費性を悪化させるおそれがある。また、PSSIが1未満の場合には潤滑油基油に溶解させた場合の粘度指数向上効果が小さく、省燃費性や低温粘度特性に劣るだけでなく、コストが上昇するおそれがあるため、PSSIは1以上であることが好ましい。
【0038】
本発明に係る粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(M
W/PSSI)は、1.2×10
4以上であることが必要であり、好ましくは1.5×10
4以上、さらに好ましくは2.0×10
4以上である。M
W/PSSIが1.2×10
4未満の場合には、省燃費性や低温始動性すなわち粘度温度特性や低温粘度特性が悪化するおそれがある。
【0039】
粘度指数向上剤としての具体的な化合物としては、非分散型または分散型のエステル基含有粘度指数向上剤、非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン水素化共重合体、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、ポリアルキルスチレンおよび(メタ)アクリレート−オレフィン共重合体またはこれらの混合物等を挙げることができる。
【0040】
本発明の潤滑油組成物中における(D)成分の粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で、0.1〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。また3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下である。含有量が0.1質量%より少ない場合には低温特性が不十分となるおそれがあり、また含有量が5質量%を超える場合には組成物のせん断安定性が悪化するおそれがある。
なお、粘度指数向上剤も前述したコハク酸イミドと同様に、通常、溶媒として潤滑油基油に相当するものに溶解した状態で提供されるが、本発明でいう含有量は、溶媒を含まない正味の含有量である。
【0041】
本発明において(D)成分である粘度指数向上剤の含有量に対する(B)成分であるホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドの合計含有量の比は6以下である。
すなわち、(D)成分である粘度指数向上剤の含有量に対する(B)成分であるホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドの合計含有量の比には限界があることを示す。これは(D)成分も(B)成分も組成物の粘度上昇に影響を与えるが、(B)成分が特に低温粘度の上昇に大きな影響を与えるため、組成物の粘度上昇の割合において、(B)成分による寄与を抑制する必要があるためである。
このため、(D)成分である粘度指数向上剤の含有量に対し(B)成分であるホウ素化コハク酸イミドと非ホウ素化コハク酸イミドの合計含有量の比は6以下であり、好ましくは5以下であり、4以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましく、3以下が最も好ましい。
【0042】
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、摩擦調整剤、(B)成分以外の無灰分散剤、摩耗防止剤(又は極圧剤)、(C)成分以外の酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0043】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート等の正塩および/又は塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられるが、マグネシウム又はカルシウムが好ましく、特にカルシウムがより好ましい。
【0044】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、有機モリブデン化合物や無灰摩擦調整剤が挙げられる。
有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオリン酸塩、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられる。
無灰摩擦調整剤としては、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。また国際公開第2005/037967号パンフレットに例示されている各種無灰摩擦調整剤が挙げられる。
本発明においては、摩擦を最も低減できるという観点から、モリブデンジチオカーバメートが最も好ましい。
【0045】
摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特にジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましい。
【0046】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0047】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0048】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0049】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0050】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm
2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0051】
これらの添加剤を本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれの含有量は内燃機関用潤滑油組成物全量基準で、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0052】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は2.8mPa・s以下であり、好ましくは2.6mPa・s以下、更に好ましくは2.4mPa・s以下である。また、2.0mPa・s以上であり、好ましくは2.1mPa・s以上、更に好ましくは2,2mPa・s以上である。
150℃におけるHTHS粘度が2.8mPa・sを超える場合には十分な省燃費性能が得られないおそれがある。また2.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがある。
ここで、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を意味する。
【0053】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は4.8mPa・s以下である。好ましくは4.7mPa・s以下であり、更に好ましくは4.6mPa・s以下、特に好ましくは4.5mPa・s以下である。
100℃におけるHTHS粘度が4.8mPa・sを超える場合には十分な省燃費性能が得られないおそれがある。また100℃におけるHTHS粘度が3.9mPa・s未満の場合には、エンジン油圧不足を来たすおそれがあるため、3.9mPa・s以上であることが好ましい。
ここで、100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D6616に規定される100℃での高温高せん断粘度を意味する。
【0054】
HTHS粘度(150℃)/HTHS粘度(100℃)は0.45以上であることが好ましく、0.47以上がより好ましく、0.49以上がさらに好ましく、0.51以上が最も好ましい。HTHS粘度(150℃)に対してHTHS粘度(100℃)がより低い方が省燃費性に優れるためである。
【0055】
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の100℃における動粘度は、8mm
2/s以下であることが好ましく、より好ましくは7.5mm
2/s以下、さらに好ましくは7mm
2/s以下、最も好ましくは6.8mm
2/s以下である。また、本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の100℃における動粘度は、4mm
2/s以上であることが好ましく、より好ましくは5mm
2/s以上、さらに好ましくは6mm
2/s以上、最も好ましくは6.3mm
2/s以上である。なお、本発明でいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。100℃における動粘度が4mm
2/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、8mm
2/sを超える場合には必要な低温粘度及び十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0056】
本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の粘度指数は180以上である。より好ましくは190以上、さらに好ましくは200以上、特に好ましくは210以上、最も好ましくは220以上である。本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の粘度指数が180未満の場合には、150℃のHTHS粘度を維持しながら、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらに−35℃における低温粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、本発明に係る内燃機関用潤滑油組成物の粘度指数が300より大きい場合には、蒸発性が悪化するおそれがあり、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがあるため300以下であることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
本発明の潤滑油組成物(実施例1〜5)、比較用の潤滑油組成物(比較例1〜5)をそれぞれ調製し、各潤滑油組成物についてホットチューブ試験を実施した。その結果を表1に示す。
試験法はJPI 5S−55−99に準拠し、試験条件は、サンプル量10g、試験温度300℃、試験時間16時間である。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、(A)〜(D)成分のすべてを含有する実施例1〜5の潤滑油組成物は、(B)成分を含有しない比較例1〜2の潤滑油組成物に比べて、100℃におけるHTHS粘度が低く省燃費性に優れることを示す。また、(B)または(C)成分を含有しない比較例3〜5の潤滑油組成物に比べて、HTT試験の評点が高く清浄性に優れることを示す。