(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043792
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】酸化窒素の直接分解のための触媒、およびその触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/86 20060101AFI20161206BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20161206BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20161206BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20161206BHJP
B01J 37/14 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
B01J23/86 AZAB
B01D53/86 222
B01J35/10 301J
B01J37/08
B01J37/14
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-524962(P2014-524962)
(86)(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公表番号】特表2014-522724(P2014-522724A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】PL2012000065
(87)【国際公開番号】WO2013022359
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年7月13日
(31)【優先権主張番号】P395905
(32)【優先日】2011年8月8日
(33)【優先権主張国】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】510199432
【氏名又は名称】ユニヴェルシテット・ヤジェロンスキ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ミェチスワファ・ナイバル
(72)【発明者】
【氏名】ヤロスラフ・ドゥトキェヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ・ヴェセルハ
(72)【発明者】
【氏名】ヨゼフ・ツァムラ
(72)【発明者】
【氏名】スタニスワフ・ヤニガ
(72)【発明者】
【氏名】イガ・ナジャルチュク
(72)【発明者】
【氏名】マテウシュ・コジキー
(72)【発明者】
【氏名】パヴェウ・コルネラク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィエスワフ・ラソハ
(72)【発明者】
【氏名】アリツィア・ラソハ
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第02200507(DE,A1)
【文献】
特開2011−078947(JP,A)
【文献】
特開昭51−140873(JP,A)
【文献】
特開昭52−049993(JP,A)
【文献】
特開昭54−019467(JP,A)
【文献】
特開平08−269642(JP,A)
【文献】
特開平09−279309(JP,A)
【文献】
米国特許第04021372(US,A)
【文献】
特開昭53−058985(JP,A)
【文献】
米国特許第04017336(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/73
B01D 53/86−90
B01D 53/94−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)0.1wt.%以下のC;2.0wt.%以下のMn;0.8wt.%以下のSi;0.045wt.%以下のP;0.03wt.%以下のS;0.3wt.%以下のCu;19.0wt.%以下のCr;10.0wt.%以下のNi;及び0.8wt.%以下のTiを含む、耐酸性のオーステナイト系スチール基板と、
(b)64wt.%−72wt.%の第一相及び28wt.%−36wt.%の第二相を有する、前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板上の二相酸化物外層と、
を含む、N2及びO2へのNOの直接分解のための触媒組成物であって、
前記二相酸化物外層の前記第一相は、αFe2O3結晶構造と、0.1−1.7at.%のCr、0.1−0.3at.%のMn、及び0−0.2at.%のSiを含む微結晶とを有し、
前記二相酸化物外層の前記第二相は、NiFe2O4と実質的に同様の格子パラメータを有するスピネル結晶構造と、3.6−8.8at.%のCr及び1.4−3.4at.%のMnを含む微結晶とを有する、触媒組成物。
【請求項2】
前記第一相において、1.5%以下のFe3+イオンがCr3+イオンで置換され、
前記第二相において、12%以下のFe3+イオンがCr3+イオンで置換され、10%以下のNi2+イオンがMn2+イオンで置換されている、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板がクロム−ニッケルスチールである、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板がチタンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板が1H18N9T/1.4541スチールである、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板が、チューブ、ホイルの一片、またはホイルから作られたモノリスの形態である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項7】
1から5m2/gの比表面積を有する、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項8】
耐酸性のオーステナイト系スチール基板を、酸素を含む雰囲気において少なくとも2回の加熱サイクルにさらすステップを備える、N2及びO2へのNOの直接分解のための触媒組成物を生産する方法であって、前記加熱サイクルは、
(a)前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板を2−6℃/分の速度で600−850℃に加熱するステップと、
(b)前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板を600−850℃で2−6時間アニールするステップと、を含み、
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板は、0.1wt.%以下のC;2.0wt.%以下のMn;0.8wt.%以下のSi;0.045wt.%以下のP;0.03wt.%以下のS;0.3wt.%以下のCu;19.0wt.%以下のCr;10.0wt.%以下のNi;及び0.8wt.%以下のTiを含む、方法。
【請求項9】
前記酸素を含む雰囲気が大気である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板がクロム−ニッケルスチールである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板が1H18N9T/1.4541スチールである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板を2−10回の加熱サイクルにさらすステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記耐酸性のオーステナイト系スチール基板が、チューブ、ホイルの一片、またはホイルから作られたモノリスの形態である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、N
2およびO
2への直接NO分解のための触媒である。この触媒は、パワープラント、熱電プラント、廃棄物焼却炉、硝酸工場、小出力および中出力のボイラー、ディーゼルエンジンなどの固定発生源の排ガスから酸化窒素を除去するために考案される。
【背景技術】
【0002】
DeNO
x技術は近年、固定発生源の排ガスから酸化窒素を除去するために使用されている。その技術は、アンモニアによるNOの還元に基づく(非特許文献1)。この技術に関する新たな特許は、依然として出現している(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、アンモニアは比較的高価かつ腐食性還元剤であり、費用のかかる投与(dosage)システムを必要とし、さらに、それ自身が大気汚染物質であり、人間の呼吸系に有害な影響を与える。
【0004】
通常このプロセスで使用されるセラミック支持体上のモノリシックバナジウム−タングステン酸化物触媒は、燃焼プロセスにおいて形成されるすすによるブロッキングを高い頻度で被るが、それは無機およびカーボン成分を含む。さらに、セラミック支持体は相対的に脆い。それは、その活性に関与する触媒の表面部分の機械的ダメージをもたらすことがある。加えて、セラミック支持体の特定成分と反応ガスとの選択的な相互作用は、長期にわたる使用の間に、そのクラッキングまたは変形をもたらす。
【0005】
固定発生源の排ガスからNOを除去するための直接NO分解の使用は、いかなる還元剤も必要とせず、故にその投与のためのシステムを必要とせず、そのことは、プロセスをより安価にし、かつ環境への負担を小さくする。
【0006】
数多くの特許の著者が、直接NO分解を提案している:酸化物支持体上の貴金属(特許文献2、特許文献3)、酸化物支持体上の銀または銀酸化物(特許文献4、特許文献5)、および、ハイドロタルサイト構造の遷移金属を含む混合酸化物(特許文献6)。
【0007】
スピネル構造を有する混合酸化物触媒上に還元剤が存在するNO分解(特許文献7、特許文献8)、および、混合V−W酸化物触媒での直接NO分解(特許文献9)は、以前提案された。
【0008】
αFe
2O
3上で活性化された酸素が関与するすす上での直接NO分解(非特許文献2、非特許文献3)、および金属鉄上での直接NO分解(非特許文献4、非特許文献5)は、近年提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−214306号公報(JP2010−214306)
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0073964号明細書(US20060073964)
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0025901号明細書(US20070025901)
【特許文献4】欧州特許出願公開第526099号明細書(EP526099)
【特許文献5】欧州特許出願公開第679427号明細書(EP679427)
【特許文献6】韓国特許第101011830号公報(KR101011830)
【特許文献7】特許第7284663号公報(JP7284663)
【特許文献8】特許第10180105号公報(JP10180105)
【特許文献9】ポーランド特許第199013号公報(PL199013)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】P.Forzattiら、Catal.Today 62(2000)51−65
【非特許文献2】D.Reichertら、Applied Catalysis B:Environmental 80(2008)248−259
【非特許文献3】D.Reichertら、Applied Catalysis B:Environmental 84(2008)803−812
【非特許文献4】A.N.Hayhurstら、Chemical Engineering Science,53(1998)1481−1489
【非特許文献5】B.Gradonら、Fuel 89(2010)3505−3509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
提案された触媒の大きな欠点は、直接NO分解率が低いこと、および酸素の存在によって引き起こされる窒素への選択性の降下、ゼオライトの場合における、排ガスに存在する水の影響下での触媒構造の破壊、並びに、すす堆積の結果としての触媒活性の漸次損失である。したがって、提案された触媒の何れも、現在まで商用化されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による、オーステナイト系の耐酸性のスチール基板におけるN
2およびO
2への直接NO分解のための酸化物触媒は、αFe
2O
3構造の相と、ニッケル−鉄スピネルNiFe
2O
4の格子パラメータに近い格子パラメータを有するスピネル構造の相と、を含む。これらの相は、追加的にCrおよびMnを含み、最終的にSiを含む微結晶を形成する。NiFe
2O
4構造を有する相において、CrおよびMnの濃度はそれぞれ、3.6−8.8at.%および1.4−3.4at.%に等しく、α−Fe
2O
3構造を有する相において、Cr、MnおよびSiの濃度はそれぞれ、0.1−1.7at.%、0.1−0.3at.%、および0−0.2at.%に等しい。
【0013】
NiはNi
2+として、CrはCr
3+としてのみ生じると仮定したときの平均EDSデータから決定された、NiFe
2O
4格子パラメータに近い格子パラメータを有するスピネル相の含量は、29−36wt.%に等しく、αFe
2O
3構造を有する相の含量は64−72wt.%に等しい。
【0014】
好ましくは、αFe
2O
3構造を有する相において、わずか1.5%のFe
3+イオンがCr
3+によって置換され、一方、NiFe
2O
4構造では、わずか12%のFe
3+イオンがCr
3+イオンによって置換され、わずか10%のNi
2+イオンがMn
2+イオンによって置換される。オーステナイト系のスチール基板は、チューブ、ストリップ、およびホイルで作られたモノリスの形態で生じ、それは、場合によってはTiの添加を伴うCr−Niスチールから調製される。
【0015】
好ましくは、わずか0.1wt.%のC、2.0wt.%のMn、0.8wt.%のSi、0.045wt.%のP、0.03wt.%のS、0.3wt.%のCu、19.0wt.%のCr、10.0wt.%のNi、および0.8wt.%のTiを含むスチールが使用される。最も好ましくは、オーステナイト系のlH18N9T/1.4541スチールが適用される。
【0016】
好ましくは、触媒の比表面積は、1から5m
2/gに等しい。
【0017】
本発明による酸化物触媒は、2−6℃/分の速度で600−850°に耐酸性のオーステナイト系スチールモノリスを少なくとも2回加熱し、続いてそれらの温度で2−6時間次のアニーリングをする間の、酸素を含む雰囲気におけるその酸化によって、耐酸性のオーステナイト系スチール基板上に直接製造される。
【0018】
好ましくは、スチールは、空気雰囲気で加熱される。
【0019】
好ましくは、スチールは、2−10回加熱される。
【0020】
好ましくは、オーステナイト系スチール基板は、ストリップ、チューブ、またはホイルで作られたモノリスの形状を有する。
【0021】
耐酸性のオーステナイト系スチール基板の加熱の結果、基板に強固に結合された酸化物相を含む本発明による触媒が形成される。
【0022】
耐酸性のオーステナイト系スチール基板上の二相の触媒は、直接NO分解での高い活性、酸素の影響下での窒素への選択性の小さな変化、および両方の触媒パラメータの時間安定性を示す。
【0023】
触媒は、すすからのカーボンを酸化させるが、それは、その安定した活性を確保する。エピタキシャル層としてモノリスのチャネル壁(channel walls)に形成された、本発明による酸化物触媒の薄いコーティングは、チッピングを経ず、金属基板をさらなる腐食から保護する。
【0024】
非常に簡単な製造および低コストが、提案された耐酸性のオーステナイト系スチール基板上の触媒の追加の課題である。
【0025】
耐酸性のオーステナイト系スチール基板上の酸化物層の構造は、X線回折、電子線回折、およびラマン分光法によって決定された。それらの化学的組成は、X線分光法およびX線光電子分光法(XPS)によって決定された。それらの調査のためのサンプルは、酸化されたチューブまたはホイルの一片の表面から触媒を削ることによって得られた。
【0026】
NiFe
2O
4の格子パラメータに近い格子パラメータを有するスピネル相の含量は、指標付きの選択された領域の回析パターンの統計データに基づいて、並びに、X線分光法およびXPSによって実施されたX線回析パターンおよび化学分析に基づいて、評価された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】100−2000cm
−1波数範囲におけるスペクトルを示す図面である。
【
図2】分析的遷移電子顕微鏡法によって、典型的な微結晶に対して得られた結果を示す図面である。
【
図3】調査された触媒の別の微結晶に対する、遷移電子顕微鏡法によって得られた結果を示す図面である。
【
図4】直接NO分解における窒素に対する選択性の温度依存性を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の対象は、実施例によって例示された。
【0029】
[実施例1]
耐酸性のオーステナイト系スチールlH18N9T/1.4541チューブが、空気中で、7回の加熱サイクルにさらされた。そのサイクルは、4°/分の速度での650℃までの熱的プログラム加熱(thermo−programmed heating)、および4時間にわたるその温度での次のアニーリングから構成された。スピネル構造およびNiFe
2O
4の格子パラメータを有する相と、αFe
2O
3と同形の相と、を含む酸化物触媒の層が得られた。スピネル相の割合は略36%であり、αFe
2O
3構造を有する相の割合は略64%であった。チューブから削られた粉末化された触媒のBET比表面積は、4m
2/gに等しかった。
【0030】
ラマンスペクトルが、粉末化サンプルの3地点で測定された。100−2000cm
−1波数範囲におけるスペクトルが、
図1に示される。最大値の上部に、αFe
2O
3のピークの位置(M.J.Massemら、Phys.Rev.B41(1990)7822−7827)(*)、FeCr
2O
4のピークの位置(M.Chenら、Geochim.Cosmochm.Acta、67(2003)3937−3942)(▼)、Fe
3O
4のピークの位置(O.N.Shebanovaら、Journal of Solid State Chemistry 174(2003)424−430)(●)、およびNiFe
2O
4のピークの位置(A.Ahlawat&V.G.Sathe、J.Raman Spectrosc.(2010)(wileyonlinelibrary.com)DOI 10.1002/jrs.2791)(▲)がマークされる。
【0031】
チューブ表面から削られたサンプルの調査された微細領域において見られるように、α−Fe
2O
3相と、NiFe
2O
4および/またはFeCr
2O
4の格子パラメータを有するスピネル相と、が存在する。この触媒におけるα−Fe
2O
3相とスピネル相の存在はまた、XRD方法によっても見いだせた。
【0032】
遷移電子顕微鏡法(transition electron microscopy)によるその触媒の調査の結果は、存在する相およびそれらの化学的組成についてのより正確な情報を提供している。
図2では、解析的(analytical)遷移電子顕微鏡法によって典型的な微結晶に対して得られた結果が示される。
図2aは、微結晶の顕微鏡画像を示す。
図2bは、平面のマークされた領域を有する微結晶の選択された領域からの選択領域回析パターンを示し、
図2cは、矢印によって示された微結晶の点からのX線スペクトルを示し、
図2dは、重量および原子百分率での、矢印によって示された解析領域における特定の元素の含量を示す。
【0033】
選択領域回析パターンの指標付けにより、電子ビームと垂直な(110)面を有するα−Fe
2O
3結晶の存在を見つけ出すことができる。1.5に近いO/Fe原子比率は、Fe
2O
3の存在を裏付ける。しかしながら、0.5at.%のCrの存在およびFe
3+およびCr
3+イオンの近いイオン半径は、Cr
3+/α−Fe
2O
3固溶体の形成を示す。マンガンおよびシリコンの量により、結晶がより小さいことが発覚した。
【0034】
図3では、調査された触媒の別の微結晶に対する、遷移電子顕微鏡法によって得られた結果が示される。
図3aは、微結晶の顕微鏡画像を示す。
図3bは、平面のマークされた領域を有する調査された微結晶の選択された部分からの領域回析パターンを示す。
図3cは、矢印によってマークされた領域からのX線スペクトルを示す。
図3dは、重量および原子百分率での、矢印によって示された領域における特定の元素の含量を示す。
【0035】
図3bに示された、選択領域回析パターンの指標付けにより、それが電子ビームと垂直な(112)面を有するNiFe
2O
4結晶に由来することを見つけ出すことができる。2に近いニッケルに対する鉄の原子比率(
図3d)はまた、その相の存在を裏付ける。
【0036】
[実施例2]
lH18N9T/1.4541の耐酸性のオーステナイト系スチールチューブが、4°/分の速度での840℃までの熱的プログラム加熱、およびその後の4時間にわたるその温度でのアニーリングから構成される、空気中での7回の加熱サイクルにさらされた。1m
2/gに等しい比表面積を有し、αFe
2O
3およびニッケル−鉄スピネルの格子パラメータに近い格子パラメータを有するスピネル相を含む酸化物層が得られた。
【0037】
この層の表面部分(2nmまで)は、X線光電子分光法によって得られる結果を実証する表1に示されるように、650℃までの加熱サイクルで得られた酸化物層の表面部分と比較して、Cr
3+およびFe
2+カチオンが不足しており、Fe
3+カチオンが豊富である。しかしながら、ニッケルイオンの含量は、両方の場合において実質的に同一である。
【0038】
650℃までの加熱サイクルで得られた触媒と比較した、酸化度IIIであるイオンの全量に対する酸化度IIであるイオンの全量の比率の低下は、スピネル相の関与の低下をはっきりと示し、それはまた、回析方法およびラマン分光法による調査の結果によっても裏付けられる。
【0040】
[実施例3]
直接NO分解における、実施例1によって得られたCr、Mn/α−Fe
2O
3−Cr、Mn/NiFe
2O
4二相触媒の活性の調査。
【0041】
調査は、その底部端の上部3cmに配置された触媒を保持する穴のあいた石英プレートを有する石英垂直チューブ状の流反応器(φ=3.6mm、l=31cm)、並びに、触媒の体積の4倍に広がり、触媒を保持する石英ガラス原料(frit)を含む、石英垂直u−チューブ(φ=3.6mm)流反応器で実施された。
【0042】
調査は、GHSV≒15000h
−1で、ヘリウムによって2%、1%および200ppmに希釈されたNOに対して、150−500℃の温度範囲で実施された。200ppmに等しいNO濃度は、多くの石炭−バイオマスパワープラントの排ガスにおけるNOの濃度に対応する。それらに用いられるGHSVは、パワープラントにおける排ガスのGHSVよりも略2倍高い。
【0043】
図4では、GHSV=15000h
−1を有し、実施例1によって得られた触媒の0.2gのサンプルでの、a)2%NO/He、b)2%NOおよび7.4%O
2/He;c)2%NOおよび1600ppmSO
2/He;d)2%NO、7.4%O
2、200ppmSO
2およびバイオマス−石炭パワープラントにおけるエレクトロフィルター後に集められた0.25gのダスト;を含むガス混合物における直接NO分解での窒素への選択性の温度依存性が示される。NO転換率は、2%NO/Heに加えて追加の成分を含む反応混合物に対して、すべての温度で100%に等しかった。NO転換率は、反応混合物2%NO/Heに対して、150℃でのみ略50%に等しかった。
【0044】
容易に気付くように、直接NO分解は、2%NO/Heガス混合物において、窒素に対する最も高い選択性(S
N2)で進める(
図4a)。それは既に250℃で100%に近い値を得、より高い温度でこのレベルを一定に保つ。
【0045】
反応混合物における5%の酸素の存在は、すべての温度範囲において窒素への選択性の値の低下をもたらし、かつ、400℃で略80%のレベルにその安定性をシフトさせる(
図4b)。
【0046】
1600ppmのSO
2は、5%のO
2よりも大きな窒素への選択性の低下をもたらし、また、調査された温度範囲におけるS
N2安定性の欠如をもたらす。
【0047】
2%NO、7.4%O
2、200ppmSO
2およびバイオマス−石炭パワープラントにおけるエレクトロフィルターの後方で集められた0.5gのダストと触媒との混合物が同時に存在することにより、300℃までの温度における窒素への選択性が非常に低レベル(略10%)に留まる。300℃を超えると、S
N2は急速に増加し、400℃で略90%の値を達する。この選択性は、より高い温度においても安定して留まる。CO
2は、300℃を超える反応手順の生成物において発見された。
【0048】
ダストと混合された触媒の新たに調製されたサンプル、並びに直接NO分解の反応において用いられるこの触媒のサンプル、に対するX線分光法によって実施される化学分析の結果の比較は、反応混合物との触媒相互作用の過程でカーボン含量が減少することを示す。
【0049】
したがって、300℃を超える温度において、本発明による触媒が、顕著な量の酸素、および場合によってはNO量に匹敵する二酸化硫黄量も含む、パワープラント、熱電プラント、硝酸工場、廃棄物焼却炉、小出力および中出力のボイラー、またはディーゼルエンジンなどの発生源の排ガスからのNOおよびカーボン粒子の同時除去に用いられ得ることが、特許請求の範囲において請求される。