(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043798
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】高い熱放射能力を有する熱放散塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 109/06 20060101AFI20161206BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20161206BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20161206BHJP
H02S 40/42 20140101ALN20161206BHJP
H01L 33/64 20100101ALN20161206BHJP
【FI】
C09D109/06
C09D5/32
C09D7/12
!H02S40/42
!H01L33/64
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-537281(P2014-537281)
(86)(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公表番号】特表2015-502987(P2015-502987A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】US2012060999
(87)【国際公開番号】WO2013059577
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】61/549,114
(32)【優先日】2011年10月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/655,276
(32)【優先日】2012年10月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512285214
【氏名又は名称】インディウム コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シハイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ニンチェン
【審査官】
牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−255767(JP,A)
【文献】
特開昭54−100491(JP,A)
【文献】
特開2009−067998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00〜 10/00
101/00〜201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエン−スチレンおよびアクリル化エポキシ化ダイズ油のうちの少なくとも1つ、並びに、プロリンを備えてなる複数の有機材料と、
1〜40μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収する1種以上の無機材料と、
を含み、前記複数の有機材料および前記1種以上の無機材料が組み合わされることで、1〜50μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収する、ことを特徴とする熱放射性塗料。
【請求項2】
前記複数の有機材料および前記1種以上の無機材料は、当該熱放射性塗料が2〜15μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収するように選択される、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項3】
前記複数の有機材料および前記1種以上の無機材料は、当該熱放射性塗料が2〜40μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収するように選択される、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項4】
前記1種以上の無機材料が、ミクロ粒子またはナノ粒子の無機材料を含む、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項5】
前記1種以上の無機材料が、カーボンブラック、グラファイト、木炭粉末および活性炭からなる群の1つまたはそれ以上を含む、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項6】
前記1種以上の無機材料が、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物および金属リン化物からなる群の1つまたはそれ以上を含む、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項7】
前記1種以上の無機材料が、施釉タイルおよびサビ鉄からなる群の1つまたはそれ以上を含む、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項8】
前記1種以上の無機材料が、酸化バナジウム、石英、アルミナおよび酸化アンチモンからなる群の1つまたはそれ以上を含む、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項9】
前記複数の有機材料が、ブタジエン−スチレン、アクリル化エポキシ化ダイズ油およびプロリンを含む、請求項1に記載の熱放射性塗料。
【請求項10】
当該塗料が、20重量%のブタジエン−スチレンと、30重量%のアクリル化エポキシ化ダイズ油と、10重量%のプロリンとを含む、請求項9に記載の熱放射性塗料。
【請求項11】
前記1種以上の無機材料が、酸化バナジウムおよび活性炭を含む、請求項9に記載の熱放射性塗料。
【請求項12】
当該塗料が、20重量%のブタジエン−スチレンと、30重量%のアクリル化エポキシ化ダイズ油と、10重量%のプロリンと、30重量%の酸化バナジウムと、10重量%の活性炭とを含む、請求項11に記載の熱放射性塗料。
【請求項13】
ブタジエン−スチレン、アクリル化エポキシ化ダイズ油、及び、プロリンを備えてなる複数の有機材料であって、2〜15μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収するような複数の有機材料と、
1〜40μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収する1種以上の無機材料と、
を含む熱放射性塗料。
【請求項14】
前記複数の有機材料および前記1種以上の無機材料が組み合わされることで、2〜40μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収する、請求項13に記載の熱放射性塗料。
【請求項15】
前記複数の有機材料および前記1種以上の無機材料が組み合わされることで、1〜50μmの範囲の波長を有する赤外線を熱吸収する、請求項13に記載の熱放射性塗料。
【請求項16】
前記1種以上の無機材料が、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物および金属リン化物からなる群の1つまたはそれ以上を含む、請求項13に記載の熱放射性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱放散性(熱消散性)塗料に関する。より具体的には、本発明は、急速な熱除去のために基材表面に直接塗布できる、高い熱放射率を有する塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスのパワーや効率の増大に対する需要に伴い、当該デバイスの熱密度は急速に増大し、その結果、当該デバイスを損傷する可能性が高くなる。故に、機能デバイスからの熱除去が産業において重要になっている。
【0003】
例えば、太陽光産業では、太陽光電池(PV)モジュールの動作温度は、デバイスの伝達効率を決定する上での重要な要因である。25℃を1℃上回るごとに電気出力は約0.4%〜0.5%低下する。典型的な屋上PVアレイは、約55℃〜75℃で動作し、これは、電気出力がネームプレート定格を約12%〜25%下回っているかもしれないことを意味する。
【0004】
別の例では、発光ダイオード(LED)は、従来の電球に替わり得るものとして、大いに注目されている。しかしながら、PVモジュールと同様、LED性能は、動作温度の上昇により損なわれる。例えば、接合部温度が高いと有効性が低下し、LED寿命が短くなり、退色する可能性がある。典型的には、LEDを駆動するために使用されるエネルギーの約75%〜85%が熱に変換されるので、これは問題になり得る。常套の周囲条件での一定動作下で、LEDにおける接合部温度は60℃以上であり得、これは、LEDの光出力がデバイス定格を10%〜50%下回る可能性があることを意味する。
【0005】
3つの一般的な機構(伝導、対流および放射(輻射))は、デバイスから熱を除去するのに有用である。伝導の場合、エネルギーは、固体中は、電子を介するかまたはフォノン−フォノン相互作用を介して、原子格子によって運ばれる。熱ペーストおよび熱パッドは、この機構に基づいて動作する。対流の場合、概して、熱デバイスが冷却液流または冷却ガス流と接触される。熱は熱デバイスから冷却液または冷却ガスへと伝達し、運び去られて、さらなる冷却液または冷却ガスと置換される。これらのシステムはしばしば、冷却液流または冷却ガス流を制御するための専用のシステムを必要とし、潜在的に熱シンクまたはファンなどの追加のコンポーネントを必要とする。このようなシステムの使用は、使い勝手が悪く、かつ高価である。更に、高温表面積が大きい場合、効率的な冷却のために対流を用いることは実際には不可能である。最後に、熱放射(熱輻射)の場合、熱は、表面から熱を逃がすための媒体を必要とせずに、電磁波または光子照射を介して放散される。熱放射機構は、典型的には、例えば750℃以上での高温用途に使用される。例えば、高放射率コーティングは、炉内部コーティングとしての使用が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】(特になし)
【発明の概要】
【0007】
第一の態様において、熱放射性塗料が提示される。幾つかの実施形態において、本発明の熱放射性塗料は、ハロゲン化炭化水素を含むか、またはアミン、アルキル、ヒドロキシル、エポキシド、カルボン酸およびビニルからなる群から選択される官能基を有する複数の有機材料と、約1〜40μmの範囲内で熱吸収する無機材料と、を含む。
【0008】
幾つかの実施形態において、当該複数の有機材料および少なくとも1つの無機材料は、当該熱放射性塗料が約2〜15μmの実質的に全範囲にわたって吸収するように選択される。幾つかの実施形態において、当該複数の有機材料および少なくとも1つの無機材料は、当該熱放射性塗料が約2〜40μmの実質的に全範囲にわたって吸収するように選択される。幾つかの実施形態において、当該複数の有機材料および少なくとも1つの無機材料は、当該熱放射性塗料が約1〜50μmの範囲の大部分にわたって吸収するように選択される。
【0009】
幾つかの実施形態において、当該複数の有機材料は、ブタジエン−スチレン、アクリル化エポキシ化ダイズ油およびプロリンからなる群の1つまたはそれ以上を含む。
【0010】
幾つかの実施形態において、当該無機材料は、微粒子(ミクロ粒子)またはナノ粒子の無機材料を含む。
【0011】
幾つかの実施形態において、当該無機材料は、カーボンブラック、グラファイト、木炭粉末および活性炭からなる群の1つまたはそれ以上を含む。
【0012】
幾つかの実施形態において、当該無機材料は、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物および金属リン化物からなる群の1つまたはそれ以上を含む。幾つかの実施形態において、当該無機材料は、施釉タイル(glazed tile)およびサビ鉄(rusted iron)からなる群の1つまたはそれ以上を含む。幾つかの実施形態において、当該無機材料は、酸化バナジウム、石英、アルミナおよび酸化アンチモンからなる群の1つまたはそれ以上を含む。
【0013】
幾つかの実施形態において、当該有機材料は、ブタジエン−スチレン、アクリル化エポキシ化ダイズ油およびプロリンを含む。幾つかの関連実施形態において、当該熱放射性塗料は、20重量%のブタジエン−スチレンと、30重量%のアクリル化エポキシ化ダイズ油と、10重量%のプロリンとを含む。幾つかの関連実施形態において、当該無機材料は、酸化バナジウムおよび活性炭を含む。幾つかの更なる関連実施形態において、当該塗料は、20重量%のブタジエン−スチレンと、30重量%のアクリル化エポキシ化ダイズ油と、10重量%のプロリンと、30重量%の酸化バナジウムと、10重量%の活性炭とを含む。
【0014】
幾つかの実施形態において、本発明の熱放射性塗料は、約90%以上、例えば、約92%以上、約95%以上、約97%以上の放射率、または約100%の放射率を有する。
【0015】
幾つかの他の実施形態において、本発明の熱放射性塗料は、約2〜15μmの実質的に全範囲にわたって熱吸収するような複数の有機官能基と、約1〜40μmの範囲内で熱吸収する無機材料と、を含む。
【0016】
幾つかの関連実施形態において、当該複数の有機官能基および無機材料は、約2〜40μmの実質的に全範囲にわたって熱吸収する。幾つかの関連実施形態において、当該複数の有機官能基および無機材料は、約1〜50μmの範囲の大部分にわたって熱吸収する。
【0017】
幾つかの実施形態において、当該複数の有機官能基は、アミン、アルキル、ヒドロキシル、エポキシド、カルボン酸およびビニルからなる群の3つまたはそれ以上を含む。
【0018】
幾つかの実施形態において、当該無機材料は、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物および金属リン化物からなる群の1つまたはそれ以上を含む。
【0019】
本明細書で使用するとき、量に関する用語中の「約」という用語は、±10%を指す。例えば、「約3%」は2.7〜3.3%を包含し、「約10%」は9〜11%を包含する。更に、「約」が本明細書中で量に関する用語と共に使用されるとき、値±10%に加え、量に関する用語の正確な値も想定され、かつ記載されることが理解される。例えば、「約3%」という用語は、ちょうど3%を明白に想定し、記載しかつ包含する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】多様な有機官能基の赤外線吸収に適切な波長域を示す。
【
図2】多様な無機材料の赤外線吸収に適切な波長域を示す。
【
図3】粒子状無機材料の包含に起因する塗料の表面積の増大を例証する。塗料コーティング表面Aは粒子状物質を含まず、塗料コーティング表面Bは粒子状物質を含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の様々な実施形態は、表面にコーティングされたときに、熱シンクまたはファンなどの更なる付属デバイスを使用することなく、表面からの熱除去を容易にする熱塗料(サーマルペイント)を提供する。原則として、熱塗料は、熱放射機構を利用し、ここでは、表面から熱を逃がすための媒体を必要とすることなく、熱が電磁波または光子照射を介して放散される。
【0022】
本発明の熱放射性塗料は、専用の小さな表面積のためだけでなく、ソーラーパネル裏側の熱放散やLED裏側の熱放散に使用されるなど、大きな表面積での用途にも容易に使用可能である。
【0023】
時に、本発明は、これらの例示的な環境に関して本明細書中に記載されることがある。これらの環境に関する記載は、本発明の多様な特徴および実施形態が例示的な用途との関連で描写されるように与えられている。この記載を読めば、本発明が異なる代替的な環境においてどのように実施可能であるかが当業者にとって明白になるであろう。
【0024】
熱力学において、温度Tでの物体は電磁エネルギーを放射する。熱力学的平衡にある完全黒体は、それにぶつかる全ての放射エネルギーを吸収し、温度Tについての放射力のユニークな法則に従ってエネルギーを放射する(全ての完全黒体に普遍的)。キルヒホッフの熱放射の法則は、この挙動の数学的記述である。キルヒホッフの法則の1つの命題は、熱力学的平衡において熱放射を放出・吸収する任意の物体に関して、放射率(物体が完全黒体にどれくらい近いかの無次元数)は、物体の吸収率に等しいということである。よって、材料が高い放射率を有するためには、高い吸収率を有していなければならない。
【0025】
塗料における熱吸収率は、材料組成に影響を受けることがある。例えば、従来技術の高温高放射性塗料(既述)は、スペクトルの赤外線領域において吸収する無機材料を含む。意図された動作温度があまりに高いために無機材料しか動作中に存在し続けられないので、これらの無機材料が使用される。本発明の塗料は、意図されたそれらの動作温度がはるかに低く(例えば、約250℃未満)、それにより熱吸収を向上するために選択された有機材料の使用を許容する点において異なる。よって、本発明の塗料は、電磁スペクトルの赤外線領域における吸収を呈する選択された有機材料を含む。
【0026】
図1に示されるように、様々な有機官能基は、赤外線スペクトル内の様々な波長域で吸収する。熱吸収率を向上させるには、塗料が、赤外線スペクトルの全てではないにしても大半をカバーする吸収波長域を有する材料を含むことが望ましい。よって、幾つかの実施形態において、本発明の塗料は、当該塗料中に複数の官能基が存在するように、1つまたはそれ以上の有機種を含む。これらの実施形態において、1つまたはそれ以上の有機種は、当該塗料中に存在する官能基が異なる赤外線吸収波長域を有するように選択され、それにより、赤外線領域における様々な波長にわたって吸収する塗料を提供する。
【0027】
例えば、幾つかの実施形態は、以下の構造を有するアミンなどの有機アミン基(N−H、吸収=約2.9〜4.2μm;C−N、吸収=約4.4〜6.1μm)を包含する。
【化1】
【0028】
これらのアミン基は、メチルアミン、エタノールアミン(2−アミノエタノール)または芳香族アミン(例えば、アニリン)などの第一級アミン(すなわち、R、R’およびR”のうちの2つが水素である)を包含してもよい。
【0029】
代替的にまたは更に、これらのアミン基は、ジメチルアミン、メチルエタノールアミン、または芳香族アミン(例えば、ジフェニルアミン)などの第二級アミン(すなわち、R、R’およびR”のうちの1つが水素である)を包含してもよい。
【0030】
代替的にまたは更に、これらのアミン基は、第三級アミン(すなわち、R、R’およびR”のうちの3つ全てがアルキル、アリールまたはその両方である)を包含してもよい。代表的な第三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミンまたはトリフェニルアミンが挙げられる。他の代表的な第三級アミンは、環状アミンであってもよく、アルキル、アリールまたはその両方であり得る。アルキル炭化水素基(C−C、吸収=約6.0〜6.9μm;C−H、吸収=約6.8〜7.9μm)は赤外線スペクトルの異なる領域において吸収するので、それらもまた、塗料中に別個に、または有機アミン中のR、R’およびR”アルキルまたはアリール基における成分として包含されてもよい。
【0031】
幾つかの実施形態において使用されてもよい他の有機アミン源としては、ポリアミンモノマー、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン(TETA)が挙げられる。これらのアミン化合物は、エポキシも塗料中の成分において使用される場合、硬化剤として使用可能である。エポキシおよびポリアミンモノマーが混合される場合、ポリアミンモノマー中のアミン基はエポキシド基と反応して共有結合を形成する。各N−H基は、異なるプレポリマー分子からのエポキシド基と反応することができ、それにより、最終的な塗料テクスチャが架橋度(架橋の程度)によって制御され得る。
【0032】
先に示されたように、幾つかの実施形態は、アルキルまたはアリール基を包含する。好ましいアルキルまたはアリール基は、1〜24個の炭素(例えば、1〜18個の炭素)を含有し、飽和脂肪族または不飽和である。幾つかの実施形態において、不飽和アルキルまたはアリール基は、アクリル化合物またはスチレンおよびその誘導体などのビニル炭化水素(C−H、吸収=約10.1〜14.9μm)であってもよい。ビニル炭化水素は、塗料テクスチャ仕上げを調節するのに有用であるという更なる利点を有する。
【0033】
幾つかの実施形態は、代替的にまたは更に、アルコール(ヒドロキシル基)、カルボン酸、アルデヒド、エステル、エーテルおよびエポキシド(例えば、エポキシ中に見られるようなエポキシドエーテルを含む)などの1つまたはそれ以上の酸素含有有機官能基(C−O、吸収=約7.7〜9.6μm;およびC=O、約4.4〜6.1μm)を含有する。これらの酸素含有有機官能基は、エピクロロヒドリンとビスフェノール−Aとの反応から生成されたものなどのエポキシ樹脂中で見られることがあるが、後者は、ビスフェノール−Fなどの同様の化学物質によって置換されてもよい。
【0034】
幾つかの実施形態は、代替的にまたは更に、ハロゲン化炭化水素(C−X(X=F、Cl、Br、IまたはAt)、13.2〜20μm)を含有する。ハロゲン化炭化水素は、それらの広範な赤外線吸収(すなわち、約2.9〜20μm)ゆえに特に有利である。更に、炭素およびハロゲン元素間の高い結合エネルギーに起因して、これらの官能基を含む幾つかの化学物質は、望ましい特性、例えば、UVおよび/または水分耐性、良好な機械的強度、および潜在的には耐候性を塗料に付与する。代表的なハロゲン化炭化水素としては、塩化ポリビニル(PVC)およびポリテトラフルオロエタン(PTFEまたはテフロン(登録商標))などのハロゲン化ポリマーが挙げられる。
【0035】
有機化合物を使用して赤外線領域の大半における吸収を向上させてもよいが、当該領域の他の部分(例えば、約2.9μm未満または約20μmより大きい波長)は、他の無機成分を包含していることから利益を得る。更に、有機化合物によってカバーされる領域において、幾つかの吸収ピークは、所望されるよりも弱いか、または所望されるよりも狭い領域しかカバーしないかもしれない。よって、幾つかの実施形態において、無機材料は、塗料中に存在する有機種の吸収範囲外での吸収を補足するために、および/または、塗料中に存在する有機種によってカバーされるある波長域における吸収強度を高めるために、塗料に添加される。
図2は、幾つかの代表的な無機材料を列挙し、かつ、様々な無機材料が赤外線スペクトル内での様々な波長域で吸収することを示している。
図2に示される代表的な材料のいずれかおよび列挙されていないその他のものを、要求に応じて単独でまたは組み合わせて包含することができる。
【0036】
更に、幾つかの実施形態は、それらの存在が環境的な問題を引き起こし得る幾つかの例におけるように、ハロゲン化炭化水素を欠いている場合がある。これらの実施形態において、13.2〜20μmの範囲内において赤外線吸収を累積的に呈する1つまたはそれ以上の無機化合物が塗料中に含まれてもよい。
図2に示すように、石英または酸化アンチモン粉末と木炭との組み合わせなどの幾つかの無機材料の組み合わせは、そうでなければハロゲン化炭化水素が呈し得る赤外線吸収域の大部分をカバーするか、または更にはそれを超えて拡大する。
【0037】
無機材料を利用する実施形態は、単一の無機材料または2、3、4,5またはそれ以上などの多様な材料の組み合わせを包含し得る。例えば、赤外線吸収域を拡大する、又は、有機官能基によってカバーされる範囲内での吸収を増大するために、施釉タイルおよびサビ鉄を使用して、約2〜5.6μmの範囲内における赤外線吸収を拡大または増大してもよい(
図2に示されるように)。施釉タイルは、典型的には、主要な結晶相としての石英と共に、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、CaOおよびNa
2Oなどの5つの酸化物を含む。サビ鉄は、主に、水和酸化鉄(III)Fe
2O
3・nH
2Oおよび酸化鉄(III)−水酸化物FeO(OH)・Fe(OH)
3などの酸化鉄を含む。
【0038】
他の実施形態において、選択無機材料を使用して、約8〜14μmの範囲内での吸収を増大してもよい。例えば、カーボンブラック、グラファイト、活性炭および木炭粉末を使用して、有機化合物が既にカバーする範囲内での吸収を高めてもよい。
【0039】
他の実施形態において、選択無機材料を使用して、約20μmを超える、例えば、約20〜50μm、例えば約20〜39μmの波長での赤外線吸収を拡大してもよい。例えば、酸化バナジウム、石英(すなわち、二酸化シリコン)、アルミナ(すなわち、酸化アルミニウム)および酸化アンチモンなどの選択材料は、約13〜39μmの範囲内での赤外線吸収を呈する。金属酸化物(例えば、CuO、MnO
2,Co
2O
3、Fe
2O
3、Cr
2O
3、NiO、ZnO、TiO
2、Bi
2O
3など)、金属硫化物、金属窒化物、金属リン化物などの他の無機材料もまた、それら各々の赤外線吸収域に従って使用されてもよい。
【0040】
よって、幾つかの実施形態は、上述の有機種に加えて、1つまたはそれ以上の無機材料を包含してもよい。特に、幾つかの実施形態において、無機材料は、酸化バナジウム、石英(すなわち、二酸化ケイ素)、アルミナ(すなわち、酸化アルミニウム)および酸化アンチモンからなる群から選択される。幾つかの実施形態において、無機材料は、金属酸化物、硫化物、窒化物およびリン化物からなる群から選択される。
【0041】
幾つかの実施形態において、無機材料は、微粒子(ミクロ粒子)もしくはナノ粒子、またはその両方として添加される。その行為は、塗料の表面積を増大させるという更なる目的を果たす。この効果は
図3に例証される。塗料の表面積は大きい方が好ましい。その理由として、表面積は塗料の放射強度に正比例するからである。これらの実施形態において、無機粒子の大きさは、5nm〜500μmの範囲内であり得る。
【0042】
幾つかの実施形態において、上記のものの多様な組み合わせを使用して、大量の熱を放射により放散する放射率が≧90%、例えば、≧92%、≧95%、≧97%、または更には約100%の塗料を提供してもよい。したがって、これらの実施形態において、塗料は、約1〜50μmの範囲内における赤外線吸収を呈する官能基を有する1つまたはそれ以上の有機種を含む。幾つかの実施形態において、塗料は、約2〜30μm、例えば、約2〜20μm、例えば約2〜15μmの範囲内における赤外線吸収を呈する官能基を有する1つまたはそれ以上の有機種を含む。幾つかの実施形態において、1つまたはそれ以上の有機種は、記載される波長域において吸収する2、3、4、5またはそれ以上の異なる官能基を含む。幾つかの実施形態において、1つまたはそれ以上の有機種は、約2〜15μmの実質的に全範囲にわたって赤外線吸収を累積的に呈する。幾つかの実施形態において、1つまたはそれ以上の有機種は、約2〜20μmの実質的に全範囲にわたって赤外線吸収を累積的に呈する。幾つかの実施形態において、1つまたはそれ以上の有機種は、約2〜30μmの実質的に全範囲にわたって赤外線吸収を累積的に呈する。
【0043】
更に、塗料は、任意の特性調節剤を利用してもよい。幾つかの実施形態において、任意の特性調節剤としては、レベリング剤、チキソトロープ剤、着色剤、ひび割れ防止剤、酸化防止剤、紫外線濾過剤、溶剤および希釈剤が挙げられる。このような任意の特性調節剤は、当業者によく知られている。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
本発明の1つの例示的な塗料は、20重量%のブタジエン−スチレンと、30重量%のアクリル化エポキシ化ダイズ油と、10重量%のプロリンと、30重量%の酸化バナジウムと、10重量%の活性炭とを混合することによって調製された。構成成分を攪拌下8時間混合した。
【0045】
ブタジエン−スチレン、アクリル化エポキシ化ダイズ油およびプロリンは全て、赤外線スペクトルにおいて吸収する多様な有機官能基を塗料に対して与えた。例えば、ブタジエン−スチレンは、アルキル、芳香族およびビニル基を含み(例えば、C−C、C=CおよびC−H(アルキル、芳香族およびビニル))、アクリル化エポキシ化ダイズ油は、酸素含有有機基(例えば、C−OおよびC=O)を含み、プロリンは有機アミン基(例えば、C−NおよびN−H)を含む。よって、塗料は、約2〜15μmの実質的に全範囲にわたって吸収する有機官能基を含む。
【0046】
赤外線吸収は、それぞれ約8〜14μmおよび13〜39μmの範囲内における吸収を呈する活性炭および酸化バナジウムの包含によって更に向上した。よって、塗料は、約2〜40μmの実質的に全範囲にわたって吸収する有機官能基および無機材料を含む。
【0047】
塗料を銅表面に塗布して熱放射率を試験した。2つの銅クーポン(胴の試験片)(一方には塗料をコーティングし、他方にはコーティングしない)をホットプレート上の同様の場所に置くことによって比較実験を行った。2つの銅クーポンを熱平衡にし、熱電対を使用して各表面温度をチェックした。実験を3回繰り返した。測定した温度は表1に示され、塗料が銅クーポンの表面温度を最大で14.7℃低下させたことを実証している。
【0048】
【表1】
【0049】
[実施例2]
0.5gのカーボンブラックナノ粒子(40nm)と、0.075gのエポキシ509(Nanjing New Chemical Technology Co., Ltd.製)と、0.014gのN3390硬化剤(Bayer製)と、2.0gのトリプロピレングリコールn−ブチルエーテル(TPnB)溶剤とを混合することによって、別の例示的な塗料を調製した。完全に混合した後、銅クーポンをコーティングし、180℃で熱処理することによって溶剤を蒸発させた。
【0050】
次いで、コーティングした試料を、実施例1に記載されるようにコーティングしていない参照銅クーポンと比較した。測定した温度は表2に示され、塗料が表面温度を11.1℃も低下させたことを実証している。
【0051】
【表2】