特許第6043831号(P6043831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043831
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】回転スクリュ圧縮機を潤滑させる方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/38 20060101AFI20161206BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20161206BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20161206BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   C10M105/38
   C09K5/04 E
   F25B1/00 396Z
   C10N20:02
   C10N40:30
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-82816(P2015-82816)
(22)【出願日】2015年4月14日
(65)【公開番号】特開2016-148011(P2016-148011A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2015年4月28日
(31)【優先権主張番号】104104458
(32)【優先日】2015年2月10日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】515102242
【氏名又は名称】百達精密化學股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】李 信 恆
(72)【発明者】
【氏名】蔡 禎 祥
(72)【発明者】
【氏名】唐 旭 華
(72)【発明者】
【氏名】洪 榮 宗
(72)【発明者】
【氏名】呉 致 維
(72)【発明者】
【氏名】蔡 泰 和
(72)【発明者】
【氏名】黄 信 暦
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−502769(JP,A)
【文献】 特開平03−200895(JP,A)
【文献】 特開平04−072390(JP,A)
【文献】 特開平04−311797(JP,A)
【文献】 特開平05−209181(JP,A)
【文献】 特開平06−041574(JP,A)
【文献】 特開2002−129178(JP,A)
【文献】 特開2002−356694(JP,A)
【文献】 特表2012−515834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 105/38
C10N 40/30
C09K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒が圧縮される、回転スクリュ圧縮機を潤滑させる方法であって、
潤滑剤組成物と、前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒とを混合することを含み、
前記潤滑剤組成物の基油が、式(I)で示される混合ポリエステル、または、式(I)で示される混合ポリエステルおよび式(II)で示される混合ポリエステル:
【化1】
式中、R〜Rの各々は、C5−C10モノカルボン酸のカルボキシレートである、
からなり
前記式(I)で示される混合ポリエステルが、2以上の異なる前記C5−C10モノカルボン酸のカルボキシレートを有し、
前記C5−C10モノカルボン酸が、C5カルボン酸と、C9カルボン酸またはC10カルボン酸とからなり
〜Rの前記カルボキシレートが、前記C5カルボン酸の重量と、前記C9カルボン酸およびC10カルボン酸の総重量との間に、6:1〜1:4である比を有
前記潤滑剤組成物が、前記式(I)で示される前記混合ポリエステルおよび前記式(II)で示される前記混合ポリエステルを含むとき、
〜Rの各々が、C5モノカルボン酸のカルボキシレートであり、
前記式(I)で示される前記混合ポリエステルと前記式(II)で示される前記混合ポリエステルとの間の重量比が、7:3〜1:2である、方法。
【請求項2】
前記C5カルボン酸が、n−ペンタン酸またはメチルブタン酸を含み、
前記C9カルボン酸が、3,5,5−トリメチルヘキサン酸を含み、
前記C10カルボン酸が、ネオデカン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式(I)で示される混合ポリエステルが、重量比1〜3:6〜8:2である、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸の前記カルボキシレートを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(I)で示される混合ポリエステルが、トリペンタエリトリトールと、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸からなる混合カルボン酸との反応、あるいは、トリペンタエリトリトールと、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸から選択される1、2または3つのカルボン酸との反応から得られ、水酸基に対するカルボキシル基のモル比が、1.02〜1.2:1.0である、生成混合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記式(I)で示される混合ポリエステルが、トリペンタエリトリトールと、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸からなる混合カルボン酸との反応から得られる生成混合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
〜Rの各々が、メチルブタン酸のカルボキシレートである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記C5−C10モノカルボン酸が、メチルブタン酸と、3,5,5−トリメチルヘキサン酸とを含み、メチルブタン酸の重量と、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の重量との比が、3:7である、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
前記C5−C10モノカルボン酸が、メチルブタン酸とネオデカン酸とを含み、メチルブタン酸の重量と、ネオデカン酸の重量との比が、1:3である、請求項またはに記載の方法。
【請求項9】
前記潤滑剤組成物が、40℃で160〜460センチストークスの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒が、R−134aの場合であって、
前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒中に、前記潤滑剤組成物が、前記潤滑剤組成物および前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒の総重量に対して、20重量%で含まれるとき、−35℃よりも低い温度で、前記潤滑剤組成物が、前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒と混和性を有する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
別の潤滑剤またはベースストック組成物が、前記潤滑剤組成物の重量に対して20%未満の比で前記潤滑剤組成物とブレンドされる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
酸化耐性および熱安定性向上剤、腐蝕抑制剤、金属不活性化剤、潤滑性付与剤、粘度指数向上剤、流動点および/またはフロック点降下剤、洗剤、分散剤、消泡剤、酸捕捉剤、耐摩耗剤ならびに極圧抵抗剤からなる群から選択される1以上の添加剤が、前記潤滑剤組成物、前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボンまたは前記潤滑剤組成物および前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボンの混合物と、前記混合物の重量に対して3%または3%未満の量で混合される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、エステル系潤滑油、特に、塩素を含まないヒドロフルオロカーボン(HFC)を冷媒として利用する回転スクリュ圧縮機で使用するための潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に回転スクリュ圧縮機を用いる暖房、冷却(refrigeration)または空調システムは、オフィスビル、ホテル、ショッピングモール、食品貯蔵および処理設備、化学処理、幅広い種類の製造工場などにおいて一般に見られる。運転コストを低く保つことは、ビル所有者ならびに製造工場管理者の重要な仕事である。この点に関して、冷暖房コストを低く保つ能力が重要である;ASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会:American Society of Heating、Refrigeration and Air−Conditioning Engineers)は、建物のエネルギー消費の50%が暖房または冷房が原因であると推定している。その上、エネルギー効率を改善することができるならば、重要なプラスの環境的および社会的効果がある。
【0003】
回転スクリュ圧縮機は、容積式圧縮機の一種である。従来の回転スクリュ圧縮機の重要な部品は、ケーシングに収容された、2本の噛合する平行な螺旋状輪郭のロータからなる。ロータの動きおよび設計は、ガスをその吸気口から吐出口へ移動させることで、ガスを引き入れ、密封し、圧縮することを可能にする。油を満たした回転スクリュ圧縮器の設計では、潤滑油がロータ間の空隙を埋めるので、油圧シールを提供し、駆動モータと被駆動モータとの間で機械的エネルギーを移動させる。
【0004】
回転スクリュ圧縮機へ基本的に要求されていることは、頑強性および信頼性である。回転スクリュ圧縮機は、数年または数十年もの耐用年数を有することが期待され、その間メンテナンス作業をほとんどせずに継続的に運転することが期待されているためである。回転スクリュ圧縮機の頑強性およびエネルギー効率は達成されてきており、圧縮キャビティをより良好に密封するため、機械技術者は、螺旋状ロータ間、およびロータ、チャンバ間の正確なフィッティングやタイトなクリアランスを継続的に追求し、また、先端材料や、知的アルゴリズムを備えた現代的なデジタルコントローラを適用することで正確なアッセンブリを、継続的に追求している。しかし、潤滑剤は、より高い効率を達成するための比較的対費用効果の高い方法であり得る。最適な結果は、圧縮機の効率と信頼性の両方を改善する潤滑油であると思われる。
【0005】
エバポレータは、冷却または空調システムにおいて重要な構成要素である;実際の冷却または熱交換が起こるのはエバポレータにおいてである。エバポレータは、物質間の熱を伝える熱交換器の一種であり、物質間とは、空調装置の場合には冷媒と、冷媒によって冷却される空気との間である。エバポレータに共通して必要なことは、熱伝達面は、エバポレータ内側であるか外側であるかにかかわらず、伝導による熱伝達を妨げないように清浄にしておかなければならないということである。例えば、この目的のために除霜が一般的に用いられる。潤滑油の熱伝達への影響は、潤滑油が排出ガスとともに吐出口からポンプで汲み出されるという事実に起因する。多くの冷却システムまたは冷却機は、一般に吐出口から下流に作った油分離器を有するが、これらの油分離器は、全ての潤滑油分子を捕捉できない。多少の潤滑油が分離器を通過することは避けられない。通過する潤滑油は、圧縮機に引き戻される必要がある;そうでなければ、圧縮機の外側の区域での潤滑油の蓄積は、圧縮機の内部の油の油脱状態を引き起こし、および/または、冷却もしくは空調システムのエバポレータでの熱伝達などのシステム機能性を妨げる可能性がある。冷媒と相溶性/混和性があるように設計され、冷媒とともに圧縮機に循環して戻ることができ、エバポレータ表面に蓄積する傾向のほとんどない潤滑油が非常に望まれている。
【0006】
冷媒との優れた相溶性/混和性を有する一方で、より良好な油圧シーリングを提供する能力のある潤滑油には相反する要件がある。例えば、高粘度の潤滑油は、一般的には、より効果的な油圧シーリングおよび摩耗防止性を提供するが、それは特に低い温度の冷媒と適切な相溶性または混和性を有さない傾向がある。この不適切な相溶性/混和性が示す重大な逆の意味は、低温エバポレータ/熱交換器の区域での不十分な油戻しおよび熱伝達の低下である。
【0007】
高粘度で、性能が改善した潤滑油の開発における課題は、オゾンを枯渇させない、環境に優しいヒドロフルオロカーボン(HFC)冷媒の採用によってさらに複雑となっている。従来のクロロフルオロカーボン(chlorofluorocarbon)(CFC)またはヒドロクロロフルオロカーボン(hydrochlorofluorocarbon)(HCFC)冷媒は、塩素原子の存在のために本質的にわずかに極性があり、そのため、通常良好な溶媒である。塩素原子を含まないヒドロフルオロカーボン(HFC)冷媒は劣った溶媒であり、したがって、高粘度の潤滑油に対して、相溶性/混和性のある潤滑油を見出すことをさらにより難しくしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
圧縮機のシステム効率を高めるために、より良好な油圧シーリング、摩耗防止性および優れた相溶性/混和性を提供することのできる潤滑油を見出すことに加えて、これらの革新的な潤滑油は、適切な流体力学潤滑膜厚さ(adequate hydrodynamic lubricating film thickness)、高い誘電強度、優れた加水分解安定性、良好な熱安定性、高い引火点、低い流動点、および高い粘度指数(VI)などの、従来の冷却機潤滑油が一般的に備える性質を保持することが必要不可欠である。
【0009】
本発明の主目的は、塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒が圧縮される、回転スクリュ圧縮機を潤滑させる方法であって、本発明の潤滑剤組成物と、塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒とを混合することを含む方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、回転スクリュ圧縮機の性能を向上させるための、潤滑剤組成物および冷媒作動流体(refrigerant working fluid)を提供することであり、かかる冷媒作動流体は、本発明の潤滑剤組成物と、塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒とを含む。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、本発明の冷媒作動流体を含む回転スクリュ圧縮機を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、本発明の回転スクリュ圧縮機を含む、冷却装置、またはヒートポンプシステムもしくは空調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明に従って提供される潤滑剤組成物は、(I)または(II)の式で示される混合ポリエステルを含む:
【0014】
【化1】
【0015】
上式で、R〜Rの各々は、C5−C10モノカルボン酸のカルボキシレートであり、前記混合ポリエステルは、2以上の異なるC5−C10モノカルボン酸のカルボキシレートを有する。
【0016】
本発明の好ましい実施形態としては、(限定されるものではないが)以下の項目に列挙される特徴が挙げられる:
1.塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒が圧縮される、(前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒が、好ましくはR−134a、R−32、R−125またはこれらの混合物である)回転スクリュ圧縮機を潤滑させる方法であって、
潤滑剤組成物と、前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒とを混合することを含み、
前記潤滑剤組成物が、(I)または(II)の式:
【0017】
【化2】
【0018】
式中、R〜Rの各々は、C5−C10モノカルボン酸のカルボキシレートである、
で示される混合ポリエステルを含み、前記混合ポリエステルが、2以上の異なる前記C5−C10モノカルボン酸のカルボキシレートを有する、方法。
【0019】
2.前記混合ポリエステルが、前記式(I)で示され、前記C5−C10モノカルボン酸が、C5カルボン酸と、C9カルボン酸またはC10カルボン酸とを含み、R〜Rの前記カルボキシレートが、前記C5カルボン酸の重量と、前記C9カルボン酸およびC10カルボン酸の総重量との間に、6:1〜1:4である比を有する、項目1に記載の方法。
【0020】
3.前記C5カルボン酸が、n−ペンタン酸またはメチルブタン酸を含み、前記C9カルボン酸が、3,5,5−トリメチルヘキサン酸を含み、前記C10カルボン酸が、ネオデカン酸を含む、項目2に記載の方法。
【0021】
4.前記混合ポリエステルが、重量比約1〜3:6〜8:2、好ましくは約2:7:2である、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸の前記カルボキシレートを有する、項目3に記載の方法。
【0022】
5.前記混合ポリエステルが、トリペンタエリトリトールと、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸からなる混合カルボン酸との反応、あるいは、トリペンタエリトリトールと、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸から選択される1、2または3つのカルボン酸との反応から得られ、カルボキシル基に対する水酸基のモル比が約1.0:1.02〜1.2である、生成混合物であり、好ましくは前記混合ポリエステルが、トリペンタエリトリトールと、n−ペンタン酸、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸からなる混合カルボン酸との反応から得られる生成混合物である、項目4に記載の方法。
【0023】
6.前記潤滑剤組成物が、前記式(I)で示される前記混合ポリエステルおよび前記式(II)で示される前記混合ポリエステルを含み、R〜Rの各々が、C5モノカルボン酸、好ましくはメチルブタン酸のカルボキシレートであり、前記式(I)で示される前記混合ポリエステルと前記式(II)で示される前記混合ポリエステルとの重量比が、7:3〜1:2、好ましくは約1:1である、項目1に記載の方法。
【0024】
7.前記C5−C10モノカルボン酸が、C5カルボン酸と、C9カルボン酸またはC10カルボン酸とを含み、R〜Rの前記カルボキシレートが、前記C5カルボン酸の重量と、前記C9カルボン酸およびC10カルボン酸の総重量との間に、6:1〜1:4である比を有する、項目6に記載の方法。
【0025】
8.前記C5−C10モノカルボン酸が、メチルブタン酸と、3,5,5−トリメチルヘキサン酸とを含み、3−メチルブタン酸の重量と、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の重量との比が約3:7である、項目7に記載の方法。
【0026】
9.前記C5−C10モノカルボン酸が、メチルブタン酸とネオデカン酸とを含み、メチルブタン酸の重量と、ネオデカン酸の重量との比が約1:3である、項目7に記載の方法。
【0027】
10.前記混合ポリエステルが前記式(II)を有し、前記C5−C10モノカルボン酸が、C5カルボン酸と、C9カルボン酸とを含み、R6〜R8の前記カルボキシレートが、重量比5:1〜1:4、好ましくは2:1〜1:2、より好ましくは約1:1の、前記C5カルボン酸の重量と前記C9カルボン酸とを有する、項目1に記載の方法。
【0028】
11.前記C5カルボン酸が、メチルブタン酸を含み、前記C9カルボン酸が、3,5,5−トリメチルヘキサン酸を含み、前記式(II)で示される前記混合ポリエステルが、ジペンタエリトリトールと、メチルブタン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸の混合カルボン酸との反応から得られる生成混合物であり、カルボキシル基に対する水酸基のモル比が、約1.0:1.05〜1.2である、項目10に記載の方法。
【0029】
12.前記潤滑剤組成物が、40℃で160〜460センチストークス、40℃で好ましくは220〜360センチストークスの粘度を有する、項目1に記載の方法。
【0030】
13.前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒が、R−134aの場合であって、前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒中に、前記潤滑剤組成物が、前記潤滑剤組成物および前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒の総重量に対して、5重量%、10重量%および20重量%で含まれるとき、−35℃よりも低い、好ましくは−45℃よりも低い、より好ましくは−60℃よりも低い温度で、前記潤滑剤組成物が、前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒と混和性を有する、項目12に記載の方法。
【0031】
14.別の潤滑剤またはベースストック組成物が、前記潤滑剤組成物の重量に対して20%未満の比で前記潤滑剤組成物とブレンドされる、項目1に記載の方法。
【0032】
15.酸化耐性および熱安定性向上剤、腐蝕抑制剤、金属不活性化剤、潤滑性付与剤、粘度指数向上剤、流動点および/またはフロック点降下剤、洗剤、分散剤、消泡剤、酸捕捉剤、耐摩耗剤ならびに極圧抵抗剤からなる群から選択される1以上の添加剤が、前記潤滑剤組成物、前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボンまたは前記潤滑剤組成物および前記塩素を含まないヒドロフルオロカーボンの混合物と、前記混合物の重量に対して3%または3%未満の量で混合される、項目1に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、エステル系潤滑油と、前記エステル系潤滑油および塩素を含まないヒドロフルオロカーボン冷媒を含有する、回転スクリュ圧縮機用の冷媒作動流体とを開示する。本発明の作動流体は、回転スクリュ圧縮機の性能/効率を改善する能力があり、それは次に、回転スクリュ圧縮機を含む冷却装置、ヒートポンプシステムまたは空調装置の性能/効率を改善する。
【0034】
エステル系合成潤滑油は、触媒の存在下または不在下でのジペンタエリトリトール(DiPE)、トリペンタエリトリトール(TriPE)またはその混合物と、炭素数5〜10の鎖長を有する混合モノカルボン酸とのエステル化生成物を含み、その後に精製が続く。化学合成の効率または収率を改善するために、過剰量の酸を用いて1または複数のポリオールと反応させる。典型的な反応温度は、150〜250℃(好ましくは180〜240℃、より好ましくは200〜230℃)の範囲であり、典型的な反応時間は、6時間〜18時間(好ましくは8時間〜14時間、より好ましくは8時間〜12時間)の範囲である。エステル化で用いることのできる典型的な触媒としては、(限定されるものではないが)シュウ酸第一スズ、酸化第一スズ、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、およびメタンスルホン酸が挙げられる。エステル化生成物は、一般に、10mgKOH/gよりも低い(好ましくは5mgKOH/gよりも低い、より好ましくは3mgKOH/gよりも低い)ヒドロキシル価を有する。精製プロセスは、一般に、真空によって水を除去すること、NaOHでの中和によって酸を除去すること、およびカーボンブラック吸収による退色(discoloration)を含む。最終精製ポリエステル生成物は、0.1mgKOH/g未満の全酸価(TAN)および50ppm未満の含水量を有する。低い含水量は、乾燥窒素を精製ポリエステル生成物にバブリングすることによって実現される。
【0035】
DiPE、およびTriPEは、精製されたものであってもよいし、市販のDiPEまたはTriPEに一般的に見られる一定量のポリオールを有してもよい。モノカルボン酸、特にC5モノカルボン酸およびC9モノカルボン酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。C5モノカルボン酸としては、(限定されるものではないが)好ましくは、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、およびその混合物が挙げられ;C9モノカルボン酸は、好ましくは、3,5,5−トリメチルヘキサン酸である。
【0036】
一部の使用条件下では、本明細書に記載されるエステル(類)は、完全な潤滑剤として十分に機能するであろう。しかし、完全な潤滑剤には、当業界で通常添加剤として認識されるその他の材料、例えば酸化耐性および熱安定性向上剤、腐蝕抑制剤、金属不活性化剤、潤滑性付与剤、粘度指数向上剤、流動点および/またはフロック点降下剤、洗剤、分散剤、消泡剤、酸捕捉剤、耐摩耗剤および極圧抵抗剤などを含有することが通常好ましい。多くの添加剤は多機能性である。例えば、ある種の添加剤は、摩耗防止性と極圧抵抗性の両方を付与することができるか、または、金属不活性化剤と腐蝕抑制剤の両方として機能することができる。累積的に、全ての添加剤は、好ましくは配合された潤滑剤配合物全体の8重量%を超えない、より好ましくは5重量%を超えない。
【0037】
前述の添加剤の種類の有効量は、通常、酸化防止剤成分について、0.01〜5%、腐蝕抑制剤成分について0.01〜5%、金属不活性化剤成分について0.001〜0.5%、潤滑性付与剤について0.5〜5%、酸捕捉剤、粘度指数向上剤、および流動点および/またはフロック点降下剤の各々について0.01〜2%、洗剤および分散剤の各々について0.1〜5%、消泡剤について0.001〜0.1%、そして摩耗防止性および極圧抵抗性成分の各々について0.1〜2%の範囲内である。これらの百分率は全て重量によるものであり、全潤滑剤組成物に基づく。述べた添加剤の量よりも少ないかまたは多いほうが特定の環境にはより適していることがあること、および、単一の分子種または複数の種の混合物が添加剤成分の各々の種類に使用されてよいことは当然理解される。また、添付される特許請求の範囲に記載される場合を除いて、下に列挙される例は、単に説明のためのものであって制限するものではない。
【0038】
適した酸化耐性および熱安定性向上剤としては、ジフェニル−、ジナフチル−、およびフェニルナフチル−アミンであり、この際、フェニルおよびナフチル基は、置換されることができる、例えば、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミン、およびジ−2−ナフチルアミン;フェノチアジン、例えばN−アルキルフェノチアジンなど;イミノ(ビスベンジル);およびヒンダードフェノール、例えば6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(−2,6−ジ−{t−ブチル}フェノール)、および同類のものが例示できる。
【0039】
適した第一銅金属不活性化剤の例としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2,5−ジメルカプトチアジアゾール、サリチリデン(salicylidene)−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2−メチルベンズイミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、およびメチレンビス−ベンゾトリアゾールである。ベンゾトリアゾール誘導体が好ましい。より一般的な金属不活性化剤および/または腐蝕抑制剤のその他の例としては、有機酸およびそれらのエステル、金属塩、および無水物、例えば、N−オレイル−サルコシン、ソルビタンモノオレエート、ナフテン酸鉛、ドデセニル−コハク酸およびその部分エステルおよびアミド、ならびに4−ノニルフェノキシ酢酸;有機および無機酸の第一級、第二級、および第三級脂肪族および脂環式アミンおよびアミン塩、例えば、油溶性アルキルアンモニウムカルボキシレート;複素環式窒素含有化合物、例えば、チアジアゾール、置換イミダゾリン、およびオキサゾリン;キノリン、キノン、およびアントラキノン;没食子酸プロピル;バリウムジノニルナフタレンスルホネート;アルケニルコハク酸無水物またはアルケニルコハク酸のエステルおよびアミド誘導体、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート;酸性リン酸エステルのアミン塩およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0040】
適した潤滑性付与剤の例としては、脂肪酸および天然油の長鎖誘導体、例えば、エステル、アミン、アミド、イミダゾリン、およびホウ酸塩などが挙げられる。
【0041】
適した粘度指数向上剤の例としては、ポリメタクリレート、ビニルピロリドンとメタクリレートのコポリマー、ポリブテン、およびスチレン−アクリレートコポリマーが挙げられる。
【0042】
適した流動点および/またはフロック点降下剤の例としては、ポリメタクリレート、例えばメタクリレート−エチレン−ビニルアセテートターポリマーなど;アルキル化ナフタレン誘導体;および尿素とナフタレンまたはフェノールとのフリーデル−クラフツ触媒縮合の生成物が挙げられる。
【0043】
適した洗剤および/または分散剤の例としては、ポリブテニルコハク酸アミド;ポリブテニルホスホン酸誘導体;長鎖アルキル置換芳香族スルホン酸およびそれらの塩;ならびにアルキルスルフィドの金属塩、アルキルフェノールの金属塩、およびアルキルフェノールとアルデヒドの縮合生成物の金属塩が挙げられる。
【0044】
適した消泡剤の例としては、シリコーンポリマーおよび一部のアクリレートが挙げられる。適した酸捕捉剤の例は、グリシジルエーテルおよびエステルである。
【0045】
適した耐摩耗剤および極圧抵抗剤の例としては、硫化脂肪酸および脂肪酸エステル、例えば硫化オクチルタレート(sulfurized octyl tallate)など;硫化テルペン;硫化オレフィン;有機ポリスルフィド;リン酸アミン、酸性リン酸エステル、ジアルキルホスフェート、アミンジチオホスフェート、トリアルキルおよびトリアリールホスホロチオネート、トリアルキルおよびトリアリールホスフィン、およびジアルキルホスフィット、例えば、リン酸モノヘキシルエステルのアミン塩、ジノニルナフタレンスルホネートのアミン塩、トリフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、ジフェニルクレシルおよびジクレシルフェニルホスフェート、ナフチルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスホロチオナートを含む有機リン誘導体;ジチオカルバメート、例えばアンチモンジアルキルジチオカルバメート;塩素化および/またはフッ素化炭化水素;ならびにキサンテートが挙げられる。
【0046】
本発明は、単に本発明を例証するためのものであって、単に本発明の範囲を制限するためのものでない以下の実施例によってさらによく理解される。以下の実施例では、2−メチルブタン酸(MBA)が使用された;しかし、MBAは、3−メチルブタン酸または2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸の混合物に置き換えることができる。したがって、特許請求の範囲におけるメチルブタン酸は、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸または2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸の混合物を意味する。
【実施例】
【0047】
実施例1.TriPE+(iC9、MBA、nC5)
本実施例では、混合ポリオールエステル(POE)を、TriPE(トリペンタエリトリトール)と、3,5,5−トリメチルヘキサン酸(iC9酸)、2−メチルブタン酸(MBA)およびn−ペンタン酸(nC5酸)の2:7:2の重量比の混合物とを反応させることによって合成した。
【0048】
本実施例に記載されるPOE合成手順を、反応物質とその量とを変更して、以下の実施例にも採用した。例えば中国のJiangsu Ruiyang Chemical Co.,Ltd.によって販売されるTriPE、例えばDow Chemicalによって販売される、カルボン酸たる、nC5酸;例えば米国のOxea Corporationによって販売されるMBA;ならびに例えば日本のKHネオケム株式会社によって販売されるiC9酸を、温度計、窒素パージチューブ、および撹拌機を備えた1リットルのフラスコに入れ、それを温度制御加熱マントルの中に設置した。過剰な化学量論量の酸を反応に使用し;アルコール中の水酸基と、混合カルボン酸中のカルボキシル基との比は1:1.1〜1.2であった。アルコールと酸との反応を、窒素雰囲気下200℃〜230℃での撹拌および加熱によって促進した。反応の間、発生した水を蒸留によって除去し、反応混合物のヒドロキシル価をモニターした。ヒドロキシル価が3mgKOH/gを下回ったときに、加熱および撹拌を中止することによって反応を停止させ、それには約8〜12時間かかった。生成混合物を、真空による水の除去、NaOHでの中和による酸の除去、およびカーボンブラック吸収による退色(discoloration)を行うことによって、さらに精製した。その後、50℃〜100℃に制御された温度で窒素バブリングを行って精製エステルを脱水した。最終のポリエステル生成物は、0.1mgKOH/g未満の全酸価(TAN)および50ppm未満の含水量を有する。
【0049】
本実施例で準備したPOEは、相反する要件である、高粘度であるというだけでなく、HFC冷媒、例えばR−134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン、これは実施例4で示される)などとの混和性が高いということを達成する。実施例1のPOEは、以下の物理的性質を有する。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例2.TriPE+(MBA、iC9)およびDiPE+MBAのブレンド(50/50)
本実施例で準備した革新的なPOEは、40℃でISO 220の粘度を有し、重量比が50:50の、TriPE+(重量比が30:70のMBAおよびiC9酸)由来のポリエステルと、DiPE+MBA由来のポリエステルとから構成される。この混合POE油は、別々に作製した2つのPOEをブレンドすることによるか、または、TriPEおよびDiPEと、MBAおよびiC9酸とを制御された条件下で反応させることによって製造することができる。本実施例では、混合POE油は、実施例1と同様、別々に作製した2つのPOEを混合することによって製造した。本実施例で準備した混合POEは、以下の物理的性質を有する:
【0052】
【表2】
【0053】
実施例3.DiPE+MBAおよびTriPE+(ネオ10+MBA)のブレンド(45/55)
本実施例で準備した革新的なPOEは、40℃でISO 400の粘度を有し、重量比は45:55の、DiPE+MBAと、TriPE+(ネオデカン酸(ネオ10)+MBA、重量比3:1)とのブレンドである。
【0054】
本実施例では、混合POE油は、実施例1において同様、別々に作製した2つのPOEをブレンドすることによって製造した。40℃で400cStと非常に高粘度であっても、本実施例で作製したPOEは、実施例4で示されるように、驚くことに、R−134aなどのHFC冷媒と高い混和性を有することが見出された。このPOEは、以下の物理的性質を有する:
【0055】
【表3】
【0056】
実施例4.混和性の比較
実施例1、2および3で準備した潤滑油と、従来のPOE潤滑油との間の、R−134a冷媒との相溶性/混和性の比較を本実施例で示す。2つの一般に使用される市販のPOE潤滑油−ISO 68およびISO 120 POE潤滑油−を比較用に選んだ。
【0057】
低温で測定した相分離温度を用いて、相溶性/混和性を示す。冷媒において20%の油濃度を一例としてとり、0.6gのサンプル油および2.4gの冷媒R−134aを、厚いPYREX(登録商標)管(全長300mm、外径10mm、および内径6mm)の中に封入し、ドライアイスを含有するエタノール浴中で冷却し、温めた。次に、2相分離温度を、+60℃〜−60℃の温度範囲内で視覚的に測定した。結果を表1に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
(必ずというわけではないが)POE潤滑油は、粘度が低いほど、R−134a冷媒との相溶性/混和性がより向上する傾向がある。しかし、実施例1、2および3で準備した潤滑油は、油濃度が冷媒中、5%、10%および20%で、はるかに良好な混和性/相溶性を示す。この相溶性/混和性は、冷却または空調システムにおけるエバポレータまたは配管からの油戻しを促進する。
【0060】
実施例5.重要な冷却潤滑性−水組成(water specification)、全酸価(TAN)および誘電強度の測定
クローズドループ冷却、空調または暖房システムの要求を満たすために、圧縮機潤滑油は、産業界の認めた品質基準を満たすことが必要とされる。それらの中で重要なものは、水組成、全酸価(TAN)および誘電強度である。水はエステルと反応して酸を形成するので、POE潤滑油の含水量は最小であるべきである。その上、油中の過剰な水は、金属表面で凍結して熱伝達を妨げることがある。酸は腐食を引き起こすだけでなくエステルの分解を触媒することもあるので、POE潤滑油中の全酸価(TAN)も、最小であるべきである。POE潤滑油はシステムのモータなどの電気部品と頻繁に接触しているので、誘電率は重要である。誘電率が低い(導電性が高い)と、短絡の確率が増加することになる。以下の表(表2)では、実施例1、2および3で準備したPOEのこれらの性質が示され、本発明に従って準備したPOEは、冷却、空調および暖房システムにおける厳しい潤滑油要求を満たすことが表中のデータから分かる。
【0061】
【表5】
【0062】
実施例6.密封管安定性試験
分解した生成物はフィルタに目詰まり、腐食または摩耗の問題を引き起こす可能性があるので、冷却、空調または暖房システムにおける潤滑油の安定性は重要である。さらに、潤滑油の分解に起因する問題は、クローズドループ循環設計で悪化することになる。クローズドループ冷却、空調および暖房システムで使用される潤滑油と、エンジンまたはギア用途で使用される潤滑油との間の主な違いの1つは、クローズドループ冷却、空調および暖房システムで使用される潤滑油は、通常の大気環境の代わりに冷媒環境で動作することである。そのため、例えば、R−134aとともに使用されるPOE潤滑油の安定性を評価するためには、試験をR−134a環境で実施することだけにのみ意味があり、したがって密封管試験を採用する。
【0063】
密封管安定性試験を満足に合格することができない潤滑油は、酸、堆積物、不溶性材料を形成することがあり、これらは腐食、弁固着、フィルタ目詰まり、キャピラリーチューブ詰まりまたは粘度変化をもたらすことがある。これらの全てが、結果として過剰なエネルギー消費、不十分なシステム性能および/または費用のかかるメンテナンス作業をもたらすことがあり得る。
【0064】
実施例1、2および3で準備した潤滑油の密封管試験の結果を表3に示す。表3のデータは、業界標準試験に基づいて本発明の潤滑油が冷媒環境で安定していることを示す。これらの結果は、冷却、空調または暖房システムが適切に組み立てられている場合、本発明の潤滑油は長い耐用期間および問題のない働きをすることを示す。
【0065】
【表6】
【0066】
実施例7.R−134a中で同じ粘度グレードをもつ、実施例2で準備した潤滑油と、2種類の従来のPOE潤滑油との間の相溶性/混和性との比較
実施例4で使用した同じ相溶性/混和性試験を、2種類の従来のISO 220 POE潤滑油(RB220およびRL220)および実施例2で準備した潤滑油について、別々に繰り返した。結果を表4に示す。表中、2種類の従来のISO 220 POE潤滑油のうちのRB220は主に分枝した酸由来のポリエステルで構成され、一方RL220はより直鎖状である。実施例2で準備した潤滑油も、ISO 220グレードである。表4のデータは2種類の従来のISO 220 POE潤滑油と、実施例2で準備した潤滑油との間の混和性の相違を明らかに示す。実施例2で準備した潤滑油の驚くほど高い混和性は、クローズドループシステムにおいてより清浄な金属表面をもたらすことになり、したがって従来のPOE冷却潤滑油と比較して、熱伝達に対してより少ないインピーダンスをもたらす。
【0067】
【表7】
【0068】
実施例8.加水分解安定性試験(ASTM 2619)
クローズドループ冷却、空調および暖房システムは、不純物および水の混入を最小限にするため、細心の注意を払って組み立てられるはずではある。さらに、これらのシステムは、一般に、付加的な安全設計として水を吸収するためのフィルタ/乾燥機を採用している。しかし、現在用いられている、あるいは、今後構築されるのは非常に多数のシステムであり、また、請負業者の技能が整合していなかったりするため、あらゆる場合に完璧を求めることは困難である。結果として、水が不可避的にこれらのクローズドループシステムの一部に入ってしまう場合がある。よって、結果的には、高レベルの加水分解抵抗性をもつ潤滑油であることが常に好ましい。一般に用いられる加水分解安定性試験は、ASTM 2619であり、この試験では、水と油とが高温で長時間、機械混合下に一緒に置かれる。加水分解されやすい潤滑油は、酸(不溶性)を形成するか、または粘度の損失を被ることがある。実施例1、2および3で準備した潤滑油についての試験結果を表5に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
表5から、実施例1、2および3で準備したPOE潤滑油は、ASTM 2619試験において十分な加水分解安定性を発揮していることが明らかに分かる。これらは、本発明のPOE潤滑油をラージスケールで使用してもさらなる信頼性をもたらす結果であるといえる。
【0071】
実施例9.DiPE+(iC9、MBA)
本実施例では、DiPE(ジペンタエリトリトール)と、1:1の重量比の3,5,5−トリメチルヘキサン酸(iC9酸)および2−メチルブタン酸(MBA)の混合物とを、反応させることによって、混合ポリオールエステル(POE)を合成した。
【0072】
実施例1で記載された同様の合成手順を、反応物質とその量の必要な変更を行うことによって、本実施例に適用した。DiPE、MBAおよびiC9酸を、温度計、窒素パージチューブ、および撹拌機を備える1リットルフラスコの中に入れ、それを温度制御加熱マントルの中に据えて合成反応を開始させた。同様に;最後には、生成混合物を、真空による水の除去、NaOHでの中和による酸の除去、およびカーボンブラック吸収による退色(discoloration)を行うことによって、さらに精製した。その後、50℃〜100℃に制御された温度で窒素バブリングを行って、精製したエステルを脱水した。最終のポリエステル生成物は、0.1mgKOH/g未満の全酸価(TAN)および50ppm未満の含水量を有する。
【0073】
本実施例で準備したPOEは、相反する要件である、高粘度であるだけでなく、R−134aなどのHFC冷媒と高い混和性を実現する。本実施例で得たPOEは、以下の物理的な性質を有する。
【0074】
【表9】
【0075】
本実施例で準備したPOEの、R−134aなどへのHFC冷媒の混和性を以下の通り示す:
【0076】
【表10】