(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記取り外し工程では、前記通気孔からの前記空気の吹出しによって前記研磨対象物を前記挿通孔からの引き抜き方向に移動させる、請求項5〜8のうちいずれか1項に記載の研磨方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の研磨装置は、衝撃緩和においては一定の効果があるものの、次のような問題がある。
1)十分な衝撃緩和効果を得るには、硬度の高いダミーチップ(例えばシリコン製)を用いる必要がある(段落0027参照)。そのため、研磨盤に工業用ダイヤモンドからなる砥粒を用いたとしても研磨加工に時間がかかり、生産性が低くなる。
2)硬度の高いダミーチップを用いるため、バネによって高い押圧力で研磨治具を研磨盤に向けて押圧することが必要となる(段落0011,0027参照)。その荷重に耐えられるように、装置構造は堅牢にする必要があるため、装置コストは上昇する。
また、研磨工程の初期においては、バネの変位量が大きいため、バネによる押圧力は大きい。しかし、フェルールの先端面の径は小さいので、フェルールの先端面の単位面積あたりの荷重が過大となりやすく、フェルールの破損が懸念される。
3)研磨速度については、望まれる研磨条件に合わせてダミーチップの断面積を変えれば研磨速度を変えることができるとされているが(段落0020,0021参照)、実際の研磨加工に際しては、頻繁にダミーチップを交換するのは、生産性向上の観点から好ましくない。
4)光ファイバコネクタとダミーチップとは共通の研磨盤によって研磨されるため、ダミーチップの研磨屑が光ファイバコネクタに付着することが考えられる。異なる材料からなる研磨屑の付着は、光ファイバコネクタの品質確保の点で好ましくない。
【0006】
本発明の一態様は、前記事情に鑑みて提案され、研磨加工の効率を低下させず、かつ研磨対象物の破損を防ぐことができ、しかもコストに優れ、品質が良好な研磨加工が可能となる研磨装置および研磨方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、研磨対象物を保持する保持体と、前記研磨対象物を研磨する研磨体と、空気流通手段とを備え、前記保持体は、前記研磨対象物が挿通する挿通孔と、前記挿通孔とは独立に形成された通気孔とを有し、前記空気流通手段は、前記通気孔に空気を流通させるように構成され、前記通気孔は、前記挿通孔に挿入された前記研磨対象物を、前記空気の流通により吸引することによって、前記研磨対象物に前記挿入方向の力を加えるように形成され、前記研磨体は、前記挿入方向の力が加えられた前記研磨対象物が押し当てられるように設置される、研磨装置を提供する。
前記研磨対象物は、一方向に延在する主部と、前記主部の径方向外方に張り出した側方凸部とを有し、前記側方凸部は、最大外径が前記挿通孔の内径より大きく、前記通気孔の一方の開口の少なくとも一部は、前記主部が挿通孔に挿通したときに前記側方凸部に対面するように形成されていることが好ましい。
本発明の一態様は、前記通気孔内の空気の圧力または前記研磨対象物の位置を検出する検出部と、前記空気の流量を制御する制御部と、をさらに備え、前記研磨対象物は、長さ方向に外径が変化する径変化部を有し、前記制御部は、前記径変化部が前記研磨体に押し当てられて研磨される際に、前記通気孔内の空気の圧力または前記研磨対象物の位置に基づいて前記空気の流量を調節することによって、前記研磨対象物を研磨体に押し当てる力を調整する、研磨装置を提供する。
本発明の一態様は、前記保持体は前記挿通孔および前記通気孔をそれぞれ複数有し、かつ前記空気流通手段を複数有し、前記複数の通気孔のうち一部の通気孔は、前記複数の空気流通手段のうち一部の空気流通手段によって、前記複数の挿通孔のうち一部の挿通孔に挿入された前記研磨対象物に前記挿入方向の力を加えるように形成され、前記通気孔以外の通気孔のうち少なくとも一部の通気孔は、前記空気流通手段以外の空気流通手段のうち少なくとも一部の空気流通手段によって、前記挿通孔以外の挿通孔のうち少なくとも一部の挿通孔に挿入された前記研磨対象物に前記挿入方向の力を加えるように形成されている、研磨装置を提供する。
【0008】
本発明の一態様は、研磨対象物を保持体に保持しつつ研磨する研磨工程と、前記研磨工程によって研磨された前記研磨対象物を前記保持体から取り外す取り外し工程とを有し、前記保持体は、前記研磨対象物が挿通する挿通孔と、前記挿通孔とは独立に形成された通気孔とを有し、前記研磨工程では、前記挿通孔に挿入された前記研磨対象物を、前記空気の流通により前記通気孔に吸引することによって、前記研磨対象物に前記挿入方向の力を加え、この力により前記研磨対象物を研磨体に押し当てて研磨する、研磨方法を提供する。
前記研磨対象物は、一方向に延在する主部と、前記主部の径方向外方に張り出した側方凸部とを有し、前記側方凸部は、最大外径が前記挿通孔の内径より大きく、前記通気孔の一方の開口の少なくとも一部は、前記主部が挿通孔に挿通したときに前記側方凸部に対面するように形成され、前記研磨工程では、前記研磨対象物を吸引するにあたって、前記主部を前記挿通孔に挿通させるとともに、前記空気の流通により前記通気孔に前記側方凸部を吸引することが好ましい。
前記研磨対象物は、長さ方向に外径が変化する径変化部を有し、前記研磨工程では、前記径変化部を前記研磨体に押し当てて研磨し、その際、前記通気孔内の空気の圧力または前記研磨対象物の位置に基づいて前記空気の流量を調節することによって、前記研磨対象物を研磨体に押し当てる力を調整することが好ましい。
本発明の一態様は、前記研磨工程に先だって前記研磨対象物を前記挿通孔に挿入する挿入工程をさらに有し、前記挿入工程では、前記通気孔からの前記空気の吹出しによって前記研磨対象物に前記挿通孔からの引き抜き方向の力を加えつつ、前記研磨対象物を前記挿通孔に挿入する、研磨方法を提供する。
前記取り外し工程では、前記通気孔からの前記空気の吹出しによって前記研磨対象物を前記挿通孔からの引き抜き方向に移動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、研磨対象物を通気孔に吸引することによって研磨対象物に挿入方向の力を加え、この力により研磨対象物を研磨体に押し当てて研磨することができる。
空気による吸引力を調整することにより、研磨体に対する研磨対象物の押し当て力を任意に設定できるため、研磨の過程において、研磨対象物の先端面の単位面積あたりの押圧力を適正化できる。したがって、研磨加工の効率を低下させず、かつ研磨対象物の破損を防ぐことができる。
【0010】
空気が研磨対象物に与える力を調整することにより、研磨対象物の先端部が研磨体に当たる際の衝撃を緩和できる。よって、衝撃緩和のための部材(例えばダミーチップ)を用いる必要がないため、装置構造の堅牢化が不要となることから、装置コストを抑制することができる。
また、衝撃緩和のための部材を用いないため、この部材の研磨屑が研磨対象物に付着することがない。よって、研磨対象物の品質確保の点で好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下、
図1における上下に即して位置関係を説明する場合がある。
【0013】
[研磨対象物]
まず、本実施形態の研磨装置の研磨対象物の一例について説明する。
図1に示すように、研磨対象物1は、一方向に延在する棒状の主部11と、主部11の径方向外方に張り出して形成されたフランジ部12(側方凸部)とを有する。
主部11は、例えば、長さ方向に一定の外径を有する断面円形の定径部13と、定径部13の先端に形成された径変化部14とを有する。径変化部14は、先端に近づくほど外径が小さくなるように形成することができる。
【0014】
フランジ部12は、主部11の基端部11a(上端部)に形成されており、主部11の周方向にわたって径方向外方に突出している。フランジ部12は、主部11のほぼ全周にわたって主部11の外面11bから突出していることが好ましい。フランジ部12の最大外径は挿通孔5の内径より大きい。フランジ部12の下面12aは、主部11の軸方向に対して垂直な平坦面であることが好ましい。
【0015】
研磨対象物1としては、光コネクタに用いられるフェルールを例示できる。主部11はジルコニア等のセラミック、ガラス等からなる。フランジ部12は、合成樹脂、金属などからなる。主部11およびフランジ部12の構成材料は例示した材料に限定されない。
【0016】
なお、本実施形態の研磨装置および研磨方法の対象物は特に限定されず、フェルール以外の物にも適用できる。
【0017】
[研磨装置]
本発明の一実施形態である研磨装置10について、
図1〜
図4を参照して説明する。
図1は研磨装置10の構造を模式的に示す断面図である。
図2および
図3は、挿通孔および通気孔の構造の例を模式的に示す図である。
図4は、研磨装置10の一部の構造を模式的に示す構成図である。
【0018】
図1および
図4に示すように、研磨装置10は、研磨対象物1を保持する保持体2と、研磨対象物1を研磨する研磨体3と、空気流通手段4と、制御装置20と、を備えている。
保持体2は、研磨対象物1が挿通する挿通孔5と、挿通孔5とは独立に形成された通気孔6とを有する。
【0019】
挿通孔5は、保持体2の上面2a(一方の面)から下面2b(他方の面)にかけて、保持体2を貫通して形成されている。挿通孔5は、
図1において上下方向に沿って形成されている。上面2aにおける挿通孔5の開口を上面開口5aといい、下面2bにおける挿通孔5の開口を下面開口5bという。
【0020】
挿通孔5の形状は、挿通孔5に挿入された研磨対象物1の主部11の形状に即した形状であることが好ましい。挿通孔5の軸方向に垂直な断面は例えば円形とすることができる。
挿通孔5が断面円形である場合、挿通孔5の内径は、研磨対象物1の主部11の外径に即して定めることができる。具体的には、挿通孔5の内径は、主部11の外径よりわずかに大きい程度とすることが好ましい。これによって、研磨対象物1は傾動しにくくなるため、研磨工程において直立姿勢を保つことができる。挿通孔5は、全長にわたって一定の内径を有することが好ましい。
【0021】
通気孔6は、保持体2の上面2aから下方に向かって形成された主流路7と、主流路7の下端から側方に向かって形成された側方流路8とを有する。
上面2aにおける通気孔6(主流路7)の開口を上面開口6a(一方の開口)という。主流路7の断面形状および内径は、研磨対象物1のフランジ部12に十分な吸引力、および十分な吹出空気の圧力を作用させることができるように設計される。
【0022】
上面開口6aは、研磨対象物1の主部11を挿通孔5に挿通させたときに、少なくとも一部がフランジ部12の下面12aに対面するように形成されている(
図5(D)参照)。
【0023】
側方流路8は、保持体2の側面2cに達している。側面2cにおける通気孔6(側方流路8)の開口(他方の開口)を側面開口6bという。側面開口6bは、下面2bからの高さ方向の距離が十分に確保されていることが好ましい。
【0024】
図2および
図3は、通気孔6の構造の例を示す図である。
図2は、通気孔6の第1の例である通気孔6Aを有する保持体2(2A)を示す図である。一対の通気孔6A,6Aは、挿通孔5を挟んで対向する位置に形成されている。なお、通気孔6Aの数は2つに限らず、3以上の任意の数でもよい。
図3は、通気孔6の第2の例である通気孔6Bを有する保持体2(2B)を示す図である。通気孔6Bは、挿通孔5を囲む断面円環状に形成されている。
【0025】
通気孔6は、保持体2の下面2bには達していないため、後述する研磨工程において研磨屑が通気孔6に進入することはない。
【0026】
図1および
図4に示すように、空気流通手段4は、通気孔6内の空気を、空気経路9を通して吸入可能である。空気流通手段4は、空気経路9を通して空気を通気孔6に供給可能であることが好ましい。空気流通手段4としては、エアポンプ、エアコンプレッサなどが使用できる。
【0027】
図4に示すように、空気流通手段4は、例えば、エアポンプ4a(吸引装置)とエアコンプレッサ4b(供給装置)とを備えた構成とすることができる。
空気経路9は、エアポンプ4aに接続された空気経路9aと、エアコンプレッサ4bに接続された空気経路9bと、通気孔6の側面開口6bに接続された空気経路9cとを有する。空気経路9cの内部空間(空気の流路)は通気孔6の内部空間に連通している。
エアポンプ4aは、空気経路9c,9aを通して通気孔6内の空気を吸入できる。エアコンプレッサ4bは、空気経路9b,9cを通して空気を通気孔6に供給できる。
【0028】
制御装置20は、空気経路9内の空気の圧力を検出する圧力検出部15と、研磨対象物1の位置を検出する位置検出部16と、空気の流量を制御する制御部17と、を備えている。
【0029】
圧力検出部15としては、公知の圧力計が使用できる。圧力検出部15は、空気経路9に設けられている。通気孔6内の圧力と空気経路9内の圧力とは実質的に等しくなるため、圧力検出部15は通気孔6内の圧力(気圧)を検出できる。
【0030】
位置検出部16としては、例えばレーザ方式(光学式)の位置センサを使用できる。レーザ方式の位置センサは、例えば、光源(レーザ光源)から研磨対象物1に向けて照射された光を、前記光源と対向して設置された検知器で受光し、その光に基づいて研磨対象物1の高さ位置(上下方向の位置)を検出することができる。
【0031】
制御部17は、研磨対象物1の先端部11cが研磨体3に押し当てられて研磨される際に、圧力検出部15または位置検出部16の検出値に基づいて、空気の流量を制御することができる。
制御部17は、例えば、空気流通手段4に接続されたリーク経路19に設けられた開閉弁21の開度を制御することによって、エアポンプ4aによる吸引力を調整できるように構成することができる。
リーク経路19は、外部空気をエアポンプ4aに導入可能な経路であり、開閉弁21の開度の調整によってリーク経路19からの外部空気の導入量が増減すると、空気経路9からの空気の吸入量が変化する。
【0032】
空気経路9には、圧力検出部15とエアポンプ4aとの間に、空気中の異物を捕捉するフィルタ18が設けられている。
【0033】
研磨体3の上面(保持体2側の面)3aは、例えば研磨シートの研磨面である。研磨面の粗さは、例えば#8000〜#10000である。研磨体3は、駆動装置(例えばモータ。図示略)によって回転駆動することなどにより、研磨対象物1に研磨加工を施すことができる。
【0034】
[研磨方法]
次に、研磨装置10を用いた場合を例として、本発明の一実施形態の研磨方法を、
図5〜
図8を参照して説明する。
【0035】
(挿入工程)
図5(A)および
図5(B)に示すように、研磨対象物1の主部11を、保持体2の挿通孔5に上面開口5aから下方に向けて挿入する。主部11が挿通孔5に進入することにより、フランジ部12は保持体2の上面2aに接近する。
挿通孔5の内径と主部11の外径とに大きな差がない場合は、挿通孔5と主部11との隙間が狭くなるため、主部11の挿入に伴って挿通孔5の空気が外部に放出される際の抵抗が大きくなる。そのため、研磨対象物1は低速で下降する。
【0036】
図5(C)に示すように、主部11を挿通孔5に挿入する際には、空気流通手段4(例えば
図4に示すエアコンプレッサ4b)を用いて、空気経路9を通して、側面開口6bから通気孔6に空気を供給することが好ましい。
【0037】
通気孔6に空気を供給すると、この空気は上面開口6aから上方に向けて吹き出される。
上面開口6aの一部はフランジ部12の下面12aに対面する位置にあるため、上面開口6aから吹出された空気の一部は、フランジ部12の下面12aに当たり、フランジ部12に上方(研磨対象物1の引き抜き方向)への力を加える。この上方への力によって、研磨対象物1が自重によって下降する際の速度を小さくすることができる。
【0038】
通気孔6に供給する空気の量を徐々に減少させることによって、上面開口6aからの空気の吹出し流量を少なくすれば、フランジ部12に加えられる上方への力も小さくなる。よって、
図5(D)に示すように、主部11の先端部11cが研磨体3の研磨面3aに着地するまで研磨対象物1を下降させることができる。
このように、空気によって研磨対象物1に上方への力を加えつつ研磨対象物1を挿通孔5に挿入することによって、主部11の先端部11cが研磨体3に当たる際の衝撃を緩和できる。
【0039】
図4の空気経路9bに供給される空気は、エアコンプレッサ4bの後段(出口側)に配置した図示せぬ異物除去フィルタおよび防湿フィルタを通して供給されている。また、上面開口6aは保持体2の下面2bから離れた位置にあるため、空気の吹出しによって塵埃等が研磨対象物1に付着する事態は起こりにくい。
【0040】
(搬送・装着工程)
図6に示すように、研磨対象物1を挿通孔5に挿入した保持体2を、搬送したり、研磨装置の保持構造(図示略)などに装着する際には、挿入工程と同様に、空気流通手段4を用いて、空気経路9を通して通気孔6に空気を供給することができる。
これによって、上面開口6aから吹出された空気がフランジ部12に上方への力を加え、研磨対象物1を上昇させる。そのため、搬送などの際に、主部11の先端部11cに大きな力が加えられるのを回避し、先端部11cが破損するのを防ぐことができる。
【0041】
搬送(または装着)が終了したら、上面開口6aからの空気の吹出し流量を少なくすることにより研磨対象物1を下降させ、先端部11cを着地させる(
図5(D)参照)。このように、空気によって研磨対象物1に上方への力を加えつつ先端部11cを着地させることによって、着地の際の衝撃を緩和できる。
【0042】
(着座確認工程)
次工程(研磨工程)に先だって、次のようにして、研磨対象物1が所定の位置にあるか否かを確認することができる。所定の位置とは
図5(D)に示す位置、すなわち、主部11が挿通孔5に挿入され、フランジ部12が通気孔6の上面開口6aに対面した状態となる位置である。
【0043】
空気流通手段4を用いて、ごく短時間、空気経路9を通して通気孔6内の空気を吸入する。これによって、外部空気が上面開口6aから通気孔6に流入するとともに、フランジ部12は通気孔6に吸引される。
【0044】
研磨対象物1が、所定の位置にある場合(
図5(D)参照)には、フランジ部12が上面開口6aに対面する位置にあるため、通気孔6への外部空気の流れがフランジ部12によって阻害される。そのため、通気孔6および空気経路9における空気の圧力は低くなる。一方、研磨対象物1が所定の位置にない場合には、外部空気の流れが阻害されにくいため、通気孔6および空気経路9における空気の圧力は比較的高くなる。
よって、空気経路9内の空気の圧力を、圧力検出部15によって測定すれば、その測定値に基づいて、研磨対象物1が所定の位置にあるか否かを確認することができる。
研磨対象物1が所定の位置にあることを確認した後に、次工程(研磨工程)に移行する。
なお、他の手法により研磨対象物1が所定の位置にあるか否かを確認できる場合には、本工程はなくてもよい。
【0045】
(研磨工程)
図7に示すように、挿通孔5の下面開口5bにおいて、主部11の先端部11cを研磨体3の研磨面3aに接触させた状態で、駆動装置(例えばモータ。図示略)によって研磨体3を駆動することにより、主部11の先端部11cに研磨加工を施すことができる。
この際、空気流通手段4を用いて、空気経路9を通して通気孔6内の空気を吸入する。これによって、通気孔6内は陰圧となるため、外部空気が上面開口6aから通気孔6に流入する。
【0046】
上面開口6aを通して通気孔6に流入する空気によって、フランジ部12は通気孔6に吸引される。すなわち、フランジ部12には下方(挿通孔5への挿入方向と同じ方向)への吸引力が加えられる。この下方への力によって、主部11の先端部11cは研磨体3の研磨面3aに押し当てられ、その状態で研磨加工される。
【0047】
先端部11cは径変化部14の一部であるため、研磨が進行するに従い、研磨された先端面11dの面積は徐々に大きくなる。そのため、研磨の進行に従って、研磨対象物1が研磨体3に押し当てられる際の押圧力を、先端面11dの面積の増大に応じて増加させ、これによって先端面11dの単位面積あたりの押圧力をほぼ一定とするのが好ましい。
【0048】
研磨対象物1が研磨体3に押し当てられる際の押圧力を調整するには、例えば、次に示す第1の調整方法または第2の調整方法をとることができる。
【0049】
<第1の調整方法>
研磨が進行すると、研磨対象物1の高さ位置は低くなり、フランジ部12が上面開口6aに近づくため、外部空気が通気孔6に流入しにくくなり、通気孔6内の圧力は低下する。通気孔内6の圧力を圧力検出部15(
図4参照)によって検出する。
【0050】
制御部17は、圧力検出部15の検出値に基づいて、開閉弁21の開度を調節することによって、エアポンプ4aによる吸引力を調整し、空気経路9の空気の流量を調整することができる。通気孔6内の圧力は、この空気の流量に応じた圧力となる。
これによって、研磨体3に対する研磨対象物1の押し当て力を、先端面11dの面積の増大に応じて増加させ、先端面11dの単位面積あたりの押圧力をほぼ一定とすることができる。
【0051】
<第2の調整方法>
研磨が進行すると、研磨対象物1の高さ位置は低くなり、
図4に示すように、その位置は位置検出部16によって検出される。
制御部17は、位置検出部16の検出値に基づいて、開閉弁21の開度を調節することによって、エアポンプ4aによる吸引力を調整し、空気経路9の空気の流量を調整することができる。通気孔6内の圧力は、この流量に応じた圧力となる。
これによって、研磨体3に対する研磨対象物1の押し当て力を、先端面11dの面積の増大に応じて増加させ、先端面11dの単位面積あたりの押圧力をほぼ一定とすることができる。
【0052】
このように、先端面11dの単位面積あたりの押圧力を適正化することによって、研磨加工に要する時間を長くせずに、先端面11dに過大な力が加えられるのを回避することができる。したがって、研磨加工の効率を低下させず、かつ研磨対象物1の破損を防ぐことができる。
【0053】
(取り外し工程)
図8に示すように、研磨対象物1を保持体2から取り外すにあたっては、取り外し治具(図示略)を用いて、フランジ部12を支持した状態で研磨対象物1を挿通孔5から引き抜く。
取り外し治具(図示略)による研磨対象物1の引き抜きの際には、空気流通手段4から空気経路9を通して通気孔6に空気を供給し、上面開口6aから吹出された空気によりフランジ部12に上方への力を加え、研磨対象物1を上昇させるのが好ましい。
これによって、主部11の先端部11cが研磨体3から離れるため、取り外し治具を用いて研磨対象物1を挿通孔5から引き抜く際に、先端部11cが破損するのを防ぐことができる。また、フランジ部12が保持体2から大きく離れるため、取り外し治具によってフランジ部12を支持する操作が容易になる。
【0054】
上面開口6aから吹出された空気により研磨対象物1が上昇すると、先端部11cが研磨体3から離れるため、挿通孔5内の研磨屑が研磨対象物1に付着するのを回避できる。また、空気が導入されるのは通気孔6のみであり、挿通孔5には空気は導入されないため、挿通孔5内の研磨屑が吹き上がって研磨対象物1に付着することはない。
以上の工程を経て、先端部11c(先端面11d)が研磨加工された研磨対象物1を得る。
【0055】
研磨装置10によれば、研磨対象物1を空気の流通により通気孔6に吸引することによって、研磨対象物1に挿入方向の力を加え、この力により研磨対象物1を研磨体3に押し当てて研磨することができる。
空気による吸引力は、空気流通手段4の駆動力の設定などにより容易に調整できるため、吸引力を調整することにより、研磨体3に対する研磨対象物1の押し当て力を任意に設定できる。
よって、研磨の過程において、研磨対象物1の先端面11dの単位面積あたりの押圧力を適正化できる。したがって、研磨加工の効率を低下させず、かつ研磨対象物1の破損を防ぐことができる。
【0056】
研磨装置10では、空気が研磨対象物1に与える力を調整することにより、研磨対象物1の先端部11cが研磨体3に当たる際の衝撃を緩和できる。よって、衝撃緩和のための部材(例えばダミーチップ)を用いる必要がないため、装置構造の堅牢化が不要となることから、装置コストを抑制することができる。
また、衝撃緩和のための部材を用いないため、この部材の研磨屑が研磨対象物1に付着することがない。よって、研磨対象物1の品質確保の点で好ましい。
【0057】
研磨装置10では、一連の工程(挿入工程、搬送・装着工程、着座確認工程、研磨工程)を、保持体2から研磨対象物1を取り外すことなく行うことができる。よって、研磨対象物1の再位置決めなどが不要となるため、作業効率を高めることができる。
【0058】
以上、実施形態の研磨装置および研磨方法について説明したが、本発明は実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、実施形態では、制御部17による空気流量の調整によって、先端面11dの単位面積あたりの押圧力をほぼ一定とする例を挙げたが、これに限らず、他の指標を採用してもよい。例えば、研磨時間を一定とすることを指標として空気流量を調整してもよい。
【0059】
図2および
図3では、挿通孔5と通気孔6とからなる組の数は2つであるが、この組の数は1でもよいし、3以上の任意の数でもよい。
挿通孔5通気孔6とからなる組が複数ある場合、例えば、
図2に示すように、1つの挿通孔5と2つの通気孔6とからなる組が複数ある場合には、それぞれの組(挿通孔5A1と通気孔6A1とからなる第1の組と、挿通孔5A2と通気孔6A2とからなる第2の組)に、それぞれ空気流通手段4(4A1,4A2)が設けられるのが好ましい。
図2では、複数の通気孔6のうち一部である通気孔6A1は、複数の空気流通手段4のうち一部である空気流通手段4A1によって、複数の挿通孔5のうち一部である挿通孔5A1に挿入された研磨対象物1A1に挿入方向の力を加えることができる。
通気孔6A1以外の通気孔6のうち少なくとも一部である通気孔6A2は、空気流通手段4A1以外の空気流通手段4のうち少なくとも一部である空気流通手段4A2によって、挿通孔5A1以外の挿通孔5のうち少なくとも一部である挿通孔5A2に挿入された研磨対象物1A2に挿入方向の力を加えることができる。
空気流通手段4A1と空気流通手段4A2とは、独立に動作することができる。
【0060】
このように、挿通孔5と通気孔6とからなる組が複数ある場合に、それぞれの組に空気流通手段4が設けられる場合には、複数の研磨対象物1に対して、独立に押圧力を設定できるため、個々の研磨対象物1の条件に応じた研磨が可能となる。この構成によれば、複数の研磨対象物に対して一括して押圧力を加える研磨装置とは異なり、複数の研磨対象物1の条件が互いに同じでない場合でも、精度の高い研磨加工が可能である。
【0061】
なお、実施形態では、空気流通手段4によって通気孔6に供給されるガスは空気であるが、空気以外のガス、例えば窒素を用いても同様の効果は得られる。
【課題】研磨加工の効率を低下させず、かつ研磨対象物の破損を防ぐことができ、しかもコストに優れ、品質が良好な研磨加工が可能となる研磨装置および研磨方法を提供する。
【解決手段】研磨対象物1を保持する保持体2と、研磨対象物1を研磨する研磨体3と、空気流通手段4とを備えた研磨装置10を提供する。保持体2は、研磨対象物1が挿通する挿通孔5と、挿通孔5とは独立に形成された通気孔6とを有する。空気流通手段4は通気孔6に空気を流通させる。通気孔6は、挿通孔5に挿入された研磨対象物1を前記空気の流通により吸引することによって、研磨対象物1に挿入方向の力を加える。研磨体3は、挿入方向の力が加えられた研磨対象物1が押し当てられるように設置される。