【課題を解決するための手段】
【0016】
以下、本発明の説明をおこなうが、本明細書で用いる用語について簡単に説明する。なお
、定義されていない文言(専門用語又は学術用語などの科学技術文言を含む)は、通常の
当業者が理解する一般的な意味と同等の意味として用いることが可能である。辞書等によ
り定義されている文言は、関連技術の背景と矛盾がないような意味に解釈されることが好
ましい。また、発明の一態様は、専門用語によって、限定して解釈されるものではない。
【0017】
FETのソースとドレインについては、本明細書においては、Nチャネル型FETにおい
ては、高い電位を与えられる方をドレイン、他方をソースとし、Pチャネル型FETにお
いては、低い電位を与えられる方をドレイン、他方をソースとする。いずれの電位もおな
じであれば、いずれか一方をソース、他方をドレインとする。また、ソース電極、ドレイ
ン電極という用語のかわりに第1の電極、第2の電極とも表現することがある。その場合
は、電位の高低によって呼び名を変えない。
【0018】
また、本明細書で、主要成分とは、対象となる物体に含まれる元素のうち原子番号が11
以上の元素の比率を比較し、その比率が50原子%以上を占める元素をいう。例えば、見
かけの組成式が、Ga
3Al
2In
5O
12N
2で表示される化合物があるとすると、こ
の化合物でもっとも多い元素は酸素(O)であるが、酸素の原子番号は8なので主要成分
の対象とはならない。同様に窒素(N)も対象とはならない。主要成分の対象となるのは
ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)であり、その比率は、G
a:Al:In=3:2:5である。すなわち、主要成分の対象となる元素に対するガリ
ウムの比率は30原子%、アルミニウムの比率は20原子%、インジウムの比率は50原
子%である。したがって、上記の定義では、インジウムは主要成分であるが、ガリウムと
アルミニウムは主要成分ではない。
【0019】
また、見かけの組成比、見かけの組成を有する化合物、見かけの化学式(あるいは見かけ
の組成式)とは、ある領域に存在する元素の比率、そのような元素の比率を有する物体、
あるいは、そのような元素の比率に基づく化学式のことであり、その微視的なあるいは局
所的な比率や物体の化学的な意味や安定性等は考慮されない。上記の例では、それらの元
素が上記の比率を有する固溶体のこともあるし、1分子のGa
2O
3と2分子のAlNと
2分子のIn
2O
3と1分子のInGaO
3の混晶あるいは混合物の可能性もある。
【0020】
なお、本明細書等において、第1、第2、第3などの語句は、様々な要素、部材、領域、
層、区域を他のものと区別して記述するために用いられる。よって、第1、第2、第3な
どの語句は、要素、部材、領域、層、区域などの数を限定するものではなく、また、順序
を限定するものでもない。
【0021】
本発明の一態様は、インジウムを主要成分とする第1の酸化物半導体よりなる第1の半導
体層と、前記第1の半導体層の一方の面に接して設けられ、前記第1の酸化物半導体より
もバンドギャップが大きく、I型である第2の酸化物半導体よりなる第2の半導体層と、
前記第1の半導体層の他の面に設けられたゲート電極としても機能する導電層とを有し、
前記導電層と前記第1の半導体層の間には、ゲート絶縁膜としても機能する絶縁層を有し
、前記第2の酸化物半導体の真空準位とフェルミ準位とのエネルギー差が、前記第1の酸
化物半導体の真空準位とフェルミ準位とのエネルギー差よりも大きいことを特徴とするF
ETである。
【0022】
また、本発明の一態様は、インジウムを主要成分とする第1の酸化物半導体よりなる第1
の半導体層と、前記第1の半導体層の一方の面に接して設けられ、前記第1の酸化物半導
体よりもバンドギャップが大きく、ガリウムを主要成分とするI型の第2の酸化物半導体
よりなる第2の半導体層と、前記第1の半導体層の他の面に設けられたゲート電極として
も機能する導電層とを有し、前記導電層と前記第1の半導体層の間には、ゲート絶縁膜と
しても機能する絶縁層を有することを特徴とするFETである。
【0023】
また、本発明の一態様は、インジウムを主要成分とする第1の酸化物半導体よりなる第1
の半導体層と、前記第1の半導体層の一方の面に接して設けられ、酸素以外の元素におけ
るガリウムの比率が80%以上であるI型の第2の酸化物半導体よりなる第2の半導体層
と、前記第1の半導体層の他の面に設けられたゲート電極としても機能する導電層とを有
し、前記導電層と前記第1の半導体層の間には、ゲート絶縁膜としても機能する絶縁層を
有することを特徴とするFETである。
【0024】
上記の各態様において、第1の半導体層の厚さは、後で説明する理由から0.1nm以上
100nm以下であることが好ましい。また、第2の半導体層の厚さは、10nm以上1
00nm以下であることが好ましい。
【0025】
さらに、第2の半導体層は、第1の半導体層と接している面と反対の面に、アルミニウム
を主要成分とするバンドギャップが8電子ボルト以上の酸化物よりなる絶縁膜が接して設
けられていてもよい。
【0026】
また、第1の半導体層は、第2の半導体層と接している面と反対の面に、アルミニウムを
主要成分とするバンドギャップが8電子ボルト以上の酸化物よりなる絶縁膜が接して設け
られていてもよい。
【0027】
第1の酸化物半導体としては、インジウムを主要成分とする酸化物を適用できるが、例え
ば、構成する元素の90原子%以上、好ましくは95原子%以上が、インジウム、ガリウ
ム、アルミニウム、亜鉛、酸素のいずれかであり、それらの見かけの組成式がIn
aGa
bAl
cZn
dO
eと表現できる材料を用いればよい。ここで、a+b+c+d=2、a
≧1、2.5<e<3.5、である。なお、移動度を高める目的では、インジウムの濃度
が高い方が好ましく、a>1.6とするとよい。同じ目的で、ガリウムの濃度はアルミニ
ウムよりも高いことが好ましく、b>c、より好ましくは、b>10cとするとよい。
【0028】
また、第1の酸化物半導体としては、インジウムを主要成分とし、酸素欠損が1×10
1
8/cm
3以上である酸化物半導体を用いることもできる。
【0029】
第2の酸化物半導体としては、各種の酸化物を適用できるが、例えば、構成する元素の9
0原子%以上、好ましくは95原子%以上が、インジウム、ガリウム、アルミニウム、亜
鉛、酸素のいずれかであり、それらの見かけの組成式がIn
aGa
bAl
cZn
dO
eと
表現できる材料を用いればよい。ここで、a+b+c+d=2、b≧1、2.5<e<3
.5、である。なお、第2の酸化物半導体をI型とする目的では、インジウムや亜鉛の濃
度がアルミニウムよりも低いことが好ましく、a<c、d<c、より好ましくは、10a
<c、10d<cとするとよい。また、第2の酸化物半導体のバンドギャップは6電子ボ
ルト以下であることが好ましい。
【0030】
第1の酸化物半導体および第2の酸化物半導体を上記のような組成の材料とすると、第2
の酸化物半導体のバンドギャップは、第1の酸化物半導体のバンドギャップよりも大きく
なる。
【0031】
また、第1の酸化物半導体は、上記の組成においてはN型となり、フェルミ準位は伝導帯
の下端とほとんど同じであるので、真空準位とフェルミ準位とのエネルギー差は、第1の
酸化物半導体の電子親和力とほとんど同じである。
【0032】
一方、第2の酸化物半導体はI型であるので、フェルミ準位は伝導帯と価電子帯のほぼ中
央に位置する。そして、第1の酸化物半導体および第2の酸化物半導体を上記のような組
成の材料とすると第2の酸化物半導体の仕事関数は第1の酸化物半導体の電子親和力より
大きいという関係を満足する。
【0033】
本発明の一態様は、
図1(A)に示されるように、第1の酸化物半導体よりなる第1の半
導体層1が、第2の酸化物半導体よりなる第2の半導体層2とゲート絶縁膜としても機能
する絶縁膜4に挟まれた構造を有する。ここで、第1の半導体層1は第2の半導体層2に
接していることが求められる。一方、第1の半導体層1と絶縁膜4とは、必ずしも接して
いる必要はないが、接することによって後述するような効果が得られることがある。
【0034】
また、絶縁膜4は、ゲートとして機能する導電層5と第1の半導体層1に挟まれており、
ゲート絶縁膜としても機能する。さらに、第1の半導体層1に接して、ソース電極やドレ
イン電極として機能する第1の電極3aと第2の電極3bが設けられる。
【0035】
第1の酸化物半導体および第2の酸化物半導体としては、上記に示した材料を用いればよ
い。また、第1の半導体層1の厚さは0.1nm以上100nm以下、第2の半導体層2
の厚さは10nm以上100nm以下とすればよい。また、絶縁膜4としては、酸化珪素
、酸化窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、窒化アルミニウム等を用い
ればよいが、構成する元素の90原子%以上、好ましくは98原子%以上が珪素、アルミ
ニウム、硼素、窒素、酸素のいずれかであり、それらの見かけの組成式が、Si
aAl
b
B
cN
dO
eと表現できる材料を用いればよい。ここで、0.9<(4a+3b+3c)
/(3d+2e)<1.1であることが好ましく、b>aであることが好ましい。特に、
第1の半導体層1と絶縁膜4が接している場合には、b>5aであることが好ましい。
【0036】
なお、
図1(B)に示されるように、第2の半導体層2が、第1の半導体層1と絶縁膜6
で挟まれる構造としてもよい。ここで、絶縁膜6と第2の半導体層2は接していることが
好ましい。絶縁膜6としては、酸化珪素、酸化窒化珪素、酸化アルミニウム、酸化窒化ア
ルミニウム、窒化アルミニウム等を用いればよいが、構成する元素の90原子%以上、好
ましくは98原子%以上が珪素、アルミニウム、硼素、窒素、酸素のいずれかであり、そ
れらの見かけの組成式が、Si
aAl
bB
cN
dO
eと表現できる材料を用いればよい。
ここで、0.9<(4a+3b+3c)/(3d+2e)<1.1であることが好ましく
、b>10a、d<5eであることが好ましい。このような条件の材料では、バンドギャ
ップを8電子ボルト以上とできる。
【0037】
また、
図1(C)に示されるように、第1の半導体層1を第2の半導体層2aと、第3の
酸化物半導体よりなる第3の半導体層2bで挟まれる構成としてもよい。
図1(C)が図
1(A)と異なる点は、第3の半導体層2bが第1の半導体層1と絶縁膜4の間に挿入さ
れている点である。ここで、第3の半導体層2bと絶縁膜4が接している必要はないが、
第3の半導体層2bは第1の半導体層1と接していることが求められる。第3の酸化物半
導体は、第2の酸化物半導体に適している材料を用いればよいし、第2の酸化物半導体と
同じ材料を用いてもよい。また、第3の半導体層2bの厚さは0.1nm以上100nm
以下、好ましくは、0.1nm以上20nm以下とするとよい。
【0038】
また、本発明の一態様は、
図2(A)に示されるように、第1の酸化物半導体よりなる第
1の半導体層1が、第2の酸化物半導体よりなる第2の半導体層2とゲート絶縁膜として
も機能する絶縁膜4に挟まれた構造を有する。ここで、第1の半導体層1と絶縁膜4とは
、必ずしも接している必要はないが、第1の半導体層1は第2の半導体層2に接している
ことが求められる。
【0039】
また、絶縁膜4は、ゲートとして機能する導電層5と第1の半導体層1に挟まれており、
ゲート絶縁膜としても機能する。さらに、第1の半導体層1は、第1の酸化物半導体にド
ーピング処理を施すことにより導電性の高められた領域(ドーピングされた領域8a、8
b)に接しており、また、ソース電極やドレイン電極として機能する第1の電極3aと第
2の電極3bがドーピングされた領域8a、8bに設けられる。
【0040】
なお、第2の半導体層2に接して、第2の酸化物半導体にドーピングされた領域7a、7
bが設けられる。第1の酸化物半導体および第2の酸化物半導体、絶縁膜4の材料として
は、上記に示した材料を用いればよい。また、第1の半導体層1の厚さ、第2の半導体層
2の厚さも上記に示したものを用いればよい。
【0041】
また、第1の電極3aと第2の電極3bは、
図2(B)に示されるように、ドーピングさ
れた領域8a、8bの、絶縁膜4が設けられる面と逆の面に設けられてもよい。また、ド
ーピングされた領域7a、7bの導電性が十分であれば、第1の電極3aと第2の電極3
bはドーピングされた領域7a、7bに接するように設けられてもよい。また、第1の半
導体層1を第2の半導体層2と第3の酸化物半導体よりなる第3の半導体層(図示せず)
で挟まれる構成としてもよい。
【0042】
さらに、
図2(C)に示されるように、第2の半導体層2が、第1の半導体層1と絶縁膜
6で挟まれる構造としてもよい。ここで、絶縁膜6と第2の半導体層2は接していること
が好ましい。絶縁膜6としては上記に示した材料を用いればよい。
【0043】
なお、
図2(A)乃至
図2(C)において、ドーピングされた領域7a、7b、8a、8
bは特定の条件が満たされる場合には設けなくてもよい。例えば、
図2(D)に示すよう
に、第1の電極3aと導電層5との間の間隔x(あるいは第2の電極3bと導電層5との
間の間隔)が50nm以下であれば、ドーピングされた領域7a、7b、8a、8b等を
設けなくてもよい。
【発明の効果】
【0044】
上記の構成により、ノーマリーオフ特性あるいはそれに近い特性を示すFETが得られる
理由について、
図3を用いて説明する。最初に、上記のような条件を満たす第1の酸化物
半導体と第2の酸化物半導体の接合を考える。
図3(A)には接合する前の第1の酸化物
半導体と第2の酸化物半導体の状態(バンド図)を示す。
【0045】
図3(A)の左側は、第1の酸化物半導体の、右側は第2の酸化物半導体の、それぞれバ
ンド図を示す。第1の酸化物半導体は、典型的には、酸化インジウムのようなN型半導体
であり、キャリアである電子が伝導帯に供給されるため、フェルミ準位は、伝導帯の直下
に存在する。図では、伝導帯とフェルミ準位とのエネルギー差を誇張して書いてあるが、
実際には数mVほどしか変わらない。場合によっては、フェルミ準位の方が伝導帯の下端
よりも上にあると分析されている。酸化インジウムのバンドギャップは3.7電子ボルト
程度である。
【0046】
第2の酸化物半導体は、典型的には、酸化ガリウムのようなバンドギャップの広いI型半
導体であり、キャリアはほとんど存在せず、フェルミ準位は、価電子帯と伝導帯のほぼ中
央に存在する。単結晶の酸化ガリウムはバンドギャップが4.8電子ボルトであるが、非
晶質の薄膜では4.2電子ボルトという数値が観測される。
【0047】
ここで、第1の酸化物半導体の電子親和力(真空準位と伝導帯の下端のエネルギー差)が
第2の酸化物半導体の電子親和力より大きいことが求められる。好ましくは、前者と後者
の差は0.3電子ボルト以上であるとよい。例えば、酸化インジウムの電子親和力4.8
電子ボルトに対して、単結晶酸化ガリウムでは、電子親和力は3.5電子ボルト、非晶質
酸化ガリウムでは4.3〜4.5電子ボルトである。よって、酸化インジウムの電子親和
力は酸化ガリウムよりも大きく、その差は0.3電子ボルト以上である。
【0048】
また、第2の酸化物半導体の仕事関数は第1の酸化物半導体の電子親和力よりも大きいこ
とが好ましい。好ましくは、前者と後者の差は0.5電子ボルト以上であるとよい。例え
ば、仕事関数は、単結晶酸化ガリウムでは、5.5電子ボルト、非晶質酸化ガリウムでは
6.4〜6.6電子ボルトであり、いずれも酸化インジウムの電子親和力よりも大きく、
その差は0.7電子ボルト以上である。
【0049】
このような物性の異なる第1の酸化物半導体と第2の酸化物半導体を接合すると、フェル
ミ準位を同じレベルに揃えようとキャリアの移動が起こり、
図3(B)に示すように、接
合部近傍のバンドがゆがめられる。すなわち、接合部近傍では、第1の酸化物半導体の伝
導帯はフェルミ準位より離れ、価電子帯はフェルミ準位に近づく。このように、本来の状
態とは異なる状態を呈する部分を遷移領域と呼ぶ。接合面から離れれば、離れるほど、バ
ンドの状態は、本来の第1の酸化物半導体および第2の酸化物半導体の特性に近づく。
【0050】
図3(B)では遷移領域でのみバンドのゆがみが直線的に生じているように描かれている
が、実際には、かなりの距離にまでその影響が及び、バンドのゆがみも直線的なものでは
ない。しかし、顕著に物性面で影響が現れるのは、接合面近傍の領域であるので、
図3(
B)で遷移領域以外の部分の半導体の物性は、それぞれの本来のものとみなして差し支え
ない。
【0051】
遷移領域の幅は、第1の酸化物半導体と第2の酸化物半導体の電子親和力、バンドギャッ
プおよび誘電率、第1の酸化物半導体の電子濃度等に依存するが、例えば、第1の酸化物
半導体として、電子濃度1×10
18/cm
3の酸化インジウム、第2の酸化物半導体と
してI型の酸化ガリウムを考えると、遷移領域として考えられる部分は、接合面から第1
の酸化物半導体側に50nm程度の部分である。
【0052】
このような遷移領域は、第1の酸化物半導体の接合面近傍の電子が移動して、電子濃度が
低下し、空乏化することによって形成される。したがって、特に遷移領域のうち、接合面
に近い部分は電子濃度が低く、準I型という状態である。また、第2の酸化物半導体は、
キャリア(電子)がほとんど存在しないため、その部分での電子の移動は無視でき、主と
して第1の酸化物半導体でバンドのゆがみが生じる。
【0053】
例えば、
図3(B)の例では、接合面における第1の酸化物半導体の伝導帯下端とフェル
ミ準位の間のエネルギー差は1.3電子ボルト程度である。これだけのエネルギー差があ
れば室温で熱励起する電子は無視できる。すなわち、接合面近傍では極めて電子濃度が低
い状態となる。
【0054】
このようなバンドのゆがみは第2の半導体層2の仕事関数と第1の半導体層1の電子親和
力の差に依存し、前者から後者を差し引いた差が0.5電子ボルト以上であることが好ま
しく、前者と後者の差が1電子ボルト以上であるとさらに好ましい。
【0055】
また、第1の酸化物半導体の電子親和力が第2の酸化物半導体の電子親和力より大きいと
、
図3(B)に示すように、第1の酸化物半導体と第2の酸化物半導体との接合面におい
て、伝導帯に不連続点(ギャップ、ステップ)が発生する。このような不連続点があると
、第1の酸化物半導体がFETのチャネルとして使用されている際に、第1の酸化物半導
体にある電子が第2の酸化物半導体に移ることが困難となる。すなわち、遷移領域の特に
接合面近傍をチャネルとして用いる場合には、第2の酸化物半導体に電子が流れることを
考慮する必要がない。
【0056】
ところで、このような遷移領域は、接合面における化学反応が無いと仮定すると、電子濃
度が低いということ以外は、電界効果移動度を含む第1の酸化物半導体の物性のほとんど
を維持していると考えられる。したがって、第1の酸化物半導体として、電界効果移動度
の高い材料を用いれば、遷移領域では電子濃度が低く電界効果移動度が高いという特性が
得られる。
【0057】
図3(B)では、第1の酸化物半導体の厚さが十分にある例を示したが、第1の酸化物半
導体を薄膜化して、その厚さを遷移領域と同じあるいはそれ以下としても事情は変わらず
、接合面近傍では、準I型領域が形成される。
【0058】
すなわち、第1の酸化物半導体の厚さを遷移領域と同じあるいはそれ以下とすることによ
り、第1の酸化物半導体の電子濃度を低減できる。かつ、電界効果移動度は、第1の酸化
物半導体本来のものである。そのため、このような構造を用いてFETを作製すると、ノ
ーマリーオフあるいはそれに近い特性の高電界効果移動度を達成できる。
【0059】
図3(C)は、
図1(B)に示すFETの点Aから点Bに到る断面でのバンド図を模式的
に描いたものである。ここで、第1の半導体層1を構成する第1の酸化物半導体として酸
化インジウムを、第2の半導体層2を構成する第2の酸化物半導体としては酸化ガリウム
を、絶縁膜4および絶縁膜6としては酸化アルミニウムを、導電層5としてタングステン
を用いた場合を示す。
【0060】
図3(C)に示されるように、第1の半導体層1は、N型の酸化インジウム等の酸化物半
導体を用いても、そのほとんどの部分を準I型領域とすることができる。準I型領域にお
ける電子濃度を直接、観察することは困難であるが、1×10
15/cm
3以下とするこ
とが可能と算出される。したがって、このような構造のFETのしきい値を十分に大きな
値とすることができる。すなわち、ノーマリーオフあるいはそれに近い特性を呈するFE
Tが得られる。
【0061】
また、
図3(C)を注意深く観察すると、第1の半導体層1は、絶縁膜4との界面近傍で
もバンドがゆがんでいる。これは、上記に示した酸化ガリウムと酸化インジウムの接合面
で遷移領域が生じるのと同じ理由により生じている。このようなバンドのゆがみを有する
FETでは、キャリアは伝導帯の下端近傍を流れるので、キャリアは第1の半導体層1と
絶縁膜4の界面からやや離れた(典型的には1nm以上10nm以下)部分を流れること
となる。
【0062】
通常のMISFETでも、ゲート絶縁膜と半導体との界面にはトラップ準位等が発生し、
FETの特性を劣化させるが、キャリアがゲート絶縁膜から離れた部分を流れる構造(埋
め込みチャネル)とすることにより、上記界面による影響を低減できる。同じ理由で、図
3(C)にバンド図が示される構造のFETでは、絶縁膜4と第1の半導体層1との界面
の影響を低減できる。
【0063】
なお、このようなバンドのゆがみは絶縁膜4の仕事関数(絶縁膜4は通常、I型と見なせ
るので、仕事関数とは、真空準位とフェルミ準位の差に相当する)と第1の半導体層1の
電子親和力の差に依存し、
図3(C)のようなゆがみとするには、前者が後者より大きい
ことが好ましく、前者と後者の差が1電子ボルト以上であることがさらに好ましい。
【0064】
N型の酸化インジウムの電子親和力は4.8電子ボルト程度であるのに対し、酸化アルミ
ニウムの仕事関数は、5.7電子ボルトであり、酸化珪素の仕事関数は5.1電子ボルト
である。したがって、酸化アルミニウムの方が上記の目的に適している。さらに、非晶質
酸化ガリウムの仕事関数は、6.4〜6.6電子ボルトであるので、酸化インジウムの電
子親和力より1.6〜1.8電子ボルト大きく、より好ましい。そのため、
図1(C)に
示すように、酸化インジウム等の第1の半導体層1を酸化ガリウム等の第2の半導体層2
aおよび第3の半導体層2bで挟んでもよい。