(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6043860
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】冷凍ナマコの加工方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20161206BHJP
A23B 4/06 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
A23L17/00 H
A23B4/06 501A
A23B4/06 501B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-248021(P2015-248021)
(22)【出願日】2015年12月18日
【審査請求日】2016年1月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315019089
【氏名又は名称】株式会社雅善商事
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅章
【審査官】
高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−203840(JP,A)
【文献】
特開昭56−088745(JP,A)
【文献】
特開2011−205956(JP,A)
【文献】
International Journal of Food Science and Technology,2010年,Vol. 45,pp.2538-2545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FROSTI/FSTA/WPIDS(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次加工工程及び二次加工工程からなり、
該一次加工工程は、
1.ナマコ(Stichopus japonicus)の腹部を切り開き、切り開いた腹部から内臓を取除き水で洗う下処理工程と、
2.下処理工程後ナマコをゆでる第一の熱処理工程と、
3.第一の熱処理工程後ナマコを冷ます第一の冷却工程と、
4.第一の冷却工程後ナマコから前端部、後端部及び縦走筋を取り除く除去工程からなり、
該二次加工工程は、
5.一次加工工程後、水及び炭酸塩または炭酸水素塩と共に、ナマコを加圧、加熱処理する第二の熱処理工程と、
6.第二の熱処理工程後ナマコを冷ます第二の冷却工程と、
7.第二の冷却工程後ナマコの表面水を除去し、冷凍する冷凍工程からなる二次加工工程、
からなる冷凍ナマコの加工方法。
【請求項2】
前記第二の熱処理工程で加える炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである請求項1に記載の冷凍ナマコの加工方法。
【請求項3】
一次加工工程と二次加工工程の間に第二の冷凍工程を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の冷凍ナマコの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥ナマコに代わる、加工工程が少なく加工に要する時間が短いため手間がかからない保存に適した冷凍ナマコの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナマコは生ものであるため、長期保存をするためには加工をする必要があった。
そこで従来はナマコを乾燥させた乾燥ナマコで保存をしていた。
しかし乾燥ナマコは、ナマコ(Stichopus japonicus)の両端を切り落とし内臓を取り除いた後に海水で炊き、水分を取り除いたあと天日に干す。
そして干した後真水で再度煮込み、さらに干すことで完成されるため手間と時間がかかっていた。
また乾燥ナマコを戻す場合も熱水に漬けて、腹部を切り開き水で洗った後更に熱水に漬けていたためすぐに調理に用いることができなかった。
そこで他の保存方法技術が創作されてきた。
【0003】
特許文献1には、ナマコを濃度0.5乃至10%のカルシウム塩水溶液に浸漬したあと、内臓を取り出し、煮沸、冷却を行った後、酢酸及びナトリウム塩からなる水溶液に浸漬する加工方法が記載されている。
特許文献1に記載の方法はナトリウムイオンで軟化したナマコ体壁を硬化させるために酢酸に浸漬する工程を含み、最終的なナマコの調理方法はナマコ酢に限られていた。
【0004】
特許文献2には、ナマコを熱水中で撹拌し体内の不純物を除いたあと50℃の温水に浸漬し脱色し、その後加圧下で熱水により煮熟して柔らかくした後凍結させる方法が記載されている。
しかし特許文献2にかかる方法だと50℃以上の温度で加熱するため、ナマコが柔らかくなり煮崩れや、ナマコの溶解がおこるため独特の歯ごたえを失うという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3177314号公報
【特許文献2】特公告昭57−17500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、炭酸塩又は炭酸水素ナトリウムと共に加圧加熱処理することで、短時間で火を通すことができ、高温で加熱しても体壁が柔らかくなり過ぎることがないためナマコの形状が崩れず、また柔らかくなった体壁を酢酸に付けて再硬化させる必要が無くなる。
また長期間保存ができさまざまな調理に用いることができる冷凍ナマコの加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、一次加工工程及び二次加工工程からなり、
該一次加工工程は、
1.ナマコ(Stichopus japonicus)の腹部を切り開き、切り開いた腹部から内臓を取除き水で洗う下処理工程と、
2.下処理工程後ナマコをゆでる第一の熱処理工程と、
3.第一の熱処理工程後ナマコを冷ます第一の冷却工程と、
4.第一の冷却工程後ナマコから前端部、後端部及び縦走筋を取り除く除去工程からなり、
該二次加工工程は、
5.一次加工工程後、水及び炭酸塩または炭酸水素塩と共に、ナマコを加圧、加熱処理する第二の熱処理工程と、
6.第二の熱処理工程後ナマコを冷ます第二の冷却工程と、
7.第二の冷却工程後ナマコの表面水を除去し、冷凍する冷凍工程からなる二次加工工程、からなる冷凍ナマコの加工方法に関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記第二の熱処理工程で加える炭酸水素塩が炭酸水素ナトリウムである請求項1に記載の冷凍ナマコの加工方法に関する。
【0009】
請求項3に係る発明は、一次加工工程と二次加工工程の間に第二の冷凍工程を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の冷凍ナマコの加工方法に関する。
【0010】
請求項4に係る発明は、含水量が10―20%であり、解凍し使用できる冷凍ナマコに関する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、加工方法は加圧加熱処理することで、短時間でナマコに火を通すことができる。
請求項2に記載の発明によれば、炭酸塩あるいは炭酸水素塩を用いることでナマコに含まれる水分を効率良く抜くことができる。
請求項3に記載の発明によれば、一次加工工程のあと冷凍することで、大量にナマコをゆでておき必要に応じて二次加工工程に用いることができる。
請求項4に記載の発明によれば、冷凍ナマコは含水量が10―20%であり、解凍してすぐに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1はこの出願に係るナマコの加工方法の工程を示した図である。
【
図2】
図2はこの出願に係るナマコの加工方法を詳しく説明した図であり、番号は
図1の同じ番号の工程を指し、工程1は1−1から1−3、工程2は2、工程3は3、工程4は4、工程5は5、工程6は6、工程7は7−1および7−2から構成される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この出願にかかる好適な実施例を説明するが、本件発明は明細書及び図面の内容に限定されない。
【0014】
ナマコ(Stichopus japonicus)は棘皮動物門ナマコ綱に属する海洋生物である。
棒状形状で突起を有し体表は比較的やわらかい生物である。
独特の食感を有しているため食用に供されることがある。
食用に供されるナマコは、体色からアカナマコ、アオナマコ、クロナマコと呼ばれ、アカナマコとアオナマコはナマコ酢のように生食に用いられる。
一方クロナマコは乾燥され乾燥ナマコとして中華料理などにおいて、高級食材として重宝される。
またナマコの腸は塩漬けされ「このわた」と、卵巣は乾燥され「このこ」と呼ばれる食材となる。
【0015】
従来の乾燥ナマコは、ナマコの両端を切り落とし内臓を取り除いた後に海水で炊き、水分を取り除いたあと天日に干す。
そして干した後真水で再度煮込み、さらに干すことで完成されるため手間と時間がかかっていた。
また乾燥ナマコを戻す場合も熱水に漬けて、腹部を切り開き水で洗った後更に熱水に漬けていたためすぐに調理に用いることができなかった。
しかしこれらは手間と時間が掛かるため乾燥ナマコは高級食材として重宝されてきた。
【0016】
本発明の乾燥ナマコの加工方法は、
図1に示すように全部で7つの工程から構成され、工程1から4は一次加工工程、工程5から7は二次加工工程である。
以下
図1をもとに説明するがこの内容に限定されない。
【0017】
工程1はまずナマコの腹部を切り開き、切り開いた腹部から内臓を取り除く。
ナマコの内臓を塩漬けしたものは「このわた」と呼ばれるため別途調理してもよい。
内臓を取り除いた後水洗いすることで、砂や汚れを取り除くことができる。
【0018】
工程2での、熱水の温度は100℃未満、好ましくは90乃至100℃が良く、より望ましい温度は沸騰しない温度が望ましい。
加熱時間は例えば10分程度でも良く、ナマコの大きさによって適宜調節してもよい。
【0019】
工程3は、ナマコは常温中において冷ましてもよく、ナマコを水につけることで行ってもよい。水につける場合の水温は5―15℃が好ましい。
【0020】
工程4は、硬いため食用に向かないナマコの前端部、後端部及び縦走筋を取り除く除去工程であり、前端部を取りのぞくことで触手や石灰管を、後端部を取り除くことで排泄膣を取り除くことができる。
さらに切り開いた腹部から白い筋状の縦走筋を取り除く。
取り除き方は手でも良いが、ピンセットでつまんで除去してもよい。
以上が一次加工工程であり、この後二次加工工程に移ってもよいが、一次加工工程後に一旦冷凍保存し、必要に応じ解凍し二次加工工程に移ってもよい。
【0021】
工程5は、水と炭酸塩あるいは炭酸水素塩とともにナマコを加熱加圧処理する第二の熱処理工程を行う。
この工程では、加圧加熱処理をすることにより短時間でナマコ全体を加熱処理することが可能となる。
水と炭酸塩あるいは炭酸水素塩の割合は、炭酸塩あるいは炭酸水素塩の重量を1とすると水は6乃至8ぐらいの割合で混ぜる。
炭酸塩あるいは炭酸水素塩を用いることで、炭酸の効果でナマコのもつ水分が取り除かれ、突起を有する形状が残ったまま乾燥ナマコより柔らかく仕上がる。
加熱温度及び時間は例えば100℃で2時間ゆでてもよく、大きさに合わせ適宜変更する。
【0022】
工程6は、ナマコは常温において冷ましてもよいが、ナマコを水につけることで行ってもよい。
水につける場合の水温は5〜15℃が好ましい。
【0023】
工程7は、まずナマコの表面の余分な水分を取り除き、その後冷凍する。
冷凍したナマコは解凍するだけですぐに調理することができ、また解凍方法は常法であればよく時間は手段に応じて変更する。
また乾燥ナマコと違い柔らかくもどす必要が無く様々な調理方法に用いることができる。
【0024】
この発明にかかる冷凍ナマコは含水率が10―20%であるため柔らかく解凍後すぐに用いることができる。
【0025】
この発明にかかる方法で加工された冷凍ナマコは炒め物の他、揚げ物や酢の物など様々な調理に用いることができ、ナマコの食感を楽しむことができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明にかかる方法を用いることで、容易に保存用ナマコを製造できるため加工の手間及びコストが軽減され、また解凍することですぐに用いることができ、ナマコ料理を作るのに7、8日かかっていたものが1日で済むため、容易にナマコ料理を作ることができる。
【0027】
ナマコを漁獲する漁師にとって、漁獲量が少なく輸送するナマコの量が少ないとナマコの売値と比べて輸送する費用のほうが高くなるという問題があったが、加工していないナマコは置いておくと鮮度が落ちるため、少量でも輸送しなければならなかった。
そこでこの発明の加工方法を用いて加工することで冷凍保存ができ、ある程度蓄えておき大量になったときにまとめて輸送することができる。
またこの発明の加工方法で加工することでナマコの目方が3分の1になるため、生のナマコと比べてより多くの量のナマコを輸送できるというメリットがある。
【要約】
【課題】本発明は、乾燥なまこに代わる、加工工程が少なく加工に要する時間が短いため手間がかからない保存に適したなまこの加工方法を提供すること。
【解決手段】一次加工工程及び二次加工工程からなり、該一次加工工程は、1.ナマコ(Stichopus japonicus)の腹部を切り開き、切り開いた腹部から内臓を取除き水で洗う下処理工程と、2.下処理工程後ナマコをゆでる第一の熱処理工程と、3.第一の熱処理工程後ナマコを冷ます第一の冷却工程と、4.第一の冷却工程後ナマコから前端部、後端部及び縦走筋を取り除く除去工程からなり、該二次加工工程は、
5.一次加工工程後、水及び炭酸塩または炭酸水素塩と共に、ナマコを加圧、加熱処理する第二の熱処理工程と、6.第二の熱処理工程後ナマコを冷ます第二の冷却工程と、7.第二の冷却工程後ナマコの表面水を除去し、冷凍する冷凍工程からなる二次加工工程、
からなる冷凍ナマコの加工方法。
【選択図】
図1