(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
各実施の形態において、同一の参照符号が付されている部位は、同一の機能を有するものとする。したがって、特に必要がなければ、同一参照符号が付された部位の機能の説明は繰り返さない。
【0013】
なお、本明細書においては、熱加工は、型面から原材料へ熱を加えることにより原材料を変形、変質、または変化させる加熱加工、および、原材料から型面が熱を受け取ることにより原材料を変形、変質、または変化させる吸熱加工(冷却加工)の双方を含む。また、本明細書においては、熱加工は、原材料の溶着、硬化、熱可塑化、または転写等を含む。
【0014】
(実施の形態1)
まず、
図1を用いて、実施の形態の熱加工装置APを説明する。
【0015】
図1に示されるように、熱加工装置APは、上下方向に延びるタイバーTBを備えている。タイバーTBの上端には、固定プラテンFPLが固定されている。タイバーTBには、タイバーTBに沿って移動する可動プラテンMPLが取り付けられている。固定プラテンFPLおよび可動プラテンMPLには、それぞれ、一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nが取り付けられている。
【0016】
一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nは、それぞれ、熱を利用して原材料RMを加工するためのものである。本実施の形態において、燃料電池セルの電解質膜345(
図6参照)の熱加工前の3層構造が原材料RMであるものとする。一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとは、原材料RMに接する型面DS同士が互いに対向するように配置されている。一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nは、いずれも、断熱容器VEの凹部に嵌め込まれている。ただし、断熱の必要性がない場合には、熱加工装置APが断熱容器VEを有していなくてもよい。
【0017】
タイバーTBの下端には、型駆動部DDを内蔵した筐体HOが設けられている。筐体HO内には、型駆動部DDを制御する制御部CNが設けられている。型駆動部DDの一例としては、熱加工型Nに直線往復運動をさせるトグル機構またはボールネジが挙げられる。本実施の形態においては、下側の熱加工型Nが上方に押し上げるトグル機構が型駆動部DDとして用いられているものとする。ただし、型駆動部DDは、一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nのうちの少なくともいずれか一方を移動させることにより、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとを閉じたり開いたりすることができるものであれば、いかなるものであってもよい。
【0018】
制御部CNは、型駆動部DDを制御することにより、可動プラテンMPLを固定プラテンFPLに近づく方向に移動させる。それにより、可動プラテンMPLが固定プラテンFPLに押し付けられる。その結果、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとが閉じられる。また、制御部CNは、型駆動部DDを制御することにより、可動プラテンMPLを固定プラテンFPLから遠ざかる方向に移動させる。それにより、可動プラテンFPLが固定プラテンFPLから離れる。その結果、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとが開かれる。
【0019】
本実施の形態においては、型駆動部DDは、一方の熱加工型Nの型面DSと他方の熱加工型Nの型面DSとは、互いに平行な状態を維持しながら、一方の熱加工型Nを移動させる。しかしながら、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとがヒンジ機構によって連結されていてもよい。この場合、ヒンジ機構は、一方の熱加工型Nの型面DSと他方の熱加工型Nの型面DSとがなす角度が0度から所定の角度まで変化させることができるように、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとを連結している。型駆動部DDは、一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nのうち少なくともいずれか一方を回転移動させることにより、一方の熱加工型Nの型面DSと他方の熱加工型Nの型面DSとが開閉する。
【0020】
筐体HO内には、電力供給部Bおよび制御部CNが内蔵されている。これらについては、以下で詳細に説明する。
【0021】
図2〜
図4を用いて、本実施の形態の熱加工型Nを説明する。
【0022】
図2に示されるように、熱加工型Nは、平板形状を有する本体部Mと、本体部Mに対向するように設けられた平板状態の型部Dと、本体部Mと型部Dとに挟まれた熱伝導シートSとを備えている。熱加工型Nにおいては、本体部Mは、型部Dと協働して熱伝導シートSを挟むことにより、熱伝導シートSを型部Dに密着させている。型部Dは、熱加工前の原材料RMに接触する型面DSを有している。型面DSは、本実施の形態においては、何ら凹凸を有しない平面である。ただし、型面DSは、目的に応じた型面DSの温度分布の均一性を確保できるのであれば、多少の凹凸を有していてもよい。したがって、本実施の形態の熱加工型Nは、原材料RMに凹凸を転写する転写型としても用いることができる。
【0023】
型部Dを用いるときには、型面DSから原材料RMへ熱を伝達しながら原材料RMが熱加工される。熱伝導シートSは、型部Dの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有している。本体部Mは、型部Dと同一の材料で形成されている。ただし、本体部Mは、熱伝導シートSから型部Dへの熱伝達量を極力低減させないように、熱伝導シートSの熱伝導率よりも所定値だけ低い熱伝導率を有していれば、いかなる材料で形成されていてもよい。
【0024】
熱伝導シートSは、型部Dへ熱を伝達するときに型面DSの温度分布のバラツキを低減する態様で、型部Dに隣接する位置に設けられている。型面DSの温度分布のバラツキが低減されたか否かは、型面DSの温度分布のシミュレーション等から把握することが可能である。型面DSの温度分布のバラツキを低減するために、本実施の形態の熱加工型Nにおいては、熱伝導シートSが型面DSに沿うように延びている。また、熱伝導シートSは、平面視において、型面DSと同一形状または相似形状を有している。そのため、熱伝導シートSの全体が型面DSのほぼ全面に対向している。本実施の形態においては、型面DSの温度分布のバラツキをより確実に低減する観点から、型面DSと熱伝導シートSとは実質的に平行に配置されている。しかしながら、熱伝導シートSは、型面DSに沿って延びていれば、型面DSの温度分布のバラツキをかなり高い精度で均一化することができるため、型面DSと完全に平行に配置されている必要はない。また、熱加工型Nの用途や要求される熱加工精度に応じて温度分布のバラツキを低減するという目的が達成できるのであれば、熱伝導シートSの全体が、完全に型面DSの全面に沿って延びていなくてもよい。つまり、熱伝導シートSの全体が、型面DSのほぼ全面に沿って延びていればよい。
【0025】
型面DSを含む仮想平面と熱伝導シートSを含む仮想平面とが所定の角度をなして交差するように配置されていてもよい。ただし、熱伝導シートSは、型部Dに熱伝導シートSが設けられていない場合に比較して型面DSの温度分布のバラツキを低減する態様で設けられていれば、いかなる態様で型部Dに接していてもよい。たとえば、複数の熱伝導シートSが積層された積層構造体が本体部Mと型部Dとによって挟まれていてもよい。この場合、熱伝導シートS同士の間には、後述される半田等の充填材が設けられていてもよい。
【0026】
図2および
図3に示されるように、熱加工型Nは、熱伝導シートSに電力を供給する電力供給部Bを備えている。電力供給部Bは、筐体HO内に内蔵されており、筐体HOから熱加工型Nの熱伝導シートSへ電力を供給するように配線等で、熱伝導シートSに電気的に接続されている。制御部CNは、熱伝導シートSへ電力を供給する制御を実行する。そのため、制御部CNが電力供給部Bを制御すると、熱伝導シートSに電流が流れる。それにより、電流が流れる経路において、熱伝導シートSが発熱する。このとき、熱伝導シートSの全面に熱が拡散する。それにより、熱伝導シートSの温度分布は、即座に均一になる。そのため、一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nのそれぞれの型面DSの温度分布を均一にすることができる。また、熱伝導シートSは、非常に薄い部材であるため、熱加工型Nを小型化することができる。特に、熱加工型Nの厚さを大きく低減することができ、かつ、熱加工型Nを軽量化することができる。さらに、熱伝導シートSを用いる場合には、ヒートパイプを用いる場合に比較して、熱加工型Nの設計の自由度が高い。
【0027】
ただし、熱加工装置APが、電力供給部Bの代わりに、型部Dに直接的にもしくは間接的に加熱または冷却する加熱/冷却部を備えていてもよい。本明細書では、「加熱/冷却部」という用語は、加熱部および冷却部のうちのいずれかを意味するものとする。加熱/冷却部は、たとえば、本体部M内に設けられ、所定の温度を有する油または水蒸気等の熱伝達媒体が流れる循環流路であってもよい。この場合、制御部CNは、加熱/冷却部としての循環流路内の熱伝達媒体の流れおよび温度を制御することにより、加熱/冷却部の温度に応じて本体部Mを加熱または冷却することができる。また、加熱/冷却部は、本体部Mに接触するか、または、本体部Mの近傍に設けられた電熱線(加熱部)またはペルチェ素子(冷却部)のようなものであってもよい。また、加熱/冷却部は、加熱部として用いられる場合には、本体部Mに高周波電圧を印加する装置、または、カートリッジヒータによって加熱される部分であってもよい。加熱/冷却部は、冷却部として用いられる場合には、循環流路に常温の水や所定温度の液体が流され、それにより冷却される循環流路であってもよい。前述の加熱/冷却部は、本体部Mを加熱または冷却することにより型部Dを間接的に加熱または冷却するものである。しかしながら、加熱/冷却部は、型部Dを直接的に加熱または冷却するものであってもよい。
【0028】
本実施の形態の熱加工装置APによれば、熱伝導シートSの面内方向における熱伝導の速度が、型部Dおよび本体部Mに比較して、かなり大きい。そのため、熱伝導シートSが早期に同一温度になる。熱伝導シートSは、型面DSのほぼ全面に沿って型面DSに対向するように設けられている。そのため、従来の複数のヒートパイプを型面に対向する位置に互いに距離を置いて設ける場合に比較して、型面DSの温度をより一層均一にすることができる。また、型面DSの温度分布が均一化されるまで待つ時間が短縮される。したがって、熱加工工程全体に要する時間を短縮することができる。
【0029】
図3に示されるように、本体部Mは、熱伝導シートSの移動を抑制するズレ抑制凸部Pを含んでいる。熱伝導シートSは、ズレ抑制孔SHを含んでいる。ズレ抑制凸部Pが熱伝導シートSのズレ抑制孔SHに挿入されている。ズレ抑制凸部Pは、本体部Mに形成された雌ネジ部に、雄ネジ部がねじ込まれたボルトのヘッド部である。
【0030】
ズレ抑制凸部Pとしてのボルトのヘッド部と本体部Mの主表面との間には、第1のワッシャCWが挟まれている。中央部のズレ抑制凸部Pと熱伝導シートSとの間のワッシャは、熱伝導シートSを本体部Mの主表面に向かって押さえ付けることにより、型部Dに対する熱伝導シートSの位置を固定する。つまり、熱伝導シートSの一カ所の位置が型部Dおよび本体部Mの一方に固定されている。中央部のズレ抑制凸部Pは、熱伝導シートSの面内方向における直線移動を抑制する。中央部のズレ抑制凸部P以外のズレ抑制凸部Pを他のズレ抑制凸部と呼ぶ。他のズレ抑制凸部は、熱伝導シートSの面内方向における回転移動を抑制する。中央部のズレ抑制凸部Pが挿入されたズレ抑制孔SHを中央部のズレ抑制孔SHと呼ぶ。他のズレ抑制凸部Pが挿入されたズレ抑制孔SHを他のズレ抑制孔SHと呼ぶ。他のズレ抑制凸部Pと熱伝導シートSとの間の第2のワッシャWは、他のズレ抑制孔SHから間隔を置いて設けられている。言い換えると、他のズレ抑制凸部Pと他のズレ抑制孔SHとの間に隙間CLが設けられている。つまり、他のズレ抑制孔SHが他のズレ抑制凸部Pよりもひとまわり大きい。熱伝導シートSの線膨張係数と本体部Mの線膨張係数との相違に起因して、熱伝導シートSと他のズレ抑制凸部Pとが相対的に移動しても、その移動の距離は、他のズレ抑制凸部Pと他のズレ抑制孔SHとの間に存在する隙間の範囲内の値である。したがって、熱伝導シートSが他のズレ抑制凸部Pの熱伝導シートSに対する移動によって引っ張られることが抑制されている。そのため、熱伝導シートSの破れが防止される。
【0031】
第2のワッシャWの厚さは、熱伝導シートSの厚さよりもわずかに小さい。そのため、熱伝導シートSは、本体部Mと型部Dとによって挟まれ、圧縮される。その結果、熱伝導シートSは、本体部Mと型部Dとのそれぞれに密着するため、熱伝導シートSを経由した本体部Mと型部Dとの間での熱貫流率が向上する。また、第2のワッシャWまたはカラーは、本体部Mと型部Dとの間でスペーサとして機能する。そのため、熱伝導シートSに本体部Mおよび型部Dの過度な圧縮力が作用することが抑制される。その結果、熱伝導シートSが破れることが抑制される。
【0032】
図4に示されるように、型部Dは、嵌合凹部Rを含んでいる。
図4に示された嵌合凹部Rは、
図3に示されたズレ抑制凸部Pを受け入れる。その結果、
図2に示されるように、ズレ抑制凸部Pが嵌合凹部Rに嵌め込まれた状態で、熱伝導シートSが型部Dと本体部Mとに挟まれる。そのため、熱伝導シートSの主表面に垂直な方向の移動を抑制することができる。
【0033】
本実施の形態の熱加工型Nは、上記のような構成を有しているが、熱伝導シートSの面内方向のズレを抑制するためには、型部Dおよび本体部Mのうちのいずれか一方に熱伝導シートSの移動を抑制する中央部および他のズレ抑制凸部Pが設けられていればよい。また、型部Dおよび本体部Mのうちのいずれか他方に中央部および他のズレ抑制凸部Pを受け入れる嵌合凹部Rが設けられていればよい。
【0034】
熱伝導シートSのズレを抑制しなくてもよい場合には、本体部Mおよび型部Dは、それぞれ、ズレ抑制凸部Pおよび嵌合凹部Rを有していなくてもよい。この場合、熱伝導シートSは、本体部Mの内側の平面と型部Dの内側の平面との間に挟まれているだけであってもよい。
【0035】
本実施の形態においては、熱伝導シートSの全面が型部Dに直接接触している。しかしながら、熱伝導シートSのうちの一部が型部Dに直接接触しており、熱伝導シートSのうちの他の一部が、充填材、たとえば、後述される半田等の他の熱伝導性材料が間に介在する状態で、間接的に型部Dに接触していてもよい。
【0036】
次に、上記した熱伝導シートについて詳細に説明する。
【0037】
熱伝導シートSの面内方向における熱伝導率は、型面DSの温度分布のバラツキを早期に低減する観点から、型部Dの熱伝導率よりも特定値以上大きいことが望ましい。この特定値は、型部Dの型面DSが接触する原材料RMの材質、要求される被熱加工品の精度、および熱加工型Nの用途等に応じて決定される値である。
【0038】
たとえば、熱伝導シートSの面内方向における熱伝導率は、型部Dの熱伝導率よりも10%以上高いことが好ましい。同様の理由のため、熱伝導シートSの面内方向における熱伝導率は、型部Dの熱伝導率よりも25%以上高いことがより好ましい。
【0039】
実用的な観点からは、熱伝導シートSの面内方向における熱伝導率は、型部Dの熱伝導率よりも50%以上高いことがさらに好ましい。たとえば、型部Dが約230W/(m・K)の熱伝導率を有する純アルミニウム(A1050)で形成されている場合、熱伝導シートSの熱伝導率は、345W/(m・K)以上であることが好ましい。また、型部Dが約40W/(m・K)の熱伝導率を有するS45C(構造用炭素鋼)で形成されている場合には、熱伝導シートSの熱伝導率は、60W/(m・K)以上であることが好ましい。
【0040】
上記のような条件を確実に満たすという観点から、熱伝導シートSは、熱伝導率が約600W/(m・K)〜約2000W/(m・K)を有するグラファイトシートであることが好ましい。600W/(m・K)〜2000W/(m・K)という熱伝導率は、型部Dに用いられる銅の熱伝導率の約2倍〜5倍である。また、600W/(m・K)〜2000W/(m・K)という熱伝導率は、型部Dに用いられるアルミニウムの熱伝導率の3倍〜8倍である。前述の条件を満たすグラファイトシートとしては、たとえば、PGS(R)<Pyrolytic Graphite Sheet>と呼ばれるグラファイトシート(パナソニック株式会社製)が挙げられる。PGS(R)には、たとえば、その密度が0.15g/cm
3〜2.13g/cm
3であり、厚さが10μm〜100μmであるグラファイトシートがある。また、グラファイトシートとしては、GRAPHINITY(R)と呼ばれるグラファイトシート(株式会社カネカ製)が用いられてもよい。GRAPHINITY(R)には、たとえば、熱伝導率が約1500W/(m・K)であり、その密度が約2g/cm
3であり、厚みが25μm〜40μmであるグラファイトシートがある。
【0041】
ただし、熱伝導シートSは、型部Dの温度分布を均一化するという目的を達成できるのであれば、次に示されるような型部Dに用いられる材料よりも高い熱伝導率を有していればよい。型部Dに用いられる材料としては、たとえば、鉄鋼、銅、アルミ合金、セラミックス、アルミナ、窒化珪素、ジルコニア、または超硬合金が考えられる。それらの熱伝導率は、約2W/(m・K)〜約380W/(m・K)の間の範囲内の値である。
【0042】
また、上記した熱伝導シートSとしてのグラファイトシートの重量は、銅の重量の約1/10〜約1/4倍であり、アルミニウムの約1/3〜約1/1.3倍である。したがって、熱伝導シートSを用いることに起因した熱加工型Nの重量の増加は少ない。そのため、従来のヒートパイプを使用する場合に比較して、熱加工型Nを軽量化することができる。
【0043】
また、グラファイトシートは、柔軟なシート部材であるため、その加工が容易である。そのため、グラファイトシートを型部Dに隣接するように設ける熱伝導シートSとして使用すれば、熱加工型Nの製造を容易に行うことができる。
【0044】
また、上記の構成によれば、熱伝導シートSは、10μm〜100μm等のものも存在し、従来使用されていたヒートパイプに比較して極めて薄いため、従来のヒートパイプを使用した熱加工型に比較して、熱加工型Nをかなり薄くすることができる。
【0045】
さらに、熱伝導シートSは、柔軟性を有するため、折れ曲がった状態で使用すること、および、曲面上に設けることが可能である。そのため、従来のヒートパイプを使用した熱加工型に比較して、熱加工型Nの設計の自由度が向上する。たとえば、型面DSが曲面である場合に、その型面DSに沿った曲面上に熱伝導シートSが設けられてもよい。
【0046】
次に、
図5を用いて、上記した実施の形態の熱加工型Nを有する熱加工装置APを用いた被熱加工品の製造方法の一例の熱圧着方法を説明する。なお、
図5を用いて説明される被熱加工品の製造方法は、本実施の形態以降の実施の形態のそれぞれにおいても適用され得るものである。
【0047】
まず、上記した熱加工装置APが準備される。次に、ステップST1において、
図1に示されるように、熱加工前の原材料RMが熱加工装置APの一方の熱加工型Nの型面DSと他の熱加工型Nの型面DSとの間に位置付けられる。その後、ステップST2において、一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nのそれぞれに熱が加えられる。このとき、上記したように、熱伝導シートSにおいて熱拡散が生じる。そのため、一方の熱加工型Nおよび他方の熱加工型Nのそれぞれの型面DSは、均一な温度分布を有する状態になる。熱加工型Dを加熱するために、上記した電力供給部B以外に、加熱/冷却部H(
図9参照)が用いられてもよい。さらに、熱加工型Dを加熱するために、上記した加熱/冷却部Hおよび電力供給部B以外の他のいかなる手段が用いられてもよい。前述の熱加工型Nは熱圧着のために用いられるため、加熱/冷却部Hは、加熱部として機能する。しかしながら、たとえば、前述の熱加工型Nが熱可塑性樹脂を冷却によって硬化させるために用いられる場合には、加熱/冷却部Hは冷却部として機能する。
【0048】
この状態で、ステップST3において、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとが閉じられる。このとき、一方の熱加工型Nの型面DSと他方の熱加工型Nの型面DSとが互いに押し付けられる。それにより、熱加工型Nの型面DSが原材料RMに接触する。その結果、原材料RMが熱加工される。たとえば、原材料RMがビニールシート等である場合、ビニールシートの熱圧着が実行される。なお、原材料RMが溶融樹脂である場合、樹脂の熱硬化等が実行されてもよい。
【0049】
一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとを加熱するステップおよび一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとを閉じるステップとに関しては、いずれのステップが先に実行されてもよく、また、双方のステップが同時に実行されてもよい。
【0050】
次に、ステップST4において、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとが開かれる。その後、ステップST5において、原材料RMから形成された被熱加工品が、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとの間から取り出される。
【0051】
上記の被熱加工品の製造方法によれば、熱加工型Nの型面DSの温度分布のバラツキが低減された状態で、原材料RMの熱加工が実行される。そのため、被熱加工品の熱加工された部分の状態を良好に形成することができる。たとえば、熱加工が熱圧着である場合、被熱加工品の熱圧着部の状態を均質な状態にすることができる。また、熱伝導シートSを有する熱加工型Nによる熱加工においては、熱伝導シートSを有しない熱加工型Nによる熱加工に比較して、前述の型面DSの温度分布のバラツキの低減を早期に行うことができる。その結果、熱加工工程全体の時間を短縮することができる。
【0052】
上記の製造方法は、
図6に示される燃料電池セル100の3層103,104,105からなる電解質膜345の熱圧着に用いられてもよい。この場合、2つの熱加工型Nは、
図2に示されるように、いずれも平面からなる型面DSを有している。そのため、2つの熱加工型Nのそれぞれの熱伝導シートSが発熱している状態で、型面DS同士が電解質膜345を挟むと、電解質膜345の全体が熱圧着される。
【0053】
さらに、燃料電池セル100の電解質膜345とそれを挟む2つの電極(燃料極102および空気極106)の熱圧着に用いられてもよい。さらに、燃料電池セル100の電解質膜345、燃料極102、および空気極106に加えて、それらを挟む2つのセパレータ101,107からなる積層構造の熱圧着に用いられてもよい。
【0054】
(実施の形態2)
図7を用いて、実施の形態2の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と同様であるため、その説明は特に必要がない限り繰り返さない。以下、主として、実施の形態2の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0055】
図7に示されるように、熱伝導シートSは、複数の熱伝導シート片S1〜S9に分割された状態で、1つの本体部Mの平面からなる主表面上に配置されている。熱伝導シートSは、同一の材料からなる複数の熱伝導シート片S1〜S9の集合体である。この構成によっても、薄い熱伝導シートSの熱拡散を利用して型面DSの温度分布のバラツキを低減するため、熱加工型Nを小型化することができる。
【0056】
また、複数の熱伝導シート片S1〜S9は、同一仮想面上において互いの間に隙間Cを有するように設けられている。本実施の形態においては、前述の同一仮想面は、平面であるが、たとえば、球面の一部または円柱の外周面のような曲面であってもよい。本実施の形態の熱伝導シートSによれば、温度上昇に起因した複数の熱伝導シート片S1〜S9のそれぞれの線膨張を前述の隙間Cによって吸収することができる。つまり、複数の熱伝導シート片S1〜S9のそれぞれの熱膨張の量は、隙間Cの半分以下の範囲内の値である。
【0057】
上記の構成によれば、熱伝導シートSの線膨張係数が本体部M(たとえば、鉄鋼)の線膨張係数よりも高い場合には、線膨張に起因した熱伝導シートSの局所的なたるみの発生を抑制することができる。その結果、熱伝導シートSと型部Dとの間に隙間が生じることを抑制することができる。したがって、熱伝導シートSと型部Dとの良好な熱伝達を維持することができる。一方、熱伝導シートSの線膨張係数が本体部M(たとえば、アルミニウム)の線膨張係数よりも低い場合には、複数の熱伝導シート片S1〜S9のそれぞれは本体部Mおよび型部Dによって局所的に生じる大きな力で引っ張られることがない。そのため、熱伝導シートSが破れてしまうことが防止される。
【0058】
(実施の形態3)
図8を用いて、実施の形態3の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と同様であるため、その説明は特に必要がない限り繰り返さない。以下、主として、実施の形態3の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0059】
図8に示されるように、複数の熱伝導シート片S11〜S14が、それぞれ、本体部Mに形成された複数の溝TRに嵌め込まれている。この構成によっても、薄い熱伝導シートSの熱拡散を利用して型面DSの温度分布のバラツキを低減しながら、熱加工型Nを小型化することができる。また、
図8においては、熱伝導シートSの厚さが誇張して大きく描かれている。複数の熱伝導シート片S11〜S14は、それぞれ、ズレ抑制孔SHを有している。本体部Mは、ズレ抑制凸部Pを有している。ズレ抑制凸部Pは、ズレ抑制孔SHに挿入されている。そのため、本実施の形態の熱伝導シートSは、面内方向において移動してしまうことが抑制される。
【0060】
また、複数の熱伝導シート片S11〜S14のそれぞれの長手方向の伸長は制限されていない。そのため、熱膨張に起因した複数の熱伝導シート片S11〜S14のそれぞれの弛みの発生が抑制される。したがって、熱伝導シートSと型部Dとの間の良好な熱伝達を維持することができる。
【0061】
また、ズレ抑制凸部Pとズレ抑制孔SHとの間には、隙間が存在する。そのため、その隙間が、複数の熱伝導シート片S11〜S14のそれぞれの線膨張を吸収する。
【0062】
(実施の形態4)
図9を用いて、実施の形態4の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と同様であるため、その説明は特に必要がない限り繰り返さない。以下、主として、実施の形態4の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0063】
図9に示されるように、本実施の形態の熱加工装置APの熱加工型Nは、型部Dと熱伝導シートSとの間の隙間を埋めるように設けられた第1の充填材USを備えている。第1の充填材USは、型部Dの周辺の気体、たとえば、空気よりも高い熱伝導率を有している。なお、熱加工型Nの周辺に酸素が存在することが好ましくない場合等には、熱加工型Nの周辺の雰囲気が窒素、水素、またはアルゴン等の気体である場合もある。そのため、第1の充填材USの存在により、型部Dと熱伝導シートSとの隙間に型部Dの周辺に空気のような気体が存在する場合に比較して、熱伝導シートSから型部Dへの熱伝導の速度を増加させることができる。また、第1の充填材USの厚さは、極めて小さいため、熱加工型Nを大型化させる必要はない。
【0064】
上記した第1の充填材USは、型部Dおよび熱伝導シートSがその目的の機能を喪失しない程度の加熱温度で軟化することによって、型部Dと熱伝導シートSとの間の隙間に充填される材料であることが好ましい。具体的には、第1の充填材USは、型部Dおよび熱伝導シートSが軟化しない程度の温度で軟化することが好ましい。この第1の充填材USが用いられる場合、型部Dと熱伝導シートSとの間に置かれた第1の充填材USを加熱することにより、型部Dと熱伝導シートSとの間の隙間に軟化した第1の充填材USを充填することができる。この軟化した第1の充填材USを硬化させることにより、熱加工型Nの周辺の気体よりも熱伝導率が高い材料によって型部Dと熱伝導シートSとの間の隙間を埋めることができる。したがって、熱貫流が良好な熱加工型Nの製造を容易に行うことができる。
【0065】
第1の充填材USは、型部Dおよび熱伝導シートSがその目的の機能を喪失しない程度の押圧力で変形し、型部Dと熱伝導シートSとの間に充填される材料であってもよい。具体的には、第1の充填材USは、型部Dおよび熱伝導シートSに亀裂が生じない程度の押圧力で変形する材料であってもよい。この第1の充填材USが用いられる場合、型部Dと熱伝導シートSとの間に置かれた第1の充填材USを押圧することにより、型部Dと熱伝導シートSとの間の隙間に変形した第1の充填材USを充填することができる。
【0066】
図9に示されるように、本実施の形態の熱加工装置APにおいては、本体部Mが加熱/冷却部Hとしての循環流路内を流れる熱伝達媒体によって加熱または冷却されるように構成されている。加熱/冷却部Hは、高周波電圧を印加することにより、本体部Mを発熱させるものを含んでいてもよい。加熱/冷却部Hは、ペルチェ素子のような電圧が印加されることにより吸熱作用を発揮するものを含んでいてもよい。熱加工型Nは、本体部Mと熱伝導シートSとの間の隙間を埋めるように設けられた第2の充填材LSを備えている。第2の充填材LSは、空気よりも高い熱伝導率を有している。第2の充填材LSは、第1の充填材USと同一の材料で構成されているが、異なった材料で形成されていてもよい。
【0067】
上記の構成によれば、第2の充填材LSの存在により、本体部Mと熱伝導シートSとの隙間に気体、たとえば、空気が存在する場合に比較して、加熱/冷却部H内の熱伝達媒体から本体部Mを経由した熱伝導シートSへの熱貫流の速度を増加させることができる。
【0068】
本実施の形態においては、上記した第2の充填材LSは、本体部Mおよび熱伝導シートSがその目的の機能を喪失しない程度の温度で軟化することによって、本体部Mと熱伝導シートSとの間の隙間に充填される材料であることが好ましい。具体的には、第2の充填材LSは、第2の充填材LSが本体部Mおよび熱伝導シートSが軟化しない程度の温度で軟化する材料であることが好ましい。この第2の充填材LSが用いられる場合、本体部Mと熱伝導シートSとの間に置かれた第2の充填材LSを加熱することにより、本体部Mと熱伝導シートSとの間の隙間に軟化した第2の充填材LSを充填することができる。この第2の充填材LSを硬化させることにより、熱加工型Nの周辺の気体よりも熱伝導性が高い材料によって型部Dと熱伝導シートSとの間の隙間を埋めることができる。そのため、熱貫流が良好な熱加工型Nの形成を容易に行うことができる。
【0069】
また、第2の充填材LSは、本体部Mおよび熱伝導シートSがその目的の機能を喪失しない程度の押圧力で変形することによって、本体部Mと熱伝導シートSとの間の隙間に充填される材料であってもよい。具体的には、第2の充填材LSは、本体部Mおよび熱伝導シートSに亀裂が生じない程度の押圧力で変形する材料であってもよい。この第2の充填材LSが用いられる場合、本体部Mと熱伝導シートSとの間に置かれた第2の充填材LSを押圧することにより、本体部Mと熱伝導シートSとの間の隙間に軟化した第2の充填材LSを充填することができる。
【0070】
上記した第1の充填材USおよび第2の充填材LSを構成する材料は、それぞれ、型部D、本体部M、および熱伝導シートSが軟化しない程度の温度で軟化する金属またはプラスチックであってもよい。いずれの場合も、第1の充填材USおよび第2の充填材LSは、熱加工型Nの使用時に型部Dが到達する温度よりもある温度以上高い温度になるまで軟化しない材料であることが好ましい。たとえば、第1の充填材USおよび第2の充填材LSは、熱加工型Nの使用時に型部Dが到達する温度よりも少なくとも20℃〜50℃以上高い温度で軟化する材料であることが好ましい。これによれば、熱加工型Nの使用中に第1の充填材USおよび第2の充填材LSが軟化してしまうことが抑制される。たとえば、第1の充填材USおよび第2の充填材LSのそれぞれの材料としては、半田が挙げられる。半田としては、SNAg−Cu−Niからなる半田ボールまたはクリーム半田(たとえば、千住金属工業株式会社製:SMIC(R)製)が用いられてもよい。また、半田としては、型部D等がアルミニウムで形成されている場合には、SN1819(MAL)(R)(日本スーペリア社製)が用いられてもよい。SN1819(MAL)(R)は、高純度のSn−Pb−Agで構成される合金である。SN1819(MAL)(R)は、低温で溶融し、作業性においても優れている。
【0071】
第1の充填材USおよび第2の充填材LSのそれぞれが半田ボールから形成される場合、
図10に示されるように、複数の半田ボールが熱伝導シートSの上に所定の間隔を置いて並べられる。この状態で、本体部M上の半田ボールを型部Dの型面DSと対向する主表面に押し付けながら、型部D、本体部M、および熱伝導シートSへ熱を加える。それにより、
図9に示される積層構造が形成される。
【0072】
ただし、第1の充填材USおよび第2の充填材LSのそれぞれの材料として半田の代わりにガリンスタン(Galinstan(R):株式会社Geratherm. Medical AG製)が用いられてもよい。また、第1の充填材USおよび第2の充填材LSのそれぞれを構成する材料として、半田の代わりに、型部D、本体部M、および熱伝導シートSが塑性変形しない程度の押圧力で変形する材料である熱伝導性樹脂が用いられてもよい。たとえば、この熱伝導性樹脂は、熱伝導材の小片を含むシリコーン樹脂のシートであってもよい。シリコーン樹脂のシートは、熱伝導材の小片が流動性を有するシリコーン樹脂中に分散させられた後に、そのシリコーン樹脂が硬化することによって形成されたものであってもよい。この場合も、熱伝導性樹脂は、熱加工型Nが使用されるときに軟化しないように、熱加工中に型部Dに生じる温度よりも所定温度だけ高い温度でも軟化しない材料であることが好ましい。前述の熱伝導性樹脂として、たとえば、PCS−LT−30(R)との製品名が付されたシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0073】
(実施の形態5)
図11および
図12を用いて、実施の形態5の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と異なる。しかしながら、実施の形態の熱加工装置APの機能は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの機能と基本的に同様である。そのため、以下、主として、実施の形態5の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0074】
図11および
図12に示されるように、型面DSは、凹部NRを取り囲む枠状の突出部の先端面である。また、枠状の突出部には、切欠きNNが形成されている。この一対の熱加工型Nは、
図13に示される輸液バッグ200の縁部201を熱圧着するために用いられる。切欠きNNは、被熱加工品としての輸液バッグ200の吐出口が置かれる部分である。本実施の熱加工型Nにおいても、型面DSを有する型部Dと型部Dが固定された本体部Mとの間に、熱伝導シートSが挟まれている。つまり、枠状の突出部の高さ方向の中間位置に熱伝導シートSが挿入されている。そのため、熱伝導シートSの全体が型面DSの全面に平行に延びている。熱伝導シートSは、従来から使用していたヒートパイプを設けることが困難である、かなり細い部分にも設けられ得る。なお、切欠きNNに沿った円弧状の部分には、熱伝導シートSの代わりに、熱伝導シートSよりもかなり熱伝導率が低いスペーサSPが設けられている。スペーサSPに対向する切欠きNNの円弧状の面は、発熱させることが望ましくないためである。熱伝導シートSは、型面DSに沿って延びるように、型面DSに平行に設けられている。また、型部Dと熱伝導シートSとの間の一部の領域には、第1の充填材USが存在する。なお、本実施の形態においても、本体部Mと熱伝導シートSとの間に、上述した第2の充填材LS(
図9参照)が設けられていてもよい。
【0075】
熱伝導シートSには、電力供給部Bが電気的に接続されている。そのため、ユーザが電力供給部Bから熱伝導シートSに電力を供給すると、熱伝導シートSに電流が流れる。それにより、熱伝導シートS内の電流が流れる経路が発熱する。このとき、熱伝導シートSの全面に熱が拡散する。そのため、熱伝導シートSの全面の温度分布が均一化される。その後、熱が熱伝導シートSから型部Dへ伝達される。熱伝導シートSは、その一方の主表面の全面が型面DSの全面に対向するように、型面DSに沿って設けられている。そのため、型面DSの全面の温度分布が均一化される。
【0076】
また、本実施の形態においては、型部Dに設けられたズレ抑制凸部Pが、熱伝導シートSに設けられたズレ抑制孔SHに挿入され、本体部Mに設けられた嵌合凹部Rに嵌め込まれている。したがって、熱伝導シートSのズレが抑制されている。
【0077】
図12に示されるように、原材料MRとしての2枚のビニールシートの端部RMEが型面DS同士の間に挿入される。その後、端部RMEが2つの型面DSによって挟まれる。このとき、電力供給部Bが熱伝導シートSに電力を供給する。それにより、熱伝導シートS内の電流が流れる経路において、熱伝導シートSが発熱する。このとき、熱は熱伝導シートSの全面に拡散し、型面DSの温度分布は均一化されている。この状態で、
図13に示される輸液バッグ200の縁部201が対向する型面DSに挟まれることにより熱圧着される。具体的に言うと、一方の熱加工型Nの型面DSと他方の熱加工型Nの型面DSとは、輸液バッグ200の縁部201の形状に沿った部分に接触し、その部分のビニールシート同士を溶着させる。本実施の形態においては、熱加工型Nは、輸液バッグ200の縁部201の全体を挟むことができる型面DSを有している。つまり、型部Dは、平面視において、縁部201の形状と実質的に同一の形状または相似形の平面である型面DSを有する突出部を含んでいる。また、熱伝導シートSは、平面視において、縁部201の形状と実質的に同一の形状または相似形状を有する平面である。
【0078】
(実施の形態6)
図13および
図14を用いて、実施の形態6の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と同様であるため、その説明は特に必要がない限り繰り返さない。以下、主として、実施の形態6の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0079】
図13および
図14に示されるように、熱伝導シートSが型面DSに沿って延びるように配置されている。具体的には、型面DSと熱伝導シートSとは実質的に平行に配置されている。型面DSが凹面になっている場合には、熱伝導シートSの全体は、その凹面の全面に対向するように、その凹面の全面に沿った形状に配置されている。そのため、型面DSが、樹脂成型用のキャビティのように、平面でなく、曲面、または、屈曲部を有している場合であっても、型面DSの全体の温度分布をより早期に均一にすることができる。したがって、ヒートパイプを設けることが困難である従来の射出成型を用いて複雑な成形品Kを成形する場合においても、型面DSの温度分布を均一にした状態で、原材料RMとしての熱可塑性の溶融樹脂の冷却による硬化を行うことができる。その結果、被熱加工品としての成形品Kを良好に形成することができる。なお、熱加工型Nは、本実施の形態の熱加工装置APを用いて実行される射出成形のみならず、他のいかなる成形に用いられてもよい。たとえば、熱加工型Nは、樹脂の圧縮成形または溶融樹脂の熱硬化のために用いられてもよい。
【0080】
本実施の形態においては、熱加工装置APが、電力供給部Bの代わりに、本体部Mを加熱または冷却することにより、型部Dを間接的に加熱または冷却する加熱/冷却部Hを備えている。加熱/冷却部Hは、熱伝達媒体が流れる循環流路である。そのため、制御部CNが、加熱/冷却部H内での熱伝達媒体の流れを変化させるポンプPNや熱伝達媒体を加熱する電熱線またはペルチェ素子TC等を制御することにより、本体部Mを加熱または冷却する。ただし、熱加工装置APが電力供給部Bおよび加熱/冷却部Hの双方を備えていてもよい。また、加熱/冷却部Hは、電熱線またはペルチェ素子TCが熱伝導シートSに接触している構造を有し、型部Dを直接的に加熱または冷却するものであってもよい。
【0081】
なお、本実施の形態においても、型部Dと熱伝導シートSとの間に、上述した半田等からなる第1の充填材US(
図9参照)が設けられていてもよい。また、本実施の形態においても、本体部Mと熱伝導シートSとの間に、上述した半田等からなる第2の充填材LS(
図9参照)が設けられていてもよい。
【0082】
(実施の形態7)
図16および
図17を用いて、実施の形態7の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と同様であるため、その説明は特に必要がない限り繰り返さない。以下、主として、実施の形態7の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0083】
図16および
図17に示されるように、型部Dは、それぞれが型面DSとしてのキャビティ面を形作る複数のキャビティ突部CPを有している。したがって、型面DSは、複雑な内側面を有する凹部によって形成されている。複数のキャビティ面のそれぞれには、原材料としての溶融樹脂(図示せず)が流れ込む。本実施の形態においては、熱伝導シートSは、複数のキャビティ突部CPのそれぞれを取り囲むように形成された複数のシート貫通孔STHを有している。断熱部材Iは、複数のキャビティ突部CPのそれぞれを取り囲むように形成された複数の断熱材貫通孔ITHを有している。シート貫通孔STHと断熱材貫通孔ITHとは、平面視において、同一形状を有している。
【0084】
なお、本実施の形態においても、型部Dと熱伝導シートSとの間に、上述した半田等からなる第1の充填材USが設けられていてもよい。また、型部Dに設けられたズレ抑制凸部Pが、熱伝導シートSに設けられたズレ抑制孔SHに挿入され、本体部Mに設けられた嵌合凹部Rに嵌め込まれていてもよい。
【0085】
本実施の形態の熱加工型Nとそれに対応する熱加工型とが閉じられているときには、型部Dは、型部Dに設けられた加熱/冷却部H(図示せず:
図9参照)としての循環流路を流れる熱媒体によって加熱または冷却される。このとき、熱伝導シートSの温度分布は、均一である。そのため、複数のキャビティ突部CPの内側面である複数のキャビティ面のそれぞれを実質的に同一の態様で加熱または冷却することができる。その結果、型面DSとしての複数のキャビティ面全体の温度分布のバラツキを容易に低減することができる。本実施の形態においても、加熱/冷却部H(
図9参照)の代わりに、電力供給部B(
図2参照)が用いられてもよい。
【0086】
本実施の形態のような複数のキャビティ突部CPを有する熱加工型Nにおいては、個々のキャビティ面の温度部分のバラツキよりも複数のキャビティ面の温度分布のバラツキを低減することが重要である。そのため、本実施の形態においては、個々のキャビティ面の温度分布は多少のバラツキを有していてもよい。
【0087】
図16および
図17に示されるように、熱加工型Nは、断熱部材Iを備えている。断熱部材Iは、熱伝導シートSの型部Dに対向する一方の主表面の裏側の他方の主表面と熱加工型Nの周辺の気体、たとえば空気との間に熱伝導シートSの他方の主表面の全体を覆うように設けられている。そのため、熱加工型Nが開かれているときに、熱伝導シートSの他方の主表面が大きく温度変化する熱加工型Nの周辺の気体に接触することがない。
【0088】
また、断熱部材Iは、熱伝導シートSの熱伝導率よりも低い熱伝導率を有している。そのため、熱加工型Nの周辺の気体の温度が大きく変化しても、熱伝導シートSの温度が大きく変化してしまうことはない。具体的には、一方の熱加工型Nと他方の熱加工型Nとが開かれているときに、熱伝導シートSの主表面が熱加工型Nの周辺の気体に接触しない。そのため、熱伝導シートSの気体の対流に起因した温度変化が抑制される。その結果、熱加工工程の全体において、熱伝導シートSの温度分布の均一性が維持される。したがって、原材料としての溶融樹脂(図示せず)から被熱加工品としての熱可塑性樹脂または熱硬化樹脂をより良好な状態に硬化させることができる。なお、熱加工型Nの周辺に酸素が存在することが好ましくない場合には、熱加工型Nの周辺の雰囲気が窒素、水素、またはアルゴン等の気体である場合がある。また、一般に、熱加工型Nの周辺が一般に真空状態と呼ばれる状態になっている場合であっても、実際には、何らかの気体が熱加工型Nの周辺に存在する。前述の断熱部材Iは、そのような真空状態と呼ばれる空間に存在する気体の対流に起因した熱伝導シートSの温度変化も抑制することができる。
【0089】
上記した断熱部材Iは、熱加工型Nの周辺の気体の対流に起因した熱伝導シートSの面内方向の温度分布のバラツキを抑制するために、熱加工型Nの周辺の気体の熱伝導率よりもある値だけ低い値であることが好ましい。このある値は、型部Dの型面DSが接触する原材料RMの材質、要求される被熱加工品の精度、および熱加工型Nの用途等に応じて決定される値である。
【0090】
たとえば、断熱部材Iは、コンクリートの熱伝導率である1.6W/(m・K)よりも低い熱伝導率を有していることが好ましい。このような断熱部材Iとしては、セメント、ガラス、プラスチック、木質材、木質繊維材、石膏、漆喰、畳、土、タイル、プラスチックタイル、グラスウール、またはロックウール等の材料が挙げられる。また、断熱部材Iとしては、発泡プラスチック系の断熱材、たとえば、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、フェノールフォーム、またはセルロースファイバー等が用いられてもよい。さらに、断熱部材Iとして、HIPAERO(R)(オキツモ株式会社製)と呼ばれる、塗料化されたエアロゲル(12mW/(m・K))が用いられてもよい。なお、エアロゲルは、シリカで形成された95%が空気の超多孔質微細構造の低熱伝導率の物質である。
【0091】
(実施形態8)
図18を用いて、実施の形態8の熱加工型Nおよび熱加工装置APを説明する。
【0092】
上記した実施の形態1〜7の熱加工装置APは、型面DS同士が平行な状態を維持した状態で、熱加工型N同士が離れたり近づいたりするものである。しかしながら、本実施の形態の熱加工装置APは、回転軸まわりに2つの型部Dが相対的に回転移動する熱加工装置APの熱加工型Nに上記した熱伝導シートSが用いられている。つまり、上記した熱加工型Nを有する熱加工装置APは、
図18に示されるように、型面DS同士がなす角が大きくなったり小さくなったりすることにより、型面DS同士離れたり近づいたりする。本実施の形態においては、ヒンジHIが熱加工型N同士を連結しており、ヒンジHIの回転に応じて、熱加工型Nの型面DS同士が近付いたり離れたりする。本実施の形態においても、熱伝導シートSは、上記した電力供給部Bによって供給される電力によって発熱する。ただし、本実施の形態においても、電力供給部の代わりに、上記した加熱/冷却部Hが用いられてもよい。加熱/冷却部Hが吸熱部として用いられる場合には、ペルチェ素子が用いられてもよい。
【0093】
上記のような熱加工装置APは、たとえば、上記した熱伝導シートSがビニール袋の端部を熱圧着するためのハンディタイプのシーラの熱加工型Nに設けられたものであってもよい。たとえば、手作業で型面DS同士を開閉することができる熱加工装置APの型部Dに熱伝導シートSが用いられてもよい。この場合、熱加工装置APは、制御部CNを有していてもよいが、制御部CNは必須の構成ではない。たとえば、上記した電力供給部Bは、作業者による熱加工型Nに設けられたスイッチSWの手動操作によって動作させられてもよい。また、熱加工型N同士の開閉動作は、作業者による熱加工型Nの手動操作、または、作業者による熱加工型Nに設けられたスイッチSWの手動操作によって実行されてもよい。
【0094】
本実施の形態においては、型部Dと熱伝導シートSとの間に、上述した第1の充填材USが設けられていている例が示されているが、本体部Mと熱伝導シートSとの間に、上述した第2の充填材LS(
図9参照)が設けられていてもよい。また、型部Dに設けられたズレ抑制凸部P(
図3参照)が、熱伝導シートSに設けられたズレ抑制孔SH(
図3参照)に挿入され、本体部Mに設けられた嵌合凹部R(
図4参照)に嵌め込まれていてもよい。
【0095】
(実施形態9)
図19を用いて、実施の形態9の熱加工型Nおよび熱加工装置APを説明する。
【0096】
本実施の形態においては、熱加工型Nは、
図19に示されるように、円柱状の加熱ローラである。この場合、熱伝導シートSは、円筒状の本体部Mと円筒状の型部Dとの間に挟まれており、仮想円柱の周面の全面に沿って延びているように配置されている。円筒状の型部Dの外周面が型面DSを構成する。本実施の形態においても、熱伝導シートSは、電力供給部Bによって供給される電力によって発熱する。ただし、本実施の形態においても、上記した加熱/冷却部Hが用いられてもよい。本実施の形態においては、熱伝導シートSは、その一方の主表面の全面が型面DSの全面に対向するように、型面DSに沿って設けられている。具体的には、円柱の外周面としての型面DSと円筒状の熱伝導シートSとは、同心円状に設けられている。この場合も、仮想円柱の周面に沿って延びる型面DSの温度分布のバラツキを早期に低減することができる。なお、熱加工装置APは、制御部CNを有していてもよいが、制御部CNは必須の構成ではない。
【0097】
熱伝導シートSを有する熱加工型Nとしての円柱状の加熱ローラは、たとえば、原材料RMとしてのフィルムのラミネート加工を実行するときに用いられるものであってもよい。また、熱伝導シートSを有する熱加工型Nとしての円柱状の加熱ローラは、たとえば、その周面に凹凸を有し、回転しながら、その周面の凹凸を原材料RMに転写する転写型としての加熱ローラであってもよい。この場合、熱加工装置APは、1つの熱加工型Nとしての1つの加熱ローラを有するものであってもよい。また、2つの熱加工型Nによる熱加工は、2つの加熱ローラによって、原材料RMとしての2枚のビニールシートの一部を挟むことにより、2枚のビニールシートの一部を熱溶着させるものであってもよい。なお、熱圧着される2枚のビニールシートは、2枚の金属シートであってもよい。
【0098】
本実施の形態においては、型部Dと熱伝導シートSとの間に、上述した第1の充填材USが設けられている例が示されているが、本体部Mと熱伝導シートSとの間に、上述した第2の充填材LS(
図9参照)が設けられていてもよい。また、
図19においては描かれていないが、型部Dに設けられたズレ抑制凸部P(
図3参照)が、熱伝導シートSに設けられたズレ抑制孔SH(
図3参照)に挿入され、本体部Mに設けられた嵌合凹部R(
図4参照)に嵌め込まれていてもよい。
【0099】
また、
図19に示される本実施の形態の加熱ローラと同様の構造のローラが吸熱ローラ、すなわち冷却ローラとして使用されてもよい。この吸熱ローラは、原材料から熱を受け取りながら、原材料を熱加工する。この場合、型部Dおよび本体部Mのうちの少なくともいずれか一方に、冷却部として使用される加熱/冷却部Hが設けられていてもよい。吸熱部は、ペルチェ素子を有していてもよい。このような吸熱ローラは、すなわち、冷却ローラは、電子転写装置または画像成形装置において加熱された転写紙の熱を吸収するために用いられてもよい。冷却ローラは、搬送用のローラに用いられてもよい。また、冷却ローラは、原材料としての鋼板から熱を受け取りながら、鋼板を圧延するローラとして用いられてもよい。
【0100】
(実施の形態10)
図20〜
図28を用いて、実施の形態10の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と異なる。しかしながら、実施の形態の熱加工装置APの機能は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの機能と基本的に同様である。そのため、以下、主として、実施の形態10の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0101】
図20〜
図23に示されるように、熱加工型Nは、型部Dと熱伝導シートSと本体部Mとを備えている。型部Dは、熱加工前の原材料に接触する型面DSを有し、型面DSから原材料へ熱を加えながらまたは原材料から熱を受け取りながら原材料を熱加工するものである。熱伝導シートSは、型部Dの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有している。熱伝導シートSは、熱加工が実行されているときに型面DSの温度分布のバラツキを低減する態様で、型面DSに沿って延びるように配置され、かつ、型部Dに隣接する位置に設けられている。本体部Mは、熱伝導シートSの熱伝導率よりも低い熱伝導率を有し、型部Dと協働して熱伝導シートSを挟むように設けられている。
【0102】
図20に示されるように、本実施の形態の熱伝導シートSは、少なくとも1つのグラファイトシートS11,S12,S13,S14を含んでいる。少なくとも1つのグラファイトシートS11,S12,S13,S14は、本実施の形態においては、4枚のグラファイトシートからなるが、1枚、2枚、または8枚等の何枚のグラファイトシートからなるものであってもよい。本実施の形態のように、熱伝導シートSが少なくとも1つのグラファイトシートからなる場合には、その面内方向の熱伝導率の高さとその薄さのため、熱加工中の型面DSの温度分布のバラツキを低減しながら、熱加工型Nを小型化することができる。
【0103】
一般に、アルミニウムまたは銅等の金属製の板材に比較して、グラファイトを主たる構成とする熱伝導シートSは、自身の厚さが極めて小さい。一方、アルミニウムまたは銅等の金属からなる板材を型面DSの温度分布を均一化する部材として用いた熱加工型Nが繰り返して使用されると、その板材の厚さが徐々に小さくなる。それにより、型面DSの位置ズレが生じることがある。その結果、熱加工型の性能が低下する。一方、グラファイトシートを型面DSの温度分布の均一化のため部材として用いた熱加工型Nによれば、従来の金属の板材を型面DSの温度分布の均一化のための部材として用いる熱加工型に比較して、熱加工型Nの性能の低下が抑制される。この点については、熱伝導シートSが1つのグラファイトシートSによって構成される場合と、複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14の積層構造体によって構成される場合とのいずれにおいても、同様である。
【0104】
図20から分かるように、本実施の形態においては、少なくとも1つのグラファイトシートS11,S12,S13,S14は、互いに直接接触する複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14の積層構造体である。
【0105】
図20〜
図22から分かるように、本実施の形態においても、上記の各実施の形態と同様に、熱伝導シートSは、本体部Mと型部Dとの間に挟まれている。また、熱伝導シートSは、複数の孔(前述のズレ抑制孔SHに対応)を含んでいる。本体部Mには、内側の主表面から垂直な方向に突出する複数の第2のワッシャW(またはカラー)が設けられている。複数の第2のワッシャWは、前述の各実施の形態と同様に、本体部Mと型部Dとの間でスペーサとして機能する。なお、第2のワッシャWの代わりに、本体部Mの一部がその主表面から突出した形状からなるスペーサであってもよい。スペーサとしての第2のワッシャWまたは突出部が型部Dに設けられていてもよい。複数の第2のワッシャWは、それぞれ、平面視において、複数の孔(ズレ抑制孔SH)のそれぞれの内側に位置付けられている。
【0106】
図20および
図22から分かるように、複数の第2のワッシャW(またはカラー)は、それぞれ、型部Dに接触することにより、型部Dと本体部Mとの間の距離を一定に維持している。そのため、型面DSに垂直な力が作用したときに、スペーサとしての第2のワッシャW(またはカラー)は、型部Dと本体部Mとの間で軸力を伝達する支柱として機能する。そのため、第2のワッシャW(またはカラー)が設けられていない場合に比較して、熱加工型Nの型面DSに垂直な方向に力がかかった場合の型部Dおよび本体部Mのたわみを低減することができる。その結果、熱加工型Nを多数回繰り返して使用する場合に、熱伝導シートSに作用する面内方向の引張力の負担が低減される。そのため、熱伝導シートSの破れを抑制することができる。
【0107】
なお、本実施の形態の熱加工型Nは、本体部Mと型部Dとの間の距離を一定に維持する少なくとも1つのスペーサとして、複数の第2のワッシャWを有しているが、ある程度の大きさを有する1つの第2のワッシャWのみを有していてもよい。一方、スペーサの占有面積を極力小さくすることが型面DSの熱分布を均一化するために好ましい。したがって、複数のスペーサとしての複数の第2のワッシャW(またはカラー)が型部Dまたは本体部Mの主表面において均一な間隔で主表面の全体に分散して配置されていることが好ましい。
【0108】
図21に示されるように、熱伝導シートSの特定の一カ所、特に本実施の形態においては、矩形の熱伝導シートSの中央部の位置が、本体部Mの一方にズレ抑制凸部Pによって固定されている。また、複数の第2のワッシャWと複数の孔(SH)との間には、それぞれ、熱伝導シートSの面内方向における熱伝導シートSの熱膨張と本体部Mおよび型部Dの熱膨張との差を吸収する隙間CLが存在している。そのため、熱伝導シートSの固定位置と各スペーサの位置との間で熱伝導シートSの面内方向の引張力が生じることに起因した熱伝導シートSの破れを防止することができる。
【0109】
本実施の形態においては、複数の第2のワッシャW(またはカラー)のそれぞれの厚さは、熱伝導シートSの厚さよりも小さい。そのため、複数の第2のワッシャWが型部Dに接触している状態で、熱伝導シートSが本体部Mと型部Dとによって熱伝導シートSの厚さ方向に押し縮められている。その結果、熱伝導シートSを型部Dおよび本体部Mのそれぞれに密着させることができる。それにより、熱伝導シートSと型部Dおよび本体部Mのそれぞれとの間の熱伝達率が向上する。したがって、熱伝導シートSを経由した型部Dと本体部Mとの間での熱貫流率を向上させることができる。
【0110】
図22に示されるように、本実施の形態においては、本体部Mは、その内側主表面から所定の位置まで延びる複数の雌ネジ部Xを含んでいる。複数の雌ネジ部Xの中央部の雌ネジ部Xには第1の雄ネジ部Y(中央部のズレ抑制凸部P)がねじ込まれている。第1の雄ネジ部Y(中央部のズレ抑制凸部P)の第1のヘッド部と本体部Mまたは型部Dの主表面との間には、第1のワッシャCWが挟まれている。
【0111】
第1のワッシャCWが、熱伝導シートSの面内方向における本体部Mに対する熱伝導シートSの位置決め部材として機能している。本実施の形態においては、第1のワッシャCWが熱伝導シートSを本体部Mに向かって押さえ付けることにより、熱伝導シートSの本体部Mに対する位置が固定されている。
【0112】
図22に示されるように、中央部の雌ネジ部Xとは異なる他の雌ネジ部Xには、それぞれ、少なくとも1つの第2の雄ネジ部Y(他のズレ抑制凸部P)がねじ込まれている。複数の第2の雄ネジ部Y(他のズレ抑制凸部P)の第2のヘッド部のそれぞれと本体部Mの主表面との間には、第2のワッシャW(またはカラー)が挟まれている。型部Dは、その内側主表面から所定の位置まで延びる複数の凹部(嵌合凹部R)を含んでいる。中央部のズレ抑制凸部Pの第1の雄ネジ部Yの第1のヘッド部および他のズレ抑制凸部の第2の雄ネジ部Yの第2のヘッド部が、それぞれ、型部Dに設けられた複数の凹部(嵌合凹部R)に嵌め込まれている。この状態で、型部Dの内側主表面が第2のワッシャW(またはカラー)に接触している。このような構造によれば、熱伝導シートSの位置固定および第1のワッシャCWおよび第2のワッシャWの取付けを容易に行うことができる。
【0113】
図20および
図21から分かるように、複数のボルトBLは、本体部Mに設けられた複数の孔HMおよび複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14に設けられた複数の孔H11,H12,H13,H14を突き抜けている。複数のボルトBLは、型部Dに設けられた雌ネジ部(図示せず)にねじ込まれている。それにより、本体部M、熱伝導シートS、および型部Dは、ボルトBLによって、一体構造を形成するように固定されている。
【0114】
第2のワッシャW(またはカラー)の厚さは、複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14からなる熱伝導シートSの厚さよりも小さい。そのため、ボルトBLの締め付けにより、熱伝導シートSは、本体部Mと型部Dとによって厚さ方向に圧縮されるが、第2のワッシャWによって破れないように保護されている。
【0115】
また、本実施の形態の熱加工型Nも、上記実施の形態1〜9と同様に、型面DSから原材料へ荷重をかけながら、原材料を熱加工するように構成されている。一般に、グラファイトシートは極めて薄く形成され得る。そのため、グラファイトシートを熱加工型Nの型面DSの熱分布の均一化のために用いた場合、熱加工の繰り返しに起因したグラファイトシートの変形はほとんど生じない。したがって、上記の構成によれば、型面DSの熱分布の均一性を向上させながら、繰り返し荷重による熱分布を均一化させるための部材の変形に起因した型面DSの位置ズレを抑制することができる。したがって、熱加工型Nの耐久性を向上させることができる。
【0116】
図23〜
図28は、パナソニック株式会社の技術資料である「PGS(R)グラファイトシート積層品の熱特性11」より引用した図である。
図23には、厚さ25μmの1枚のグラファイトシートPGS(R)と厚さ100μmの1枚のポリエチレンテレフタレート粘着層PET(R)とからなる熱伝導シートSが示されている。
図24には、それぞれの厚さ25μmの複数のグラファイトシートPGS(R)と、厚さ100μmの複数のポリエチレンテレフタレート粘着層PET(R)とからなる熱伝導シートSが示されている。
図24から分かるように、複数のグラファイトシートPGS(R)と、複数のポリエチレンテレフタレート粘着層PET(R)とは交互に設けられている。
【0117】
図25には、実験器具が示されている。実験器具には、長さLが115mmでありかつ幅Wが90mmのグラファイトシートPGS(R)の1つの短辺の中央部に出力が2.7WであるセラミックヒータCHが取り付けられている。この実験器具のセラミックヒータCHがオンされると、
図26〜
図28に示される結果が得られる。実際には、
図26〜
図28に示される実験結果はサーモグラフィとして示される。
【0118】
図26は、1枚の厚さ25μmのグラファイトシートPGS(R)および1枚のポリエチレンテレフタレート粘着層PET(R)に取り付けられたセラミックヒータCHがオンされたときの実験結果を示している。
図27は、1枚の厚さ100μmのグラファイトシートPGS(R)および1枚のポリエチレンテレフタレート粘着層PET(R)に取り付けられたセラミックヒータCHがオンされたときの実験結果を示している。
図28は、4枚の厚さ25μmのグラファイトシートPGS(R)および4枚のポリエチレンテレフタレート粘着層PET(R)の積層構造に取り付けられたセラミックヒータCHがオンされたときの実験結果を示している。
図26〜
図28には、セラミックヒータCHに対向する辺の温度がある特定の同一温度に達したときのセラミックヒータCHの温度が記載されている。
図26では、セラミックヒータCHの温度は、105℃であり、
図27では、セラミックヒータCHの温度は、87.1℃であり、
図28には、セラミックヒータCHの温度は、76.1℃である。
【0119】
実験結果を示す
図26と
図28とを比較すると、それぞれの厚さが25μmである4枚のグラファイトシートの積層構造(
図28)は、厚さ25μmの1枚のグラファイトシート(
図26)よりも、セラミックヒータCHの温度が28.9℃だけ低い。つまり、
図26および
図27から、1枚のグラファイトシートよりも複数枚(たとえば、4枚)のグラファイトシートのほうが、熱熱伝導率が高いことが分かる。
【0120】
また、実験結果を示す
図27と
図28とを比較すると、それぞれの厚さが25μmである4枚のグラファイトシートの積層構造(
図28)は、厚さ100μmの1枚のグラファイトシート(
図27)よりも、セラミックヒータCHの温度が11℃だけ低い。つまり、
図26および
図28から、全体として厚さが同一であれば、それぞれが相対的に薄い複数枚(たとえば、4枚)のグラファイトシートの積層構造は、相対的に厚い1枚のグラファイトシートよりも面内方向における熱伝導率が高いことが理解される。したがって、上記の複数のグラファイトシートの積層構造によれば、型面DSの温度分布の均一性を効率的に向上させることができる。
【0121】
本願の発明者は、
図23および
図24の構造からポリエチレンテレフタレート粘着層PET(R)が取り外された構造であっても、
図26〜
図28に示される結果と同様の結果が得られることを自らの実験により確認した。つまり、本願の発明者は、複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14が互いに直接接触する積層構造体によっても、
図26〜
図28に示される結果と同様の結果が得られることを自らの実験により確認した。
【0122】
また、本願の発明者は、複数の互いに直接接触するグラファイトシートの積層構造は、その複数のグラファイトシートと同一の厚さの1枚のグラファイトシートよりも、型面DSの熱分布を早期に均一化できることを自らの実験により確認した。
【0123】
(実施の形態11)
図29〜
図34を用いて、実施の形態11の熱加工型Nを説明する。なお、本実施の形態の熱加工装置APの構成は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの構成と異なる。しかしながら、実施の形態の熱加工装置APの機能は、
図1を用いて説明された熱加工装置APの機能と基本的に同様である。そのため、以下、主として、本実施の形態の熱加工型Nに特有の構成を説明する。
【0124】
図29〜
図32に示されるように、本実施の形態の熱伝導シートSは、複数(たとえば、4枚)のグラファイトシートS11,S12,S13,S14を含んでいる。また、本実施の形態の熱伝導シートSは、複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14のそれぞれに隣接するように設けられた複数(たとえば、5枚)の黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEを含んでいる。本実施の形態の熱加工型Nは、前述の点においては、実施の形態10の熱加工型Nと異なっているが、その他の点においては、実施の形態10の熱加工型Nと同様である。
【0125】
図29および
図30から分かるように、本実施の形態においても、実施の形態10と同様に、複数のスペーサとしての複数の第2のワッシャW(またはカラー)のそれぞれは、熱伝導シートS全体の厚さよりも小さい。
図29〜
図32から分かるように、複数のスペーサとしての複数の第2のワッシャW(またはカラー)が型部Dに接触している状態で、熱伝導シートSは、本体部Mと型部Dとによって熱伝導シートSの厚さ方向に押し縮められている。そのため、熱伝導シートSを型部Dおよび本体部Mのそれぞれに密着させることができる。その結果、熱伝導シートSと型部Dおよび本体部Mのそれぞれとの間の熱伝達率が向上する。したがって、熱伝導シートSを経由した型部Dと本体部Mとの間での熱貫流率を向上させることができる。
【0126】
中央部の第1のワッシャCWが、熱伝導シートSが型部Dと本体部Mとによって挟まれていない状態で、第1の雄ネジ部Yを第1の雌ネジ部Xへねじ込むときに、熱伝導シートSのズレを抑制することは、上記の実施の形態と同様である。ただし、本実施の形態においては、第1のワッシャCWの代わりに、その下側のカラーCOが、熱伝導シートSの面内方向における本体部Mに対する熱伝導シートSの位置決め部材として機能している。カラーCOは、複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14および複数の黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEのそれぞれを貫通する孔(中央部のズレ抑制孔SH)にわずかの隙間を置いて嵌め込まれている。つまり、カラーCOと複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14および複数の黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEのそれぞれを貫通する孔との相対的な移動が拘束されている。それにより、熱伝導シートSの本体部Mに対する位置が固定されている。なお、カラーCOの下端部は、本体部Mに形成された凹部に嵌め込まれている。
【0127】
図33は、カネカ株式会社の技術資料より引用した写真を含んでいる。
図33に示されるように、本実施の形態のグラファイトシートは、複数の第1の六角格子が平面に沿って延びる第1の黒鉛の結晶GRが熱伝導シートSの面内方向に沿って延びるように配向している。なお、実施の形態1〜10において使用され得るパナソニック製のグラファイトシートPGS(R)等の一般にグラファイトシートと呼ばれるものは、
図33に示されるような構造を有している。
【0128】
図34は、日立化成テクニカルレポート No.53(2009-10)に掲載されている「黒鉛粒子配向制御によるフレキシブル高熱伝導シート」と題する論文より引用した写真である。
図34に示されるように、本実施の形態の黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEのそれぞれは、複数の第2の六角格子が平面に沿って延びる第2の黒鉛の結晶GRが熱伝導シートSの厚さ方向に沿って延びるように配向している。
【0129】
上記の構成によれば、熱伝導シートSは、その面内方向とその厚さ方向との双方において高い熱伝導率を有する。そのため、型部Dの型面DSの熱分布をより早期に均一化することができる。なお、1枚のグラファイトシートと、それに隣接するように設けられた1枚の黒鉛垂直配向熱伝導シートとからなる熱伝導シートSが用いられても、その面内方向とその厚さ方向との双方において高い熱伝導率を有することは同様である。
【0130】
熱伝導シートSは、複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14のそれぞれが、複数の黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEのうちの2つによって挟まれている。そのため、熱伝導シートSの熱伝導率および熱伝達率の双方を向上させることにより、熱伝導シートSを経由した型部Dと本体部Mとの間での熱貫流率を向上させることができる。また、熱伝導シートSにおいては、1つのグラファイトシートがそれよりも摩擦係数が高い2つの黒鉛垂直配向熱伝導シートによって挟まれている。そのため、グラファイトシートが型部Dおよび本体部Mのそれぞれに直接接触する場合に比較して、型部Dと本体部Mとの間での熱伝導シートSの面内方向のズレを抑制することにより、熱伝導シートSの破れを防止することができる。
【0131】
一般に、グラファイトシートは、極めて薄いため、破れやすい材料である。そのため、グラファイトシートを用いた熱加工型Nは、繰り返して使用されると、耐久性が低下する場合がある。しかしながら、上記の構造を有する本実施の形態の熱加工型Nによれば、グラファイトシートによって型面DSの温度分布の均一化を図る熱加工型Nであっても、グラファイトシートが破れ難いため、熱加工型Nの耐久性を維持することができる。
【0132】
(その他の実施の形態)
実施の形態の熱加工装置APによって実行される熱加工は、プラスチックまたは金属の熱圧着または熱成形のみならず、繊維製品等の熱加工であってもよい。つまり、原材料RMは、熱加工前の繊維製品であってもよい。熱加工装置APは、上記した実施の形態1〜4、10、および11のうちのいずれかの1つの熱加工型Nの型面DSのみが熱加工処理に用いられるものであってもよい。たとえば、熱加工装置APは、アイロンであってもよい。この場合、熱伝導シートSが熱加工装置APとしてのアイロンの加熱面の温度分布を均一にすることができる。そのため、原材料RMとしての繊維製品等の洗濯物、たとえば、ホワイトシャツのアイロン仕上げを、加熱面の温度分布が均一な状態で、実行することができる。すなわち、繊維製品への癖付という熱加工を、加熱面の温度分布が均一な状態で、実行することができる。また、熱加工装置APとしてのアイロンによる熱加工は、シールの熱による貼り付け等であってもよい。
【0133】
また、たとえば、前述の熱加工型Nの型面DSは、人の髪の毛を挟むことにより、髪型を調整するためのヘアーアイロンの一対の対向する加熱面または1つの円柱状の加熱面として用いられてもよい。熱加工装置APとしてのヘアーアイロンの型面DSとしての加熱面の温度分布を均一にすることができる。そのため、原材料RMとしての人の髪の毛の所定の形状への熱加工を、加熱面の温度分布が均一な状態で、実行することができる。すなわち、人の毛の癖付または癖取を、加熱面の温度分布が均一な状態で、実行することができる。
【0134】
たとえば、熱加工装置APは、型部Dの外周面に熱伝導シートSが巻き付けられた熱加工型Nを有していてもよい。また、熱加工型Nの型面DSは、平面の組合せのみならず、曲面であってもよく、また、曲面と平面との組合せであってもよい。
【0135】
熱伝導シートSの発熱によって型面DSの温度分布のバラツキを早期に低減する熱加工型Nは、型面DSに接触する原材料RMを熱加工するものであれば、上記以外のいかなる熱加工装置に適用されてもよい。つまり、熱加工装置APは、型面DSから原材料RMへ熱を加えるかまたは原材料RMから熱を受け取ることにより、原材料RMを加工し、原材料RMとは異なる被熱加工品を製造するものであれば、いかなるものであってもよい。
【0136】
(各実施の形態の構成の組合せ)
上記した実施の形態1〜11のそれぞれの特徴的構成は、互いに矛盾しないかぎり、組合せられる。そのため、本発明の熱加工型および熱加工装置は、それぞれ、技術常識に反しない限りで、上記の構成の組合せがなされた熱加工型および熱加工装置を含むものとする。また、被熱加工品の製造方法は、実施の形態1において
図5を用いて説明された方法が、技術的に矛盾しない限り、いずれの実施の形態の熱加工装置APにおいても適用され得る。
【0137】
(特徴的構成および効果)
以下、実施の形態の熱加工型Nの特徴的構成およびそれにより得られる効果を説明する。
【0138】
(1) 熱加工型Nは、型部Dと熱伝導シートSと本体部Mとを備えている。型部Dは、熱加工前の原材料RMに接触する型面DSを有し、型面DSから原材料RMへ熱を加えながらまたは原材料RMから熱を受け取りながら原材料RMを熱加工する。熱伝導シートSは、型部Dの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、熱加工が実行されているときに型面DSの温度分布のバラツキを低減する態様で、型面DSに沿って延びるように配置され、かつ、型部Dに隣接する位置に設けられている。熱伝導シートSは、少なくとも1つのグラファイトシートS11,S12,S13,S14を含んでいる。本体部Mは、熱伝導シートSの熱伝導率よりも低い熱伝導率を有し、型部Dと協働して熱伝導シートSを挟むように設けられている。これによれば、熱加工中の型面DSの温度分布のバラツキを低減しながら、熱加工型Nを小型化することができる。また、型部Dと本体部Mとによって挟まれている熱伝導シートSに大きな荷重がかかっても、グラファイトシートは極めて薄い材料であるため、変形しにくい。そのため、上記のグラファイトシートを型面DSの温度分布の均一化のため部材として用いた熱加工型によれば、従来の金属の板材を型面DSの温度分布の均一化のための部材として用いる熱加工型に比較して、熱加工型Nの性能の低下が抑制される。
【0139】
(2) 少なくとも1つのグラファイトシートS11,S12,S13,S14は、互いに直接接触する複数のグラファイトシートS11,S12,S13,S14の積層構造体であってもよい。この構成によれば、熱加工型Nの厚さを大きくすることなく、型面DSの温度分布の均一性を向上させることができる。
【0140】
(3) 少なくとも1つのグラファイトシートは、複数の第1の六角格子が平面に沿って延びる第1の黒鉛の結晶GRが熱伝導シートSの面内方向に沿って延びるように配向していることが好ましい。また、熱伝導シートSは、少なくとも1つのグラファイトシートに隣接するように設けられた少なくとも1つの黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEをさらに含んでいてもよい。少なくとも1つの黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEは、それぞれ、複数の第2の六角格子が平面に沿って延びる第2の黒鉛の結晶GRが熱伝導シートSの厚さ方向に沿って延びるように配向している。この構成によれば、熱伝導シートSは、その面内方向とその厚さ方向との双方において高い熱伝導率を有するため、型部Dの型面DSの熱分布をより早期に均一化することができる。
【0141】
(4) 熱伝導シートSは、少なくとも1つの黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEとして、少なくとも2つの黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEを含んでいてもよい。少なくとも1つのグラファイトシートS11,S12,S13,S14のそれぞれが、少なくとも2つの黒鉛垂直配向熱伝導シートSA,SB,SC,SD,SEのいずれか2つによって挟まれていてもよい。
【0142】
上記の構成によれば、型部Dと本体部Mとの間での熱伝導シートSの面内方向のズレを抑制することにより、熱伝導シートSの破れを防止することができる。
【0143】
(5) 熱伝導シートSは、少なくとも1つの孔(ズレ抑制孔SH)を含んでいてもよい。型部Dおよび本体部Mのうちの一方は、その内側の主表面から垂直な方向に突出する少なくとも1つのスペーサ(第2のワッシャWまたはカラー)を含んでいてもよい。少なくとも1つのスペーサ(第2のワッシャWまたはカラー)は、それぞれ、平面視において、少なくとも1つの孔(ズレ抑制孔SH)の内側に位置付けられていてもよい。この場合、少なくとも1つのスペーサ(第2のワッシャWまたはカラー)は、それぞれ、型部Dおよび本体部Mのうちの他方に接触することにより、型部Dと本体部Mとの間の距離を一定に維持することが好ましい。この構成によれば、熱伝導シートSの破れを抑制することができる。
【0144】
(6) 熱伝導シートSの一カ所の位置が型部Dおよび本体部Mの一方に固定されていることが好ましい。また、少なくとも1つのスペーサ(第2のワッシャまたはカラーW)と少なくとも1つの孔(ズレ抑制孔SH)との間には、平面視において、隙間CLが存在することが好ましい。隙間CLは、熱伝導シートSの熱膨張と本体部Mおよび型部Dの一方の熱膨張との差を吸収するためのものである。この構成によれば、熱伝導シートSに固定位置とスペーサの位置との間で引張力が生じることに起因した熱伝導シートSの破れを防止することができる。
【0145】
(7) 少なくとも1つのスペーサ(第2のワッシャWまたはカラー)のそれぞれの厚さは、熱伝導シートSの厚さよりも小さいことが好ましい。この場合、少なくとも1つのスペーサ(第2のワッシャWまたはカラー)が型部Dおよび本体部Mのうちの他方に接触している状態で、熱伝導シートSが本体部Mと型部Dとによって熱伝導シートSの厚さ方向に押し縮められている。この構成によれば、熱伝導シートSを経由した型部Dと本体部Mとの間での熱貫流率を向上させることができる。
【0146】
(8) 本体部Mおよび型部Dのうちの一方は、その内側主表面から所定の位置まで延びる複数の雌ネジ部Xを含んでいてもよい。この場合、複数の雌ネジ部Xのいずれか1つには第1の雄ネジ部Yがねじ込まれている。第1の雄ネジ部Y(中央部のズレ抑制凸部P)の第1のヘッド部と本体部Mおよび型部Dの一方の主表面との間には、第1のワッシャWおよびカラーCOのうちの少なくとも一方が挟まれている。第1のワッシャCWおよびカラーCOのうちの少なくとも一方が、熱伝導シートSの面内方向における型部Dおよび本体部Mのうちの一方に対する熱伝導シートSの位置決め部材として機能している。複数の雌ネジ部Xのいずれか1つの雌ネジ部Xとは異なる少なくとも1つの雌ネジ部Xには、それぞれ、少なくとも1つの第2の雄ネジ部Yがねじ込まれている。少なくとも1つの第2の雄ネジ部Y(他のズレ抑制凸部P)の第2のヘッド部と本体部Mおよび型部Dの一方の主表面との間には、それぞれ、少なくとも1つのスペーサとして機能する少なくとも1つの第2のワッシャWまたはカラーが挟まれている。本体部Mおよび型部Dのうちの他方は、その内側主表面から所定の位置まで延びる複数の凹部(嵌合凹部R)を含んでいる。第1のヘッド部および第2のヘッド部がそれぞれ複数の凹部(嵌合凹部R)に嵌め込まれている。本体部Mおよび型部Dのうちの他方の内側主表面が第2のワッシャWまたはカラーに接触している。この構成によれば、熱伝導シートSの位置固定およびスペーサの取付けを容易に行うことがでる。
【0147】
(9) 熱伝導シートSは、複数の熱伝導シート片S1〜S9に分割されていてもよい。この場合、複数の熱伝導シート片S1〜S9は、同一仮想面上において互いの間に熱伝導シートSの熱膨張と本体部Mおよび型部Dのうちの少なくともいずれか一方の線膨張との差を吸収する隙間Cを有するように設けられていることが好ましい。これによれば、熱伝導シートSの線膨張率が本体部Mおよび型部Dのうちの少なくともいずれか一方の線膨張率よりも高い場合に、熱伝導シートSの局所的なたるみを抑制することができる。また、熱伝導シートSの線膨張率が本体部Mおよび型部Dのうちの少なくともいずれか一方の線膨張率よりも低い場合に、熱伝導シートSの破れを抑制することができる。
【0148】
(10) 型部Dは、平面視において、被熱加工品(たとえば、輸液バッグ200)の熱圧着される縁部201の形状と同一の形状または相似形の平面である型面DSを有する突出部を含んでいてもよい。熱伝導シートSは、平面視において、縁部201の形状と同一の形状または相似形状であってもよい。
【0149】
型面DSの温度分布の均一性を向上させるための部材として、被熱加工品(輸液バッグ200)の縁部201のような狭い領域に銅やアルミニウムのような外力によって変形し易い金属を使用する場合を検討する。この場合、縁部201が狭い領域であれば、熱加工型Nに型面DSに生じる繰り返し荷重に起因して型面DSの温度分布の均一性を向上させるための部材に変形が生じやすい。そのため、型面DSの位置ズレが生じやすい。しかしながら、上記の構成によれば、型面DSの温度分布の均一性を向上させるための部材として、変形しにくいグラファイトシートを使用しているため、前述のような型面DSの位置ズレが生じにくい。したがって、熱加工型Nの耐久性を向上させることができる。
【0150】
(11) 熱加工型Nは、型面DSから原材料RMへ荷重をかけながら、原材料RMを熱加工するように構成されていてもよい。
【0151】
グラファイトシートは極めて薄く形成され得る。そのため、グラファイトシートを熱加工型Nの型面DSの熱分布の均一化のために用いた場合、熱圧着の繰り返しに起因したグラファイトシートの変形はほとんど生じない。その結果、上記の構成によれば、型面DSの熱分布の均一性を向上させながら、繰り返し荷重による熱分布を均一化させるための部材の変形に起因した型面DSの位置ズレを抑制することができる。したがって、熱加工型Nの耐久性を向上させることができる。
【0152】
(12) 熱加工型Nは、型部Dと熱伝導シートSとを備えている。型部Dは、熱加工前の原材料RMに接触する型面DSを有し、型面DSから原材料RMへ熱を加えながらまたは原材料RMから熱を受け取りながら原材料RMを熱加工する。熱伝導シートSは、型部Dの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、熱加工が実行されているときに型面DSの温度分布のバラツキを低減する態様で、型部Dに隣接する位置に設けられている。型部Dは、それぞれが型面DSとしてのキャビティ面を形作る複数のキャビティ突部CPを有している。この場合、熱伝導シートSが、複数のキャビティ突部CPのそれぞれを取り囲むように形成された複数のシート貫通孔STHを有していることが好ましい。これによれば、型面DSとしての複数のキャビティ面全体の温度分布のバラツキを容易に低減しながら、複数のキャビティ突部CPを有する型部Dの小型化を図ることができる。
【解決手段】熱加工型Nは、型部Dと熱伝導シートSとを備えている。型部Dは、熱加工前の原材料に接触する型面DSを有し、型面DSから原材料RMへ熱を加えながらまたは原材料RMから型面DSへ熱を受け取りながら原材料を熱加工する。熱伝導シートSは、型部Dの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、熱加工が実行されているときに型面DSの温度分布のバラツキを低減する態様で、型部Dに隣接する位置に設けられている。