(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る胎児心電位信号判別装置について、図面を参照して説明する。
【0021】
《電極配置》
図1及び
図2はそれぞれ、胎児心電位信号判別装置に含まれる測定装置における、妊婦の腹部及びその背中側(腰)への電極配置の典型例を示す図である。
図1においては、腹部全体に電極1〜12が配置され、臍の横にはニュートラル電極N
が設けられる。同様に、
図2においては、腹部の背中側(腰)に、基準電極Ref1が配置される。なお、以下、電極1〜12,ニュートラル電極N,基準電極Ref1を総称して、電極Pと言う場合もある。
【0022】
図3は、上記のような電極配置を簡易に実現するために、妊婦の腹部に妊婦帯13を装着した状態を示す斜視図である。
妊婦帯13の正面側裏面(腹部に当たる部位)には、必要な電極が、裏面に露出した状態で取り付けられている。そして、妊婦が腹部に妊婦帯13を装着することにより、
図1,
図2に示した配置で電極1〜12,ニュートラル電極N,基準電極Ref1が、所定の部位に密着する。すなわち、妊婦は人の手を借りなくても、容易に電極を装着することができる。
また、
図4は、妊婦帯13の上にさらに、ベルト15を巻いた状態を示す斜視図である。このベルト15には、子宮収縮圧センサ14が取り付けられている。当該センサ14は、子宮収縮圧を検出する。
【0023】
図5は、妊婦帯13の正面側(腹側)の裏面を部分的に示す図である。電極Pとしては、例えば金属ボタン電極や、繰り返し密着性を発揮するパッド電極を用いることができる。
なお、図示は省略するが、電極Pや子宮収縮圧センサ14には、アンプ回路に接続するためのリード線が付いている。
【0024】
図6は、電極からアンプへの回路接続の一部について、一例を示す図である。電極1〜12の検出する電位信号は、アンプ回路16内のオペアンプ16a,16b,16c,16dその他(全12個のうち4個のみ図示している。)の非反転入力端子に入力され、増幅される。ここで、基準電極Ref1の信号は、各オペアンプの反転入力端子に入力される。ニュートラル電極Nは、各オペアンプと共通の、GND接続の状態にある。
【0025】
《システムの全体構成》
図7は、上記のような多数の電極P、アンプ回路16等によって構成される測定装置100及び、その出力に基づいて情報処理を行う情報処理系200を示すブロック図である。このシステム全体は、胎児心電位信号判別装置110を用いた妊婦見守りシステムを構成するものである。
【0026】
測定装置100のうち電極Pや子宮収縮圧センサ14は、前述のように、妊婦帯13等(妊婦帯13、ベルト15)に装着されている。また、測定装置100のその他の部分であるアンプ回路16や送信部100sは、電極Pや子宮収縮圧センサ14に接続される電子回路ユニットであり、リチウムイオン電池のような電源と共に、コンパクトに構成することができる。従って、妊婦帯13等の付属物として装着することも可能である。また、妊婦帯13等からリード線を介して接続される外部ユニットとして、ホルター心電計のように着衣の上に携帯するようにしてもよい。
【0027】
測定装置100及び、情報処理装置としてのパソコン20は、胎児心電位信号判別装置110を構成している。このパソコン20は、妊婦の家に設置されているものである。すなわち、胎児心電位信号判別装置110は、妊婦の身体や、妊婦の家に設置される。測定装置100とパソコン20とは無線(例えばブルートゥース、WiFi、UWB)により通信するので、妊婦は行動を制約されない。但し、胎児心電位信号判別装置110を構成したいときは、パソコン20と無線通信が可能な距離範囲内に、測定装置100すなわち妊婦が居ることが必要である。なお、無線通信は好適例であるが、これに限定されるものではない。例えば、妊婦がパソコン20の傍に来て、パソコン20と測定装置100とを、互いに有線接続する(例えばUSBを利用する。)という構成も可能である。
【0028】
図7において、測定装置100のアンプ回路16には、多数の電極P及び、必要により子宮収縮圧センサ14から、信号が入力され、増幅される。電極Pからの信号は、母体及び胎児の双方に基づく、生体電位信号である。増幅された生体電位信号は、マルチプレクサ17を介してA/Dコンバータ18によりデジタル信号に変換される。そして、デジタル信号は、ブルートゥース通信部19により、パソコン20に送られる。このパソコン20は、いわば電子母子手帳として、妊婦あるいは胎児の情報を収集する役目を担う。
【0029】
上記マルチプレクサ17、A/Dコンバータ18及びブルートゥース通信部19は、送信部100sを構成している。
このように、測定装置100は、電極P及びアンプ回路16を主要部として、必要により子宮収縮圧センサ14も備え、さらに、パソコン20との近距離通信のための送信部100sを備えた構成となっている。
【0030】
パソコン20は、インターネット回線21を介して医療機関のサーバー22と接続されている。また、サーバー22は、医師用のパソコン23と接続されている。サーバー22には、妊婦や医師の連絡先(例えば携帯電話のメールアドレス)が登録されており、必要に応じて、サーバー22から妊婦や医師に連絡を取ることができるようになっている。
【0031】
《胎児心電位信号判別の機能構成》
図8は、パソコン20のハードウェアとパソコン20が実行することによって胎児心電位信号を実現するためのプログラムの機能とを含む、胎児心電位信号判別機能構成を模式的に示す図である。
【0032】
受信機能30は、測定装置100から送信された生体電位信号を受信する機能である。受信機能30は、例えばBluetooth(登録商標)の受信モジュールおよびそのドライバプログラムによって実現できる。メインメモリ31は、受信機能30が受信した生体電位信号を記録する。
【0033】
バッファメモリ32は、メインメモリ31に格納された12チャンネルの生体電位信号から同一期間の5秒分のデータを5秒周期で取得して、1フレーム分のデータとして記憶する。母体心拍チャンネル選択機能33は、測定装置100から送信された生体電位信号の中から、母体心拍信号が現れる可能性の高い、母体心電位信号の成分の大きいチャンネルの生体電位信号を選択する機能である。後述する第1ピークタイミング検出機能34によって、選択したチャンネルのピークタイミングが検出できない場合、別のチャンネルを選択し、ピークタイミングが検出されるまで生体電子信号の選択を継続する。
【0034】
第1ピークタイミング検出機能34は、母体心拍チャンネル選択機能33が選択したチャンネルの生体電位信号のピークタイミングを検出する機能である。なお、ピークタイミングの具体的な検出原理は後述する。第1周期演算機能35は、第1ピークタイミング検出機能34が検出したピークタイミングの各ピーク間隔を算出する。第1ピークタイミング検出機能34は、第1周期演算機能35が検出したピークタイミングの各ピーク間隔の分散が所定の基準分散値以下となる出力信号を、周期性がある信号とする。入力された生体電位信号のピークタイミングに周期性がない場合は、第1ピークタイミング検出機能34は、母体心拍チャンネル選択機能33に別の生体電位信号を選択させる。第1周期演算機能35は、最先のピークについては、ひとつ前のフレームの最終ピークとの間の間隔を算出する。
【0035】
一般に、母体の心拍信号は胎児の心拍信号よりも大きな振幅である。したがって、メインメモリ31に格納された複数の生体電位信号は、いずれも母体の心拍信号の成分が顕著に出現する可能性が高い。そこで、第1ピークタイミング検出機能34は、ピークタイミングに周期性がある生体電位信号を検出した場合、そのピークタイミングを母体の心拍のピークタイミングと推定する。
【0036】
第1平均周期演算機能36は、第1ピークタイミング検出機能34が周期性があると判断した生体電位信号のピークタイミング間隔の平均値を算出し、その信号の平均周期とする機能である。乱数発生機能37は、後述する独立成分分析機能38が算出する分離行列の初期値を生成する機能である。独立成分分析機能38は、複数の独立した信号源から発生した信号がそれぞれ異なる割合で混合されて観測された複数の観測信号を入力として、非正規性を指標として信号源を推定する機能である。独立成分分析機能38はまた、複数の観測信号に積算することで独立信号を生成する分離行列も同時に推定する。
【0037】
第2ピークタイミング検出機能39は、独立成分分析機能38が出力した信号を入力信号として、それぞれの信号のピークタイミングを検出する機能である。第1ピークタイミング検出機能34と同様、ピークタイミングの具体的な検出原理は後述する。第2周期演算機能40は、第2ピークタイミング検出機能39が検出したピークタイミングの各ピーク間隔を算出する。第2周期演算機能40は、最先のピークについては、ひとつ前のフレームの最終ピークとの間の間隔を算出する。
【0038】
第2ピークタイミング検出機能39は、第1ピークタイミング検出機能34と同様に、第2ピークタイミング検出機能39が検出したピークタイミングの各ピーク間隔の分散が所定の基準分散値以下となる出力信号を周期性がある信号とする。第2平均周期演算機能41は、第2ピークタイミング検出機能39が周期性があると判断した生体電位信号のピークタイミング間隔の平均値を算出し、その信号の平均周期とする機能である。
【0039】
胎児心拍判別機能42は、第1ピークタイミング検出機能34が検出した母体心拍のピークタイミングと、第1平均周期演算機能36が取得した母体心拍の平均周期とを基準入力として取得する。胎児心拍判別機能42はまた、独立成分分析機能38が生成した独立信号のうち、第2周期演算機能40が周期性があると判断した信号のピークタイミング情報と、第2平均周期演算機能41が取得した平均周期情報とを比較入力として取得する。
【0040】
胎児心拍判別機能42は、母体心拍の平均周期と第2平均周期演算機能41が取得した平均周期とを比較して、両者の差が所定の基準値以上となる信号を、母体心拍のピークタイミングとは異なるピークタイミングの出力信号として選択する。胎児心拍判別機能42は、母体心拍の平均周期と比較して、差が所定の基準値以上となる周期を持つ信号がない場合、第2周期演算機能40が周期性があると判断した信号のピークタイミングの位相が、母体心拍のピークタイミングの位相と所定の基準位相差以上となる出力信号を、母体心拍のピークタイミングとは異なるピークタイミングの出力信号として選択する。
【0041】
胎児心拍判別機能42は、独立成分分析機能38が生成した独立信号のいずれもが、母体心拍のピークタイミングの平均周期も位相も類似する場合は、独立成分分析に失敗したものとみなし、乱数発生機能37に分離行列の初期値を新規に発生させる。胎児心拍判別機能42は、母体心拍のピークタイミングと異なるピークタイミングの信号を選択した場合、当該チャンネルを特定する判別情報を胎児心電位信号としてディスプレイ46等に出力する。胎児心拍判別機能42はさらに、胎児心拍の判別が5秒以内にできなかった場合は、当該フレームにおける判別動作を中止する。
【0042】
胎児心拍チャンネル選択機能43は、胎児心拍判別機能42の判別情報をもとに、独立成分分析機能38が出力した信号の中から胎児心拍信号を選択して出力する機能である。胎児心拍数演算手段44は、胎児心拍判別機能42の判別情報をもとに、独立成分分析機能38が出力した信号の中から胎児心拍信号として選択された信号のピーク周期より、胎児の心拍数を算出する機能である。
【0043】
表示制御機能45は、少なくとも、母体心拍が顕著な生体電子信号と独立成分分析機能38が出力した信号のうち胎児心拍と判断された信号と胎児心拍数演算手段44が算出した胎児心拍数とを継続してディスプレイ46に出力することで、複数フレーム分の母胎心拍波形と胎児心拍波形とグラフ化した胎児心拍数の変化とをパソコン上のディスプレイ46に表示させる機能である。尚、グラフ化された胎児心拍数変化は、医師が胎児の健康状態をチェックする上で重要であり医師用のパソコンには必須の表示要素である。また、本実施例ではディスプレイ46をパソコン上のモニタ画面としたが、パソコンと同等の機能を有する携帯端末に本実施例を採用すれば、携帯端末のディスプレイに表示することもできる。
【0044】
図9は、胎児心拍判別機能42の内部機能を詳細に示す図である。
【0045】
平均周期比較機能47は、第1ピークタイミング検出機能34が検出した母体心拍のピークタイミングと、第1平均周期演算機能36が取得した母体心拍の平均周期とを基準入力として取得する。胎児心拍判別機能42はまた、独立成分分析機能38が生成した独立信号のうち、第2周期演算機能40が周期性があると判断した信号のピークタイミング情報と、第2平均周期演算機能41が取得した平均周期情報とを比較入力として取得する。平均周期比較機能47は、母体心拍の平均周期と第2平均周期演算機能41が取得した平均周期とを比較して、両者の差が所定の基準値以上となる場合、母体心拍のピークタイミングとは不一致出力を発生する。平均周期比較機能47はまた、両者の差が所定の基準値未満となる場合、一致信号を発生する。
【0046】
位相比較機能48は、平均周期比較機能47が一致出力を出力した場合、第2周期演算機能40が周期性があると判断した信号のピークタイミングの位相が、母体心拍のピークタイミングの位相と所定の基準位相差以上となる場合、不一致を出力する。位相比較機能48はまた、第2周期演算機能40が周期性があると判断した信号のピークタイミングの位相が、母体心拍のピークタイミングの位相と所定の基準位相差以上となる信号が存在しなければ、胎児心拍と判別できる独立成分データが存在しないと判別して一致出力を発生する。
【0047】
乱数更新決定機能49は、位相比較機能48から出力される一致出力を入力し、1フレーム期間内なら乱数更新出力を発生する。胎児心拍チャンネル決定機能50は、平均周期比較機能47と位相比較機能48とから入力される不一致出力を入力して、不一致と判断したチャンネルを特定する判別情報を発生する。
【0048】
図10は、第1ピークタイミング検出機能34、および第2ピークタイミング検出機能39の内部機能を詳細に示す図である。
【0049】
TOE演算機能51は、微小ノイズを抑圧して信号のエネルギーを生成するティーガーエネルギー演算機能である。ここで「信号のエネルギー」とは、例えば信号の各サンプル点における振幅の大きさを示す指標であり、ティーガーエネルギー演算は信号のエネルギーを求めるためのひとつの手段である。したがって、ティーガーエネルギー演算に代えて、各サンプルにおける振幅を二乗することによって得られる信号も、「信号のエネルギー」となる。ティーガーエネルギー演算は信号のエネルギーを算出する手段の一例であり、ティーガーエネルギー演算以外のエネルギー演算を用いてもよいことは、当業者であれば容易に理解できる。
【0050】
ティーガーエネルギー演算子は、時間周辺分布を求める手法の1つとして知られている。同様な目的の手法としては、二乗検波や相互相関があるが、ティーガーエネルギー演算子を用いる手法は、ノイズのパワーに対して心電のパワーが高いときには極めて有効であり、二乗検波や相互相関よりも、S/N比を改善して心電の電位信号を精度良く検出することができる。
なお、心電波形の特徴を成す部分には、P波、Q波、R波、S波、T波があるが、R波はピークが顕著に表れ、値も大きいので、検出が容易である。
【0051】
閾値制御機能52は、心拍ピークの発生が予定されている区間においてピーク検出のための閾値レベルを下げ、それ以外の期間では閾値レベルを上げて、ノイズのピークを誤って検出しないように閾値のレベルを制御する機能である。
【0052】
一般に、心電の電位信号から心拍間隔を測定しようとする場合、連続するR波、すなわち心電の中で最も振幅の大きい波形のピークを検出し、その間隔を測定する。比較的ノイズの重畳が少なく、また基線の大きな変動がなければ、適当な閾値を定め、閾値を超える値の中から、極大点を求めるという方法が利用できる。この方法は簡便であり、計算量が少ないため、リアルタイム処理に向いている。
【0053】
しかしながら、本実施の形態は母体腹壁から分離した胎児心電信号からピークを検出するため、解析対象の電位信号にノイズが大きく混入したり、振幅そのものが変動したりする場合も想定される。このような場合は、固定の閾値を用いる方法では、R波のピークを正しく検出できない恐れがある。そこで閾値制御機能52は、解析対象の電位信号の移動平均値を利用して閾値を可変に設定する。これにより、解析対象の電位信号にノイズがのっていても、ロバストなピークタイミングの検出が可能となる。
【0054】
図11は、閾値制御機能52の閾値特定を説明するための図である。
図11の各図において、縦軸は各電極で検出された電位に基づく信号振幅、横軸はサンプリングを表す。
図11の各図に示す例では、サンプリング間隔は2[ミリ秒]である。
図11の各図に示す例は2500サンプル分のデータを表すので、1フレームの5秒分のデータを表す。
【0055】
図11(a)は、独立成分分析機能38が生成した独立信号の例を示す図である。
図11(a)に示す信号は、後述する
図12(a)に示す例と比較すると、胎児心電信号が比較的綺麗に分離されている信号の例であり、連続するR波と思われる信号が確認できる。以下、
図11(a)に示す独立信号を時間tの関数x(t)と記載することとする。
【0056】
図11(b)は、
図11(a)に示す信号x(t)のエネルギー信号y(t)を示す図である。閾値制御機能52は、まず信号x(t)に適当なエネルギー演算子ψ(・)を適用し、エネルギー信号y(t)を得る。ここでエネルギー演算子ψ(・)は、例えば2乗演算子である、この場合、閾値制御機能52はエネルギー信号y(t)を、以下の式(1)で求める。
y(t)=ψ{x(t)}=x(t)
2・・・(1)
【0057】
次にエネルギー信号y(t)極大点を求めやすくするために、閾値制御機能52は、エネルギー信号y(t)を平滑化した信号z(t)を求める。このとき、平滑化フィルタは低域通過型フィルタを設計しても良いし、単純移動平均でもよい。以下の式(2)は、単純移動平均を用いてz(t)を求める式である。
【数1】
ここでNは単純移動平均フィルタの次数である。
【0058】
続いて可変閾値を求めるために、閾値制御機能52は、平滑化エネルギー信号z(t)の移動平均w(t)を以下の式(3)を用いて求める。
【数2】
【0059】
なお、Mはフィルタ次数を表し、対象とする区間内の平均心拍間隔をRR
aveとしたとき、以下の式(4)を満たすように定める。
RR
ave<M<2RR
ave・・・(4)
すなわち、対象とする区間内の平均心拍間隔より広く、かつ平均心拍間隔の2倍よりも狭い間隔を、移動平均を求めるためのウィンドウ幅であるフィルタ次数Mとする。
【0060】
また、信号z(t)の1フレームのデータ長をLとするとき、閾値制御機能52は、その標準偏差σを以下の式(5)で求める。
【数3】
【0061】
最後に、閾値制御機能52は、可変閾値mThを以下の式(6)に示す定義にしたがって求める。
mTh=αw(t)+βσ・・・(6)
ここでαおよびβは可変閾値mThを求めるためのパラメータである。すなわち、可変閾値mThaは、平滑化エネルギー信号w(t)とその標準偏差σとの線形和である。R波検出機能53は、この可変閾値mThを超えた信号部分の極大点をR波のピークとして検出する。αおよびβの値は、心電の生体電位信号を参照して実験により定めればよい。
【0062】
図11(c)は、
図11(a)に示す信号x(t)の平滑化エネルギー信号z(t)、可変閾値mTh、およびR波検出機能53が検出したR波のピークを示す図である。
図11(c)においては、平滑化エネルギー信号z(t)を実線で示し、可変閾値mThを破線で示し、R波検出機能53が検出したR波のピークを“O”で示している。
図11(c)に示すように、胎児心電信号と考えられる信号x(t)のうち、連続するR波と思われる信号のピークが可変閾値mThを上回り、他の信号領域は可変閾値mThを下回っており、ピークの検出が成功している。
【0063】
図12は、閾値制御機能52の閾値特定を説明するための別の図である。
図12の各図に示す図も、
図11に示す図と同様、縦軸は各電極で検出された電位に基づく信号振幅、横軸はサンプリングを表す。
図12の各図に示す例のサンプリング間隔は
図11に示す例と同じであり、
図12の各図は1フレーム分のデータを表す。
図12(a)は、
図11(a)と同様に独立成分分析機能38が生成した独立信号の例を示す図であるが、
図11(a)に示す信号と比較すると、ノイズ成分が多く重畳されている。
図12(b)は、
図12(a)に示す信号のエネルギー信号を示す図である。
図12(b)に示す信号は、
図11(b)に示す信号と比較すると、連続するR波と考えられる信号の間にもノイズ成分によるピークが確認できる。
【0064】
図12(c)は、
図12(a)に示す信号の平滑化エネルギー信号と、その可変閾値mThとを示す図である。
図11(c)と同様に、平滑化エネルギー信号を実線で示し、可変閾値mThを破線で示し、R波検出機能53が検出したR波のピークを“O”で示している。
図12(c)に示すように、元となる信号にノイズが重畳されている場合であっても、ピークの検出に成功している。
【0065】
図10の説明に戻り、R波検出機能53は、入力された生体電信号データと閾値制御機能52が生成した閾値のレベルとを比較して、心拍波形のR波の発生タイミングを検出する機能である。タイミング記憶機能54は、検出したR波のピークタイミングを記憶する機能である。タイミング記憶機能54は、例えば揮発性のメモリ等を用いて実現できる。
【0066】
次に、上述した式(6)で示す可変閾値mThにおけるαおよびβの定め方の一例を説明する。
【0067】
閾値制御機能52は、αおよびβそれぞれを所定の初期値に設定して可変閾値mThの初期値を得る。続いて閾値制御機能52は、エネルギー信号を取得し、そのエネルギー信号のうち可変閾値mThの初期値以上の信号から、ピークの候補を取得する。したがって、閾値制御機能52が設定する「所定の初期値」とは、ピーク候補を取得するために定めるピークのピーク候補算出基準初期値であり、複数の心電位信号を統計処理して実験により定めればよい。
【0068】
タイミング記憶機能54は、R波検出機能53が検出したピーク候補のタイミングを記憶する。閾値制御機能52は、タイミング記憶機能54に記憶されたピーク候補の各ピークタイミングの間隔を取得する。これは閾値制御機能52がピーク候補の各ピークタイミングの間隔を算出してもよいし、第1周期演算機能35または第2周期演算機能40に演算させた結果を取得してもよい。
【0069】
閾値制御機能52は、取得した各ピークタイミングの間隔が揃うようにαまたはβの少なくともいずれか一方の値を変更する。具体的には、αまたはβの少なくともいずれか一方の値を所定量増加させて更新閾値を設定する。R波検出機能53は、更新閾値をもとにピーク候補を新たに取得してタイミング記憶機能54に記憶させる。
【0070】
一般にR波は周期性のある信号である。真のピークにおける各ピークタイミングの間隔は、第1周期演算機能35または第2周期演算機能40において周期性の判断に用いる基準分散値以下となるので、閾値制御機能52は基準分散値をピーク候補が真のピークであるか否かの判断に用いることができる。ここで、閾値の値が小さいときは、ノイズ成分がピーク候補に混入すると考えられる。そのため閾値制御機能52は、αまたはβの少なくともいずれか一方の値を徐々に増加させることによって可変閾値mThの値を増加させる。これにより、閾値制御機能52はノイズ成分を閾値以下とし、ピーク候補の各ピークタイミングの間隔が基準分散値以下となるまで、上述の処理を繰り返してαまたはβの少なくともいずれか一方の値を更新する。ピーク候補の各ピークタイミングの間隔が基準分散値以下となったとき、閾値制御機能52は閾値の更新を終了し、そのときタイミング記憶機能54に記憶されているピークタイミングがR波となる。
【0071】
《胎児心電位信号判別装置の動作》
次に、胎児心電位信号判別装置110の動作について詳細に説明する。なお、子宮収縮圧センサ14に関する説明は省略し、電極Pから得られる生体電位信号に関する動作について説明する。
図13は、パソコン20によって実行される、胎児心電位信号の判別を行う処理の一例を示すフローチャートの前半部である。バッファメモリ32は、メインメモリ31から解析に用いるフレームデータを選択して格納する(S1)。母体心拍チャンネル選択機能33は、バッファメモリ32に格納されている12チャンネルの生体電位信号の中から、所定のチャンネルを選択する(S2)。
【0072】
第1ピークタイミング検出機能34は、母体心拍チャンネル選択機能33が選択したチャンネルの生体電位信号のピークタイミングを検出する(S3)。ピークタイミングの検出が成功しない場合(S4のN)、母体心拍チャンネル選択機能33は、選択するチャンネルを変更する(S5)。第1ピークタイミング検出機能34がピークタイミングの検出に成功した場合(S4のY)、
図14に示すフローの中盤のステップS6に進む。
【0073】
図14は、パソコンによって実行される、胎児心電位信号の判別を行う処理の一例を示すフローチャートの中盤部である。
【0074】
乱数発生機能37は、独立成分分析機能38が推定する分離行列の初期値を乱数を生成することで生成する(S6)。続いて独立成分分析機能38は、バッファメモリ32に格納されている、少なくとも母体の心拍信号と胎児の心拍信号とが混合されている12チャンネルの生体電位信号を、独立信号に分離するための分離行列を推定する(S7)。独立成分分析機能38は、推定した分離行列を12チャンネルの生体電位信号に積算して、独立信号を生成して出力する(S8)。
【0075】
第2ピークタイミング検出機能39は、独立成分分析機能38が出力した信号を入力信号として、それぞれの信号のピークタイミングを検出する(S9)。第2周期演算機能40が、第2ピークタイミング検出機能39が検出したピークタイミングに周期性を検出できなかった場合(S10のN)、ステップS6に戻って再び独立成分分析を開始する。
【0076】
第2周期演算機能40が、第2ピークタイミング検出機能39が検出したピークタイミングに周期性を検出した場合(S10のY)、
図15に示すフローの後半のステップS11に進む。
【0077】
胎児心拍判別機能42中の平均周期比較機能47は、第1ピークタイミング検出機能34が検出した母体心拍のピークタイミングと、第1平均周期演算機能36が取得した母体心拍の平均周期とを基準入力とし手取得して両者の大小関係を比較する(S11)。平均周期比較機能47は、第1平均周期演算機能36が取得した母体心拍の平均周期と比較して、差が所定の基準値以上となる周期を持つ信号を検出した場合、検出成功とする。平均周期比較機能47が検出に成功しない場合(S11のN)、位相比較機能48は、第2周期演算機能40が周期性があると判断した信号のピークタイミングの位相と、母体心拍のピークタイミングの位相とを比較する(S12)。
【0078】
位相比較機能48は、第2周期演算機能40が周期性があると判断した信号のピークタイミングの位相が、母体心拍のピークタイミングの位相と所定の基準位相差以上となる信号が存在すれば、検出成功とする。位相比較機能48が検出に成功した場合(S13のY)、または平均周期比較機能47が検出に成功した場合(S11のY)、表示制御機能45は、ディスプレイ46に判別結果を表示する(S14)。
【0079】
位相比較機能48も検出に成功しなかった場合(S13のN)、かつひとつのフレーム中から胎児心拍信号を判別するために定められた所定時間が経過した場合、すなわちタイムアップとなった場合(S15のY)、
図13に示すステップS1に戻って次のフレームデータの処理を開始する。タイムアップとなっていない場合(S15のN)、
図14に示すステップS6に戻って分離行列の推定から処理を継続する。
【0080】
表示制御機能45がディスプレイ46に判別結果を表示した後、メインメモリ31に格納されたデータの解析が終了していない場合(S16のN)、
図14に示すステップS8に戻って処理を継続する。このとき、既に求めた分離行列を再利用する。分離行列を推定するための時間を省略することができるため、計算速度の向上に効果がある。メインメモリ31に格納されたデータの解析が終了した場合、あるいは、ユーザが明示的に処理の終了を選択すると(S16のY)、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0081】
次に、独立成分分析について簡単に述べる。独立成分分析(ICA:Independent Component Analysis)は、多変量解析の一種であり、信号源が多数あり、多点計測されたデータの分析に適する。妊婦の内部には各種独立した心電信号Sが信号源として存在している。
【0083】
ここで、例えば、S1(t)は母体心電、S2(t)は胎児心電である。妊婦の腹部で電位を検出する電極がn個あるとすると、電極による観測信号Yは、以下のように表される。
【0085】
ここで、胎児心電S2(t)は、各電極の信号Y1(t)〜Yn(t)に少しずつ混ざっている。この混ざり方に関与しているのが以下の行列Cであるとすると、Y=C・Sの関係があると解される。
【0087】
従って、S=C
−1・Yを満たす分離行列C
−1を見つければ、電極の電位に基づいて母体心電S1(t)及び胎児心電S2(t)を、求めることができる。言い換えれば、適切な分離行列C
−1が設定されれば、S=C
−1・Yにより、母子2体の心拍が現れるはずである。なお、独立成分分析自体は既知の手法であり、その詳細は省略するが、ある評価関数を用いて、分離行列が適切な解に至るように収束させるものである。
【0088】
図16は、取り込まれる信号(以下、元信号という。)に対してパソコン20でバンドパスフィルタの処理を行い、帯域外の周波数のノイズを除去した後の波形の一例を、アナログ波形として示すグラフである。
図16の各図において、縦軸は各電極で検出された電位に基づく信号振幅、横軸はサンプリングを表す。
図16の各図に示す例では、サンプリング間隔は2[ミリ秒]である。
図11の各図に示す例は5000サンプル分のデータを表すので、2フレーム、10秒分のデータを表す。これは、10チャンネル分の波形を示しているが、実際は電極1〜12に対応した12チャンネル分の波形が得られる(
図17は、12チャンネル分を示している。)。
図16において、多くのチャンネルに、周期性のある電位信号が現れる。周期的に現れている大きな振幅は、母体の心拍によるものである。
【0089】
母体心電は、レベル差はあるが、
図16のどの信号波形にも現れている。しかしながら、心電図の誘導法である双極誘導の第2誘導に従うベクトル軸に沿うような位置にある電極の信号に基づいて周期を検出することが、より好ましい。
【0090】
図17は、独立成分分析を施した結果の波形を示すグラフである。
図17に示す図も、
図16に示す図と同様、2フレーム分のデータを表す。独立成分分析により、母体心電の他、胎児心電が分離抽出され、母体とは周期が明らかに異なる胎児の心電が、上から4番目のチャンネルy4に出現している。また、母体心電がチャンネルy7,y12に明確に現れている。パソコン20は、以下の処理により、チャンネルy4の電位信号が胎児のものであると特定する。
なお、
図17は、分析結果が比較的良い例を示している。常に、このような分析結果が得られるとは限らないので、後述の処理によって胎児心電が判別できる場合と、できない場合とがある。
【0091】
上記のように構成された胎児心電位信号判別装置によれば、妊婦は基本的に電極のみを装着すればよく、超音波センサ等の他のセンサは不要である。また、独立成分分析と、母子の心電位信号の周期差への着目とにより、胎児心電を確実に判別することができる。
従って、簡単で確実に、胎児心電を判別することができる。
【0092】
なお、上記では独立成分分析の演算は、分離行列が適切な解に収束することを前提として説明したが、実際には、所定時間内に適切な解に収束しない場合も起こり得る。このような場合には、タイムアウトとして分析を中止し、次フレームについての独立成分分析に移行させればよい。また、この場合には当然ながら、現フレームでは所定時間内に胎児心電の判別はできないことになる。
【0093】
《妊婦見守りシステムの概略》
また、
図7において、パソコン20は、判別した胎児心電の情報のみならず、独立成分分析を行う前の信号や、その他、妊婦側から取得した情報をインターネット回線21経由でサーバー22に送る。情報を受け取ったサーバー22は、かかりつけの医師に、例えばメールを送る等により注意を促す。この連絡を受けた医師は、医師用パソコン23で、送られて来た情報を見ることができる。もし、胎児や母体の心拍数等に問題があれば、妊婦に来院を促す等の指導を行う。このようにして、妊婦は、在宅のまま、医師の適切な指導を受けることができるので、妊婦を無事に出産までサポートする見守りシステムを構築することができる。
【0094】
なお、上記実施形態では、胎児心電を判別する情報処理装置は、パソコン20であるとして説明したが、このような機能は、サーバー22や医師用パソコン23によって実現するようにしてもよい。サーバー22や医師用パソコン23の処理能力が高い場合には、それらに独立成分分析を多数回行わせて、分離抽出の精度を高めることができる。また、パソコン20の代わりに、PDA(携帯情報端末)のように入力機能と表示機能に特化した端末を使用することも可能である。この場合は、サーバー22又は医師用パソコン23が、胎児心電を判別する情報処理装置となる。
【0095】
また、原理的には、送信部100s内に、胎児心電を判別する情報処理装置の機能を搭載することも可能である。さらに、妊婦宅のパソコンには依存せず、送信部100sから遠距離無線通信により直接、サーバー22に情報を送り込むシステム構成とすることも可能である。
要するに、胎児心電を判別する機能を有する情報処理装置をどこに設けるかは、種々のバリエーションが可能である。
【0096】
(変形例)
図18は、本発明の変形例に係る、胎児心電位信号の判別を行う処理の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS100において、パソコン20は、測定装置100から、母体及び胎児の双方に基づく生体電位信号(の情報)を、一定期間分だけ取り込み(ステップS100)、記憶する。
【0097】
パソコン20は、母体心電位信号(以下、母体心電という。)の周期検出(ステップS300)、母体心電及び、胎児心電位信号(以下、胎児心電という。)の周期検出、並びに、胎児心電の判別(ステップS400)を、実行する。なお、ステップS300,S400は、並行処理で同時進行でもよいが、胎児心電の判別を行う前には、ステップS300における母体心電の周期検出が完了していることが必要である。
ステップS400の処理は、フィルタ処理後の波形を、一定時間ごとの複数のフレーム(区間)に区切って、その各フレームについて行われる。
【0098】
図19は、上記の母体心電の周期検出(ステップS300)の具体的な内容の例を示すフローチャートである。まず、パソコン20は、フィルタ処理された信号にティーガーエネルギー演算子(Teager Energy Operator、TEOと略記する。)を適用し、信号波形のS/N比を改善する(ステップS310)。
【0099】
パソコン20は、閾値を設定して、それを超える母体心電のピーク検出を行う(ステップS320)。このとき、閾値は一定値ではなく、予想されるピークタイミングに合わせて変化させることが好ましい。そもそも閾値を低く設定すると、本来検出したい母体心電のピーク以外のノイズ等も誤って検出する可能性が高くなり、逆に、閾値を高く設定すると、本来検出したいピークの検出に失敗する可能性が生じる。しかしながら、閾値を、予想されるピークタイミングに合わせて適宜変化させることにより、検出したくない信号を排除しつつ、検出したい信号(ピーク)を、より確実に検出することができる。具体的には、母体心電の経験値からピークタイミングを予想できる。また、パソコン20は、ピーク検出に基づいて周期を求め、記憶する。そして、記憶した複数の周期の平均値を、母体心電の周期とする(ステップS330)。
【0100】
そこで、まず、パソコン20は、
図20に示すフローチャートにおいて独立成分分析の処理を行う(ステップS410,S420)。具体的には、まず、パソコン20は、乱数による分離行列の初期値設定を行う(ステップS410)。そして、パソコン20は、分離行列と、フィルタ処理された信号との積算(上記のS=C
−1・Yの演算に相当する。)を行い(ステップS420)、母体及び胎児の信号の候補となる独立成分の抽出を行う。
【0101】
図20に戻り、パソコン20は、抽出された信号にティーガーエネルギー演算子を適用し、信号波形のS/N比を改善する(ステップS430)。前述のように、ティーガーエネルギー演算子を用いる手法は、ノイズのパワーに対して心電のパワーが高いときには極めて有効である。従って、相対的に小さなノイズと大きな信号を表す
図17のチャンネルy4,y7,y12は、S/N比が改善され、逆に、その他のチャンネルの信号は、あまり改善されないことになる。
【0102】
次に、パソコン20は、閾値を設定して、それを超える信号波形のピーク検出を行う(ステップS440)。このとき、前記と同様に、閾値は一定値ではなく、予想されるピークタイミングに合わせて変化させることが好ましい。具体的には、母体心電の経験値及び胎児心電の経験値からそれぞれピークタイミングを予想できる。パソコン20は、周期的にピークが検出されたチャンネルの信号について、それらの周期を求め、記憶する。このような処理により、S/N比の良いチャンネルy4,y7,y12の信号に絞り込んで、それらのピーク出現の周期を求めることができる。また、パソコン20は、記憶した複数の周期の平均値を求める(ステップS450)。ここで、チャンネルy7の信号の周期と、チャンネルy12の信号の周期とは、信号源(母体の心拍)が同じであるので、互いに一致する。互いに大きく異なるのは、チャンネルy7(又はy12)の信号の周期と、チャンネルy4の信号の周期とである。
【0103】
以上の処理により、元信号にフィルタ処理した信号に基づく母体心電の周期τmと、フィルタ処理した信号に独立成分分析を施して得た信号に基づく母体心電の周期τm’及び胎児心電の周期τfとが求められる。ここで、母体心電の周期τmとτm’とは、通常、よく一致し、小数点レベルの差しかない。一方、通常、胎児の心拍数は母体よりもかなり多く、τm及びτm’のどちらから見ても、明らかに大きく異なる周期は、胎児心電の周期τfである。従って、パソコン20は、チャンネルy4の信号を胎児心電と判定する(ステップS460)。
【0104】
胎児心電と特定された信号波形は、パソコン20の画面上に表示される。また、
図17に示すような各チャンネルの信号波形の全てあるいはその一部(チャンネルy4,y7等)を表示するようにしてもよい。また、胎児心電や母体心電の周期を逆算した心拍数をデジタル表示若しくはグラフ表示するようにしてもよい。これにより、妊婦は、家にいながら、胎児の心拍数やその変化を確認することができる。
【0105】
一方、独立成分分析の結果によっては、胎児心電を判別できない場合もある。そこで、パソコン20は、判別できたか否かの判定を行う(ステップS470)。ここで、判別できなかった場合、パソコン20は、独立成分分析の開始から所定時間を超過したか否かを判定する(ステップS4B)。所定時間内であれば、パソコン20は、引き続き独立成分分析を行い、ステップS410〜S470を繰り返す。判別ができないまま所定時間が経過すると、パソコン20は当該フレームでの処理を断念し、次フレーム処理に移行する(ステップS4C)。このようにして、判別が所定時間内にできなかったときは、さらに時間をかけず、次の期間での独立成分分析を行う、という合理的な処理を行うことができる。
【0106】
一方、判別ができたときは、全フレームについて処理(ステップS410〜S460)が終了したか否かを判定し(ステップS480)、分離行列の特定(ステップS490)を行い、次フレーム処理へ移行する(ステップS4A)。この場合の次の独立成分分析は、特定された分離行列が初期値となるので、ステップS420から実行される。これにより、それ以降における独立成分分析に要する時間を、短縮することができる。全フレームについて処理が終われば(ステップS480のYes)、ステップS400(
図20)は完了となる。引き続き、
図20に示す処理が繰り返し実行される。
《その他変形例》
なお、上記実施形態では、周期に基づいて胎児心電を特定するが、極めてまれには、母体心電の周期と、胎児心電の周期とで、差が無いこともあり得る。そこで、もしもパソコン20が胎児心電を判別できなかったときは、母体心電及び胎児心電の候補について、波形のピークが現れるタイミングを検出して位相比較を行うようにしてもよい。すなわち、この場合は、独立成分分析とは別に検出した母体心電の位相と、独立成分分析後の母体心電及び胎児心電の候補となる各電位信号の位相とを比較して、より大きく位相が異なる電位信号を胎児心電とすればよい。これにより、極めてまれに周期の差が明確でない場合があっても、位相の差によって、胎児心電を検出することができる。
【0107】
また、周期に代えて、最初から位相に着目して胎児心電を検出することも可能である。この場合の情報処理装置は、生体電位信号の波形から母体心電位信号の所定部位(例えばR波のピーク)の位相を検出し、かつ、生体電位信号に独立成分分析を施して互いに位相が異なる複数の電位信号を取得し、当該複数の電位信号の所定部位の位相を母体心電位信号の位相と比較して、より大きく異なる位相を持つ電位信号を胎児心電位信号とする、という構成になる。
【0108】
以上説明した本発明の実施の形態の変形例は以下の記載によって特定できる。
【0109】
(1)本発明の胎児心電位信号判別装置は、妊娠中の母体に取り付けられた複数の電極から、母体及び胎児の双方に基づく生体電位信号を取得する測定装置と、前記生体電位信号の波形から母体心電位信号の周期を検出し、かつ、前記生体電位信号に独立成分分析(Independent Component Analysis;ICA)を施して互いに周期が異なる複数の電位信号を取得し、当該複数の電位信号の周期を前記母体心電位信号の周期と比較して、より大きく異なる周期を持つ電位信号を胎児心電位信号とする情報処理装置とを備えたものである。
【0110】
上記のように構成された胎児心電位信号判別装置では、測定装置が、母体及び胎児の双方に基づく生体電位信号を取得する。情報処理装置は、この生体電位信号に基づき、その波形から母体心電位信号の周期を検出する。また、情報処理装置は、生体電位信号に独立成分分析を施して互いに周期が異なる複数の電位信号を取得する。当該複数の電位信号とは、母体心電位信号と、胎児心電位信号とを含む。そこで、これらの電位信号を、独立成分分析とは別に検出した母体心電位信号の周期と比較して、より大きく異なる周期を持つ電位信号を、胎児心電位信号と判別することができる。
【0111】
(2)また、上記(1)の胎児心電位信号判別装置において、情報処理装置は、電位信号に現れる周期的なピークを検出するための比較に用いる閾値を、予想されるピークタイミングに合わせて変化させるようにしてもよい。
そもそも閾値を低く設定すると、本来検出したい信号以外のノイズ等も誤って検出する可能性が高くなり、逆に、閾値を高く設定すると、本来検出したい信号の検出に失敗する可能性が生じる。しかしながら、閾値を、予想されるピークタイミングに合わせて適宜変化させることにより、検出したくない信号を排除しつつ、検出したい信号(ピーク)を、より確実に検出することができる。
【0112】
(3)また、上記(2)の胎児心電位信号判別装置において、ピークとは、母体心電位信号及び胎児心電位信号のそれぞれのR波であることが好ましい。
この場合、R波はピークが顕著に表れ、値も大きいので、検出しやすい。
【0113】
(4)また、上記(1)又は(2)の胎児心電位信号判別装置において、情報処理装置は、生体電位信号又はこれに独立成分分析を施して得た電位信号に対して、ティーガーエネルギー演算子を適用することが好ましい。
この場合、信号波形のS/N比が改善されるので、電位信号の周期を、容易に求めることができる。
【0114】
(5)また、上記(1)の胎児心電位信号判別装置において、情報処理装置は、上記周期の比較によって判定できなかったときは、母体心電位信号の位相と、より大きく位相が異なる電位信号を胎児心電位信号としてもよい。
この場合、もし、より大きく異なる周期を持つ電位信号が明確でなかったときは、位相の差によって、胎児心電位信号を検出することができる。
【0115】
(6)また、上記(1)の胎児心電位信号判別装置において、情報処理装置は、乱数を用いて独立成分分析の分離行列を推定するに際して、胎児心電位信号が判別できた場合の分離行列を、次の分離行列とすることが好ましい。
この場合、それ以降における独立成分分析に要する時間を、短縮することができる。
【0116】
(7)また、上記(1)の胎児心電位信号判別装置において、情報処理装置は、所定の時間内に胎児心電位信号の判別ができなかった場合は前記独立成分分析を中止し、次の期間での独立成分分析を行うようにしてもよい。
この場合、判別が所定時間内にできなかったときは、さらに時間をかけず、次の期間での独立成分分析を行う、という合理的な処理を行うことができる。
【0117】
(8)また、上記(1)〜(7)の胎児心電位信号判別装置において、電極は妊婦帯に取り付けられており、妊婦が当該妊婦帯を装着することによって電極が腹部に密着するように構成することができる。
この場合、妊婦は他人の手を借りなくても、容易に電極を装着することができる。
【0118】
(9)また、上記(1)に記載の胎児心電位信号判別装置を含む妊婦見守りシステムは、測定装置と通信回線を介して接続可能なサーバーを備えたものであり、前記情報処理装置は、妊婦の家に設置される情報処理装置、前記サーバー、前記サーバーと接続可能な医師用の情報処理装置、のいずれか1以上によって構成されるものであってもよい。
このような妊婦見守りシステムでは、胎児や妊婦の心拍等に関する情報を、サーバーを介して医師が把握できるので、妊婦は在宅のまま、医師の適切な指導を受けることができる。
【0119】
(10)一方、本発明の胎児心電位信号判別方法は、妊娠中の母体に取り付けられた複数の電極から、母体及び胎児の双方に基づく生体電位信号を取得し、前記生体電位信号の波形から母体心電位信号の周期を検出し、かつ、前記生体電位信号に独立成分分析を施して互いに周期が異なる複数の電位信号を取得し、前記複数の電位信号の周期を前記母体心電位信号の周期と比較した場合に、より大きく異なる周期を持つ電位信号を胎児心電位信号とする、というものである。
【0120】
上記のような胎児心電位信号判別方法においては、母体及び胎児の双方に基づく生体電位信号を取得し、この生体電位信号に基づき、その波形から母体心電位信号の周期を検出する。また、生体電位信号に独立成分分析を施して互いに周期が異なる複数の電位信号を取得する。当該複数の電位信号とは、母体心電位信号と、胎児心電位信号とを含む。そこで、独立成分分析とは別に検出した母体心電位信号の周期と比較して、より大きく異なる周期を持つ電位信号を、胎児心電位信号と判別することができる。
【0121】
(11)また、本発明の胎児心電位信号判別装置は、妊娠中の母体に取り付けられた複数の電極から、母体及び胎児の双方に基づく生体電位信号を取得する測定装置と、前記生体電位信号の波形から母体心電位信号の所定部位の位相を検出し、かつ、前記生体電位信号に独立成分分析を施して互いに位相が異なる複数の電位信号を取得し、当該複数の電位信号の前記所定部位の位相を前記母体心電位信号の前記位相と比較して、より大きく異なる位相を持つ電位信号を胎児心電位信号とする情報処理装置とを備えたものであってもよい。
【0122】
上記のように構成された胎児心電位信号判別装置では、測定装置が、母体及び胎児の双方に基づく生体電位信号を取得する。情報処理装置は、この生体電位信号に基づき、その波形から母体心電位信号の所定部位の位相を検出する。また、情報処理装置は、生体電位信号に独立成分分析を施して互いに位相が異なる複数の電位信号を取得する。当該複数の電位信号とは、母体心電位信号と、胎児心電位信号とを含む。そこで、これらの電位信号を、独立成分分析とは別に検出した母体心電位信号の位相と比較して、より大きく異なる位相を持つ電位信号を、胎児心電位信号と判別することができる。
【0123】
上記の説明におけるパソコン20に代えて、ユーザが所持するスマートフォン等の携帯型情報端末が情報処理を実行し、結果を表示するようにしてもよい。パソコン20が設置された場所以外の場所でも生体電位を解析することができるようになる。また、生体電位を計測しながらすぐに解析結果を見ることができる点でも有利である。