(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043923
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】食事摂取に伴う血中中性脂肪上昇抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/22 20160101AFI20161206BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
A23L33/22
A23L2/00 G
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-274136(P2010-274136)
(22)【出願日】2010年12月8日
(65)【公開番号】特開2012-121840(P2012-121840A)
(43)【公開日】2012年6月28日
【審査請求日】2013年3月28日
【審判番号】不服2014-20648(P2014-20648/J1)
【審判請求日】2014年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(72)【発明者】
【氏名】永峰 里花
【合議体】
【審判長】
蔵野 雅昭
【審判官】
村上 騎見高
【審判官】
渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−209051号公報(JP,A)
【文献】
特開2004−33170号公報(JP,A)
【文献】
特開2005−124589号公報(JP,A)
【文献】
特開2003−178号公報(JP,A)
【文献】
Yu,Ya−Mei et al, Antioxidative and hypolipidemic effects of barley leaf essence in a rabbit model of atherosclerosis,Japanese Journal of Pharmacology ,2002年,89(2),pp.142−148
【文献】
糸永美奈 他,大麦若葉の青汁成分の研究(第53報)大麦若葉のフラボノイドによる脂肪細胞の脂肪滴蓄積抑制作用 ,日本薬学会年会要旨集,2007年,Vol.127th,No.2,Page.76
【文献】
日本薬学会年会要旨集 ,2006年,Vol.126th,No.3,Page.50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L33/21-33/22
A23L2/00
A61K36/00-36/9068
CA,BIOSIS,MEDLINE,EMBASE/STN
JSTPLUS,JMEDPLUS,JST7580/JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦の葉の乾燥粉末を有効成分とし、大麦の葉の乾燥粉末を水に懸濁させて食事と同時に摂取することを特徴とする、血中中性脂肪の上昇を抑制する方法(医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦の葉の加工物を含有することを特徴とする
食事摂取に伴う血中中性脂肪上昇抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、脂質異常症、糖尿病などのいわゆる生活習慣病が増加している。中でも、脂質異常症は、進行すると動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などへ発展するために注意が必要である。
【0003】
脂質異常症とは、血液中に含まれる脂質が過剰もしくは不足している状態、具体的にはLDLコレステロールや中性脂肪が過剰な状態、もしくはHDLコレステロールが不足している状態のことである。脂質異常症は、痛みなどの自覚症状を伴うことがほとんどないため放置されてしまうことが多く、気付かぬうちに症状が進行し動脈硬化など重大な病気へ発展してしまう恐れのある危険な病気である。
【0004】
脂質異常症の主な原因の一つは、油の多い食品を過剰に摂取することによる血中中性脂肪の増加である。これを防ぐためには、油の多い食品を控え、継続的に運動を行うなど生活習慣を改善することが重要であるが、食生活や運動に気を配る余裕のない忙しい現代人にとって容易なことではない。
【0005】
この問題を解決するため、血中中性脂肪の上昇抑制剤となり得る種々の物質が開発されている。血中中性脂肪上昇抑制剤としては、例えば、難消化性デキストリン(非特許文献1)、植物由来で、かつセルロースとリグニンを主構成成分とし、該セルロースとリグニンが植物体中の結合状態を維持している可食性食物繊維(特許文献1)、コウジュの溶媒抽出エキス(特許文献2)、デビルスクローの抽出物(特許文献3)、大豆を含む原料の発酵分解物から得られる水溶性高分子物質(特許文献4)、シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液の抽出物(特許文献5)、アントシアニン含有馬鈴薯(特許文献6)、雲南紅茶の抽出物(特許文献7)、グロビン蛋白分解物(特許文献8)、アルファバッカの有機溶媒または水抽出物(特許文献9)、エピテアフラガリン3−O−ガレート(特許文献10)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−340532号公報
【特許文献2】特開2009−275026号公報
【特許文献3】特開2009−132634号公報
【特許文献4】特開2008−088151号公報
【特許文献5】特開2007−246471号公報
【特許文献6】特開2007−161689号公報
【特許文献7】特開2007−099651号公報
【特許文献8】再表2006/038327号公報
【特許文献9】特開平09−059168号公報
【特許文献10】特開2009−114079号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「難消化性デキストリン配合混合茶飲料の食後中性脂肪上昇抑制効果および長期摂取、過剰摂取における安全性の検討」、日本食品化学学会誌、2009年、16(1)、p20−27
【0008】
中でも難消化性デキストリンやセルロースとリグニンを主構成成分する可食性食物繊維など食物繊維を多く含有する血中中性脂肪上昇抑制剤は、血中中性脂肪の上昇を抑制するのみにとどまらず、日常生活で不足しがちな食物繊維を補給することもできるため、現代人のライフスタイルに適しており優れた血中中性脂肪上昇抑制剤であるといえる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、食物繊維を多く含有する血中中性脂肪上昇抑制剤が多数開発されてきた一方で、これらは血中中性脂肪の上昇抑制作用が比較的弱いため、人によっては必ずしも十分な効果が得られないという問題があった。本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、従来の食物繊維を多く含有する血中中性脂肪上昇抑制剤に比べて優れた効果を示す血中中性脂肪上昇抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上述の目的を達成するために鋭意検討したところ、食物繊維を多く含有する素材の中で大麦の葉が優れた血中中性脂肪上昇抑制作用を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の請求項1に記載の
食事摂取に伴う血中中性脂肪上昇抑制剤は、大麦の葉の
乾燥粉末を含有することを特徴とする、
食事摂取に伴う血中中性脂肪の上昇抑制剤である。
【0011】
請求項2に記載の
食事摂取に伴う血中中性脂肪上昇抑制剤は、請求項1に記載の
食事摂取に伴う血中中性脂肪上昇抑制剤において、
食事摂取に伴う血中中性脂肪の上昇抑制剤中における大麦の葉の乾燥粉末の配合量が、乾燥質量換算で0.01〜100質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の
食事摂取に伴う血中中性脂肪の上昇抑制剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血中中性脂肪上昇抑制剤は、大麦の葉の加工物を含有する。ここで、大麦の葉の加工物は従来の食物繊維を多く含有する血中中性脂肪上昇抑制剤に比べて優れた血中中性脂肪上昇抑制作用を示す。したがって、本発明の血中中性脂肪上昇抑制剤を用いることにより、従来の血中中性脂肪上昇抑制剤では効果を十分に得ることができなかった人であっても、血中中性脂肪上昇抑制効果を得ることが期待できるという効果がある。なお、本発明の形態に関しては特に限定されるものではなく、そのまま、または種々の成分を加えて
飲食品類、化粧品類、医薬品類等として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、後述の実施形態の記載により限定されるものではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0014】
本発明に記載される大麦の葉の加工物とは、大麦の葉を通常行われる加工方法によって加工したものをいう。具体的には、大麦の葉を洗浄、裁断、粉砕、乾燥、加熱処理、抽出、搾汁などの工程によって加工したものをいう。加工方法としては、単一の工程のみを含む加工方法であってもよく、複数の工程を組合わせた加工方法であってもよい。複数の工程を組合わせた加工方法としては、例えば、大麦の葉をブランチング処理した後、乾燥、粗粉砕、加熱処理、微粉砕の各工程を行う加工方法などが挙げられる。なお、本発明に用いられる大麦の葉の加工物としては特に制限されるものではないが、好ましくは、大麦の葉の乾燥粉末または大麦の葉の抽出物が用いられ、さらに好ましくは、大麦の葉の乾燥粉末が用いられる。
【0015】
本発明に用いられる大麦の葉の乾燥粉末としては特に制限されるものではなく、通常入手可能な大麦の葉の乾燥粉末が用いられる。
【0016】
本発明に用いられる大麦葉の乾燥粉末の製造方法としては特に制限されるものではないが、例えば、特許3277181号に開示されるような方法で製造される。
【0017】
本発明に用いられる大麦の葉の抽出物は、各種抽出溶媒を用いた抽出処理によって、原料から得られる抽出液、抽出液の希釈液若しくは濃縮液、抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物、精製物のすべてが含まれる。この大麦の葉の抽出物には、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製、搾汁等の処理を施してよい。
【0018】
本発明で用いられる抽出溶媒の例としては水、低級1価アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール等)、液状多価アルコール(グリセリン、1,3−ブチレングリコール等)、低級エステル(酢酸エチル等)、エーテル類(ジエチルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられ、それらの一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明で行われる抽出処理は、特に限定されず常法に従って行うことができ、室温ないし還流加熱下において任意の装置を使用することができる。抽出処理により可溶性成分を溶出させた後、ろ過により抽出残渣を除くことにより、大麦の葉の抽出液を得ることができる。
【0020】
本発明の血中中性脂肪上昇抑制剤は、そのまま、または種々の成分を加えて、
飲食品類、化粧品類、医薬品類等として用いることができる。
【0021】
前述の化粧品類としては、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤などの種々の形態に加工して提供することができる。また、化粧品、医薬品、医薬部外品などとして利用することができる。具体的には、化粧水、化粧クリーム、乳液、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディシャンプー、洗顔剤、石鹸、ファンデーション、育毛剤、水性軟膏、スプレーなどとして利用することができる。
【0022】
前述の医薬品類としては、例えば、粉末状・粒状・顆粒状・液状・タブレット状・カプセル状・カプレット状・ソフトカプセル状・錠剤状・棒状・板状・ブロック状・丸薬状などに成形して医薬品として提供することができる。
【0023】
血中中性脂肪上昇抑制剤として配合され得る大麦の葉の乾燥粉末または抽出物の量としては、血中中性脂肪上昇抑制効果を有する限り、用いる剤型、使用対象等の様々の条件に応じて、広範囲でその配合量を適宜設定できる。好ましくは、大麦の葉の乾燥粉末または抽出物の量が、乾燥質量換算で0.01質量%〜100質量%、より好ましくは0.1質量%〜80質量%の割合で含有される。
【0024】
血中中性脂肪上昇抑制剤として化粧品類に配合され得る大麦の葉の乾燥粉末または抽出物の量としては、血中中性脂肪上昇抑制効果を有する限り、用いる剤型、使用対象等の様々の条件に応じて、広範囲でその配合量を適宜設定できる。好ましくは、化粧品類中に大麦の葉の乾燥粉末または抽出物の量が、乾燥質量換算で0.0001質量%〜10質量%、より好ましくは0.001質量%〜5質量%の割合で含有される。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を説明するが、この実施例により請求項に記載の本発明が限定解釈されないことは言うまでもない。
【0026】
(実施例1:血中中性脂肪上昇抑制1)
大麦の葉による血中中性脂肪上昇抑制作用を確認するため、ラットに対して油を負荷する試験を行った。実施例1では、被験物質の投与直後に、油を負荷した場合について検討した。なお、比較例として、血中中性脂肪上昇抑制剤として公知である難消化性デキストリンを用いた。以下、具体的な測定方法について説明する。
【0027】
(実験動物)
試験の供与動物として、9週齢の雄性のSDラット(九動株式会社 以下、「ラット」と略す)を用いた。試験前日にラットを絶食させ、試験当日にそれぞれのラットの血中中性脂肪値を測定した。測定値に基づき、1群あたりの平均血中中性脂肪値がほぼ均一となるように1群6匹の3群に分けた。
【0028】
(脂質エマルジョンの調製)
ラットに負荷する油として、以下の通り脂質エマルジョンを調製した。脂質エマルジョン中において、大豆油が200mg/mL、レシチン(卵製)が12mg/mL、グリセリンが22.5mg/mLとなるように、蒸留水を用いて溶液を調製し、これを脂質エマルジョンとした。なお、脂質エマルジョンは、超音波ホモジナイザーやボルテックスを用いて調製した。
【0029】
(被験物質の調製、投与)
蒸留水を用いて大麦の葉の乾燥粉末(株式会社東洋新薬)を200mg/mLとなるように懸濁させて、試験溶液1とした。この試験溶液1を、ラットの1群に10mL/kg強制経口投与した後、すぐに脂質エマルジョンを10mL/kg強制経口投与した(試験群1)。
【0030】
また、蒸留水を用いて難消化性デキストリンを200mg/mLとなるように溶解させて、比較溶液1とした。この比較溶液1を、別のラットの1群に10mL/kg強制経口投与した後、すぐに脂質エマルジョンを10mL/kg強制経口投与した(比較群1)。
【0031】
また、ラットの残りの1群に、蒸留水(対照溶液1)を10mL/kg強制経口投与した後、すぐに脂質エマルジョンを10mL/kg強制経口投与した(対照群1)。
【0032】
(血中中性脂肪値の測定)
投与前および投与2、3、4時間後にラットの採血を行い、血中中性脂肪値を測定した。なお、血中中性脂肪値はトリグリセライド E−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。測定結果(平均値)を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果より、大麦の葉を投与した試験群1では、これを投与していない対照群1に比べ、脂質エマルジョン投与に伴う血中中性脂肪の上昇が抑制されていた。さらに、試験群1では、血中中性脂肪上昇抑制剤として公知である難消化性デキストリンを加えた比較群1に比べても、血中中性脂肪の上昇を抑制していることが分かる。
【0035】
(実施例2:血中中性脂肪上昇抑制2)
大麦の葉による血中中性脂肪上昇抑制作用を確認するため、実施例2では、被験物質と油とを混合して投与した場合について検討した。なお、比較例として、血中中性脂肪上昇抑制剤として公知である難消化性デキストリンを用いた。以下、具体的な測定方法について説明する。
【0036】
(実験動物)
試験の供与動物として、7週齢の雄性のSDラット(九動株式会社 以下、「ラット」と略す)を用いた。次いで、実施例1と同様、1群あたりの平均血中中性脂肪値がほぼ均一となるように1群6匹の3群に分けた。
【0037】
(投与液の調製、投与)
5%アラビアゴム水溶液を用いて、大麦葉末(株式会社東洋新薬)が100mg/mL、トウモロコシ油が100mg/mLとなるように混合させて、試験溶液2とした。この試験溶液2を、ラットの1群に20mL/kg強制経口投与した(試験群2)。
【0038】
また、5%アラビアゴム水溶液を用いて、難消化性デキストリンが100mg/mL、トウモロコシ油が100mg/mLとなるように混合させて、比較溶液2とした。この比較溶液2を、別のラットの1群に20mL/kg強制経口投与した(比較群2)。
【0039】
また、5%アラビアゴム水溶液を用いて、トウモロコシ油が100mg/mLとなるように混合させて、対照溶液2とした。この対照溶液2を、ラットの残りの1群に20mL/kg強制経口投与した(対照群2)。
【0040】
投与前および投与3、4時間後にラットの採血を行い、実施例1と同様に血中中性脂肪値を測定した。測定結果(平均値)を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2の結果より、被験物質を油と混合して投与した場合においても、大麦の葉を投与した試験群2では、これを投与していない対照群2に比べ、トウモロコシ油投与に伴う血中中性脂肪の上昇が抑制されていた。さらに、被験物質を油と混合して投与した場合においても、試験群2では、血中中性脂肪上昇抑制剤として公知である難消化性デキストリンを加えた比較群2に比べ、血中中性脂肪の上昇抑制していることが分かる。
【0043】
以上の結果より、大麦の葉の加工物を含有することを特徴とする血中中性脂肪上昇抑制剤は、従来の食物繊維を多く含有する血中中性脂肪上昇抑制剤に比べて優れた血中中性脂肪上昇抑制作用を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の血中中性脂肪上昇抑制剤、すなわち大麦の葉の加工物を含有することを特徴とする血中中性脂肪上昇抑制剤は、従来の食物繊維を多く含有する血中中性脂肪上昇抑制剤に比べて優れた血中中性脂肪上昇抑制作用を示す。本発明の血中中性脂肪上昇抑制剤を
飲食品類、化粧品類または医薬品類に添加することで、優れた血中中性脂肪上昇抑制作用を示す飲食品類、化粧品類または医薬品類を得ることができる。