特許第6043936号(P6043936)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043936
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】穿刺練習用シミュレータ
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   G09B23/28
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-56295(P2012-56295)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-190578(P2013-190578A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】500370702
【氏名又は名称】株式会社マルイ
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】圓井 健敏
(72)【発明者】
【氏名】巽 英介
(72)【発明者】
【氏名】岸本 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤川 英毅
(72)【発明者】
【氏名】大屋 知子
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−533025(JP,A)
【文献】 特表2010−521236(JP,A)
【文献】 実開平06−004768(JP,U)
【文献】 特開2006−317635(JP,A)
【文献】 特開2010−049071(JP,A)
【文献】 特開2007−206379(JP,A)
【文献】 特開2011−022522(JP,A)
【文献】 特開昭60−250019(JP,A)
【文献】 特開2000−230001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/28 − 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮可能なチューブにより構成される第1模擬血管と、
上記第1模擬血管の周囲に充填された第1粒子状ゲルにより形成される第1模擬皮下組織と、
上記第1模擬皮下組織を覆う模擬皮膚と
上記第1模擬皮下組織を上記模擬皮膚と反対側から覆うように形成される模擬筋肉とを備え、
上記模擬筋肉内に、
伸縮可能なチューブにより構成される第2模擬血管と、
上記第2模擬血管の周囲に充填された第2粒子状ゲルにより形成される第2模擬皮下組織と、が設けられており、
上記第2模擬血管は、上記第1模擬血管よりも弾性率が高く設定されており、
上記第2粒子状ゲルは、上記第1粒子状ゲルよりも大きいことを特徴とする穿刺練習用シミュレータ。
【請求項2】
上記第1模擬血管が複数設けられており、上記第1模擬皮下組織が、複数本の第1模擬血管のそれぞれに対応して複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の穿刺練習用シミュレータ。
【請求項3】
上記第1粒子状ゲルは、イソブチレン無水マレイン酸の共重合ポリマーゲル、アクリルアミドゲル、およびポリビニールアルコールゲルのいずれかにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の穿刺練習用シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に穿刺する手技を練習するための穿刺練習用シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
大学・看護学校等の医療教育施設において、医者や看護師等の医療従事者を目指す人たちは、採血・注射・透析などの穿刺動作の訓練をする必要がある。しかしながら、採血・注射・透析などの穿刺動作の訓練を行うために、実際に人に対して穿刺動作を行うことは、人にとって大変な負担となる。そこで、人に対して負担にならないように、現実の人体を模するように作成された穿刺練習用シミュレータを用いて穿刺動作の訓練が行われる。
【0003】
そのような穿刺練習用シミュレータとして、図5に示されるようなものがある。図5の穿刺練習用シミュレータ100は、模擬血管101が模擬皮膚102によって挟まれている構成である。
【0004】
また、特許文献1には、模擬皮膚に対して力学的負荷を加えたときに、模擬血管が挙動するように構成された注射採血輸液手技練習模型が開示されている。当該注射採血輸液手技練習模型では、模擬血管の周囲に模擬筋肉層を充填配置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−4768号公報(1994年1月21日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の図5に示す穿刺練習用シミュレータおよび特許文献1に係る注射採血輸液手技練習模型のいずれについても、穿刺動作に必須である、「皮膚の表面を指で押したり引いたりして血管の位置を探す」という動作(以下、血管探索動作という)、および「穿刺しやすい状態で血管を維持した後に穿刺する」という動作(以下、血管維持動作)のシミュレーションを十分に行うことができない。
【0007】
なぜなら、図5に示される穿刺練習用シミュレータ100は、模擬皮膚102に模擬血管101が挟まれているだけの構成であるため、模擬皮膚に力学的負荷を加えても模擬血管はほとんど挙動しない。このように模擬血管が挙動しなければ、血管探索動作および血管維持動作のシミュレーションは実現しようがない。
【0008】
また、現実の人体においては、血管と接するように筋肉層が配置されることはなく、血管と筋肉層との間には、皮下組織が配置されている。一方、特許文献1の注射採血輸液手技練習模型は、模擬血管の周囲に模擬筋肉層が充填配置される構成であるから、現実の人体と異なる構成となっている。よって、特許文献1に係る注射採血輸液手技練習模型において、模擬皮膚を押した際の模擬血管の挙動は、現実の人体において皮膚を押した際の血管の挙動と異なる。この点において、特許文献1に係る注射採血輸液手技練習模型は、上述の血管探索動作および血管維持動作に係るシミュレーションを、現実の人体に近い状態で実現するものではない。
【0009】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされてものであり、その課題は、実際の腕に対して穿刺を行う際の訓練を的確に行い得る穿刺練習用シミュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る穿刺練習用シミュレータは、上記課題を解決するために、伸縮可能なチューブにより構成される第1模擬血管と、上記第1模擬血管の周囲に充填された第1粒子状ゲルにより形成される第1模擬皮下組織と、上記第1模擬皮下組織を覆う模擬皮膚とを備えていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、現実の人体の腕に存在する皮下組織と同様に第1模擬皮下組織が設けられているので、模擬皮膚の表面上への力学的負荷に追従して第1模擬血管が伸縮する挙動が、現実の人体における血管の挙動と同様のものとなる。したがって、本発明に係る穿刺練習用シミュレータによれば、実際の腕に対して穿刺を行う際の血管探索動作および血管維持動作の訓練を、より的確に行うことができる。
【0012】
さらに、本発明の穿刺練習用シミュレータは、上記第1模擬血管が複数本設けられており、上記第1模擬皮下組織が、複数本の第1模擬血管のそれぞれに対応して複数設けられていることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、第1模擬血管が複数本設けられているので、現実の人体における内部構造に、穿刺練習用シミュレータの構造をより近づけることができる。すなわち、現実の人体の内部構造は、皮膚下部に複数本の静脈が走るという構造であるので、当該構造を上記構成の穿刺練習用シミュレータにより再現することができる。さらに、第1模擬血管が複数本設けられていれば、仮に1つの第1模擬血管に係る穿刺動作の訓練が上手く行われなかったとしても、他の第1模擬血管を用いた穿刺動作の訓練を即座に行うことができる。それゆえ、穿刺動作の訓練をより的確に行うことができる。
【0014】
また、上記構成によれば、第1模擬血管および第1模擬皮下組織が複数設けられているので、各第1模擬血管または第1模擬皮下組織に係る物性値を異ならせることにより、多様な穿刺動作の訓練を1つの穿刺練習用シミュレータで実現することができる。
【0015】
たとえば、ある第1模擬血管(第1模擬血管A)および第1模擬血管Aの周囲に存在する第1模擬皮下組織(第1模擬皮下組織A)の物性値(サイズや弾性率等)については、幼児の血管ないし皮下組織と同様の値に設定する。一方で、第1模擬血管Aとは異なる第1模擬血管(第1模擬血管B)および第1模擬血管Bの周囲に存在する第1模擬皮下組織(第1模擬皮下組織B)の物性値を、成人の血管ないし皮下組織と同様の値に設定する。これにより、幼児に対する穿刺動作の訓練と、成人に対する穿刺動作の訓練とを、1つの穿刺練習用シミュレータで行うことができる。
【0016】
このように、第1模擬血管および第1模擬皮下組織を複数設けることで、より多様な穿刺動作の訓練を1つの穿刺練習用シミュレータで実現することができる。
【0017】
さらに、本発明の穿刺練習用シミュレータは、上記第1模擬皮下組織を覆うように形成される模擬筋肉を備え、上記模擬筋肉内に、伸縮可能なチューブにより構成される第2模擬血管と、上記第2模擬血管の周囲に充填された第2粒子状ゲルにより形成される第2模擬皮下組織と、が設けられていることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、穿刺練習用シミュレータの内部に、第1模擬血管および第1模擬皮下組織と、模擬筋肉と、第2模擬血管および第2模擬皮下組織とが設けられている。これにより、穿刺練習用シミュレータの内部構造を、現実の人体における内部構造とより似せた構造とすることができる。
【0019】
つまり、現実の人体においては、動脈の血管壁の方が静脈の血管壁よりも厚いことが知られている。また、静脈よりも動脈の方が体の奥側に存在しているので、実際に動脈内注射を行う際には、筋肉組織を傷付けないよう、静脈内注射よりも慎重な穿刺動作が必要である。
【0020】
そこで、上記構成の穿刺練習用シミュレータにおいては、第1模擬血管および第1模擬皮下組織に係る物性値を、現実の静脈およびその周囲構造と同様の値に設定する。また、模擬筋肉に係る物性値を、現実の筋肉組織と同様の値に設定する。さらに、第2模擬血管および第2模擬皮下組織に係る物性値を、現実の動脈およびその周囲構造と同様の値に設定する。
【0021】
これにより、穿刺練習用シミュレータ内の構造が、より現実の人体に近いものとなる。それゆえ、静脈内注射、動脈内注射、皮下注射、筋肉内注射等の各種の注射作業を行う際の穿刺動作の訓練をより的確に行うことができる。
【0022】
さらに、本発明の穿刺練習用シミュレータは、上記第1粒子状ゲルは、イソブチレン無水マレイン酸の共重合ポリマーゲル、アクリルアミドゲル、およびポリビニールアルコールゲルのいずれかにより形成されることが好ましい。
【0023】
第1粒子状ゲルの材質を上記のように設定すれば、模擬皮膚に力学的付加が加えられたときの第1模擬血管の挙動が、現実の人体の皮膚に力学的負荷が加えられえたときの血管の挙動により近くなる。よって、穿刺の訓練をより的確に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る穿刺練習用シミュレータは、以上のように、伸縮可能なチューブにより構成される第1模擬血管と、上記第1模擬血管の周囲に充填された第1粒子状ゲルにより形成される第1模擬皮下組織と、上記第1模擬皮下組織を覆う模擬皮膚とを備えているものである。
【0025】
上記構成によれば、現実の人体の腕に存在する皮下組織と同様に第1模擬皮下組織が設けられているので、模擬皮膚の表面上への力学的負荷に追従して第1模擬血管が伸縮する挙動が、現実の人体における血管の挙動と同様のものとなる。したがって、本発明に係る穿刺練習用シミュレータによれば、実際の腕に対して穿刺を行う際の訓練を、より的確に繰り返し行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る穿刺練習用シミュレータを示す縦断面図である。
図2】模擬動脈血管を取り付けたときの穿刺練習用シミュレータを示す断面図である。
図3】模擬静脈血管が挙動する様子を示す縦断面図である。
図4】模擬静脈血管または模擬動脈血管が挙動する様子を示す図である。
図5】従来の穿刺練習用シミュレータを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態について、図1図4に基づいて説明すると以下の通りである。
【0028】
〔1.穿刺練習用シミュレータの構成について〕
図1は、本発明の一実施形態に係る穿刺練習用シミュレータ1の構成を示す縦断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る穿刺練習用シミュレータ1は、模擬静脈血管2(第1模擬血管)と、第1粒子状ゲル3によって形成された第1模擬皮下組織4と、模擬皮膚5とを備えている。
【0029】
模擬静脈血管2は、現実の人体における静脈血管に相当するものであり、伸縮可能な材質からなるチューブにより形成されている。模擬静脈血管2を形成するための材質としては、たとえば、弾性率が50Pa〜1000kPa程度である特殊(熱可塑性)エラストマーを用いることができる。また、図1においては、複数本(3本)の模擬静脈血管2が模擬皮膚5内に設けられる構成が示されているが、模擬皮膚5内に設けられる模擬静脈血管2の本数は3本に限定されることはない。
【0030】
第1粒子状ゲル3は、複数個が模擬静脈血管2の周囲に充填されることにより、第1模擬皮下組織4を形成するものである。第1粒子状ゲル3としては、直径1μm程度のマイクロゲルを用いることもできるし、直径2mm程度の球状ゲルを用いることもできる。なお、複数個の第1粒子状ゲル3のそれぞれに係る直径は、0.5mm〜2.0mm程度の範囲に分布しており、分布の中央値が0.75mm程度であることが好ましい。
【0031】
また、第1粒子状ゲル3の材質は、イソブチレン無水マレイン酸の共重合ポリマーゲル、アクリルアミドゲル、ポリビニールアルコールゲルのいずれかから選択されることが好ましい。また、第1粒子状ゲル3の弾性率は、500kPa〜5000kPaであることが望ましい。
【0032】
第1模擬皮下組織4は、上述のとおり、複数個の第1粒子状ゲル3が模擬静脈血管2の周囲に充填されることにより形成されるものである。そして、第1模擬皮下組織4は、3本の模擬静脈血管2のそれぞれに対応して3箇所に形成されている。
【0033】
また、図1においては、第1模擬皮下組織4は、模擬静脈血管2の周囲においてほぼ均等に形成される構成が示されているが、必ずしもこの必要はない。つまり、第1模擬皮下組織4の厚みは、模擬静脈血管2の外径の1/3倍〜2倍程度の範囲内であれば、第1模擬皮下組織4を形成する位置に応じて適宜変更してもよい。なお、特に模擬静脈血管2の外径の1/2倍程度の厚みに設定されることが好ましい。
【0034】
模擬皮膚5は、第1模擬皮下組織4を覆うように形成され、穿刺練習用シミュレータ1の外形を画定するものである。模擬皮膚5は、柔軟性を有するように構成される。たとえば、織布、不織布等の伸縮性を有する布地に、シリコーンゴム等の弾力性を有する材料を塗布あるいは含浸させることにより、模擬皮膚5を構成することができる。
【0035】
以上の説明のとおり、本発明の一実施形態に係る穿刺練習用シミュレータ1は、模擬皮膚5の内部に、模擬静脈血管2を有する構成とされている。しかしながら、本発明に係る穿刺練習用シミュレータは、以下に説明する通り、模擬静脈血管に加えて模擬動脈血管を有する構成とすることもできる。
【0036】
すなわち、図2に示すように、本発明の他の実施形態に係る穿刺練習用シミュレータ10は、模擬静脈血管2と、第1模擬皮下組織4と、模擬筋肉11と、模擬動脈血管12(第2模擬血管)と、第2粒子状ゲル13により形成された第2模擬皮下組織14と、模擬皮膚15とを備えている。
【0037】
図2に示す穿刺練習用シミュレータ10における模擬静脈血管2および第1模擬皮下組織4については、図1に係る穿刺練習用シミュレータ1と同様の構成である。また、図2に係る穿刺練習用シミュレータ10においては、第1模擬皮下組織4および模擬皮膚15を覆うように、模擬筋肉11が設けられている。そして、模擬筋肉11の内部に、模擬動脈血管12および第2模擬皮下組織14が形成されている。
【0038】
つまり、穿刺練習用シミュレータ10においては、模擬皮膚15が第1模擬皮下組織4を上側から覆っている。また、第1模擬皮下組織4の模擬皮膚15に覆われていない側には、模擬筋肉11が配置されている。そして、模擬動脈血管12の周囲には、第2粒子状ゲル13が充填されており、この第2粒子状ゲル13により第2模擬皮下組織14が形成されている。さらに、第2模擬皮下組織14の周囲には、第2模擬皮下組織14を覆うように模擬筋肉11が配置されている。
【0039】
以下、穿刺練習用シミュレータ10を構成する部材のうち、穿刺練習用シミュレータ1に設けられていない構成部材である、模擬筋肉11、模擬動脈血管12、第2粒子状ゲル13、第2模擬皮下組織14および模擬皮膚15についてより具体的に説明する。
【0040】
模擬筋肉11は、弾性率が2000kPa〜4000kPaの特殊シリコーン樹脂または特殊エラストマーにより形成することができる。
【0041】
模擬動脈血管12は、現実の人体における動脈血管に相当する構成であり、伸縮することが可能なチューブで構成される。模擬動脈血管12の材質としては、たとえば弾性率が5kPa〜2000kPa程度である特殊(熱可塑性)エラストマーを用いることができる。
【0042】
さらに、模擬動脈血管12は、模擬静脈血管2よりも、外径が大きく、側壁が厚くなっており、弾性率も高く設定されることが好ましい。なぜなら、現実の人体における動脈血管には、静脈血管よりも多くの血液が流れ、また、血圧も静脈血管よりも高いため、動脈血管の血管壁が静脈血管よりも厚くなっているためである。
【0043】
第2粒子状ゲル13は、複数個が模擬動脈血管12の周囲に充填されることにより、第2模擬皮下組織14を形成するものである。第2粒子状ゲル13としては、直径1μm程度のマイクロゲルを用いることもできるし、直径2mm程度の球状ゲルを用いることもできる。複数個の第2粒子状ゲル13に係る直径は、0.5mm〜2.0mm程度に分布しており、分布の中央値が1.0mm程度であることが好ましい。つまり、第2粒子状ゲル13は、第1粒子状ゲル3よりも若干大きなものとすることが好ましい。
【0044】
また、第2粒子状ゲル13の材質は、イソブチレン無水マレイン酸の共重合ポリマーゲル、アクリルアミドゲル、ポリビニールアルコールゲルのいずれかから選択されることが好ましい。また、第2粒子状ゲル13の弾性率は、500kPa〜5000kPaであることが望ましい。
【0045】
第2模擬皮下組織14は、複数個の第2粒子状ゲル13が模擬動脈血管12の周囲に充填されることにより形成されるものである。第2模擬皮下組織14の厚みと模擬動脈血管12の外径との関係は、第1模擬皮下組織4の厚みと模擬静脈血管2の外径との関係と同様に設定すればよい。
【0046】
模擬皮膚15は、第1模擬皮下組織14の模擬筋肉11が配置されていない側を覆うものである。模擬皮膚15の材料は、模擬皮膚5と同様の材料を選択できる。また、図2においては、模擬皮膚15および模擬筋肉11により、穿刺練習用シミュレータ10の外形が画定される構成が示されているが、必ずしもこの構成に限定されるものではない。つまり、模擬皮膚15を模擬筋肉11の全体を覆うように配置し、模擬皮膚11により穿刺練習用シミュレータ10に係る外形の全てが画定されるようにしてもよい。
【0047】
以上のように構成された模擬静脈血管2および模擬動脈血管12の挙動について、図3および図4を参照して説明する。図3は、模擬皮膚15に力学的負荷が加えられたときに、模擬静脈血管2が挙動する様子を示す図である。また、図4は、模擬皮膚15に力学的負荷が加えられたときに、模擬静脈血管2または模擬動脈血管12が挙動する様子を示す図である。
【0048】
図3に示すように、模擬皮膚15に対してたとえば図中左側から力学的負荷が加えられたとき、力学的負荷に追従して、模擬静脈血管2は参照符号2aに示す位置に移動する。この際、模擬静脈血管2が参照符号2aで示される位置まで移動する距離は、おおよそ20mmである。
【0049】
また、模擬皮膚15に対して力学的負荷が加えられたとき、図4に示すように、模擬静脈血管2および模擬動脈血管12は、力学的負荷に追従して撓む。図4に示されているR1は、模擬静脈血管2または模擬動脈血管12の撓んだ箇所の曲率半径を示している。曲率半径R1が20mm程度の値となるように、第1粒子状ゲル3や第2粒子状ゲル13の弾性や、模擬静脈血管2や模擬動脈血管12の弾性を適宜設定すれば、血管探索動作や血管維持動作の訓練には十分である。もちろん、穿刺動作の訓練が行われる医療現場のニーズに合わせて、曲率半径R1が20mm以上になるように設定してもよい。
【0050】
さらに、図3および図4は、穿刺練習用シミュレータ10に力学的負荷が加えられた場合における模擬静脈血管2または模擬動脈血管12の挙動について説明しているが、もちろん、穿刺練習用シミュレータ1に力学的負荷が加えられた場合において、模擬静脈血管2も同様の挙動を示す。
【0051】
〔2.穿刺練習用シミュレータの効果について〕
以上に説明したとおり、穿刺練習用シミュレータ1または穿刺練習用シミュレータ10を構成することにより、以下に説明する効果を得ることができる。
【0052】
すなわち、穿刺練習用シミュレータ1(10)においては、現実の人体の腕などに存在する皮下組織と同様に第1模擬皮下組織4が設けられている。したがって、模擬皮膚5の表面上に加えられた力学的負荷に追従して模擬静脈血管2が伸縮する挙動が、現実の人体における静脈血管の挙動と同様のものとなる。したがって、穿刺動作に必須となる血管探索動作および血管維持動作の訓練を、より的確に行うことができる。
【0053】
また、医療従事者が穿刺動作を行うとき、1つの静脈血管にうまく穿刺できなければ、他の静脈血管に穿刺しなおすことがある。このような事態に対応するための訓練も、複数の模擬静脈血管2が設けられている穿刺練習用シミュレータ1(10)を用いれば可能である。
【0054】
さらに、複数本設けられている模擬静脈血管2を、それぞれ異なる物性値(サイズや弾性率等)にすることで、現実の成人の静脈血管を想定した模擬静脈血管2や、幼児の静脈血管を模した模擬静脈血管2を1つの穿刺練習用シミュレータ1に配置することができる。そして、複数の第1模擬皮下組織4についても、それぞれ物性値を異なった値にすることにより、現実の成人の皮下組織を模した第1模擬皮下組織4や、幼児の皮下組織を模した第1模擬皮下組織4を1つの穿刺練習用シミュレータ1に配置することができる。これにより、異なる人体の血管を対象とした穿刺動作の訓練を1つの穿刺練習用シミュレータ1で行うことができる。
【0055】
また、穿刺練習用シミュレータ10においては、模擬動脈血管12が、模擬静脈血管2よりも奥側で模擬筋肉11に近いところに配置されている。この模擬動脈血管12と模擬静脈血管2との配置関係は、現実の人体における動脈血管と静脈血管との配置関係とほぼ同じであるため、現実の人体に対して穿刺するときと同様に、静脈内注射、動脈内注射、皮下注射、筋肉内注射等の各種の注射作業を行う際の穿刺動作の訓練をより的確に行うことができる。
【0056】
以上のとおり、本発明に係る穿刺練習用シミュレータにおいては、現実の人体における血管と同様に、模擬静脈血管や模擬動脈血管が模擬皮膚の表面上への力学的負荷に追従して伸縮するという挙動をする。したがって、穿刺動作において必須となる血管探索動作および血管維持動作の訓練を、現実の人体に対して行う場合とほぼ同様の状態で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、採血、注射、透析等の人体に穿刺する手技を練習するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1、10 穿刺練習用シミュレータ
2 模擬静脈血管(第1模擬血管)
3 第1粒子状ゲル
4 第1模擬皮下組織
5、15 模擬皮膚
11 模擬筋肉
12 模擬動脈血管(第2模擬血管)
13 第2粒子状ゲル
14 第2模擬皮下組織
図1
図2
図3
図4
図5