【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)リンゴ果皮由来食品用赤色色素を抽出する方法であって、1)リンゴの皮に含まれる512nmに吸光度(OD値)を有するリンゴ果皮色素をアルコールを含まない抽出溶媒
として有機酸溶液を用いて抽出すること、2)
上記1)の抽出の際に、リンゴの皮を1%
(質量百分率、以下同様)以下の有機酸溶液で加熱抽出処理した後、ろ過してリンゴ果皮の色素を含む色素抽出液を得ること、3)有機酸溶液として、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、又は酢酸の水溶液を用いること、4)
上記1)〜3)の工程により、
5℃で静置抽出した色素抽出液に比べて耐熱性に優れている色素抽出液を得ること、を特徴とするリンゴ果皮由来食品用色素の抽出方法。
(2)リンゴの皮を、1%以下の有機酸溶液で50〜120℃の温度条件で4〜60分の加熱時間で加熱処理する、前記(1)に記載の抽出方法。
(3)抽出液を予めペクチン分解酵素で処理した後、減圧加熱濃縮又は加熱濃縮して粘度が10mp・s以下の濃縮色素液を得る、前記(1)又は(2)に記載の抽出方法。
(4)抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、加熱濃縮して色素粉末用濃縮色素液を得る、前記(1)又は(2)に記載の抽出方法。
(5)前記(1)又は(2)に記載の抽出方法を用いて、リンゴ果皮由来食品用赤色色素素材を製造する方法であって、1)リンゴの果皮に含まれる512nmに吸光度(OD値)を有するリンゴ果皮色素をアルコールを含まない抽出溶媒
として有機酸溶液を用いて抽出すること、2)
上記1)の抽出の際に、リンゴの果皮を1%以下の有機酸溶液で加熱抽出処理した後、ろ過してリンゴ果皮の色素を含む色素抽出液を得ること、3)有機酸溶液として、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、又は酢酸の水溶液を用いること、4)
上記1)〜3)の工程により、
5℃で静置抽出した色素抽出液に比べて耐熱性に優れている色素抽出液からなるリンゴ果皮由来食品用色素素材を製造することを特徴とするリンゴ果皮色素素材の製造方法。
(6)抽出液を予めペクチン分解酵素で処理した後、減圧加熱濃縮又は加熱濃縮して粘度が10mp・s以下の濃縮色素液を得る、前記(5)に記載のリンゴ果皮色素素材の製造方法。
(7)抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、加熱濃縮して色素粉末用濃縮色素液を得る、前記(5)に記載のリンゴ果皮色素素材の製造方法。
(8)抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、直接、凍結乾燥、通風乾燥、又は、噴霧乾燥により乾燥させて色素粉末を得る、前記(5)に記載のリンゴ果皮色素素材の製造方法。
【0014】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、リンゴ果皮の赤色色素の抽出方法であって、リンゴの皮に含まれる512nmに吸光度(OD値)を有するリンゴ果皮の色素を、アルコールを含まない抽出溶媒を用いて抽出する方法であって、リンゴの皮を1%以下の有機酸溶液で加熱処理した後、ろ過して上記色素を含む抽出液を得ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、上記抽出方法において、リンゴの皮を、食品利用に適用できる1%以下の有機酸溶液で、50〜120℃の温度条件で、4〜60分の加熱時間で加熱処理すること、有機酸液として、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、又は酢酸の水溶液を用いること、抽出液を予めペクチン分解酵素で処理した後、減圧加熱濃縮又は加熱濃縮して濃縮色素液を得ること、抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、加熱濃縮して濃縮色素液を得ること、を好ましい実施態様としている。
【0016】
また、本発明は、上記の抽出方法を用いて、リンゴ果皮色素素材を製造する方法であって、リンゴの皮に含まれる512nmに吸光度(OD値)を有するリンゴ色素素材をアルコールを含まない抽出溶媒を用いて抽出する工程と、その際に、リンゴの皮を1%以下の有機酸溶液で加熱処理した後、ろ過して色素を含む抽出液を得る工程により、上記リンゴ色素素材を製造することを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、上記製造方法において、抽出液を予めペクチン分解酵素で処理した後、減圧加熱濃縮又は加熱濃縮して濃縮色素液を得ること、抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、加熱濃縮して濃縮色素液を得ること、抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、直接、凍結乾燥、通風乾燥、又は噴霧加熱乾燥により乾燥させて色素乾燥粉末を得ること、を好ましい実施態様としている。
【0018】
更に、本発明は、上記のいずれかに記載の製造方法により製造された、512nmに吸光度(OD値)を有する色素を含む抽出液、その濃縮液又は乾燥物からなるリンゴ果皮由来の食品用色素素材、並びに当該リンゴ果皮由来食品用色素素材を利用した加工食品の点に特徴を有するものである。
【0019】
本発明では、食品に適用できる有機酸の1%溶液のみを抽出溶媒とし、抽出法は、リンゴ果皮に1%有機酸を加えて加熱抽出を用いることで、従来の技術より短時間の抽出で、抽出効率の高い色素抽出方法を確立した。
【0020】
具体的には、リンゴ(秋星、ふじ、紅玉などのすべてのリンゴ品種)の皮に、1%有機酸溶液、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸など食品利用に認可されているすべての有機酸の溶液を添加し、1時間以内で加熱(20−120℃)抽出するものである。
【0021】
抽出液を減圧濃縮する場合は、ペクチン分解酵素処理することで、減圧濃縮時の突沸を抑制して、効率よく減圧濃縮して濃縮液を得ることができる。また、ペクチン分解酵素の有無にかかわらず抽出液を加熱濃縮して濃縮液を得ることができる。更に、色素粉末を得るためには、抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、直接、凍結乾燥、通風乾燥、又は噴霧乾燥することで吸湿性の低い色素粉末を得ることができる。
【0022】
本発明を開発するに当たり、以下の項目、すなわち、1)加熱抽出の有効性の検討、2)前処理としての緩慢冷解凍の有効性の検討、3)有機酸の種類の検討、4)加熱抽出条件(加熱時間、皮の添加量、抽出液の調製方法)の検討、5)抽出した色素の特性の検討、について各検討を実施した。
【0023】
そこで、まず、1)加熱抽出の有効性、2)前処理としての緩慢冷解凍の有効性、3)有機酸の種類について検討するために、有機酸の1%溶液を用いて、加熱抽出の有効性を検討した。検討した条件は、次のとおり、すなわち、前処理:−5℃での緩慢冷解凍の有無、1%有機酸溶液:乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、加熱処理:100℃加熱:沸騰水浴中で15分間加熱、120℃加熱:オートクレーブで15分間加熱、とした。
【0024】
抽出は、リンゴの皮3gと1%有機酸溶液30mlを混合して加熱処理し、抽出液は、加熱処理したリンゴの皮の入った溶液をろ過して得るとともに、ろ液の評価は、512nmでの吸光度(OD値)と写真撮影で行った。
【0025】
その結果、加熱条件では、120℃より100℃による抽出液の方が、抽出した色素の色調が濃いこと、有機酸の種類では、乳酸>クエン酸>リンゴ酸>酢酸の順で色素の抽出効率が高かったこと、リンゴの皮を事前に緩慢冷解凍することによる色素の抽出効率への影響は無いこと、が分かった。以上の結果及び加工食品への利用適性から、リンゴの皮の色素抽出条件を1%クエン酸溶液で100℃加熱の条件で検討した。
【0026】
まず、加熱抽出条件(加熱時間、皮の添加量、抽出液の調製方法)について、加熱時間と、皮の添加量について検討した。加熱時間は、4〜60分、好ましくは8〜30分、8分と23分で得られた抽出液の色調が濃かったが、15分加熱で色調が低下していることを考慮して、より好ましくは23分前後、すなわち20〜30分であった。
【0027】
皮の添加量は、1%クエン酸30ml当たり3〜15gの範囲で検討した添加量の中では、1%クエン酸30ml当たり15gの条件で得られた抽出液の色調が最も濃かった。添加量を増やすと、皮に抽出液が吸収されること、抽出液にペクチンなどの粘質物が抽出されていることから、ろ紙によるろ過が困難で抽出液の量が低下する傾向であった。そのため、皮の添加量は、1%クエン酸30ml当たり5〜15gで、15gが限界と考えられた。
【0028】
抽出のスケールを2倍にして加熱抽出後に抽出液と皮をジューサーで粉砕し、15000回転で15分遠心分離した上澄みを抽出液として回収した。抽出液の回収率は、1%クエン酸溶液30ml、皮添加量15gの時に45%であったが、これが、55.8%に向上した。また、遠心分離で得られた沈殿に再度1%クエン酸溶液を60ml添加して同様の抽出を行ったところ、抽出液に粘性がなく、ろ紙で効率よくろ過できた。
【0029】
次に、抽出した色素の特性については、抽出前の1%クエン酸溶液のpHは、2.21であったが、1%クエン酸溶液30mlにリンゴの皮3g添加では、pHが2.5、上記抽出条件で得られた色素溶液のpHは、3.11であった。これは、リンゴの皮から抽出された成分によってpHが若干アルカリ側に移行したと考えられた。同じ色素でも濃度が薄いと、pHが高くなるにつれて色が薄くなった。しかし、濃度が濃いと色の変化が少なかった。
【0030】
次に、抽出液の濃縮について検討した。色素濃度の濃い抽出液は、ペクチン含量も高いため粘性が高いことが分かった。そのため、そのまま減圧濃縮すると抽出液が突沸して濃縮が困難であった。そこで、これを改善するために抽出液をペクチン分解酵素で反応させて抽出溶液の粘性が低下させるために、酵素濃度、酵素の種類の検討を行った。
【0031】
酵素濃度については、抽出液の粘度を低下させるための酵素処理の酵素濃度を検討した。ペクチナーゼSSで酵素処理した抽出液を濃縮後に粘度をB型粘度計で測定した。酵素濃度0.005〜0.02%の何れで処理した場合でも抽出液の粘度が無処理区である対照の粘度に比べ1/10以下に低下した。
【0032】
この結果より、抽出液の粘度を低下させるための酵素処理濃度は、0.005%で十分であると判断した。また、酵素の種類については、確立した酵素処理条件で粘度低下出きる酵素の種類を検討するために、ペクチナーゼSS、スミチームAP2、可溶性ペクチナーゼを用いて酵素処理した抽出液を濃縮前と後に粘度をB型粘度計で測定し、抽出液の濃縮時の突沸状況、濃縮時加熱温度を評価した。
【0033】
その結果、検討した3種類の酵素剤ともに0.005%濃度で15分処理においても無処理の対照の粘度に比べ半分以下の粘度に低下した。抽出液の減圧加熱濃縮の状況は、無処理の対照においては、濃縮時の突沸が頻繁に起こるため加熱温度を40℃から60℃へ上昇させなければならなかった。
【0034】
これに対して、酵素処理した抽出液は、検討した全ての酵素処理条件においても、減圧加熱濃縮の温度を40℃に維持しても、突沸が軽く2回起こっただけで、対象に比べ効率よく濃縮することが可能であった。また、濃縮後の抽出液の粘度は、対照では、濃縮前の5倍以上に上昇するため、色素液として利用しにくいことが分かった。一方、酵素処理した抽出液は、粘度がすべて10mpa・s以下であり、色素液として利用しやすいことが分かった。
【0035】
しかし、抽出液を凍結乾燥する場合は、ペクチン分解酵素処理の有無で乾燥物の収量を比較したところ、酵素処理した溶液の方が少なかった。また、酵素処理した色素乾燥粉末は、酵素処理しないものに比べて吸湿性が高くなり扱いにくくなるとともに、水に対する溶解性が低下した。
【0036】
以上のことから、リンゴの皮の抽出液を濃縮して色素液として利用する場合は、ペクチン分解酵素処理が有効であるが、凍結乾燥、通風乾燥、噴霧加熱乾燥などで抽出液を乾燥させて色素乾燥粉末として利用する場合は、ペクチン分解酵素処理をせずに、直接、乾燥することが有効であることが分かった。
【0037】
上記の技術を品種「ふじ」に応用できるか調べるために、ふじ皮の色素抽出方法について検討した。その結果、対照の蒸留水に比べて1%リンゴ酸、1%乳酸、1%クエン酸のうち、何れの有機酸及び加熱温度においても、色素の抽出効率は高かった。また、加熱温度20〜120℃のうち、どの有機酸においても、加熱温度によって、抽出効率が異なった。50〜100℃で抽出効率は高いが、リンゴ酸とクエン酸は、70℃が最も抽出効率が高く、乳酸は、100℃が最も抽出効率が高かった。
【0038】
加熱抽出時間については、加熱時間4〜60分のうち、どの有機酸においても抽出時間によって抽出量が異なり、何れの有機酸も、抽出時間8分が最も抽出量が高かった。有機酸による抽出効率の差は、殆ど無かった。皮の添加量については、何れの有機酸においても、皮の添加量が多いほど色素の抽出量は向上した。また、同じ皮の添加量においては、5gまでは、乳酸>クエン酸>リンゴ酸の順で抽出効率が高かったが、15g以上では、クエン酸>乳酸>リンゴ酸の順で抽出効率が高かった。何れの条件においても、皮の添加量は、20gが良好であった。
【0039】
次に、上記技術を品種「紅玉」に応用できるか調べるために、紅玉皮の色素抽出方法について検討した。その結果、対照の蒸留水に比べて1%リンゴ酸、1%乳酸、1%クエン酸のうち、何れの有機酸及び加熱温度においても、色素の抽出効率は高かった。また、加熱温度20〜120分のうち、どの有機酸においても、加熱温度によって、抽出効率が異なった。乳酸とクエン酸は、70℃が最も抽出効率が高かったが、リンゴ酸は、100℃が最も抽出効率が高かく、どの条件よりも高かった。
【0040】
加熱抽出時間については、加熱温度4〜60分のうち、各有機酸で最も抽出量が多い抽出時間が異なり、リンゴ酸で23分、乳酸で30分、クエン酸で15分であった。最も抽出量が多いのは、リンゴ酸の23分であった。皮の添加量については、添加量3〜20gのうち、1%リンゴ酸、1%乳酸、1%クエン酸の何れの有機酸においても、果皮の添加量が多いほど色素の抽出量は向上した。また、どの添加量においてもリンゴ酸が最も高い抽出効率を示した。いずれの条件においても果皮の添加量は、20gが良好であった。
【0041】
本発明では、抽出液を予めペクチン分解酵素で処理した後、減圧加熱濃縮又は加熱濃縮して濃縮色素を得ることができるが、この場合、抽出液をペクチン分解酵素で処理することなく、加熱濃縮して濃縮色素を得ることができる。本発明では、ペクチン分解酵素による処理の有無と、濃縮方法との関係について検討した。
【0042】
その結果、各濃縮方法で濃縮した色素抽出液について、吸光度(OD値)で比較すると、抽出前の原液に比べ、いずれの濃縮法でも吸光度が向上したが、その値は、減圧濃縮>加熱濃縮(酵素無)>加熱濃縮(酵素有)の順であった。減圧濃縮と加熱濃縮(酵素無)は、原液に比べ、ほぼ10倍以上の値であったが、加熱濃縮(酵素有)は、約8倍程度にとどまった。
【0043】
また、原液との色差(ΔE)については、減圧濃縮>加熱濃縮(酵素無)>加熱濃縮(酵素有)の順で色差の値が小さく、減圧濃縮が最も色調が近かった。しかし、加熱濃縮(酵素無)も、色差が11程度で、視覚的にはほとんど違いが認められなかった。以上のことから、減圧濃縮だけでなく、加熱濃縮(酵素無)の濃縮方法でも、十分利用可能な色素液が得られることが分かった。
【0044】
次に、加熱抽出による色素溶液には、耐熱性に優れているという優位性がある。すなわち、加熱抽出による色素溶液の優位性を評価した結果、抽出した色素の吸光度による濃度は、静置抽出で最も濃いものと比べても、加熱抽出した色素液の吸光度は、約2倍であった。平均値での比較では、加熱抽出した色素液の吸光度の方が、静置抽出1:2に比べて、2.5倍以上濃い濃度であり、また、抽出に必要な液量も、加熱抽出液が最も少なく効率的であることが分かった。
【0045】
次に、加熱抽出液の5倍希釈液と静置抽出液を用いて、耐熱性を評価した結果、各色素抽出液の加熱後の色調を比較すると、100℃、120℃のどちらの場合でも、静置抽出に比べ、加熱抽出(5倍希釈)の方が、退色が約半分程度に抑えられ、加熱抽出した色素抽出液は、静置抽出した色素抽出液に比べ、耐熱性に優れていることが分かった。
【0046】
従来技術では、リンゴ果肉又は果皮からアントシアニン色素を抽出する方法が幾つか提案されているが、抽出対象が果皮だけではなく果肉も対象となっているため、主に果肉に含まれる色素の酸化を抑制するために、亜硫酸を添加して粉砕をしたり、色素抽出には、エタノールやメタノールなどのアルコールを抽出溶媒として用いているため、食品利用の用途に用いるためには、これらの成分を完全に除去する工程が不可欠であった。
【0047】
これに対して、本発明は、リンゴ果皮のみを抽出対象とし、しかも、アルコールを含まない抽出溶媒である、食品に適用可能な1%以下の有機酸溶媒を使用し、所定の条件で加熱処理するのみで、リンゴの品種によってもほぼ一定の抽出効率で、簡便な工程で、短時間にリンゴ果皮色素を抽出することが可能な新しいリンゴ果皮色素材の抽出、製造方法と、食品利用が可能な色素素材、及び当該リンゴ果皮由来食品用色素素材を利用した加工食品を提供するとともに、抽出色素素材を大量生産するための実用化技術を提供するものである。