【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.研究集会名 :日本農芸化学会2012年度(平成24年度)大会 開催日 :平成24年3月24日 公開者 :加藤 康夫,荻田 信二郎,野村 泰治,星野 一宏,高野 真希 2.ウェブサイトのアドレス: http://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2012/download_pdf.php?p_code=3B03p05 公開者 :加藤 康夫,荻田 信二郎,野村 泰治,星野 一宏,高野 真希 公開日 :平成24年3月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20−23年度,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)」委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Amygdalin degradation by MUCOR CIRCINELLOIDES and Penicillium aurantiogriseum: mechanisms of hydrolysis.,Archives of Microbiology,1998年,169(2),106-112
【文献】
The LINAMARASE of MUCOR CIRCINELLOIDES LU M40 and its detoxifying activity on cassava.,Journal of Applied Microbiology,1999年,86(2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エタノール耐性に優れたエタノール発酵
糸状菌由来のβ−グルコシダーゼ及びこれをコードする遺伝子、並びに組換え酵素の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るβ−グルコシダーゼは、下記(1)又は(2)のアミノ酸配列を有するβ−グルコシダーゼである。
(1)配列番号7又は14で示されるアミノ酸配列を有するβ−グルコシダーゼ
(2)配列番号7又は14で示されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が付加、欠失又は置換したアミノ酸配列を有するβ−グルコシダーゼ
【0006】
本発明に係るβ−グルコシダーゼは、例えば稲わらに
糸状菌Mucor javanicus NBRC4572株(独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生産遺伝資源部門提供のNBRC4572株)を植菌培養した培養物から抽出及び単離することで得られる。
精製酵素の諸性質については後述するが、2種類の酵素が単離できた。
本明細書では、この2種類の酵素をBGL1、BGL2と称する。
本発明者らは、精製した酵素のN−末端アミノ酸配列の解析と、別途行った本菌のゲノム配列解析結果から、それぞれ1個のβ−グルコシダーゼホモログを見出した。
そこで、この情報を元にして菌体から抽出したmRNAを用いてcDNAをクローニングし、組換え酵素の検討をしたので以下説明する。
【0007】
BGL1をコードする遺伝子のクローニングの詳細は後述するが、精製酵素標品のN−末端アミノ酸配列と、Mucor javanicus NBRC4572株(以下、本菌ともいう。)のゲノム解析の結果に基づいて、下記のプライマーを用いた。
BGL1−forward1:tgctatctct atgctagtag ctgcc(配列番号1)
BGL1−forward2:atgctagtag ctgccaatgc tgcta(配列番号2)
BGL1−reverse1:agcctagtag tttattaag(配列番号3)
BGL1−reverse2:gaaaatatct agagggtaaa g(配列番号4)
本菌を培養して得られた本菌由来のmRNAに対して、RT−PCR(逆転写PCR)を行い、cDNAを取得した。
この取得したcDNAに対してプライマーBGL1−forward1、BGL1−reverse1の組み合せにて1stPCRを行い、次でPCR反応液に対してBGL1−forward2、BGL1−reverse2の組み合せにてnested−PCRを行うことでコード領域全長を含むcDNA断片を単離した。
その結果、本菌由来のcDNAを8クローン得、シークエンシングしたところ、全て同じcDNA配列であった。
これにより、BGL1をコードする遺伝子のcDNA配列が得られ、その塩基配列を配列番号5に示す。
また、本発明に係る遺伝子は、β−グルコシダーゼ活性を有する範囲において、配列番号5に示される塩基配列のうち、1個又は数個の塩基が付加、欠失又は置換されてもよい。
BGL1のコドン対応アミノ酸配列を配列番号6に示し、アミノ酸配列を配列番号7にそれぞれ示す。
また、本発明に係るBGL1酵素は、β−グルコシダーゼ活性を有するものであれば、配列番号7のアミノ酸配列のうち、1個又は数個のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたものが含まれる。
【0008】
BGL2をコードする遺伝子のクローニングには、精製単離した標品のN−末端アミノ酸配列と本菌のゲノム解析の結果に基づいて、下記のプライマーを設計し用いた。
BGL2−forward1:gctatctctg tactagttgc tgcaa(配列番号8)
BGL2−forward2:actagttgct gcaaatgccg ctact(配列番号9)
BGL2−reverse1:gtttaagagg tatggattgt(配列番号10)
BGL2−reverse2:gaggtatgga ttgtgcagtg(配列番号11)
本菌由来のmRNAに対してRT−PCRを行い、cDNAを取得し、この取得したcDNAに対して、BGL2−forward1、BGL2−reverse1の組み合せで1stPCRを行い、次いでPCR反応液に対して、BGL2−forward2、BGL2−reverse2の組み合せにてnested−PCRを行うことで、コード領域全長を含むcDNA断片を単離した。
その結果、本菌由来のcDNAを8クローン得、シークエンシングしたところ、全て同じcDNA配列であった。
これにより、BGL2をコードする遺伝子のcDNA配列が得られ、その塩基配列を配列番号12に示す。
また、コドン対応アミノ酸配列を配列番号13に示し、アミノ酸配列を配列番号14に示す。
なお、塩基又はアミノ酸のうち、1個又は数個が付加、欠失又は置換されてもよい点は、BGL1にて説明したのと同様である。
【0009】
本発明に係るβ−グルコシダーゼBGL1、BGL2の一次構造解析をした結果、両方とも糖質加水分析酵素のファミリー3に属していた。
BGL1とBGL2との間の相同性は81%であり、既知のタンパク質の中で最も相同性が高かったのは、Rhizomucor miehei由来のβ−グルコシターゼであったが、その値が51%と低かった。
BGL1とBGL2とは後述するが諸性質において相違する点があり、この2つの酵素はいずれも新規のβ−グルコシターゼである。
図9に上記3つの酵素間のマルチプルアラインメントを示す。網掛けしたアミノ酸残基は、BGL1とBGL2とで異なっているものである。
【0010】
次に組換え酵素の発現を検討したので説明する。
BGL1および2の全長アミノ酸配列と野生型精製酵素のN末端配列の比較によって推定されたシグナルペプチドを除いた成熟ポリペプチドを発現するように、当該配列を大腸菌発現ベクターpET28aもしくはpColdIIにサブクローニングした。
組換え酵素のN末端(pET28aおよびpColdII)またはC末端側(pET28のみ)にはヒスチジンタグ(6xHis)を含むようにした。
組換えベクターを大腸菌BL21 CodonPlus RIL(DE3)(pET28a使用の場合)またはJM109(pColdII使用の場合)に導入し、得られた組換え大腸菌をLB培地にてOD
660=0.6−0.8に達するまで37℃、200rpmで培養した後、最終濃度1mMのIPTGを添加し、15℃、200rpmで18時間培養することで組換え酵素を発現させた。
発現誘導後の菌体を50mM HEPES(pH7.5)に懸濁させて超音波処理を施し、得られた可溶性タンパク質画分をTALON Metal Affinity Resin(Clontech社)を用いたアフィニティークロマトグラフィーに供し、200mMのイミダゾールによって溶出された活性画分を精製組換え酵素とした。
精製した組換え酵素活性は、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシド(以下、Glu−β−pNP)を基質に用い、定法に従って測定した。
その結果、表1に示すようにBGL1およびBGL2の組換え酵素はいずれの場合にもβ−グルコシダーゼ活性を有していた。
なお、本発明に係る遺伝子を発現させ、宿主に導入することで形質転換体が得られるものであれば、大腸菌に限定されない。
【表1】
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るβ−グルコシダーゼBGL1及びBGL2は、グルコース及びエタノールに対して耐性があり、例えば20%エタノール存在下では、逆に活性化を示すことから例えばエタノール発酵菌を用いた同時糖化発酵システムの構築に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るβ−グルコシダーゼ酵素タンパク質を精製し、諸性質を調査したので以下説明する。
数センチの長さに切断した乾燥稲わら(コシヒカリ、平成23年秋収穫)55gをプラスチック容器に入れ、培地(0.05% 酵母エキス(日本製薬)、0.35% KH
2PO
4、0.1% CaCl
2・2H
2O、0.075% MgSO
4・7H
2O、0.2% (NH
4)
2SO
4)275mLを加え良く撹拌し、Mucor javanicus NBRC4572菌糸の生理食塩水懸濁液50mlを植菌後、30℃にて3日間静置培養した。
このようにして、得られた培養物(容器6個分)に、5mMの2−メルカプトエタノールを含む純水3Lを加えて、氷冷下ブレンダーにて撹拌することで、菌体外に生産された酵素を抽出した。
抽出液をざる、3重にしたガーゼ、珪藻土(ラジオライト#1000)にて順次濾過して、粗酵素液計10lを得た。
酵素精製は全て4℃にて行い、緩衝液として5mMの2−メルカプトエタノールを含むリン酸カリウム緩衝液(KPB)pH6.0を用いた。
大型バケツに粗酵素液(10l)を入れ、1M NaOH、10mM KPBで再生・平衡化したDEAE−Toyopearl(200ml)を入れ、メカニカルスターラーで一晩撹拌し、バッチ法で酵素を吸着させた。
吸引濾過にて樹脂を分離してカラムにつめ、100mM KPB、100mM KPB+100mM NaCl(各1l)にて順次溶出した。
後者で溶出される活性画分を集め、45%飽和硫安にした。
酵素液を45%飽和硫安の100mM KPBで平衡化したButyl−Toyopearlカラム(ゲル量20ml)にのせ、100mM KPB中45‐0%の飽和硫安の直線的グラジエント条件にて溶出し、活性画分を集めた。
限外濃縮した酵素液を10mM KPBで透析後、1M NaOH、10mM KPBで再生・平衡化したSuperQ−Toyopearlカラム(20ml)にのせ、100mM KPB‐100mM KPB+100mM NaClの直線的グラジエント条件にて溶出し、活性画分を集めた。
10mM KPBにて透析後、限外濃縮し、得られた酵素液をResourceQ カラム(GEヘルスケア)にのせ、2ml/minの流速で10mM KPB−50mM KPB+1M NaClの直線的なグラジエント条件にて溶出した。
これにより、フラクション#1および#2の二種類の精製酵素標品を得た。
表2に精製過程表を、
図1に精製酵素標品のSDS−PAGE画像を示す。
精製酵素標品のN−末端アミノ酸配列は、#1(BGL2)がKVKVL、#2(BGL1)がKVNVLであった。
【表2】
【0014】
次に上記で得られた2つの酵素の諸性質を調査したので説明する。
なお、β−グルコシダーゼ活性は、p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシド(Glu−β−pNP)を基質として酵素反応を行い、加水分解により等モル生成するグルコースとアルカリ条件で黄色く発色するp−ニトロフェノールのうち、後者を定量するものである。
酵素液、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μl、500mM Glu−β−pNP(DMSO溶液)1.25μlからなる反応液(全量125μl)を調製し、40℃で30分間静置して酵素反応を行った。
0.5M Tris−HCl(pH9.0)を25μl加えて反応を停止し、405nmにおける吸光度を測定した。
125μlのp−ニトロフェノールの0.01〜80mM DMSO溶液または酵素無添加反応液に0.5M Tris−HCl(pH9.0)を25μl加え、各々の濃度と吸光度の検量線を作成し、これをもとにして酵素液中のβ−グルコシダーゼ活性を算出した。
酵素活性の1U=1μmol/minの反応生成物を生成する酵素量とした。
また、タンパク質の定量は、牛血清アルブミン(BSA)を標準タンパク質としBradford法に従い行った。
タンパク質溶液5μlにProtein Assay Kit試薬(Bio-Rad)250μlを加えて15分間静置し、595nmの吸光度を測定した。
別途、5μlの0、0.0116、0.058、0.29mg/mlのBSA水溶液に試薬250μLを加え、BSA濃度と吸光度の検量線を作成し、これを元に酵素液中のタンパク質含量を求めた。
【0015】
<精製酵素標品のnative分子質量測定>
Superdex 200カラム(GEヘルスケア社)を用い、移動相として50mM KPB(pH7.0)+150mM NaClを用いて(流速0.5ml/min)分析した。
Gel Filtration Calibration Kit、HMW(GEヘルスケア社)を標品として用い、溶出時間と分子質量との検量線を作成し、精製酵素標品の溶出時間からnative分子質量を算出した。
その結果、BGL1は約91.0kDa、BGL2は約83.0kDaと算出された(表3)。
<精製酵素標品のsubunit分子質量測定>
Laemmli法にてSDS−PAGEを行い、SDS−PAGE Weight Standards、Low Range(Bio−Rad社)を標品として用い、移動度と分子質量の検量線を作成し、精製酵素標品の移動度からsubunit分子質量を算出した。
タンパク質の染色はクマシーブリリアントブルー(CBB R−250)で行った。
その結果、BGL1は約78.5kDa、BGL2は約78.6kDaと算出された(表3)。
<精製酵素標品の糖鎖染色>
糖鎖染色はGlycoprotein Detection キット(Sigma社)を用いた。
SDS−PAGE後のゲルをFixing Solution(50%メタノール)に30分浸し、2回水洗繰後、Oxidation Solution(過ヨウ素酸溶液)に30分浸し、2回水洗した。
Schiff’s Reagentに1時間浸した後、Reduction Solution(メタ重亜硫酸ナトリウム溶液)に1時間浸し、赤いバンドが見えるまで水洗した。
BGL1、2ともにタンパク質のバンドと同じ箇所が赤く染色され、両酵素とも糖タンパク質であることが示された(表3)。
<精製酵素標品の酵素的脱糖鎖実験>
以下の3種類の手法にて脱糖鎖反応を行い、SDS−PAGEにて分析し、各々の分子質量を求めた。
・N−結合型糖鎖の脱糖鎖(NEB社のPNGaseF推奨の反応プロトコールに準拠)
精製酵素標品9μlに1μlのDenaturing bufferを加え、100℃にて10分間加熱して熱変性させた。
このものに各2μlのG7buffer、NonidetP−40、PNGaseFを加え、総量を20μlにし、37℃にて5時間酵素反応を行った。
分子質量(kDa) BGL1:68.3 BGL2:69.9
・O−結合型糖鎖の脱糖鎖(NEB社のNeuramiminidase、O−Glycosidase推奨の反応プロトコールに準拠)
精製酵素標品9μlに各1μlのG1bufferおよびNeuraminidaseを加え、37℃にて1時間反応後、2μlのDenaturing bufferを加えて100℃にて10分間熱変性させた。
各2μlのG7buffer、NonidetP−40、O−Glycosidaseを加え、総量を20μlにし、37℃にて5時間酵素反応を行った。
分子質量(kDa) BGL1:72.9 BGL2:76.0
(バンドのブロードニングにより正確な分子質量を現していない)
・N,O−結合型糖鎖の脱糖鎖(上記二つの組合せ)
精製酵素標品9μlに各1μlのG1 bufferおよびNeuraminidaseを加え、37℃にて1時間反応後、2μlのDenaturing bufferを加えて100℃にて10分間熱変性させた。
各2μlのG7buffer、NonidetP−40、O−Glycosidase、PNGaseFを加え、総量を20μlにし、37℃にて5時間酵素反応を行った。
分子質量(kDa) BGL1:68.3 BGL2:69.9
・これらの実験により、BGL1、2ともに10kDa程度のN−結合型およびO−結合型両方の糖鎖を含むことが分かった(表3)。
<至適pH>
酵素液2μl、各pHの500mM緩衝液12.5μl、500mM Glu−β−pNP1.25μlからなる反応液(全量125μl)を調製し、40℃で30分間酵素反応させた。
500mM Tris−HCl(pH 9.0)を25μl加えて反応を停止後、酵素活性を算出した。
用いた緩衝液は、グリシン−HCl(pH2.5、3.0、4.0)、酢酸−酢酸ナトリウム(pH3.5、4.0、4.5、4.8、5.0、5.5)、KPB(pH6.0、7.0、7.5、8.0)、Tris−HCl(pH8.0、8.5、9.0)である。
結果は、pH5.0における酵素活性を100%とした相対値にて示した(表3、
図2)。
<安定pH>
酵素液2μlに各pHの500mM緩衝液5μlを加え、全量を25μlとしてよく混和し、30℃で30分間保温した。
このものに500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μl、500mM Glu−β−pNP1.25μlを加え、全量を125μlとして、40℃で30分間酵素反応させた。
500mM Tris−HCl(pH9.0)を25μl加えて反応を停止後、酵素活性を算出した。
緩衝液は至適pH測定時と同じものを使用した。
結果は、pH5.0中で保温したときの残存活性を100%とした相対値にて示した(表3、
図3)。
<至適温度>
500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μl、500mM Glu−β−pNP1.25μl、酵素液1μlからなる反応液(全量125μl)を調製し、4〜65℃にて30分間酵素反応させた。
ただちに氷水中で冷却後、Tris−HCl(pH9.0)を25μl加えることで反応を停止し、酵素活性を算出した。
結果は、40℃における酵素活性を100%とした相対値にて示した(表3、
図4)。
<安定温度>
酵素液1μlに500mM KPB(pH6.0)2.5μlを加え、全量を25μlとして4〜65℃にて30分保温し、ただちに氷水で冷却した。
30℃に戻し、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μl、500mM Glu−β−pNP1.25μlを加え、全量を125μlとして、40℃にて30分間酵素反応させた。
Tris−HCl(pH9.0)25μlを加えることで反応を停止し、酵素活性を算出した。
結果は、未処理の酵素の活性を100%とした相対値にて示した(表3、
図5)。
【0017】
<各種化合物の影響>
100mMの各種化合物1.25μl(終濃度1mM)、酵素液1μl、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μl、500mM Glu−β−pNP1.25μlからなる反応液(全量125μl)を調製し、40℃にて30分間酵素反応させた。
Tris−HCl(pH9.0)25μlを加えることで反応を停止し、酵素活性を算出した。
結果は、化合物無添加時の酵素活性を100%とした相対値にて示した(表4)。
【0019】
<基質特異性(pNP型基質)>
25または250mMの各基質25μl、酵素液1または10μl、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μlからなる反応液(全量125μl)を調製し、40℃にて30分間酵素反応させた。
Tris−HCl(pH9.0)25μlを加えることで反応を停止し、405nmにおける吸光度を測定し、生成したp−ニトロフェノールを定量することで酵素活性を算出した。
結果は、終濃度5mMのGlu−β−pNPを基質に用いたときの酵素活性を100%とした相対値にて示した(表5)。
【0021】
<基質特異性(pNP以外のアリール型、アルキル型、サッカライド型基質)>
25または250mMの各基質5μl、酵素液1または10μl、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)2.5μlからなる反応液(全量25μl)を調製し、40℃にて1〜20時間酵素反応させた。
酵素反応液を2μlとり、ラボアッセイグルコースキット(和光社)の発色試薬を300μl加え、別途グルコース(0.695〜27.8mM)溶液を用い、同様に発色させて作成した検量線から生成したグルコース量を定量し、酵素活性を測定した。
結果は、終濃度5mMのGlu−β−pNPを基質に用いたときの酵素活性を100%とした相対値にて示した(表5)。
<速度定数(アリール型基質)>
0.25〜100mMのGlu−β−pNPもしくはp−ニトロフェニル−β−D−キシロピラノシド(Xyl−β−pNP)25μl、酵素液1μl、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μlからなる反応液(全量125μl)を調製し、40℃にて30分間〜14時間酵素反応させた。
Tris−HCl(pH9.0)25μlを加えることで反応を停止し、405nmにおける吸光度を測定し、生成したp−ニトロフェノールを定量することで酵素活性を求め、Lineweaver−Burk Plotから速度定数を算出した。
Glu−β−pNPに対する速度定数
K
m(mM) BGL1:0.283 BGL2:0.975
V
max(U/mg) BGL1:135 BGL2:156
Xyl−β−pNPに対する速度定数
K
m(mM) BGL1:10.7 BGL2:8.03
V
max(U/mg) BGL1:14.3 BGL2:1.61
<速度定数(セロビオース)>
1.25〜250mMのセロビオース5μl、酵素液1μl、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)2.5μlからなる反応液(全量25μl)を調製し、40℃にて4時間酵素反応させた。
酵素反応液を2μlとり、ラボアッセイグルコースキット発色試薬を300μl加え、生成したグルコース量を定量して酵素活性を求め、Lineweaver−Burk Plotから速度定数を算出した。
またグラフから、最大活性の1/2にまで活性が低下するセロビオース濃度(基質阻害の度合い)をBGL1では>500mM、BGL2では>12.5mMと判定した(表3)。
セロビオースに対する速度定数
K
m(mM) BGL1:10.1 BGL2:4.53
V
max(U/mg) BGL1:583 BGL2:551
<グルコース、エタノールに対する耐性>
0〜200mMのグルコース、または1〜50%のエタノールの存在下、Glu−β−pNPを基質に用いて酵素反応を行い、酵素活性を算出した。
結果は、無添加時の酵素活性を100%とした相対値にて示した。
グルコースの存在により活性が1/2に低下する濃度(生成物阻害)をBGL1では>125mM、BGL2では>25mMと判定した。
また、20%エタノール存在下では、BGL1は150%、BGL2は120%活性化されることが分かった(表3、
図6)。
<グルコースによる阻害形式>
0〜80mMのグルコース存在下、1μlの酵素液、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μl、0.05〜0.75mMのGlu−β−pNPを含む反応液(全量125μl)を調製し、40℃にて30分間酵素反応させた。
Tris−HCl(pH9.0)25μlを加えることで反応を停止し、405nmにおける吸光度を測定して生成したp−ニトロフェノールを定量することで酵素活性を求め、各グルコース濃度におけるLineweaver−Burk Plotの結果から、阻害の形式をBGL1、2ともに非拮抗型と判定した(表3、
図7)。
<界面活性剤に対する耐性>
酵素に各種界面活性剤を終濃度1%加え、室温にて1.5もしくは20時間保温後、Glu−β−pNPを基質に用いて酵素活性を測定した。
用いた界面活性剤は、Triton X−100、Tween 20、Tween 80、Nonidet P−40、Bridge 35、SDS、3−(3−cholamidepropyl)dimethylammonio−1−propanesulphonate(CHAPS)、Cetyltrimethylammonium bromide(CTAB)、Sodium N−laurylsarcosinate (NLS)、Sorbitan monolaurate、n−Octyl−glucosideである。
結果は、無添加時の酵素活性を100%とした相対値にて示した(表3、表6)。
【0023】
<糖転移活性の検出>
200mMのセロビオース31.25μl(終濃度50mM)、酵素液5μl、500mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)12.5μlからなる反応液(全量125μl)を調製し、40℃にて1〜20時間酵素反応させた。
経時的にサンプリングしたものをシリカゲルTLCにスポット後、n−buthanol/EtOH/水=5/3/2にて展開し、10%硫酸を含むMeOHを噴霧後、ホットプレートで加熱することで化合物を発色させ、セロビオース加水分解時の糖転移活性をみた。
BGL1では反応開始後、糖転移活性により生じたセロオリゴ糖が若干蓄積するものの、セロオリゴ糖自身も良い基質となるため、反応を続けるとグルコースにまで分解された。
一方、BGL2では、系内に蓄積したセロオリゴ糖の分解力が弱いためにセロオリゴ糖が系内に蓄積したままであった。
同じ組成の反応液を用い、EtOHを10および20%共存下で酵素反応を行い、同様にTLCにて反応生成物を定性的に分析することでEtOHへの糖転移活性をみた。
BGL1、2ともにEtOHへの糖転移活性によりエチルグルコシド(Glu−OEt)を生成するものの、両酵素ともにこの化合物を良い基質とし、最終的にはグルコースへと変換するため、エチルグルコシドの系内への著量蓄積は認められなかった(表3、
図8)。
【0024】
次に酵素遺伝子の単離操作について説明する。
<BGL1の遺伝子単離操作>
前述した方法にて培養したM.javanicusの菌糸由来mRNAに対してRT−PCRを行い、cDNAを取得した。
このcDNAに対してBGL1−forward1及びBGL1−reverse1の組合せで1stPCRを行い、次いでPCR反応液の50倍希釈液に対してBGL1−forward2及びBGL1−reverse2の組合せでnested−PCRを行い、コード領域全長を含むcDNA断片を単離した。
その時の条件を下記に示す。
<1stPCR反応液(20μl)組成>
鋳型cDNA 1μl、100pmol/μlプライマー(BGL1−forward1及びBGL1−reverse1)各1μl、2mM dNTP 2μl、10xBlend Taq buffer 2μl、Blend Taq DNA Polymerase 0.5μl、水 12.5μl
<1stPCR反応サイクル>
94℃、90秒の加熱の後、変性(96℃、30秒)→アニーリング(45℃、1分)→伸長(72℃、2分)の3ステップからなる反応サイクルを35回行った。
<nested−PCR反応液(20μl)組成>
1st−PCR反応液(50倍希釈)1μl、100pmol/μlプライマー(BGL1−forward2、BGL1−reverse2)各1μl、2mM dNTP 2μl、10xBlend Taq buffer 2μl、Blend Taq DNA Polymerase 0.5μl、水 12.5μl
<nested−PCR反応サイクル>
94℃、90秒の加熱の後、変性(96℃、30秒)→アニーリング(60℃、1分)→伸長(72℃、2分)の3ステップからなる反応サイクルを35回行った。
その結果、本菌由来のcDNAを8クローン得、シークエンシングしたところ全て同じcDNA配列が得られた。
・BGL1の遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号5に示す。
・また、コドン対応アミノ酸配列を配列番号6に示し、アミノ酸配列を配列番号7に示す。
【0025】
<BGL2の遺伝子単離操作>
前述した方法にて培養したM.javanicusの菌糸由来mRNAに対してRT−PCRを行い、cDNAを取得した。
このcDNAに対してBGL2−forward1及びBGL2−reverse1の組合せで1stPCRを行い、次いでPCR反応液の50倍希釈液に対してBGL2−forward2及びBGL2−reverse2の組合せでnested−PCRを行い、コード領域全長を含むcDNA断片を単離した。
その時の条件を下記に示す。
<1stPCR反応液(20μl)組成>
鋳型cDNA 1μl、100pmol/μlプライマー(BGL2−forward1及びBGL2−reverse1) 各1μl、2mM dNTP 2μl、10xBlend Taq buffer 2μl、Blend Taq DNA Polymerase 0.5μl、水 12.5μl
<1stPCR反応サイクル>
94℃、90秒の加熱の後、変性(96℃、30秒)→アニーリング(55℃、1分)→伸長(72℃、2分)の3ステップからなる反応サイクルを35回行った。
<nested−PCR反応液(20μl)組成>
1st−PCR反応液(50倍希釈)1μl、100pmol/μlプライマー(BGL2−forward2、BGL2−reverse2)各1μl、2mM dNTP 2μl、10xBlend Taq buffer 2μl、Blend Taq DNA Polymerase 0.5μl、水 12.5μl
<nested−PCR反応サイクル>
94℃、90秒の加熱の後、変性(96℃、30秒)→アニーリング(60℃、1分)→伸長(72℃、2分)の3ステップからなる反応サイクルを35回行った。
その結果、本菌由来のcDNAを8クローン得、シークエンシングしたところ全て同じcDNA配列が得られた。
・BGL2の遺伝子のcDNAの塩基配列を配列番号12に示す。
・また、コドン対応アミノ酸配列を配列番号13に示し、アミノ酸配列を配列番号14に示す。
【0026】
このようにして単離したBGL1、BGL2の遺伝子を用いた組換え酵素については、段落(0010)にて説明したとおりである。