特許第6043949号(P6043949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043949
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20161206BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20161206BHJP
   F04B 39/02 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F04C18/356 M
   F04C29/02 A
   F04B39/02 P
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-121539(P2012-121539)
(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公開番号】特開2013-245643(P2013-245643A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100170494
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕文
(72)【発明者】
【氏名】尾形 雄司
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 優
(72)【発明者】
【氏名】船越 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中井 啓晶
(72)【発明者】
【氏名】苅野 健
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−002299(JP,A)
【文献】 特開平04−159490(JP,A)
【文献】 特開2006−037968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04B 39/02
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部にオイル溜まりを有する密閉容器と、
前記密閉容器内で、駆動軸を支持する上軸受、及び下軸受と、
前記下軸受に設けられ、圧縮機構部で圧縮された作動流体を吐出する吐出ポートと、
前記下軸受と下バルブカバーとで構成され、前記吐出ポートを介して圧縮された作動流体が吐出される吐出空間と、
を具備する圧縮機であって、
前記下軸受に設けられ、前記オイル溜まりのオイルの一部を取り込むオイル保持部を備え、その取り込まれたオイルの流れが前記オイル溜まりにおけるオイルの流れよりも抑制されるように、前記オイル保持部を前記吐出空間と独立的に区画するとともに、
前記下バルブカバーの中心部付近には前記駆動軸の下端部が貫通する中心開口部が設けられ、前記下バルブカバーの縁にリブを設けると共に、前記下軸受と前記下バルブカバーとに夫々設けられた平面領域からなるシール面同士を接触させることで前記吐出空間と前記オイル溜まりとの間をシールし、前記シール面は概ね一つの平面上にあることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮機構部は、シリンダとローリングピストン、ベーンを端板で挟み込むことで圧縮室を形成し、前記駆動軸の回転に伴って前記ローリングピストンが回転することで圧縮動作を行うロータリ方式であり、前記下バルブカバーの前記ベーンが位置する側に前記リブを設けた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記下バルブカバーの外周部を折り曲げて前記リブを構成した請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記下バルブカバーの前記中心開口部を折り曲げて前記リブを構成した請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記下バルブカバーの厚みをt、前記リブの高さをHとしたとき、H/tが0より大きく5以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機、冷凍機、ブロワ、給湯機等に使用される圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の構成の一例として、特許文献1に示す図6の2シリンダロータリ方式の高圧タイプ密閉型圧縮機の縦断面図を参照しながら説明する。
【0003】
図6において、上・下シリンダ101、102と上・下ローリングピストン103、104、ベーン(図示せず)を上軸受105と中板106、下軸受107で挟み込むことで上下独立した二つの吸入室108a(108b(図示せず))と二つの圧縮室109b、(109a(図示せず))を形成し、駆動軸110の回転に伴って上・下ローリングピストン103、104が回転することで圧縮動作を行う圧縮機構部111と、駆動軸110に回転力を伝える電動要素112とが密閉容器113内に収納されている。
【0004】
上軸受105と下軸受107には吐出ポート(図示せず)が各々設けられ、圧縮室109b、(109a(図示せず))で所定の圧力まで圧縮された作動流体が逆止弁(図示せず)を介して吐出ポートから吐出される。吐出ポート下流側の吐出空間114、115は上・下軸受105、107と上・下バルブカバー116、117とで囲まれて形成されている。下バルブカバー117は平板であり、下軸受107との平面同士が接触することでシール面を構成している。下吐出空間115内の作動流体は上下連通路(図示せず)を通って上吐出空間114へと導かれ、上軸受105の吐出ポートから吐出された作動流体と合流した後、上バルブカバー116に設けられた開口部を通じて電動要素112下部空間に流出し、密閉容器113上部の吐出管118から圧縮機外部へ吐出される。
【0005】
密閉容器113下部に貯留されたオイルは駆動軸110内部に軸方向に設けられた穴の下端から吸い上げられ、圧縮機構部111の各所に適量が供給されて、摺動部の潤滑と圧縮室109b(109a(図示せず))の隙間シールに供される。
【0006】
図7図6における下軸受107の正面図である。
【0007】
下吐出空間115内部は圧縮機の中で最も温度が高い吐出ガスが全周にわたって充満しているため、下軸受107が受熱され、それに伴って下吸入室108b内の低温低圧の作動流体も受熱される。この受熱による体積効率低下を抑制するため、図7では下軸受107の下吐出空間115内の下吸入室108b側に淀み空間119を設け、下吐出空間115と淀み空間119とを通路120によってつなげることにより、高温高圧の吐出ガスを下吸入室108bから遠ざけて受熱を低減している。
【0008】
しかし、この構成では、吐出ポートから吐出直後の最も高温のガスが充満する下吐出空間115と淀み空間119とが連通しているため、少なからず淀み空間119内外のガスの交換が生じるため、断熱効果は限定的なものとなる。
【0009】
ところで、下軸受107の中心部における、下軸受107と下バルブカバー117との
シール性が悪いと、下吐出空間115のガスがシール部から外部へ漏れ出して駆動軸110下端からオイルとともに吸い上げられてしまう、いわゆるガス噛み現象が生じるため、オイル供給不足による摺動部の潤滑悪化と圧縮室109のシール性悪化も課題となっている。
【0010】
この課題を解決するため、特許文献2に示す圧縮機では、図8のとおり、下軸受107と下バルブカバー117との締結面122において、外周側締結面122aに対して中心側締結面122bをL1だけ凸にすることで、中心側締結面122bでの接触力を増加させてシール性を向上し、駆動軸110下端からのガスの吸い込みを防止して信頼性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−2299号公報
【特許文献2】特開2009−127608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に示す前記従来の構成では、下バルブカバー117を積極的に変形させて軸方向接触力を発生させていることから、下軸受107には軸方向荷重が加わって変形することでローリングピストン104との所定の隙間が確保できなくなることや、軸受部の円筒度や直角度が損なわれること等によって逆に信頼性が悪化することがある。
【0013】
また、下バルブカバー117はある程度薄くする必要があるため、締結面122の各所に不測の隙間が生じやすい。
【0014】
更に、エッジ部でシールしている中心側締結面122bとボルトが締結される外周側締結面122aとの中間付近に隙間が生じることがある。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、平板状の下バルブカバーにリブを設けることにより、ボルト締結や圧力差による下バルブカバーの変形を抑制し、下軸受との締結面の各シール部の隙間を極小化してシール性を向上させ、オイルへのガスの漏れ出しを抑えることにより、高い効率と高い信頼性を持つ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、本発明の圧縮機は、請求項1記載のとおり、下部にオイル溜まりを有する密閉容器と、前記密閉容器内で、駆動軸を支持する上軸受、及び下軸受と、前記下軸受に設けられ、圧縮機構部で圧縮された作動流体を吐出する吐出ポートと、前記下軸受と下バルブカバーとで構成され、前記吐出ポートを介して圧縮された作動流体が吐出される吐出空間と、を具備する圧縮機であって、前記下軸受に設けられ、前記オイル溜まりのオイルの一部を取り込むオイル保持部を備え、その取り込まれたオイルの流れが前記オイル溜まりにおけるオイルの流れよりも抑制されるように、前記オイル保持部を前記吐出空間と独立的に区画するとともに、前記下バルブカバーの中心部付近には前記駆動軸の下端部が貫通する中心開口部が設けられ、前記下バルブカバーの縁にリブを設けると共に、前記下軸受と前記下バルブカバーとに夫々設けられた平面領域からなるシール面同士を接触させることで前記吐出空間と前記オイル溜まりとの間をシールし、前記シール面は概ね一つの平面上にある。
【0017】
これによって、ボルト締結や圧力差による下バルブカバーの変形を抑制し、シール面で
の隙間を極小化してシール性を向上させ、オイルへのガスの漏れ出しを抑えることにより、ガス噛みやオイル粘度低下、油面上昇等を防止して、高効率と高信頼性とを実現することが可能である。また、高温のガスが充満する吐出空間の範囲を吐出ポート付近に限定し、オイル保持部を以て断熱層をなして低温の吸入ガスへの熱伝達、熱伝導を抑制し、体積効率を向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の圧縮機は、平板状の下バルブカバーにリブを設けることにより、ボルト締結や圧力差による下バルブカバーの変形を抑制し、下軸受との締結面の各シール部の隙間を極小化してシール性を向上させ、オイルへのガスの漏れ出しを抑えることにより、高効率と高信頼性を併せ持つ圧縮機が実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態1における圧縮機の縦断面図
図2】本発明の実施の形態1における下軸受の断面図
図3】本発明の実施の形態1における下軸受の正面図
図4】本発明の実施の形態2における圧縮機の縦断面図
図5】本発明の実施の形態2における下バルブカバーの斜視図
図6】特許文献1の従来の圧縮機における圧縮機の縦断面図
図7】特許文献1の従来の圧縮機における下軸受の正面図
図8】特許文献2の従来の圧縮機における下軸受の断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の発明は、下部にオイル溜まりを有する密閉容器と、前記密閉容器内で、駆動軸を支持する上軸受、及び下軸受と、前記下軸受に設けられ、圧縮機構部で圧縮された作動流体を吐出する吐出ポートと、前記下軸受と下バルブカバーとで構成され、前記吐出ポートを介して圧縮された作動流体が吐出される吐出空間と、を具備する圧縮機であって、前記下軸受に設けられ、前記オイル溜まりのオイルの一部を取り込むオイル保持部を備え、その取り込まれたオイルの流れが前記オイル溜まりにおけるオイルの流れよりも抑制されるように、前記オイル保持部を前記吐出空間と独立的に区画するとともに、前記下バルブカバーの中心部付近には前記駆動軸の下端部が貫通する中心開口部が設けられ、前記下バルブカバーの縁にリブを設けると共に、前記下軸受と前記下バルブカバーとに夫々設けられた平面領域からなるシール面同士を接触させることで前記吐出空間と前記オイル溜まりとの間をシールし、前記シール面は概ね一つの平面上にあることにより、ボルト締結や圧力差による下バルブカバーの変形を抑制し、下軸受との締結面の各シール部の隙間を極小化してシール性を向上させ、オイルへのガスの漏れ出しを抑えることにより、高効率と高信頼性を併せ持つ圧縮機が実現可能である。
【0021】
この構成では、高温のガスが充満する吐出空間の範囲を吐出ポート付近に限定し、オイル保持部を以て断熱層をなして低温の吸入ガスへの熱伝達、熱伝導を抑制し、体積効率を向上させることが可能である。
【0022】
この構成では、下軸受と下バルブカバーの外周側締結面と中心側締結面に加え、吐出空間とオイル保持部との間もシールする必要があるため、ボルト締結や圧力差による変形の影響を受けやすい構成となっている。したがって、この構成にリブを設けた下バルブカバーを用いることで、体積効率を向上させると同時に高い信頼性を確保することが可能となる。
【0023】
第2の発明は、特に、第1の発明の圧縮機において、前記圧縮機構部は、シリンダとローリングピストン、ベーンを端板で挟み込むことで前記圧縮室を形成し、前記駆動軸の回
転に伴って前記ローリングピストンが回転することで圧縮動作を行うロータリ方式であり、前記下バルブカバーの前記ベーンが位置する側に前記リブを設けている。
【0024】
通常、シリンダはオイル溜まりに浸漬され、ベーン背面からベーンの摺動部にオイルが供給されて潤滑とオイルシールの機能を果たしているが、ベーンの直下付近において下軸受と下バルブカバーの外周側締結面からガスが漏れ出すと、オイル溜まり内をガスが浮力で上昇し、ベーンの摺動部でガス噛みが生じて圧縮機効率と信頼性の悪化を招く。
【0025】
そこで、リブによってベーン直下付近の下バルブカバー変形を抑制することでベーン摺動部でのガス噛みを防止し、高効率と高信頼性を維持することができる。
【0026】
加えて、少なくともベーン直下付近にリブを設ければよいため、全周にリブを設けるよりも加工工数が減少し、コストダウンを図ることが可能である。
【0027】
第3の発明は、特に、第1または第2のいずれかの発明の圧縮機において、下バルブカバーの外周部を折り曲げてリブを構成することにより、ボルト締結部に近い場所を簡便な構成で補強でき、低コストでボルト締結時変形によるボルト間の隙間発生を抑制することが可能である。
【0028】
第4の発明は、特に、第1〜3のいずれか1つの発明の圧縮機において、下バルブカバーの中心開口部を折り曲げてリブを構成することにより、圧縮機の高循環量運転時等において、吐出ガスの圧力損失によって上流側の吐出空間と下流側の密閉容器内部との圧力差が拡大し、下バルブカバー表裏の圧力差が大きくなった場合でも、下バルブカバー中心部の圧力変形が抑えられ、中心側締結面でのガス漏れによる駆動軸のガス噛みが防止でき、高い信頼性を確保することが可能である。
【0029】
第5の発明は、特に、第1〜4のいずれか1つの発明の圧縮機において、下バルブカバーの厚みをt、リブの高さをHとしたとき、H/tを0より大きく5以下とすることにより、下バルブカバーの補強にほとんど寄与しないH/tが5よりも大きい範囲を無くして材料費の削減が可能である。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における圧縮機の縦断面図である。
【0032】
図1において、密閉容器1内に電動要素2が収納されている。電動要素2の鉛直方向の駆動軸3で圧縮機構部4が駆動されるようになっている。この圧縮機構部4は上シリンダ5aと上ローリングピストン6a、上ベーン(図示せず)を上軸受7と中板8で挟み込み、下シリンダ5bと下ローリングピストン6b、下ベーン(図示せず)を中板8と下軸受9で挟み込むことで上・下シリンダ5a、5b各々が独立した吸入室10a、(10b(図示せず))と圧縮室11b、(11a(図示せず))を形成して圧縮動作を行うように構成されている。上・下シリンダ5a、5b内には、駆動軸3と一体的に構成された上・下偏芯部3a、3bが収納されており、この上・下偏芯部3a、3bに上・下ローリングピストン6a、6bが回転自在に装着されている。上・下シリンダ5a、5bには、ベーン(図示せず)が上・下ローリングピストン6a、6bに当接して設けられ、吸入室10a、10bと圧縮室11a、11bとを仕切っている。上・下シリンダ5a、5bには、吸入室10a、10bと隣接して吸入穴12a、12bが設けられている。吸入穴12a、12bには吸入ライナー13a、13bがそれぞれ圧入され、密閉容器1内部の高圧冷
媒ガスと吸入穴12a、12b内部の低圧冷媒ガスを仕切っている。吸入ライナー13a、13bには、圧縮機の液圧縮を防止するためにアキュムレータ14が気密を保ちながら接続されている。
【0033】
電動要素2を通電して駆動軸3を回転させると、偏芯部3a、3bが上・下シリンダ5a、5b内において偏芯回転し、上・下ローリングピストン6a、6bがベーンに当接しながら回転運動し、冷媒ガスの吸入、圧縮が繰り返される。
【0034】
上・下吐出空間15a、15bはそれぞれ、上軸受7と上バルブカバー16a、下軸受9と下バルブカバー16bとが締結されることによって形成され、上・下シリンダ5a、5bで各々圧縮されたガスは上軸受7と下軸受9に設けられた吐出ポート(図示せず)から上・下吐出空間15a、15bへ吐出される。下吐出空間15b内の吐出ガスは、上軸受7と上・下シリンダ5a、5b、中板8、下軸受9の5部品を貫通して開けられた上下連通路(図示せず)を通って上吐出空間15a内に導かれ、上シリンダ5aにて圧縮され、上吐出空間15aに吐出されたガスと最終的に合流した後、吐出通路17を通って電動要素2下部空間へと流出する。その後、電動要素2の固定子2a外周部や回転子2b内部に設けられたガス通路や、固定子2aと回転子2bとの間の隙間を通って電動要素2上部空間へと導かれ、吐出管18から圧縮機外部へと吐出される。
【0035】
駆動軸3内部には穴が開けられ、密閉容器1下部のオイル溜まり19のオイルを駆動軸3下端に取り付けられた給油機構20を利用してオイル吸い込み口21から吸い上げている。吸い上げられたオイルは、圧縮機構部4各所に供給され、摺動部の潤滑および圧縮室11b(11a(図示せず))の隙間シールに利用される。
【0036】
図2図1における下軸受9と下バルブカバー16bの断面図、図3図1における下軸受9の正面図である。
【0037】
下シリンダ5bで圧縮された高温高圧のガスは吐出ポート22を通って下吐出空間15bに吐出される。吐出ポート22には逆止弁(図示せず)が取り付けられ、下圧縮室11bへの逆流を防止している。
【0038】
下吐出空間15b内の吐出ガスは上下連通路23から上吐出空間15aへと導かれる。
【0039】
下吸入穴12b側にはオイル保持部24が設けられ、隔壁25が下バルブカバー16bと密着することで面シールし、下吐出空間15bとオイル保持部24とを隔離している。また、オイル保持部24は微小な通路(図示せず)によってオイル溜まり19と連通しているが、オイル保持部24とオイル溜まり19との間のオイル流動はほとんどない。
【0040】
下バルブカバー16bの外周部は上側に曲げられて外周側リブ26aをなし、中心部は下側に曲げられて中心側リブ26bをなしている。
【0041】
以上のように構成された圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0042】
アキュムレータ14から供給された低温低圧のガスが吸入穴12a、12bから圧縮機構部4へ入り、圧縮されて圧縮機構部4の外へ出た後、吐出管18から圧縮機外部へ吐出されるまでの過程の中で、下吐出空間15b内部のガス、すなわち、吐出ポート22から吐出された直後の吐出ガスがほとんどの運転モードにおいて最も高温高圧であり、上軸受7と下軸受9はこの高温高圧の吐出ガスに常にさらされている。
【0043】
一方、低温低圧の吸入ガスが充満する吸入室10a(10b(図示せず))を形成する
部品のひとつとして機能する上軸受7および下軸受9は低温低圧の吸入ガスにもさらされている。
【0044】
したがって、高温高圧の吐出ガスの熱が熱伝達および熱伝導によって低温低圧の吸入ガスへと移動し、吸入ガスの密度低下による圧縮機の体積効率悪化を招く。
【0045】
この熱の移動を抑制するため、下軸受9の吸入室10b側にオイル保持部24を設けて断熱層とし、体積効率を向上させている。
【0046】
下軸受9と下バルブカバー16bとの締結面27には大きく分けて5つのシール部(下記第1〜第5シール部27a〜27e)があり、いずれも面シールによってシール性が維持されている。そして、それぞれのシール部での漏れリスクが異なる。
【0047】
第1シール部27aは下吐出空間15bとオイル保持部24との間の2箇所の隔壁25と下バルブカバー16bとが接する面であり、下吐出空間15bとオイル保持部24とを仕切っている。
【0048】
下吐出空間15bの圧力はオイル保持部24よりも若干高めであるため、第1シール部27aのシール性が損なわれた場合、下吐出空間15bの吐出ガスがオイル保持部24へと流れ込んでオイル保持部24自体が高温となるため、断熱層としての機能を果たせなくなって体積効率の悪化を招く。したがって、第1シール部27aは確実にシールする必要がある。
【0049】
第2シール部27bは下軸受9外周の締結面27のうちオイル保持部24側の面であり、オイル保持部24とオイル溜まり19とを仕切っている。
【0050】
オイル保持部24とオイル溜まり19との間には前述のとおり微小な通路が設けられており、基本的に連通状態であるため、第2シール部27bのシール性が少々損なわれても特に問題はない。但し、極端にシール性が悪化するとオイル溜まり19の高温のオイルがオイル保持部24内に入り込み、断熱性能が悪化する。
【0051】
第3シール部27cは下軸受9外周の締結面27のうち下吐出空間15b側の面であり、下吐出空間15bとオイル溜まり19とを仕切っている。
【0052】
下吐出空間15bの圧力はオイル溜まり19よりも若干高めであるため、第3シール部27cのシール性が損なわれた場合、下吐出空間15bの吐出ガスがオイル溜まり19へと流れ込み、吐出ガスのオイルへの溶解が促進されてオイル粘度が低下し、圧縮機の信頼性の悪化を招く。
【0053】
また、上・下ベーンの直下付近でこのシール部から漏れ出した吐出ガスは浮力によって上昇し、上・下ベーンの摺動部へのガス混入、いわゆるガス噛みが生じるため、圧縮機効率の低下と信頼性の悪化を招く。
【0054】
したがって、第3シール部27cは確実にシールする必要がある。
【0055】
第4シール部27dは下軸受9中心側の締結面27のうちオイル保持部24側の面であり、オイル保持部24とオイル溜まり19とを仕切っている。
【0056】
このシール部は第2シール部27bと同様、シール性が少々損なわれても特に問題はない。
【0057】
第5シール部27eは下軸受9中心側の締結面27のうち下吐出空間15b側の面であり、下吐出空間15bとオイル溜まり19とを仕切っている。
【0058】
このシール部のシール性が損なわれた場合、第3シール部27cの場合と同様、吐出ガスがオイルへ溶解することによるオイル粘度低下のリスクがあることに加え、第5シール部27eから流出したガスが駆動軸3のオイル吸い込み口21から直接吸い込まれるガス噛みによって、給油量不足による摺動部の潤滑不良や圧縮室11のシール不足が発生し、極端な信頼性悪化と圧縮機効率低下を招くため、第5シール部27eは特に注意してシール性を確保する必要がある。
【0059】
すなわち、圧縮機の高効率と高信頼性を実現するためには、第1シール部27aと第3シール部27c、第5シール部27eの三つのシール部のシール性を確保することが必要となる。
【0060】
下軸受9と下バルブカバー16bとを複数のボルト28によって締結すると、ボルト28の座面が下バルブカバー16bに対して強い圧縮力を加え、下バルブカバー16bのボルト28締結部が沈み込み、隣り合う二つのボルト28締結部の間が相対的に浮くため、第3シール部27cでの隙間が大きくなりやすい。
【0061】
一方、高い循環量で圧縮機が運転されているとき、吐出ガスの圧力損失によって上流側の下吐出空間15bと下流側の密閉容器1内部との圧力差が拡大し、下バルブカバー16b表裏の圧力差が大きくなるため、下バルブカバー16b中心部が圧力変形によって下方向に膨れ上がり、第5シール部27eでの隙間が大きくなりやすい。
【0062】
第1シール部27aは第3シール部27cと第5シール部27eとの間にあるため、ボルト28の締結による変形と圧力変形の両方の影響を受けて隙間が大きくなる。
【0063】
上記「ボルト締結歪み」と「圧力歪み」によるシール性悪化を改善するためには、シール性が重要な各シール部27a、27c、27e付近の下バルブカバー16bの剛性を上げる必要がある。
【0064】
剛性向上の手段として大きく二つあり、一つは下バルブカバー16bの板厚拡大、もう一つはリブ補強である。
【0065】
板厚拡大の方法は確実に剛性向上が実現できることが利点であるが、材料費が増加して直接的なコストアップが不可避であることが欠点である。また、下バルブカバー16bをプレス加工で作製する場合を考えると、板厚が拡大すればするほどプレス圧力を増加させ、金型もより強固なものとする必要があるため、多額の設備投資や歩留まりの悪化によるコストアップも生じてしまう。
【0066】
一方、リブ補強の方法は板厚を拡大することなく補強できるため、大きなコストアップを回避できることが利点である。しかし、形状が複雑になりやすく、平面度の悪化や曲げ部での割れ等の課題がある。
【0067】
その課題の解決策として、図2のように下バルブカバー16bの外周側の端部と中心開口部の端部を曲げて外周側リブ26a、中心側リブ26bとすることで、外周から中心にかけて平面部を広く確保することができるため、平面度を良好に保つことができるとともに、シンプルなリブ形状であるため、曲げ部での割れも発生しにくい。
【0068】
この構成の下バルブカバー16bは、オイル保持部24が無く、全周にわたって下吐出空間15bとなっている従来の圧縮機にも適用可能であることはもちろんであるが、本実施の形態1のようにオイル保持部24を設けて断熱層として体積効率を向上させている圧縮機では特にシールが重要であることから、より効果を発揮することができ、高い圧縮機効率と高い信頼性を両立することが可能である。
【0069】
上記リブ26の高さHは、下バルブカバー16bの厚みtとの比H/tを0より大きく5以下とすることで効率的にリブ補強の効果を発揮でき、リブ26の無駄な部分を削減することができる。比H/tを0より大きく5以下としたのは、その範囲内では、第1シール部27a、第3シール部27c、および第5シール部27eの三つのシール部の変位が小さいためである。
【0070】
なお、図2では下バルブカバー16bの締結面27に対してリブ26を90度曲げて構成しているが、必ずしも90度である必要はなく、リブ補強の度合いによって角度を小さくしてもよい。角度を小さくすれば加工性が向上し、コストアップをさらに抑制することができる。
【0071】
また、各シール部27a、27c、27eのシール状態によって外周側リブ26aと中心側リブ26bを選択的に用いることもでき、必要最小限のリブ補強によって平面度を容易に確保可能であるし、コストアップも抑制可能である。
【0072】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における圧縮機の縦断面図である。
【0073】
図4において、ベーン29はオイル溜まり19に浸漬され、ベーン29の背面からベーン29の摺動部にオイルが供給されて潤滑とオイルシールの機能を果たしている。また、シリンダ5とベーン29の隙間を通って吸入室10a(10b(図示せず))および圧縮室11a(11b(図示せず))へとオイルが流れ込み、圧縮室11の隙間シールにも役立っている。
【0074】
ベーン29の直下付近において下軸受9と下バルブカバー16bの締結面27の第3シール部27cからガスが漏れ出すと、オイル溜まり19内をガスが浮力で上昇し、ベーン29の摺動部でガス噛みが生じて圧縮機効率と信頼性の悪化を招いてしまう。
【0075】
そこで、図5に示す下バルブカバー16bの斜視図のとおり、ベーン29直下にてリブ補強して変形を抑制することでベーン29摺動部でのガス噛みを防止し、高効率と高信頼性を維持することができる。
【0076】
図5のような構成にすれば、全周に外周側リブ26aを設ける必要がなく、平面度の確保とコストダウンを実現することが可能である。
【0077】
なお、中心側のシールに関しても同様の構成が考えられ、下バルブカバー16bの中心開口部でのシール部である第4シール部27dと第5シール部27eのうち、シール性が重要な第5シール部27eの側にのみ中心側リブ26bを設けることで同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明にかかる圧縮機は、平板状の下バルブカバーにリブを設けることにより、ボルト締結や圧力差による下バルブカバーの変形を抑制し、下軸受との締結面の各シール部の隙間を極小化してシール性を向上させ、オイルへのガスの漏れ出しを抑える
ことにより、高効率と高信頼性を併せ持つ圧縮機が実現可能であり、HFC系冷媒やHCFC系冷媒、HFO系冷媒を用いたエアーコンディショナーやヒートポンプ式給湯機のほかに、自然冷媒の二酸化炭素を用いたエアーコンディショナーやヒートポンプ式給湯機などの用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 密閉容器
3 駆動軸
4 圧縮機構部
5a 上シリンダ
5b 下シリンダ
6a 上ローリングピストン
6b 下ローリングピストン
7 上軸受
9 下軸受
15a 上吐出空間
15b 下吐出空間
16b 下バルブカバー
19 オイル溜まり
22 吐出ポート
24 オイル保持部
26a 外周側リブ
26b 中心側リブ
27 締結面
29 ベーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8