(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043982
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】繊維製品及び靴下
(51)【国際特許分類】
A41B 11/00 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
A41B11/00 A
A41B11/00 J
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-282241(P2011-282241)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-129947(P2013-129947A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年12月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 発行者名 社団法人 日本繊維製品消費科学会 刊行物名 2011年年次大会・研究発表要旨 発行日 平成23年6月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 集会名 日本繊維製品消費科学会2011年年次大会 主催者名 社団法人 日本繊維製品消費科学会 開催日 平成23年6月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592154411
【氏名又は名称】岡本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】新賀 一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 恵美
(72)【発明者】
【氏名】片山 憲史
(72)【発明者】
【氏名】竹田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢野 忠
【審査官】
笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−169523(JP,A)
【文献】
特開2007−162155(JP,A)
【文献】
特開2003−306814(JP,A)
【文献】
特開2001−295104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00
A41B 11/02 〜 11/04
A61H 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の足の経穴をピンポイントで刺激するための刺激部と、
前記刺激部の周囲に設けられた本体部とを備え、
前記刺激部は、発熱性を有する第1繊維素材からなっており、
前記本体部は、前記第1繊維素材よりも発熱性の低い第2繊維素材からなっており、
前記刺激部は、円状または略楕円形状をなしており、その周囲の前記本体部と一体的に編成されていることを特徴とする靴下。
【請求項2】
前記刺激部は、前記本体部から前記人体の肌面側に対して突出するように前記本体部よりも2〜6mm厚くなっていることを特徴とする請求項1記載の靴下。
【請求項3】
前記刺激部の直径は20〜30mmであることを特徴とする請求項1記載の靴下。
【請求項4】
前記刺激部は、前記人体の足の肌面側に対して5〜9hpaの圧力を与えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の靴下。
【請求項5】
前記第1繊維素材は、アクリレート系繊維、ウール、キュプラ、レーヨンから選択される1つまたは複数の吸湿発熱繊維を少なくとも20%以上含み、
前記第2繊維素材は、綿、ポリエステル、アクリルから選択される1つまたは複数の非発熱繊維から構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の靴下。
【請求項6】
人体の足への着用状態において、前記本体部に対する前記刺激部の肌面温度の差が+0.3〜+3.0℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に着用される繊維製品及び靴下に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、女性に占める冷え性の割合は7割にものぼるといわれており、全人口の冷え性のうち約2割を占めるほど男性の冷え性も多いといわれている。冷え性の治療の1つとして、灸による温熱治療が挙げられるが、特に若い女性は鍼灸院に通うことを憚ることが多いほか、高齢化社会に伴い通院が困難な高齢者も多くなっている。このような背景から、手軽にかつ効果的に冷え性の体質改善が行える日用品が求められている。
【0003】
冷え性改善のために、暖か素材を使用した靴下や、経穴(以下ツボと表記)に温熱刺激を与えて血行を促進させるツボ治療を利用した靴下が多数存在する。そのような靴下としては、例えば特許文献1に記載されているように、靴下本体を構成する脚部において、4つのツボを隈なく被覆する脚部間の内面に若干長めの毛足を出し、且つ脚部の外側が滑らかな状態で編み上げるパイル編みを施したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−162155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ツボへの温熱刺激において最も重要な条件は、ツボ部分のみに温熱刺激を与えることで、ツボ部分とその周囲との温度差にメリハリをつけることとされている。しかし、上記従来技術においては、物理刺激を与える箇所を絞らず、くるぶし及び足首にある全てのツボ部分及びその周囲を含む広範囲に温熱刺激を与えることになるため、症ツボ刺激の効果が減少してしまう。すなわち、靴下を脱去した後は温かさが持続することがなく、冷え性改善という体質の改善には至らない。
【0006】
また、市販されている暖か素材を使用した靴下は、主に部屋履き用であり外出用には適さないほか、体表面からの一時的な保温効果しか得られず、脱去した後は温かさが持続しない。
【0007】
本発明の目的は、人体のツボ部分に対して効果的に温熱刺激を加えることにより、着用するだけで手軽に冷え性の体質改善ができる繊維製品及び靴下を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、人体の肌に接触するように着用される繊維製品において、人体の一つの経穴を刺激するための刺激部と、刺激部の周囲に設けられた本体部とを備え、刺激部は、発熱性を有する第1繊維素材からなっており、本体部は、第1繊維素材よりも発熱性の低い第2繊維素材からなっていることを特徴とするものである。
【0009】
このように本発明の繊維製品においては、人体の一つの経穴(ツボ部分)を刺激するための刺激部は、その周囲に設けられた本体部を形成する第2繊維素材よりも発熱性の高い第1繊維素材からなっている。このため、繊維製品が人体の肌に接触するように着用された状態では、刺激部が本体部よりも温かくなるため、ツボ部分とその周囲との間に温度差が生じるようになる。これにより、ツボ部分を効果的に温熱刺激することができる。また、着用状態における本体部に対する刺激部の温度差は、+0.3〜+3.0℃の範囲内であることが望ましい。この範囲の温度差であれば、過剰な温熱刺激を感じることなく効果的にツボ部分に刺激を加えることができる。
【0010】
また、上記の温度差を安定的に維持するために、刺激部は、編機によりパイル編みにより編成することが好ましい。また、本体部は、刺激部との温度差を重視して、平編みにより編成されていることが好ましい。パイル編みにより形成されるパイル地は、空気を多く含むため平編みよりも高い保温性を維持することができる。従って、刺激部をパイル編みにより編成することにより、刺激部が本体部よりも温かい状態が持続されるようになる。これにより、ツボ部分をより効果的かつ安定的に温熱刺激することができる。また、刺激部といえども不必要な刺激は交感神経に作用し、ツボ刺激の効果を減少させるところ、パイル編みで編成することにより弾力のある適度な刺激を与えることができる。
【0011】
また、本発明者等が検証した結果、刺激部は円形または略楕円形状をなしており、刺激部の直径は20mm〜30mmであることが望ましい。理由として、ツボの大きさに関し、芹沢勝助著1960年発行「日温気物医誌24号 経絡、経穴の医学的研究」の389-458ページに「経穴の周り半径1cmの範囲内に最高10個の皮電点が確認された。」などの記載があることや、岩瀬善彦著 1987年発行 「明治鍼灸大学紀要3号 経穴は点ではない。皮膚感覚は物語る。」101-111ページに「指屈曲反射を指標にして経穴の大きさを考えると直径10mmの円よりは大きい。」などの記載があることを鑑みると、ツボの大きさは概ね直径10mm〜20mmであると考えられる。よって、このツボの大きさと着用時の若干のズレを考慮すると、刺激部の直径を20〜30mmにすることで、人体の個体差がある場合や、繊維製品が人体の肌の所定部位から多少ずれたとしても、本体部との温度差を保ちつつ刺激部をツボ部分に接触させることができる。
【0012】
さらに、本発明者等は、複数の仮説と検証を繰り返した結果、刺激部は、本体部から人体の肌面側に対して突出するように本体部よりも2〜6mm厚くすることが望ましいという結論に至った。この場合には、刺激部により人体の肌に適度な刺激が与えられるため、ツボ部分を更に効果的に刺激することができ、更には着用時に刺激部分が膨らんで見えるなど外観を著しく損なうこともない。更に、刺激部による肌面側への圧力は、5〜9hpaの範囲であることが好ましく、この程度であれば刺激部により不要な異物感を与えることはないという結論に至った。
【0013】
また、本発明の靴下は、人体の足の脛の内側に設けられた三陰交穴(以下、三陰交と表記)部分を刺激するための刺激部と、刺激部の周囲に設けられた本体部とを備え、刺激部は、発熱性を有する第1繊維素材からなっており、本体部は、第1繊維素材よりも発熱性の低い第2繊維素材からなっていることを特徴とするものである。
【0014】
このように本発明の靴下においては、人体のツボの一つである三陰交を刺激するための刺激部は、その周囲に設けられた本体部を形成する第2繊維素材よりも発熱性の高い第1繊維素材からなっている。このため、靴下を履いた状態では、刺激部が本体部よりも温かくなるため、三陰交とその周囲との間に温度差が生じるようになる。これにより、三陰交を効果的に刺激することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不要な物理刺激を与えることなく、人体のツボ部分を効果的に温熱刺激することができる。これにより、三陰交等のツボ部分において灸治療の理論における効果的なツボ刺激の条件が再現され、繊維製品を着用するだけで身体内部から温かくなり、更には人体の所定部位から脱去した後も当該部位の温かさが持続することから、冷え性の体質を改善することが可能となる。
【0016】
また、本発明によれば、本体部に保温性を高めるための暖か素材を使用する必要がないため、これまでにない外出用の薄地でありながら温かい靴下を提供することができる。加えて、冷え性の人がよく行う靴下の重ね履きを行う必要もなくなることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係わる繊維製品として靴下の一実施形態を示す図である。
【
図2】
図1に示した靴下が装着される足と三陰交を示す図である。
【
図3】
図1に示した靴下の刺激部を含む領域を示す写真である。
【
図4】
図1に示した靴下の刺激部を含む領域を示すイメージ図である。
【
図5】
図1に示した靴下を着脱したときの温度変化を他のタイプの靴下を着脱したときの温度変化と比較した結果を示す表である。
【
図6】
図5(b)に示した表の数値データをグラフ化した折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係わる繊維製品及び靴下の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係わる繊維製品として靴下の一実施形態を示す図である。同図において、本実施形態の靴下1は、ニット製品である。靴下1は、足底部2、踵部3、甲部4、爪先部5及び脚部6からなっている。脚部6の上端部には、口ゴム部7が設けられている。
【0020】
脚部6には、人体の足の脛に設けられた三陰交8(
図2参照)のみを刺激するための1つの刺激部9が設けられている。三陰交8は、
図2に示すように、一般的な体格の成人男女では、下腿の内果の頂点から6.5〜7.5cmだけ上方に位置するツボ(経穴)である。刺激部9は、脚部6における三陰交8に対応する部位に設けられている。脚部6における刺激部9を除く領域と足底部2、踵部3、甲部4及び爪先部5とは、刺激部9の周囲(外側)に設けられた本体部10を形成している。
【0021】
このような靴下1は、編み工程のみによって作成される。具体的には、
図3及び
図4に示すように、本体部10は平編みにより編成され、刺激部9は本体部10と同じ色でパイル編みにより編成されている。パイル編みにより形成されるパイル地は、肌面側に直立したループが密集した構造になっており、生地内部に空気を多く含むため、高い保温効果を有している。なお、
図3(a)及び
図4(a)は、脚部6の肌面(内面)を示し、
図3(b)及び
図4(b)は、脚部6の外面を示している。
【0022】
刺激部9は、吸湿発熱繊維素材(第1繊維素材)からなっている。吸湿発熱繊維素材を構成する吸湿発熱繊維としては、例えば、アクリレート系繊維「エクス」(東洋紡(株)登録商標)とウールが使用される。具体的には、靴下1の刺激部9を構成する表糸は、エクス15%、ウール15%、アクリル65%、断熱素材トルコン(東レ(株)登録商標)5%の混紡糸1/28を3本使用している。なお、その他の吸湿発熱繊維素材としては、キュプラ、レーヨン等が考えられ、エクスやウールに代えてこれらの素材を使用することもできる。また、混紡糸ではなく長繊維を使用してもよく、不織布やテキスタイル等の繊維素材を使用してもよい。
【0023】
本体部10は、刺激部9を形成する発熱素材よりも発熱性の低い素材(第2繊維素材)からなる糸により編成されている。そのような素材としては、綿やポリエステルが使用される。具体的に、靴下1の本体部10を構成する表糸は、綿50%、ポリエステル50%の混紡糸30/1を3本使用している。なお、第2繊維素材として綿またはポリエステルもしくはそれらの混紡糸を使用した場合、第1繊維素材として使用する吸湿発熱繊維素材は、前述の吸湿発熱繊維を少なくとも20%以上含む素材であることが望ましい。刺激部9と本体部10をそのような素材構成とすることにより、刺激部9と本体部10との理想の温度差である+0.3〜+3.0℃を概ね作り出すことができる。
【0024】
刺激部9の形状は、円形または略楕円形であることが望ましい。このとき、刺激部9の外径(略楕円形の場合は長径及び短径いずれも)は、20〜30mmであるのが好ましい。そして、刺激部9の形状を略楕円形とした場合には、刺激部9は、長径方向が脚部6の上下方向に一致するように形成されている。これにより、人体の足に個体差があっても、また靴下1を履いたときに脚部6が多少上下にずれたとしても、刺激部9と本体部10との温度差を保ちつつ、刺激部9が三陰交8の大部分に接触するようになる。
【0025】
刺激部9は、本体部10から脚部6の肌面側に対して突出するように本体部10よりも2〜6mmだけ厚くなっているのが好ましい。このように刺激部9と本体部10との間に2〜6mmの高低差を設けることにより、靴下1を履いたときに肌に適度な刺激が与えられるようになると共に、着用時に刺激部分が膨らんで見えるなど外観を著しく損なうこともない。なお、靴下1においては、高さ3.2mmのパイルシンカーを使用し、糸の太さを含むパイルループの高さが素地上面から約4.5mmとなるように編成している。更に、刺激部9による肌面への圧力としては、5〜9hpa程度が好ましく、この程度であれば刺激部9により不要な異物感を与えることはなく、過剰な締め付け感を与えることもない。刺激部9の肌面側への圧力は、裏糸に用いるスパンデックスの太さや度目(編目)の大きさなどにより任意に調整することができる。即ち、裏糸に太いスパンデックスを用いるほど又は度目を小さくするほど、着圧力が高くなる。靴下1においては、概ね6hpaとなるよう編成されている。
【0026】
ところで、ツボ治療は、東洋医学の考えがベースとなっている。東洋医学では、身体の気血(エネルギー)の通り道は経絡であり、この経絡の要所が経穴(ツボ)と呼ばれている。経絡に何らかの支障をきたすと、身体の気血の流れが悪くなり、身体へ悪影響を及ぼすと考えられている。これを改善する方法として、経絡の要所であるツボに圧力や熱などの刺激を与えることで、気血の流れを改善することができるとされている。事実、WHOでも、科学的根拠に基づいた検証の結果、特定の疾患・症状に対しては、その効果が認められている。
【0027】
ただし、ツボは経絡の要所要所に点在するポイントであり、そのポイントのみに刺激を与えることに大きな意味がある。例えばツボへの物理刺激や温熱刺激を与えるにしても、ツボだけでなく、ツボの周囲を含む広範囲に刺激を与えると、ツボ刺激の効果は低減する。また、ツボへの過剰な刺激は、逆に身体に害を及ぼすと言われている。
【0028】
これに対し本実施形態の靴下1においては、脚部6に設けられた刺激部9はツボの一つである三陰交8のみをピンポイントで温熱刺激するように作られているので、ツボを刺激するための最適条件を満たしている。これに加え、刺激部9は吸湿発熱繊維素材で形成され、刺激部9の周囲に設けられた本体部10は吸湿発熱繊維素材よりも発熱性の低い素材で形成されていると共に、刺激部9は保温性の高いパイル地となっているので、刺激部9の温度が本体部10の温度よりも高い状態が持続されるようになる。従って、靴下1を履いたときには、三陰交8とその周囲との間に温度差が生じる。
【0029】
また、刺激部9は本体部10よりも脚部6の肌面側に対して2〜6mmだけ厚くなっているので、靴下1を履いたときには、肌に適度な刺激が与えられるようになる。このため、過剰な接触感を感じること無く、靴下1を長時間履くことができる。
【0030】
これにより、三陰交8とその周囲との間における温度差のメリハリと、三陰交8に対する違和感の無い刺激が生まれ、ツボ刺激における最適環境が作り出されることになり、三陰交8に対して効果的に温熱刺激を加えることができる。これにより、靴下1を脱いだ後も、三陰交8の刺激効果により気血の流れが改善され、身体内部から温まるため、足の温度が下がりにくくなる。その結果、足の冷え性の体質を大幅に改善することが可能となる。また、本体部10に保温性を高めるための暖か素材を使用する必要がないため、これまでにない薄地でありながら温かい外出用の靴下を提供することができる。加えて、冷え対策として冷え性の人がよく行う靴下の重ね履きをする必要もなくなる。
【0031】
さらに、パイル編みにより刺激部9を編成したので、刺激部9を形成するために金属やシリコン等を別加工する必要がない。従って、靴下1の製造工程の煩雑化を防止することができる。
【0032】
加えて、着用時の歩行などにより刺激部9が人体のツボ部分からズレてしまうと効果が激減してしまうため、繊維製品を歩行や関節の動きなど日常生活の動きによっても刺激部9がツボ部分の位置を保持するような構造とすることが望ましい。
【0033】
この場合、靴下1においては、踵部3を大きく編成することが挙げられる。これにより、踵がすっぽりと覆われることにより、足関節の動きによって靴下1がずり落ちることを防止でき好適である。
【0034】
加えて、靴下1において、爪先部5に複数の指袋を形成することにより、歩行による足周方向の靴下1の回転を防止することができるため、結果的に刺激部9をツボ部分に保持する効果が高くなり好適である。
【0035】
更に、着用時に刺激部9がツボ部分に正確に当たるように着用することも重要である。そのための構造として、靴下1においては、内果の上端・頂点・下端のいずれか(またはその複数)に対応する部分にマークを入れ、着用時にそのマークと足の上端・頂点・下端とを合わせて着用することにより、着用時に刺激部9を正確にツボ部分に当たるように着用することが可能となり好適である。なお、マークの大きさや形状、形成方法は任意で構わない。なお、編立時に柄糸を挿入により容易にマークを形成することができるほか、マークを靴下1の柄と一体化させることによりマークのみが目立たないので更に好適である。
【0036】
加えて、靴下など左右両方に着用する繊維製品において、左用と右用が分かるように任意の位置にL(左)R(右)の表示をすることにより、左右を間違えて着用することがなくなり、結果的に刺激部9がツボ部分にあたるように着用できるため好適である。
【0037】
ここで、本実施形態の靴下1の温度特性を他種類の靴下の温度特性と比較する実験を行った結果について説明する。このとき、上記の刺激部9を有しない刺激部無し靴下A、上記の刺激部9を有する刺激部付き靴下B(本実施形態の靴下1)、断熱繊維で作られた市販のあったか靴下C、他のタイプの市販のあったか靴下Dという4種類の靴下を使用して、皮膚表面における温度の比較実験を行った。なお、刺激部無し靴下Aは、刺激部9が無いこと以外は刺激部付き靴下Bと同様の構成となっている。
【0038】
この時の実験方法としては、まず温度25℃、相対湿度50%の環境下で30分馴化した後、足趾温度を測定した。続いて、その30分後に靴下を脱いで足趾温度を測定し、靴下を脱いだ。続いて、その15分後に足趾温度を測定し、更に15分後に足趾温度を測定した。そして、30分馴化した後(靴下を履く前)と靴下を脱いでから30分後との足趾温度差を評価した。その結果を
図5に示す。なお、被験者は20歳代の女性3名である。
図5の表の数値は、3名の被験者の平均値を示している。
図6は、
図5(b)に示した表の温度の数値データをグラフ化したものである。なお、
図6は、推移を相対的に比較しやすいように、それぞれ着用前の温度を0℃に合わせている。
【0039】
図5及び
図6から分かるように、靴下を履く前の足趾温度に対する靴下を脱いでから30分後の足趾温度の変化を確認すると、2タイプの市販のあったか靴下C,Dの温度変化が刺激部無し靴下Aの温度変化に比べて少なくなっているが、刺激部付き靴下Bの温度変化は2タイプの市販のあったか靴下C,Dの温度変化に比べて更に少なくなっている。つまり、刺激部付き靴下Bを履いたときは、その刺激部付き靴下Bを脱いだ後も温かさが十分持続すると言える。以上により、本発明に基づく靴下を着用することにより、人体のツボ部分が効果的に温熱刺激されることが実証された。即ち、本発明の靴下の着用により灸治療の理論における効果的なツボ刺激の条件が再現され、身体内部から温かくなり、更には人体の所定部位から脱去した後も当該部位の温かさが持続することから、本発明の靴下を着用するだけで冷え性の体質を改善する効果が十分に期待できる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、刺激部9をパイル地で形成したが、タック編により形成することや柄糸を挿入することで形成することもできる。また、刺激部9を別途製作し、縫付や接着により形成することも可能である。また、刺激部9に本体部10よりも比較的硬い素材を用いることにより、鍼治療の理論に基づく物理刺激を生み出すこともできる。
【0041】
また、上記実施形態は、足の脛に設けられたツボである三陰交8のみを刺激するための刺激部9を有する靴下1であるが、複数のツボに対応するように刺激部を配置した繊維製品としても応用できる。その他、本発明の繊維製品は、人体のツボ部分をピンポイントで刺激するための刺激部を有するものであれば、二重履き靴下のインナーや、アームウォーマー、リストバンド、ストッキング及びタイツ等、人体の肌に接触するように着用されるもの全てに適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…靴下(繊維製品)、8…三陰交(ツボ部分)、9…刺激部、10…本体部。