(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試験片の内部に設けられた流路に導入された体液試料と、当該試験片に設けられた試薬とが、当該流路に形成された測定室にて起こす、光学的な変化を伴う反応を測定することにより、体液成分を分析する体液成分分析装置であって、
前記流路に導入された体液試料を移送する体液試料移送機構として、前記流路が外部と連通する開口に繋がれて当該開口を加圧または吸引するポンプと、前記ポンプを作動させたまま開弁操作により前記開口を大気に連通させる大気開放弁と、前記測定室における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知する検知手段とを有し、前記検知手段が作動した場合に前記大気開放弁を開弁する体液試料移送機構と、
前記測定室の光学的な変化を測定する測定手段とを備え、
前記測定手段が前記検知手段を兼ねる
ことを特徴とする体液成分分析装置。
試験片の内部に設けられた流路に導入された体液試料と、当該試験片に設けられた試薬とが、当該流路に形成された測定室にて起こす、光学的な変化を伴う反応を測定することにより、体液成分を分析する体液成分分析方法であって、
前記測定室にはメンブレンが配置されてなり、
体液試料を前記流路に導入する試料導入工程と、
前記流路が外部と連通する開口に繋がれたポンプによって当該開口を加圧または吸引する加圧・吸引工程と、
前記測定室における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知する検知工程と、
前記検知手段が作動した場合に、前記ポンプを作動させたまま前記開口を大気に連通させる大気開放工程と、
前記開口を大気に連通させたまま前記メンブレンに前記体液成分が吸着し尽くすのに必要な時間待機する待機工程と、
前記開口の大気への連通を解除するとともに前記開口を前記ポンプによって再度加圧または吸引する再加圧・吸引工程と、
前記測定室の光学的な変化を測定する測定工程とを備え、
前記検知工程が、前記測定室における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知し、
前記検知工程と前記測定工程とが、同一の光学的な変化を測定する手段を用いて行われる
ことを特徴とする体液成分分析方法。
【背景技術】
【0002】
従来、免疫反応を利用して体液成分を分析する簡易的な器具として、イムノクロマトを利用した器具が知られている(特許文献1参照)。典型例としては、液体が毛管現象で移動することができる多孔質材からなるストリップの一部に、分析対象物質に特異的に結合する抗体が固定化されており(固定化抗体)、その上流に金コロイドなどの着色粒子で標識された、分析対象物質に特異的に結合する抗体(標識抗体)が、ストリップ上に固定されていない状態で配置されている器具が挙げられる。これに標識抗体の上流から体液試料を滴下すると、体液試料はストリップ中の毛管を伝わって浸透し標識抗体を溶解し、さらに、標識抗体とともにストリップの抗体を固定化した部位を通過してストリップの下流に移動するが、体液試料中に分析対象物質が存在する場合には、溶解した標識抗体と反応し、ついでストリップに固定化された抗体に「分析対象物質−標識抗体」複合体として捕獲される。未反応の標識抗体は下流に移動してしまうため、分析対象物質が存在する場合にだけストリップの抗体を固定化した部分に金コロイドによる着色が観察される。
【0003】
この器具は簡易に測定が可能ではあるが、体液試料の展開速度が、多孔質材からなるストリップのクロマト作用に依存しているため、展開速度で規定される抗原−抗体反応の時間を一定に制御することができないという問題があった。
【0004】
一方、体液試料をクロマト移動させることに代え、ポンプによる吸引によって流路内の体液試料を移送させる器具が知られている(特許文献2参照)。この器具は、順に、試料供給口、標識抗体が備えられた試料処理室、固定化抗体が備えられた測定室、廃液室およびポンプ接続口が、流路により連通している。体液試料を試料供給口に滴下した後、ポンプによる吸引によってまず試料処理室に移送し、標識抗体を遊離させるとともに体液試料に含まれる分析対象物質と抗原抗体反応を生じさせる。そこで所定の時間停止した後、再び吸引して測定室に移送し、分析対象物質と標識抗体との結合物を抗原抗体反応により固定化抗体に結合させ、そこで所定の時間停止した後、吸引して廃液室に移送する。そして測定室について測光することによって体液試料に含まれる分析対象物質の定量測定を実施する。ことができる。
【0005】
この器具は、ポンプ制御下で体液試料を能動的に移送させる構成となっているため、体液試料の移送の状態を制御することが可能となる。しかし、特に微小な流路で微量の体液試料の移送をする場合、ポンプ制御の際に発生する微小な作動誤差によって、またポンプとポンプ接続口とを接続する際および切り離す際に発生する流路の圧力の変動によって、体液試料が逆流するなど、意図と異なる移動をする場合があるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ポンプの微小な作動誤差や、ポンプと試験片との接続や切り離しに起因する、体液試料の意図しない移動を防止し、試験片の内部で正確な体液試料の移送を行うことができる、体液試料移送機構および体液試料移送方法、ならびに体液成分分析装置および体液成分分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、請求項1に係る発明は、試験片の内部に設けられた流路に導入された体液試料を移送する体液試料移送機構であって、前記流路が外部と連通する開口に繋がれて当該開口を加圧または吸引するポンプと、
前記ポンプを作動させたまま開弁操作により前記開口を大気に連通させる大気開放弁とを備えることを特徴とする体液試料移送機構である。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、
ポンプを作動させたまま大気開放弁を開弁して開口を大気に連通させることにより、体液試料が流路内で意図しない移動をすることを防止する体液試料移送機構を提供することができる。
【0010】
請求項
1に係る発明は、体液試料が前記流路の所定の位置に到達したことを検知する検知手段をさらに備え、前記検知手段が作動した場合に前記大気開放弁を開弁することを特徴とする体液試料移送機構である。
【0011】
この技術的特徴によれば、体液試料が流路における所定の位置に到達した後、
ポンプを作動させたまま大気開放弁を開弁して開口を大気に連通させることにより、体液試料が流路内で意図しない移動をすることを防止する体液試料移送機構を提供することができる。
【0012】
請求項
1に係る発明は、前記検知手段が、前記流路の所定の位置における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知することを特徴とする体液試料移送機構である。
【0013】
この技術的特徴によれば、光学的な変化を測定することで体液試料が流路の所定の位置に到達したことを確実に検知し、
ポンプを作動させたまま大気開放弁を開弁して開口を大気に連通させることにより、体液試料が流路内で意図しない移動をすることを防止する体液試料移送機構を提供することができる。
【0014】
請求項
2に係る発明は、試験片の内部に設けられた流路に導入された体液試料と、当該試験片に設けられた試薬とが、当該流路に形成された測定室にて起こす、光学的な変化を伴う反応を測定することにより、体液成分を分析する体液成分分析装置であって、
前記流路に導入された体液試料を移送する体液試料移送機構として、前記流路が外部と連通する開口に繋がれて当該開口を加圧または吸引するポンプと、前記ポンプを作動させたまま開弁操作により前記開口を大気に連通させる大気開放弁と、前記測定室における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知する検知手段とを有し、前記検知手段が作動した場合に前記大気開放弁を開弁する体液試料移送機構と、前記測定室の光学的な変化を測定する測定手段とを備え、前記測定手段が前記検知手段を兼ねることを特徴とする体液成分分析装置である。
【0015】
請求項
2に係る発明によれば、測定室における体液成分の測定、および体液試料の所定の位置への到達の検知の両方を、一つの測定手段により行うことができ、体液試料が流路内で意図しない移動をすることを防止する体液成分分析装置を提供することができる。
【0016】
請求項
3に係る発明は、試験片の内部に設けられた流路に導入された体液試料を移送する体液試料移送方法であって、体液試料を前記流路に導入する試料導入工程と、前記流路が外部と連通する開口
に繋がれたポンプによって当該開口を加圧または吸引する加圧・吸引工程と、
前記流路の所定の位置における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知する検知工程と、
前記検知手段が作動した場合に、前記ポンプを作動させたまま前記開口を大気に連通させる大気開放工程とを備えることを特徴とする体液試料移送方法である。
【0017】
請求項
3に係る発明によれば、
ポンプを作動させたまま大気開放工程で開口を大気に連通させることにより、体液試料が流路内で意図しない移動をすることを防止する体液試料移送方法を提供することができる。
【0018】
請求項
4に係る発明は、前記大気開放工程の後に、前記開口を大気に連通させたまま所定の時間待機する待機工程と、前記開口の大気への連通を解除するとともに前記開口を
前記ポンプによって再度加圧または吸引する再加圧・吸引工程とをさらに備えることを特徴とする請求項
3に記載の体液試料移送方法である。
【0019】
請求項
4に係る発明によれば、体液試料が流路内で意図しない移動をすることなく、所定の時間待機した後に、体液試料を再度移動させることが可能な体液試料移送方法を提供することができる。
【0020】
請求項
5に係る発明は、試験片の内部に設けられた流路に導入された体液試料と、当該試験片に設けられた試薬とが、当該流路に形成された測定室にて起こす、光学的な変化を伴う反応を測定することにより、体液成分を分析する体液成分分析方法であって、
前記測定室にはメンブレンが配置されてなり、体液試料を前記流路に導入する試料導入工程と、前記流路が外部と連通する開口
に繋がれたポンプによって当該開口を加圧または吸引する加圧・吸引工程と、
前記測定室における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知する検知工程と、
前記検知手段が作動した場合に、前記ポンプを作動させたまま前記開口を大気に連通させる大気開放工程と、前記開口を大気に連通させたまま
前記メンブレンに前記体液成分が吸着し尽くすのに必要な時間待機する待機工程と、前記開口の大気への連通を解除するとともに前記開口を
前記ポンプによって再度加圧または吸引する再加圧・吸引工程と、前記測定室の光学的な変化を測定する測定工程とを備え、前記検知工程が、
前記測定室における光学的な変化を測定することにより体液試料の到達を検知し、前記検知工程と前記測定工程とが、同一の光学的な変化を測定する手段を用いて行われることを特徴とする体液成分分析方法である。
【0021】
請求項
5に係る発明によれば、測定室の光学的な変化を測定することにより体液成分の測定を行うとともに、体液成分の測定に用いる手段と同一の手段を用いて、
測定室での光学的な変化を測定することで体液試料の到達したことを検知し、体液試料が流路内で意図しない移動をすることなく、所定の時間待機した後に、体液試料を再度移動させることが可能な体液成分分析方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、
ポンプを作動させたまま大気開放弁を開弁して開口を大気に連通させることにより、体液試料が流路内で意図しない移動をすることを防止する体液試料移送機構および体液試料移送方法ならびに体液成分分析装置および体液成分分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0025】
(試験片)
まず、本発明に係る体液試料移送機構および体液試料移送方法、ならびに体液成分分析装置および体液成分分析方法の対象となる体液試料が収容される試験片の構成について、
図1に基づき説明する。以下に説明する試験片50は、赤血球を溶血した体液試料をもとにヘモグロビンA1c(以下糖化ヘモグロビン)を測定する形態となっている。
【0026】
図1に示すように、試験片50の内部には流路50bが設けられており、流路50bは開口50aで外部と連通している。体液試料は開口50aを介して流路50bに供給される。そして流路50bには三か所の拡大部分が設けられており、開口50aから近い順に、試料貯留室50c、測定室50dおよび廃液室50eを構成している。開口50aに供給された体液試料は、開口50aが加圧されることにより、流路50bの中を廃液室50eに向けて移動する。
【0027】
試料貯留室50cには、試薬56が設けられており、測定室50dには、メンブレン57が設けられている。試料貯留室50cに設けられた試薬56は、これより下流の測定室50dにおいて、体液試料中の分析対象物質との反応に起因して光学的な変化が発生するよう構成されている。測定室50dに設けられたメンブレン57は、体液試料中の分析対象物質が吸着するよう構成されている。測定室50dにおける光学的な変化が測定できるよう、測定室50dを区画する壁面は光透過性を有する。なお、これらの詳細は後述する。
【0028】
図1(b)および
図2に示すように、試験片50は、基板55および積層板Lから構成されており、基板55が積層板Lに接着されている。そして積層板Lは、第一プレート51、第二プレート52および第三プレート53が互いに接着され、積層されて構成されている。
【0029】
基板55には、環状に突出する堰55aが設けられており、堰55aに内部に貫通孔55bが設けられている。貫通孔55bは、試験片50の開口50aを構成する。なお、堰55aは、後述のように開口50aを加圧する際に圧力が逃げないよう、管路と密着して開口50aの周囲を密閉するよう設けられている。
【0030】
第一プレート51には、基板55の貫通孔55bと略同心位置に、貫通孔51aが設けられている。第二プレート52にも、貫通孔51aと略同心位置に、貫通孔52aが設けられ、また貫通孔52aから離れて貫通孔52c,52d,52eが設けられており、これらは順に貫通溝52bで結ばれている。第三プレート53には、第二プレート52の貫通孔52cに対応する位置に、試薬56が設けられており、貫通孔52dに対応する位置に、メンブレン57が設けられている。積層板Lが組み立てられたとき、貫通溝52b、貫通孔52c,52d,52dと第一プレート51および第三プレート53とで囲まれた領域が、流路50bを構成する。その中でも、貫通孔52cと第一プレート51および第三プレート53とで囲まれた領域が試料貯留室50cを構成し、貫通孔52dと第一プレート51および第三プレート53とで囲まれた領域が測定室50dを構成し、貫通孔52eと第一プレート51および第三プレート53とで囲まれた領域が廃液室50eを構成する。そして、試薬56は試料貯留室50cに配置されることになり、メンブレン57は測定室50dに配置されることになる。
【0031】
第一プレート51および第三プレート53は不通気性でありかつ不通水性であり、材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やAS樹脂のようなプラスチック材料が、加工が容易であるため好適である。しかし、体液試料が漏出することがない流路50bを形成することができれば、これに限定されるものではない。また、第一プレート51における、第二プレート52の貫通孔52dに対応する位置は、光透過部51bとして光透過性を有するよう構成されている。これにより、測定室50dにおける光学的な変化を測定することが可能となる。
【0032】
第二プレート52には、不通水性で通気性のある材料が用いられる。体液試料の漏出を防止しつつ、流路50bが閉塞されていても、流路50bの壁面から空気が逃げるため、空気抜き孔等を設けることなく体液試料を移送することが可能となるからである。不通水性で通気性のある材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、撥水処理を施したセルロースアセテートおよびセルロース混合エステルなどの多孔質材が、好適に使用される。
【0033】
試薬56には、分析対象物質、すなわち糖化ヘモグロビンに特異的に結合する、標識された標識抗体が、遊離可能な状態で含有されている。本実施形態においては、標識抗体として、蛍光色素などで化学結合により標識された抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体が、適切な可溶性保持体を介して第三プレート53に塗布され、試薬56を構成している。なお、標識の蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、1−ジメチルアミノナフタレン5−スルホニルクロリド(DANS)などを使用することもできる。蛍光色素以外には、青色ラテックス粒子などの着色粒子を標識物質として使用することができる。
【0034】
本実施形態の試験片に用いられるメンブレン57は、体液試料中のヘモグロビンを吸着するよう構成されており、ニトロセルロースなどの多孔質体から構成されている。なお、この説明における「ヘモグロビン」とは、糖化ヘモグロビンおよび未糖化ヘモグロビンの両方を含む。
【0035】
(体液試料移送機構)
次に、本発明に係る体液試料移送機構の実施形態について、
図3に基づき説明する。
図3(a)は、大気開放弁に2ポートのバルブを用いた例であり、(b)は大気開放弁に4ポートのバルブを用いた一例であり、(c)は大気開放弁に4ポートのバルブを用いた他の例である。まず、
図3(a)の例について説明する。
【0036】
体液試料移送機構100は、試験片50の内部の流路50bに導入された体液試料を移送する機構であり、ポンプ10と大気開放弁20とを主たる構成要素とする。ポンプ10は、管路R1,R2を介して、試験片50の開口50aに接続されており、開口50aを加圧するよう構成されている。管路R2は、開口50aを加圧する際に圧力が逃げないよう、堰55aに密着して接続されている。管路R1と管路R2との間の分岐部Jからは管路R3が分岐している。管路R3は大気開放弁21のポートに接続されている。大気開放弁21は2ポートのソレノイドバルブであり、
図3(a)に示す状態では閉弁状態となっている。大気開放弁21のもう一方のポートには何も接続されていない。
【0037】
図3(a)に示す状態のように、大気開放弁21が閉弁している場合、ポンプ10からの圧力は、管路R1,R2を介して開口50aに伝わり、開口50aが加圧される。大気開放弁21が開弁状態となると、開口50aは、管路R3および大気開放弁21のポートを介して、大気に開放される。したがって、大気開放弁21の開弁操作により開口50aが大気に連通し、開口50aに加えられていた圧力は、即座に大気圧まで低下する。開口50aの圧力は、ポンプ10の作動に依存することなく低下するため、体液試料が流路内で意図しない移動をすることはない。
【0038】
また、
図3に示す体液試料移送機構100は、体液試料が流路50bの所定の位置に到達したことを検知する検知手段30を更に備える。検知手段30は、試験片50に光を照射する照射部31および試験片50からの光を受光する受光部32を有する。すなわち、照射部31は試験片50に光を照射し、試験片50からの光を受光し、光学的な変化が検知された場合に、体液試料が到達したと判断する。そして体液試料が到達したと判断された場合、大気開放弁21が開弁される。なお、照射部31が光を照射する範囲および受光部32が受光する範囲は、
図1(a)に示す測定室50dの一部に相当する検知点50fであり、検知手段30は、体液試料が検知点50fに到達した場合に検知する。また本実施形態の場合、体液試料がヘモグロビンを含有するため、試験片50に照射する光としてヘモグロビンが吸光する波長の光を用いることにより、体液試料の到達を検知することが可能となる。また、
図3に示す体液試料移送機構100は、試験片50を透過する透過光を受光部32が受光するよう構成されているが、反射光を受光部32が受光するよう構成することも可能である。
【0039】
図3(b),(c)に示す例は、体液試料移送機構100の他の例であり、そのいずれも、4ポートのソレノイドバルブを大気開放弁20として用いている。
図3(b)に示す体液試料移送機構100は、管路R1と管路R2との間に大気開放弁22が設けられている。
図3(b)に示す状態は閉弁状態となっており、ポンプ10からの圧力は、管路R1,R2を介して開口50aに伝わり、開口50aが加圧される。大気開放弁22が開弁状態になると、開口50aは、大気開放弁22のポートを介して大気に開放される。したがって、大気開放弁22の開弁操作により開口50aが大気に連通し、開口50aに加えられていた圧力は、即座に降圧する。また、
図3(b)に示す例も、
図3(a)に示す例と同様の検知手段30が設けられている。
【0040】
図3(c)に示す体液試料移送機構100は、
図3(b)に示す体液試料移送機構100に対して、大気開放弁20として用いるソレノイドバルブのみが異なっており、
図3(c)に示す体液試料移送機構100の大気開放弁23は、図示のような閉弁状態では開口50aが加圧され、開弁状態となると、開口50aは、大気開放弁23のポートを介して大気に開放されるとともに、ポンプ10も大気に開放される。したがって、大気開放弁23の開弁操作により開口50aが大気に連通し、開口50aに加えられていた圧力は、即座に降圧する。また、
図3(b)に示す例も、
図3(a)に示す例と同様の検知手段30が設けられている。
【0041】
また、
図3に示す体液試料移送機構100は、流路50bと連通する開口50aを、加圧するよう構成されているが、流路50bと連通する他の箇所を、吸引するよう構成することも可能である。その場合、試験片50に、開口50aとは別に、廃液室50eと連通する開口を設け、そこから吸引することにより、流路50b内の体液試料を移送することができる。なお、試験片50に、開口50aとは別の、廃液室50eと連通する開口を設ける場合には、積層板Lの第二プレート52は、不通水性で通気性のある材料から構成される必要はなく、第一プレート51および第三プレート53と同様に、不通気性でありかつ不通水性の材料で構成することも可能となる。
【0042】
また、本実施形態では、検知手段30を、光学的な変化を検出することにより体液試料の到達を検知する手段として構成しているが、体液試料中の分析対象物質と試薬との反応に起因する光学的な変化も検知手段30を用いて測定することにより、体液成分を分析する手段として用いることも可能である。
【0043】
(体液成分分析方法および装置)
次に、本発明の実施形態に係る体液試料移送機構100および試験片50を用いた、体液成分分析方法および体液成分分析装置について、
図1〜6を用いて説明する。
図1〜3は、試験片50および体液試料移送機構100を示す図である。
図4〜6は、
図1に示す試験片50の試料貯留室50cおよび測定室50dの断面を模式的に示す断面模式図であり、
図4は、試料貯留室50cおよび測定室50dに体液試料が流入していない状態を示す断面模式図である。
図5は、試料貯留室50cおよび測定室50dに体液試料が流入した状態を示す断面模式図であり、(a)は体液試料が流入した初期の状態を示す断面模式図であり、(b)は体液試料が流入した後、試験片の開口が大気開放されたまま所定の時間待機した状態を示す断面模式図である。
図6は、
図5(b)に示す状態の後、試験片の開口が再度加圧され、体液試料が廃液室50eに移送された後の状態を示す断面模式図である。
【0044】
なお、体液試料移送機構100として、
図3(a)に示す例を用いて以下に説明するが、
図3(b),(c)のいずれの例を用いた場合も同様となる。
【0045】
まず、赤血球を希釈・溶血した体液試料を、
図1に示す試験片50の開口50aに供給する。希釈・溶血操作は、一般的にはサポニンなどの界面活性剤を含む溶液を用い、検出の際の光学的変化量を考慮した適度な希釈倍率で行われる。体液試料を開口50aに供給した後、
図3(a)に示すように、体液試料移送機構100の管路R2を開口50aに接続する。そして、ポンプ10が発生する圧力を伝えることにより、開口50aを加圧する。このとき、大気開放弁20を開弁状態にしたまま、すなわち大気開放したまま、管路R2と開口50aとを接続するとともにポンプ10を起動し、その後大気開放弁20を閉弁することにより開口50aの大気開放を解除して、ポンプ10の圧力を開口50aに伝えるのが好適である。
【0046】
ここで、積層板Lの第二プレート52は、通気性を有しつつ不通水性を有する。そのため、開口50aを介して加圧された体液試料は流路50bを進行する。そして体液試料は試料貯留室50cに到達し、そこに配置されている試薬56と混合される。試薬56には、標識抗体56aが含有されており、流入した体液試料に溶かされると遊動を開始し、体液試料に含有される糖化ヘモグロビン60aのみと抗原抗体反応を起こす。なお、試薬56は、試料貯留室50cの中でも開口50aに近い位置に配置されており、試料貯留室50cに体液試料が流入すると、すぐに標識抗体56aの遊離が開始するよう構成されている。そして、開口50aが加圧され続けているため、体液試料および標識抗体56aは、測定室50dに進む。
【0047】
体液試料が検知点50fに到達すると、検知手段30が体液試料の到達を検知し、大気開放弁20を開弁させる。すると、開口50aが大気開放されるため、開口50aへの加圧が即座に止まる。なお、大気開放弁20が開弁した後も、ポンプ10は作動させたままとする。
【0048】
大気開放弁20が開弁した後は、開口50aへの加圧力は作用しないが、測定室50dに到達した体液試料は、毛細管現象により測定室50d内のメンブレン57に浸透する。そして、体液試料中に含まれる糖化ヘモグロビン60aおよび未糖化ヘモグロビン60bが、メンブレン57に吸着する(
図5(a)参照)。なお、開口50aが大気開放された後、毛細管現象により体液試料がどれだけ浸透するかに応じて、検知点50fの位置を設定しておくのが好適である。
図1に示す試験片50では、測定室50dのうち開口50aに近い位置に検知点50fを配置している。
【0049】
そして大気開放弁20が開弁した後、所定の時間待機する。この間に、ヘモグロビンのメンブレン57への吸着が進行する。メンブレン57に吸着可能な量のヘモグロビンが吸着し尽くすと、体液試料中の糖化ヘモグロビン60aと未糖化ヘモグロビン60bの構成比に比例した割合で、糖化ヘモグロビン60a−標識抗体56aの複合体と、未糖化ヘモグロビン60bとが、メンブレン57に吸着される(
図5(b)参照)。この吸着が完了した後でも、体液試料の中には糖化ヘモグロビン60a、未糖化ヘモグロビン60bおよび標識抗体56aが多量に含まれている。なお、メンブレン57に吸着可能なヘモグロビンの量に対して、体液試料中のヘモグロビンが過剰となるように、メンブレン57のサイズおよび体液試料の量が設定される。また、大気開放弁20が開弁した後待機する時間は、メンブレン57に吸着可能な量のヘモグロビンが吸着し尽くすのに必要な時間に設定される。
【0050】
大気開放弁20が開弁して所定の時間待機した後、大気開放弁20を閉弁する。すると、開口
50aと大気との連通は解除され、開口
50aがポンプ10により再度加圧され、体液試料は流路
50bを進み廃液室50eに移送される。このとき、抗原抗体反応に使用されなかった未反応の標識抗体56aは、体液試料とともに廃液室50eに移送されることとなる(
図6参照)。すなわち、別途洗浄液を注入することなく測定室50dの手前(試料貯留室50c等)に余剰に存在する体液試料によりB/F分離が行われることになる。
【0051】
体液試料が廃液室50eに移送された後、分析対象物質の測定が行われる。すなわち、ヘモグロビンのうち、糖化ヘモグロビン60aのみに蛍光色素で標識された標識抗体56aが結合しているため、測定室50dの蛍光強度を光学的に計測することにより、メンブレン57に吸着した糖化ヘモグロビン60aの量を測定することができる。糖化ヘモグロビン測定の場合は、全ヘモグロビン中の糖化ヘモグロビン割合(百分率)で表記することが一般的であるが、本法によれば、測定室50d内のメンブレン57のサイズを一定にしておくことにより、ここに結合するヘモグロビン量も一定となることから、複合体を形成した糖化ヘモグロビン量に依存する蛍光強度を計測するだけで、全ヘモグロビン中の糖化ヘモグロビン割合(百分率)を得ることができる。なお、標識抗体56aの標識物質が、青色ラテックス粒子などの着色粒子の場合では、測定室50dの吸光度や反射率を測定することにより、メンブレン57に吸着した糖化ヘモグロビン60aの量を測定することができる。
【0052】
本実施形態に係る試験片50は、糖化ヘモグロビンを測定するよう構成しているため、体液試料として溶血したものを供給する形態としているが、試験片50の開口50aの手前に溶血手段を設けることによって、全血の体液試料を供給して糖化ヘモグロビンを測定するように構成することも可能である。また、同じく全血の体液試料を供給する形態の別の例として、試験片50の開口50aの手前に溶血手段を設ける代わりに、測定室50dにおいて溶血させてメンブレン57にヘモグロビンを吸着させるよう構成することも可能である。
【0053】
また、標識抗体を適宜選択することによって、分析対象物質をCEA、AFP等の腫瘍マーカーとすることも可能である。その際は体液試料として血漿を供給することが好適であるが、開口
50aの手前に血球成分を分離する濾過手段を設けることによって、体液試料として全血を供給しながらも、腫瘍マーカーを測定可能な試験片を構成することも可能となる。