【実施例】
【0061】
(実施例1)
24穴マイクロプレートのウェル内で、塩化カルシウム水溶液とピペラジン水溶液をいずれも1mL量での終濃度が10mMになるように混合した。その後、このマイクロプレートを室温で一晩静置した。
【0062】
その結果、
図1に光学顕微鏡写真で示すように、炭酸カルシウムの結晶が確認できた。また、得られた結晶は赤外分光法(IR)による分析の結果、876cm
−1に吸収ピークが見られたことから、カルサイトであることが確認された。
【0063】
(実施例2)
ビーカー内で、塩化カルシウム水溶液とピペラジン水溶液をいずれも20mL量での終濃度が50mMになるように混合し、蒸留水を加えて20mLとした。この混合溶液を2℃、10℃、20℃、30℃、40℃、および50℃の各温度でマグネットスターラーにより1時間撹拌した。撹拌終了後、遠心上清のカルシウムイオン濃度をCaキレート滴定法に測定することで、炭酸カルシウムの沈殿量を算出した。
図2に結果を示す。
図2からわかるように、10℃以下では沈殿量が少なく、20℃を超えると沈殿量が増え、30〜50℃での沈殿量が特に多くなった。ピークは約40℃であった。
【0064】
(実施例3)
96マイクロプレートのウェル内で、下記アミンの水溶液を100μLでの終濃度10mMから5μMまで2倍希釈し、塩化カルシウム水溶液を100μLでの終濃度10mMになるように加え、さらに蒸留水を加えて各ウェルの量を100μLにした:
テトラアミン:スペルミン
トリアミン:スペルミジン
ジアミン:カダベリン、ピペラジン
モノアミン:ピペリジン。
【0065】
その後、マイクロプレートを室温で一晩静置した後、吸光光度計を用いて、各ウェルの570nmにおける吸光度を測定し、生成した炭酸カルシウム結晶の量を求めた。結果を
図3に示す。
図3から、
テトラアミン、トリアミンおよびジアミンにおいては、テトラアミン、トリアミン、ジアミンの順、つまりアミノ基の数が多いほど炭酸カルシウム結晶の生成量が多くなる、すなわち、生成速度が大きくなることが分かる。
【0066】
(実施例4)
96穴マイクロプレートのウェルに、塩化マグネシウム、クエン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム(9水和物)又は塩化ストロンチウムの水溶液を、各100μL量での終濃度が128〜0.06mMになるように入れ、ピペラジン水溶液と塩化カルシウム水溶液をそれぞれ100μL量での終濃度が10mMとなるように各ウェルに添加した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、結晶の有無または形状を光学顕微鏡で確認した。
【0067】
その結果、
図4(a)に示すように、塩化マグネシウムの添加量が128mM又は64mMでは、
図4(b)に示す海洋細菌の培養中にみられるのと同じ、ダンベル状の結晶形状を有する炭酸カルシウム結晶が認められた。IR分析の結果、結晶系は128〜16mMでは856cm
−1に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、8〜4mMでは876および856cm
−1の両方に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、カルサイトの混合物、2mM以下では876cm
−1に吸収ピークが見られたことからカルサイトであることが分かった。
【0068】
図5a)〜d)に示すように、クエン酸ナトリウムを添加した場合にも炭酸カルシウムの特徴的な結晶が見られた。クエン酸ナトリウム濃度は、a)が8mM、b)が4mM、c)が2mM、d)が1mMである。クエン酸ナトリウム濃度8mMではダンベル状(
図5a))、4mMでは球状(
図5b))、2mMでは球状(
図5c))、1mMではダンベル状(
図5d))の結晶形状が見られた。IR分析の結果、874cm
−1付近に吸収ピークが見られたことから、いずれの濃度でも結晶系はカルサイトであることが分かった。
【0069】
メタケイ酸ナトリウムを添加した場合にも、
図6a)〜d)に示すように、炭酸カルシウムの特徴的な結晶形状が見られた。メタケイ酸ナトリウムの濃度は、a)が32mM、b)が16mM、c)が8mM、d)が4mMである。メタケイ酸ナトリウム濃度32mMではダンベル状(
図6a))、16mMでは鞘状(
図6b))、8mMでは球状(
図6c))、4mMでは球状(
図6d))の結晶形状が見られた。
【0070】
塩化ストロンチウムを添加した場合にも、
図7a)〜d)に示すように、炭酸カルシウムの特徴的な結晶形状が見られた。塩化ストロンチウム濃度は、a)が
128mM、b)が
64mM、c)が
32mM、d)が
16mMである。塩化ストロンチウム濃度
128mMではダンベル状(
図7a))、
64mMでは球状(
図7b))、
32mMでは球状(
図7c))、
16mMでは球状(
図7d))の結晶形状が見られた。IR分析の結果、結晶系は128〜8mMでは856cm
−1に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、4〜2mMでは876および856cm
−1の両方に吸収ピークが見られたことからアラゴナイト、カルサイトの混合物、1 mM以下では876cm
−1に吸収ピークが見られたことからカルサイトであることが分かった。
【0071】
(実施例5)
96穴マイクロプレートのウェル内で、100μL量での終濃度が10mMになる量のピペラジン水溶液と100μL量での終濃度が1〜128mMになる量の塩化ストロンチウム水溶液とを混合した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、析出した結晶を光学顕微鏡で観察した。
【0072】
その結果、
図8a)〜d)の光学顕微鏡写真に示すように、炭酸ストロンチウムの樹枝状の結晶が確認できた。塩化ストロンチウム濃度は、a)が64mM、b)が16mM、c)が4mM、d)が1mMである。原料の塩化ストロンチウム濃度が高いほど、炭酸ストロンチウムが高濃度で生成したことがわかる。
【0073】
(実施例6)
96穴マイクロプレートのウェル内で、100μL量での終濃度が10mMになる量のピペラジン水溶液と100μL量での終濃度が1〜128mMになる量の塩化バリウム水溶液とを混合した。このマイクロプレートを室温で一晩静置した後、析出した結晶を光学顕微鏡で観察した。
【0074】
その結果、
図9の光学顕微鏡写真に示すように、炭酸バリウムの樹枝状結晶が確認できた。水酸化バリウム濃度は、a)が64mM、b)が16mM、c)が4mM、d)が1mMである。やはり原料の塩化バリウム濃度が高いほど、炭酸バリウムが高濃度で生成したことがわかる。
【0075】
(実施例7)
96穴マイクロプレートのウェル内で、海水200μLにピペラジンを10mM濃度になるように添加し、1晩静置した。静置後のウェルを光学顕微鏡で観察したところ、特徴的なダンベル状結晶(多量に存在する小径の細長い結晶)と球状結晶(ずっと大径のより少数の結晶)の両方の生成が認められた(
図10)。2種類の結晶形態が混在するのは、海水中に共存するマグネシウムイオンおよびストロンチウムイオンなどの微量金属の影響によるものと推測される。得られた結晶はIR測定により856cm
−1に吸収ピークが見られたことから、結晶系はアラゴナイトであることが分かった。
【0076】
本例の場合、ピペラジンを10mM濃度になるように添加した海水1Lから0.5〜0.6gの炭酸カルシウムが生成することが分かった。しかし、用いた海水によって結晶量は変化するものと予測される。
【0077】
塩化カルシウムを使用した場合には、ピペラジンを10mM濃度になるように添加した塩化カルシウム10mM濃度の水溶液1Lからは0.3〜0.4gの炭酸カルシウムが得られた。
【0078】
カルシウムイオン供給源として海水を使用した方が炭酸カルシウムの収量が多くなるのは、使用した海水のカルシウムイオン濃度の違いや、マグネシウム、ストロンチウムなど他の炭酸塩を含むためであるためと考えられる。
【0079】
(実施例8)
本実施例では、従来のアミン法に用いられているモノエタノールアミン(MEA)やアンモニア(NH
3)と本発明で提唱しているポリアミン(ピペラジン)の炭酸カルシウム形成能力を比較する。
【0080】
10mM CaCl
2と10および2.5mMの各種塩基の混合液(40mL)を室温で一晩静置し、炭酸カルシウムが沈殿した後、上清のCa
2+濃度をキレート滴定法により測定し、減少したCa
2+の割合を算出した。結果を
図11に示す。
【0081】
図11からわかるように、ピペラジンはいずれの濃度でも多量の炭酸カルシウム形成が認められ、溶液中のCa
2+濃度は10mMで100%、2.5mMで94%減少した。他方、MEAは10mMでは43%減少したが、2.5mMでは3%しか減少しなかった.NH
3においては10mMでも6%しか減少せず、2.5mMでは全く減少しなかった。10mM水酸化ナトリウムにおいてはピペラジンより高いpHにも関わらずCa
2+濃度の減少は少なく、2.5mMではほとんど沈殿は確認できなかった。
【0082】
炭酸カルシウムが沈殿するためには溶液中に炭酸イオンが安定して存在していると有利である。ポリアミンが炭酸カルシウムをより多く沈殿させるのは、分子内に複数アミノ基を有するため、下記化学式に示すようにカチオンが並んで生じ、炭酸イオンの2つのアニオンをより安定にしているものと考えられる。従来のMEAやアンモニアを用いた炭酸塩形成法は分子内にアミノ基を複数有していないため、高濃度では炭酸イオンを安定化できるが、低濃度では安定化しにくい。従って、分子内に複数のアミノ基を有していない点で、本発明で提案するポリアミンを用いた炭酸塩形成法と従来法は原理が異なる。また、ポリアミンが二酸化炭素を吸収する際、一級アミンはカルバメイト型になる割合が大きく、バイカーボネイト型の割合が大きい二級アミンの方が炭酸塩形成には優れているものと考えられる。
【0083】
さらに、海水を用いた炭酸カルシウム形成は、高濃度の塩基を添加すると水酸化物の沈殿が生じてしまうため、ポリアミンを用いないと困難である。
【0084】
【化3】