(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D50平均粒子径が20〜60μmのアクリル系粒子(A)と、ガラス転移温度が−70〜−45℃でD50平均粒子径が0.1〜0.6μmのアクリル系粒子(B)と、硬化剤(C)とを含み、前記アクリル系粒子(B)は、アクリル酸、メチルメタクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートを含む単量体混合物をアニオン反応性乳化剤(D)およびエチレンオキサイド単位の繰り返し数が7〜20であるノニオン非反応性乳化剤(E)の存在下に重合してなり、前記2−エチルヘキシルアクリレートは前記単量体混合物100重量部に対して80〜98重量部含む、水性再剥離型粘着剤。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の用語を説明する。粘着シートのシートは、フィルムおよびテープと同義語である。また、単量体は、エチレン性不飽和単量体である。
【0013】
本発明の水性再剥離型粘着剤は、D50平均粒子径が20〜60μmのアクリル系粒子(A)と、D50平均粒子径が0.1〜0.6μmのアクリル系粒子(B)と、硬化剤(C)とを含み、前記アクリル系粒子(B)は、単量体混合物をアニオン反応性乳化剤(D)およびエチレンオキサイド単位の繰り返し数が7〜20であるノニオン非反応性乳化剤(E)の存在下に重合してなりガラス転移温度が−70〜−45℃である。
【0014】
本発明の水性再剥離型粘着剤は、塗工乾燥することで粘着剤層を形成し、再剥離型粘着シートとして使用することが好ましい。粘着シートの基材は、紙、プラスチックおよび合成紙等の一般的な素材を使用できる。本発明では、特に基材に中性紙を使用したとき、経時で粘着力が低下しにくい効果が得られる。
【0015】
本発明の水性再剥離型粘着剤は、平均粒子径の小さいアクリル系粒子(B)が被着体との密着性を保持し、主に粘着力を得る役割を有し、平均粒子径の大きなアクリル系粒子(A)は、粘着剤層から凸状に突き出すことで、アクリル系粒子(B)と被着体との過剰な密着を抑制し、主に再剥離性を得る役割を有する。
【0016】
前記アクリル系粒子(A)は、D50平均粒子径が20〜60μmである。この平均粒子径を得るためには、原料の単量体混合物を乳化剤と懸濁分散剤の存在下で懸濁重合により合成することが好ましい。
前記単量体混合物は、カルボキシル基含有単量体、その他の単量体が好ましい。
【0017】
前記カルボキシル基含有単量体は、例えば、アクリル酸(Tg 106℃)、メタクリル酸(Tg 186℃)、イタコン酸(Tg 100℃)、マレイン酸(Tg 130℃)などが挙げられる。これらの中では、アクリル酸の使用が好ましい。なおTgは、ホモポリマーのガラス転移温度である。
【0018】
カルボキシル基含有単量体は、前記単量体混合物中に0.5〜5重量部が使用することが好ましく、1〜3重量部がより好ましい。0.5〜5重量部の範囲にあることで重合安定性および粒子内の凝集力をより向上できる。
【0019】
前記その他の単量体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびその他ビニル系単量体が好ましい。
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、例えばアクリル酸メチル(Tg 8℃)、アクリル酸エチル(Tg −22℃)、アクリル酸ブチル(Tg −52℃)、アクリル酸−2−エチルヘキシル(Tg −70℃)等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル(Tg 105)、メタクリル酸エチル(Tg 65℃)、メタクリル酸ブチル(Tg 20℃)、メタクリル酸2−エチルヘキシル(Tg −10℃)、メタクリル酸シクロヘキシル(Tg 66℃)等のメタクリル酸エステル類が挙げられる。
前記の他ビニル系単量体は、例えばスチレン(Tg 65℃)、α−メチルスチレン(Tg 168℃)、ベンジルメタクリレート(Tg 54℃)等の芳香族単量体;、酢酸ビニル(Tg 29℃)等のビニルエステル類;、ビニルピロリドン(Tg 180℃)の如き複素環式ビニル化合物;、グリシジルメタクリレート(Tg 41℃)等のグリシジル基含有単量体;、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg 55℃)等の水酸基含有単量体;、ジメチルアミノエチルメタクリレート(Tg 18℃)等のアミノ基含有単量体;、アクリルアミド(Tg 153℃)等のカルボン酸アミド基含有単量体;、アクリロニトリル(Tg 100℃)等のシアノ基含有単量体;、ジアリルフタレート(Tg 90℃)等の多官能ビニル単量体;などが挙げられる。
これら単量体の中でも2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
【0020】
前記その他の単量体は、前記単量体混合物中に95〜99.5重量部が使用することが好ましく、97〜99重量部がより好ましい。95〜99.5重量部の範囲にあることで粘着力と凝集力のバランスがより取り易くなる。95重量部以上になることで粘着力がより向上する。
【0021】
アクリル系粒子(A)のガラス転移温度は−70〜−65℃が好ましい。前記範囲にあることで被着体に対するタックをより向上できる。
【0022】
本発明で粒子(共重合体)のガラス転移温度(Tg)は、下記数式(1)で得られた計算値である。
数式(1) 1/Tg=[(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+・・・(Wn/Tgn)]/100
ただし、W1:単量体1の重量%、Tg1:単量体1のみから形成され得るホモポリマーのガラス転移温度(°K)、W2:単量体2の重量%、Tg2:単量体2のみから形成され得るホモポリマーのガラス転移温度(°K)、Wn:単量体nの重量%、Tgn:単量体nのみから形成され得るホモポリマーのガラス転移温度(°K)。なお、W1+W2+・・・・+Wn=100である。また、Tgの計算には単量体のみを使用し、共重合可能であっても反応性乳化剤は含めない。
【0023】
本発明においてホモポリマーのガラス転移温度は、『北岡協三著、「塗料用合成樹脂入門」、高分子刊行会、昭和49年5月25日発行』によった。
【0024】
前記懸濁重合は、乳化剤と懸濁分散剤を併用することが好ましい。前記乳化剤は、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤が使用できるが、アニオン系乳化剤を使用すると安定した懸濁液(アクリル系粒子(A)の分散液)を製造できるため好ましい。
【0025】
前記乳化剤は、エチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤、およびエチレン性不飽和基を有さない反応性乳化剤が好ましい。また乳化剤は、イオン性によりアニオン性乳化剤およびノニオン性乳化剤が好ましい。
前記反応性乳化剤は、例えばビニルスルホン酸ソーダ、アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸アンモニウム、メタクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸ソーダ、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート、メタクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸ソーダ等のアニオン系反応性乳化剤、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンメタクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤などが挙げられる。
【0026】
前記非反応性乳化剤は、例えばドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどのポリオキシ多環フェニルエーテル類;、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系乳化剤などが挙げられる。
【0027】
前記乳化剤は、単量体混合物100重量部に対し、0.1〜10重量部が使用することが好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。0.1〜10重量部の範囲にあると再剥離性および重合安定性をより向上できる。
【0028】
前記懸濁分散剤は、懸濁重合時に重合安定性を高めるために使用することが好ましい。前記懸濁分散剤は、具体的には、水溶性保護コロイドとして、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体類;等が挙げられる。
【0029】
前記懸濁分散剤は、単量体混合物100重量部に対して0.1〜10重量部が使用することが好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。
【0030】
本発明において懸濁重合には、油溶性重合開始剤を使用することが好ましい。具体的には、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカルボナート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカルボナート、t-ブチルペルオキシビバラート、t-ブチルペルオキシベンゾアート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノアート、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビスメチルイソブチラート等が挙げられる。
【0031】
前記油溶性重合開始剤は、単量体混合物100重量部に対して0.1〜1.2重量部が好ましく、0.3〜0.8重量部がより好ましい。0.1〜1.2重量部の範囲にあることで、安定的な懸濁重合が得易くなる。
【0032】
本発明において懸濁重合の反応温度は70℃以上が好ましく、80℃以上で96℃以下がより好ましい。
【0033】
本発明において懸濁重合の際、分子量の調節のため、連鎖移動剤を使用してもよい。
前記連鎖移動剤は、例えば、チオール基や水酸基を有する化合物が一般に知られている。チオール基を有する化合物としては、例えば、ラウリルメルカプタン、2−メルカプトエチルアルコール、ドデシルメルカプタン、メルカプトコハク酸等のメルカプタン類、メルカプトプロピオン酸n−ブチルやメルカプトプロピオン酸オクチル等のメルカプトプロピオン酸アルキル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル等のメルカプトプロピオン酸アルコキシアルキルが挙げられる。水酸基を有する化合物としてはメチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類があげられる。これらの中でも粘着剤の臭気および凝集物をより低減する観点からイソプロピルアルコール等のアルコール類が好ましい。
【0034】
前記連鎖移動剤は、単量体混合物100重量部に対して0.01〜0.1重量部が好ましく、0.03〜0.07重量部がより好ましい。0.01〜0.1重量部の範囲にあることで所望の分子量に調整し易くなる。
【0035】
本発明において懸濁重合で使用する溶媒は、水が好ましいが、本発明の効果が得られる範囲内であればアルコール等の親水性溶媒を使用できる。
【0036】
前記アクリル系粒子(A)は、塩基性化合物で中和することが好ましい。塩基性化合物としては、アンモニアや、アミン類として、モノエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン等が好ましい。
【0037】
アクリル系粒子(A)のD50平均粒子径は20〜60μmが好ましい。前記範囲内にあることで粘着力および再剥離性を両立し易くなる。なおD50平均粒子径は、光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック9320HRA」(商品名);日機装(株)製〕で測定したD50平均粒子径である。なお測定は、水で希釈を行い、測定濃度は画面に表示される最適濃度ゲージ幅に入るように調整を行う。
【0038】
本発明においてアクリル系粒子(A)のゲル分率は、30〜95重量%が好ましく、50〜90重量%がより好ましい。30〜95重量%の範囲にあることで、粘着力および再剥離性がより向上するのに加えて、被着体への投錨性がより向上する。
【0039】
本発明においてゲル分率(重量%)の測定方法は、次の通りである。すなわち、水性再剥離型粘着剤をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに乾燥膜厚が約200μmとなるように塗工後、23℃で7日間乾燥させる。次に200メッシュ金網の重量を測定する(その重量をMとする)。粘着シートを5cm×5cmの大きさに切断し、200メッシュ金網に貼り合わせた試験片の重量を測定する(その重量をAとする)。なお200メッシュはJIS G-3555で規定されたメッシュである。
その試験片を50mlの酢酸エチル中に50℃で1日放置する。その後取り出し、100℃にて20分間乾燥させた後、重量を測定する(その重量をTとする)。
続いて試験片からポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを取り出し、酢酸エチルを用い、粘着剤層を除去し、PETフィルムの重量を測定する(その重量をKとする)。得られた数値を下記数式(1)に代入してゲル分率を求める。
数式(1) (T−M−K)×100/(A−M−K)
【0040】
前記アクリル系重合体(B)は、粘着剤層で主に粘着力に寄与する。そのD50平均粒子径は0.1〜0.6μmであり、そのガラス転移温度は−70〜−45℃である。
前記アクリル系粒子(B)は、単量体混合物を乳化重合して合成することが好ましい。
前記単量体混合物は、アクリル酸、メチルメタクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートを少なくとも含む。疎水性単量体の2−エチルヘキシルアクリレートを使用することならびに乳化剤に特定範囲のエチレンオキサイト鎖を有するノニオン性非反応性乳化剤を使用することでアクリル系重合体(B)を疎水性にしてカルシウムイオンの移行を抑制できる。
【0041】
アクリル酸は、単量体混合物100重量部に対して0.5〜2重量部使用することが好ましく、0.8〜1.1重量部がより好ましい。0.5〜2重量部の範囲にあることで乳化重合のときに重合安定性がより向上し、カルシウムイオンとの架橋反応をより抑制できる。
【0042】
メタクリル酸メチルは、単量体混合物100重量部に対して1〜19重量部使用することが好ましく、5〜10重量部がより好ましい。1〜19重量部の範囲になることで粘着力および凝集力のバランスを取り易くなる。
【0043】
アクリル酸2−エチルヘキシルは、単量体混合物100重量部に対して80〜98重量部使用
が、89〜94重量部
使用することがより好ましい。80〜98重量部の範囲になることで、粘着力および重合安定性がより向上する。
【0044】
前記単量体混合物に使用できる他の単量体は、酢酸ビニル(Tg 29℃)、アクリル酸メチル(Tg 8℃)、アクリル酸エチル(Tg−22℃)、アクリル酸ブチル(Tg−52℃)等が挙げられる。しかし疎水性の低下を考慮すると使用は最小限に留めるか、使用しないことが好ましい。最小限に使用する場合でも5重量%以下が好ましい。なお、前記単量体混合物には、本発明の効果が得られる範囲内であればアクリル系粒子(A)で例示した単量体をさらに使用できる。
【0045】
前記アクリル系粒子(B)のガラス転移温度は、−70〜−45℃が好ましい。前記範囲にあることで粘着力および凝集力をより向上できる。
【0046】
アクリル系粒子(B)を得るための乳化重合で使用する乳化剤は、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤を使用できるが、本発明では、疎水性を向上させかつ凝集力を付与させるためにアニオン系反応性乳化剤(D)を使用し、疎水性を向上させるためにノニオン系非反応性乳化剤を使用する。具体的にはエチレンオキサイド単位の繰り返し数が7〜20であるノニオン系非反応性乳化剤(E)を使用することが好ましい。前記単量体混合物をこれらの乳化剤存在下で乳化重合することで、アクリル系粒子(B)を疎水性にシフトするこが可能であり、良好な凝集力、粘着力および再剥離性が得られる。
【0047】
アニオン系反応性乳化剤(D)は、アクリル系粒子(A)で例示した乳化剤を使用できる。
【0048】
アニオン系反応性乳化剤(D)は、単量体混合物100重量部に対して、0.1〜10重量部使用することが好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。0.1〜10重量部の範囲にあることで疎水性、再剥離性および重合安定性がより向上する。
【0049】
ノニオン系非反応性乳化剤(E)は、アクリル系粒子(A)で例示した乳化剤の中でエチレンオキサイド単位の繰り返し数(以下、EO単位数という)が7〜20の乳化剤を使用する。EO単位数が前記範囲にあることでアクリル粒子(B)の疎水性、及び重合安定性を両立できる。
本発明の効果が得られる範囲内であれば、他の乳化剤を併用できる。
【0050】
ノニオン系非反応性乳化剤(E)は、単量体混合物100重量部に対して、0.1〜5重量部使用することが好ましく、0.5〜3重量部がより好ましい。0.1〜5重量部の範囲にあることで疎水性、再剥離性および重合安定性がより向上する。
【0051】
本発明において乳化重合に用いる重合開始剤は、ラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤は、過酸化物を用いることが好ましいが、過酸化物と還元剤を組み合わせて用いること(以下、レドックス開始剤ともいう)がより好ましい。レドックス開始剤を使用するとアクリル系粒子(B)の分子構造は、分岐が少ない線状の構造になりやすく、再剥離性がより向上し、粘着力特にダンボールの様な粗面に対する粘着力をより向上できる。
【0052】
前記過酸化物は、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、ターシャリーブチルハイドロパーオキサド等が挙げられる。
【0053】
前記還元剤は、例えばピロ亜硫酸ソーダ、L−アスコルビン酸、鉄(II)塩等が挙げられる。
【0054】
レドックス開始剤の組合せとしては、例えば、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩の組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ等が挙げられる。本発明では再剥離性をより向上させる観点から過硫酸アンモニウムとピロ亜硫酸ソーダとの組み合わせが好ましい。
【0055】
ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、0.2〜1重量部使用することが好ましく、0.2〜0.6重量部がより好ましい。0.2〜1重量部であることでポリマー形成および再剥離性をより向上できる。なおレドックス開始剤を使用するときは過酸化物/還元剤=2/1(重量比)で使用することが好ましい。
【0056】
アクリル系粒子(B)の乳化重合の際、アクリル系粒子(A)と同様に分子量の調節のため、連鎖移動剤を使用できる。
【0057】
本発明において乳化重合で使用する溶媒は、水が好ましいが、本発明の効果が得られる範囲内であればアルコール等に親水性溶媒を使用できる。
【0058】
前記アクリル系粒子(B)は、塩基性化合物で中和することが好ましい。アクリル系粒子(A)と同様に塩基性化合物を使用できる。
【0059】
アクリル系粒子(B)のD50平均粒子径は、0.1〜0.6μmが好ましく、0.2〜0.5μmがより好ましい。0.1〜0.6μmの範囲にあることでエマルジョンに粘度を適切にすることが容易になり、粘着剤の塗工性をより向上できる上、再剥離性もより向上できる。なお、このD50平均粒子径は、動的光散乱法(Microtrac社製 Nanotrac NPA150)を用いて求めた。測定は、水で希釈を行い、測定濃度は画面に表示される最適濃度ゲージ幅に入るように調整を行った。
【0060】
本発明の水性再剥離型粘着剤は、アクリル系粒子(A)とアクリル系粒子(B)を含むことで、アクリル系粒子(A)が、粘着剤層の表面に多数の突起を形成する。突起部分(凸部分)に当たるアクリル系粒子(A)は、タックが少ないため、被着体に対する粘着力は、アクリル系粒子(A)により密着を阻害されたアクリル系粒子(B)が受け持つ。本発明は再剥離し易い一方、ある程度の粘着力が得られる粘着剤である。
【0061】
アクリル系粒子(A)およびアクリル系粒子(B)の配合は重量比で(A)/(B)=
75/25〜25/75が好ましい。前記範囲にあることで粘着力および再剥離性をより高い水準で得ることができる。
【0062】
本発明において硬化剤(C)は、カルボキシル基と反応できる官能基を有する化合物であれば良い。具体的にはオキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物、エポキシ系化合物、アジリジン系化合物、イソシアネート系化合物、メラミン系化合物、金属錯体等の金属系化合物、アミン系化合物等が挙げられる。これらの中でもカルボジイミド系化合物は、経時後の再剥離性が良好であるためより好ましい。
【0063】
硬化剤(C)は、粘着剤層のゲル分率を45〜90重量%できる量を使用すれば良く限定しない。通常は、アクリル系粒子(A)とアクリル系粒子(B)の合計100重量部に対して0.1〜5.0重量部程度である。
【0064】
本発明の水性再剥離型粘着剤は、粘着力をより向上させるため粘着付与樹脂を含むことができる。粘着付与樹脂は、主に天然樹脂系と合成樹脂に分類できる。
前記天然樹脂は、例えばロジン樹脂(ロジン、ロジンエステル、ロジンフェノール、無色ロジン誘導体等)、テルペン樹脂(テルペン、芳香族変性テルペン、テルペンフェノール等)等が好ましい。
前記合成樹脂は、例えば石油樹脂(スチレン系、α―メチルスチレン系、脂肪族系等が挙げられる)、その他(フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂等が挙げられる)が好ましい。その中でもロジン樹脂、テルペン樹脂、石油系樹脂が好ましく、ロジン樹脂がより好ましい。ロジン樹脂を用いると、タック、再剥離性および粘着力の経時安定性をより高めることができる。また、粘着付与樹脂は、水分散タイプを用いることが好ましい。
【0065】
本発明の水性再剥離型粘着剤には、必要に応じて、一般の水性粘着剤に使用される種々
の添加剤、例えば消泡剤、湿潤剤、着色顔料、増粘剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収
剤、防腐剤などを配合することができる。
【0066】
本発明において水性再剥離型粘着剤のゲル分率は、45〜90重量%が好ましく、60〜80重量%であることがより好ましい。ゲル分率が45〜90重量%の範囲にあることで再剥離性と投錨性をより高レベルで両立できる。
【0067】
本発明においてゲル分率(重量%)の測定方法は、次の通りである。すなわち、水性再剥離型粘着剤をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに乾燥膜厚が約200μmとなるように塗工後、23℃で7日間乾燥させる。次に200メッシュ金網の重量を測定する(その重量をMとする)。粘着シートを5cm×5cmの大きさに切断し、200メッシュ金網に貼り合わせた試験片の重量を測定する(その重量をAとする)。なお200メッシュはJIS G-3555で規定されたメッシュである。
その試験片を50mlの酢酸エチル中に50℃で1日放置する。その後取り出し、100℃にて20分間乾燥させた後、重量を測定する(その重量をTとする)。
続いて試験片からポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを取り出し、酢酸エチルを用い、粘着剤層を除去し、PETフィルムの重量を測定する(その重量をKとする)。得られた数値を下記数式(1)に代入してゲル分率を求める。
数式(1) (T−M−K)×100/(A−M−K)
【0068】
本発明の再剥離型粘着シートについて説明する。本発明の再剥離型粘着シートは水性再
剥離型粘着剤から形成した粘着剤層を有するものである。なお、本発明において粘着シー
トは粘着フィルムまたは粘着テープともいい、これらを切り分けたものを粘着ラベルとも
いう。
【0069】
本発明の再剥離型粘着シートは、水性再剥離型粘着剤を剥離性シートへ塗工し、乾燥した後に、基材と貼り合わせる方法、または基材に水性再剥離型を直接塗工し、乾燥後に剥離性シートと貼り合わせる方法により製造できる。
【0070】
前記基材は、上質紙、コート紙、含浸紙および合成紙等が使用できる、また紙にサイズ剤を定着させる方法により酸性紙、中性紙がある。本発明では、基材に中性紙を使用した場合に経時で粘着力が低下し難い再剥離型粘着シートが得られる。
また剥離性シートは、シリコーン等で剥離処理された紙およびプラスチックフィルム等を使用できる。
【0071】
粘着剤の塗工は、例えばコンマコーター、ブレードコーター、グラビアコーター等のロールコーター、スロットダイコーター、リップコーター、カーテンコーター等の公知の塗工装置を使用できる。また、粘着剤層の厚みは、0.1〜200μmが好ましい。
【0072】
本発明の再剥離型粘着シートは、配送の荷札ラベル、産業用、家庭用の伝票ラベル、建材用、家庭用のマスキングテープなどに広くに使用できる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の みに限定されるものではない。なお、以下の「部」は、「重量部」、「%」は、「重量%」を示す。
【0074】
<実施例1>
「アクリル系粒子(A)の製造」
還流冷却器、攪拌機、温度計、窒素導入管、原料導入口を具備する容積2Lの4つ口フ
ラスコ(以下、反応容器という)にイオン交換水700部、懸濁分散剤として濃度5%ゴーセノールKH−17(日本合成化学社製の部分ケン化ポリビニルアルコール)水溶液100部、ニューコール707SF(日本乳化剤社製のアニオン非反応性乳化剤(不揮発分30%))の水溶液33.3部を仕込み、充分に攪拌して溶解した。
次に別の容器に2−エチルヘキシルアクリレート(以後、「2EHA」と略す)490部、アクリル酸10部(以後、「AA」と略す)、油溶性開始剤としてパーブチルPV(日本油脂(株)製(純度70%))1.7部を入れて攪拌混合し、油溶性開始剤が溶解した事を確認した後に、この混合液を前記反応容器に添加して1時間攪拌した。
次に反応容器にイオン交換水400部を添加し、窒素雰囲気下加熱を開始した。反応開始を確認後、内温を75℃に保持して4時間反応を行った。反応終了後冷却を開始した。常温まで冷却後し、アンモニア水で中和を行い不揮発分26.0%、pH8.0、粘度100mPa・s、D50平均粒子径50μmのアクリル系粒子の分散体を得た。また単量体組成から算出されるガラス転移温度の理論Tgは−68.1℃であった。なお、D50平均粒子径およびガラス転移温度は、前段で説明した方法を求めた。
【0075】
「アクリル系粒子(B)の製造」
還流冷却器、攪拌機、温度計、窒素導入管、原料投入口を具備する容積2Lの反応容器に、イオン交換水23部を入れ、窒素を導入しつつ攪拌しながら、内温が70℃になるまで加熱した。
次に別の容器に、2EHA 90部、メタクリル酸メチル(以後、「MMA」と略す)9部、AA 1部、乳化剤としてとしてアクアロンKH−10(第一工業製薬社製のエチレンオキサイト単位の繰り返し数(以下EO単位数という)10のアニオン反応性乳化剤)2部、エマルゲン1118S−70(花王社製のEO単位数18のノニオン非反応性乳化剤(不揮発分70%))1部、クエン酸ナトリウム3部、イオン交換水21部の混合物をホモミキサーで乳化し、単量体エマルジョンを作製した。
前記反応容器に、前記単量体エマルジョンのうち5%を添加し、同時に重合開始剤として5%過硫酸アンモニウム(以後、「APS」と略す)水溶液0.4部及び2%ピロ亜硫酸ナトリウム(以後、「SMBS」と略す)水溶液0.5部を添加して乳化重合を開始した。
前記重合開始剤添加から10分後に、上記単量体エマルジョンの95%及び5%APS水溶液3.6部及び2%SMBS水溶液4.5部を同時 に5時間かけて滴下した。この間フラスコ内は70℃に保った。
滴下終了後、70℃で3時間反応を継続した。その後冷却を開始し、常温でアンモニア水を添加し中和することで、不揮発分58.0%、pH7.0、 粘度250mPa・s、D50平均粒子径0.36μmのアクリル系粒子(B)エマルジョンを得た。
なお単量体組成から算出されるガラス転移温度の理論Tgは−60.1℃であった。
【0076】
「水性再剥離型粘着剤の配合」
【0077】
得られたアクリル系粒子(A)およびアクリル系粒子(B)を(A)/(B)=30/70(不揮発分重量換算)になるように混合した。さらにアクリル系粒子(A)およびアクリル系粒子(B)の合計100部(不揮発分換算)に対して、防腐剤:0.3部、濡れ剤:0.7部、消泡剤:1.0部を加え、ホモミキサーにて増粘剤およびアンモニア水を使用してpH7〜8、粘度が3000mPa・s(BL型粘度計、25℃で#3ロータ/12rpmにて測定)になるように調製し組成物を得た。
【0078】
前記組成物中のアクリル系粒子(A)およびアクリル系粒子(B)の合計100部に対して、硬化剤(C)のカルボジライトV−04(日清紡ケミカル社製のカルボジイミド系化合物(不揮発分40%))を不揮発分換算で0.2部添加し、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0079】
[実施例2]
アクリル系粒子(A)製造時、攪拌速度を300rpmから600rpmへ変更する事で、D50平均粒子径を50μmから20μmに変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0080】
[実施例3]
アクリル系粒子(B)の合成で2EHAを96.7部、MMAを8.3部に変更し、ブチルアクリレート(以後、「BA」と略す)を4部追加した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0081】
[実施例4]
アクリル系粒子(B)製造時、2EHAを80部に減量し、MMAを19部に増量した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0082】
[実施例5]
アクリル系粒子(B)製造時、2EHAを98部に増量し、MMAを1部に減量した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0083】
[実施例6]
アクリル系粒子(B)製造時、アクアロンKH−10を1部に減量し、新たにハイテノールLA−10〔第一工業製薬製(株)製のアニオン非反応性乳化剤〕を1部併用した以外は実施例1と同様に行い水性再剥離型粘着剤を得た。
【0084】
[実施例7]
アクリル系粒子(B)製造時、エマルゲン1118S−70〔花王(株)製のEOユニット数18モルのノニオン非反応性乳化剤(不揮発分70%)〕をエマルゲン1108S〔花王(株)製のEOユニット数8モルのノニオン非反応性乳化剤(不揮発分100%)〕に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0085】
[実施例8]
アクリル系粒子(B)製造時、重合開始剤として、濃度5%のAPS水溶液のみを用い、反応容器内温度を85℃に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0086】
[実施例9]
アクリル系粒子(B)製造時、フラスコ中に添加する単量体エマルジョン量を5%から10%に増量する事でD50平均粒子径を0.36μmから0.18μmに変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0087】
[実施例10]
アクリル系粒子(B)製造時、フラスコ中に添加する単量体エマルジョン量を5%から1.5%に減量する事でD50平均粒子径を0.36μmから0.54μmに変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0088】
[実施例11]
再剥離型粘着剤を構成するアクリル系粒子(A)とアクリル系粒子(B)との比率を、(A)/(B)=30/70(不揮発分重量換算)から(A)/(B)=50/50に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0089】
[実施例12]
再剥離型粘着剤を構成するアクリル系粒子(A)とアクリル系粒子(B)との比率を、(A)/(B)=30/70(不揮発分重量換算)(A)/(B)=70/30に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0090】
[実施例13]
カルボジライトV−04(水溶液タイプ)をカルボジライトE−04(日清紡ケミカル社製のカルボジイミド系化合物、エマルジョンタイプ、不揮発分40%)に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0091】
[比較例1]
アクリル系粒子(A)製造時、攪拌速度を300rpmから50rpmへ変更することで、D50平均粒子径を50μmから150μmに変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0092】
[比較例2]
アクリル系粒子(B)製造時、2EHAをBAに変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0093】
[比較例3]
アクリル系粒子(B)製造時、MMAをスチレン(St)に変更した以外は実施例1と同様に行ったが、反応が進みづらく多量の凝集物が発生したため合成不可と判断し、途中で反応を止めた。
【0094】
[比較例4]
アクリル系粒子(B)製造時、2EHAを72部に減量し、MMAを27部に増量した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0095】
[比較例5]
アクリル系粒子(B)製造時、アニオン反応性乳化剤アクアロンKH−10をアニオン非反応性乳化剤ハイテノールLA−10〔第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム〕に変更した以外は実施例1と同様に行い水性再剥離型粘着剤を得た。
【0096】
[比較例6]
アクリル系粒子(B)製造時、エマルゲン1118S−70〔花王社製のEOユニット数18モルのノニオン非反応性乳化剤(不揮発分70%)〕をエマルゲン1150S−70〔花王社製のEOユニット数50モルのノニオン非反応性乳化剤(不揮発分70%)〕に変更した以外は実施例1と同様に行い、水性再剥離型粘着剤を得た。
【0097】
実施例および比較例で得られた水性再剥離型粘着剤をアプリケーターを使用して剥離性シート上に乾燥後の厚さが20μmに塗工し、100℃の乾燥オーブンで3分間乾燥することで粘着剤層を形成した。次いで、粘着剤層に、市販中性紙(坪量80g/m
2、炭酸カルシウムを約15%含有)を貼り合わせ、再剥離型粘着シートを作成した。
【0098】
【表1】
【0099】
表1中、乳化剤および重合開始剤の使用量は、単量体の合計100部に対する、それぞれの不揮発分量を示す。 また、硬化剤の使用量は、アクリル系粒子(A)および(B)の合計100部に対する、不揮発分量で表示した。また、アクリル系粒子(A)および(B)のD50平均粒子径は、前段で説明した方法で測定した。
【0100】
<粘着力>
得られた再剥離型粘着シートを横25mm、縦100mmの大きさに準備し試験片とした。23℃、50%RH環境下で、JIS Z0237に準拠し、試験片をステンレス板(SUS304BA)に貼付して試験サンプルとした。貼付後30分間後の試験サンプルを剥離角180°、引張り速度300mm/分で常態粘着力を測定した。
【0101】
別途、得られた再剥離型粘着シートを60℃−95%RH環境下で3日間静置した。次い前記再剥離型粘着シートを23℃、50%RH環境下で5時間静置した。その後横25mm、縦100mmの大きさに準備し試験片とした。そして上記同様の方法で粘着力を測定し経時後粘着力とした。
【0102】
基材に中性紙を使用したことに対する粘着力の低下を判定するために以下の数式(3)を使用して評価した。
数式(3) 粘着力保持率(%)=(経時後粘着力/常態粘着力)×100
【0103】
【表2】
【0104】
表2のゲル分率は、前段に記載した方法で測定した。
【0105】
表2の結果から、本発明の水性再剥離型粘着剤を用いた実施例は、湿熱経時後にも良好
な粘着力を維持することができた。一方、比較例は、評価項目をすべて満たすことが出来なかった。