【実施例】
【0050】
[実施例1]
実施例1は、LnがLaであり、nが3である、La
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、La
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0051】
ランタノイド塩としてLa(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)(2.5mmol)と、有機ジスルホン酸塩としてα,ω−アルカンジスルホン酸ナトリウム((CH
2)
3(SO
3Na)
2)(12.5mmol)と、ヘキサメチレンテトラミン(0.30g)とを水(500ml)に分散させ、混合水溶液を調製した(
図2のステップS210)。La(NO
3)
3・xH
2O:α,ω−アルカンジスルホン酸ナトリウム(モル比)は、1:5であった。
【0052】
この混合水溶液を不活性ガスとして窒素ガス気流中で加熱し、還流させた(
図2のステップS220)。還流条件は、オイルバスを用いて100℃〜120℃、5時間〜8時間であった。これにより、白色の析出物が確認された。析出物をろ過により回収し、水およびエタノールで洗浄した。洗浄した析出物を、湿度約70%において重量が一定となるまで乾燥させた。
【0053】
得られた析出物(試料)が、La
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2Oであることを化学分析により確認した。ランタノイド元素量は、ムレキシド指示薬を用いたEDTA(エチレンジアミン四酢酸)滴定法により測定された。硫黄量および炭素量は、分析装置(LECO CS−412)を用いた元素分析により測定された。OH量は、0.1MのHCl標準溶液(25mL)に溶解した試料(0.1g)を用いたNaOH滴定(0.1M標準溶液)によって測定された。水分量は、後述するTG−DTA(示差熱・熱重量同時測定)から測定された。結果を表2に示す。
【0054】
得られた試料のモルフォロジを、走査型電子顕微鏡SEM(Keyence VE8800)により観察した。結果を
図5に示す。得られた試料の構造評価(XRDパターン)を、Cu−Kα線(λ=1.5405Å)を備えたX線回折計(Rigaku Rint−2000)を用いて行った。結果を
図6に示す。また、リートベルト解析により構造パラメータを求めた。詳細には、結晶構造を、EXPO2009を用いて直接法により解析し、その結果をさらに、Rietan−FPプログラムにおいて全パターンフィッティングおよび最大エントロピー法(MEM)解析を交互に行うことにより収斂させ、最後にリートベルト法により精密化した。結果を
図8および表3に示す。
【0055】
得られた試料についてフーリエ変換赤外分光分析を行った。KBrペレット法を用い、液体窒素冷却型MCT(HgCdTe)検出器を備えたフーリエ変換赤外分光分析計(Varian 7000e)によりFT−IRスペクトルを測定した。結果を
図10に示す。
【0056】
次に、試料を、230℃〜350℃の温度範囲で加熱し、脱水および脱ヒドロキシル化した(
図4のステップS410)。なお、実験では、昇温速度5℃/分で室温(25℃)〜1000℃まで昇温し、試料の熱重量測定(Rigaku、TGA−8120)を行うとともに、脱水および脱ヒドロキシル化のための加熱温度を最適化した。また、試料を200℃および300℃でそれぞれ加熱した際のXRDパターンおよびFT−IRスペクトルを測定した。これらの結果を
図12、
図14、
図15および
図16に示す。
【0057】
[実施例2]
実施例2は、LnがPrであり、nが3である、Pr
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Pr
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0058】
ランタノイド塩としてPr(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、浅緑析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、
図5、
図6および
図10に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を
図12に示す。
【0059】
[実施例3]
実施例3は、LnがNdであり、nが3である、Nd
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Nd
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0060】
ランタノイド塩としてNd(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、浅紫析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、
図5、
図6および
図10に示す。さらに、エネルギーフィルタ型透過電子顕微鏡(JEOL−3100F)を用いて、観察を行い、制限視野電子回折(SAED)パターンを測定した。結果を
図9に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を
図12に示す。
【0061】
[実施例4]
実施例4は、LnがSmであり、nが3である、Sm
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Sm
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0062】
ランタノイド塩としてSm(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、浅黄色析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、
図5、
図6および
図10に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を
図12に示す。
【0063】
[実施例5]
実施例5は、LnがLaであり、nが4である、La
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
4SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、La
2O
2[O
3S(CH
2)
4SO
3]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0064】
有機ジスルホン酸塩として(CH
2)
4(SO
3Na)
2を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、
図5、
図7および
図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を
図13に示す。
【0065】
[実施例6]
実施例6は、LnがPrであり、nが4である、Pr
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
4SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Pr
2O
2[O
3S(CH
2)
4SO
3]であるフレームワーク化合物100(実施の形態2)に関する。
【0066】
ランタノイド塩としてPr(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例5と同様の手順により、浅緑析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、
図5、
図7および
図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を
図13に示す。
【0067】
[実施例7]
実施例7は、LnがNdであり、nが4である、Nd
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
4SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Nd
2O
2[O
3S(CH
2)
4SO
3]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0068】
ランタノイド塩としてNd(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例5と同様の手順により、浅紫析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、
図5、
図7および
図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を
図13に示す。
【0069】
[実施例8]
実施例8は、LnがSmであり、nが4である、Sm
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
4SO
3]・2H
2Oであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Sm
2O
2[O
3S(CH
2)
4SO
3]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0070】
ランタノイド塩としてSm(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例5と同様の手順により、浅黄色析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、
図5、
図7および
図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を
図13に示す。
【0071】
[実施例9]
実施例9は、LnがLaおよびEuであり、nが3である、(La,Eu)
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2O(La
1.9Eu
0.1(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2O)であるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、(La,Eu)
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3](La
1.9Eu
0.1O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3])であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0072】
ランタノイド塩としてLa(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)に加えてEu(NO
3)
3・H
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。なお、Euイオンは、Laに対して5mol%添加された。得られた試料について構造評価を行った。結果を
図17および表4に示す。蛍光分光光度計(Hitach、F−4500)を用いたフォトルミネッセンス法により励起発光スペクトルを測定した。結果を
図18に示す。また、試料を300℃で加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化し、フォトルミネッセンス法により励起発光スペクトルを測定した。結果を
図18に示す。
【0073】
[実施例10]
実施例10は、LnがLaおよびCeであり、nが3である、(La,Ce)
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2O(La
1.9Ce
0.1(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2O)であるフレームワーク化合物100(実施の形態1)に関する。
【0074】
ランタノイド塩としてLa(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)に加えてCe(NO
3)
3・H
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。なお、Ceイオンは、Laに対して5mol%添加された。得られた試料について構造評価および励起発光スペクトル測定を行った。結果を
図17、表4および
図19に示す。
【0075】
[実施例11]
実施例11は、LnがLaおよびTbであり、nが3である、(La,Tb)
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2O(La
1.9Tb
0.1(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2O)であるフレームワーク化合物100(実施の形態1)に関する。
【0076】
ランタノイド塩としてLa(NO
3)
3・xH
2O(x≒6)に加えてTb(NO
3)
3・H
2O(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。なお、Tbイオンは、Laに対して5mol%添加された。得られた試料について構造評価を行った。結果を
図17および表4に示す。
【0077】
以上の実施例1〜11の試料の条件を表1に示す。以降では、各実施例で得られた加熱前の試料をLn−C
n(Lnはランタノイド元素、nはアル
キレン鎖の数)と称し、所定の温度で加熱後の試料をLn−Cn−T(Tは加熱温度)と称する。
【表1】
【0078】
表2に元素分析の結果を示す。
【表2】
【0079】
表2の元素分析の結果を参照すると、実施例1〜8のいずれも、実測値は、理論値と良好に一致した。この結果から化学式を求めたところ、いずれも一般式Ln
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
nSO
3]・2H
2Oで表されることが分かった。なお、表2の化学式は上記一般式と完全に一致しないが、いずれも10%の誤差の範囲内であり、上記一般式とみなせる。
【0080】
図5は、実施例1〜8のLn−C
nのSEM像を示す図である。
【0081】
Ln−C
nは、いずれも、板状物質がジプサム様に凝集していることが分かった。
図5中のスケールバーは2.5μmであり、板状物質の厚さは、20nm〜100nmであり、横サイズは、1μm〜20μmであった。
【0082】
以上の
図5および表2から、
図2の本発明の方法を採用することにより、Ln
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
nSO
3]・2H
2Oで示される化合物が得られることを確認した。
【0083】
図6は、実施例1〜4のLn−C
3のXRDパターンを示す図である。
図7は、実施例5〜8のLn−C
4のXRDパターンを示す図である。
【0084】
図6および
図7によれば、いずれのLn−C
nのXRDパターンも、単斜晶系を示した。Ln−C
3の面内格子定数は、Ln−C
4のそれと互いにほぼ一致することが分かった。一方、Ln−C
4の層間距離(14.0Å)は、Ln−C
3のそれ(13.1Å)より約0.9Å大きいことが分かった。このことは、
図1で模式的に示したように、有機ピラー120におけるアル
キレン鎖の長さ(すなわち、nの数)により無機層110間の層間距離を制御できることを示す。
【0085】
図6および
図7に示す指数を参照すると、h0kについてh+l=2n+1、ならびに、0k0についてk=2n+1の反射が系統的に消滅しているから、n映進面および2
1らせん軸を対称要素として有することが示唆され、得られた試料は、いずれも、空間群P2
1/n(No.14)であることが分かった。また、
図6のLa−C
3のXRDパターンから、a軸、b軸およびc軸の格子定数と軸角βとを求めたところ、a=6.4344(1)Å、b=3.9622(1)Å、c=26.182(1)Å、β=91.565(1)°であった。実施例1のLa−C
3の構造パラメータを表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
図8は、実施例1のLa−C
3の結晶構造を示す模式図である。
【0088】
図6に基づいてLa−C
3の結晶構造を得た。
図8に示すように、La−C
3は、ランタノイド金属を含有する無機層110と、無機層110を互いに結合する有機ピラー120とからなる。詳細には、無機層110は、カチオン性の{[La(OH)
2(H
2O)]
+}であり、有機ピラー120は、アニオン性の{[OS
3(CH
2)
3SO
3]
2−}である。無機層110の結晶学的厚さが0.78nmであることを確認した。
【0089】
無機層110中のランタノイドイオンは9配位(そのうち、6つはOH基から、2つはH
2O分子から、1つは有機ピラー120のSO
3基からの配位である)である。{LaO
9}多面体の配置は、わずかに歪んだ三キャップ三方プリズム型(tricapped trigonal prism)である。b軸に沿って、{LaO
9}多面体は、三角形の面を共有するように結合し、線形な列をなしている。最近接のLa−Laの距離は3.96Åであった。さらにこれらの列は、OH−OH端で共有するように結合し、無限の広がりを有する{[La(OH)
2(H
2O)]
+}層となる。この結合により、{LaO
9}多面体は、擬六角形状に配列し、列を横切る方向のLa−Laの距離は4.10Åであった。
【0090】
無機層110において、各OH基は、3つのLaイオンと結合しており(μ
3−結合)、H
2O分子は、μ
2−コネクタとして機能する。さらに、SO
3基の1つの酸素原子が無機層110中のLaイオンに配位しており、層間領域の方を向いている。La−Oの距離(2.58Å)は、OH基−LaおよびH
2O分子−Laの距離(2.52Å〜2.77Å)に近く、SO
3基のOが関与するLa−Oの結合は、共有結合性であることが分かった。有機ピラー120であるα,ω−アルカンジスルホン酸イオン([OS
3(CH
2)
3SO
3]
2−)は、隣接する無機層110から2つのLaイオンに配位し、無機層110をつなぐ。これにより、無機層110と有機ピラー120とが3次元に結合した網目構造(図示せず)が形成される。網目構造の網目には細孔130が形成されることを確認した。
【0091】
表3のリートベルト解析による構造パラメータからLn−C
1の構造に関して考察を行った。層間には、線状のα,ω−アルカンジスルホン酸イオンが、2つの等価な配置をとっている。このため、O、SおよびCの関連する位置は、分裂する。アル
キレン鎖はac面にほぼ平行となるが、bc面に対して約38.8°傾いている。これらのアル
キレン鎖間にスロット状の細孔が形成されることになり、疎水性となり得る。
【0092】
図9は、実施例3のNd−C
3のTEM像およびSAEDパターンを示す図である。
【0093】
図9(A)によれば、Nd−C
3は板状物質であり、隣接する端部の角度は約120°であった。
図9(B)によれば、Nd−C
3は、020、100および200などのスポットからなる回折パターンを示し、
図8を参照して説明したように、擬六方晶を有することが分かった。このことから、本発明によるフレームワーク化合物は、擬斜方−六方対称性を有する単斜晶系であることが確認された。
【0094】
図10は、実施例1〜4のLn−C
3のFT−IRスペクトルを示す図である。
図11は、実施例5〜8のLn−C
4のFT−IRスペクトルを示す図である。
【0095】
いずれのFT−IRスペクトルも、波数3600cm
−1および3500cm
−1近傍にシャープなピーク(例えば、Ln−C
3では、3599cm
−1および3506cm
−1であった)を示した。これらのピークは、水素結合を有さないOH基に起因する。またいずれのFT−IRスペクトルも、波数3270cm
−1(例えば、Ln−C
3では、3276cm
−1であった)近傍にブロードなピークを示した。これは、水素結合に関与した水分子またはOH基のO−H伸縮モードに起因する。いずれのFT−IRスペクトルも、波数2947cm
−1およびその近傍に複数の微小なピークを示した。これは、CH
2基の伸縮振動に起因する。さらに、いずれのFT−IRスペクトルも、波数970cm
−1〜1320cm
−1の範囲(例えば、
図10および
図11においてハッチングで示す領域)に複数のピークを示した。これらのピークは、分裂したSO
3基の振動モードに起因する。これら複数のピークの中でももっとも強度の高いピーク(例えば、Ln−C
3では、1175cm
−1であった)は、S=O基の伸縮モードに起因する。これは、対称性が低い場合のSO
3基の特徴であり、SO
3基とLnイオンとの間に共有結合が生じていることを示す。
【0096】
以上の
図6〜
図11および表3から、得られたLn
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
nSO
3]・2H
2Oで示される化合物は、無機層110として[La(OH)
2(H
2O)]
+層と有機ピラー120として[OS
3(CH
2)
3SO
3]
2−とからなるフレームワーク化合物100(
図1)であることを確認した。
【0097】
図12は、実施例1〜4のLn−C
3のTGA曲線を示す図である。
図13は、実施例5〜8のLn−C
4のTGA曲線を示す図である。
【0098】
図12および
図13によれば、いずれも、5つの熱分解の過程、すなわち、脱水(過程I)、脱ヒドロキシル化(過程II)、有機種の燃焼(過程III)、スルホン酸塩の硫酸塩への酸化(過程IV)およびSO
3の脱離(過程V)からなることを確認した。
【0099】
過程Iは下記化学式4(上記化学式1と同じ)で表され、過程IIは下記化学式5(上記化学式2と同じ)で表され、過程III〜Vは下記化学式6(上記化学式3と同じ)で表される。
【化4】
【化5】
【化6】
【0100】
例えば、
図12のLa−C
3のTGA曲線によれば、加熱温度120℃〜170℃の間の重量損失は、脱水(過程I)に起因する。脱水による重量損失(6.6%)は、1化学式あたり2.2モルの水分子の除去に一致した。加熱温度230℃〜275℃の間の重量損失(5.3%)は、脱ヒドロキシル化(過程II)に起因する。加熱温度350℃〜450℃の間の重量損失は、有機種としてα,ω−アルカンジスルホン酸イオンの燃焼に起因する。続く加熱温度450℃〜500℃の間の重量増大は、スルホン酸塩の硫酸塩への酸化に起因する。800℃を超えて加熱すると、有機種に加えて、SO
3が脱離され、最終生成物であるLa
2O
2SO
4が得られた。加熱による全重量損失は約31.5%であり、理論値(30.8%)にほぼ一致した。他のLn−C
nのTGA曲線も、La−C
3のそれと同様であった。
【0101】
以上の
図12および
図13から、Ln
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
nSO
3]・2H
2Oの脱水および脱ヒドロキシル化によって、Ln
2O
2[O
3S(CH
2)
nSO
3]で示される化合物が得られ、脱水および脱ヒドロキシル化は、230℃〜350℃の温度範囲の加熱が好ましいことを確認した。
【0102】
図14は、実施例1のLa−C
3を加熱した際のXRDパターンを示す図である。
【0103】
図14において、XRDパターンa〜cは、それぞれ、La−C
3、La−C
3−200、および、La−C
3−300のXRDパターンである。
【0104】
XRDパターンa〜cから格子定数を求めた。結果を表4に示す。
【表4】
【0105】
上述したように、La−C
3はLa
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2Oであり、La−C
3−200はLa
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]であり、La−C
3−300はLa
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]であった。
【0106】
XRDパターンbから得られる格子定数は、XRDパターンaから得られる格子定数に類似していた。XRDパターンbから得られる格子定数によれば、La−C
3−200の面内格子定数aおよびbは、La−C
3のそれらと同様であった。一方、La−C
3−200の層間距離cは、La−C
3のそれより小さかった。これらから、La−C
3−200は、脱水によっても加熱前のLa−C
3と同様に、無機層として{La
2(OH)
4}、および、有機ピラーとして[O
3S(CH
2)
3SO
3]からなる層状構造を有しているものの、脱水により有機ピラーの向きが変化することなどのため、層間距離が収縮することが分かった。
【0107】
XRDパターンcは、XRDパターンaおよびbとは異なり、斜方晶に指数付できた。XRDパターンcによれば、La−C
3−300の面内格子定数は、{[La
2O
2]
2+}層を含む既報の層状酸化物のそれ(例えば、S.Zhukovら,Mater.Res.Bull.,1997,32,43−50)と同様であることが分かった。
【0108】
図15は、実施例1のLa−C
3を脱水・脱ヒドロキシル化したLa
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]の結晶構造を示す図である。
【0109】
図14のXRDパターンcから得られる格子定数に基づいて考察を加え、La
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]の結晶構造を得た。
図15に示すように、La
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]は、ランタノイド金属を含有する無機層310と、無機層310を互いに結合する有機ピラー120とからなる。詳細には、無機層310は、カチオン性の{[La
2O
2]
2+}であり、有機ピラー120は、アニオン性の{[OS
3(CH
2)
3SO
3]
2−}である。層間距離は12.1Å(1.21nm)であった。このような無機層310と有機ピラー120とにより網目構造を構成し、細孔340が形成される。ここで、無機層310の結晶学的厚さは0.45nmであった。
【0110】
図16は、実施例1のLa−C
3を加熱した際のFT−IRスペクトルを示す図である。
【0111】
図16において、FT−IRスペクトルa〜cは、それぞれ、La−C
3、La−C
3−200、および、La−C
3−300のFT−IRスペクトルである。
【0112】
FT−IRスペクトルaは、波数3599cm
−1および3506cm
−1のシャープなピークを、スペクトルbは、波数3595cm
−1、3543cm
−1および3505cm
−1のシャープなピークを有した。これらのピークは、水素結合を有さないOH基に起因する。FT−IRスペクトルaで見られた波数3276cm
−1を中心とするブロードなピーク(
図10を参照して上述したように、水素結合が関与した水分子またはOH基のO−H伸縮モードに起因する)は、FT−IRスペクトルbでは消失した。このことから、200℃の加熱により水分子が完全に除去されたことが分かった。さらに、FT−IRスペクトルcを参照すれば、FT−IRスペクトルbで見られたOH基にかかるシャープなピークは、いずれも、完全に消失した。
【0113】
いずれのFT−IRスペクトルも、波数2951cm
−1〜2947cm
−1およびその近傍に複数の微小なピークを示した。これらは、CH
2基の伸縮振動に起因する。さらに、いずれのFT−IRスペクトルも、波数1320cm
−1〜970cm
−1の範囲(
図16においてハッチングで示す領域)に、分裂したSO
3基の振動モードに起因する複数のピークを示した。これは、対称性の低い場合のSO
3基の特徴であり、SO
3基とLaイオンとの間に共有結合が生じていることを示す。
【0114】
FT−IRスペクトルcにおいて、CH
2基およびSO
3基によるピークまたはバンドが存在することから、300℃で加熱した後であっても、α,ω−アルカンジスルホン酸イオン([O
3S(CH
2)
3SO
3]
2−)は安定して維持されることが分かった。なお、350℃で加熱した後も同様のFT−IRスペクトルであることを確認した。
【0115】
図16の結果は、
図12および
図14の結果に良好に一致しており、Ln
2O
2[O
3S(CH
2)
nSO
3]で示される化合物は、Ln
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
nSO
3]・2H
2Oの脱水および脱ヒドロキシル化によって得られ、脱水および脱ヒドロキシル化は、最大350℃の温度範囲の加熱を可能とすることを確認した。
【0116】
以上の
図14〜
図16から、Ln
2O
2[O
3S(CH
2)
nSO
3]で示される化合物は、無機層110として[La(OH)
2(H
2O)]
+層と有機ピラー120として[OS
3(CH
2)
3SO
3]
2−とからなるフレームワーク化合物300(
図3)であることが示された。
【0117】
図17は、実施例9〜11のLn−C
3のXRDパターンを示す図である。
【0118】
図17に示すXRDパターンは、
図6および
図7のそれらと一致することが分かった。このことから、実施例9〜11のLn−C
3もまた単斜晶系であり、Lnが2種であっても結晶構造は変化しないことが分かった。
【0119】
【表5】
【0120】
表5によれば、実施例1と実施例9〜11の格子定数を比較すると、Lnが2種以上となることによって、a軸長がわずかに変化するものの、b軸長、c軸長およびβ角は、実質的に変化しなかった。
【0121】
以上の
図17および表5より、本発明のフレームワーク化合物は、Lnとして2種以上の元素を固溶することが確認された。
【0122】
図18は、実施例9のLa,Eu−C
3の励起発光スペクトルを示す図である。
【0123】
図18の励起発光スペクトルaおよびbは、La,Eu−C
3、および、La,Eu−C
3−300の励起発光スペクトルである。上述したように、La,Eu−C
3は(La,Eu)
2(OH)
4[O
3S(CH
2)
3SO
3]・2H
2Oであり、La,Eu−C
3−300は(La,Eu)
2O
2[O
3S(CH
2)
3SO
3]である。
【0124】
La,Eu−C
3、およびLa,Eu−C
3−300も、紫外線で励起され、波長約620nm近傍に複数のシャープなピークを示す赤色発光する蛍光体であることが分かった。紫外線励起は、O
2−とEu
3+との間の電荷移動に起因し、複数のシャープなピークは、Eu
3+の4f
6電子配置内の4f
6内殻遷移に起因する。いずれの発光スペクトルも、
5D
0−
7F
J(J=1−4)遷移からなり、中でも、
5D
0−
7F
J線(スペクトルaでは618nm、および、スペクトルbでは619nm)が、もっとも発光強度が高くシャープなピークであった。
【0125】
励起スペクトルに注目すると、励起スペクトルaは235nmにピークを有するが、励起スペクトルbは275nmにピークを有した。これは、脱水・脱ヒドロキシル化により、La,Eu−C
3−300におけるO
2−とEu
3+との間の電荷移動が、La,Eu−C
3に比べて増大したことを示す。発光スペクトルに注目すると、発光スペクトルbの
5D
0−
7F
J線のピーク強度は、発光スペクトルaのそれの8倍増大した。これは、脱ヒドロキシル化により、ヒドロキシル基による消光の影響がなくなったためである。
【0126】
図19は、実施例10のLa,Ce−C
3の励起発光スペクトルを示す図である。
【0127】
La,Ce−C
3は、252nmの深紫外線で励起され、波長366nmにピークを有する紫色発光する蛍光体であることが分かった。この発光は、Ce
3+のf−d遷移に起因する。また、本発明のフレームワーク化合物では、通常、アルカリ溶液および空気中ではCe
4+となりやすい発光中心が、Ce
3+で安定化できることが分かった。
【0128】
以上の
図18および
図19から、本発明の実施の形態1および2のフレームワーク化合物は、いずれも、蛍光体として機能することが示された。