特許第6044023号(P6044023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044023フレームワーク化合物、その製造方法および蛍光体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044023
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】フレームワーク化合物、その製造方法および蛍光体
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/00 20060101AFI20161206BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20161206BHJP
   C09K 11/78 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C07F5/00 DCSP
   C09K11/08 G
   C09K11/78
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-249657(P2012-249657)
(22)【出願日】2012年11月13日
(65)【公開番号】特開2014-98071(P2014-98071A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年10月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 高義
(72)【発明者】
【氏名】梁 建波
(72)【発明者】
【氏名】馬 仁志
【審査官】 中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】 Lin, Ming; Zhang, Zai-Chao,Crystal structure of hexaaqua(μ3-methylenedisulfonato)bis(μ2-methylenedisulfonato)disamarium(III), Sm2(H2O)6(CH2O6S2)3,Zeitschrift fuer Kristallographie - New Crystal Structures ,2009年,224(3),417-418
【文献】 Thuery, Pierre,Uranyl-lanthanide heterometallic assemblies with 1,2-ethanedisulfonate and cucurbit[6]uril ligands,CrystEngComm,2012年,14(10),3363-3366
【文献】 Yi, Fei-Yan; Lin, Qi-Pu; Zhou, Tian-Hua; Mao, Jiang-Gao,A Series of Novel Lanthanide(III) Trisulfonates Based on Dinuclear Clusters,Crystal Growth & Design,2010年,10(4),1788-1797
【文献】 Deacon, Glen B.; Elgersma, Winfried; Harika, Rita; Junk, Peter C.;,The synthesis and X-ray crystal structures of rare earth(III) perfluoroadipate complexes - Novel coordination polymers,Canadian Journal of Chemistry,2009年,87(1),121-133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/
C09K11/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタノイド金属を含有する無機層と、
前記無機層を互いに結合する有機ピラーと
からなり、
前記有機ピラーは、{[OS−R−SO2−}で表され、ここで、前記Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖であり、
前記無機層は、{[Ln(OH)(HO)]}で表され、ここで、Lnは、ランタノイド金属である、フレームワーク化合物。
【請求項2】
ランタノイド金属を含有する無機層と、
前記無機層を互いに結合する有機ピラーと
からなり、
前記有機ピラーは、{[OS−R−SO2−}で表され、ここで、前記Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖であり、
前記無機層は、{[Ln2+}で表され、ここで、Lnは、ランタノイド金属である、フレームワーク化合物。
【請求項3】
前記無機層と前記有機ピラーとによる網目構造を有する、請求項1または2に記載のフレームワーク化合物。
【請求項4】
前記Rは、(CH(ただし、nは1以上18以下の整数である)であり、請求項1または2に記載のフレームワーク化合物。
【請求項5】
前記nは、3または4である、請求項4に記載のフレームワーク化合物。
【請求項6】
Ln(OH)[OS(CHSO]・2HO(nは、nは1以上18以下の整数である)で表される、請求項1に記載のフレームワーク化合物。
【請求項7】
Ln[OS(CHSO](nは、nは1以上18以下の整数である)で表される、請求項2に記載のフレームワーク化合物。
【請求項8】
前記ランタノイド金属は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、GdおよびTbからなる群から少なくとも1つ選択される金属である、請求項1または2に記載のフレームワーク化合物。
【請求項9】
ランタノイド金属を含有する無機層と、前記無機層を互いに結合する{[OS−R−SO2−}(前記Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖である)で表される有機ピラーとからなるフレームワーク化合物を製造する方法であって、
ランタノイド塩と、前記Rを含有する有機ジスルホン酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンまたは尿素と、水を含有する溶媒とを含む混合水溶液を調製するステップと、
前記混合水溶液を不活性雰囲気中で還流させるステップと
を包含する、方法。
【請求項10】
前記ランタノイド塩は、硝酸塩またはハロゲン化物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
230℃〜350℃の温度範囲で加熱し、脱水および脱ヒドロキシル化するステップをさらに包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記脱水および脱ヒドロキシル化するステップは、少なくとも2時間加熱する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
母体材料に発光中心元素が固溶した蛍光体であって、
前記母体材料は、請求項1〜8のいずれかに記載のフレームワーク化合物であり、
前記発光中心元素は、Eu、Tb、Ce、Sm、Pr、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される、蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物および有機物の両方を含むフレームワーク化合物、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン交換可能な層状ホストとして、Ln(OH)X・2HO(Lnはランタノイドイオン、Xはインターカレートしたアニオン)(層状希土類水酸化物(LREHとも呼ぶ))が開発された(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、Xとして、2,6−ナフタレンジサルフェートおよび2,6−アントラキノンジサルフェートの有機アニオンをインターカレートしたLREHが報告されている。また、非特許文献1は、このようなLREHが、規則的かつ可変な多孔構造を有しており、触媒に有効であることを示している。
【0003】
LREHは、ランタノイドイオン(希土類イオン)が8配位または9配位で規則的に配列し、2次元方向に連鎖することによってカチオン性の{[Ln(OH)(HO)}層を生成する。層間には電荷中和の役割を持つ種々のアニオンを包含する。LREHの構造に由来する活性なアニオン交換能は、ランタノイド元素に基づいて期待される広範な機能性と相まって、触媒、光学、薬学等の分野での応用が期待される。したがって、非特許文献1のLREH以外にも、無機物および有機物の両方を含む構造体(フレームワーク化合物)を開発することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、機能性に富むランタノイド元素を骨格主体とする、無機物および有機物の両方を含むフレームワーク化合物、その製造方法、および、それを用いた蛍光体を提供することである。より詳細には、本発明の課題は、Ln(OH)X・2HOならびにLnX(Xはインターカレートしたアニオン)に基づいた、機能性に富むランタノイド元素を骨格主体とする、無機物および有機物の両方を含むフレームワーク化合物、その製造方法、および、それを用いた蛍光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるフレームワーク化合物は、ランタノイド金属を含有する無機層と、前記無機層を互いに結合する有機ピラーとからなり、前記有機ピラーは、{[OS−R−SO2−}で表され、ここで、前記Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖であり、前記無機層は、{[Ln(OH)(HO)]}で表され、ここで、Lnは、ランタノイド金属であり、これにより上記課題を解決する
本発明によるフレームワーク化合物は、ランタノイド金属を含有する無機層と、前記無機層を互いに結合する有機ピラーとからなり、前記有機ピラーは、{[OS−R−SO2−}で表され、ここで、前記Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖であり、前記無機層は、{[Ln2+}で表され、ここで、Lnは、ランタノイド金属であり、これにより上記課題を解決する。
前記無機層と前記有機ピラーとによる網目構造を有してもよい。
前記Rは、(CH(ただし、nは1以上18以下の整数である)であってもよい。
前記nは、3または4であってもよい
(OH)[OS(CHSO]・2HO(nは、nは1以上18以下の整数である)で表されてもよい
[OS(CHSO](nは、nは1以上18以下の整数である)で表されてもよい。
前記ランタノイド金属は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、GdおよびTbからなる群から少なくとも1つ選択される金属であってもよい。
本発明による、ランタノイド金属を含有する無機層と、前記無機層を互いに結合する{[OS−R−SO2−}(前記Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖である)で表される有機ピラーとからなるフレームワーク化合物を製造する方法は、ランタノイド塩と、前記Rを含有する有機ジスルホン酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンまたは尿素と、水を含有する溶媒とを含む混合水溶液を調製するステップと、前記混合水溶液を不活性雰囲気中で還流させるステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記ランタノイド塩は、硝酸塩またはハロゲン化物であってもよい。
230℃〜350℃の温度範囲で加熱し、脱水および脱ヒドロキシル化するステップをさらに包含してもよい。
前記脱水および脱ヒドロキシル化するステップは、少なくとも2時間加熱してもよい。
本発明による母体材料に発光中心元素が固溶した蛍光体は、前記母体材料が、上述のフレームワーク化合物であり、前記発光中心元素は、Eu、Tb、Ce、Sm、Pr、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択され、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のフレームワーク化合物は、ランタノイド金属を含有する無機層(無機層は、{[Ln(OH)(HO)]}または{[Ln2+}で表され、ここで、Lnは、ランタノイド金属である)と、無機層を互いに結合する有機ピラー(ただし、有機ピラーは{[OS−R−SO2−}で表され、Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖である)とからなる。これにより、本発明のフレームワーク化合物は、無機層が有機ピラーによって所定の間隔で層状に位置するとともに、無機層と有機ピラーとの間に細孔を有することができる。このような本発明のフレームワーク化合物は、アルキレン鎖を適宜選択することにより、細孔のサイズ(細孔径)を変化させることができるので、多孔性を利用した多孔体として機能し得る。また、本発明のフレームワーク化合物は、ランタノイド金属の一部を活性中心元素で置換することにより、蛍光体として機能し得る。さらに、本発明のフレームワーク化合物は、ランタノイド金属に由来する触媒として機能し得る。
【0007】
本発明のフレームワーク化合物を製造する方法は、ランタノイド塩と、上記Rを含有する有機ジスルホン酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンまたは尿素と、水を含有する溶媒とを含む混合水溶液を調製するステップと、混合水溶液を不活性雰囲気中で還流させるステップとを包含する。これにより、自己組織化的に上述のフレームワーク化合物が得られる。本発明の方法によれば、高価あるいは特殊な装置、ならびに、特殊な技術を必要としないので、安価かつ簡便に本発明のフレームワーク化合物の大量生産を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1によるフレームワーク化合物を示す模式図
図2】実施の形態1によるフレームワーク化合物を製造する製造ステップを示すフローチャート
図3】実施の形態2によるフレームワーク化合物を示す模式図
図4】実施の形態2によるフレームワーク化合物を製造する製造ステップを示すフローチャート
図5】実施例1〜8のLn−CのSEM像を示す図
図6】実施例1〜4のLn−CのXRDパターンを示す図
図7】実施例5〜8のLn−CのXRDパターンを示す図
図8】実施例1のLa−Cの結晶構造を示す模式図
図9】実施例3のNd−CのTEM像およびSAEDパターンを示す図
図10】実施例1〜4のLn−CのFT−IRスペクトルを示す図
図11】実施例5〜8のLn−CのFT−IRスペクトルを示す図
図12】実施例1〜4のLn−CのTGA曲線を示す図
図13】実施例5〜8のLn−CのTGA曲線を示す図
図14】実施例1のLa−Cを加熱した際のXRDパターンを示す図
図15】実施例1のLa−Cを脱水・脱ヒドロキシル化したLa[OS(CHSO]の結晶構造を示す図
図16】実施例1のLa−Cを加熱した際のFT−IRスペクトルを示す図
図17】実施例9〜11のLn−CのXRDパターンを示す図
図18】実施例9のLa,Eu−Cの励起発光スペクトルを示す図
図19】実施例10のLa,Ce−Cの励起発光スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0010】
(実施の形態1)
実施の形態1は、ランタノイド金属を有する無機層が水酸化物である、Ln(OH)X・2HO(Xはインターカレートしたアニオン)に基づいた、フレームワーク化合物に関する。
【0011】
図1は、実施の形態1によるフレームワーク化合物を示す模式図である。
【0012】
フレームワーク化合物100は、ランタノイド金属を有する無機層110と、有機ピラー120とからなる。有機ピラー120は、無機層110を互いに結合する。有機ピラー120は、{[OS−R−SO2−}で表され、ここで、Rは、置換基を有する、または、置換基を有しない、アルキレン鎖である。非特許文献1のナフタレンあるいはアントラキノンに対して、有機ピラー120がアルキレン鎖であるので、安価であるとともに、後述の細孔の設計が容易であるため有利である。なお、図1では、簡単のため、3つの有機ピラー120が無機層110を互いに結合しているが、これに限らず、紙面の横、縦方向そして紙面に垂直な方向にこの構造が無限に広がっているものとする。
【0013】
図1に示すように、本発明のフレームワーク化合物100は、無機層110が有機ピラー120によって所定の間隔で層状に位置する。無機層110と有機ピラー120とによって網目構造130が形成される。さらに、フレームワーク化合物100は、無機層110と有機ピラー120との間に所定の細孔径を有する細孔140を有する(すなわち網目構造130は細孔140を有する)。このような本発明のフレームワーク化合物100は、細孔140を利用した多孔体、これ自身を蛍光体の母体とする蛍光体、あるいは、ランタノイド金属に由来する触媒として機能し得る。
【0014】
無機層110は、一般式{[Ln(OH)(HO)]}で表される。ここで、Lnは、ランタノイド金属である。{[Ln(OH)(HO)]}は、カチオン層である。Xは、例えば、Cl、NO等である。{[Ln(OH)(HO)]}は、{LnO}多面体が2次元方向に連鎖して形成されており、結晶学的厚さは約0.78nmである。
【0015】
無機層110のランタノイド金属は、好ましくは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、GdおよびTbからなる群から少なくとも1つ選択される。これらのランタノイド金属であれば、後述する製造方法により、確実にフレームワーク化合物100を製造することができる。また、ランタノイド金属は、1種に限定されず、2種以上が固溶していてもよい。これにより、種々のランタノイド金属の性質を生かすことができ、フレームワーク化合物100が多機能となる。また、ランタノイド金属としてLaとEu、LaとCeあるいはLaとTbを用いた場合、フレームワーク化合物100は、蛍光体として機能し得る。
【0016】
有機ピラー120である{[OS−R−SO2−}において、Rはアルキレン鎖であるが、アルキレン鎖は、直鎖に限らず、枝分かれ構造を持っていてもよい。これにより、フレームワーク化合物100は、細孔140に加えて、さらなる細孔を生じ得、比表面積の大きな多孔体となり得る。具体的な枝分かれ構造は、2−メチルプロピル、2メチルブチル等であるが、これに限らない。
【0017】
有機ピラー120である{[OS−R−SO2−}において、Rはアルキレン鎖であるが、アルキレン鎖は、官能基(置換基)を有していてもよい。これにより、フレームワーク化合物100の無機層110間の層間環境を親油性、親水性等に変化させることができる。具体的な置換基は、−OH基、=O基、−NH基等であるが、これに限らない。例えば、−OH基を導入すれば、フレームワーク化合物100の無機層110間を親水性にできる。
【0018】
有機ピラー120である{[OS−R−SO2−}において、Rはアルキレン鎖であり、好ましくは、(CH(ただし、nは1以上18以下の整数である)で表される。nが大きくなれば、無機層110間の距離が大きくなり、細孔140の径を大きくできる。逆に、nが小さくなれば、無機層110間の距離が小さくなり、細孔140の径を小さくできる。nが19以上になると、原料となる有機ジスルホン酸塩を入手するのが困難になるので好ましくない。
【0019】
フレームワーク化合物100は、一般式Ln(OH)[OS(CHSO]・2HO(nは、nは1以上18以下の整数である)で表される。ここで、式中の原子の個数、あるいは、分子のモル数は、必ずしも、整数に一致する必要はなく、原子の個数および分子のモル数は10%の誤差を含んでいてもよい。なお、本願では、得られた化合物の組成分析をした際に、10%以内の誤差であれば、上記一般式で表すものとする。このようなフレームワーク化合物100の結晶系は、単斜晶系である。
【0020】
このようなフレームワーク化合物100の例示的な用途を説明する。フレームワーク化合物100は、蛍光体の母体材料として機能し得る。すなわち、上述したフレームワーク化合物100において、ランタノイド金属の一部を発光中心元素で置換することによって、蛍光体となる。このような発光中心元素は、Eu、Tb、Ce、Sm、Pr、Eu、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される。
【0021】
例えば、フレームワーク化合物100のランタノイド金属がLaであり、発光中心元素がEuである場合、紫外線励起によって橙色〜赤色の光を発する蛍光体となり、ランタノイド金属がLaであり、発光中心元素がCeである場合、紫外線励起によって紫色の光を発する蛍光体となる。同様に、発光中心元素がTbおよびSmである場合も、これらが直接発光する蛍光体が得られる。一方、発光中心元素が、Pr、Er、Tm、YbおよびLuの場合、赤外線励起によるアップコンバージョン発光による蛍光体が得られる。なお、ランタノイド金属と発光中心元素とが同一であってもよいが、発光効率や濃度消光の観点から、ランタノイド金属と発光中心元素とは異なっていることがよく、発光中心元素の固溶量は、好ましくは、最大15モル%である。
【0022】
本発明のフレームワーク化合物100は、蛍光体以外にも、細孔140を利用した多孔体、あるいは、ランタノイド金属に由来する触媒としても機能し得る。
【0023】
次に、上述したフレームワーク化合物100の製造方法について説明する。
図2は、実施の形態1によるフレームワーク化合物を製造する製造ステップを示すフローチャートである。
【0024】
ステップS210:ランタノイド塩と、Rを含有する有機ジスルホン酸塩(以降では簡単のため有機ジスルホン酸塩と称する)と、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)または尿素と、水を含有する溶媒とを含む混合水溶液を調製する。
【0025】
ランタノイド塩は、上述したランタノイド金属の塩であり、硝酸塩、ハロゲン化物、(亜)硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩等であるが、好ましくは、硝酸塩またはハロゲン化物である。これらのランタノイド塩は、水を含有する溶媒等他の溶液に対する溶解性に優れており、確実に反応する。有機ジスルホン酸塩は、上述した{[OS−R−SO2−}を生成し得る有機ジスルホン酸の塩である。好ましくは、ランタノイド塩とジスルホン酸塩とのモル比(ランタノイド塩:ジスルホン酸塩)が、1:5となるように調製される。
【0026】
ヘキサメチレンテトラミン(HMT)または尿素は、分解後に混合水溶液のpHを制御されたスピードで徐々に上昇させるので、良質なフレームワーク化合物の製造に有利である。より好ましくは、ランタノイド塩および有機ジスルホン酸塩に対するHMTまたは尿素のモル比は、10mol%〜50mol%の範囲である。この比を外れると、Ln(OH)等の不純物が生成する場合がある。
【0027】
水を含有する溶媒は、水(例えば、超純水、Milli−Q水)単独を溶媒として用いてもよいし、水に加えてエタノール等の非水溶媒を用いてもよいが、ステップS210で少なくとも水を含有する混合水溶液が得られればよい。これは、ランタノイドイオンおよび有機ジスルホン酸イオンが水と水和することにより、反応が促進されるためである。なお、水溶液中に少なくとも水を含有すればよいので、水を含有する溶媒として、ランタノイド塩の水和物あるいは有機ジスルホン酸塩の水和物を用いてもよい。すなわち、「水を含有する溶媒」とは、水を含有する溶媒を準備しておいてその中に所要物質を溶解する等の溶液調製手順を含意するものではないことに注意すべきである。換言すれば、その意味するところは、最終的にできた混合水溶液を見たとき、それを構成する溶媒成分は水を含む、ということだけである。
【0028】
ステップS220:ステップS210で得た混合水溶液を不活性ガス気流中で還流させる。
【0029】
例えば、還流は、混合水溶液をオイルバス等で加熱することによって行われる。不活性ガスは、窒素、アルゴン等の希ガスである。ステップS220により、HMTまたは尿素は分解されて、アンモニアを生成する。これにより混合水溶液のpHが上昇し、アルカリ性となる。その結果、ランタノイド塩および有機ジスルホン酸塩が加水分解され、フレームワーク化合物100の沈殿が生じる。この際、ランタノイド塩から生成した無機層110と、有機ジスルホン酸塩から生成した有機ピラー120とが、自己組織化的に、図1に示すように結合し、フレームワーク化合物100を生成する。
【0030】
ステップS220に続いて、得られたフレームワーク化合物100を洗浄し、室温にて乾燥させてもよい。これにより、取扱の簡便な粉末状のフレームワーク化合物100を得ることができる。洗浄は、水およびエタノールで数回繰り返し行われる。
【0031】
上述したように、本発明のフレームワーク化合物100は、図2を参照して説明した均一沈殿法により製造される。均一沈殿法であれば、オートクレーブ等の専用高圧装置ならびに特殊な技術を不要とするので、安価かつ簡便に本発明のフレームワーク化合物100を大量生産できる。
【0032】
(実施の形態2)
実施の形態2は、ランタノイド金属を有する無機層が酸化物である、LnX(Xはインターカレートしたアニオン)に基づいた、フレームワーク化合物に関する。
【0033】
図3は、実施の形態2によるフレームワーク化合物を示す模式図である。
【0034】
フレームワーク化合物300は、ランタノイド金属を有する無機層310と、有機ピラー120とからなる。有機ピラー120は、無機層310を互いに結合する。有機ピラー120は、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0035】
図3に示すように、本発明のフレームワーク化合物300は、無機層310が有機ピラー120によって所定の間隔で層状に位置する。無機層310と有機ピラー120とによって網目構造320が形成される。フレームワーク化合物300は、無機層310と有機ピラー120との間に所定の細孔径を有する細孔340を有することができる。このような本発明のフレームワーク化合物300は、細孔340を利用した多孔体、これ自身を蛍光体の母体とする蛍光体、あるいは、ランタノイド金属に由来する触媒として機能し得る。
【0036】
無機層310は、一般式{[Ln2+}で表される。ここで、Lnは、ランタノイド金属である。{[Ln2+}は、{[Ln(OH)(HO)]}を脱水および脱ヒドロキシル化して得られる、カチオン層である。実施の形態1と異なり、無機層310は、水を含有しないため、高温環境に対して安定である。{[Ln2+}の結晶学的厚さは約0.45nmである。
【0037】
無機層310のランタノイド金属は、好ましくは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、GdおよびTbからなる群から少なくとも1つ選択される。これは、フレームワーク化合物300が、フレームワーク化合物100から製造され得るためである。また、ランタノイド金属は、1種に限定されず、2種以上が固溶していてもよい。これにより、種々のランタノイド金属の性質を生かすことができ、フレームワーク化合物300が多機能となる。また、ランタノイド金属としてLaとEu、LaとCeあるいはLaとTbを用いた場合、フレームワーク化合物300は、蛍光体として機能し得る。
【0038】
フレームワーク化合物300は、一般式Ln[OS(CHSO](nは、nは1以上18以下の整数である)で表される。ここで、式中の原子の個数、あるいは、分子のモル数は、必ずしも、一致する必要はなく、原子の個数および分子のモル数は10%の誤差を含んでいてもよい。なお、本願では、得られた化合物の組成分析をした際に、10%以内の誤差であれば、上記一般式で表すものとする。このようなフレームワーク化合物300の結晶系は、フレームワーク化合物100のそれとは異なり斜方晶である。
【0039】
このようなフレームワーク化合物300の例示的な用途を説明する。フレームワーク化合物300は、実施の形態1のフレームワーク化合物100と同様に、蛍光体の母体材料として機能し得る。すなわち、上述したフレームワーク化合物300において、ランタノイド金属の一部を発光中心元素で置換することによって、蛍光体となる。このような発光中心元素は、Eu、Tb、Ce、Sm、Pr、Eu、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される。
【0040】
発光中心元素がEuである場合、紫外線励起によって橙色〜赤色の光を発する蛍光体となり、発光中心元素がCeである場合、紫外線励起によって紫色の光を発する蛍光体となる。同様に、発光中心元素がTbおよびSmである場合も、これらが直接発光する蛍光体が得られる。一方、発光中心元素が、Pr、Er、Tm、YbおよびLuの場合、赤外線励起によるアップコンバージョン発光による蛍光体が得られる。なお、ランタノイド金属と発光中心元素とが同一であってもよいが、発光効率や濃度消光の観点から、ランタノイド金属と発光中心元素とは異なっていることがよく、発光中心元素の固溶量は、好ましくは、最大15モル%である。
【0041】
本発明のフレームワーク化合物300は、蛍光体以外にも、細孔340を利用した多孔体、あるいは、ランタノイド金属に由来する触媒としても機能し得る。いずれの用途においても、上述したように、無機層310が水を含有しないので、本発明のフレームワーク化合物300を用いれば、脱水等により結晶が変化することもなく、安定した特性を発揮できる。
【0042】
次に、上述したフレームワーク化合物300の製造方法について説明する。
図4は、実施の形態2によるフレームワーク化合物を製造する製造ステップを示すフローチャートである。
【0043】
ステップ410:フレームワーク化合物300は、実施の形態1のフレームワーク化合物100(図1)の製造方法であるステップS220(図2)からスタートする。フレームワーク化合物100を230℃〜350℃の温度範囲で加熱し、脱水および脱ヒドロキシル化する。
【0044】
この加熱により、まず、フレームワーク化合物100であるLn(OH)[OS(CHSO]・2HOは、下記化学式1を経て脱水され、Ln(OH)[OS(CHSO]が得られる。
【化1】
【0045】
すべて脱水され、Ln(OH)[OS(CHSO]となると、続く加熱により、下記化学式2を経て脱ヒドロキシル化が生じ、Ln[OS(CHSO]が得られる。
【化2】
【0046】
加熱温度が230℃よりも低い場合、上記化学式2に示す反応が十分に進まず、脱ヒドロキシル化が不十分となり得る。また、加熱温度が350℃を超えると、下記化学式3のように有機種が分解する恐れがある。
【化3】
【0047】
ステップS410は、好ましくは、2時間加熱する。これにより、上記化学式1および2に示す反応が十分に進むので、完全に脱水および脱ヒドロキシル化することができる。
【0048】
本発明のフレームワーク化合物300は、フレームワーク化合物100を脱水および脱ヒドロキシル化することにより製造される。加熱するだけであるので、専用の装置ならびに特殊な技術を不要とするので、安価かつ簡便に本発明のフレームワーク化合物300を大量生産できる。
【0049】
次に実施例を参照して本発明を詳述するが、本発明は実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
実施例1は、LnがLaであり、nが3である、La(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、La[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0051】
ランタノイド塩としてLa(NO・xHO(x≒6)(2.5mmol)と、有機ジスルホン酸塩としてα,ω−アルカンジスルホン酸ナトリウム((CH(SONa))(12.5mmol)と、ヘキサメチレンテトラミン(0.30g)とを水(500ml)に分散させ、混合水溶液を調製した(図2のステップS210)。La(NO・xHO:α,ω−アルカンジスルホン酸ナトリウム(モル比)は、1:5であった。
【0052】
この混合水溶液を不活性ガスとして窒素ガス気流中で加熱し、還流させた(図2のステップS220)。還流条件は、オイルバスを用いて100℃〜120℃、5時間〜8時間であった。これにより、白色の析出物が確認された。析出物をろ過により回収し、水およびエタノールで洗浄した。洗浄した析出物を、湿度約70%において重量が一定となるまで乾燥させた。
【0053】
得られた析出物(試料)が、La(OH)[OS(CHSO]・2HOであることを化学分析により確認した。ランタノイド元素量は、ムレキシド指示薬を用いたEDTA(エチレンジアミン四酢酸)滴定法により測定された。硫黄量および炭素量は、分析装置(LECO CS−412)を用いた元素分析により測定された。OH量は、0.1MのHCl標準溶液(25mL)に溶解した試料(0.1g)を用いたNaOH滴定(0.1M標準溶液)によって測定された。水分量は、後述するTG−DTA(示差熱・熱重量同時測定)から測定された。結果を表2に示す。
【0054】
得られた試料のモルフォロジを、走査型電子顕微鏡SEM(Keyence VE8800)により観察した。結果を図5に示す。得られた試料の構造評価(XRDパターン)を、Cu−Kα線(λ=1.5405Å)を備えたX線回折計(Rigaku Rint−2000)を用いて行った。結果を図6に示す。また、リートベルト解析により構造パラメータを求めた。詳細には、結晶構造を、EXPO2009を用いて直接法により解析し、その結果をさらに、Rietan−FPプログラムにおいて全パターンフィッティングおよび最大エントロピー法(MEM)解析を交互に行うことにより収斂させ、最後にリートベルト法により精密化した。結果を図8および表3に示す。
【0055】
得られた試料についてフーリエ変換赤外分光分析を行った。KBrペレット法を用い、液体窒素冷却型MCT(HgCdTe)検出器を備えたフーリエ変換赤外分光分析計(Varian 7000e)によりFT−IRスペクトルを測定した。結果を図10に示す。
【0056】
次に、試料を、230℃〜350℃の温度範囲で加熱し、脱水および脱ヒドロキシル化した(図4のステップS410)。なお、実験では、昇温速度5℃/分で室温(25℃)〜1000℃まで昇温し、試料の熱重量測定(Rigaku、TGA−8120)を行うとともに、脱水および脱ヒドロキシル化のための加熱温度を最適化した。また、試料を200℃および300℃でそれぞれ加熱した際のXRDパターンおよびFT−IRスペクトルを測定した。これらの結果を図12図14図15および図16に示す。
【0057】
[実施例2]
実施例2は、LnがPrであり、nが3である、Pr(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Pr[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0058】
ランタノイド塩としてPr(NO・xHO(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、浅緑析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、図5図6および図10に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を図12に示す。
【0059】
[実施例3]
実施例3は、LnがNdであり、nが3である、Nd(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Nd[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0060】
ランタノイド塩としてNd(NO・xHO(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、浅紫析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、図5図6および図10に示す。さらに、エネルギーフィルタ型透過電子顕微鏡(JEOL−3100F)を用いて、観察を行い、制限視野電子回折(SAED)パターンを測定した。結果を図9に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を図12に示す。
【0061】
[実施例4]
実施例4は、LnがSmであり、nが3である、Sm(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Sm[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0062】
ランタノイド塩としてSm(NO・xHO(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、浅黄色析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、図5図6および図10に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を図12に示す。
【0063】
[実施例5]
実施例5は、LnがLaであり、nが4である、La(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、La[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0064】
有機ジスルホン酸塩として(CH(SONa)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、図5図7および図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を図13に示す。
【0065】
[実施例6]
実施例6は、LnがPrであり、nが4である、Pr(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Pr[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物100(実施の形態2)に関する。
【0066】
ランタノイド塩としてPr(NO・xHO(x≒6)を用いた以外は、実施例5と同様の手順により、浅緑析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、図5図7および図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を図13に示す。
【0067】
[実施例7]
実施例7は、LnがNdであり、nが4である、Nd(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Nd[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0068】
ランタノイド塩としてNd(NO・xHO(x≒6)を用いた以外は、実施例5と同様の手順により、浅紫析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、図5図7および図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を図13に示す。
【0069】
[実施例8]
実施例8は、LnがSmであり、nが4である、Sm(OH)[OS(CHSO]・2HOであるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、Sm[OS(CHSO]であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0070】
ランタノイド塩としてSm(NO・xHO(x≒6)を用いた以外は、実施例5と同様の手順により、浅黄色析出物(試料)を得た。得られた試料について、化学分析、表面モルフォロジ観察、構造評価およびFT−IRスペクトル測定を行った。結果を、表2、図5図7および図11に示す。実施例1と同様の手順により、試料を加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化した。このときの熱重量測定の結果を図13に示す。
【0071】
[実施例9]
実施例9は、LnがLaおよびEuであり、nが3である、(La,Eu)(OH)[OS(CHSO]・2HO(La1.9Eu0.1(OH)[OS(CHSO]・2HO)であるフレームワーク化合物100(実施の形態1)、および、(La,Eu)[OS(CHSO](La1.9Eu0.1[OS(CHSO])であるフレームワーク化合物300(実施の形態2)に関する。
【0072】
ランタノイド塩としてLa(NO・xHO(x≒6)に加えてEu(NO・HO(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。なお、Euイオンは、Laに対して5mol%添加された。得られた試料について構造評価を行った。結果を図17および表4に示す。蛍光分光光度計(Hitach、F−4500)を用いたフォトルミネッセンス法により励起発光スペクトルを測定した。結果を図18に示す。また、試料を300℃で加熱し、脱水・脱ヒドロキシル化し、フォトルミネッセンス法により励起発光スペクトルを測定した。結果を図18に示す。
【0073】
[実施例10]
実施例10は、LnがLaおよびCeであり、nが3である、(La,Ce)(OH)[OS(CHSO]・2HO(La1.9Ce0.1(OH)[OS(CHSO]・2HO)であるフレームワーク化合物100(実施の形態1)に関する。
【0074】
ランタノイド塩としてLa(NO・xHO(x≒6)に加えてCe(NO・HO(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。なお、Ceイオンは、Laに対して5mol%添加された。得られた試料について構造評価および励起発光スペクトル測定を行った。結果を図17、表4および図19に示す。
【0075】
[実施例11]
実施例11は、LnがLaおよびTbであり、nが3である、(La,Tb)(OH)[OS(CHSO]・2HO(La1.9Tb0.1(OH)[OS(CHSO]・2HO)であるフレームワーク化合物100(実施の形態1)に関する。
【0076】
ランタノイド塩としてLa(NO・xHO(x≒6)に加えてTb(NO・HO(x≒6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、白い析出物(試料)を得た。なお、Tbイオンは、Laに対して5mol%添加された。得られた試料について構造評価を行った。結果を図17および表4に示す。
【0077】
以上の実施例1〜11の試料の条件を表1に示す。以降では、各実施例で得られた加熱前の試料をLn−C(Lnはランタノイド元素、nはアルキレン鎖の数)と称し、所定の温度で加熱後の試料をLn−Cn−T(Tは加熱温度)と称する。
【表1】

【0078】
表2に元素分析の結果を示す。
【表2】
【0079】
表2の元素分析の結果を参照すると、実施例1〜8のいずれも、実測値は、理論値と良好に一致した。この結果から化学式を求めたところ、いずれも一般式Ln(OH)[OS(CHSO]・2HOで表されることが分かった。なお、表2の化学式は上記一般式と完全に一致しないが、いずれも10%の誤差の範囲内であり、上記一般式とみなせる。
【0080】
図5は、実施例1〜8のLn−CのSEM像を示す図である。
【0081】
Ln−Cは、いずれも、板状物質がジプサム様に凝集していることが分かった。図5中のスケールバーは2.5μmであり、板状物質の厚さは、20nm〜100nmであり、横サイズは、1μm〜20μmであった。
【0082】
以上の図5および表2から、図2の本発明の方法を採用することにより、Ln(OH)[OS(CHSO]・2HOで示される化合物が得られることを確認した。
【0083】
図6は、実施例1〜4のLn−CのXRDパターンを示す図である。
図7は、実施例5〜8のLn−CのXRDパターンを示す図である。
【0084】
図6および図7によれば、いずれのLn−CのXRDパターンも、単斜晶系を示した。Ln−Cの面内格子定数は、Ln−Cのそれと互いにほぼ一致することが分かった。一方、Ln−Cの層間距離(14.0Å)は、Ln−Cのそれ(13.1Å)より約0.9Å大きいことが分かった。このことは、図1で模式的に示したように、有機ピラー120におけるアルキレン鎖の長さ(すなわち、nの数)により無機層110間の層間距離を制御できることを示す。
【0085】
図6および図7に示す指数を参照すると、h0kについてh+l=2n+1、ならびに、0k0についてk=2n+1の反射が系統的に消滅しているから、n映進面および2らせん軸を対称要素として有することが示唆され、得られた試料は、いずれも、空間群P2/n(No.14)であることが分かった。また、図6のLa−CのXRDパターンから、a軸、b軸およびc軸の格子定数と軸角βとを求めたところ、a=6.4344(1)Å、b=3.9622(1)Å、c=26.182(1)Å、β=91.565(1)°であった。実施例1のLa−Cの構造パラメータを表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
図8は、実施例1のLa−Cの結晶構造を示す模式図である。
【0088】
図6に基づいてLa−Cの結晶構造を得た。図8に示すように、La−Cは、ランタノイド金属を含有する無機層110と、無機層110を互いに結合する有機ピラー120とからなる。詳細には、無機層110は、カチオン性の{[La(OH)(HO)]}であり、有機ピラー120は、アニオン性の{[OS(CHSO2−}である。無機層110の結晶学的厚さが0.78nmであることを確認した。
【0089】
無機層110中のランタノイドイオンは9配位(そのうち、6つはOH基から、2つはHO分子から、1つは有機ピラー120のSO基からの配位である)である。{LaO}多面体の配置は、わずかに歪んだ三キャップ三方プリズム型(tricapped trigonal prism)である。b軸に沿って、{LaO}多面体は、三角形の面を共有するように結合し、線形な列をなしている。最近接のLa−Laの距離は3.96Åであった。さらにこれらの列は、OH−OH端で共有するように結合し、無限の広がりを有する{[La(OH)(HO)]}層となる。この結合により、{LaO}多面体は、擬六角形状に配列し、列を横切る方向のLa−Laの距離は4.10Åであった。
【0090】
無機層110において、各OH基は、3つのLaイオンと結合しており(μ−結合)、HO分子は、μ−コネクタとして機能する。さらに、SO基の1つの酸素原子が無機層110中のLaイオンに配位しており、層間領域の方を向いている。La−Oの距離(2.58Å)は、OH基−LaおよびHO分子−Laの距離(2.52Å〜2.77Å)に近く、SO基のOが関与するLa−Oの結合は、共有結合性であることが分かった。有機ピラー120であるα,ω−アルカンジスルホン酸イオン([OS(CHSO2−)は、隣接する無機層110から2つのLaイオンに配位し、無機層110をつなぐ。これにより、無機層110と有機ピラー120とが3次元に結合した網目構造(図示せず)が形成される。網目構造の網目には細孔130が形成されることを確認した。
【0091】
表3のリートベルト解析による構造パラメータからLn−Cの構造に関して考察を行った。層間には、線状のα,ω−アルカンジスルホン酸イオンが、2つの等価な配置をとっている。このため、O、SおよびCの関連する位置は、分裂する。アルキレン鎖はac面にほぼ平行となるが、bc面に対して約38.8°傾いている。これらのアルキレン鎖間にスロット状の細孔が形成されることになり、疎水性となり得る。
【0092】
図9は、実施例3のNd−CのTEM像およびSAEDパターンを示す図である。
【0093】
図9(A)によれば、Nd−Cは板状物質であり、隣接する端部の角度は約120°であった。図9(B)によれば、Nd−Cは、020、100および200などのスポットからなる回折パターンを示し、図8を参照して説明したように、擬六方晶を有することが分かった。このことから、本発明によるフレームワーク化合物は、擬斜方−六方対称性を有する単斜晶系であることが確認された。
【0094】
図10は、実施例1〜4のLn−CのFT−IRスペクトルを示す図である。
図11は、実施例5〜8のLn−CのFT−IRスペクトルを示す図である。
【0095】
いずれのFT−IRスペクトルも、波数3600cm−1および3500cm−1近傍にシャープなピーク(例えば、Ln−Cでは、3599cm−1および3506cm−1であった)を示した。これらのピークは、水素結合を有さないOH基に起因する。またいずれのFT−IRスペクトルも、波数3270cm−1(例えば、Ln−Cでは、3276cm−1であった)近傍にブロードなピークを示した。これは、水素結合に関与した水分子またはOH基のO−H伸縮モードに起因する。いずれのFT−IRスペクトルも、波数2947cm−1およびその近傍に複数の微小なピークを示した。これは、CH基の伸縮振動に起因する。さらに、いずれのFT−IRスペクトルも、波数970cm−1〜1320cm−1の範囲(例えば、図10および図11においてハッチングで示す領域)に複数のピークを示した。これらのピークは、分裂したSO基の振動モードに起因する。これら複数のピークの中でももっとも強度の高いピーク(例えば、Ln−Cでは、1175cm−1であった)は、S=O基の伸縮モードに起因する。これは、対称性が低い場合のSO基の特徴であり、SO基とLnイオンとの間に共有結合が生じていることを示す。
【0096】
以上の図6図11および表3から、得られたLn(OH)[OS(CHSO]・2HOで示される化合物は、無機層110として[La(OH)(HO)]層と有機ピラー120として[OS(CHSO2−とからなるフレームワーク化合物100(図1)であることを確認した。
【0097】
図12は、実施例1〜4のLn−CのTGA曲線を示す図である。
図13は、実施例5〜8のLn−CのTGA曲線を示す図である。
【0098】
図12および図13によれば、いずれも、5つの熱分解の過程、すなわち、脱水(過程I)、脱ヒドロキシル化(過程II)、有機種の燃焼(過程III)、スルホン酸塩の硫酸塩への酸化(過程IV)およびSOの脱離(過程V)からなることを確認した。
【0099】
過程Iは下記化学式4(上記化学式1と同じ)で表され、過程IIは下記化学式5(上記化学式2と同じ)で表され、過程III〜Vは下記化学式6(上記化学式3と同じ)で表される。
【化4】

【化5】

【化6】
【0100】
例えば、図12のLa−CのTGA曲線によれば、加熱温度120℃〜170℃の間の重量損失は、脱水(過程I)に起因する。脱水による重量損失(6.6%)は、1化学式あたり2.2モルの水分子の除去に一致した。加熱温度230℃〜275℃の間の重量損失(5.3%)は、脱ヒドロキシル化(過程II)に起因する。加熱温度350℃〜450℃の間の重量損失は、有機種としてα,ω−アルカンジスルホン酸イオンの燃焼に起因する。続く加熱温度450℃〜500℃の間の重量増大は、スルホン酸塩の硫酸塩への酸化に起因する。800℃を超えて加熱すると、有機種に加えて、SOが脱離され、最終生成物であるLaSOが得られた。加熱による全重量損失は約31.5%であり、理論値(30.8%)にほぼ一致した。他のLn−CのTGA曲線も、La−Cのそれと同様であった。
【0101】
以上の図12および図13から、Ln(OH)[OS(CHSO]・2HOの脱水および脱ヒドロキシル化によって、Ln[OS(CHSO]で示される化合物が得られ、脱水および脱ヒドロキシル化は、230℃〜350℃の温度範囲の加熱が好ましいことを確認した。
【0102】
図14は、実施例1のLa−Cを加熱した際のXRDパターンを示す図である。
【0103】
図14において、XRDパターンa〜cは、それぞれ、La−C、La−C−200、および、La−C−300のXRDパターンである。
【0104】
XRDパターンa〜cから格子定数を求めた。結果を表4に示す。
【表4】
【0105】
上述したように、La−CはLa(OH)[OS(CHSO]・2HOであり、La−C−200はLa(OH)[OS(CHSO]であり、La−C−300はLa[OS(CHSO]であった。
【0106】
XRDパターンbから得られる格子定数は、XRDパターンaから得られる格子定数に類似していた。XRDパターンbから得られる格子定数によれば、La−C−200の面内格子定数aおよびbは、La−Cのそれらと同様であった。一方、La−C−200の層間距離cは、La−Cのそれより小さかった。これらから、La−C−200は、脱水によっても加熱前のLa−Cと同様に、無機層として{La(OH)}、および、有機ピラーとして[OS(CHSO]からなる層状構造を有しているものの、脱水により有機ピラーの向きが変化することなどのため、層間距離が収縮することが分かった。
【0107】
XRDパターンcは、XRDパターンaおよびbとは異なり、斜方晶に指数付できた。XRDパターンcによれば、La−C−300の面内格子定数は、{[La2+}層を含む既報の層状酸化物のそれ(例えば、S.Zhukovら,Mater.Res.Bull.,1997,32,43−50)と同様であることが分かった。
【0108】
図15は、実施例1のLa−Cを脱水・脱ヒドロキシル化したLa[OS(CHSO]の結晶構造を示す図である。
【0109】
図14のXRDパターンcから得られる格子定数に基づいて考察を加え、La[OS(CHSO]の結晶構造を得た。図15に示すように、La[OS(CHSO]は、ランタノイド金属を含有する無機層310と、無機層310を互いに結合する有機ピラー120とからなる。詳細には、無機層310は、カチオン性の{[La2+}であり、有機ピラー120は、アニオン性の{[OS(CHSO2−}である。層間距離は12.1Å(1.21nm)であった。このような無機層310と有機ピラー120とにより網目構造を構成し、細孔340が形成される。ここで、無機層310の結晶学的厚さは0.45nmであった。
【0110】
図16は、実施例1のLa−Cを加熱した際のFT−IRスペクトルを示す図である。
【0111】
図16において、FT−IRスペクトルa〜cは、それぞれ、La−C、La−C−200、および、La−C−300のFT−IRスペクトルである。
【0112】
FT−IRスペクトルaは、波数3599cm−1および3506cm−1のシャープなピークを、スペクトルbは、波数3595cm−1、3543cm−1および3505cm−1のシャープなピークを有した。これらのピークは、水素結合を有さないOH基に起因する。FT−IRスペクトルaで見られた波数3276cm−1を中心とするブロードなピーク(図10を参照して上述したように、水素結合が関与した水分子またはOH基のO−H伸縮モードに起因する)は、FT−IRスペクトルbでは消失した。このことから、200℃の加熱により水分子が完全に除去されたことが分かった。さらに、FT−IRスペクトルcを参照すれば、FT−IRスペクトルbで見られたOH基にかかるシャープなピークは、いずれも、完全に消失した。
【0113】
いずれのFT−IRスペクトルも、波数2951cm−1〜2947cm−1およびその近傍に複数の微小なピークを示した。これらは、CH基の伸縮振動に起因する。さらに、いずれのFT−IRスペクトルも、波数1320cm−1〜970cm−1の範囲(図16においてハッチングで示す領域)に、分裂したSO基の振動モードに起因する複数のピークを示した。これは、対称性の低い場合のSO基の特徴であり、SO基とLaイオンとの間に共有結合が生じていることを示す。
【0114】
FT−IRスペクトルcにおいて、CH基およびSO基によるピークまたはバンドが存在することから、300℃で加熱した後であっても、α,ω−アルカンジスルホン酸イオン([OS(CHSO2−)は安定して維持されることが分かった。なお、350℃で加熱した後も同様のFT−IRスペクトルであることを確認した。
【0115】
図16の結果は、図12および図14の結果に良好に一致しており、Ln[OS(CHSO]で示される化合物は、Ln(OH)[OS(CHSO]・2HOの脱水および脱ヒドロキシル化によって得られ、脱水および脱ヒドロキシル化は、最大350℃の温度範囲の加熱を可能とすることを確認した。
【0116】
以上の図14図16から、Ln[OS(CHSO]で示される化合物は、無機層110として[La(OH)(HO)]層と有機ピラー120として[OS(CHSO2−とからなるフレームワーク化合物300(図3)であることが示された。
【0117】
図17は、実施例9〜11のLn−CのXRDパターンを示す図である。
【0118】
図17に示すXRDパターンは、図6および図7のそれらと一致することが分かった。このことから、実施例9〜11のLn−Cもまた単斜晶系であり、Lnが2種であっても結晶構造は変化しないことが分かった。
【0119】
【表5】

【0120】
表5によれば、実施例1と実施例9〜11の格子定数を比較すると、Lnが2種以上となることによって、a軸長がわずかに変化するものの、b軸長、c軸長およびβ角は、実質的に変化しなかった。
【0121】
以上の図17および表5より、本発明のフレームワーク化合物は、Lnとして2種以上の元素を固溶することが確認された。
【0122】
図18は、実施例9のLa,Eu−Cの励起発光スペクトルを示す図である。
【0123】
図18の励起発光スペクトルaおよびbは、La,Eu−C、および、La,Eu−C−300の励起発光スペクトルである。上述したように、La,Eu−Cは(La,Eu)(OH)[OS(CHSO]・2HOであり、La,Eu−C−300は(La,Eu)[OS(CHSO]である。
【0124】
La,Eu−C、およびLa,Eu−C−300も、紫外線で励起され、波長約620nm近傍に複数のシャープなピークを示す赤色発光する蛍光体であることが分かった。紫外線励起は、O2−とEu3+との間の電荷移動に起因し、複数のシャープなピークは、Eu3+の4f電子配置内の4f内殻遷移に起因する。いずれの発光スペクトルも、(J=1−4)遷移からなり、中でも、線(スペクトルaでは618nm、および、スペクトルbでは619nm)が、もっとも発光強度が高くシャープなピークであった。
【0125】
励起スペクトルに注目すると、励起スペクトルaは235nmにピークを有するが、励起スペクトルbは275nmにピークを有した。これは、脱水・脱ヒドロキシル化により、La,Eu−C−300におけるO2−とEu3+との間の電荷移動が、La,Eu−Cに比べて増大したことを示す。発光スペクトルに注目すると、発光スペクトルbの線のピーク強度は、発光スペクトルaのそれの8倍増大した。これは、脱ヒドロキシル化により、ヒドロキシル基による消光の影響がなくなったためである。
【0126】
図19は、実施例10のLa,Ce−Cの励起発光スペクトルを示す図である。
【0127】
La,Ce−Cは、252nmの深紫外線で励起され、波長366nmにピークを有する紫色発光する蛍光体であることが分かった。この発光は、Ce3+のf−d遷移に起因する。また、本発明のフレームワーク化合物では、通常、アルカリ溶液および空気中ではCe4+となりやすい発光中心が、Ce3+で安定化できることが分かった。
【0128】
以上の図18および図19から、本発明の実施の形態1および2のフレームワーク化合物は、いずれも、蛍光体として機能することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
上述してきたように、本発明のフレームワーク化合物は、ランタノイド金属を含有する無機層と、無機層を互いに結合する有機ピラーとからなる。フレームワーク化合物は、無機層と有機ピラーとの間に細孔を利用した多孔体、ランタノイド金属の一部を活性中心元素で置換することによる蛍光体、ランタノイド金属に由来する触媒として複合機能を有した材料として働き得る。
【符号の説明】
【0130】
100、300 フレームワーク化合物
110、310 無機層
120 有機ピラー
130、320 網目構造
140、340 細孔
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0131】
【非特許文献1】F.Gandara,Angew.Chem.Int.Ed.2006,45,7998−8001
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19