特許第6044070号(P6044070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044070
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】音響構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20161206BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G10K11/16 C
   E04B1/86 K
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-274594(P2011-274594)
(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公開番号】特開2013-125186(P2013-125186A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】本地 由和
【審査官】 渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−085989(JP,A)
【文献】 特開2004−183946(JP,A)
【文献】 特開昭53−024801(JP,A)
【文献】 特開平02−071300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62− 1/99
G10K 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数本のパイプを有し、前記積層された複数本のパイプのうち最上層のパイプには、当該パイプの内部空間を外部空間に連通させる孔が形成され、前記複数本のパイプの層間には、前記複数本のパイプの長さ方向に沿った位置が前記孔と同じである各位置に層間を貫く孔が形成され、前記複数本のパイプの内部空間は壁により複数の空間に隔てられており、前記最上層以外の各層のパイプにおいて前記壁により隔てられた複数の空間の一部の空間が前記層間の孔および前記最上層のパイプの孔を介して前記外部空間と連通しており、各パイプの内部における前記壁と前記孔との間の距離が前記複数本のパイプの各々で異なっていることを特徴とする音響構造体。
【請求項2】
前記複数本のパイプを各々積層した複数の積層体が前記パイプの長さ方向および積層方向と交差する方向に配列されていることを特徴とする請求項1に記載の音響構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響空間における音響障害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホールや劇場などの壁に囲まれた音響空間では、平行対面する壁間で音が繰り返し反射することによりブーミングやフラッターエコーなどの音響障害が発生する。図12は、この種の音響障害の防止に好適な従来の音響構造体90を示す正面図である。この音響構造体90は、複数本のパイプ15−i(i=1,2…L)(図12の例ではパイプの本数Lは5本)をパネル状に配列したものである。この音響構造体90のパイプ15−i(i=1〜5)の各々は角筒状をなしている。そして、パイプ15−i(i=1〜5)は両端を揃えて長さ方向と直交する方向に並べられている。各パイプ15−iの表面16−iには開口部17−iが設けられている。各パイプ15−iの長さ方向における開口部17−iの位置はパイプ15−i毎に異なっている。この音響構造体90は、音響空間の内壁や天井に固定して利用される。音響構造体90は、音響空間の内壁や天井に固定された状態において、パイプ15−i(i=1〜5)に入射する音波に対する吸音効果と散乱効果を発生し、音響空間内の音響障害の発生を防止する。
【0003】
ここで、図12に示す音響構造体90のパイプ15−2を例にとり、パイプ15−2による吸音効果および散乱効果の発生の原理について説明する。図13に示すように、パイプ15−2における開口部17−2の奥の空間には、開口部17−2を開口端とし空間の左側の端部18−2を閉口端とする閉管CPと、開口部17−2を開口端とし空間の右側の端部18−2を開口端とする閉管CPが形成されているとみなすことができる。音響空間から開口部17−2を介して空間内に音波が入射すると、空間内では、閉管CPの開口端(開口部17−2)から閉口端(端部18−2)に向かう進行波と、閉管CPの開口端(開口部17−2)から閉口端(端部18−2)に向かう進行波とが発生する。そして、前者の進行波は、閉管CPの閉口端において反射され、その反射波が開口部17−2へ戻る。また、後者の進行波は、閉管CPの閉口端において反射され、その反射波が開口部17−2へ戻る。
【0004】
そして、閉管CPでは、下記式(1)に示す共鳴周波数f−j(j=1,2…)において共鳴が発生し、閉管CP内において進行波と反射波とを合成した音波は、閉管CPの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。また、閉管CPでは、下記式(2)に示す共鳴周波数f−j(j=1,2…)において共鳴が発生し、閉管CP内において進行波と反射波とを合成した音波は、閉管CPの閉口端に粒子速度の節を有し、開口端に粒子速度の腹を有する定在波となる。なお、下記式(1)および(2)において、Lは閉管CPの長さ(空洞の左側の端部18−mから開口部17−mまでの長さ)、Lは閉管CPの長さ(空洞の右側の端部18−mから開口部17−mまでの長さ)、cは音波の伝搬速度、jは1以上の整数である。
−j=(2j−1)・(c/(4・L))…(1)
−j=(2j−1)・(c/(4・L))…(2)
【0005】
ここで、パイプ15−mの開口部17−m及び側面16−mにおける開口部17−mの近傍に入射する音波のうち共鳴周波数f−jの成分に着目すると、閉管CPの閉口端において反射されて開口部17−mから音響空間へと放射される音波は、音響空間から開口部17−mに入射する音波に対して逆相の音波となる。一方、側面16−mにおける開口部17−mの周囲では、音響空間からの入射波が位相回転を伴うことなく反射される。
【0006】
よって、共鳴周波数f−jの成分を含む音波が開口部17−mを介して空洞に入射した場合、側面16−mにおける開口部17−mの正面(入射方向)では、閉管CPから開口部17−mを介して放射される音波と側面16−mにおける開口部17−mの近傍の各点から反射される音波が逆相となって互いの位相が干渉し合い、吸音効果が発生する。また、側面16−mにおける開口部17−mの周囲では、開口部17−mからの音波と側面16−mからの反射波の位相が不連続となり、位相の不連続を解消しようとする気体分子の流れが発生する。この結果、側面16−mにおける開口部17−mの周囲では、入射方向に対する鏡面反射方向以外の方向への音響エネルギーの流れが発生し、散乱効果が発生する。
【0007】
同様に、共鳴周波数f−jの成分を含む音波が開口部17−mを介して空洞に入射した場合、側面16−mにおける開口部17−mの正面(入射方向)では、吸音効果が発生する。また、側面16−mにおける開口部17−mの周囲では、散乱効果が発生する。
【0008】
また、共鳴周波数f−jおよびf−jの各々の近傍の周波数帯域においては、共鳴周波数f−jまたはf−jからずれていたとしても、周波数がある程度近ければ、開口部17−2から音響空間に放射される音波の位相と表面16−2から音響空間に放射される反射波の位相とが逆相に近い関係になる。このため、共鳴周波数f−jおよびf−jの各々の近傍の周波数帯域では、共鳴周波数f−jおよびf−jに対する周波数の近さに応じた程度の吸音効果および散乱効果が発生する。以上が、パイプ15−i(i=1〜5)による吸音効果および散乱効果の発生の原理である。
【0009】
また、図12に示す従来の音響構造体90では、各パイプ15−iの長さ方向における開口部17−iの位置がパイプ15−i毎に異なっているため、音響構造体90内には共鳴周波数の異なる2×L個の閉管が形成されているとみなすことができる。よって、吸音効果及び散乱効果を広い周波数帯域に亙って発生させることができる。この種の音響構造体に関わる技術を開示した文献として、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−84509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図12に示した従来の音響構造体90では、音響構造体を構成するパイプの本数を増やすことにより、より多くの周波数の音波に対する吸音効果及び散乱効果を発生させることができる。しかしながら、音響構造体を構成するパイプの本数が増えると、その配列方向の幅も広くなるため、設置先の音響空間における壁や天井の空きスペースが狭い場合には利用し難くなるという問題があった。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、音響構造体を壁や天井に固定して利用する場合における壁や天井の占有面積を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、積層された複数本のパイプを有し、前記複数本のパイプのうちの少なくとも一部のパイプの内部の空間から上の層のパイプを貫いてその表面に至る開口部が設けられていることを特徴とする音響構造体を提供する。
【0014】
この発明では、音響構造体を構成する複数本のパイプにおける1つの開口部の奥の空間に、その開口部を開口端とし空間の端部を閉口端とする複数個の閉管が形成されているとみなすことができる。これらの閉管は、各々の長さに応じた固有の周波数において共鳴する。よって、本発明では、吸音効果及び散乱効果が発生する周波数帯域の開口部1個当たりの帯域数が従来のものに比べて多くなる。従って、本発明によると、音響構造体の設置先である壁や天井の占有面積を大きくすることなく、より多くの帯域の音波に対する吸音効果及び散乱効果を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態である音響構造体の正面図である。
図2】同音響構造体の縦断面図である。
図3】本発明の第2実施形態である音響構造体の正面図である。
図4】同音響構造体の縦断面図である。
図5】本発明の第3実施形態である音響構造体の正面図である。
図6図5のA−A’線断面図である。
図7図5のB−B’線断面図である。
図8図5のC−C’線断面図である。
図9図5のD−D’線断面図である。
図10図5のE−E’線断面図である。
図11】本発明の第4実施形態である音響構造体の正面図である。
図12】従来の音響構造体を示す正面図である。
図13】同音響構造体のパイプとパイプ内に形成される閉管の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である音響構造体10の正面図である。図2は、音響構造体10の縦断面図である。この音響構造体10は、各々が1つの周波数帯域の音波に対する吸音効果及び散乱効果を発生する3本のパイプ1−m(m=1〜M)(ただしM=3)を積層したものである。この音響構造体10におけるパイプ1−m(m=1〜3)の各々は、表面WUと裏面WD、及びそれらの間に介在する側面WL、WR、WF、WBに囲まれた角筒状をなしている。パイプ1−m(m=1〜3)の高さH(表面WU及び裏面WD間の寸法)、長さL(側面WL及び側面WR間の寸法)、及び幅W(側面WF及び側面WB間の寸法)は同じである。この音響構造体10におけるパイプ1−3の表面WUはその上のパイプ1−2の裏面WDと接合されている。また、パイプ1−2の表面WUはその上のパイプ1−1の裏面WDと接合されている。
【0017】
この音響構造体10では、パイプ1−m(m=1〜M)における上から2層目のパイプ1−2及び3層目のパイプ1−3の内部の空間から上の層のパイプを貫いてその表面WUに至る開口部が設けられている。より詳細に説明すると、この音響構造体10では、パイプ1−1の表面WU及び裏面WDにおける側面WLの内側近傍には孔2L−1及び2L−1が設けられている。パイプ1−2の表面WU及び裏面WDにおける側面WLの内側近傍には孔2L−2及び2L−2が設けられている。パイプ1−3の表面WUにおける側面WLの内側近傍には孔2L−3が設けられている。これらの孔2L−1、2L−1、2L−2、2L−2及び2L−3は、最下層のパイプ1−3の内部の空間からパイプ1−2及び1−1を貫いて最上層のパイプ1−1の表面WUに至る開口部3Lを形成している。また、パイプ1−1の表面WUにおける側面WRの内側近傍には孔2R−1及び2R−1が設けられている。パイプ1−2の表面WU及び裏面WDにおける側面WRの内側近傍には孔2R−2及び2R−2が設けられている。パイプ1−3の表面WUにおける側面WRの内側近傍には孔2R−3が設けられている。これらの孔2R−1、2R−1、2R−2、2R−2及び2R−3は、パイプ1−3の内部の空間からパイプ1−2及び1−1を貫いてパイプ1−1の表面WUに至る開口部3Rを形成している。
【0018】
また、この音響構造体10では、パイプ1−1の内部における開口部3L及び3R間の空間が壁4−1により2つの空間5L−1及び5R−1に隔てられている。また、パイプ1−2の内部における開口部3L及び3R間の空間は壁4−2により2つの空間5L−2及び5R−2に隔てられている。また、パイプ1−3の内部における開口部3L及び3R間の空間は壁4−3により2つの空間5L−3及び5R−3に隔てられている。そして、パイプ1−m(m=1〜3)の内部における壁4−m(m=1〜3)の左側の空間5L−m(m=1〜3)は、開口部3Lを介してパイプ1−1の表面WUの外側の空間と連通している。パイプ1−m(m=1〜3)の内部における壁4−m(m=1〜3)の右側の空間5R−m(m=1〜3)は、開口部3Rを介してパイプ1−1の表面WUの外側の空間と連通している。また、この音響構造体10では、各パイプ1−m内における壁4−mの両側の開口部3L、3Rの各々と壁4−mとの間の距離はパイプ1−m(m=1〜3)の全てについて異なっている。
【0019】
以上が、本実施形態である音響構造体10の構成の詳細である。本実施形態によると、次のような効果が得られる。
第1に、本実施形態では、音響構造体10を構成する複数本のパイプ1−m(m=1〜3)における1つの開口部3L(または3R)の奥の空間に、その開口部3L(または3R)を開口端とし空間の端部を閉口端とする複数個の閉管が形成されているとみなすことができる。これらの閉管は、各々の長さに応じた固有の周波数において共鳴する。よって、本実施形態では、吸音効果及び散乱効果が発生する周波数帯域の開口部1個当たりの帯域数が従来のものに比べて多くなる。従って、本実施形態によると、音響構造体10の設置先である壁や天井の占有面積を大きくすることなく、より多くの周波数帯域の音波に対する吸音効果及び散乱効果を発生させることができる。
【0020】
第2に、本実施形態では、各パイプ1−m(m=1〜3)の内部の空間が壁4−mにより2つの空間5L−m及び5R−mに隔てられている。よって、本実施形態では、パイプ1−mの内部に形成される閉管の個数は壁4−mがない場合の2倍になる。従って、本実施形態によると、パイプ1−mの内部に壁4−mを設けない構成よりも多くの周波数帯域の音波について吸音効果及び散乱効果を発生させることができる。
【0021】
第3に、本実施形態では、各パイプ1−m内における壁4−mの両側の開口部3L、3Rと壁4−mとの間の距離は全て異なっている。このため、各パイプ1−mにおける表面WU、裏面WD、側面WL、側面WR、及び壁4−mに囲まれた空間を1つの閉管とみなした場合における共鳴周波数が異なったものとなる。よって、本実施形態によると、パイプ1−m(m=1〜3)における吸音効果及び散乱効果が発生する周波数帯域が重なって全体としての吸音性能及び散乱性能が低下する、という事態の発生が防止される。
【0022】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態である音響構造体10Aの正面図である。図4は、音構構造体10Aの縦断面図である。この音響構造体10Aは、音響構造体10(第1実施形態)における開口部の個数を2つから3つに増やしたものである。より詳細に説明すると、この音響構造体10Aでは、パイプ1−1の表面WU及び裏面WDにおける開口部3Lから距離Dだけ離れた位置に孔2C−1及び2C−1が設けられている。また、パイプ1−2の表面WU及び裏面WDにおける開口部3Lから距離Dだけ離れた位置には孔2C−2及び2C−2が設けられており、パイプ1−3の表面WUにおける開口部3Lから距離Dだけ離れた位置には孔2C−3が設けられている。これらの孔C−1、2C−1、2C−2、2C−2及び2C−3は、パイプ1−3の内部の空間からパイプ1−2及び1−1を貫いてパイプ1−1の表面WUに至る開口部3Cを形成している。
【0023】
この音響構造体10Aのパイプ1−1の内部における開口部3L及び3C間の空間は壁4L−1により2つの空間5LL−1及び5LC−1に隔てられている。パイプ1−1の内部における開口部3R及び3C間の空間は壁4R−1により2つの空間5RR−1及び5RC−1に隔てられている。パイプ1−2の内部における開口部3L及び3C間の空間は壁4L−2により2つの空間5LL−2及び5LC−2に隔てられている。パイプ1−2の内部における開口部3R及び3C間の空間は壁4R−2により2つの空間5RR−2及び5RC−2に隔てられている。パイプ1−3の内部における開口部3L及び3C間の空間は壁4L−3により2つの空間5LL−3及び5LC−3に隔てられている。パイプ1−3の内部における開口部3R及び3C間の空間は壁4R−3により2つの空間5RR−3及び5RC−3に隔てられている。
【0024】
パイプ1−m(m=1〜3)の内部における壁4L−m(m=1〜M)と開口部3Lの間の空間5LL−m(m=1〜3)は、開口部3Lを介してパイプ1−1の表面WUの外側の空間と連通している。パイプ1−m(m=1〜3)の内部における壁4R−m(m=1〜M)と開口部3Rの間の空間5RR−m(m=1〜3)は、開口部3Rを介してパイプ1−1の表面WUの外側の空間と連通している。パイプ1−m(m=1〜3)の内部における壁4L−m(m=1〜M)と開口部3Cの間の空間5LC−m(m=1〜3)は、開口部3Cを介してパイプ1−1の表面WUの外側の空間と連通している。パイプ1−m(m=1〜3)の内部における壁4R−m(m=1〜M)と開口部3Cの間の空間5RC−m(m=1〜3)は、開口部3Cを介してパイプ1−1の表面WUの外側の空間と連通している。
【0025】
以上が、本実施形態である音響構造体10Aの構成の詳細である。本実施形態では、音響構造体10Aを構成するパイプ1−m(m=1〜3)内に4×3個の閉管が形成されているとみなすことができる。よって、本実施形態によると、第1実施形態よりも多くの周波数帯域の音波について吸音効果及び散乱効果を発生させることができる。
【0026】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態である音響構造体50の正面図である。図6は、図5のA−A’線断面図である。図7は、図5のB−B’線断面図である。図8は、図5のC−C’線断面図である。図9は、図5のD−D’線断面図である。図10は、図5のE−E’線断面図である。この音響構造体50は、上記第2実施形態におけるパイプ1−mを幅W方向に複数個並べたものと同じ役割を果たすパネル5−n(n=1〜N)(但しN=3)を積層したものである。パネル5−n(n=1〜3)は、表面WU’と裏面WD’、及びそれらの間に介在する側面WL’、WR’、WF’、WB’に囲まれた中空な直方体状をなしている。各パネル5−nの内部には、等間隔を空けて側面WF’及びWB’と平行に並べられた4つの壁12−n、23−n、34−n、45−nがある。
【0027】
この音響構造体50は、パネル5−3の内部における側面WF’と壁12−3に挟まれた空間からパネル5−2及び5−1を貫いてパネル5−1の表面WU’に至る開口部71L、71R、71Cと、パネル5−3の内部における壁12−3と壁23−3に挟まれた空間からパネル5−2及び5−1を貫いてパネル5−1の表面WU’に至る開口部72L、72R、72Cとを有する。さらに、この音響構造体50は、パネル5−3の内部における壁23−3と壁34−3に挟まれた空間からパネル5−2及び5−1を貫いてパネル5−1の表面WU’に至る開口部73L、73R、73Cと、パネル5−3の内部における壁34−3と壁45−3に挟まれた空間からパネル5−2及び5−1を貫いてパネル5−1の表面WU’に至る開口部74L、74R、74Cと、パネル5−3の内部における壁45−3と側面WB’に挟まれた空間からパネル5−2及び5−1を貫いてパネル5−1の表面WU’に至る開口部75L、75R、75Cとを有する。
【0028】
これらの開口部71L、71R、71C、72L、72R、72C、73L、73R、73C、74L、74R、74C、75L、75R、及び75Cは、パネル5−1の表面WU’と裏面WB’、パネル5−2の表面WU’と裏面WB’、及びパネル5−3の表面WU’の各孔により形成されるものである。これらの開口部71L、71R、71C、72L、72R、72C、73L、73R、73C、74L、74R、74C、75L、75R、及び75Cのうち開口部71L、72L、73L、74L、75Lの左端は、側面WL’と接している。開口部71R、72R、73R、74R、75Rの右端は、側面WR’と接している。開口部71Cは、開口部71Lから開口部71Rの側に距離D1だけ離れた位置にある。開口部72Cは、開口部72Lから開口部72Rの側に距離D2(D2>D1)だけ離れた位置にある。開口部73Cは、開口部73Lから開口部73Rの側に距離D3(D3>D2)だけ離れた位置にある。開口部74Cは、開口部74Lから開口部74Rの側に距離D4(D4>D3)だけ離れた位置にある。開口部75Cは、開口部75Lから開口部75Rの側に距離D5(D5>D4)だけ離れた位置にある。
【0029】
図6に示すように、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、側面WF’、壁12−n、開口部71L、及び開口部71Cに囲まれた空間は壁81L−nにより2つの空間91LL−n及び91LC−nに隔てられている。これらのうち壁81L−nの左側の空間91LL−n(n=1〜3)は開口部71Lを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁81L−nの右側の空間91LC−n(n=1〜3)は開口部71Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、側面WF’、壁12−n、開口部71R、及び開口部71Cに囲まれた空間は壁81R−nにより2つの空間91RR−n及び91RC−nに隔てられている。これらのうち壁81R−nの右側の空間91RR−n(n=1〜3)は開口部71Rを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁81R−nの左側の空間91RC−n(n=1〜3)は開口部71Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。
【0030】
図7に示すように、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁12−n、壁23−n、開口部72L、及び開口部72Cに囲まれた空間は壁82L−nにより2つの空間92LL−n及び92LC−nに隔てられている。これらのうち壁82L−nの左側の空間92LL−n(n=1〜3)は開口部72Lを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁82L−nの右側の空間92LC−n(n=1〜3)は開口部72Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。また、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁12−n、壁23−n、開口部71R、及び開口部72Cに囲まれた空間は壁82R−nにより2つの空間92RR−n及び92RC−nに隔てられている。これらのうち壁82R−nの右側の空間92RR−n(n=1〜3)は開口部72Rを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁82R−nの左側の空間92RC−n(n=1〜3)は開口部72Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。
【0031】
図8に示すように、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁23−n、壁34−n、開口部73L、及び開口部73Cに囲まれた空間は壁83L−nにより2つの空間93LL−n及び93LC−nに隔てられている。これらのうち壁83L−n(n=1〜3)の左側の空間93LL−n(n=1〜3)は開口部73Lを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁83L−n(n=1〜3)の右側の空間93LC−n(n=1〜3)は開口部73Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。また、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁23−n、壁34−n、開口部73R、及び開口部73Cに囲まれた空間は壁83R−nにより2つの空間93RR−n及び93RC−nに隔てられている。これらのうち壁83R−n(n=1〜3)の右側の空間93RR−n(n=1〜3)は開口部73Rを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁83R−n(n=1〜3)の左側の空間93RC−n(n=1〜3)は開口部73Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。
【0032】
図9に示すように、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁34−n、壁45−n、開口部74L、及び開口部74Cに囲まれた空間は壁84L−nにより2つの空間94LL−n及び94LC−nに隔てられている。これらのうち壁84L−n(n=1〜3)の左側の空間94LL−n(n=1〜3)は開口部74Lを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁84L−n(n=1〜3)の右側の空間94LC−n(n=1〜3)は開口部74Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。また、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁34−n、壁45−n、開口部74R、及び開口部74Cに囲まれた空間は壁84R−nにより2つの空間94RR−n及び94RC−nに隔てられている。これらのうち壁84R−n(n=1〜3)の右側の空間94RR−n(n=1〜3)は開口部74Rを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁84R−n(n=1〜3)の左側の空間94RC−n(n=1〜3)は開口部74Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。
【0033】
図10に示すように、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁45−n、側面WB’、開口部75L、及び開口部75Cに囲まれた空間は壁85L−nにより2つの空間95LL−n及び95LC−nに隔てられている。これらのうち壁85L−n(n=1〜3)の左側の空間95LL−n(n=1〜3)は開口部75Lを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。壁85L−n(n=1〜3)の右側の空間95LC−n(n=1〜3)は開口部75Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。また、パネル5−n(n=1〜3)の各々の内部における表面WU’、裏面WD’、壁45−n、側面WB’、開口部75R、及び開口部75Cに囲まれた空間は壁85R−nにより2つの空間95RR−n及び95RC−nに隔てられている。これらのうち壁85R−n(n=1〜3)の右側の空間95RR−n(n=1〜3)は開口部75Rを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。また、壁85R−n(n=1〜3)の左側の空間95RC−n(n=1〜3)は開口部75Cを介してパネル5−1の表面WU’の外側の空間と連通している。
【0034】
また、この音響構造体50では、各パネル5−n(n=1〜3)における開口部に挟まれた各壁81L−n、81R−n、82L−n、82R−n、83L−n、83R−n、84L−n、84R−n、85L−n、85R−nから各々の両側の開口部までの距離の比は全て異なっている。
【0035】
以上が、本実施形態である音響構造体50の構成の詳細である。この音響構造体50では、3つのパネル5−n(n=1〜3)の中に4×15個の閉管が形成されているとみなすことができる。よって、第1及び第2実施形態よりも多くの周波数帯域の音波に対して吸音効果及び散乱効果を発生させることができる。また、この音響構造体50では、開口部に挟まれた各壁81L−n、81R−n、82L−n、82R−n、83L−n、83R−n、84L−n、84R−n、85L−n、85R−nから各々の両側の開口部までの距離の比はパネル5−n毎に異なっている。よって、吸音効果及び散乱効果が発生する周波数帯域が重なって全体としての吸音性能及び散乱性能が低下する、という事態の発生が防止される。
【0036】
<第4実施形態>
図11は、本発明の第4実施形態である音響構造体50Aの正面図である。音響構造体50(第3実施形態)では、パネル5−n(n=1〜3)における側面WL’に接する開口部と中央の開口部との間の距離D1、D2、D3、D4、及びD5が、側面WF’から離れるに従って大きくなっていた。本実施形態にかかる音響構造体50Aは、この距離D1、D2、D3、D4、及びD5をランダムに変化させたものである。本実施形態によっても、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0037】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば、以下の通りである。
(1)上記第1及び第2実施形態において、音響構造体10、10Aを構成するパイプ1−mの全部または一部の片方または両方の端部を開放してもよい。また、音響構造体10、10Aを構成するパイプ1−mの中に、端部が閉塞したものと、端部が開放したものが混在していてもよい。同様に、上記第3及び第4実施形態において、音響構造体50、50Aを構成するパネル5−nの全部または一部の片方または両方の端部を開放してもよい。また、音響構造体50、50Aを構成するパネル5−nの中に、端部が閉塞したものと、端部が開放したものが混在していてもよい。
【0038】
(2)上記第3及び第4実施形態において、パネル5−nの1つ1つを別々に販売し、複数個のパネル5−nを購入した者がそれらを組み合わせて1つの音響構造体を作るようにしてもよい。
【0039】
(3)上記第1乃至第4実施形態において、管長の長いパイプと管長の短いパイプとが混在する複数本を配列して音響構造体を構成し、管長の短いパイプの太さ(すなわち、パイプの開口部を有する側面における長さ方向及び高さ方向と直交する方向の幅)を管長の長いパイプの太さより細くしてもよい。上述したように、パイプによる吸音効果及び散乱効果は、パイプ内の2つの閉管CP及びCPの共鳴周波数に属する音がパイプに伝搬された場合にその開口部から放射される音波(パイプの側面における開口部の周囲から放射される音波と逆相の音波)の働きによって発生する。そして、この開口部から放射される音波はその波長が長いほど開口部の周囲への回折が起こり易い。このような理由から、音響構造体の各パイプの側面における吸音効果及び散乱効果の発生に寄与する領域X(すなわち、位相の不連続を解消しようとする気体分子の流れが発生する領域)はその中に含まれる閉管CP及びCPの長さが長いほど広くなる。よって、管長の短いパイプの太さを管長の長いパイプの太さよりも細くした構成によると、音響構造体をなす複数本のパイプの側面における単位面積当たりの吸音及び散乱効率をパイプの全てを同じ太さにしたものよりも高くすることができる。
【0040】
(4)上記第1乃至第4実施形態では、音響構造体10、10A、50、50Aにおける複数個の開口部の全てが最上層のパイプの上面WUから最下層のパイプの内部の空間に達していた。しかし、音響構造体10、10A、50、50Aにおける複数個の開口部の中に、最下層のパイプの内部の空間に達するものと、最下層のパイプよりも上位層のパイプの内部の空間まで達するものとが混在してもよい。例えば、音響構造体10(図1及び図2)において、開口部3Lは、最上層のパイプ1−1の表面WUから第2層のパイプ1−2を貫いて最下層のパイプ1−3内の空間に達するようにする一方、開口部3Rは、最上層のパイプ1−1の表面WUに設けられた孔2R−1のみからなり、パイプ1−n(n=1〜3)における孔2R−1,2R−2,2R−2,2R−3に相当する部分を塞いだ構成にしてもよい。また、音響構造体10(図1及び図2)において、開口部3Lは、最上層のパイプ1−1の表面WUから第2層のパイプ1−2を貫いて最下層のパイプ1−3内の空間に達するようにする一方、開口部3Rは、最上層のパイプ1−1の表面WU及び裏面WDに設けられた孔2R−1及び2R−1と第2層のパイプ1−2の表面WUに設けられた孔2R−2からなり、パイプ1−2及び1−3における孔2R−2及び2R−3に相当する部分を塞いだ構成にしてもよい。
【0041】
(5)上記第3及び第4実施形態では、音響構造体50、50Aのパネル内における壁により隔てられた空間91LL−n(n=1〜3),91LC−n(n=1〜3),91RR−n(n=1〜3),91RC−n(n=1〜3),92LL−n(n=1〜3),92LC−n(n=1〜3),92RR−n(n=1〜3),92RC−n(n=1〜3),93LC−n(n=1〜3),93RR−n(n=1〜3),93RC−n(n=1〜3),94LL−n(n=1〜3),94LC−n(n=1〜3),94RR−n(n=1〜3),94RC−n(n=1〜3),95LL−n(n=1〜3),95LC−n(n=1〜3),95RR−n(n=1〜3),及び95RC−n(n=1〜3)の全てが開口部を介して最上層のパネルの表面WUの外側の空間と連通していた。しかし、これらの空間の中のうち一部を囲む表面WUの孔を塞ぎ、最上層のパネルの表面WUの外側の空間と連通する空間とそうでない空間とが混在するような構成にしてもよい。要するに、壁により隔てられた複数の空間のうちの少なくとも一部の空間が開口部を介して表面の外側の空間と連通していればよい。
【0042】
(6)上記第1実施形態における3本のパイプ1−m(m=1〜M)(ただしM=3)を積層したものを1つの積層体とし、複数個の積層体をパイプ1−mの長さ方向と交差する方向に配列して1つの音響構造体を構成してもよい。この場合において、各積層体のパイプの長さ方向における開口部の位置を全て異ならせるとよい。この変形例によると、第1実施形態よりも広い帯域の音について吸音効果及び散乱効果を発生させることができる。
【符号の説明】
【0043】
10,50…音響構造体、1…パイプ、3、71L、71R、71C、72L、72R、72C、73L、73R、73C、74L、74R、74C、75L、75R、75C…開口部、12、23、34、45、81L、81R、82L、82R、83L、83R、84L、84R、85L、85R…壁、WU…表面,WD…裏面、WL,WR、WF,WB…側面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13