特許第6044075号(P6044075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044075
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】冷凍された春巻きの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20161206BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20161206BHJP
【FI】
   A23L7/109 D
   A23L35/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-8169(P2012-8169)
(22)【出願日】2012年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-146206(P2013-146206A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年11月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593204214
【氏名又は名称】三菱化学フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】片平 亮太
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−178709(JP,A)
【文献】 特開2009−072177(JP,A)
【文献】 特開平05−236919(JP,A)
【文献】 特開2003−199518(JP,A)
【文献】 特開2009−297024(JP,A)
【文献】 特開2011−172563(JP,A)
【文献】 特開平08−089158(JP,A)
【文献】 特開平05−252858(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0292281(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
A23L 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と有機酸モノグリセリドのラメラ構造体を含むラメラ構造体水分散液と小麦粉とを混合した混合物を焼成して得られた春巻きの皮に具材を包んで春巻きとし、該春巻きを油ちょうした後に冷凍する冷凍された春巻きの製造方法であって、該春巻きの皮中の有機酸モノグリセリドの含有量が小麦粉100重量%に対して0.01〜1重量%であることを特徴とする、冷凍された春巻きの製造方法。
【請求項2】
ラメラ構造体水分散液が乳化剤を含有する、請求項1に記載の冷凍された春巻きの製造方法。
【請求項3】
ラメラ構造体水分散液が糖類を含有する、請求項1または2に記載の冷凍された春巻きの製造方法。
【請求項4】
小麦粉100重量%に対して、ラメラ構造体水分散液を0.1〜10重量%混合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷凍された春巻きの製造方法。
【請求項5】
該春巻きが電子レンジで温めて食する用である、請求項1〜のいずれか一項に記載の冷凍された春巻きの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は春巻きの皮、およびこれを用いた春巻きに関する。
【背景技術】
【0002】
春巻きは小麦粉を主原料とするバッターをドラムや鉄板にて焼成し、得られた皮に具材を包むことにより製造される。春巻きには、家庭や料理店などで生春巻きとして調理後すぐに食するもの、皮に具材を包んだ後に油ちょうして食するもの、皮に具材を包んだ後に冷凍処理を行い冷凍保存後に調理して食するもの、皮に具材を包んだ後に油ちょうし、その後冷凍処理を行い冷凍保存後に食するものなどがある。この中で油ちょうしたものは、皮のパリパリとした食感と皮に包まれた具材のソフトな食感の両方を同時に味わうことができる。しかし、油ちょう後に放置したり、油ちょう後の冷凍品を電子レンジ調理したりすると、具材の水分が皮に移行することにより、油ちょう直後の皮のパリパリ感やサクッとした歯切れの良さが低下する。
【0003】
このような食感低下の問題を解決するために幾つかの食感改良方法が提案されている。
【0004】
例えば、化工澱粉を配合することによる食感の改良方法として、低粘度澱粉を用いる方法(特許文献1)、膨潤度抑制澱粉を用いる方法(特許文献2)、酸化澱粉、酸処理澱粉、架橋澱粉などを用いる方法(特許文献3)、架橋澱粉または乳酸Naを用いる方法(特許文献4)、置換澱粉と小麦粉を特定の割合で混合する方法(特許文献5)が提案されている。
【0005】
また、乳化剤を配合することによる食感改良方法として、HLBが10以上のショ糖脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリドを特定の比率で含有する乳化剤組成物を用いる方法(特許文献6)、融点40℃以上の硬化油脂にグリセリン脂肪酸エステルまたはプロピレングリコール脂肪酸エステルを混合した粉末状改質剤を用いる方法(特許文献7)、融点35℃以下の油脂に少なくとも2種のグリセリン脂肪酸エステルを混合した油脂組成物を用いる方法(特許文献8)などが知られている。
【0006】
その他の食感改良方法として、小麦粉に重合度2〜50の糖類及び/又は重合度2〜50の還元糖類を混合した生地を用いる方法(特許文献9)、春巻生地表面積の40%以上に多糖類及び/又は穀類粉体類を含む食品素材を付着させる方法(特許文献10)、蛋白質含有量が6.3〜10.5質量%
の小麦粉と、グルコースオキシターゼ及びヘミセルラーゼを含む酵素を含有する皮用組成物を用いる方法(特許文献11)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3995573号公報
【特許文献2】特許第3682514号公報
【特許文献3】特開2004−121016号公報
【特許文献4】特許第3544023号公報
【特許文献5】特開2008−22753号公報
【特許文献6】特開2010−178709号公報
【特許文献7】特開平11−196797号公報
【特許文献8】特開2005−185210号公報
【特許文献9】特開平9−28358号公報
【特許文献10】特開平7−203920号公報
【特許文献11】特許第4009631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、充分満足のいく食感改良効果は得られていない。化工澱粉の配合は生地中で分散が不均一となり焼成後の皮の焼きムラが発生するという問題が起こる場合がある。また、特許文献6のように、粉末状の乳化剤を用いる場合は、生地において小麦粉との相互作用が不十分であり、生地焼成後のパリパリ感が十分ではない。即ち、通常、加熱による高温状態において乳化剤が融解し、小麦粉成分と十分に相互作用することで乳化剤の機能が発揮されるが、粉末状の乳化剤では、このような相互作用が十分に得られない。さらに、糖類や酵素などを用いる方法では具材からの水分移行を抑制することは困難である。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、油ちょう後の皮のパリパリ感が良好であり、冷凍保存後に電子レンジによる加熱調理を行っても皮のパリパリ感を有し、一般的に“引き”と呼ばれる硬さが抑制された春巻きを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、有機酸モノグリセリドが水溶液中で形成するラメラ構造体を小麦粉と混合して調製したバッターを用いて春巻きの皮を製造することにより、上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得、本発明に到達した。
【0014】
本発明の要旨は、水と有機酸モノグリセリドのラメラ構造体を含むラメラ構造体水分散液と小麦粉とを混合した混合物を焼成して得られた春巻きの皮に具材を包んで春巻きとし、該春巻きを油ちょうした後に冷凍する冷凍された春巻きの製造方法であって、該春巻きの皮中の有機酸モノグリセリドの含有量が小麦粉100重量%に対して0.01〜1重量%であることを特徴とする、冷凍された春巻きの製造方法、に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の春巻きの皮を用いた本発明の春巻きは、油ちょう後の皮のパリパリ感が良好であり、冷凍保存後に電子レンジによる加熱調理を行っても皮のパリパリ感を有し、一般的に“引き”と呼ばれる硬さが抑制される。
本発明によるこのような優れた効果は、有機酸モノグリセリドが水中で形成するラメラ構造体が具材から皮への水分移行を抑制することによるものと推定される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0017】
先ず、本発明で使用される有機酸モノグリセリドのラメラ構造体について説明する。
【0018】
本発明に係る有機酸モノグリセリドは、グリセリン1分子に脂肪酸1分子と有機酸1分子が結合した構造を有し、一般的には、有機酸の酸無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得られる。反応は、通常、無溶媒条件下で行われ、例えば無水コハク酸と炭素数18のモノグリセリドの反応では、温度120℃前後において90分程度で反応が完了する。かくして得られた有機酸モノグリセリドは、通常、有機酸、未反応モノグリセリド、ジグリセリド、その他オリゴマーを含む混合物となっている。本発明においては、このような混合物をそのまま使用してもよく、有機酸モノグリセリドの純度を高めたい場合は、蒸留モノグリセリドとして市販されているものを使用してもよい。また、有機酸部分が一部中和されたものを使用してもよい。
【0019】
有機酸モノグリセリドを構成する有機酸としては、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸、乳酸などが挙げられる。これらの中では、食品用途に使用されるコハク酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸が好ましく、特に風味の点からコハク酸が好ましい。
【0020】
上記脂肪酸モノグリセリド由来の、有機酸モノグリセリドを構成する脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数8〜22の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。これらの中では風味の観点からステアリン酸を主成分とする脂肪酸が好ましく、特に構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸であるものが好ましい。
【0021】
有機酸モノグリセリドとしては1種のみを用いてもよく、これを構成する有機酸や脂肪酸が異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0022】
上記の有機酸モノグリセリドと水との混合物は、これらの量比、温度変化により様々な相状態をとることが可能である。これらの相状態のうち、本発明ではラメラ構造体(ラメラ液晶構造体)を利用する。
【0023】
ラメラ構造体とは、有機酸モノグリセリドを水に分散させた際に有機酸モノグリセリド2分子が親水基部分を水側に向け、疎水基部分(脂肪酸)が互いに向き合い、これが2次元的に広がった構造のことである。
【0024】
有機酸モノグリセリドは低濃度から高濃度領域の広い範囲でラメラ構造を形成し易いことが知られている。例えば、コハク酸ステアリン酸モノグリセリドは、ナトリウム塩の状態において、濃度が約35〜85重量%のような高濃度領域で且つ温度が50℃以上の条件でラメラ構造体を形成する。この場合、ラメラ構造体が何層にも重なった状態が認められ、水溶液の粘度も高くなる。濃度が85重量%よりも高い場合は固体状態となり、濃度が35重量%よりも低い場合は水溶液にラメラ構造体が分散して粘性が比較的小さい状態となる。作業性などを考慮すると、低濃度かつ高温領域でラメラ構造体を形成させることが好ましい。
【0025】
ラメラ構造体は、有機酸モノグリセリドを水などの分散媒中に分散させ、物理的に攪拌し加熱することにより、分散液として調製することが出来る。この際の加熱温度は、分散液の温度で、通常45℃以上、好ましくは50℃以上、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。上記の物理的分散には、例えば、気泡の混入を避けるため、アンカーミキサー等を使用してゆっくりと撹拌することが好ましい。
この分散液中の有機酸モノグリセリドの含有量は、通常0.1〜99.9重量%、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは5〜30重量%である。
尚、分散液の分散媒としては水が好ましい。
以下、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体の分散液を、分散媒として水を用いるものを代表例として、ラメラ構造体水分散液と言う場合がある。
【0026】
ラメラ構造体の安定性を高めるために、又は水中での分散性を向上させるために、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤の1種又は2種以上を用いることができる。安定化されたラメラ構造体は、親水基部分の強い水和力により層間に多量の水を保持する。
【0027】
乳化剤を用いる場合、具体的には、該乳化剤をエタノール、水、糖類の水溶液などの分散媒に分散させた分散液と、上記ラメラ構造体水分散液とを混合させてもよいし、直接、ラメラ構造体水分散液に該乳化剤を添加してもよい。
このように、ラメラ構造体水分散液と、乳化剤や以下詳述するエタノールや糖類などを混合した分散物をラメラ構造体分散物という場合がある。
尚、ラメラ構造体分散物中の有機酸モノグリセリドの含有量は、通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは、3〜10重量%である。ラメラ構造体分散物の有機酸モノグリセリドの含有量が余りにも少ない場合は、食感改良効果が不十分となり、余りにも多い場合は、ラメラ構造体が水(分散媒)中に均一に分散しなくなる。
【0028】
乳化剤として用いるショ糖脂肪酸エステルとしては、親水性が高く(HLB値が通常5〜18、好ましくは8〜15)、水分散性に優れ、高温で高粘性の水分散液の状態となるものが好ましい。このようなショ糖脂肪酸エステルとして具体的には、構成脂肪酸として、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数14〜22の飽和または不飽和の脂肪酸を有するショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。これらの中では、炭素数14〜18の飽和脂肪酸を有するものが、風味や酸化安定性の観点から好ましい。また、構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸である脂肪酸を有するものが、風味の点から更に好ましい。
【0029】
ポリグリセリン脂肪酸エステルも、ショ糖脂肪酸エステルと同様に、親水性が高く(HLB値が5〜18、好ましくは9〜16)、水分散性に優れ、高温で高粘性の水分散液の状態となるものが好ましい。斯かるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンの平均重合度が通常2〜20、特に3〜10のものが好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が前記ショ糖脂肪酸エステルと同様に炭素数14〜22の飽和または不飽和の脂肪酸を有するポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。また、構成脂肪酸の70重量%以上がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルが風味の点から更に好ましい。
【0030】
ラメラ構造体水分散液と乳化剤とを混合したラメラ構造体分散物を用いる場合、ラメラ構造体分散物中の上記乳化剤の含有量は、通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは3〜10重量%である。ラメラ構造体分散物の乳化剤の含有量が少な過ぎると、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体の水分散が不十分となり、多過ぎると、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体形成が不完全になる場合がある。
【0031】
また、ラメラ構造体分散物中において、有機酸モノグリセリドに対する乳化剤の含有量は、有機酸モノグリセリド:乳化剤(重量比)=500:1〜1:500の範囲であることが好ましく、より好ましくは100:1〜1:100、特に好ましくは3:1〜1:3の範囲である。
【0032】
通常は、このラメラ構造体分散物を用いて、春巻きの皮を製造するため、製造された春巻きの皮中においても、有機酸モノグリセリドに対する乳化剤の含有量は、上記範囲と同様である。
【0033】
ラメラ構造体の分散安定性の向上のために、ラメラ構造体水分散液と糖類の1種又は2種以上を混合したラメラ構造体分散物を用いてもよい。糖類としては、特に制限されず、砂糖、ブドウ糖、異性化糖、マルトース、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール等の糖および糖アルコール;各種オリゴ糖;それらの混合物を使用することが出来る。これらの中ではオリゴ糖が好ましい。
【0034】
上記のオリゴ糖としては、マルトオリゴ糖(好ましくは重合度3〜7)、ニゲロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、パノースオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、それらのシラップ等が挙げられる。上記の糖類は、目的に応じ、適宜選択して使用され、例えば、春巻きの皮の冷凍耐性を向上させる場合にはオリゴ糖や糖アルコールが好ましく、該オリゴ糖の中ではマルトオリゴ糖が好ましい。
【0035】
ラメラ構造体水分散液と糖類を混合する場合、糖類の水溶液を用いることが好ましく、例えばシラップの場合はそのまま使用することも出来る。また、直接、ラメラ構造体水分散液に該糖類を添加してもよい。
【0036】
また、上記乳化剤と糖類を用いる場合は、前述の乳化剤の分散液と糖類の水溶液を混合した後、ラメラ構造体水分散液と混合してもよいし、乳化剤の分散液に糖類を添加または糖類の水溶液に乳化剤を添加した後に、これらの分散液または水溶液とラメラ構造体水分散液とを混合してもよい。
【0037】
ラメラ構造体水分散液と、乳化剤の分散液、糖類の水溶液またはこれらの混合物とを混合する場合は、乳化剤の分散液、糖類の水溶液またはこれらの混合物を通常45℃以上、好ましくは50℃以上、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下に加熱して用いてもよい。
【0038】
糖類を用いる場合、ラメラ構造体分散物中の糖類の含有量は、通常35〜85重量%、好ましくは40〜60重量%である。ラメラ構造体分散物の糖類の含有量が少な過ぎると、ラメラ構造体の分散安定性に劣るものとなり、多過ぎると、糖の種類によっては結晶が析出したり、粘度が高くなるため作業性が悪くなる場合がある。
【0039】
また、ラメラ構造体分散物中において、有機酸モノグリセリドに対する糖類の含有量は、有機酸モノグリセリド:糖類(重量比)=10:7〜1:850の範囲であることが好ましく、より好ましくは1:4〜1:20の範囲である。
【0040】
通常は、このラメラ構造体分散物を用いて、春巻きの皮を製造するため、製造された春巻きの皮中においても、有機酸モノグリセリドに対する糖類の含有量は、上記範囲と同様である。
【0041】
本発明の効果を損なわない範囲において、ラメラ構造体水分散液と、前記以外の乳化剤の他、甘味料、香料、ビタミン、抗酸化剤、アルコールなどの公知の配合剤の1種又は2種以上とを混合し、ラメラ構造体分散物としてもよい。従って、本発明の春巻きの皮には、これら配合剤が含まれていてもよい。その他の乳化剤としては、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0042】
ラメラ構造体分散物中の水(分散媒)の含有量は、通常30〜80重量%、好ましくは40〜60重量%である。水の含有量が少な過ぎると、水分散液の粘度増大により作業性が悪くなり、多過ぎると、ラメラ構造体の量が少なくなるため、食感改良効果が弱くなる。
【0043】
ラメラ構造体が形成されているか否かの確認は例えば偏光顕微鏡による観察によって容易に行うことが出来る。ラメラ構造体が存在する場合は偏光十字が見られる。更に、ラメラ構造体の微細構造は、電子顕微鏡観察により観察することができる。例えば試料を液体窒素で凍結させ、高真空条件下で割断し、割断表面に金属を蒸着させることにより試料のレプリカを作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察する。これにより層状のラメラ構造体を観察することができる。
【0044】
本発明の春巻きの皮は、前記の有機酸モノグリセリドのラメラ構造体と小麦粉を含有することを特徴とする。
【0045】
本発明の春巻きの皮に、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体を含有させるには、上記ラメラ構造体水分散液を用いても、ラメラ構造体分散物を用いてもよく、ラメラ構造体水分散液またはラメラ構造体分散物と小麦粉とを混合させればよい。ラメラ構造体が安定化され、春巻きの皮にラメラ構造体が分散しやすくなるため、ラメラ構造体分散物を用いることが好ましい。
【0046】
ラメラ構造体分散物を用いる場合、通常、ラメラ構造体分散物を小麦粉100重量%に対して0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは10重量%以下混合する。ラメラ構造体分散物の混合割合をこの範囲にすることにより、より高い食感改良効果を得ることができる。
【0047】
また、本発明の春巻きの皮中の有機酸モノグリセリドの含有量は、小麦粉100重量%に対して0.0001重量%以上、好ましくは0.001重量%以上、更に好ましくは0.01重量%以上、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。春巻きの皮中の有機酸モノグリセリドの含有割合をこの範囲にすることにより、より高い食感改良効果を得ることができる。
【0048】
尚、小麦粉には強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉などの種類があるが、皮の強度を比較的強くするためにタンパク量を調整し、総タンパク量を8重量%以上としたものを用いることが好ましい。
【0049】
本発明の春巻きの皮には、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体と小麦粉以外には、通常、食塩や水などが含まれる。本発明の春巻きの皮の水の含有量は、小麦粉に対して130〜150重量%とすることが好ましい。
【0050】
本発明の春巻きの皮の厚さには特に制限はなく、通常の春巻きの皮と同様、1〜2mm程度の厚さに製造される。
【0051】
このような本発明の春巻きの皮は、ラメラ構造体水分散液またはラメラ構造体分散物と小麦粉と必要に応じて添加される配合剤とを混合して混合物(バッター液)を得た後、該混合物を焼成して得ることができる。
【0052】
上記混合物の焼成は、鉄板型焼成機若しくはドラム型焼成機を用いて、必要に応じて油脂類を鉄板又はドラム表面に供給し、次いで、上記の混合物を適量供給して該混合物を加熱して固化させることにより行うことができる。焼成条件は、公知の条件から適宜選択することができるが、通常170〜180℃で1〜2分程度である。焼成後は必要に応じて適当な大きさ、形状に裁断する。
【0053】
ラメラ構造体水分散液に、前述の乳化剤や糖類などを混合した場合は、ラメラ構造体水分散液の状態で一定の保存期間を経た後に小麦粉と混合して用いることも可能である。なお、ラメラ構造体水分散液またはラメラ構造体分散物は調製後、必要に応じ、プレート式殺菌機などを使用した一般的な加熱殺菌など行った後、春巻きの皮に使用することができる。
【0054】
前述の通り、本発明の春巻きの皮には、上記説明した乳化剤や糖類、さらにはその他の配合剤が含有されていてもよい。また、本発明の春巻きの皮には、生澱粉、化工澱粉、油脂類、増粘多糖類、グルテン、調味料、食物繊維、卵白、乳タンパクなどが含有されていてもよい。これらの材料は、ラメラ構造体水分散液またはラメラ構造体分散物と小麦粉とを混合した混合物に添加、小麦粉に添加、または、ラメラ構造体水分散液またはラメラ構造体分散物に添加するなど、添加するものや添加順序に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。
【0055】
ラメラ構造体水分散液またはラメラ構造体分散物と小麦粉とを混合した混合物を焼成して得られた春巻きの皮で、野菜、肉類、魚類、春雨等適宜春巻きに用いられる具材を包むことにより、春巻きを製造することができる。製造した春巻きは、そのまま油ちょうしても、油ちょうすることなくそのまま冷凍しても、油ちょう後冷凍してもよい。本発明の春巻きの皮はレンジアップ時の引きを抑制できるため、油ちょう後冷凍して電子レンジで温めることにより食する春巻きに好適に使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において「%」及び「部」は何れも重量基準を意味する。
【0057】
<実施例1>
乳化剤としてHLB11のショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ社製「リョートーシュガーエステルS−1170」)35gを室温でエタノール50gに分散し、75℃に加温したオリゴ糖水溶液(三和澱粉工業社製「オリゴトース」マルトトリオースを主成分とするオリゴ糖、固形分72%、水分28%)680gと混合し、30分間攪拌した(以下「オリゴ糖液」と呼ぶ)。
【0058】
一方、コハク酸モノグリセリド(花王社製「ステップSS」)35gを脱塩水200gに分散し、60℃まで昇温しながら攪拌し、ラメラ構造体水分散液を得た。ここで使用したコハク酸モノグリセリドの脂肪酸は、ステアリン酸とパルミチン酸の混合脂肪酸(ステアリン酸:パルミチン酸=70%:30%)であった。
前記のオリゴ糖液を55℃まで冷却し、上記のコハク酸モノグリセリドのラメラ構造体の水分散液を加えて20分間攪拌した。次いで、45℃まで冷却することにより、ラメラ構造体が水中に分散した分散液(ラメラ構造体分散物)1000gを得た(以下「ラメラ構造体分散物A」と呼ぶ)。
なお、ラメラ構造体分散物A中のコハク酸モノグリセリドのラメラ構造体の確認は偏光顕微鏡による観察によって行った。偏光顕微鏡の写真中に偏光十字が観察され、ラメラ構造体分散物Aがラメラ構造体を有していることがわかった。また、透過型電子顕微鏡(TEM)により、ラメラ構造体分散物A中のコハク酸モノグリセリドのラメラ構造体を観察した。TEM写真中に層状の構造が観察され、ラメラ構造体分散物Aがラメラ構造体を有していることがわかった。
【0059】
準強力粉100部、食塩1部、水140部、上記で調製したラメラ構造体分散物A1部を使用し、ケーキミキサーでホイッパーを使用し、バッター液を調製し、得られたバッター液を冷蔵庫で3時間放置した。尚、小麦粉(準強力粉)に対する、有機酸モノグリセリド(コハク酸モノグリセリド)の含有量は、0.035%であった。
その後、ホットプレート上にバッター液を流し入れ、170〜180℃で1分間焼成して、厚さ1.3mmと1.5mmの春巻きの皮を調製した。続いて焼成した春巻きの皮を用いて、野菜、肉、春雨、調味料から調製した春巻きの具材を包み、そのまま冷凍したもの(未フライ冷凍)と170℃の油で3分間フライしたものを冷却後凍結したもの(フライ後冷凍)を得た。
【0060】
未フライ冷凍については、170〜180℃で4分間フライし、春巻きを調製した。一方、フライ後冷凍については、表面温度が75〜80℃となるように、500Wの電子レンジで2分半調理した。これらの春巻きについて、食感評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0061】
<実施例2>
コハク酸モノグリセリドに代えて、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(ダニスコ社製「PANODAN150」)を用いた以外は実施例1と同様にして、ラメラ構造体分散物1000gを得た(以下「ラメラ構造体分散物B」と呼ぶ)。
また、実施例1と同様にして、偏光顕微鏡により、ラメラ構造体分散物Bにジアセチル酒石酸モノグリセリドのラメラ構造体が形成されていることを確認した。
このラメラ構造体分散物Bを用い、実施例1と同じ配合、方法で春巻きを調製し、食感を評価した。評価結果を表1に示す。
【0062】
<比較例1>
ラメラ構造体分散物Aを用いないこと以外は、実施例1と同様にして春巻きを調製し、同様に食感を評価した。評価結果を表1に示す。
【0063】
なお、実施例1,2および比較例1における評価項目は下記のように設定した。
<硬さ(電子レンジ調理では引きの程度)>
+1:全くない
0:ほとんどない
−1:多少ある
−2:かなりある
<パリパリ感>
+3:かなりある
+2:ある
+1:少しある
0:わずかにある
−1:ほとんどない
【0064】
【表1】
【0065】
表1から、有機酸モノグリセリドのラメラ構造体を用いた本発明の春巻きの皮は、電子レンジで調理しても皮が硬くならず、パリパリ感の低下も抑制されることが認められた。