特許第6044097号(P6044097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044097ヒートシンク付パワーモジュール用基板、冷却器付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044097
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ヒートシンク付パワーモジュール用基板、冷却器付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20161206BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20161206BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20161206BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
   H01L23/36 M
   H01L23/14 M
   H05K7/20 E
   H05K7/20 C
   H05K7/20 N
   H05K7/20 F
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-82997(P2012-82997)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-214561(P2013-214561A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
(72)【発明者】
【氏名】黒光 祥郎
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−081202(JP,A)
【文献】 特開2006−202884(JP,A)
【文献】 特開2006−019410(JP,A)
【文献】 特開2004−356625(JP,A)
【文献】 特開2007−273682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34−23/473
H01L 23/12−23/15
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が配設されるとともに前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウムからなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、この金属層の他方の面側にはんだ層を介して接合された銅又は銅合金からなるヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記金属層は、Alの含有量が99.0質量%以上99.85質量%以下とされたアルミニウム板が前記セラミックス基板に接合されて構成されており、
前記ヒートシンクは、引張り強さが250MPa以上、かつ、ヤング率が130GPa以下の銅又は銅合金で構成されており、
前記はんだ層は、主成分であるSnと、このSnの母相中に固溶する固溶元素として2質量%以上10質量%以下の範囲内のSbと、を含有するSn−Sb系合金からなるはんだ材で構成されていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、前記ヒートシンクの他方の面側に積層配置された冷却器と、を備えていることを特徴とする冷却器付パワーモジュール用基板。
【請求項3】
請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えていることを特徴とするパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス基板の一方の面に回路層が配設されるとともに前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウムからなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、銅又は銅合金からなるヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板、このヒートシンク付パワーモジュール用基板を備えた冷却器付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、特許文献1〜4に示すように、セラミックス基板の一方の面に回路層となるアルミニウムの金属板が接合され、セラミックス基板の他方の面に金属層となるアルミニウムの金属板が接合されたパワーモジュール用基板が広く用いられている。
これらのパワーモジュール用基板においては、金属層の他方の面側にはんだ層を介して銅製の放熱板(ヒートシンク)が接合される。そして、この放熱板が冷却器にネジ等によって固定される。
【0003】
上述のパワーモジュールにおいては、その使用時に熱サイクルが負荷されることになる。ここで、パワーモジュール用基板に熱サイクルが負荷された場合には、金属層と放熱板(ヒートシンク)との間に介在するはんだ層に歪みが蓄積し、はんだ層にクラックが生じることになる。
そこで、従来は、アルミニウムの含有量が99.99質量%以上の4Nアルミニウム等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで金属層を構成することにより、上述の歪みを金属層の変形によって吸収し、はんだ層におけるクラックの発生防止を図っている。
ここで、4Nアルミニウムからなる金属層と銅からなる放熱板(ヒートシンク)との間に介在されるはんだ層内部の歪み分布を計算した結果、金属層の全体に歪みが分布しており、歪みが広く分散され、歪み量のピーク値が低くなることが確認される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−152969号公報
【特許文献2】特開2004−153075号公報
【特許文献3】特開2004−200369号公報
【特許文献4】特開2004−207619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように、金属層を4Nアルミニウム等の比較的変形抵抗の小さなアルミニウムで構成した場合、はんだ層の広い範囲でクラックが生じ、金属層とヒートシンクとの接合が不十分になって、冷熱サイクル負荷後に熱抵抗が上昇してしまうおそれがあった。これは、熱サイクルを負荷した際に金属層が必要以上に変形し、ヒートシンクとの間に介在するはんだ層に対してさらに歪みが負荷されてしまい、せっかく歪みを広く分散したにもかかわらず歪み量を十分に低減することができなくなったためと推測される。
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、半導体素子等の電子部品からの発熱量が大きくなっているため、熱サイクルの温度差が大きく、はんだ層の広い範囲でクラックが生じやすい傾向にある。
【0006】
また、金属層とヒートシンクとの間に介在されるはんだ層としては、最近では、例えばSn−Ag系やSn−Ag−Cu系の無鉛はんだ材が用いられている。これらのはんだ材は、Snの母相中にSn−Ag金属間化合物からなる析出物が分散することによって硬化される析出硬化型のはんだ材とされている。このようなはんだ材からなるはんだ層は、熱サイクルによって析出物の粒径や分散状態が変化するため、はんだ層の強度が熱的に不安定になるといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、アルミニウムからなる金属層と銅からなるヒートシンクとの間に介在されるはんだ層におけるクラックの発生及び進展を抑制でき、接合信頼性に優れたヒートシンク付パワーモジュール用基板、このヒートシンク付パワーモジュール用基板を備えた冷却器付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、金属層を純度が99.0質量%以上99.85質量%以下(いわゆる2Nアルミニウム)を用いることによって、4Nアルミニウムを用いた場合と比較して金属層の変形を抑制可能であるとの知見を得た。また、2Nアルミニウムからなる金属層と銅からなるヒートシンクとの間に介在されるはんだ層内部の歪み分布を計算した結果、金属層の周縁部において歪み量が高く、金属層の内側領域での歪み量が低くなるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、かかる知見に基いてなされたものであって、本発明に係るヒートシンク付パワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が配設されるとともに前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウムからなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、この金属層の他方の面側にはんだ層を介して接合された銅又は銅合金からなるヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記金属層は、Alの含有量が99.0質量%以上99.85質量%以下とされたアルミニウム板が前記セラミックス基板に接合されて構成されており、前記ヒートシンクは、引張り強さが250MPa以上、かつ、ヤング率が130GPa以下の銅又は銅合金で構成されており、前記はんだ層は、主成分であるSnと、このSnの母相中に固溶する固溶元素として2質量%以上10質量%以下の範囲内のSbと、を含有するSn−Sb系合金からなるはんだ材で構成されていることを特徴としている。
【0010】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、前記金属層は、Alの含有量が99.0質量%以上99.85質量%以下とされたアルミニウム板が前記セラミックス基板に接合された構成とされているので、熱サイクル負荷後に金属層が変形しにくく、はんだ層におけるクラックの発生を抑制できる。一方、Alの含有量が99.0質量%未満では、Alの塑性変形が不十分で、十分な応力緩衝効果が得られず、セラミックスやはんだ層にクラックが発生する理由から冷熱サイクル後の接合率が低下してしまう。また、99.85質量%を超えると熱サイクル負荷後に金属層の変形からはんだ層でクラックが発生し、接合率が低下してしまう。これらの理由よりAlの含有量は99.0質量%以上99.85質量%以下の範囲とした。
また、はんだ層が、主成分であるSnと、このSnの母相中に固溶する固溶元素と、を含有する固溶硬化型のはんだ材で構成されていることから、はんだ層の母相の強度が高くなる。また、熱サイクルが負荷された場合であっても強度が確保されることになる。よって、金属層の周縁部においてはんだ層にクラックが生じた場合であっても、このクラックが金属層の内側領域にまで進展することを抑制できる。
なお、金属層を構成するアルミニウム板においては、Alの含有量が99.0質量%以上99.85質量%以下とされており、主な不純物としてはFe,Cu,Siが挙げられる。
【0011】
ここで、前記はんだ層は、前記固溶元素としてSbを含有するはんだ材で構成されていることが好ましい。
この場合、Snの母相中にSbが固溶することにより、はんだ層の強度が確実に向上するとともに、熱的に安定することになる。よって、金属層の周縁部において発生したクラックの進展を確実に抑制することができる。なお、SnにSbが固溶することで十分に強度が向上することから、他に析出物を生成する元素を含有していてもよい。すなわち、熱サイクルによって析出物の粒径や分散状態が変化したとしても、Sbの固溶硬化によってSn母相の強度を確保でき、クラックの進展を抑制できるのである。
【0012】
さらに、前記ヒートシンクは、引張り強さが250MPa以上の銅又は銅合金で構成されていることが好ましい。
この場合、ヒートシンクが容易に塑性変形しなくなるため、ヒートシンクは弾性変形領域で変形することになる。よって、ヒートシンクが反るように塑性変形することが抑制されることになり、ヒートシンクを冷却器に密着させて積層配置することができる。
なお、ヒートシンクとしては、板状の放熱板、内部に冷媒が流通する冷却器、フィンが形成された液冷、空冷放熱器、ヒートパイプなど、熱の放散によって温度を下げることを目的とした金属部品が含まれる。
【0013】
本発明に係る冷却器付パワーモジュール用基板は、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、前記ヒートシンクの他方の面側に積層配置された冷却器と、を備えていることを特徴としている。
この構成の冷却器付パワーモジュール用基板によれば、熱伝導性に優れた銅製のヒートシンクを備えているので、パワーモジュール用基板からの熱を効率的に拡げて放散させることができる。また、金属層と冷却器との間に介在するはんだ層においてクラックの発生及び進展が抑制されるので、パワーモジュール用基板側の熱を確実に冷却器へと伝導させることができる。
【0014】
本発明に係るパワーモジュールは、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えていることを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、金属層と冷却器との間に形成されたはんだ層におけるクラックの発生及び進展を抑制できるので、その信頼性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルミニウムからなる金属層と銅からなるヒートシンクとの間に介在されるはんだ層におけるクラックの発生及び進展を抑制でき、接合信頼性に優れたヒートシンク付パワーモジュール用基板、このヒートシンク付パワーモジュール用基板を備えた冷却器付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態であるパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板を示す説明図である。
図3】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12及び金属層13が配設されたパワーモジュール用基板10と金属層13の他方の面(図1において下面)にはんだ層17を介して接合された放熱板18とを有するヒートシンク付パワーモジュール用基板20と、回路層12の一方の面(図1において上面)にチップ用はんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、放熱板18の他方の面側に配設された冷却器40と、を備えている。なお、本実施形態では、ヒートシンクとして放熱板18を用いた。
ここで、チップ用はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とチップ用はんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0018】
パワーモジュール用基板10は、図1及び図2に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図2において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0019】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。なお、本実施形態では、図1及び図2に示すように、セラミック基板11の幅は、回路層12及び金属層13の幅より広く設定されている。
【0020】
回路層12は、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図3において上面)に、導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、アルミニウムの含有量が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
なお、後述するように、金属板22とセラミックス基板11とは、Al−Si系ろう材を介して接合されていることから、回路層12のうちセラミックス基板11との界面近傍には、Siが拡散された界面近傍層12Aが形成されている。この界面近傍層12Aにおいては、アルミニウムの含有量が99.99質量%未満となることがある。
【0021】
金属層13は、図3に示すように、セラミックス基板11の他方の面(図3において下面)に、金属板23が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、アルミニウムの含有量が99.0質量%以上99.85質量%以下のアルミニウム(いわゆる2Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、後述するように、金属板23とセラミックス基板11とは、Al−Si系ろう材を介して接合されていることから、金属層13のうちセラミックス基板11との界面近傍には、Siが拡散された界面近傍層13Aが形成されている。この界面近傍層13Aにおいては、アルミニウムの含有量が99.0質量%未満となることがある。
【0022】
放熱板18は、前述のパワーモジュール用基板10からの熱を面方向に拡げるものであり、熱伝導性に優れた銅又は銅合金で構成されている。
ここで、本実施形態では、放熱板18は、ヤング率が130GPa以下、かつ、引張強さが250MPa以上の銅又は銅合金で構成されている。具体的には、放熱板18は、Cu−0.04質量%Ni−0.17質量%Co−0.05質量%P−0.1質量%Sn(CDA No.C18620)で構成され、ヤング率が125GPa、引張強さが250MPa以上とされている。
【0023】
冷却器40は、図1に示すように、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路41を備えている。冷却器40は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
なお、放熱板18と冷却器40とは、図1に示すように、固定ネジ45によって締結されている。
【0024】
そして、金属層13と放熱板40との間に介在されるはんだ層17は、主成分であるSnと、このSnの母相中に固溶する固溶元素と、を含有する固溶硬化型のはんだ材で構成されている。本実施形態では、固溶元素としてSbを2質量%以上10質量%以下の範囲で含有するSn−Sb系合金からなるはんだ材とされ、具体的には、Sn−5質量%Sbはんだ材とされている。
なお、本実施形態では、金属層13とはんだ層17との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0025】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板20の製造方法について、図3を参照して説明する。
【0026】
まず、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面側に、回路層12となる金属板22(4Nアルミニウムの圧延板)が、厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔24を介して積層される。
また、セラミックス基板11の他方の面側に、金属層13となる金属板23(2Nアルミニウムの圧延板)が厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔25を介して積層される。
なお、本実施形態においては、ろう材箔24、25は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材とされている。
【0027】
次に、前述のように積層した金属板22、ろう材箔24、セラミックス基板11、ろう材箔25、金属板23を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm)した状態で加熱炉内に装入して加熱する。すると、ろう材箔24、25と金属板22、23の一部とが溶融し、金属板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ溶融金属領域が形成される。ここで、加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。そして、加熱後に冷却することによって、金属板22、23とセラミックス基板11との界面に形成された溶融金属領域を凝固させ、セラミックス基板11と金属板22及び金属板23とを接合する。
このとき、ろう材箔24、25に含まれる融点降下元素(Si)が金属板22、23側へと拡散する。
【0028】
このようにして、回路層12及び金属層13となる金属板22、23とセラミックス基板11とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
また、金属層13においては、ろう材箔25に含まれるSiが拡散することで界面近傍層13Aが形成される。同様に、回路層12においては、ろう材箔24に含まれるSiが拡散することで界面近傍層12Aが形成される。
【0029】
次に、このパワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面にNiめっき膜を形成した後に、Sn−5質量%Sbはんだ材を用いて放熱板18をはんだ接合する。これにより、金属層13と放熱板18との間にはんだ層17が形成され、本実施形態である放熱板付パワーモジュール用基板20が製造される。
そして、このヒートシンク付パワーモジュール用基板20の放熱板18が固定ネジ45によって冷却器40に締結される。これにより、本実施形態である冷却器付パワーモジュール用基板が製出される。
また、回路層12の一方の面にチップ用はんだ層2を介して半導体チップ3を搭載する。これにより、本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0030】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板20及びパワーモジュール1においては、金属層13が、Alの含有量が99.0質量%以上99.85質量%以下とされた2Nアルミニウムからなる金属板23をセラミックス基板11に接合することで構成されているので、熱サイクル負荷後に金属層13が容易に変形せず、はんだ層17におけるクラックの発生を抑制できる。
【0031】
また、はんだ層17が、主成分であるSnと、このSnの母相中に固溶する固溶元素と、を含有する固溶硬化型のはんだ材で構成されており、本実施形態では、固溶元素としてSbを2質量%以上10質量%以下の範囲で含有するSn−Sb系合金からなるはんだ材とされ、具体的には、Sn−5質量%Sbはんだ材で構成されているので、はんだ層17の母相の強度が高くなり、かつ、熱サイクルが負荷された場合であってもはんだ層17の母相の強度が確保されることになる。よって、金属層13の周縁部においてはんだ層17にクラックが生じた場合であっても、このクラックが金属層13の内側領域にまで進展することを抑制できる。
なお、Sbの含有量が2質量%未満では、固溶硬化の効果が不十分となるおそれがあり、Sbの含有量が10質量%を超えると、はんだ層17が硬くなりすぎるおそれがあることから、固溶元素としてSbを含有する場合には、その含有量を2質量%以上10質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0032】
また、放熱板18は、ヤング率が130GPa以下及び引張り強さが250MPa以上の銅又は銅合金で構成されているので、放熱板18は、弾性変形し易く、かつ、塑性変形し難くなる。すなわち、放熱板18の弾性変形領域が広くなるのである。よって、放熱板18の弾性変形によって、はんだ層17に生じる歪みを低減することができ、金属層13の周縁部において発生したクラックが金属層13の内側領域にまで進展することを抑制できる。
また、放熱板18が反るように塑性変形することが抑制されるので、冷却器40と放熱板18とを密着させることができ、半導体チップ3の熱を冷却器40に向けて効率的に放散させることができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本発明の実施形態としては、ヒートシンクとして放熱板を用いて説明したが、図1に示す構成の冷却器に直接接合する場合、又はヒートシンクとしてフィンが形成された液冷、空冷放熱器、ヒートパイプなどを用いてもよい。
【0034】
また、回路層となる金属板及び金属層となる金属板と、セラミックス基板と、をろう材箔を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、等温拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合したものであってもよい
また、回路層をアルミニウムで構成したもので説明したが、これに限定されることはなく、回路層を銅又は銅合金で構成してもよい。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の効果を確認すべく実施した確認実験の結果について説明する。
表1に示すヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造し、初期の接合率、及び、冷熱サイクル後の接合率について評価した。
【0036】
ここで、回路層及び金属層のサイズは37mm×37mmとし、セラミックス基板のサイズは40mm×40mmとした。
ヒートシンクとして放熱板を用い、その放熱板のサイズは、70mm×70mm×3mmとして。また、放熱板と金属層との間のはんだ層の厚さを0.4mmとした。
【0037】
金属層と放熱板との間の接合率は、超音波探傷装置を用いて、以下の式を用いて接合率を求めた。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち金属層面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
なお、接合率は、冷熱サイクル負荷前と負荷後で測定した。
また、冷熱サイクルは、冷熱衝撃試験機エスペック社製TSB−51を使用し、液相(フロリナート)で、−40℃×5分←→125℃×5分を2000サイクル実施した。
【0038】
評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
固溶硬化型以外のはんだ材を用いた比較例1、2においては、冷熱サイクル負荷後に、接合率が低下していることが確認される。冷熱サイクル負荷後に、はんだ層の母相の強度が低下してしまい、金属層の周縁部において発生したクラックが金属層の内側領域にまで進展したためと推測される。
また、金属層を4Nアルミニウムで構成した比較例3,4においても、冷熱サイクル負荷後に、接合率が低下していることが確認される。はんだ層の広い範囲でクラックが発生したためと推測される。
これに対して、本発明例1〜7においては、冷熱サイクル負荷後でも接合率が低下しなかった。金属層をAlの含有量が99.0質量%以上99.85質量%以下とされたアルミニウム板で構成し、固溶硬化型のはんだ材を用いることによって、金属層とヒートシンクとの接合信頼性が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 パワーモジュール
3 半導体チップ(電子部品)
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
13 金属層
17 はんだ層
18 ヒートシンク
図1
図2
図3