(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044129
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20161206BHJP
【FI】
A63B53/04 B
【請求項の数】5
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2012-141166(P2012-141166)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-4096(P2014-4096A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】竹地 隆晴
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−153802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレート部を有し、該金属プレート部に薄肉部と厚肉部とが設けられ、該薄肉部と厚肉部との境界部に、両者の中間の厚さの中肉部が設けられている中空ゴルフクラブヘッドの製造方法において、
該薄肉部及び中肉部を、金属プレート部をプレス加工して該金属プレート部の一方の面に凹所を形成すると共に他方の面に凸所を形成する工程と、
該凹所とその周囲をケミカルミーリングする工程と、
該凸所を研磨して除去する工程と
によって形成することを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のゴルフクラブヘッドの製造方法において、前記金属プレート部はクラウン部であり、
前記凹所はゴルフクラブヘッドの内面側に形成されることを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッドの製造方法において、薄肉部の周囲全体に前記中肉部が設けられていることを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のゴルフクラブヘッドの製造方法において、
前記薄肉部はクラウン部の中央部に、クラウン部の面積の30〜90%を占めるように設けられており、
前記中肉部の幅が5〜25mmであり、薄肉部の厚さは厚肉部の厚さの30〜70%であり、中肉部の厚さは厚肉部の厚さの50〜90%であることを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッドの製造方法において、前記中肉部は、前記凹所とその周囲をケミカルミーリングする工程で形成され、
前記薄肉部は、前記凹所とその周囲をケミカルミーリングする工程と前記凸所を研磨して除去する工程とで形成されることを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ゴルフクラブヘッドに係り、詳しくは、少なくとも一部が金属プレート部よりなり、該金属プレート部に薄肉部、厚肉部及び中肉部が設けられているゴルフクラブヘッド
の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドライバーやフェアウェーウッドなどのウッド型ゴルフクラブヘッドとして、中空の金属製のものが広く用いられている。一般に、中空のウッド型のゴルフクラブヘッドは、ボールをヒットするためのフェース部と、ゴルフクラブヘッドの上面部を構成するクラウン部と、ゴルフクラブヘッドの底面部を構成するソール部と、ゴルフクラブヘッドのトウ側、バック側及びヒール側の側面部を構成するサイド部と、ホゼル部とを有している。このホゼル部にシャフトが挿入され、接着剤等によって固定される。
【0003】
この中空ゴルフクラブヘッドを構成する金属としては、アルミニウム合金、ステンレスやチタン合金が用いられているが、近年は特にチタン合金が広く用いられている。
【0004】
特許文献1の0027〜0033段落には、クラウン部の中央部を薄肉部とし、その周囲を厚肉部としたゴルフクラブヘッドであって、薄肉部を鋳造とケミカルミーリングとによって形成したゴルフクラブヘッドが記載されている。このゴルフクラブヘッドは、フェース部以外を鋳造により一体に成形し、この際、クラウン部に外方への膨出部を形成しておく。鋳造後、この膨出部の出っ張りをケミカルミーリングにより除去することにより薄肉部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−153802
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、クラウン部に薄肉部と厚肉部のみが設けられている。このような構造では、薄肉部と厚肉部との段差が大きいため、ボールを打ったときに薄肉部と厚肉部との境界部に応力が集中し易い。
【0007】
特許文献1において薄肉部と厚肉部との間に中肉部を形成することも考えられるが、この場合には、鋳造用鋳型として中肉部を形成するための段差部分を有したキャビティ形状のものを用いることになるが、中肉部の幅や厚さを変更する度毎に鋳型として別形状のものを用いる必要があり、鋳型コストが嵩む。
【0008】
本発明は、金属プレート部に薄肉部、厚肉部及び中肉部を有したゴルフクラブヘッドを低コストにて容易に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のゴルフクラブヘッド
の製造方法は、金属プレート部を有し、該金属プレート部に薄肉部と厚肉部とが設けられ
、該薄肉部と厚肉部との境界部に、両者の中間の厚さの中肉部が設けられて
いる中空ゴルフクラブヘッドの製造方法において、該薄肉部及び中肉部
を、金属プレート部をプレス加工して該金属プレート部の一方の面に凹所を形成すると共に他方の面に凸所を形成する工程と、該凹所とその周囲をケミカルミーリングする工程と、該凸所を研磨して除去する工程とによって形成
することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフクラブヘッドは、金属プレート部に厚肉部と薄肉部とが設けられ、さらに両者の境界に中肉部が設けられている。そのため、ボールヒット時の応力が厚肉部と薄肉部のみからなるゴルフクラブヘッドに比べて広く分散される。
【0011】
この中肉部はケミカルミーリングによって形成されるので、プレス金型に中肉部を形成するための段差部分が不要であり、各種形状の中肉部を有した金属プレート部を1つのプレス金型によって形成することができ、ゴルフクラブヘッドの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係るゴルフクラブヘッドの斜視図である。
【
図4】(a)図は別の実施の形態に係るゴルフクラブヘッドの斜視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0014】
このゴルフクラブヘッド1は、中空ドライバーヘッドであり、フェース部2と、クラウン部3と、ソール部4と、サイド部5と、ホゼル部6とを有する。このゴルフクラブヘッドはチタン合金製である。
【0015】
このゴルフクラブヘッド1は、例えば、クラウン部とその他の部分(ヘッド本体)とを別個に製作しておき、両者をレーザ溶接又はプラズマ溶接などの溶接により一体化したものである。なお、クラウン部とフェース部とを一体とし、その他のヘッド本体に対し溶接してもよい。クラウン部及びフェース部をそれぞれ別体とし、その他のヘッド本体に対しそれぞれ溶接してもよい。
【0016】
ヘッド本体は鋳造品であり、複雑な形状であっても容易に製造することができる。ただし、ヘッド本体は鍛造品であってもよい。
【0017】
クラウン部3の中央部は薄肉部3aとなっており、その周囲が中肉部3bとなっており、さらにその周囲が厚肉部3cとなっている。薄肉部3aの面積はクラウン部の面積に対し30〜90%特に60〜80%程度であることが好ましい。中肉部3bの幅(薄肉部3aから厚肉部3cに向う方向の平均の幅)は5〜25mm特に10〜15mm程度が好ましい。
【0018】
厚肉部3cの厚さは0.6〜1.2mm特に0.7〜0.9mm程度が好ましい。薄肉部3aの厚さは厚肉部3cの30〜70%特に40〜60%程度が好ましく、中肉部3bの厚さは厚肉部3cの50〜90%特に60〜80%程度が好ましい。
【0019】
クラウン部3を製造するには、
図3(a)のようにチタン又はチタン合金製のプレートをプレス加工して素板3Aを形成する。この素板3Aは、クラウン部の形状に湾曲しており、かつゴルフクラブヘッド内面側に凹所3rが設けられ、外面側に凸所3tが設けられている。素板3Aは全体として均一厚さである。この素板3Aの内面側のうち、凹所3r及びその周囲部を除いた領域Mにマスキングを施す。マスキング材としてはアクリル樹脂等の塗料が好適である。その後、フッ酸と硝酸との混酸などのチタン用エッチング液によって素板3Aの内面側をケミカルミーリング処理する。なお、この際、素板3Aの外面側の全面をマスキングしておき、素板3Aをエッチング液に浸漬して凹所3rとその周囲をケミカルミーリング処理するのが好ましい。これにより、
図3(b)に示す素板3Bが得られる。この素板3Bは、薄肉部3a、中肉部3b、厚肉部3cを有している。この素板3Bの凸所3tを研磨によって除去すると共に、マスキング材を除去することにより、
図1,2に示すクラウン部形状となる。
【0020】
このように構成されたゴルフクラブヘッド1は、クラウン部3の中央部が薄肉部となっており、ボールをヒットしたときに撓み易く、ボールの打ち出し角が大きくなると共に、反発力も向上し、飛距離増大を図ることができる。
【0021】
このゴルフクラブヘッド1は、薄肉部3aと厚肉部3cとの間に中肉部3bを設けているので、ボールヒット時の応力が分散する。これにより、ゴルフクラブヘッドの耐久性向上を図ることができる。また、打感や打球音の改変も可能である。
【0022】
このゴルフクラブヘッド1のクラウン部は、
図3のようにプレス加工とケミカルミーリングとによって製造されるものであり、マスキング領域やケミカルミーリング条件を変えることにより、薄肉部3a及び中肉部3bの深さや、中肉部3bの幅を種々変更することができる。そのため、これらの深さや幅を種々変更し、各種スペックのクラウン部を共通のプレス金型を用いて低コストにて製造することができる。
【0023】
図4,5を参照して別の実施の形態に係るゴルフクラブヘッド1’について説明する。
【0024】
このゴルフクラブヘッド1’では、クラウン部3’に前後方向に延在する複数の薄肉部3dが設けられている。各薄肉部3dは、トウ・ヒール方向に間隔をあけて設けられている。薄肉部3dの両側(トウ側及びヒール側)にそれぞれ中肉部3eが設けられている。その他の構成は前記ゴルフクラブヘッド1と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0025】
このゴルフクラブヘッド1’のクラウン部3’も、前記
図3と同様に、チタン又はチタン合金板をプレス加工して凹所及び凸所付きの素板とし、これをケミカルミーリング処理すると共に、凸所を研磨除去することにより製造されたものである。
【0026】
図4,5のゴルフクラブヘッド1’では、薄肉部3d及び中肉部3eが前後方向に延在しているが、トウ・ヒール方向に延在してもよい。
【0027】
上記実施の形態では、いずれもクラウン部に薄肉部、中肉部及び厚肉部を形成するものとしているが、サイド部やヒール部、フェース部に薄肉部、中肉部、厚肉部を同様の方法によって形成してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1,1’ ゴルフクラブヘッド
2 フェース部
3 クラウン部
3a,3d 薄肉部
3b,3e 中肉部
3c 厚肉部
3r 凹所
3t 凸所
4 ソール部
5 サイド部
6 ホゼル部