特許第6044155号(P6044155)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044155
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ピックアップ機能付サドル
(51)【国際特許分類】
   G10H 3/18 20060101AFI20161206BHJP
   G10D 1/08 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G10H3/18 D
   G10D1/08 100
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-166414(P2012-166414)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-26127(P2014-26127A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100150027
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 早苗
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100176876
【弁理士】
【氏名又は名称】各務 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】松岡 潤弥
(72)【発明者】
【氏名】奥宮 保郎
【審査官】 安田 勇太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−073031(JP,A)
【文献】 特開平07−239685(JP,A)
【文献】 特開昭62−262097(JP,A)
【文献】 特開2010−281935(JP,A)
【文献】 米国特許第04657114(US,A)
【文献】 米国特許第05218159(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 3/00 − 3/26
G10D 1/00 − 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に弦当接位置を有するサドル本体と、このサドル本体に取り付けられ、長方形板状の基板及びその表面に積層される圧電素子を有するセンサとを備えるピックアップ機能付サドルであって、
前記センサが、弦の振動に起因して短手方向に湾曲するよう前記サドル本体に取り付けられ、弦の振動に起因した上下方向の外力が作用した面と反対側に短手方向において凸となるよう湾曲することを特徴とするピックアップ機能付サドル。
【請求項2】
弦の振動に起因した上下方向の外力が前記センサの短手方向の端部又は中央部に作用するよう構成されている請求項1に記載のピックアップ機能付サドル。
【請求項3】
前記センサの短手方向の両端部の少なくとも一方が自由端である請求項2に記載のピックアップ機能付サドル。
【請求項4】
上面に弦当接位置を有するサドル本体と、このサドル本体に取り付けられ、長方形板状の基板及びその表面に積層される圧電素子を有するセンサとを備えるピックアップ機能付サドルであって、
前記サドル本体に形成される収容空間部に前記センサが収容されており、
前記センサの短手方向の両端部において前記センサの一方の面に当接する一対の第一当接部と、
前記センサの短手方向の中央部において前記センサの他方の面に当接する第二当接部と
を有することを特徴とするピックアップ機能付サドル。
【請求項5】
前記一対の第一当接部が、対向方向に拡径するテーパ面である請求項4に記載のピックアップ機能付サドル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピックアップ機能付サドルに関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックギター等の弦楽器の演奏音を増幅して電気的に出力する場合、弦楽器の振動を検出し、電気信号として出力するピックアップが用いられ、このピックアップからの電気信号をアンプで増幅することで演奏音が電気的に出力される。
【0003】
前記ピックアップとしては、弦楽器の本体に装着され、圧電素子を備えるものが普及している。この圧電素子は、圧電体(圧電膜)が2枚の電極で挟まれた構造を有し、振動による圧力を受けると圧電膜が変形して電極間に電圧を発生させるよう構成されている。
【0004】
このようなピックアップを用いて弦楽器の原音により近い高質な音を電気的に出力するためには、各弦の出力バランスを制御しやすいように、弦振動に対する検出感度を向上させることが好ましい。この観点から、ピックアップに弦の振動を伝達しやすくすべく、サドル(弦の支持体)にピックアップを組み込んだピックアップ機能付サドルが考案されており、さらに弦振動に対する検出感度を向上させるために、圧電素子が受ける応力が大きくなるよう構成されたピックアップ機能付サドル(特開2008−304558号公報参照)が開発されている。
【0005】
しかし、前記従来のピックアップ機能付サドルは、圧電膜が電極、保護層等によって挟持されているため、振動による応力は受けるものの圧電膜の変形は生じ難い。そのため、弦振動検出の感度向上には改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−304558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような事情に基づいてなされたものであり、弦振動に対する検出感度に優れるピックアップ機能付サドルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた発明は、
上面に弦当接位置を有するサドル本体と、このサドル本体に取り付けられ、長方形板状の基板及びその表面に積層される圧電素子を有するセンサとを備えるピックアップ機能付サドルであって、
前記センサが、弦の振動に起因して短手方向に湾曲するよう前記サドル本体に取り付けられていることを特徴とする。
【0009】
当該ピックアップ機能付サドルにおいては、圧電素子が積層された略長方形板状の基板を有するセンサが弦の振動で短手方向に湾曲し、この湾曲によって圧電素子が厚み方向に伸縮されるため、微細な弦振動であっても効率的に電気信号に変換できる。その結果、当該ピックアップ機能付サドルは高い感度で弦振動を検出できる。
【0010】
弦の振動に起因した上下方向の外力が前記センサの短手方向の端部又は中央部に作用するよう構成されているとよい。このようにセンサの短手方向の端部又は中央部に外力が加わるようにすることで、弦の振動によってセンサを短手方向に的確に湾曲させ、センサが有する圧電素子を厚み方向に伸縮させることができる。これにより、当該ピックアップ機能付サドルの弦振動に対する検出感度をさらに向上させることができる。
【0011】
前記センサの短手方向の両端部の少なくとも一方が自由端であるとよい。これにより、センサの両端の少なくとも一方が他の部材に拘束されないので、弦の振動によってセンサが容易かつ的確に湾曲でき、当該ピックアップ機能付サドルの弦振動に対する検出感度をさらに向上させることができる。
【0012】
また、前記課題を解決するためになされた別の発明は、
上面に弦当接位置を有するサドル本体と、このサドル本体に取り付けられ、長方形板状の基板及びその表面に積層される圧電素子を有するセンサとを備えるピックアップ機能付サドルであって、
前記サドル本体に形成される収容空間部に前記センサが収容されており、
前記センサの短手方向の両端部において前記センサの一方の面に当接する一対の第一当接部と、
前記センサの短手方向の中央部において前記センサの他方の面に当接する第二当接部と
を有することを特徴とする。
【0013】
当該ピックアップ機能付サドルは、収容空間部にセンサが収容され、第一当接部及び第二当接部が上述のようにセンサに当接することで、センサの短手方向の両端部と中央部とに、上下方向の外力を容易かつ確実に加えることができる。これにより、センサが弦の振動で短手方向に湾曲し、この湾曲によって圧電素子が厚み方向に伸縮されるため、当該ピックアップ機能付サドルは高い感度で弦振動を検出できる。
【0014】
前記一対の第一当接部が、対向方向に拡径するテーパ面であるとよい。このような第一当接部を形成することで、容易かつ確実にセンサの短手方向の両端部においてセンサの一方の面に第一当接部を当接させ、センサの短手方向の両端部を自由端とすることができる。その結果、当該ピックアップ機能付サドルの弦振動に対する検出感度をさらに向上させることができる。
【0015】
なお、「上面」及び「上下方向」に係る上下関係は、弦楽器の胴部の外方向を上、その反対方向を下とする。また、本明細書において「自由端」とは、他の部材に固定されておらずセンサが短手方向に湾曲する際に短手方向への変位が可能な端縁を意味する。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のピックアップ機能付サドルは、弦振動を高い感度で検出可能である。そのため、弦楽器の演奏音を高質に再現可能な電気信号を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一実施形態に係るピックアップ機能付サドルの模式的説明図で、サドルが支持する弦と垂直な面での模式的断面図(a)及びサドルの長手方向と垂直な面での模式的断面図(b)
図2】本発明の第一実施形態に係るピックアップ機能付サドルの模式的説明図で、サドルの長手方向と垂直な面での模式的断面図
図3】本発明の第二実施形態に係るピックアップ機能付サドルの模式的説明図で、サドルが支持する弦と垂直な面での模式的断面図(a)及びサドルの長手方向と垂直な面での模式的断面図(b)
図4】第一実施形態とは異なる実施形態に係るピックアップ機能付サドルの模式的説明図で、サドルの長手方向と垂直な面での模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明のピックアップ機能付サドルの実施の形態を詳説する。
【0019】
<第一実施形態>
図1のピックアップ機能付サドル1は、一般的には駒を介して弦楽器の胴部の表面側に突設され、複数の弦を支持するものである。当該ピックアップ機能付サドル1は、細長い板状体であり、その上面が胴部の表面と略平行に、広い面積を有する板面(正面及び背面)が胴部の表面と略垂直になるよう配設されている。当該ピックアップ機能付サドル1は、サドル本体2と、下電極3a、圧電膜3b及び上電極3cからなる圧電素子が基板3dに積層されたセンサ3とを備える。以下、このピックアップ機能付サドル1の構造を具体的に説明する。
【0020】
サドル本体2は、略直方体形状で複数の弦当接位置を有する上サドル本体2aと、この上サドル本体2aの下方に取付けられる略直方体形状の下サドル本体2bとからなる。サドル本体2は、上サドル本体2aと下サドル本体2bとの間にセンサ3が配設される収容空間部を有する。
【0021】
上サドル本体2aは、下面に長手方向に沿って畝状に形成された凸条部5を有する。この凸条部5は、少なくとも弦の振動時にセンサ3の短手方向の中央部においてセンサ3の上面に当接するように形成されている。凸条部5は、弦が振動していない状態においてはセンサ3に当接していなくてもよいが、確実にセンサ3を湾曲させるために弦の非振動時でもセンサ3に当接していることが好ましい。凸条部5を弦の非振動時でもセンサ3に当接させる場合は、凸条部5の当接によってセンサ3が多少湾曲していてもよい。凸条部5の具体的な断面形状としては特に限定されないが、台形又は山型(三角山、円山等)が好ましい。特に山型であれば、センサ3を大きく変形させることができる。
【0022】
下サドル本体2bは、前記収容空間部を形成するための溝部6を上面に有する。この溝部6は、下サドル本体2bの上面に長手方向に沿って形成されている。この溝部6は、短手方向に左右対称に形成されており、一定の深さまでは下サドル本体2bの側面と略平行に形成され、一定の深さからは溝中央にかけて下方に傾斜した傾斜面が形成されている。この傾斜面は対向方向に拡径するテーパ面である。溝部6の上端部の幅はセンサ3の幅(短手方向長さ)よりも大きいが、傾斜面よりも下部では、底面に向かうに従って幅がセンサ3の幅よりも小さくなる。そのため、センサ3を短手方向の両端部において下面が溝部6の傾斜面に当接した状態で収容空間部内に収容することができる。また、前記テーパ面は線形であっても曲面状であってもよい。図1(b)に示したように、下サドル2bのテーパ面には、センサ3の下面の角部が接触することになり、凸条部5から伝わる振動によってセンサ3が変形しやすくなっている。なお、このようにセンサ3をテーパ面と接触させるため、センサ3の配設場所が正確に定まらない可能性がある。その場合、テーパ面の両側または片側のセンサ3の配設位置に段差を形成してもよい。
【0023】
上サドル本体2aのサイズとしては、当該ピックアップ機能付サドル1が装着される弦楽器の弦を支持できるものであれば特に限定されず、例えば6弦を有するアコースティックギターに装着する場合、長さ(サドルの長手方向)が70mm以上90mm以下、幅(弦と平行方向)が2mm以上4mm以下、高さ(弦の当接方向)が3mm以上6mm以下とすることができる。また、下サドル本体2bのサイズとしては、長さ及び幅は上サドル本体2aと同様とすることができ、高さは3mm以上6mm以下とすることができる。
【0024】
凸条部5のサイズとしては、収容空間部に収容されたセンサ3の短手方向の中央部に当接して弦振動によりセンサ3を湾曲させることができれば特に限定されず、例えば幅が0.1mm以上1.5mm以下、高さが0.01mm以上3mm以下とすることができる。
【0025】
溝部6のサイズとしては、傾斜面にセンサ3の短手方向の両端部が当接して自由端支持できれば特に限定されず、例えば上面の幅が0.5mm以上3mm以下、傾斜面までの深さが0.1mm以上3mm以下、傾斜面の深さ(垂直高さ)が0.01mm以上1mm以下とすることができる。
【0026】
上サドル本体2a及び下サドル本体2bの材質としては、サドルの材質として公知のものを用いることができ、例えば、象牙、牛骨、合成樹脂等を用いることができるが、剛性及びコストの観点から、ユリア樹脂が特に好ましい。
【0027】
センサ3は、前記収容空間部に収容され、基板3d上に、下電極3a、圧電膜3b及び上電極3cをこの順に積層して形成される積層構造体である。
【0028】
基板3dは、略長方形板状を有する。基板3dのサイズとしては特に限定されず、例えば厚みが50μm以上3mm以下、幅が0.5mm以上3mm以下、長さが30mm以上80mm以下とすることができる。ただし、基板3dの短手方向の中央部が撓み変形しやすいように、厚みは50μm以上0.5mm以下とすることが好ましい。基板3dの厚みを前記範囲内とすることによって、短手方向の中央部が弦振動によって撓みやすくなるため、圧電膜3bの変形を大きくすることができる。
【0029】
基板3dの材質としては、特に限定されず、例えば合成樹脂、ゴム、金属、金属化合物、セラミックス等を用いることができる。基板3dの材質の具体例としては、ケイ素、サファイア、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、炭化ケイ素、ガラス、窒化珪素、ステンレス、炭化チタン、窒化チタン等を挙げることができ、これらの中でもジルコニアが好ましく、部分安定化ジルコニアが特に好ましい。このように靭性の高い材料を用いることによって基板3d自体を薄くすることができ、短手方向の中央部が弦振動によって撓みやすくなるため、圧電膜3bの変形を大きくすることができる。
【0030】
下電極3aは、基板3dの表面に積層された帯状の膜体である。下電極3aのサイズとしては特に限定されず、例えば厚みが1μm以上5μm以下、長さが30mm以上80mm以下、幅が0.1mm以上3mm以下とすることができる。
【0031】
下電極3aの材質としては、電気伝導性を有すれば特に限定されず、例えば白金、アルミニウム、ニッケル、鉄、金、銀、銅、パラジウム、クロム、あるいはこれらの合金等を挙げることができる。これらの中でも電気伝導率や化学的な安定性の観点から白金または金が好ましく、白金がより好ましい。白金は耐熱性が高く、また下電極3aの上に配置される圧電膜3bの材料の一部が基板3d側へ拡散することを防止する拡散バリア層の役目も果たすことができる。
【0032】
圧電膜3bは、下電極3aの表面に積層された帯状の膜体である。圧電膜3bのサイズとしては、弦振動に伴って短手方向に湾曲する大きさであれば特に限定されず、例えば厚みが10μm以上100μm以下、長さが30mm以上80mm以下、幅が0.1mm以上3mm以下とすることができる。
【0033】
圧電膜3bの材質としては、圧電効果により電圧を生じさせるものであれば特に限定されず、例えば各種の酸化物や窒化物、高分子等を挙げることができる。圧電膜3bの材質の具体例としては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、四ホウ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、ランガサイト系結晶などの単結晶、酸化亜鉛や窒化アルミニウムなどの配向結晶、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができ、これらの中でも高い圧電性を有するジルコン酸チタン酸鉛が特に好ましい。
【0034】
上電極3cは、圧電膜3bの表面に積層された帯状の膜体である。上電極3cのサイズとしては、下電極3aと接触して短絡しないように圧電膜3bよりも平面面積が小さければ特に限定されず、例えば厚みが1μm以上5μm以下、長さが30mm以上80mm以下、幅が0.1mm以上3mm以下とすることができる。また、上電極3cの材質としては、下電極3aと同様の材質を用いることができる。
【0035】
センサ3は、下面の短手方向の両端部がそれぞれ溝部6の傾斜面に当接し、上面の短手方向の中央部には少なくとも弦の振動時に凸条部5が当接するように配設される。このときセンサ3は、図1のように圧電膜3bが積層された側の面を上面として配設してもよく、これとは反対に基板3d側の面を上面として配設してもよい。圧電膜3bが積層された側の面を上面とすることで、基板3dを介することなく直接圧電膜3bに振動を伝えることができる。一方で、基板3d側の面を上面とすることで、上電極3cと凸条部5とが接触しないため、上電極3cの損耗を防ぐことができる。また、センサ3の短手方向の湾曲の大きさとしては、例えば弦の張力による約200Nの圧力が加わった時に1μm程度の変形量とすることができる。
【0036】
なお、センサ3の「短手方向の両端部」は、例えばセンサ3の長辺からの距離がセンサ3の幅の20%以内の領域とすることができる。
【0037】
上サドル本体2aと下サドル本体2bとは、例えばピン止め、ネジ止め、接着剤による接合等の手段で固定することもできる。また図2(a)のように、上サドル本体2aと下サドル本体2bとがセンサ3を介さずに対面する空隙部には、合成樹脂10が充填されてもよい。これにより、弦の振動をセンサ3へ効率よく伝達することができる。さらに、この合成樹脂は、上サドル本体2aと下サドル本体2bとの間に形成される収容空間部内に充填されてもよい。収容空間部内に合成樹脂を充填する場合、この合成樹脂としては、センサ3が湾曲変形しやすいように、例えばエラストマー等を用いることが好ましい。また、図2(b)のように、上サドル本体2aと下サドル本体2bとがセンサ3を介さずに対面する空隙部をそのままとし、弦の張力によって上サドル本体2aを上から下に抑える構成であってもよい。この場合、前記エラストマー等の合成樹脂10が充填されていないため、弦の振動をなるべく損なわずにセンサ3へ伝達することができる。また、図2(b)の構成の場合、上サドル本体2aが不安定となるので、図2(c)または図2(d)のように空隙部を片側だけにすることもできる。そうすることにより、弦の振動を損なわずにセンサ3へ伝達できるとともに、上サドル本体2aを下サドル本体2bの片側の壁部上面とセンサ3上面との2箇所に当接させることができるので、上サドル本体2aを安定的に固定できる。
【0038】
当該ピックアップ機能付サドル1は、弦の張力(弦の振動も含む)が上サドル本体2aの凸条部5が当接するセンサ3の短手方向の中央部に伝達される。センサ3は、下面の短手方向の両端部が溝部6のテーパ面に当接することで短手方向の両端が自由端となるよう支持され、下面の短手方向の両端部に上方向の外力が作用し、上面の短手方向の中央部に下方向の外力が作用する。これによりセンサ3は、弦の張力(弦の振動も含む)によって短手方向において下側に凸となるように湾曲している。さらにセンサ3の短手方向の中央部に弦の振動が伝達されると、センサ3のたわみ量が変化し、圧電膜3bの厚み方向に伸縮が生じ、振動に対してより大きな感度で圧力を検出することができる。センサ3を長手方向に湾曲させた場合は、湾曲させる辺長が大きいために弦の振動が直接伝達されない(当接部に当接しない)部分においてたわみ等が生じ、圧力の相殺や低減が生じるが、当該ピックアップ機能付サドル1においては、センサ3を短手方向に両端が自由端となるように湾曲させるため、このような圧力の相殺や低減が生じない。また、短手方向の湾曲は、固有振動数が可聴帯域より大きく、当該帯域で共振ピークを有しない。すなわちピックアップ機能付きサドルは可聴帯域において、平坦な周波数特性となる。なお、当該ピックアップ機能付サドル1は、センサ3がサドル本体2の内部に収容されているため楽器への取付け時の取り扱い性にも優れる。
【0039】
<第二実施形態>
図3のピックアップ機能付サドル11は、前記図1のピックアップ機能付サドル1と同様に弦を支持する部材であり、サドル本体12と、下電極3a、圧電膜3b及び上電極3cからなる圧電素子が基板3dに積層されたセンサ3と、センサ3の上面に配設された上面側当接材7と、センサ3の下面に配設された2つの下面側当接材8とを備える。センサ3は、前記第一実施形態のピックアップ機能付サドル1と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
サドル本体12は、略直方体形状で複数の弦当接位置を有する上サドル本体12aと、この上サドル本体12aの下方に取付けられる略直方体形状の下サドル本体12bとからなる。サドル本体12は、上サドル本体12aと下サドル本体12bとの間にセンサ3が配設される収容空間部を有する。
【0041】
上サドル本体12aは、上サドル部材12cと、蓋状部材12dとを有する。上サドル部材12cは、弦当接位置を上面に有する略直方体形状の部材であり、蓋状部材12dは、上サドル部材12cの下面に接合され、後述の下サドル本体12bが有する収容部材12f内に収容される略長方形板状の部材である。
【0042】
上サドル部材12cのサイズとしては、当該ピックアップ機能付サドル11が装着される弦楽器の弦を支持できるものであれば特に限定されず、例えば6弦を有するアコースティックギターに装着する場合、長さ(サドルの長手方向)が70mm以上90mm以下、幅(弦と平行方向)が2mm以上4mm以下、高さ(弦の当接方向)が3mm以上6mm以下とすることができる。また、蓋状部材12dのサイズとしては、長さが30mm以上80mm以下、幅が0.5mm以上3mm以下、厚さが0.5mm以上3mm以下とすることができる。
【0043】
上サドル部材12cの材質としては、前記第一実施形態の上サドル本体2aと同様とすることができる。蓋状部材12dの材質としては、上サドル部材12cと同様とすることができるほか、金属等を用いることができる。なお、蓋状部材12dと上サドル部材12とに同一素材を用いる場合、これらを一体形成してもよい。
【0044】
下サドル本体12bは、下サドル部材12eと、収容部材12fとを有する。下サドル部材12eは、弦楽器の胴部の表面側に取付けられる略直方体形状の部材であり、収容部材12fは、下サドル部材12eの上面に接合され、上面側に溝を有する部材である。この収容部材12fの溝の内部にセンサ3が配設され、収容部材12fの上面に上サドル本体12aを配設されることで、センサ3がサドル本体12の内部に格納される。このとき、上サドル本体12aの蓋状部材12dは、収容部材12fの溝内に収容される。
【0045】
下サドル部材12eのサイズとしては、長さ及び幅は上サドル部材12cと同様とすることができ、例えば高さは3mm以上6mm以下とすることができる。収容部材12fのサイズとしては、長さ及び幅は上サドル部材12cと同様とすることができ、例えば高さは1mm以上6mm以下とすることができる。また、収容部材12fの溝のサイズとしては、例えば長さが30mm以上80mm以下、幅が0.5mm以上3mm以下、深さが0.1mm以上6mm以下とすることができる。
【0046】
下サドル部材12eの材質としては、前記第一実施形態の上サドル本体12aと同様とすることができる。収容部材12fの材質としては、下サドル部材12eと同様とすることができるが、金属等の導電性材料を用いることが好ましい。収容部材12fの材質を導電性材料とすることで、センサ3の発する信号に外部からの電磁ノイズが混入することを防ぐシールド機能を付与することができる。なお、収容部材12fと下サドル部材12eとに同一素材を用いる場合、これらを一体形成してもよい。
【0047】
上面側当接材7は、センサ3の上面のうち、短手方向の中央部に付設された略直方体形状の部材である。上面側当接材7は、センサ3のサドル本体12への収容状態において、前記蓋状部材12dの下面に当接する。
【0048】
上面側当接材7のサイズとしては、例えば長さが30mm以上80mm以下、幅が0.1mm以上1.5mm以下、高さが0.01mm以上3mm以下とすることができる。上面側当接材7の材質としては、上サドル本体2aと同様とすることができる。
【0049】
下面側当接材8は、センサ3の下面のうち、短手方向の両端部に付設された略直方体形状の部材である。2つの下面側当接材8は、センサ3のサドル本体12への収容状態において、前記収容部材12fの溝の底面にそれぞれ当接する。
【0050】
下面側当接材8のサイズとしては、例えば長さが30mm以上80mm以下、幅が0.1mm以上1.5mm以下、高さが0.01mm以上3mm以下とすることができる。下面側当接材8の材質としては、上サドル本体2aと同様とすることができる。
【0051】
上面側当接材7及び下面側当接材8のセンサ3への付設方法としては、例えば接着剤を用いて接合する方法を用いることができる。
【0052】
なお、上面側当接材7及び下面側当接材8の断面形状は、長方形状に限定されず、センサ3と接合される面と反対側の面が凸状に湾曲していてもよい。
【0053】
また、前記第一実施形態のピックアップ機能付サドル1と同様、センサ3は、圧電膜3bが積層された側の面(表面)を上面として配設してもよく、基板3d側の面(裏面)を上面として配設してもよい。
【0054】
上サドル本体12aと下サドル本体12bとの接続は、前記第一実施形態のピックアップ機能付サドル1と同様とすることができる。また、上サドル本体12aと下サドル本体12bとの間に形成される収容空間部内には、前記第一実施形態と同様に合成樹脂が充填されてもよい。
【0055】
当該ピックアップ機能付サドル11は、弦の張力(弦の振動も含む)が上サドル本体12aの蓋状部材12dが当接する上面側当接材7を介してセンサ3の短手方向の中央部に伝達される。センサ3は、下面の短手方向の両端部に下面側当接材8が付設され、この下面側当接材8を介して収容部材12fの溝の底面に当接することで短手方向の両端が自由端になるよう支持され、下面の短手方向の両端部に上方向の外力が作用し、上面の短手方向の中央部に下方向の外力が作用する。これによりセンサ3は、弦の張力(弦の振動も含む)によって短手方向において下側に凸となるように湾曲している。さらにセンサ3の短手方向の中央部に弦の振動が伝達されると、センサ3のたわみ量が変化し、圧電膜3bの厚み方向に伸縮が生じ、振動に対してより大きな感度で圧力を検出することができる。また、当該ピックアップ機能付サドル11は、蓋状部材12d又は収容部材12fを導電性部材とすることで、シールドを別途配設することなく、センサ3へのノイズの侵入を防止することができる。
【0056】
<その他の実施形態>
本発明のピックアップ機能付サドルは前記実施形態に限定されるものではない。例えば第一実施形態では、溝部が傾斜面を有する形状としたが、図4に示すように溝部が傾斜面の代わりに段差を有し、この段差部分に、センサの短手方向の両端部が当接する構成としてもよい。この場合、段差部分の幅としては、例えば0.5mm以上3mm以下とすることができる。
【0057】
また、前記実施形態では、センサを下方に凸となるように短手方向に湾曲させたが、センサを上方に凸となるように短手方向に湾曲させてもよい。例えば第一実施形態において、下サドル本体の上面に凸条部を設け、上サドル本体の下面に溝部を形成し、この凸条部及び溝部でセンサを保持する構成とすることができる。同様に、第二実施形態において、例えば上面側当接材をセンサの下面に付設し、下面側当接材をセンサの上面に付設した構成とすることができる。
【0058】
さらに、センサの短手方向の中央部に当接する上面側当接材は、複数の部材から構成されていてもよい。具体的には、第一実施形態において、凸条部がサドル本体の長手方向に沿って配設される複数の凸部から形成されていてもよい。この場合、複数の凸部を各弦当接位置の下方に配置することで、効率よく各弦の振動を各凸部に伝達することができる。また、第二実施形態においても同様に、上面側当接材がセンサの長手方向に沿って各弦当接位置の下方に配設される複数の略直方体形状の部材から形成されていてもよい。
【0059】
なお、本発明は、略長方形板状のセンサが短手方向に湾曲可能なようにサドル本体に取付けられていればその効果を奏する。そのため、例えばサドル本体の正面又は背面(当該ピックアップ機能付サドルが支持する弦と垂直な面)に長手方向に凹状溝を形成し、この凹状溝の底壁の背面側にサドル本体の長手方向に沿ってセンサを配設するような構成としてもよい。この構成においては、弦の振動によって、凹状溝の底壁が正面又は背面に突出するように弓なりに変形するため、底壁の背面側に配設されたセンサが短手方向に湾曲し、前述した本発明の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明のピックアップ機能付サドルは、弦振動に対する検出感度に優れる。そのため、弦楽器の演奏音を高質に再現可能な電気信号を出力することができ、アコースティックギター等の弦楽器に好適に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1、11 ピックアップ機能付サドル
2、12 サドル本体
2a、12a 上サドル本体
2b、12b 下サドル本体
3 センサ
3a 下電極
3b 圧電膜
3c 上電極
3d 基板
5 凸条部
6 溝部
7 上面側当接材
8 下面側当接材
10 合成樹脂
12c 上サドル部材
12d 蓋状部材
12e 下サドル部材
12f 収容部材
X 弦
図1
図2
図3
図4