特許第6044159号(P6044159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044159塩味が増強された飲食品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044159
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】塩味が増強された飲食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20161206BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20161206BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20161206BHJP
【FI】
   A23L27/00 Z
   A23L27/10 B
   A23L27/20 D
   A23L27/10 H
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-169741(P2012-169741)
(22)【出願日】2012年7月31日
(65)【公開番号】特開2014-27893(P2014-27893A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】宮木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】長崎 浩明
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−259440(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119503(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/126678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、クエン酸又はその塩、並びに、酵母エキスを添加してなる、塩味が増強された飲食品であって、
該添加されるチキンエキスの量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加されるクエン酸又はその塩の量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加される酵母エキスの量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.0007〜0.03重量%である飲食品。
【請求項2】
該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比が、(チキンエキス):(クエン酸又はその塩)=1:0.15〜8である、請求項1記載の飲食品。
【請求項3】
塩化ナトリウム含有飲食品が、塩化ナトリウム濃度が0.1〜3.0重量%であるスープである、請求項1又は2記載の飲食品。
【請求項4】
塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、クエン酸又はその塩、並びに、酵母エキスを添加する工程を含む、塩味が増強された飲食品の製造方法であって、
該添加されるチキンエキスの量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加されるクエン酸又はその塩の量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加される酵母エキスの量が、塩味が増強された飲食品全体の量に対して、0.0007〜0.03重量%である方法。
【請求項5】
該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比が、(チキンエキス):(クエン酸又はその塩)=1:0.15〜8である、請求項記載の方法。
【請求項6】
塩化ナトリウム含有飲食品が、塩化ナトリウム濃度が0.1〜3.0重量%であるスープである、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、クエン酸又はその塩、並びに、酵母エキスを添加する工程を含む、塩化ナトリウム含有飲食品の塩味増強方法であって、
該添加されるチキンエキスの量が、上記方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加されるクエン酸又はその塩の量が、上記方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加される酵母エキスの量が、上記方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、0.0007〜0.03重量%である方法。
【請求項8】
該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比が、(チキンエキス):(クエン酸又はその塩)=1:0.15〜8である、請求項記載の方法。
【請求項9】
塩化ナトリウム含有飲食品が、塩化ナトリウム濃度が0.1〜3.0重量%であるスープである、請求項7又は8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味が増強された飲食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩の主成分である塩化ナトリウムは、必須ミネラルであるナトリウム源として、ヒトの生命維持に不可欠な物質である。食塩は、塩味(salty taste)の付与を始めとする種々の用途で飲食品に利用されている。しかしながら、食塩の過剰摂取は、諸説あるものの高血圧、腎臓病、心臓病等の疾病を引き起こすリスクを高めると考えられている。そのため、健康面から、食塩摂取量、特にナトリウム摂取量を低減することが重要視されている。
【0003】
食塩摂取量は、例えば、飲食品を製造する際の食塩の使用量を減らすこと(減塩)により低減できる。しかしながら、減塩時には、塩味の不足により満足感が低下するという問題が生ずる。そのため、食塩の使用量を低減しても飲食品の塩味や満足感を損なわない減塩技術の開発が強く求められている。
【0004】
減塩技術としては、例えば、それ自体が塩味を呈する化合物(食塩代替物質)で食塩の一部を代替する方法が挙げられる。食塩代替物質としては、例えば、塩化カリウム等のカリウム塩、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩、アミノ酸の塩酸塩、塩基性アミノ酸からなるペプチド類が知られている。しかしながら、これら食塩代替物質には、通常、苦味等の不快な呈味を示す場合があり、消費者のニーズにあった減塩技術には十分には到達していない。
【0005】
また、減塩技術としては、例えば、塩味を増強する化合物を用いる方法が挙げられる。例えば、古くから、有機酸類は塩味の増強作用を有することが知られている。しかしながら、減塩時の塩味の不足と満足感の低下を十分に改善できていなかった。
【0006】
一方、肉エキス、畜肉エキス、家禽エキス等を、クエン酸や酵母エキスと併用し得ることは、特許文献1〜6に開示されているが、各成分の濃度については、いずれの文献にも記載も示唆もされていない。また、塩味増強効果についても、いずれの文献にも記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−229524号公報
【特許文献2】特開2007−202492号公報
【特許文献3】国際公開第2005/004635号パンフレット
【特許文献4】特開平11−290017号公報
【特許文献5】特開昭59−55163号公報
【特許文献6】国際公開第2010/107020号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、塩味が増強された、十分な満足感を有する飲食品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべき事に、塩化ナトリウムを含有する飲食品に対し、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩を、それぞれが特定の濃度となるよう添加することによって、塩味が増強され、十分な満足感を有する飲食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1] 塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩を添加してなる、塩味が増強された飲食品であって、
該添加されるチキンエキスの量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加されるクエン酸又はその塩の量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%である飲食品。
[2] 該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比が、(チキンエキス):(クエン酸又はその塩)=1:0.15〜8である、[1]記載の飲食品。
[3] 塩化ナトリウム含有飲食品に、酵母エキスを更に添加してなり、
該添加される酵母エキスの量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.0007〜0.03重量%である、[1]又は[2]記載の飲食品。
[4] 塩化ナトリウム含有飲食品が、塩化ナトリウム濃度が0.1〜3.0重量%であるスープである、[1]〜[3]のいずれかに記載の飲食品。
[5] 塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩を添加する工程を含む、塩味が増強された飲食品の製造方法であって、
該添加されるチキンエキスの量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加されるクエン酸又はその塩の量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%である方法。
[6] 該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比が、(チキンエキス):(クエン酸又はその塩)=1:0.15〜8である、[5]記載の方法。
[7] 塩化ナトリウム含有飲食品に、酵母エキスを添加する工程を更に含み、
該添加される酵母エキスの量が、塩味が増強された飲食品全体の量に対して、0.0007〜0.03重量%である、[5]又は[6]記載の方法。
[8] 塩化ナトリウム含有飲食品が、塩化ナトリウム濃度が0.1〜3.0重量%であるスープである、[5]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩を添加する工程を含む、塩化ナトリウム含有飲食品の塩味増強方法であって、
該添加されるチキンエキスの量が、上記方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%であり、
該添加されるクエン酸又はその塩の量が、上記方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、0.005〜0.07重量%である方法。
[10] 該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比が、(チキンエキス):(クエン酸又はその塩)=1:0.15〜8である、[9]記載の方法。
[11] 塩化ナトリウム含有飲食品に、酵母エキスを添加する工程を更に含む[9]又は[10]記載の方法であって、
該添加される酵母エキスの量が、上記方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、0.0007〜0.03重量%である、[9]又は[10]記載の方法。
[12] 塩化ナトリウム含有飲食品が、塩化ナトリウム濃度が0.1〜3.0重量%であるスープである、[9]〜[11]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塩味が増強された、十分な満足感を有する飲食品及びその製造方法を提供し得る。
また本発明によれば、飲食品の塩味増強方法を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の塩味が増強された飲食品は、塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩を添加してなるものである。
【0013】
本明細書において「チキンエキス」とは、原料であるニワトリ(Gallus gallus domesticus)の肉、内臓、骨又はそれらの混合物(好ましくは、肉)に対して、場合によっては水を加えた上で、常圧又は加圧の条件下において加熱し、必要に応じてpHの調整を行ないながら、当該ニワトリの肉、内臓、骨に含まれる水溶性成分を水中に溶出させた水溶液、またはその水溶液をさらに乾燥して得られる固形物(例、粉末、顆粒等)の総称である。抽出条件(例、加熱温度、圧力、抽出時間等)は、目的等に応じて適宜決定すればよく、特に制限されない。
本発明では、チキンエキスとして市販品を使用することもできる。当該市販品の具体例としては、チキンエキス7051(アリアケジャパン社製)、チキンエキスNO.926(日研フード社製)、チキンNS(DSP五協フード&ケミカル社製)、チキンエキスLB(サンノー食品社製)、チキンAO(味の素社製)、チキンエキス-3943(IDF社製)等が挙げられる。
【0014】
本発明は、塩化ナトリウム含有飲食品に添加されるチキンエキスの量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、特定の範囲であることが重要である。塩味が増強された飲食品全体に対する、該添加されるチキンエキスの量が特定の範囲であることによって、本発明の塩味が増強された飲食品は、チキンエキス由来の異味や異風味が付与されることなく、塩味が増強された好ましい品質となる。具体的には、該添加されるチキンエキスの量は、塩味が増強された飲食品全体に対して、通常0.005重量%以上であり、好ましくは0.007重量%以上であり、より好ましくは0.009重量%以上である。該添加されるチキンエキスの量が、0.005重量%未満であると、該添加されるチキンエキスによる塩味増強効果が十分でない傾向がある。また、該添加されるチキンエキスの量は、塩味が増強された飲食品全体に対して、通常0.07重量%以下であり、好ましくは0.05重量%以下であり、より好ましくは0.03重量%以下である。該添加されるチキンエキスの量が、0.07重量%を超えると、塩味増強効果が得られないわけではないが、該添加されるチキンエキスが有する風味が、添加される飲食品の風味に影響する傾向がある。
尚、ここで「該添加されるチキンエキスの量」とは、塩味増強を目的として飲食品に添加されるチキンエキスの量を意味し、塩味増強の対象となる飲食品に元から含まれるチキンエキスの量は含まない。
【0015】
クエン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、中でもアルカリ金属塩が好ましく、具体的には、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウムが特に好ましい。
【0016】
本発明は、塩化ナトリウム含有飲食品に添加されるクエン酸又はその塩の量が、塩味が増強された飲食品全体に対して、特定の範囲であることが重要である。塩味が増強された飲食品全体に対する、該添加されるクエン酸又はその塩の量が特定の範囲であることによって、本発明の塩味が増強された飲食品は、クエン酸又はその塩由来の異味や異風味が付与されることなく、塩味が増強された好ましい品質となる。具体的には、該添加されるクエン酸又はその塩の量は、塩味が増強された飲食品全体に対して、通常0.005重量%以上であり、好ましくは0.0075重量%以上であり、より好ましくは0.01重量%以上である。該添加されるクエン酸又はその塩の量が、0.005重量%未満であると、該添加されるクエン酸又はその塩による塩味増強効果が十分でない傾向がある。また、該添加されるクエン酸又はその塩の量は、塩味が増強された飲食品全体に対して、通常0.07重量%以下であり、好ましくは0.05重量%以下であり、より好ましくは0.02重量%以下である。該添加されるクエン酸又はその塩の量が、0.07重量%を超えると、塩味増強効果が得られない訳ではないが、クエン酸又はその塩が有する特有の酸味が異味として感じられるようになる傾向がある。
尚、ここで「該添加されるクエン酸又はその塩の量」とは、塩味増強を目的として飲食品に添加されるクエン酸又はその塩の量を意味し、塩味増強の対象となる飲食品に元から含まれるクエン酸又はその塩の量は含まない。
【0017】
該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比は、塩味が増強された飲食品全体に対する量がそれぞれ上記の範囲であれば特に制限されないが、異味や異風味を付与することなく、より塩化ナトリウムに近い呈味質で、塩味を増強できる点で、(チキンエキス):(クエン酸又はその塩)=1:0.07〜14であることが好ましく、1:0.15〜8であることが更に好ましく、1:0.5〜5であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の塩味が増強された飲食品は、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩に加え、酵母エキスを更に添加してなるものであってもよい。
本明細書において「酵母エキス」とは、酵母中の内容物を抽出して得られる液体、またはその液体をさらに乾燥して得られる固形物(例、粉末、顆粒等)の総称である。酵母エキスの原料となる酵母は、可食性の酵母であれば特に限定されるものではなく、食品分野において通常用いられている酵母を用いることができる。例えば、パン製造に用いられているパン酵母、食料や飼料等の製造に用いられているトルラ酵母、ビール製造に用いられているビール酵母等が挙げられ、中でも増殖性が良好であることから、パン酵母、トルラ酵母が好ましく、サッカロマイセス(Saccharomyces)に属する酵母、キャンディダ(Candida)に属する酵母がより好ましく、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母やキャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)に属する酵母が特に好ましい。酵母から酵母エキスを抽出する方法は特に制限されないが、例えば、自己消化法、酸分解法、酵素分解法等が挙げられる。酵母エキスは、グルタチオン及び/又はグルタミルシステインを含有するものであってもよい。また酵母エキスは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
本発明では、酵母エキスとして市販品を使用することもできる。当該市販品の具体例としては、スーパー酵母エキス(味の素社製)、酵母エキスNo.1(味の素社製)、酵母エキスNo.2(味の素社製)、酵母エキスNo.3(味の素社製)、酵母エキスRK(味の素社製)、酵母エキスRK−M(味の素社製)等が挙げられる。
【0019】
塩化ナトリウム含有飲食品に添加される酵母エキスの量は、塩味が増強された飲食品全体に対して、特定の範囲であることが好ましい。塩味が増強された飲食品全体に対する、該添加される酵母エキスの量が特定の範囲内であることによって、本発明の塩味が増強された飲食品は、酵母エキス由来の異味や異風味が付与されることなく、塩味が増強された好ましい品質となる。具体的には、該添加される酵母エキスの量は、塩味が増強された飲食品全体に対して、通常0.0007重量%以上であり、好ましくは0.0008重量%以上であり、より好ましくは0.0009重量%以上である。また、該添加される酵母エキスの量は、塩味が増強された飲食品全体に対して、通常0.03重量%以下であり、好ましくは0.02重量%以下であり、より好ましくは0.01重量%以下である。
尚、ここで「該添加される酵母エキスの量」とは、塩味増強を目的として飲食品に添加される酵母エキスの量を意味し、塩味増強の対象となる飲食品に元から含まれる酵母エキスの量は含まない。
【0020】
塩化ナトリウム含有飲食品は特に制限されないが、例えば、スープ、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、風味調味料、めんつゆ、しょう油、味噌、菓子・スナック類、水産加工品、畜産加工品、調理食品等が挙げられ、中でもスープが好ましい。
【0021】
塩化ナトリウム含有飲食品の塩化ナトリウム濃度は、飲食品の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常0.1〜80重量%であり、中でも、飲食品がスープである場合、好ましくは0.1〜3.0重量%、より好ましくは0.3〜1.5重量%であり、飲食品がソース、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップである場合、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1.0〜6.0重量%であり、飲食品が風味調味料である場合、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜60重量%である。
【0022】
本発明の塩味が増強された飲食品の製造方法は、塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、クエン酸又はその塩、並びに必要により酵母エキスを、それぞれが特定濃度(即ち、前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して述べた、塩味が増強された飲食品全体に対する、添加される各成分の量)となるように添加する工程を含む以外は、公知の飲食品と同様の原料を用い、公知の飲食品の製造方法と同様の方法によって行うことができる。
【0023】
塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、クエン酸又はその塩、並びに必要により酵母エキスを添加する時期は特に制限されず、例えば、塩化ナトリウム含有飲食品を製造する際に他の原料と併せて添加してもよいし、塩化ナトリウム含有飲食品の完成後に添加してもよいし、塩化ナトリウム含有飲食品の喫食直前及び/又は喫食中に添加してもよい。
【0024】
本発明は、塩化ナトリウム含有飲食品の塩味増強方法(以下、「本発明の塩味増強方法」とも称する)も提供する。
本発明の塩味増強方法は、塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩を添加する工程を含む。当該チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩としては、前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して例示したものと同様のものが挙げられる。
【0025】
本発明の塩味増強方法は、塩化ナトリウム含有飲食品に添加されるチキンエキスの量、並びに、塩化ナトリウム含有飲食品に添加されるクエン酸又はその塩の量が、本発明の塩味増強方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、それぞれ特定の範囲であることが重要である。具体的な該添加されるチキンエキスの量、並びに、該添加されるクエン酸又はその塩の量は、それぞれ前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して述べた、塩味が増強された飲食品全体に対する、添加される各成分の量と同様の範囲である。
また、該添加されるチキンエキスと該添加されるクエン酸又はその塩との重量比は特に制限されず、前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して述べた好適な範囲と同様にすることが好ましい。
【0026】
本発明の塩味増強方法は、塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、並びに、クエン酸又はその塩を添加する工程に加え、酵母エキスを添加する工程を更に含むものであってもよい。当該酵母エキスとしては、前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して例示したものと同様のものが挙げられる。
【0027】
塩化ナトリウム含有飲食品に添加される酵母エキスの量は、本発明の塩味増強方法によって塩味が増強された飲食品全体に対して、特定の範囲であることが好ましい。具体的な該添加される酵母エキスの量は、前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して述べた、塩味が増強された飲食品全体に対する、添加される酵母エキスの量と同様の範囲である。
【0028】
塩化ナトリウム含有飲食品は特に制限されず、前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して例示したものと同様のものが挙げられる。
また、塩化ナトリウム含有飲食品に、チキンエキス、クエン酸又はその塩、並びに必要により酵母エキスを添加する時期も特に制限されず、前掲の本発明の塩味が増強された飲食品に関して例示したように添加できる。
【0029】
以下の参考例及び実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
(参考例1:塩味増強効果の高い食品素材の選抜)
市販コーンスープ(クノール食品社製:通常は150ml/食でお湯を注いで喫食する)に180ml/食でお湯を注ぎ、塩化ナトリウム濃度が0.55重量%である、通常よりも塩化ナトリウム濃度が低減されたコーンスープを調製した。次に、当該コーンスープに、下記表1に示す各種食品素材をそれぞれ添加し、官能評価用サンプルを調製した。各種食品素材は、官能評価用サンプル全体に対して0.01重量%となる量を添加した。
得られた各サンプルにおける塩味増強効果について、専門パネル2名により、以下の基準に従って官能評価を行った。また、異風味を感じたものについては、当該異風味に関するコメントを付した。結果を表1に示す。
[評価基準]
◎:明確に効果あり
○:効果あり
△:弱い効果あり
×:効果なし
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示す結果から明らかなように、チキンエキスに明確な塩味増強効果が認められた。
【0033】
(参考例2:塩味増強効果の高い有機酸及び有機酸塩の選抜)
市販コーンスープ(クノール食品社製:通常は150ml/食でお湯を注いで喫食する)に180ml/食でお湯を注ぎ、塩化ナトリウム濃度が0.55重量%である、通常よりも塩化ナトリウム濃度が低減されたコーンスープを調製した。次に、当該コーンスープに、下記表2−1及び2−2に示す各種有機酸及び有機酸塩をそれぞれ添加し、官能評価用サンプルを調製した。各種有機酸及び有機酸塩は、官能評価用サンプル全体に対して0.01重量%又は0.03重量%となる量を添加した。
得られた各サンプルにおける塩味増強効果について、専門パネル2名により、以下の基準に従って官能評価を行った。また、異風味を感じたものについては、当該異風味に関するコメントを付した。結果を表2−1及び2−2に示す。
[評価基準]
◎:明確に効果あり
○:効果あり
△:弱い効果あり
×:効果なし
【0034】
【表2-1】
【0035】
【表2-2】
【0036】
表2−1及び2−2に示す結果から明らかなように、クエン酸、クエン酸塩、乳酸、リンゴ酸に塩味増強効果が認められた。中でもクエン酸塩は、異風味を伴うことなく塩味を増強した。
従って、クエン酸及びクエン酸塩に有効な塩味増強効果が認められた。
【0037】
(実施例1)
[ネガティブコントロール及びポジティブコントロールの調製]
市販コーンスープ(クノール食品社製:通常は150ml/食でお湯を注いで喫食する)に180ml/食でお湯を注ぎ、塩化ナトリウム濃度が0.55重量%である、通常よりも塩化ナトリウム濃度が低減されたコーンスープを調製し、ネガティブコントロールとした。
調製したネガティブコントロールに塩化ナトリウムを添加して、塩化ナトリウム濃度を0.65重量%としたコーンスープを調製し、ポジティブコントロールとした。なお、ポジティブコントロールの塩化ナトリウム濃度は、市販コーンスープに150ml/食でお湯を注いだものと同等である。
[実施例1−1〜1−5、比較例1−1〜1−4の調製]
調製したネガティブコントロールに、クエン酸三ナトリウム及びチキンエキス(日研フード社製)を添加し、実施例1−1〜1−5、比較例1−1〜1−4のコーンスープを調製した。クエン酸三ナトリウムは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0.03重量%となる量を添加し、チキンエキスは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0〜0.1重量%の範囲となる量を添加した。
[官能評価]
得られた各実施例及び比較例における「塩味の強さ」及び「全体の好ましさ」について、専門パネル3名により官能評価を行った。官能評価は、ポジティブコントロールと同等を「+++++」、ネガティブコントロールと同等を「−」とし、6段階で評点を付けることにより行った。また、異風味を感じたものについては、当該異風味に関するコメントを付した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3の結果から明らかなように、クエン酸三ナトリウムとチキンエキスを併用し、クエン酸三ナトリウムの量を、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.03重量%とした場合、チキンエキスの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.001〜0.1重量%の範囲で、併用による塩味増強効果が認められた。
中でもチキンエキスの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.005〜0.05重量%の範囲で強い塩味増強効果が認められた。
【0040】
(実施例2)
[ネガティブコントロール及びポジティブコントロールの調製]
市販コーンスープ(クノール食品社製:通常は150ml/食でお湯を注いで喫食する)に180ml/食でお湯を注ぎ、塩化ナトリウム濃度が0.55重量%である、通常よりも塩化ナトリウム濃度が低減されたコーンスープを調製し、ネガティブコントロールとした。
調製したネガティブコントロールに塩化ナトリウムを添加して、塩化ナトリウム濃度を0.65重量%としたコーンスープを調製し、ポジティブコントロールとした。なお、ポジティブコントロールの塩化ナトリウム濃度は、市販コーンスープに150ml/食でお湯を注いだものと同等である。
[実施例2−1〜2−6、比較例2−1〜2−5の調製]
調製したネガティブコントロールに、クエン酸三ナトリウム及びチキンエキス(日研フード社製)を添加し、実施例2−1〜2−6、比較例2−1〜2−5のコーンスープを調製した。チキンエキスは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0.01重量%又は0.03重量%となる量を添加し、クエン酸三ナトリウムは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0〜0.1重量%の範囲となる量を添加した。
[官能評価]
得られた各実施例及び比較例における「塩味の強さ」及び「全体の好ましさ」について、専門パネル3名により官能評価を行った。官能評価は、ポジティブコントロールと同等を「+++++」、ネガティブコントロールと同等を「−」とし、6段階で評点を付けることにより行った。また、異風味を感じたものについては、当該異風味に関するコメントを付した。結果を表4−1及び4−2に示す。
【0041】
【表4-1】
【0042】
【表4-2】
【0043】
表4−1及び4−2の結果から明らかなように、クエン酸三ナトリウムとチキンエキスを併用し、チキンエキスの量を、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.01重量%又は0.03重量%とした場合、クエン酸三ナトリウムの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.001〜0.1重量%の範囲で、併用による塩味増強効果が認められた。
中でもクエン酸三ナトリウムの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.005〜0.05重量%の範囲で強い塩味増強効果が認められた。
一方、クエン酸三ナトリウムの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.1重量%となると、0.05重量%の場合と比べて、塩カドが失われた。
【0044】
(実施例3)
[ネガティブコントロール及びポジティブコントロールの調製]
市販コーンスープ(クノール食品社製:通常は150ml/食でお湯を注いで喫食する)に180ml/食でお湯を注ぎ、塩化ナトリウム濃度が0.55重量%である、通常よりも塩化ナトリウム濃度が低減されたコーンスープを調製し、ネガティブコントロールとした。
調製したネガティブコントロールに塩化ナトリウムを添加して、塩化ナトリウム濃度を0.65重量%としたコーンスープを調製し、ポジティブコントロールとした。なお、ポジティブコントロールの塩化ナトリウム濃度は、市販コーンスープに150ml/食でお湯を注いだものと同等である。
[実施例3−1〜3−4、比較例3−1〜3−3の調製]
調製したネガティブコントロールに、クエン酸三ナトリウム及びチキンエキス(日研フード社製)を添加し、実施例3−1〜3−4、比較例3−1〜3−3のコーンスープを調製した。チキンエキスは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0.07重量%となる量を添加し、クエン酸三ナトリウムは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0〜0.07重量%の範囲となる量を添加した。
[実施例3−5〜3−7、比較例3−4〜3−6の調製]
調製したネガティブコントロールに、クエン酸三ナトリウム及びチキンエキスを添加し、実施例3−5〜3−7、比較例3−4〜3−6のコーンスープを調製した。クエン酸三ナトリウムは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0.07重量%となる量を添加し、チキンエキスは、調製した実施例及び比較例のコーンスープ全体に対して0〜0.05重量%の範囲となる量を添加した。
[官能評価]
得られた各実施例及び比較例における「塩味の強さ」及び「全体の好ましさ」について、専門パネル2名により官能評価を行った。官能評価は、ポジティブコントロールと同等を「+++++」、ネガティブコントロールと同等を「−」とし、6段階で評点を付けることにより行った。また、異風味を感じたものについては、当該異風味に関するコメントを付した。結果を表5−1及び5−2に示す。
【0045】
【表5-1】
【0046】
【表5-2】
【0047】
表5−1の結果から明らかなように、クエン酸三ナトリウムとチキンエキスを併用し、チキンエキスの量を、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.07重量%とした場合、クエン酸三ナトリウムの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.001〜0.07重量%の範囲で、併用による塩味増強効果が認められた。
中でもクエン酸三ナトリウムの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.005〜0.07重量%の範囲で強い塩味増強効果が認められた。
【0048】
表5−2の結果から明らかなように、クエン酸三ナトリウムとチキンエキスを併用し、クエン酸三ナトリウムの量を、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.07重量%とした場合、チキンエキスの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.001〜0.05重量%の範囲で、併用による塩味増強効果が認められた。
中でもチキンエキスの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.005〜0.05重量%の範囲で強い塩味増強効果が認められた。
【0049】
(実施例4)
[ネガティブコントロール及びポジティブコントロールの調製]
市販コーンスープ(クノール食品社製:通常は150ml/食でお湯を注いで喫食する)に180ml/食でお湯を注ぎ、塩化ナトリウム濃度が0.55重量%である、通常よりも塩化ナトリウム濃度が低減されたコーンスープを調製し、ネガティブコントロールとした。
調製したネガティブコントロールに塩化ナトリウムを添加して、塩化ナトリウム濃度を0.65重量%としたコーンスープを調製し、ポジティブコントロールとした。なお、ポジティブコントロールの塩化ナトリウム濃度は、市販コーンスープに150ml/食でお湯を注いだものと同等である。
[実施例4−1〜4−7の調製]
調製したネガティブコントロールに、クエン酸三ナトリウム及びチキンエキス(日研フード社製)を添加し、更にスーパー酵母エキス(味の素社製)を添加して実施例4−1〜4−7のコーンスープを調製した。クエン酸三ナトリウムは、調製した実施例のコーンスープ全体に対して0.03重量%となる量を添加し、チキンエキスは、調製した実施例のコーンスープ全体に対して0.03重量%となる量を添加し、スーパー酵母エキスは、調製した実施例のコーンスープ全体に対して0〜0.05重量%の範囲となる量を添加した。
[官能評価]
得られた各実施例4−1〜4−7における「塩味の強さ」及び「全体の好ましさ」について、専門パネル3名により官能評価を行った。官能評価は、ポジティブコントロールと同等を「+++++」、ネガティブコントロールと同等を「−」とし、6段階で評点を付けることにより行った。また、異風味を感じたものについては、当該異風味に関するコメントを付した。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6の結果から明らかなように、クエン酸三ナトリウム、チキンエキス及びスーパー酵母エキスを併用し、クエン酸三ナトリウム及びチキンエキスの量を、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して、それぞれ0.03重量%とした場合、スーパー酵母エキスの量が、塩味が増強されたコーンスープ全体に対して0.00075〜0.025重量%の範囲で、特に塩味増強効果、塩味の好ましさが向上した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、塩味が増強された、十分な満足感を有する飲食品及びその製造方法を提供し得る。また、本発明によれば、飲食品の塩味増強方法を提供し得る。