特許第6044164号(P6044164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044164
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/28 20060101AFI20161206BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H04R1/28 310D
   H04R1/02 101Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-176086(P2012-176086)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2013-70362(P2013-70362A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2015年6月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-196855(P2011-196855)
(32)【優先日】2011年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 安生
(72)【発明者】
【氏名】鬼束 博文
(72)【発明者】
【氏名】三木 晃
【審査官】 武田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−059208(JP,A)
【文献】 特開2000−125387(JP,A)
【文献】 特開2010−288220(JP,A)
【文献】 特開2008−131199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/28
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の対向面に囲まれた空間を内包する筐体と、
前記空間内に位置する第1および第2の開口端を有する開管であって、前記空間に発生する定在波の略半波長の整数倍の管長を有し、前記第1の開口端が前記空間に発生する定在波の略腹の位置に配置された開管と
を具備することを特徴とする音響装置。
【請求項2】
前記第2の開口端が前記空間において発生する定在波の略節の位置に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記一対の対向面の対向方向に前記定在波の略4分の1波長の奇数倍の長さだけ離れた各位置に前記第1および第2の開口端が位置することを特徴とする請求項1または2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記第2の開口端が前記空間において発生する定在波の略腹の位置に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の音響装置。
【請求項5】
前記開管が前記空間に発生する定在波の略半波長の奇数倍の管長を有し、前記第2の開口端が前記定在波の前記略腹の位置または前記略腹と同相の略腹の位置に配置されたことを特徴とする請求項4に記載の音響装置。
【請求項6】
前記開管が前記空間に発生する定在波の略半波長の偶数倍の管長を有し、前記第2の開口端が前記定在波の前記略腹と逆相の略腹の位置に配置されたことを特徴とする請求項4に記載の音響装置。
【請求項7】
前記第1および第2の開口端の一方の開口端または両方の開口端の全部または一部が通気性吸音素材により覆われていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1の請求項に記載の音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管共鳴を利用して定在波を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
音響機器などにおける壁に囲まれた空間では、空間内に固有周波数の音波が放射された場合に、空間の壁面間の音波の往復により定在波が発生してその音響特性に悪影響を及ぼすことが知られている。特許文献1〜3には、音響機器の1つであるスピーカ内における定在波を抑制する技術の開示がある。特許文献1に開示されたスピーカ装置は、スピーカユニットと、これを内蔵したキャビネットと、キャビネットの内部に設けられたヘルムホルツ型共鳴器とを有する。このスピーカ装置では、キャビネット内において発生する定在波と同じ周波数でヘルムホルツ型共鳴器が共鳴するようにそのネック長L及びキャビティ容積Vが設計されている。このスピーカ装置によると、キャビネット内において定在波が発生した場合に、ヘルムホルツ型共鳴器が共鳴現象を発現し、この共鳴現象によって定在波が減衰する。特許文献2に開示されたスピーカ装置は、スピーカユニットと、これを内蔵するキャビネットと、開口端と閉塞端とを有する音響管(閉管)とを有する。このスピーカ装置の音響管は、キャビネット内において発生する定在波の最低共振モードの1/4倍の管長Lを有している。この音響管は、その開口端の位置がキャビネット内における定在波の音圧の腹(粒子速度の節)の位置に近くなるような姿勢でキャビネット内に収められている。このスピーカ装置では、キャビネット内において定在波(管長Lの4倍の波長を持った定在波)が発生した場合に、音響管内において共鳴波が発生する。この共鳴波は、音響管の開口端に音圧の節(粒子速度の腹)を有し、閉塞端に音圧の腹(粒子速度の節)を有するものとなる。よって、このスピーカ装置によると、キャビネット内における音圧分布の偏りが緩和され、キャビネット内の定在波が減衰する。特許文献3にも、特許文献2と同様の技術の開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2606447号公報
【特許文献2】特許第3763682号公報
【特許文献3】特開2008−131199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2や3の技術は、空間における定在波の腹の位置と音響管における共鳴波の節の位置を合わせ、この位置において空間内における音圧分布を緩和することにより、定在波を低減するものである。従って、空間の中に収める音響管が閉管ではなく開管(両側が開いた管)であったとしても、空間内における定在波の腹の位置と開管における共鳴波の節の位置とが合うように開管を配置することさえできれば、特許文献2や3の技術と同様の効果が得られるはずであるが、このような技術は未だ実用化に至っていない。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、空間内において発生する定在波を開管の管共鳴を利用して抑制する技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、少なくとも一対の対向面に囲まれた空間を内包する筐体と、前記空間内に位置する第1および第2の開口端を有する開管であって、前記空間に発生する定在波の略半波長の整数倍の管長を有し、前記第1の開口端が前記空間に発生する定在波の略腹の位置に配置された開管とを具備することを特徴とする音響装置を提供する。
【0007】
この発明によれば、空間に定在波が発生すると、この定在波と共存し得ない定在波が開管内に発生するため、空間において発生する定在波が低減される。
【0008】
好ましい態様では、前記第2の開口端が前記空間において発生する定在波の略節の位置に配置されている。
【0009】
他の好ましい態様では、前記一対の対向面の対向方向に前記定在波の略4分の1波長の奇数倍の長さだけ離れた各位置に前記第1および第2の開口端が位置する。
【0010】
他の好ましい態様では、前記第2の開口端が前記空間において発生する定在波の略腹の位置に配置されている。
【0011】
他の好ましい態様では、前記第1および第2の開口端の一方の開口端または両方の開口端の全部または一部が通気性吸音素材により覆われている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態の一例であるスピーカの正面図である。
図2】本発明の第1実施形態の一例であるスピーカの正面図である。
図3】同スピーカの効果の第1の検証結果である周波数応答を示す図である。
図4】同スピーカ内における定在波と開管の開口端との位置関係を示す図である。
図5】同スピーカの開管内における共鳴波の波形を示す図である。
図6】同スピーカの効果の第2の検証の検証結果である周波数応答を示す図である。
図7】同スピーカの効果の第3の検証のために作成したバスレフ型スピーカの斜視図である。
図8】同スピーカの効果の第3の検証の検証結果である周波数応答を示す図である。
図9】同スピーカの効果の第3の検証の検証結果である周波数応答を示す図である。
図10】同スピーカの効果の第3の検証の検証結果である周波数応答を示す図である。
図11】本発明の第2実施形態の一例であるスピーカの正面図である。
図12】同スピーカの効果の検証結果である周波数応答を示す図である。
図13】同スピーカ内における定在波と開管の開口端との位置関係を示す図である。
図14】同スピーカの開管内における共鳴波の波形を示す図である。
図15】本発明の第3実施形態であるスピーカの正面図である。
図16】同スピーカの検証結果である周波数応答を示す図である。
図17】本発明の第4実施形態であるスピーカの正面図である。
図18】同スピーカの検証結果である周波数応答を示す図である。
図19】同スピーカの検証結果である周波数応答を示す図である。
図20】同スピーカの検証結果である周波数応答を示す図である。
図21】本発明の他の実施形態であるスピーカの正面図である。
図22】この発明による音響装置において筐体内の空間に発生する定在波と開管との関係を模式的にかつ網羅的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態を説明する。
<第1実施形態>
図1(A)は、本発明の第1実施形態の音響装置であるスピーカ9の正面図である。このスピーカ9は、キャビネット1と、キャビネット1の外側に固定されたスピーカユニット2と、キャビネット1内の空間Sに収められた開管10とを有する。キャビネット1は、スピーカ9の筐体としての役割を果たす部材である。キャビネット1は、上下方向に対向する壁面4U及び4Dと、前後方向に対向する壁面4F及び4Bと、左右方向に対向する壁面4L及び4Rとに囲まれた中空な直方体状をなしている。キャビネット1内の空間Sにおける上下幅H(壁面4U及び4D間の距離:例えば、H=1050mmとする)は、奥行き幅L(壁面4F及び4B間の距離:例えば、L=200mmとする)や左右幅W(壁面4L及び4R間の距離:例えば、W=300mmとする)よりも充分に大きくなっている。
【0014】
スピーカユニット2は、スピーカ9における音の発生源としての役割を果たす装置である。スピーカユニット2は、放音面を外側に向けてキャビネット1の壁面4Uの略中央に埋め込まれている。スピーカユニット2にはオーディオ装置(不図示)から電気信号が入力される。スピーカユニット2は、この電気信号を音波として放射する。ここで、スピーカユニット2から空間Sにその固有周波数と同じ周波数の音波が伝わった場合、音波が空間Sの壁面4U及び4D間を往復し、壁面4U及び4D間を往復する複数の音波が合わさって壁面4U及び4D間の距離の2/k(k=1,2…)倍の波長λ(k=1,2…)を持った定在波SW(k=1,2…)が発生する。
【0015】
開管10は、この定在波SWを低減させる役割を果たす部材である。この開管10は、抑圧対象の定在波SWのうち最も低次のもの(図1(A)の例では、1次の定在波SW)の略半波長分の管長を有している。この開管10は、一方の開口端11から他方の開口端12に至る途中の2点において90度ずつ屈曲したJ字状をなしている。この開管10は、以下に示す2つの条件a1及びb1を満たすような姿勢で空間S内に収められている。
a1.空間S内における抑圧対象の定在波SWのうち最も低次のものの音圧の略腹LPの位置と略節NDの位置に一方の開口端11と他方の開口端12が各々配置されること
b1.空間S内における壁面4U及び4Dの2つの対向面の対向方向に定在波SWの略4分の1波長分だけ離れた各位置に一方の開口端11と他方の開口端12が各々配置されること
【0016】
以上が、本実施形態であるスピーカ9の構成の詳細である。ここで、図1(A)の例では、1次の定在波SWの2つの腹LP1-1及びLP1-2のうち壁面4Uの側の腹LP1-1の位置に開口端11が配置され、2つの腹LP1-1及びLP1-2の間の節ND1-1の位置に開口端12が配置されている。しかし、図1(B)の例に示すように、壁面4Dの側の腹LP1-2の位置に開口端11が配置され、節ND1-1の位置に開口端12が配置されるような姿勢にしてもよい。図1(A)及び図1(B)に示すような姿勢で開管10を空間Sの中に収めることにより、空間S内における1次以上の定在波SWを低減させることができる。また、周知のように、スピーカ9のキャビネット1をなす壁面4U,4D,4L,4R,4F,4Bにおける1次の定在波SWの節ND1-1の位置に音の発生源がある場合、空間S内における奇数次の定在波SW,SW,SW‥がこの音の発生源の振動によって抑圧される(詳しくは、特許文献3を参照)。よって、図2の例のスピーカ9Aのように、1次の定在波SWの節ND1-1の位置にスピーカユニット2があるものについては、2次の定在波SWの略半波長分の管長を有する開管20を上述した条件a1及びb1を満たすような姿勢で空間S内に収めるようにしてもよい。このような姿勢で開管20を空間Sの中に収めることによっても、空間S内における1次以上の定在波SWを低減させることができる。
【0017】
ここで、発明者らは、本実施形態の効果を確認するための3つの検証を行った。まず、第1の検証の内容について説明する。第1の検証では、発明者らは、図1(A)の例のスピーカ9について、スピーカユニット2にテスト音信号ST(例えば、ホワイトノイズ)を入力し、スピーカユニット2から放射される音波を空間S内の測定点P(より具体的には、壁面4D,4B,及び4Rが交差する位置の内側近傍の測定点P(図1(A)参照))で測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9をシミュレーションにより計算した。また、スピーカ9から開管10を取り除いたスピーカ9’についても同様に、スピーカユニット2にテスト音信号STを入力し、スピーカユニット2から放射される音波を測定点Pで測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9’をシミュレーションにより計算した。図3は、周波数応答R−9及びR−9’を周波数軸を揃えて示したものである。
【0018】
図3を参照すると、周波数応答R−9及びR−9’のいずれにおいても、160Hz、320Hz、480Hz、650Hz、820Hz、960Hz付近にピークが現れている。そして、周波数応答R−9では、650Hz付近のピークの振幅が周波数応答R−9’のものとほぼ同じであるものの、160Hz、320Hz、480Hz、820Hz、970Hz付近のピークの振幅が周波数応答R−9’のものよりも小さくなっている。また、周波数応答R−9では、160Hz、320Hz、480Hz、820Hz、970Hz付近のピークが割れている。このことから、スピーカ9により空間S内における1次の定在波SW(160Hz)、2次の定在波SW(320Hz)、3次の定在波SW(480Hz)、5次の定在波SW(820Hz)、6次の定在波SW(970Hz)を抑制できることが確認された。
【0019】
発明者らは、この第1の検証の検証結果を踏まえ、図1(A)の例のスピーカ9によって4次を除く定在波SW、SW、SW、SW、SWが抑制される理由を次のように推測した。図4に示すように、スピーカ9では、空間S内における開管10の開口端11は定在波SWの腹LP1-1の位置に配置されている。この定在波SWの腹LP1-1の位置は、2次以降の定在波SW,SW,SW,SW…の腹LP2-1,LP3-1,LP4-1,LP5-1…にあたる。また、空間S内における開管10の開口端12は定在波SWの節ND1-1の位置に配置されている。この定在波SWの節ND1-1の位置は、2次以降の偶数次の定在波SW,SWの腹LP2-2,LP4-3、及び3次以降の奇数次の定在波SW,SWの節ND3-2,ND5-3にあたる。よって、空間S内において定在波SW(k=1,2…)が発生した場合、開管10の開口端11の近傍の媒質(空気)は奇数次と偶数次の定在波SWの腹LPの位置の音圧変化によって加振され、開口端12の近傍の媒質(空気)は偶数次の定在波SWの腹LPの位置の音圧変化によって加振される。
【0020】
ここで、空間S内の1次の定在波SWと開管10内の媒質(空気)の挙動との関係に着目すると、開管10内では、開口端11の近傍の媒質(空気)が定在波SWの腹LP1−1の音圧変化により加振され、開口端11から開口端12に向かう進行波TWが発生する。この進行波TWは、開管10内を伝わって開口端12に到達する。空間Sにおける開管10の開口端12が配置されている位置は定在波SWの節ND1−1の位置であるから、進行波TWが開口端12に到達しても開口端12の近傍の媒質(空気)は殆ど振動しない。このため、進行波TWが開口端12に到達すると、開口端12において反射波RWが発生する。そして、開管10内においてこの反射波RWと進行波TWが合成されると、定在波SWと同じ波長λを持った共鳴波XWが発生する。この共鳴波XWは、進行波TWとこの進行波TWを開口端12で反射させた反射波RWとを合成してできたものであるから、図5(A)に示すように、この共鳴波XWにおける開口端11の側と開口端12の側は各々節NDになる。このため、開口端11の位置において定在波SWの音圧分布が緩和される。発明者らは、定在波SWが減衰されるのは以上のような理由によると推測した。また、開口端12の位置に節NDがあることは奇数次の全ての定在波SWについても同様である。よって、発明者らは、3次以上の奇数次の定在波SW,SW,SW…も定在波SWと同じ理由によって減衰されると推測した。
【0021】
次に、空間S内の2次の定在波SWと開管10内の媒質(空気)の挙動との関係に着目すると、開管10内では、開口端11及び12の近傍の媒質(空気)が定在波SWの腹LP2-1及びLP2-2の音圧変化により加振され、互いの進行方向が逆で互いの間にπの位相差を持った進行波TW及びTW”が発生する。進行波TW及びTW”がπの位相差を持ったものとなるのは、定在波における隣り合う2つの腹LPの音圧はπの位相差を持って変化しているからである。そして、開管10内において進行波TW及びTW”が合成されると、定在波SWと同じ波長λを持った共鳴波XWが発生する。この共鳴波XWはπの位相差を持った進行波TW及びTW”を合成してできるものであるから、図5(B)に示すように、この共鳴波XWにおける開口端11及び12間の真中は節NDになる。また、開管10の管長(1次の定在波SWの半波長分の管長)は定在波SWの波長λ(λ=λ/2)と同じであるから、開口端11及び12間の真中が節NDになれば開口端11及び12の側もまた節NDになる。このため、開口端11及び12の位置において定在波SWの音圧分布が緩和される。発明者らは、定在波SWが減衰されるのは以上のような理由によると推測した。また、開口端11の位置の音圧と開口端12の位置の音圧がπの位相差を持って変化することは6次の定在波SWや10次の定在波SW10についても同様である。よって、発明者らは、6次の定在波SWや10次の定在波SW10も2次の定在波SWと同様の理由によって減衰されると推測した。
【0022】
次に、空間S内の4次の定在波SWと開管10内の媒質(空気)の挙動との関係に着目すると、開管10内では、開口端11及び12の近傍の媒質(空気)が定在波SWの腹LP4-1及び4-2の音圧変化により加振され、互いの進行方向が逆で同じ位相を持った進行波TW及びTW’が発生する。進行波TW及びTW’が同位相となるのは、定在波SWにおける1つの腹LPを間に挟んで隔てられた2つ腹LPの音圧は、同位相で変化しているからである。そして、開管10内において進行波TW及びTW’が合成されると、定在波SWと同じ波長λを持った共鳴波XWが発生する。この共鳴波XWは、同位相の進行波TW及びTW’を合成してできるものであるから、図5(C)に示すように、この共鳴波XWにおける開口端11及び12間の真中は腹LPになる。また、開管10の管長(1次の定在波SWの半波長分の管長)は定在波SWの波長λ(λ=λ/4)の2倍であるから、開口端11及び12間の真中が腹LPになれば開口端11及び12の側もまた腹LPになる。このため、開口端11及び12の位置では定在波SWの音圧分布が緩和されない。発明者らは、4次の定在波SWだけ減衰が起こらなかったのは以上の理由によると推測した。また、開口端11の位置の音圧と開口端12の位置の音圧が同位相で変化することは8次の定在波SWについても同様である。よって、発明者らは、8次の定在波SWも4次の定在波SWと同様の理由によって減衰が起こらないと推測した。
【0023】
次に、第2の検証の内容について説明する。第2の検証では、発明者らは、図2に示したスピーカ9Aについて、スピーカユニット2にテスト音信号STを入力し、スピーカユニット2から放射される音波を空間S内の測定点P(より具体的には、壁面4D,4B,及び4Rが交差する位置の内側近傍の測定点P(図2参照))で測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9Aをシミュレーションにより計算した。また、スピーカ9Aから開管10を取り除いたスピーカ9A’についても同様に、スピーカユニット2にテスト音信号STを入力し、スピーカユニット2から放射される音波を測定点Pで測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9A’をシミュレーションにより計算した。図6は、周波数応答R−9A及びR−9A’を周波数軸を揃えて示したものである。
【0024】
図6を参照すると、周波数応答R−9A及びR−9A’のいずれにおいても、160Hz、320Hz、480Hz、650Hz、820Hz、970Hz付近にピークが現れているものの、周波数応答R−9Aでは、160Hz、320Hz、480Hz、650Hz、820Hz、970Hz付近のピークの振幅が周波数応答9−A’のものよりも小さくなっている。また、周波数応答R−9Aでは、320Hz、480Hz、650Hz、820Hz、970Hz付近のピークが割れている。このことから、スピーカ9Aにより空間S内における1次〜6次までの定在波SW〜SWを抑制できることが確認された。
【0025】
次に、第3の検証の内容について説明する。第3の検証では、発明者らは、バスレフ型スピーカの中に2次の定在波SWの略半波長分の管長を持った開管を収めてその周波数応答を実測した。より具体的に説明すると、図7に示すように、バスレフ型スピーカSPBSの内部の空間S(縦幅H(H=1050mm)、横幅W(W=200mm)、奥行きL(L=300mm)の寸法の空間S)の中に2次の定在波SWの略半波長分の管長の開管OPを上記条件a1及びb1を満たすような姿勢で収容したものをスピーカ9ABSとした。また、スピーカ9ABSから開管OPを除去したものをスピーカ9ABS’とした。
【0026】
その上で、スピーカ9ABS及び9ABS’における中央のスピーカユニットSUCNTの正面近傍の位置を第1の測定点P−1とし、スピーカ9ABS及び9ABS’におけるバスレフポートBPの正面近傍の位置を第2の測定点P−2とし、スピーカユニットSUCNTのある側と反対の壁面の略中央の内側の位置を第3の測定点P−3とした。そして、スピーカ9A及び9A’のスピーカユニットSUCNTに音信号を入力し、この音信号に応じてスピーカユニットSUCNTから放射される音波を測定点P−1、P−2、P−3で測定した。
【0027】
そして、スピーカ9ABSについて、スピーカユニットSUCNTの入力信号STと測定点P−1、P−2、P−3における測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9ABS,R−9ABS,R−9ABSを算出した。スピーカ9ABS’についても同様に、スピーカユニットSUCNTの入力信号STと測定点P−1、P−2、P−3における測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9ABS’,R−9ABS’,R−9ABS’を算出した。図8は、周波数応答R−9ABS及びR−9ABS’を周波数軸を揃えて示したものである。図9は、周波数応答R−9ABS及びR−9ABS’を周波数軸を揃えて示したものである。図10は、周波数応答R−9ABS及びR−9ABS’を周波数軸を揃えて示したものである。
【0028】
図8図9図10における周波数応答R−9ABS’,R−9ABS’,R−9ABS’では、300Hz付近にピークが発生している。これは、バスレフ型スピーカSPBSにおけるバスレフポートBPの共鳴によっては2次の定在波SWを効果的に抑制できていないことを示すものである。これに対し、周波数応答R−9ABS,R−9ABS,R−9ABSでは、300Hz付近にピークが2つに割れており、各々の振幅が周波数応答R−9ABS’,R−9ABS’,R−9ABS’のそれより小さくなっている。このことから、スピーカ9ABSにより抑圧対象である2次の定在波SWを抑制できることが確認された。
【0029】
ここで、上述した第2の検証の検証結果(図6)では、1次〜6次までの定在波SW〜SWを抑制できることが確認されたのに対し、第3の検証の検証結果(図8図9図10)では、3次〜6次の高次の定在波SW〜SWを抑制できることを確認できなかった。発明者らはこの理由を次のように推測した。仮に、スピーカ9ABS内が完全な密閉空間であったならば、2次以降の定在波SW,SW,SW…の波長λ,λ,λ…は1次の定在波SWの波長λの整数倍と一致する。しかし、スピーカ9ABSのバスレフポートBPのような付加要素がある場合、2次以降の定在波SW,SW,SW…のλ,λ,λは1次の定在波SWの整数倍と一致しない場合がある。これに対し、スピーカ9ABSの開管OP内における2次以降の共鳴波XW,XW,XW…の波長は常に1次の共鳴波XWの整数倍と一致する。このため、スピーカ9ABSでは、高次の定在波SWと共鳴波XWとの間に周波数の不一致が発生する場合がある。発明者らは、以上の理由から、スピーカ9ABSでは3次〜6次の定在波SW〜SWが抑制されなかったと推測した。
【0030】
<第2実施形態>
図11(A)は、本発明の第2実施形態の音響装置であるスピーカ9Bの正面図である。このスピーカ9Bは、スピーカ9(第1実施形態)におけるキャビネット1の空間S(壁面4U及び4D、壁面4F及び4B、並びに壁面4L及び4Rの3対の対向面に囲まれた中空な空間S)の中の開管10を開管30に置き換えたものである。この開管30は、1次の定在波SWの略半波長分の管長を有している。この開管30はU字状をなしている。そして、この開管30は、以下に示す条件c1を満たすような姿勢で空間S内に収められている。
c1.空間S内における抑圧対象の定在波SWのうち最も低次のものの同じ腹LPの位置またはその近傍に開管30の両方の開口端31及び32が配置されること
【0031】
以上が、本実施形態であるスピーカ9Bの構成の詳細である。ここで、図11(A)の例では、1次の定在波SWの2つの腹LP1-1及びLP1-2のうち壁面4Uの側の腹LP1-1の位置に開口端31及び32が配置されている。しかし、図11(B)の例に示すように、壁面4Dの側の腹LP1-2の位置に開口端31及び32が配置されるような姿勢にしてもよい。図11(A)または図11(B)に示すような姿勢で開管30を空間Sの中に収めることにより、空間S内における1次以上の定在波SWを低減させることができる。
【0032】
発明者らは、本実施形態の効果を確認するため、以下の検証を行った。発明者らは、図11(A)の例のスピーカ9Bについて、スピーカユニット2にテスト音信号STを入力し、スピーカユニット2から放射される音波を空間S内の測定点P(より具体的には、壁面4D,4B,及び4Rが交差する位置の内側近傍の測定点P(図11(A)参照))で測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9Bをシミュレーションにより計算した。また、スピーカ9Bから開管30を取り除いたスピーカ9B’についても同様に、スピーカユニット2にテスト音信号STを入力し、スピーカユニット2から放射される音波を測定点Pで測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9B’をシミュレーションにより計算した。図12は、周波数応答R−9B及びR−9B’を周波数軸を揃えて示したものである。
【0033】
図12を参照すると、周波数応答R−9B及びR−9B’のいずれにおいても、160Hz、320Hz、480Hz、650Hz、820Hz、970Hz付近にピークが現れている。そして、周波数応答R−9Bでは、320Hz、650Hz、970Hz付近のピークの振幅は周波数応答R−9B’のものとほぼ同じであるものの、160Hz、480Hz、820Hz付近のピークの振幅は周波数応答R−9B’のものよりも小さくなっている。また、周波数応答R−9Bでは、160Hz、480Hz、820Hz付近のピークが割れている。このことから、スピーカ9Bによると空間S内における1次の定在波SW(160Hz)、3次の定在波SW(480Hz)、5次の定在波SW(820Hz)を抑制できることが確認された。
【0034】
発明者らは、この検証結果を踏まえ、スピーカ9Bの空間S内において定在波SW、SW、SWが抑制される理由を次のように推測した。図13に示すように、スピーカ9Bでは、空間S内における開管30の2つの開口端31及び32の両方が定在波SWの腹LP1-1の位置に配置されている。この定在波SWの腹LP1-1の位置は、2次以降の定在波SW,SW,SW,SW,SW…の腹LP2-1,LP3-1,LP4-1,LP5-1…にあたる。よって、空間S内において定在波SW(k=1,2…)が発生した場合、開管30の開口端31及び32の近傍の媒質(空気)は各定在波SWの腹LPの位置の音圧変化によって加振される。
【0035】
ここで、空間S内の1次の定在波SWと開管30内の媒質(空気)の挙動との関係に着目すると、開管30内では、開口端31及び32の近傍の媒質(空気)が定在波SWの腹LP1-1の音圧変化により加振され、互いの進行方向が逆で同じ位相を持った進行波TW及びTW’が発生する。進行波TW及びTW’が同位相となるのは、進行波TW及びTW’の発生源が同じだからである。そして、開管30内において進行波TW及びTW’が合成されると、定在波SWと同じ波長λを持った共鳴波XWが発生する。この共鳴波XWは、同位相の進行波TW及びTW’を合成してできるものであるから、図14(A)に示すように、この共鳴波XWにおける開口端31及び32間の真中は腹LPになる。開管30の管長は定在波XWの半波長分の長さλ/2と同じであるから、開口端31及び32間の真中が腹LPになると開口端31及び32の側は節NDになる。このため、開口端31及び32の位置において定在波SWの音圧分布が緩和される。発明者らは、定在波SWが減衰されるのは以上の理由によると推測した。また、開管30の開口端31及び32の近傍の媒質(空気)が定在波SW,SW,SW…により加振されてできる共鳴波XW,XW,XW…も、開口端31及び32の側は節NDになる。よって、発明者らは、3次以降の奇数次の定在波SW,SW,SW…も定在波SWと同じ理由によって減衰されると推測した。
【0036】
次に、空間S内の2次の定在波SWと開管30内の媒質(空気)の挙動との関係に着目すると、開管30内では、開口端31及び32の近傍の媒質(空気)が定在波SWの腹LP2-1の音圧変化により加振され、互いの進行方向が逆で同じ位相を持った進行波TW及びTW’が発生する。そして、開管30内において進行波TW及びTW’が合成されると、定在波SWと同じ波長λを持った共鳴波XWが発生する。図14(B)に示すように、この共鳴波XWにおける開口端31及び32間の真中は腹LPになる。開管30の管長は定在波XWの波長λと同じであるから、開口端31及び32間の真中が腹LPになれば開口端31及び32の側もまた腹LPになる。このため、開口端31及び32の位置において定在波SWの音圧分布は緩和されない。発明者らは、定在波SWの減衰が起こらないのは以上の理由によると推測した。また、開管30の開口端31及び32の近傍の媒質(空気)が定在波SW,SW,SW…により加振されてできる共鳴波XW,XW,XW…も、開口端31及び32の側は腹LPになる。よって、発明者らは、4次以降の偶数次の定在波SW,SW,SW…も定在波SWと同じ理由によって減衰が起こらないと推測した。
【0037】
<第3実施形態>
図15は、本発明の第3実施形態であるスピーカ9Dの正面図である。このスピーカ9Dは、キャビネット1’と、キャビネット1’の外側に固定されたスピーカユニット2’と、キャビネット1’内の空間S’に収められた開管40’とを有する。キャビネット1’は、上下方向に対向する壁面4U’及び4D’と、前後方向に対向する壁面4F’及び4B’と、左右方向に対向する壁面4L’及び4R’とに囲まれた中空な直方体状をなしている。キャビネット1’内の空間S’における左右幅W’(壁面4L’及び4R’間の距離:例えば、W’=430mmとする)は、奥行き幅L’(壁面4F’及び4B’間の距離:例えば、L’=200mmとする)よりも大きくなっている。また、空間S‘における上下幅H’(壁面4U’及び4D’間の距離:例えば、H’=1050mmとする)は左右幅W’よりも大きくなっている。
【0038】
このスピーカ9Dのスピーカユニット2’は、キャビネット1’の壁面4F’の略中央(空間S'において発生する1次の定在波SWの節ND1-1の位置)に固定されている。スピーカ9Dの開管40’は、空間S'において発生する2次の定在波SWの略半波長分の管長を持った直線状をなしている。この開管40’は、壁面4U’及び4D’の2つの対向面の対向方向に対して傾いた姿勢で空間S’内における壁面4F’上に固定されている。この開管40’の開口端41’は定在波SWの略節ND2−1の位置に配置されており、開口端42’は定在波SWの略腹LP2−2の位置に配置されている。このスピーカ9Dによると、壁面4U’及び4D’の対向方向に発生している定在波SWを抑制することができる。また、このスピーカ9Dでは、開管40’が一直線状をなしているため、開管40’の加工をスピーカ9〜9Cの場合よりも簡単に行うことができる。
【0039】
ここで、発明者らは、本実施形態の効果を確認するため、次のような検証を行った。発明者らは、図15に示したスピーカ9Dについて、スピーカユニット2’にテスト音信号STを入力し、スピーカユニット2’から放射される音波を空間S’内の測定点P(より具体的には、壁面4D’,4B’,及び4R’が交差する位置の内側近傍の測定点P(図15参照))で測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9Dをシミュレーションにより計算した。また、スピーカ9Dから開管40’を取り除いたスピーカ9D’についても同様に、スピーカユニット2’にテスト音信号STを入力し、スピーカユニット2’から放射される音波を測定点Pで測定した場合における入力信号STと測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9D’をシミュレーションにより計算した。図16は、周波数応答R−9D及びR−9D’を周波数軸を揃えて示したものである。
【0040】
図16を参照すると、周波数応答R−9D及びR−9D’のいずれにおいても、300Hz付近にピークが現れている。しかし、周波数応答R−9D’では、300Hz付近のピークの振幅が周波数応答R−9Dのものよりも小さくなっている。また、周波数応答R−9Dでは、300Hz付近のピークが割れている。このことから、スピーカ9D’により空間S’内における2次の定在波SWを抑制できることが確認された。
【0041】
<第4実施形態>
図17は、本発明の第4実施形態であるスピーカ9Eの正面図である。このスピーカ9Eは、図2に示したスピーカ9Aにおける開管20の両方の開口端を通気性吸音素材(例えば、不織布とする)により覆ったものである。なお、図17の例では、開管20の両方の開口端の全部が通気性吸音素材により覆われているが、開口端の一部だけを通気性吸音素材により覆ってもよい。周知のように、通気性吸音素材は、それにより外部と隔てられた空間の周波数応答におけるピークやディップを訛らせる性質を有している。よって、本実施形態によると、2次の定在波SWの抑制量を第1実施形態よりも大きくすることができる。
【0042】
ここで、発明者らは、本実施形態の効果を確認するため、以下の検証を行った。発明者らは、第1実施形態の検証で用いたスピーカ9ABSにおける開管OPの両方の開口端を通気性吸音素材により覆ったものをスピーカ9EBSとした。その上で、このスピーカ9EBSについて、スピーカユニットSUCNTの入力信号STと測定点P−1、P−2、P−3における測定信号SMのスペクトルの差である周波数応答R−9EBS,R−9EBS,R−9EBSを算出した。図18は、周波数応答R−9EBSと第1実施形態の検証で用いた周波数応答R−9ABS’(図8)を周波数軸を揃えて示したものである。図19は、周波数応答R−9EBSと第1実施形態の検証で用いた周波数応答R−9ABS’(図9)を周波数軸を揃えて示したものである。図20は、周波数応答R−9EBSと第1実施形態の検証で用いた周波数応答R−9ABS’(図10)を周波数軸を揃えて示したものである。
【0043】
図18図19図20を参照すると、周波数応答R−9ABS’,R−9ABS’,R−9ABS’では、300Hz付近に急峻なピークが発生しているのに対し、周波数応答R−9EBS,R−9EBS,R−9EBSでは、300Hz付近の振幅が略平坦になっている。このことから、スピーカ9EBSでは、図7に示したバスレフ型スピーカ9ABSに比べて2次の定在波SWを抑制量が大きくなることが確認された。
【0044】
以上、この発明の実施形態を説明したが、この発明には、他にも各種の実施形態が考えられる。例えば、以下の通りである。
【0045】
(1)上記第1実施形態におけるスピーカ9及び9Aの空間Sの中の開管10及び20を、J字と異なる形状をなすものに置き換えもよい。例えば、図21に示すスピーカ9Fのように、図2の例のスピーカ9Aの開管20を螺旋形状をなす開管20”に置き換えた構成としてもよい。この場合において、空間Sにおける定在波SWの略腹LPの位置に開管20”の開口端21”を配置し、定在波SWの略節NDの位置に開口端22”を配置するとよい。この構成によっても、第1実施形態と同じ効果を奏することができる。また、開管10や開管20をジグザグ状(例えば、W字状、N字状、Z字状、S字状など)にしてもよい。また、スピーカ9、9A、9B、9C、9Eをそのキャビネット1内の開管10、20、30、40の屈曲部分の一部がキャビネット1の外側に食み出すような形状とし、開管10、20、30、40におけるキャビネット1の外側に食み出した部分をスピーカ9、9A、9B、9C、9Eを把持するための取っ手として利用できるようにしてもよい。
【0046】
(2)上記第1乃至第4実施形態は、スピーカ9、9A、9B、9C、9Eのキャビネット内の空間の定在波SWの抑制に本発明を適用したものであった。しかし、少なくとも一対の対向面に囲まれた空間を内包する筐体(音響室)を持った別の種類の音響機器や、輸送機、住宅などの定在波の抑制に本発明を適用してもよい。例えば、アコースティックピアノ、電子ピアノ、ギターの筐体の中の空間における定在波の抑制に本発明を適用してもよい。また、車、電車、飛行機、バイク、水上バイク、船舶、ロケットの筐体の中の空間における定在波の抑制に本発明を適用してもよい。また、防音室、教室、公演室などの壁に囲まれた空間の中における定在波の抑制に本発明を適用してもよい。
【0047】
(3)上記第3実施形態では、開管40’は壁面4U’及び4D’間の対向方向に対して傾いた姿勢で空間S’内における壁面4F’上に固定されていた。しかし、開管40’を壁面4U’及び4D’間の対向方向に対して傾いた姿勢で空間S’内における壁面4B’上に固定してもよい。また、開管40’は壁面4U’及び4D’間の対向方向に対して傾いた姿勢で空間S’内に収められていればよく、壁面4F’や壁面4B’に固定する必要はない。例えば、開管40’の開口端41’を壁面4F’及び4L’の交差位置の近傍に配置し、その開口端42’を壁面4B’及び4R’の交差位置の近傍に配置してもよい。また、これとは逆に、開管40’の開口端42’を壁面4F’及び4L’の交差位置の近傍に配置し、その開口端41’を壁面4B’及び4R’の交差位置の近傍に配置してもよい。
【0048】
(4)上記第3実施形態では、開管40’は直線状をなしていた。しかし、この開管40’をJ字状やU字状、あるいはその他の形状に屈曲させてもよい。
【0049】
(5)上記第4実施形態は、スピーカ9Aにおける開管20の両方の開口端を通気性吸音素材により覆ったものであった。しかし、開管20の一方の開口端を通気性吸音素材により覆ってもよい。また、図1(A)及び図1(B)に示したスピーカ9の開管10の一方または両方の開口端を通気性吸音素材により覆ってもよい。また、図11(A)及び図11(B)に示したスピーカ9Bの開管30の一方または両方の開口端を通気性吸音素材により覆ってもよい。また、図15に示したスピーカ9Dの開管40’の一方または両方の開口端を通気性吸音素材により覆ってもよい。
【0050】
(6)上記第4実施形態では、通気性吸音素材の1つである不織布により開管20の両方の開口端を覆った。しかし、ウレタンフォームや発泡樹脂のような連続気泡の多孔質材や、グラスウール、アルミ発泡金属、金属繊維板、木片やその砕片、木質繊維、パルプ繊維、MPP(Microperforated Panel)、牛毛フェルト、反毛フェルト、羊毛、綿、不織布、布、合成繊維、木粉成形材、紙成形材のように多孔質材とみなせる構造をもった部材などを不織布の代わりに用いてもよい。
【0051】
(7)上記第1実施形態乃至第4実施形態における開管10及び30は1次の定在波SWの略半波長の管長を有していた。しかし、1次の定在波SWの抑圧の必要がない場合は、開管10及び30の管長を2次以降の定在波SWの略半波長の長さにしてもよい。同様に、開管20及び40’の管長を3次以降の定在波SWの略半波長の長さにしてもよい。
【0052】
(8)上記第1、第2、及び第4実施形態において、異なる管長を持った複数種類の開管10、20、及び30をキャビネット1内の空間Sに収めてもよい。また、第3実施形態において、異なる管長を持った複数種類の開管40’をキャビネット1’内の空間S’に収めてもよい。また、第3実施形態において、壁面4U’及び4D’の対向方向、壁面4F’及び4B’の対向方向、壁面4L’及び4R’の対向方向に発生する定在波SWのうちの複数種類の定在波SWを抑制するため、傾きの方向を異にする複数種類の開管40’をキャビネット1’内の空間S’に収めてもよい。
【0053】
(9)上記第1、第2、及び第4実施形態は、キャビネット1内の空間Sにおける壁面4U及び4D方向の定在波SWを抑圧対象とするものであった。しかし、壁面4F及び4B方向の定在波や壁面4L及び4R方向の定在波を抑圧対象とし、これらの定在波を抑制する役割を果たす開管を、開管10、20、30に替えて、または、開管10、20、30と併せて空間S内に収めてもよい。
【0054】
(10)この発明の特徴は、筐体の1対の対向面に囲まれた空間に発生する定在波を低減するための手段として、同定在波と共存し得ない定在波を発生する開管を筐体に設けた点にある。図22(a)〜(f)は、この発明による音響装置において筐体内の空間に発生する定在波と開管との関係を模式的にかつ網羅的に示す図である。これらの図には、音響装置の筐体に設ける開管L2と、この開管L2の第1の開口端N1と第2の開口端N2と、筐体内の一対の対向面の対向方向における第1の開口端N1から第2の開口端N2までの長さL1とが示されている。
【0055】
図22(a)に示す例は、上記第1実施形態(図1)において開示した態様である。図22(b)に示す例は、上記第3実施形態(図11)において開示した態様である。図22(b)に示す態様の変形例として、図22(c)に示す態様、図22(d)に示す態様が考えられる。これらの態様においても、壁面4Uおよび4D間に発生する定在波と共存し得ない定在波を開管が発生するため、壁面4Uおよび4D間に発生する定在波が低減される。
【0056】
この場合、開管の形状は如何なるものであってもよく、図22(e)に示すようにキャビネット1の外に出ていてもよい。また、図22(f)に示すように、開管はキャビネット1の外に出ており、かつ、弦巻状になっていてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…キャビネット、2…スピーカユニット、4U,4D,4F,4B,4L,4R…壁面、9,9A,9B,9C,9D,9E…スピーカ、10,20,30,40…開管、11,12,31,32,41,42…開口端。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
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図21
図22