(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記応力状態設定工程は、前記解析モデルの一部に荷重を与える方向として、予め成形した成形品においてスプリングバックが発生した方向を設定するものであることを特徴とする請求項1記載又は2に記載のプレス成形品のスプリングバック抑制対策方法。
前記剛性向上手段は、前記解析モデルについて、前記剛性寄与部位検出工程で検出された部位に基づいて、板厚を厚くすること、ヤング率を向上させること、他の板を貼り付けること、凸形状及び/又は凹形状を付与することのいずれか又は適宜選択した複数の手段を講ずるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプレス成形品のスプリングバック抑制対策方法。
前記応力状態設定手段は、前記解析モデルの一部に荷重を与える方向として、予め成形した成形品においてスプリングバックが発生した方向を設定するものであることを特徴とする請求項5記載又は6に記載のプレス成形品のスプリングバック抑制対策解析装置。
前記剛性向上手段は、前記解析モデルについて、前記剛性寄与部位検出手段で検出された部位に基づいて、板厚を厚くすること、ヤング率を向上させること、他の板を貼り付けること、凸形状及び/又は凹形状を付与することのいずれか又は適宜選択した複数の手段を講ずるものであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のプレス成形品のスプリングバック抑制対策解析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようにプレス型によってスプリングバックを抑制する場合、効果が期待できるプレス成形品の形状が極めて限定的であるし、特種なプレス型を製造することからコスト高ともなる。
また、特許文献2のようにスプリングバックの要因分析を行うことは有用ではあるが、要因分析結果に基づく対策がどの程度効果があるかは不明である。
このように、従来のスプリングバック抑制対策技術は、不十分であるといわざるを得ないのが現状であり、より効果的なスプリングバック対策方法が望まれていた。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、スプリングバックをより確実に抑制できる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のスプリングバック抑制対策の考え方は、例えば特許文献2に示されるように、要因を分析してそれに対する対策を講ずるというように、要因分析と対策とを切り離していた。
そのため、適切な要因分析ができたとしても、その要因に基づく対策が要因と直接結びつけることが難しく、効果的なスプリングバック抑制が期待できない。
【0009】
発明者は要因を分析して対策を講ずるという従来の発想から、要因分析と対策を一体として考えることを発想した。
そこで、まず着目したのが、部品の剛性が高ければ、プレス成形時の残留応力に起因するスプリングバックの駆動力があってもスプリングバックを抑制できるということであり、当該部品の剛性を向上させることでスプリングバックを抑制することを考えた。
部品の剛性を向上させる一般的な方法として、部品に例えば凸形状を付与することで剛性を向上させることは可能である。
【0010】
しかし、スプリングバック抑制との関係で重要なことは、部品のどの部位にどのような形状を付与するかということであり、スプリングバックが発生する要因を無視することはできない。
そこで、発明者は、スプリングバック抑制対策の対象となる部品について、スプリングバックが生ずる応力状態を付与し、その場合に当該部品のどの部位の剛性が必要であるかを求めることで、スプリングバックが生ずる要因に対する直接的かつ効果的な対策を講ずることができるという知見を得た。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0011】
(1)本発明に係るプレス成形品のスプリングバック抑制対策方法は、金属板をプレス加工することで成形される部品に生ずるスプリングバックを、成形される部品の剛性を向上して抑制するスプリングバック抑制対策方法であって、
平面要素及び/又は立体要素を用いて前記部品の解析モデルを生成する解析モデル生成工程と、該生成した解析モデルの各要素にスプリングバックを生じさせる応力状態を設定する応力状態設定工程と、
該応力状態設定工程で応力状態を設定した前記解析モデルについて与えられた解析条件を満たすための必要最小限の要素を残す解析であって、当該必要最小限の要素のみからなる部位を最適部位とする形状最適化解析を行い剛性に寄与の高い部位を検出する剛性寄与部位検出工程と、
該剛性寄与部位検出工程で検出された部位に基づいて前記部品の剛性向上のための手段を講じる剛性向上工程とを備え、
前記応力状態設定工程は、前記解析モデルの一部を拘束して、他の一部に曲げ荷重及び/又はねじり荷重を与えることで前記解析モデルに応力状態を生じさせて、該応力状態を前記解析モデルの各要素に設定するものであることを特徴とするものである。
【0013】
(
2)また、上記(
1)に記載のものにおいて、前記応力状態設定工程は、前記解析モデルの一部を拘束する際の拘束点として、スプリングバック評価点を設定するものであることを特徴とするものである。
【0014】
(
3)また、上記(
1)又は(
2)に記載のものにおいて、前記応力状態設定工程は、前記解析モデルの一部に荷重を与える方向として、予め成形した成形品においてスプリングバックが発生した方向を設定するものであることを特徴とするものである。
【0016】
(
4)また、上記(
1)乃至(
3)のいずれかに記載のものにおいて、前記剛性向上手段は、前記解析モデルについて、前記剛性寄与部位検出工程で検出された部位に基づいて、板厚を厚くすること、ヤング率を向上させること、他の板を貼り付けること、凸形状及び/又は凹形状を付与することのいずれか又は適宜選択した複数の手段を講ずるものであることを特徴とするものである。
【0017】
(
5)本発明に係るプレス成形品のスプリングバック抑制対策解析装置は、金属板をプレス加工することで成形される部品に生ずるスプリングバックを、成形される部品の剛性を向上して抑制するスプリングバック抑制対策装置であって、
平面要素及び/又は立体要素を用いて前記部品の解析モデルを生成する解析モデル生成手段と、
該生成した解析モデルの各要素にスプリングバックを生じさせる応力状態を設定する応力状態設定手段と、
該応力状態設定手段で応力状態を設定した前記解析モデルについて与えられた解析条件を満たすための必要最小限の要素を残す解析であって、当該必要最小限の要素のみからなる部位を最適部位とする形状最適化解析を行い剛性に寄与の高い部位を検出する剛性寄与部位検出手段と、
該剛性寄与部位検出手段で検出された部位に基づいて前記部品の剛性向上のための手段を講じる剛性向上手段とを備え、
前記応力状態設定手段は、前記解析モデルの一部を拘束して、他の一部に曲げ荷重及び/又はねじり荷重を与えることで前記解析モデルに応力状態を生じさせて、該応力状態を前記解析モデルの各要素に設定するものであることを特徴とするものである。
【0019】
(
6)また、上記(
5)に記載のものにおいて、前記応力状態設定手段は、前記解析モデルの一部を拘束する際の拘束点として、スプリングバック評価点を設定するものであることを特徴とするものである。
【0020】
(
7)また、上記(
5)又は(
6)に記載のものにおいて、前記応力状態設定手段は、前記解析モデルの一部に荷重を与える方向として、予め成形した成形品においてスプリングバックが発生した方向を設定するものであることを特徴とするものである。
【0022】
(
8)また、上記(
5)乃至(
7)のいずれかに記載のものにおいて、前記剛性向上手段は、前記解析モデルについて、前記剛性寄与部位検出手段で検出された部位に基づいて、板厚を厚くすること、ヤング率を向上させること、他の板を貼り付けること、凸形状及び/又は凹形状を付与することのいずれか又は適宜選択した複数の手段を講ずるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、平面要素及び/又は立体要素を用いて前記部品の解析モデルを生成する解析モデル生成工程と、生成した解析モデルの各要素にスプリングバックを生じさせる応力状態を設定する応力状態設定工程と、該応力状態設定工程で応力状態を設定した解析モデルについて形状最適化解析を行い剛性に寄与の高い部位を検出する剛性寄与部位検出工程と、該剛性寄与部位検出工程で検出された部位に基づいて前記部品の剛性向上のための手段を講じる剛性向上工程とを備えたことにより、スプリングバックが生ずる要因に対する直接的かつ効果的な対策を講ずることができる。
また、スプリングバック抑制対策の対象となる部品が自動車部品の場合には、部品ごとの剛性を向上させることにより、車体の剛性が向上するという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施の形態に係るプレス成形品のスプリングバック抑制対策方法(以下、単に「スプリングバック抑制対策」という)は、
図1のフローチャートに示す通り、平面要素及び/又は立体要素を用いて部品の解析モデルを生成する解析モデル生成工程S1と、該生成した解析モデルの各要素にスプリングバックを生じさせる応力状態を設定する応力状態設定工程S3と、該応力状態設定工程S3で応力状態を設定した解析モデルについて形状最適化解析を行い剛性に寄与の高い部位を検出する剛性寄与部位検出工程S5と、該剛性寄与部位検出工程S5で検出された部位に基づいて部品の剛性向上のための手段を講じる剛性向上工程S7とを行う。以下に詳細に説明する。
【0026】
本発明に係るスプリングバック抑制対策方法はプログラム処理を実行するPC(パーソナルコンピュータ)等の装置によって行うものであるので、まず、装置(以下、「スプリングバック抑制対策装置1」という)の構成について
図2に示すブロック図に基づいて概説する。
【0027】
〔スプリングバック抑制対策装置〕
本実施の形態に係るスプリングバック抑制対策装置1は、PC(パーソナルコンピュータ)等によって構成され、
図2に示すように、表示装置3と入力装置5と主記憶装置7と補助記憶装置9および演算処理部11とを有している。
また、演算処理部11には、表示装置3と入力装置5と主記憶装置7および補助記憶装置9が接続され、演算処理部11の指令によって各機能を行う。表示装置3は計算結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。入力装置5はオペレータからの入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。主記憶装置7は演算処理部11で使用するデータの一時保存や演算等に用いられ、RAM等で構成される。補助記憶装置9は、データの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
【0028】
演算処理部11はPC等のCPU等によって構成され、演算処理部11内には、解析モデル生成手段13と、応力状態設定手段15と、剛性寄与部位検出手段17と、剛性向上手段19とを有する。これらの手段はCPU等が所定のプログラムを実行することによって実現される。以下にこれら手段について説明する。
【0029】
<解析モデル生成手段>
解析モデル生成手段13は、平面要素(シェル要素)、立体要素(ソリッド要素)、または、平面要素と立体要素の両方を使用して部品の解析モデルを生成する。
図4に平面要素と立体要素の使用方法の例を示す。
図4は平面形状について解析モデルを生成したものである。
図4(a)は平面要素のみを使用して生成した解析モデルである。
図4(b)は立体要素のみを使用して生成した解析モデルである。
図4(c)は平面要素と立体要素の両方を使用して生成した解析モデルであり、平面要素の上面に立体要素を配置して生成される。
図4(a)と
図4(b)の使用方法で作成した解析モデルは、形状最適化解析(詳細は後述する)を実行することで不要な要素が削除されると、その部位には何も残らないが、
図4(c)の使用方法で作成した解析モデルは、形状最適化解析を行うと、平面要素の上面の立体要素だけが削除される。
なお、上記のいずれの使用方法を用いてもよい。
【0030】
<応力状態設定手段>
応力状態設定手段15は、解析モデル生成手段13で生成した解析モデルの各要素にスプリングバックを生じさせる応力状態を設定する。
応力状態の設定方法としては、例えば、解析モデルの一部を拘束して、他の一部に曲げ荷重やねじり荷重、または曲げ荷重とねじり荷重の両方など、様々な荷重を与えることで解析モデルに応力状態を生じさせて、該応力状態を解析モデルの各要素に設定する方法や、別途得られる応力状態(例えば、プレス成形解析を行って下死点状態(離型前の状態)等の応力状態)を各要素に直接転写(マッピング)して設定する方法等がある。また、手動で適宜設定してもよい。
【0031】
<剛性寄与部位検出手段>
剛性寄与部位検出手段17は、応力状態設定手段15で応力状態を設定した解析モデルについて形状最適化解析を行い剛性に寄与の高い部位を検出する。
形状最適化解析の手法としては、例えば、トポロジー最適化解析を行う。トポロジー最適化解析は、対象となる部品の解析モデルにおいて、与えられた解析条件(応力状態、荷重、拘束、体積率等)を満たすための必要最小限の要素を残す解析を行い、当該必要最小限の要素のみからなる部位を最適部位とするという解析手法である。解析条件を例えば、「ある荷重拘束条件を与えた場合の剛性が最も高い部位であって部位全体の体積率が初期形状の20%」とすると、解析モデルにおいて、解析条件を満たすために必要のない要素が体積率20%になるまで削除されて、最終的に必要最小限の要素のみで構成される部位が残存する。このようにして残存した部位が、剛性に寄与度の高い部位(剛性寄与部位)である。
なお、形状最適化解析の手法としてはトポロジー最適化解析以外に、トポグラフィ最適化解析、数値最適化解析等を用いてもよい。
【0032】
<剛性向上手段>
剛性寄与部位検出手段17で検出された部位に基づいて部品の剛性向上のための手段を講じる。
剛性寄与部位は、スプリングバックを想定した荷重条件に対する剛性への寄与度の高い部位であるので、解析モデルにおける該剛性寄与部位の強度を高めることで、スプリングバックを抑制することができる。そこで、剛性向上手段19は、剛性寄与部位検出手段17によって検出された剛性寄与部位に基づいて解析モデルに剛性向上のための手段を講じる。
【0033】
剛性向上のための手段とは、剛性寄与部位検出工程S5で検出された剛性寄与部位に基づいて、解析モデルの剛性寄与部位の板厚を厚くすること、または剛性寄与部位のヤング率を向上させること、あるいは、剛性寄与部位に他の板を貼り付けて補強すること、あるいは剛性寄与部位に、剛性寄与部位の輪郭形状と略同形状の凸形状及び/又は凹形状を付与することのいずれか又は適宜選択した複数のことを行うことである。
【0034】
凸形状及び/又は凹形状を付与する際には、剛性寄与部位の輪郭形状をそのまま用いてもよいし、輪郭形状そのままでは複雑すぎる場合は輪郭形状の大まかな形を用いてもよい。こうすることで、形状を付与した部位の剛性を向上させることができる。また、凸形状及び/又は凹形状を付与する場合において剛性寄与部位の範囲が広い場合は、剛性寄与部位の輪郭形状の内側に、荷重の方向に延びる波形状ビードを別途設けてもよい。
【0035】
〔スプリングバック抑制対策方法〕
次に、上記スプリングバック抑制対策装置1を用いてスプリングバック抑制対策方法の処理の流れについて、
図1に示すフローチャートに基づいて、必要な図を適宜参照しながら説明する。
なお、以下の記載においては、解析対象となる部品の一例として、
図3に示すようなAピラー21にスプリングバック抑制対策を行うことについて説明する。
図3(a)はAピラー21の平面図であり、
図3(b)はAピラー21の斜視図である。Aピラー21は
図3に示す通り、ハット断面形状を有している。
スプリングバックで生じる変形は主にハネ変形およびねじり変形である。そこで、本実施の形態においては、スプリングバックの例として、ハネ変形、ねじり変形、ハネとねじりの複合変形の3種類を想定した。従って、本実施の形態におけるスプリングバック抑制対策方法では、ハネ変形に対するスプリングバック抑制対策と、ねじり変形に対するスプリングバック抑制対策と、ハネとねじれの複合変形に対するスプリングバック抑制対策との3種類について解析を行う。
以下に、前述したスプリングバック抑制対策方法の各工程(応力状態設定工程S3、剛性寄与部位検出工程S5、剛性向上工程S7)について
図1〜
図11に基づいて詳細に説明する。
【0036】
<解析モデル生成工程>
まず、解析モデル生成工程において、解析モデル生成手段13を用いて解析対象となる部品であるAピラー21の解析モデル23(
図5)を生成する。本実施の形態では、解析モデル23は、例として上記の想定スプリングバックの種類毎に、さらに上記の
図4で説明した3種類の要素の使用方法毎に、全部で9種類生成した。
【0037】
<応力状態設定工程>
次いで、応力状態設定工程S3において、上記生成した解析モデル23の各要素に応力状態設定手段15を用いて応力状態を設定する。
応力状態の設定方法としては、例として、解析モデル23の一部を拘束して、他の一部に曲げ荷重及び/又はねじり荷重を与えることで解析モデル23の各要素に応力状態を生じさせて、該応力状態を解析モデル23の各要素に設定する方法について説明する。
【0038】
拘束条件は、いずれの解析モデル23においても、
図5に示すように一端の上面(
図5中の破線で囲む領域)を拘束するものとした。
荷重条件は、次のようにして設定する。部品をプレス成形すると、部品ごとにどの方向にどのようなスプリングバックが生じるかが決まっている。そこで、部品についてプレス成形解析およびスプリングバック解析を行い、どのようなスプリングバックが発生するかを予め確認しておき、該確認したスプリングバックが発生する方向等に基づいて、荷重条件を設定する。本実施の形態においては、荷重条件は、ハネ変形の場合は、
図6(a)に示すように、拘束端の反対側端部を上方に曲げる曲げ荷重を与えるものとした。ねじり変形の場合は、
図6(b)に示すように、拘束端の反対側端部にAピラー21の長手方向に捩じるようなねじり荷重を与えるものとした。ハネとねじりの複合変形の場合は、
図6(c)に示すように、
図6(a)および
図6(b)の両方の荷重を複合させて与えるものとした。
【0039】
なお、上記ではスプリングバックとしてハネ変形、ねじり変形、およびハネとねじりの複合変形を想定するという簡易的ものであったが、実際のスプリングバック変形を想定することも可能である。
【0040】
また、上記では荷重条件として、曲げ荷重、ねじり荷重、および曲げとねじりの複合荷重を与えるものとしたが、別途プレス成形解析を行って、成形下死点の応力分布を部品形状の要素にマッピングを行い境界条件にすることも可能である。さらに、上記の解析条件(拘束、荷重)を複合して用いることも可能である。
【0041】
<剛性寄与部位検出工程>
次いで、剛性寄与部位検出工程S5において、応力状態設定工程S3で応力状態を設定した解析モデル23について形状最適化解析を行い、剛性寄与部位を検出する。本実施の形態において残存させる体積率は、初期形状の20%とした。
【0042】
形状最適化解析の結果を
図7〜
図9に示す。
図7は平面要素のみを使用した解析モデル23について解析を行った結果である。
図7(a)はハネ変形(曲げ荷重)に対しての形状最適化解析結果、
図7(b)はねじり変形(ねじり荷重)に対しての形状最適化解析結果、
図7(c)はハネとねじりの複合変形(ハネとねじりの複合荷重)に対しての形状最適化解析結果である。最適化解析し残存している要素(剛性寄与部位)を薄い灰色で示す。
図7を見ると、いずれの荷重条件でも残存部(剛性寄与部位)は網目状になっている。
図7(a)を見ると、
図5を用いて説明した拘束箇所の近傍が多く残存していることが分かる。
図7(b)では、パンチ穴23bの近傍に多く残存している。
図7(c)では
図7(a)と
図7(b)に比較して剛性寄与部位が全体的に分布している。
【0043】
図8は立体要素のみを使用した解析モデル23について解析を行った結果である。
図7と同様に、
図8(a)はハネ変形(曲げ荷重)に対しての形状最適化解析結果、
図8(b)はねじり変形(ねじり荷重)に対しての形状最適化解析結果、
図8(c)はハネとねじりの複合変形(ハネとねじりの複合荷重)に対しての形状最適化解析の結果である。
図8においては剛性寄与部位を濃い灰色で示す。
【0044】
図9は平面要素と立体要素の両方を使用した解析モデル23について解析を行った結果である。
図7および
図8と同様に、
図9(a)はハネ変形(曲げ荷重)に対しての形状最適化解析結果、
図9(b)はねじり変形(ねじり荷重)に対しての形状最適化解析結果、
図9(c)はハネとねじりの複合変形(ハネとねじりの複合荷重)に対しての形状最適化解析結果である。
図9では薄い灰色の部位は平面要素のみの部位を表し、濃い灰色の部位は剛性寄与部位を表す。剛性寄与部位は平面要素の上面に立体要素が残存している部分である。
図9を見ると、
図7および
図8の場合と比較して、剛性寄与部位は網目状にならずに残存していることが分かる。
【0045】
<剛性向上工程>
次いで、剛性向上工程S7では、剛性向上手段19を用いて、剛性寄与部位検出工程S5で検出された剛性寄与部位に基づいてAピラー21の剛性向上のための手段を講じる。本実施の形態においては、剛性向上のための手段の一例として、
図10に示すように、Aピラー21の初期形状(
図10(a)参照)に対して、剛性寄与部位検出工程S5で検出された剛性寄与部位(
図10(b)参照。
図9(c)に図示したものと同一)に基づいて、解析モデル23における剛性寄与部位の板厚を2倍にした(
図10(c)参照)。
【0046】
本実施の形態の効果を確認するために、
図10(a)に示す剛性向上の対策前の解析モデル23(比較例1)と、
図10(c)に示す剛性向上の対策後の解析モデル23(発明例1)とについて、ハネとねじりの複合荷重を付与して、ハネとねじりの複合変形のスプリングバックを生じさせるようなスプリングバック解析を行った。
解析結果としてZ方向の最大変位差(mm、最大変位と最小変位との差)を表1に示す。また、表1には、比較例2として、人間の勘に基づいて解析モデル23の天井部23aの板厚を2倍にしたもの(
図11参照)についても同様に解析を行った結果を示している。
【0048】
表1に示す通り、スプリングバック前後のZ方向の最大変位差は、比較例1(剛性向上対策前、
図10(a)参照)の場合が17.4mm、発明例1(剛性向上対策後、
図10(c)参照)の場合が8.2mm、比較例2(
図11参照)の場合が10.6mmであった。対策を施した発明例1と比較例2との両方でねじれ量が低減されているが、発明例1の方が大きくねじれ量が低減している。
【0049】
また、比較例1および発明例1について曲げ剛性解析を行ったところ、発明例1は比較例1と比較して17.3%曲げ剛性が向上した。また、同様に比較例1および発明例1についてねじり剛性解析を行ったところ、発明例1は比較例1と比較して7.8%ねじり剛性が向上した。
【0050】
以上のように、本実施の形態においては、平面要素及び/又は立体要素を用いて部品としてのAピラー21の解析モデル23を生成する解析モデル生成工程と、該生成した解析モデル23の各要素にスプリングバックを生じさせる応力状態を設定する応力状態設定工程S3と、該応力状態設定工程S3で応力状態を設定した解析モデル23について形状最適化解析を行い剛性に寄与の高い部位を検出する剛性寄与部位検出工程S5と、該剛性寄与部位検出工程S5で検出された部位に基づいてAピラー21の剛性向上のための手段を講じる剛性向上工程S7とを備えたことことにより、解析モデル23の剛性寄与部位を検出して、該剛性寄与部位に基づいてAピラー21の剛性向上を図ることができ、スプリングバックを抑制することができる。また、部品ごとの剛性を向上させることにより、車体の剛性が向上する副次効果もある。
【0051】
なお、上記の説明で、剛性寄与部位の板厚を2倍にすることを示したが、その具体的方法は以下のようにすればよい。
解析モデル23を逆成形解析して平板(ブランク材)に戻せば、ブランク材における剛性寄与部位が分かる。このようにして得られたブランク材における剛性寄与部位の剛性を向上させれば、プレス成形後のプレス成形品における剛性寄与部位の剛性を向上させることができる。
【0052】
ブランク材における剛性寄与部位の剛性を向上させるためには、例えば、剛性寄与部位の板厚を厚くする方法、剛性寄与部位のヤング率を向上させる方法、あるいは剛性寄与部位に他の板を貼り付ける方法等がある。
これらの方法について、ある部品のブランク材41における剛性寄与部位41aの剛性を向上させる場合を例に挙げて、以下の
図12〜
図14に基づいて説明する。
【0053】
剛性寄与部位の板厚を厚くする方法では、例えば、ブランク材41の剛性寄与部位41a(
図12(a)参照)をくりぬいてくりぬき穴41bとし、代わりに他の厚板材の剛性寄与部位41aと同じ形状にした板材43をブランク材41のくりぬき穴41bにはめ込んで(
図12(b)参照)、レーザー溶接等で接合したいわゆるテーラードブランク材45(
図12(c)参照)を用いる。このように作成したテーラードブランク材45を用いてプレス成形加工を行うとプレス成形品の剛性寄与部位41aの板厚を厚くすることができ、該剛性寄与部位41aの剛性を向上させることができる。
【0054】
ブランク材41の剛性寄与部位41aのヤング率を向上させる方法では、例えば、上記の板厚を厚くする場合と同様に、ブランク材41の剛性寄与部位41a(
図13(a)参照)をくりぬいてくりぬき穴41bとし、代わりに他の高ヤング率の板材47を剛性寄与部位41aと同じ形状にしたものをブランク材41のくりぬき穴41bにはめ込んで(
図13(b)参照)、レーザー溶接等で接合したテーラードブランク材49(
図13(c)参照)を用いる。このように作成したテーラードブランク材49を用いてプレス成形加工を行うとプレス成形品の剛性寄与部位41aのヤング率を高くすることができ、該剛性寄与部位41aの剛性を向上させることができる。
【0055】
ブランク材41の剛性寄与部位41aに他の板を貼り付ける方法では、ブランク材41の剛性寄与部位41a(
図14(a)参照)に、他の板材を加工して剛性寄与部位41aと同じ形状にした板材51を、ブランク材41の剛性寄与部位41aに溶接で接合したりまたは接着剤で接着したり等して(
図14(b)参照)貼り付けた補強ブランク材53(
図14(c)参照)を用いる。このように作成した補強ブランク材53を用いてプレス成形加工を行うと剛性寄与部位41aが補強されて剛性が向上したプレス成形品を得ることができる。
【0056】
なお、上記のブランク材41における剛性寄与部位41aの剛性を向上させる方法は、これらのうちいずれかを適宜複数選択して組み合わせて行ってもよい。例えば板厚が厚くかつ高ヤング率の板材を剛性寄与部位41aに貼り付けてもよいし、さらにこのようにして得られたブランク材(テーラードブランク材、補強ブランク材)の剛性寄与部位41aに凸形状及び/又は凹形状を付与する金型を用いてプレス成形加工してもよい。
【0057】
上記のブランク材における特定部位の剛性を向上させる方法(板厚を厚くする方法、ヤング率を向上させる方法、他の板を貼り付ける方法)を、Aピラー21に施した例について
図15〜
図22に基づいて説明する。
まず、Aピラ−21について平面要素と立体要素の両方を使用した解析モデル23を作成し、該解析モデル23についてハネとねじりの複合変形(ハネとねじりの複合荷重)に対しての形状最適化解析を行った。
上記形状最適化解析結果を
図15に示す。
図15(a)は剛性寄与部位検出工程S5を実施後の解析モデル23の平面図であり(上記
図9(c)に図示したものと同一)、
図15(b)は、
図3(b)のように側方から見て、
図15(a)中の四角で囲んだ部分を拡大して図示したものである。剛性寄与部位は濃い灰色で示している。
【0058】
解析モデル23を逆成形解析して平板状態に展開した状態(ブランク材71)を
図16に示す。ブランク材71中の線で囲まれた部位は、ブランク材71における剛性寄与部位71aである。なお、ブランク材71における剛性寄与部位71aの形状は、解析モデル23における剛性寄与部位の輪郭形状を示している。また、ブランク材71の板厚は1.4mmである。
【0059】
このようにして取得されたブランク材71における剛性寄与部位71aについて、上記で説明した板厚を厚くする方法、ヤング率を向上させる方法、および他の板を貼り付ける方法で剛性を向上させる場合について以下に説明する。
【0060】
板厚を厚くする方法の場合、
図17(a)に示すように、ブランク材71における剛性寄与部位71aをくりぬいてできたくりぬき穴71bに、剛性寄与部位71aと同形状でかつ板厚がブランク材71の2倍の板厚(1.4mm×2=2.8mm)の板材73をはめ込んで溶接したテーラードブランク材75を作成する(
図17(b)参照)。
このように作成したテーラードブランク材75をプレス成形した結果のプレス成形品77を
図18に示す。
図18(c)はプレス成形品77の平面図、
図18(d)はプレス成形品77の底面図、
図18(e)は
図18(c)中の矢印に示す方向から見た斜視図である。プレス成形品77は
図18(e)に示すように、剛性寄与部位71aの輪郭形状に沿って、ブランク材71と板材73の板厚の違いによる段差が見られる。
【0061】
ヤング率を向上させる方法の場合、
図19(a)に示すように、ブランク材71のくりぬき穴71bに、剛性寄与部位71aと同形状でかつ板厚がブランク材71と等しい高ヤング率の板材81をはめ込んで溶接したテーラードブランク材83を作成する(
図19(b)参照)。
このように作成したテーラードブランク材83をプレス成形した結果のプレス成形品85を
図20に示す。
図20(c)はプレス成形品85の平面図、
図20(d)はプレス成形品85の底面図、
図20(e)は
図20(c)中の矢印に示す方向から見た斜視図である。プレス成形品85は
図20(e)に示すように、ブランク材71と板材81の板厚が同じであるため、
図18(e)に見られたような段差はない。
【0062】
他の板を貼り付ける方法の場合、
図21(a)に示すように、ブランク材71における剛性寄与部位71aに、該部位と同形状でかつブランク材71と板厚、ヤング率ともに同じ板材91を貼りつけた補強ブランク材93を作成する(
図21(b)参照)。
このように作成した補強ブランク材93をプレス成形した結果のプレス成形品95を
図22に示す。
図22(c)はプレス成形品95の平面図、
図22(d)はプレス成形品95の底面図、
図22(e)は
図22(c)中の矢印に示す方向から見た斜視図である。プレス成形品95は
図22(e)に示すように、ブランク材71に板材91を貼りつけたことによる段差が見られる。
【実施例1】
【0063】
本発明のスプリングバック抑制対策方法による作用効果について、具体的な実施例に基づいて説明する。
上記の実施の形態においては、剛性向上の手段として剛性寄与部位検出工程S5で検出された剛性寄与部位に基づいてAピラー21の解析モデル23の板厚を厚くする例を示したが、本実施例においては、剛性寄与部位に基づいてAピラー21の解析モデル23に凹形状を付与することで剛性向上を図る例について説明する。
凹形状は、剛性寄与部位の輪郭形状を大まかにした形状を用いた。
図23(a)に凹形状を付与する前の金型27を示し、
図23(b)に凹形状を付与した金型25を示す。
【0064】
本実施例では、
図23(b)に示すAピラー21をプレス成形するための金型25(
図24参照)を実際に作成してプレス成形を行い、プレス成形品29(
図26)を成形した。金型25の凹部の深さHおよび凹部の縁の形状は、割れが発生しない範囲でスプリングバック量低減効果が最も多く得られるように、凹部の深さを4mmで一定とし、凹部の縁の形状はR3に設定した(
図25参照)。
【0065】
図26に実プレス成形を行った結果を示す。材料としては板厚1.4mmの440MPa級鋼板を用いた。
図26は、スプリングバックの結果を示すために、プレス成形品を金型25に重ねて、
図3(a)に示したAピラー21の紙面上左側の端部をAピラー21の左側から見たものを図示したものである。
図26(a)は、比較のために、対策前の金型27を使用したプレス成形で得られたプレス成形品31を図示したものであり(比較例3)、
図26(b)は対策後の金型25を使用して得られたプレス成形品29を図示したものである(発明例2)。
図27に示すように、仮に前記端部の上角を角A、下角を角Bとすると、対策前の金型27を使用したプレス成形品31(比較例3)では角Bは、
図26(a)中の矢印で示す通り金型27から2mm乖離していたが(ハネ変形量2mm)、プレス成形品29(発明例2)では
図26(b)に示す通り、角Bが金型25に当接しており、角Bのハネ変形が発生していなかった。
【0066】
また、上記の2種類の金型(金型25、金型27)を用い材料をより高強度の980MPa級鋼板(板厚1.4mm)を用いて実プレス成形を行った結果を
図28に示す。
図28(a)が金型27を使用して得られたプレス成形品35(比較例4)を図示したものであり、
図28(b)が金型25を使用して得られたプレス成形品33(発明例3)を図示したものである。
図28は、
図26と同様にプレス成形品(プレス成形品33、プレス成形品35)を金型(金型25、金型27)に重ねて、
図26と同様の視点からプレス成形品を図示したものである。
【0067】
図28(a)を見ると、プレス成形品35(比較例4)では、角Aおよび角B共に金型27から大きく乖離してハネ変形している。特に角Bではハネ変形量は19mmであった。また、
図28(a)中の矢印に示す通り、角Aにおけるハネ変形量と角Bにおけるハネ変形量とが一定ではないことから、ねじり変形も発生していることが分かる。一方、プレス成形品33(発明例3)では、
図28(b)に示す通り、角Bは金型25から乖離しているものの、その乖離量(ハネ変形量)は8mmと小さく、比較例4の場合に比較してハネ変形が大きく低減されていることが分かる。また、
図28(b)中の矢印に示す通り、角Aにおけるハネ変形量と角Bにおけるハネ変形量はほぼ同じであることから、ねじり変形が発生していないことが分かる。
【0068】
また、比較例4と発明例3についてスプリングバックのCAE解析を行った。その結果として、表2に比較例4と発明例3における角Aおよび角Bの金型(金型25、金型27)からのハネ変形量とねじり変形量をまとめたものを示す。ねじり変形量は角Aを基準として角Bがどの程度ハネているかを表したものであり、角Bにおけるハネ変形量から角Aにおけるハネ変形量を減じて求める。ねじり変形量は値が0に近ければねじり変形が少ないことを意味する。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示す通り、CAE解析結果も発明例3は比較例4と比較して、角Bのハネ変形も改善されており、また、発明例3ではねじり変形が発生しておらず、上記の実プレス成形の結果と同様の結果を得ることができた。このことは本発明によるスプリングバック抑制対策方法がCAE解析においても実プレス成形と同様の結果を得ることを意味している。
【実施例2】
【0071】
上記の実施例1では、Aピラー21の解析モデル23に剛性向上の対策として、
図23(b)に示すように、凹形状を付与した場合(発明例2および発明例3)と、
図23(a)に示すように剛性向上の対策を施さない場合(比較例3および比較例4)とを比較した結果を示した。
本実施例では、剛性寄与部位検出工程で検出された部位が適切であることを確認するために、人間の勘に基づいて剛性向上の対策を行ったものと比較した結果について説明する。
本発明による剛性向上の対策は、実施例1と同様に凹形状の付与を行った(発明例4)。勘に基づいた剛性向上の対策は、
図29(a)に示すように、解析モデル23の天井部23aに直線状の凹形状の付与(比較例5)と、
図29(b)に示すように、
図29(a)の凹形状を長手方向に6つの領域に分割した形状の付与(比較例6)の2種類を行った。
【0072】
上記、発明例4、比較例5および比較例6についてスプリングバックのCAE解析を行った結果を
図30に示す。
図30は、発明例4、比較例5および比較例6毎に、前記角Aおよび角BのZ方向変位に基づいたねじり変形量をグラフ化したものである。また、
図30には、比較のために、比較例7として剛性向上の対策を施さない場合のCAE結果も合わせて記載している。
【0073】
図30に示す通り、対策を施さなかった比較例7では、ねじり変形量は10.5mmであったのに対し、対策を施した比較例5ではねじり変形量が5.5mm、比較例6では2.0mmと低減していたが、発明例4ではねじり変形が発生しておらず非常に良好な結果であることが分かる。
【0074】
以上のように、本発明にかかるスプリングバック抑制対策方法によれば、部品の剛性寄与部位を検出して、剛性寄与部位に基づいて部品の剛性を高めることでスプリングバックを抑制可能であることが確かめられた。