特許第6044192号(P6044192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044192
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】燃料噴射方法および排気システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/025 20060101AFI20161206BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20161206BHJP
   F23N 5/20 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F01N3/025
   F01N3/025 201S
   F01N3/24 L
   F01N3/24 E
   F23N5/20 H
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-190997(P2012-190997)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-47699(P2014-47699A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 洋一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正治
(72)【発明者】
【氏名】足利 泰宜
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敏行
【審査官】 大城 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/118635(WO,A1)
【文献】 特開2010−059886(JP,A)
【文献】 特開2011−094603(JP,A)
【文献】 実開昭60−095115(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/025
F01N 3/24
F23N 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出された排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、該パティキュレートフィルタの上流に設けられ触媒を介した酸化反応によって該排気ガスを昇温する酸化触媒部と、該酸化触媒部の上流に設けられ該触媒が活性温度となるように排気流路から該排気ガスの一部を導入し燃料を用いて燃焼し、燃焼した該排気ガスの一部を該排気流路に導出するバーナ装置と、該バーナ装置の温度を検出するバーナ温度検出部と、を備えた排気システムにおいて、該燃料を噴射する燃料噴射方法であって、
前記バーナ装置を予熱し、
予め定められた第1噴射量で燃料の噴射を開始し、
前記バーナ温度検出部が検出した温度が予め定められた第1閾値以上であるか否か判定し、
前記バーナ温度検出部が検出した温度が前記第1閾値以上となってからの経過時間を計り、
前記経過時間が予め定められた待機時間を超えると、前記第1噴射量より多い第2噴射量で燃料を噴射することを特徴とする燃料噴射方法。
【請求項2】
前記待機時間は、前記燃料のセタン価に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射方法。
【請求項3】
前記排気システムは、前記排気流路における前記バーナ装置より下流の任意の位置の温度を検出する流路温度検出部をさらに備え、
前記セタン価は、前記流路温度検出部が検出した温度の推移に基づいて推定されることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射方法。
【請求項4】
前記バーナ装置は、一次燃料供給部が設けられた一次燃焼室と、該一次燃焼室の下流に設けられ、該一次燃料供給部より燃料の定格噴射量が多い二次燃料供給部が設けられた二次燃焼室とを有し、
前記一次燃料供給部は、噴射量を前記第1噴射量から前記第2噴射量に切り換えて噴射し、
前記二次燃料供給部は、前記第1噴射量から前記第2噴射量に切り換わるタイミングで、燃料の噴射を開始することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の燃料噴射方法。
【請求項5】
エンジンから排出された排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、
前記パティキュレートフィルタの上流に設けられ触媒を介した酸化反応によって前記排気ガスを昇温する酸化触媒部と、
前記酸化触媒部の上流に設けられ前記触媒が活性温度となるように排気流路から前記排気ガスの一部を導入し燃料を用いて燃焼し、燃焼した該排気ガスの一部を該排気流路に導出するバーナ装置と、
前記バーナ装置の温度を検出するバーナ温度検出部と、
予め定められた第1噴射量で燃料の噴射を開始し、前記バーナ温度検出部が検出した温度が予め定められた第1閾値以上であるか否か判定し、該バーナ温度検出部が検出した温度が該第1閾値以上となってからの経過時間を計り、該経過時間が予め定められた待機時間を超えると、該第1噴射量より多い第2噴射量で燃料を噴射する燃料供給部と、
を備えたことを特徴とする排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気流路を流れる排気ガスに、バーナ装置で昇温された気体を混合し、触媒の酸化を補助する排気システム、および、その排気システムにおいてバーナ装置で燃料を噴射する燃料噴射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンからの排気ガス中において、さらに燃料を燃焼させる場合がある。例えば、ディーゼルエンジンにおける、排気ガスに含まれる煤等の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を除去するパティキュレートフィルタの再生処理等がそれに該当する(例えば、特許文献1)。
【0003】
かかる再生処理においては、排気ガスを、触媒を介した酸化反応で昇温している。かかる触媒を活性温度まで迅速に上昇させるため、別途ヒータで空気を昇温して排気ガスに導入したり(例えば、特許文献2)、排気流路中に燃料を噴射する(例えば、特許文献3)技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−222913号公報
【特許文献2】特開2005−320880号公報
【特許文献3】特開2007−154772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
触媒の昇温を補助する熱源としては、上述したヒータや燃料噴射機構の他、排気ガスを昇温するバーナ装置がある。バーナ装置は、排気ガスの一部をバーナ装置自体の燃焼室に導入し、空気等と混合して燃焼、昇温し、昇温した排気ガスを、排気ガスの元の流路に返す。こうすることで、下流の触媒を活性温度まで迅速に上昇させることができる。
【0006】
このようなバーナ装置では、例えば、バーナ装置の外壁を予熱し、排気ガスの一部を空気等と混合して燃焼室に導入し、燃焼室で燃料を噴射して燃焼、昇温するといった処理を順次実行することで運転を開始する。また、燃焼室では、運転開始後、少量の燃料のみが噴射され、燃焼室の温度が高まり着火が確認されると定格の燃料が噴射される。
【0007】
しかし、セタン価が低い燃料やバイオ燃料での運転では、低温環境下において昇温速度が相対的に低く、バーナ装置の運転開始時には、燃焼しきれていない未燃の燃料が排気ガス中に含まれることもあった。また、昇温速度はセタン価によって異なるため、未燃の燃料を排出しないようバーナ装置内で完結的に制御するのは困難であった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、セタン価に拘わらず、未燃の燃料の排出を低減することが可能な燃料噴射方法および排気システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、エンジンから排出された排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、パティキュレートフィルタの上流に設けられ触媒を介した酸化反応によって排気ガスを昇温する酸化触媒部と、酸化触媒部の上流に設けられ触媒が活性温度となるように排気流路から排気ガスの一部を導入し燃料を用いて燃焼し、燃焼した排気ガスの一部を排気流路に導出するバーナ装置と、バーナ装置の温度を検出するバーナ温度検出部と、を備えた排気システムにおいて、燃料を噴射する、本発明の燃料噴射方法は、バーナ装置を予熱し、予め定められた第1噴射量で燃料の噴射を開始し、バーナ温度検出部が検出した温度が予め定められた第1閾値以上であるか否か判定し、バーナ温度検出部が検出した温度が第1閾値以上となってからの経過時間を計り、経過時間が予め定められた待機時間を超えると、第1噴射量より多い第2噴射量で燃料を噴射することを特徴とする。
【0010】
待機時間は、燃料のセタン価に基づいて決定されてもよい。
【0011】
排気システムは、排気流路におけるバーナ装置より下流の任意の位置の温度を検出する流路温度検出部をさらに備え、セタン価は、流路温度検出部が検出した温度の推移に基づいて推定されてもよい。
【0013】
バーナ装置は、一次燃料供給部が設けられた一次燃焼室と、一次燃焼室の下流に設けられ、一次燃料供給部より燃料の定格噴射量が多い二次燃料供給部が設けられた二次燃焼室とを有し、一次燃料供給部は、噴射量を第1噴射量から第2噴射量に切り換えて噴射し、二次燃料供給部は、第1噴射量から第2噴射量に切り換わるタイミングで、燃料の噴射を開始してもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の排気システムは、エンジンから排出された排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタと、パティキュレートフィルタの上流に設けられ触媒を介した酸化反応によって排気ガスを昇温する酸化触媒部と、酸化触媒部の上流に設けられ触媒が活性温度となるように排気流路から排気ガスの一部を導入し燃料を用いて燃焼し、燃焼した排気ガスの一部を排気流路に導出するバーナ装置と、バーナ装置の温度を検出するバーナ温度検出部と、予め定められた第1噴射量で燃料の噴射を開始し、バーナ温度検出部が検出した温度が予め定められた第1閾値以上であるか否か判定し、バーナ温度検出部が検出した温度が第1閾値以上となってからの経過時間を計り、経過時間が予め定められた待機時間を超えると、第1噴射量より多い第2噴射量で燃料を噴射する燃料供給部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セタン価に拘わらず、未燃の燃料の排出を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ディーゼルエンジンの排気システムを説明するための説明図である。
図2】バーナ装置の構造を説明するための説明図である。
図3】ディーゼルエンジンのアイドル時における必要空気量を比較した説明図である。
図4】セタン価が高い場合の燃料噴射タイミングを説明するためのフローチャートである。
図5】セタン価が高い場合の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
図6】セタン価が低い場合の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
図7】セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのフローチャートである。
図8】セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
図9】セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのフローチャートである。
図10】セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(排気システム)
図1は、ディーゼルエンジン1の排気システムを説明するための説明図である。図1(a)に示すように、ディーゼルエンジン1はレシプロエンジンであり、具体的に、ピストンによってシリンダ内の空気を圧縮して高温高圧化するとともに、燃料タンク2に蓄えられた、軽油、重油等の燃料を燃料ポンプ3や噴射ポンプ4で昇圧して、その高温高圧化された空気中に噴射することで爆発を起こさせ、その爆発によって生じるエネルギーを動力に変える。過給機5は、ディーゼルエンジン1の排気ガスのエネルギーでタービンを回転し、吸気を圧縮して吸気圧を高めることでエンジン出力を向上させる装置である。
【0020】
排気流路6は、ディーゼルエンジン1の排気口から排出された排気ガスを外部に排出するための配管で構成され、その流路には、上流側から順に、バーナ装置7、流路温度検出部8、ディーゼル酸化触媒部(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)9、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)10が設けられている。流路温度検出部8は、排気流路6におけるバーナ装置7より下流の任意の位置、本実施形態では、ディーゼル酸化触媒部9の上流に設けられ、排気流路6の温度(ディーゼル酸化触媒部9の入口温度)を検出する。排気システムは、バーナ装置7、流路温度検出部8、酸化触媒部としてのディーゼル酸化触媒部9と、パティキュレートフィルタとしてのディーゼルパティキュレートフィルタ10とを含んで構成される。以下、ディーゼルパティキュレートフィルタ10、ディーゼル酸化触媒部9、バーナ装置7の順に、その機能を説明する。
【0021】
(ディーゼルパティキュレートフィルタ10)
ディーゼルパティキュレートフィルタ10は、図1(b)の縦断面図に示すように、セラミックや金属をハニカム構造に形成した多孔体10aで構成される。そして、ディーゼルパティキュレートフィルタ10は、ディーゼルエンジン1の排気ガス(図1(b)中矢印で示す)に含まれる、例えば10ミクロン以上の大きさの粒子状物質20を捕集し、排気ガスから粒子状物質20を分離する。このように粒子状物質20が分離された排気ガスは外部に放出される。このとき、ディーゼルパティキュレートフィルタ10に粒子状物質20が堆積し過ぎると多孔体10aが目詰まりを起こすことがある。目詰まりは排気圧の上昇を招き燃費の悪化や出力低下につながる。そこで以下のディーゼル酸化触媒部9が設けられている。
【0022】
(ディーゼル酸化触媒部9)
ディーゼル酸化触媒部9は、ディーゼルパティキュレートフィルタ10の上流に設けられ、例えばプラチナ、パラジウム等の触媒で構成される。そして、ディーゼルエンジン1の排気ガス中に含まれる酸素を利用し、未燃の燃料を触媒燃焼(触媒を介した酸化)させることによって排気ガスを昇温する。昇温された排気ガスは、下流のディーゼルパティキュレートフィルタ10に流れ、ディーゼルパティキュレートフィルタ10に堆積した粒子状物質20を燃焼(酸化)して二酸化炭素として排気させ、ディーゼルパティキュレートフィルタ10の目詰まりを解消する。かかる一連の処理を本実施形態ではフィルタ再生処理という。
【0023】
このようなフィルタ再生処理は、ディーゼルパティキュレートフィルタ10の目詰まりが所定の閾値を超えたことを契機とし、その目詰まりがある程度解消されるまで、所望するタイミングで所望する時間実行されるバッチ処理である。しかし、ディーゼル酸化触媒部9は、ディーゼルエンジン1の始動時や低負荷時には、排気ガスの温度が低く酸化が促進される活性温度に達していないことがあり、排気ガスを昇温できず、その下流に位置するディーゼルパティキュレートフィルタ10において、所望するタイミングでフィルタ再生処理を行うことができない場合がある。そこで、本実施形態では、以下のバーナ装置7を設けている。
【0024】
(バーナ装置7)
図2は、バーナ装置7の構造を説明するための説明図である。本実施形態では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸を図2に示す通り定義している。バーナ装置7は、気体を昇温し、ディーゼルエンジン1の排気口から排出された排気ガスに加えて、排気ガスの温度を高める。こうして、ディーゼル酸化触媒部9の昇温を補助することができる。すなわち、所望するタイミングでディーゼル酸化触媒部9を活性温度に昇温してフィルタ再生処理を行うことが可能となる。
【0025】
バーナ装置7の具体的な構成を説明すると、バーナ装置7の外壁50は、例えば、矩形の筒状に形成され、Z軸に沿った方向の下方端部が排気流路6と連通し、上方端部が閉塞されている。外壁50の内部には、外壁50内部をX軸方向に区画する第1仕切部材52が配される。第1仕切部材52は、例えば、矩形の板材で構成され、その外周側面のうち3つの側面が外壁50の閉塞面およびY軸方向の内周面に固定され、他の1の側面が排気流路6に突出している(保炎板52a)。かかる外壁50と第1仕切部材52によって流入路54が形成される。流入路54は、排気流路6に対して開口する開口部54aを有しており、排気流路6に流れる排気ガスの一部(例えば20%程度)が、直接、または、排気流路6に突出した保炎板52aに衝突して、開口部54aから流入路54に流入する。
【0026】
外壁50内部の第1仕切部材52で区画された空間のうち、X軸方向の下流側に位置する空間は、さらに、第2仕切部材56によってZ軸方向に区画される。第2仕切部材56は、例えば、矩形の板材で構成され、外周側面が第1仕切部材52と外壁50の内周面とに固定されている。第2仕切部材56で仕切られたZ軸上方の空間は火炎を生成するための一次燃焼室58であり、Z軸下方の空間は燃焼を促進させるための二次燃焼室60である。
【0027】
気体供給部62は、例えば、エアポンプで構成され、一次燃焼室58に排気ガスとは別の気体、本実施形態においては空気を供給し、一次燃焼室58内における火炎の生成を助ける。気体供給部62は、エアポンプに限らず、ファン、コンプレッサ等で構成されてもよい。ここで、第1仕切部材52には、流入路54から一次燃焼室58へ貫通する孔52bが設けられており、当該孔52bによって一次燃焼室58に空気が導かれる。かかる孔52bは、空気の流量を制限する役割も担う。
【0028】
ただし、一次燃焼室58に空気のみを導入するとなると、ある程度、空気を昇温しなければならず、また、火炎の生成に要する空気の絶対量が増大する。そこで、本実施形態においては、上記のように排気流路6から流入路54に排気ガスの一部を流入させ、空気との混合気(以下、単に空気混合気という。)を生成する。そして、かかる空気混合気を一次燃焼室58に導入する。
【0029】
図3は、ディーゼルエンジン1のアイドル時における必要空気量を比較した説明図である。図3を参照して理解できるように、排気ガスを利用せず空気のみを導入した場合と比較して、空気に排気ガスを混合すると各エンジン回転数において必要空気量が少なくて済む。
【0030】
図2に戻って説明すると、第1仕切部材52には、流入路54から二次燃焼室60へ貫通する孔52cが設けられており、当該孔52cによって二次燃焼室60に排気ガスが導かれる。かかる孔52cは、二次燃焼室60に導く排気ガスの流量を制限する役割も担う。
【0031】
さらに、第2仕切部材56には、一次燃焼室58から二次燃焼室60へ貫通する孔56aが設けられており、当該孔56aによって一次燃焼室58で燃焼された空気混合気が二次燃焼室60に導かれる。かかる孔56aは、空気混合気の流量を制限する役割も担う。こうして、一次燃焼室58および二次燃焼室60における空気混合気の流速が抑制されるため、一次燃焼室58においては、着火性および保炎性が向上し、二次燃焼室60においては、火炎燃焼を開始可能な温度域および酸素濃度域を拡大できる。
【0032】
一次燃料供給部(燃料供給部)70は、例えばノズルを有するインジェクタ等の燃料噴射装置で構成され、一次燃焼室58に燃料を霧状にして供給する。着火部72は、例えばグロープラグ等の着火装置で構成され、燃料の着火温度以上に加熱されて、着火部72の熱で気化した燃料と空気混合気とを着火する。
【0033】
燃料保持部72aは、着火部72近傍、例えば、着火部72の一端を覆う位置に配置され、例えば、金網、焼結金属、金属繊維、ガラス布、セラミック多孔体、セラミックファイバ、軽石等の多孔体で形成され、孔52bから空気混合気が導かれるとともに、一次燃料供給部70から供給された燃料が燃焼されるまで、当該燃料を一時的に保持する。ここで、燃料保持部72aは、多孔体として形成された触媒であってもよい。
【0034】
邪魔板74は、例えば矩形の板材で構成され、一端が外壁50の閉塞面に固定され、他端側が孔52bに対向する位置に配される。邪魔板74は、孔52bを通って一次燃焼室58へ流入する空気混合気が、着火部72に直接衝突する流れを防ぐ。かかる構成により、着火部72付近の空気混合気の流速を抑制でき、着火性が向上する。
【0035】
二次燃料供給部76は、一次燃料供給部70同様、例えばインジェクタ等の燃料噴射装置で構成され、二次燃焼室60内に燃料を霧状にして供給する。本実施形態において、二次燃料供給部76は、一次燃料供給部70より燃料の定格噴射量が多い。二次燃焼室60内では、一次燃焼室58で発生した種火を増幅するために、二次燃料供給部76によってさらに燃料が噴射され、排気ガスを巻き込みながら空気混合気の燃焼を促進する。このとき、排気流路6に突出した保炎板52aは、二次燃焼室60の上流に位置し、排気ガスが排気流路6から二次燃焼室60に直接流入するのを防止する。こうして、二次燃焼室60において安定的な燃焼が維持される。
【0036】
そして、昇温後の高温の空気混合気は、排気流路6に流出し、当該バーナ装置7に流入しなかった排気ガスと混ざり合うことで排気ガスの温度を高める。こうして、ディーゼル酸化触媒部9を活性温度に昇温し、ディーゼルパティキュレートフィルタ10においてフィルタ再生処理を行うことが可能となる。
【0037】
ところで、バーナ装置7の運転開始時には、一次燃料供給部70が予め定められた少量(第1噴射量)の燃料を噴射して燃焼を開始する。そして、一次燃料供給部70が第1噴射量の燃料を噴射している間に、バーナ温度検出部78によって、一次燃焼室58内または二次燃焼室60内(本実施形態においては一次燃焼室58内)の温度を検出し、温度が予め定められた第1閾値以上となると、燃料が着火された(火炎が生成された)とみなされ、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の噴射量を調整して最終的に定格噴射量とする。以下では、バーナ装置7における燃料噴射のタイミングを示す燃料噴射方法を具体的に説明する。
【0038】
(燃料噴射方法)
図4は、セタン価が高い場合の燃料噴射タイミングを説明するためのフローチャートであり、図5は、セタン価が高い場合の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。以下、図4および図5を参照して運転開始時の詳細な動作を説明する。ここで、セタン価は、燃料の着火性を示し、セタン価が高いほど自発的に着火し易く、セタン価が低いと着火し難い。バーナ装置7の運転が開始されると、まず、着火部72がONされ(S200)、図5(a)に示すように、着火部72によってバーナ装置7の外壁50、特に一次燃焼室58および二次燃焼室60に対応した部位が予熱される。
【0039】
着火部72がONされてから、例えば、30秒後に(S202におけるYES)、気体供給部62は、空気の供給を開始し、図5(b)のように、一次燃焼室58に空気混合気が導入される(S204)。空気混合気が導入されてから、例えば、10秒後に(S206におけるYES)、一次燃料供給部70は、図5(c)のように、第1噴射量の燃料を噴射して燃焼を開始する(S208)。すると、図5(d)のように、バーナ温度検出部78で検出されたバーナ装置7の温度が気化熱により少し下降した後、燃焼に応じて上昇する。
【0040】
続いて、バーナ装置7の温度が監視され(S210)、バーナ装置7の温度が第1閾値以上となると(S210におけるYES)、燃料が着火された(火炎が生成された)とみなされ、図5(c)のように、一次燃料供給部70の噴射量を定格噴射量である第2噴射量とするとともに、図5(e)のように、二次燃料供給部76の噴射を開始し、噴射量を定格噴射量とする(S212)。
【0041】
このとき、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76は、一度に第2噴射量および定格噴射量とせず、所定の傾斜に沿って漸増させる。これは、燃料の急な増加により未燃の燃料を排出させないためである。ここで、図5(c)および図5(e)のように、一次燃料供給部70の傾斜が二次燃料供給部76の傾斜より角度が大きいのは、一次燃焼室58が二次燃焼室60より暖まり易く、傾斜角を大きくしても未燃の燃料が排出されないからである。
【0042】
その後は、PID(Proportional Integral Differential)制御を通じ、バーナ装置7の温度が目標温度となるように、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の噴射量が微調整され(S214)、図5(f)のように、排気流路6(ディーゼル酸化触媒部9の入口)の安定した温度推移を得ることができる。こうして、ディーゼル酸化触媒部9を活性温度に昇温することができる。
【0043】
ただし、上記のようにバーナ装置7の温度が第1閾値以上となったことを契機に、一義的に、一次燃料供給部70や二次燃料供給部76の燃料の噴射量が増加し始めると、セタン価の低い燃料を用いた場合に、未燃の燃料が排出されるおそれがある。
【0044】
図6は、セタン価が低い場合の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。図6のタイミングチャートは、セタン価が異なることに関する推移以外、図5のタイミングチャートと実質的に等しいので、ここでは、その詳細な説明を省略し、セタン価が異なることに関する推移の説明のみ行う。
【0045】
図6では、図5同様、バーナ装置7の運転が開始され、バーナ装置7の温度が第1閾値以上となると、燃料が着火されたとみなされ、図6(c)のように、一次燃料供給部70の噴射量を定格噴射量である第2噴射量とするとともに、図6(e)のように、二次燃料供給部76の噴射を開始する。しかし、セタン価が低い燃料は、セタン価の高い燃料と比較して、昇温速度が相対的に低くなるので、図6(f)のように排気流路6の温度勾配が小さくなり、燃料を十分に燃焼させる温度(第2閾値)に達するのに時間を要する。
【0046】
すると、十分に昇温されていない状態で、図6(c)や図6(e)のように、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76から定格噴射量の燃料が噴射されると、セタン価が低いことにより、ハッチングで示した燃料が未燃分として排出されてしまい、白煙が生じることもある。ここでは、未燃の燃料の排出を抑制するように、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の噴射タイミングを調整する。
【0047】
図7は、セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのフローチャートであり、図8は、セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。図7のフローチャートおよび図8のタイミングチャートは、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の噴射タイミング以外、図4のフローチャートおよび図6のタイミングチャートと実質的に等しいので、ここでは、その詳細な説明を省略し、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の噴射タイミングの説明のみ行う。
【0048】
ここでは、図4および図6同様、バーナ装置7の運転が開始され、バーナ装置7の温度が第1閾値以上となると(S210におけるYES)、燃料が着火されたとみなされる。ただし、一次燃料供給部70の噴射量は、そのまま第1噴射量を維持し、二次燃料供給部76は噴射を開始しない。そして、第1噴射量の燃料のみでバーナ装置7の外壁50を予熱する。ここでは、燃料のセタン価が低いので、図8(f)に示すように、排気流路6の温度は徐々にしか上昇しないが、時間の経過に伴って排気流路6の温度も燃料を十分に燃焼させる温度に上昇する。
【0049】
このとき、バーナ装置7では、バーナ装置7の温度が第1閾値以上となってからタイマ(不図示)を作動させ経過時間を計る(S250)。そして、図8(c)に示すように、経過時間が予め定められた待機時間t1を超えると(S252におけるYES)、一次燃料供給部70の噴射量を定格噴射量である第2噴射量とするとともに、図8(e)のように、二次燃料供給部76の噴射を開始する(S212)。
【0050】
かかる構成により、排気流路6の温度が燃料を十分に燃焼させる温度まで上昇した後に、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の燃料を増加するので、未燃の燃料が排出されることもなくなる(または、未燃の燃料の排出量が極めて少なくなる)。
【0051】
また、上述した待機時間t1は、燃料のセタン価に基づいて決定される。したがって、セタン価と待機時間t1との対応関係をテーブル化したり関数で表すことで、燃料のセタン価を予め把握できれば、バーナ装置7に待機時間t1を容易に設定することができる。
【0052】
こうして、燃料のセタン価に応じた適切な待機時間t1に基づいて、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の燃料の噴射タイミングを設定することができ、未燃の燃料の排出を最小限に抑えることが可能となる。
【0053】
また、セタン価の異なる燃料を混合したり、任意のセタン価の燃料から、セタン価の異なる燃料に交換したりすることで、バーナ装置7の運転条件が変化する場合もありうる。この場合、流路温度検出部8を利用してセタン価を推定し、待機時間t1を自動的に設定することもできる。セタン価は、着火性を表し、昇温速度に反映されるので、流路温度検出部8が検出した温度の推移、具体的には、温度の上昇勾配に対応している。したがって、流路温度検出部8が検出した温度の温度上昇の微分値に基づく任意の漸増関数によってセタン価を推測でき、それに伴って待機時間t1を自動的に設定することが可能となる。
【0054】
また、バーナ装置7の温度が第1閾値以上となってから待機時間t1が経過するのを待つ代わりに、流路温度検出部8を用いて、排気流路6の温度に基づき、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の燃料の噴射タイミングを決定することもできる。
【0055】
図9は、セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのフローチャートであり、図10は、セタン価が低い場合の他の燃料噴射タイミングを説明するためのタイミングチャートである。図9のフローチャートおよび図10のタイミングチャートは、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の噴射タイミング以外、図7のフローチャートおよび図8のタイミングチャートと実質的に等しいので、ここでは、その詳細な説明を省略し、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の噴射タイミングの説明のみ行う。
【0056】
ここでは、バーナ装置7の運転が開始され、バーナ装置7の温度が第1閾値以上となっても、図8(c)同様、一次燃料供給部70の噴射量は、そのまま第1噴射量を維持し、二次燃料供給部76は噴射を開始しない。そして、第1噴射量の燃料のみでバーナ装置7の外壁50を予熱する。ここでも、燃料のセタン価が低いので、図10(f)に示すように、排気流路6の温度は徐々にしか上昇しないが、時間の経過に伴って排気流路6の温度も燃料を十分に燃焼させる温度に上昇する。
【0057】
バーナ装置7では、図8のように経過時間を計るタイマを用いず、流路温度検出部8により排気流路6の温度を監視し、排気流路6の温度が予め定められた第2閾値以上であるか否か判定する(S260)。図10(f)に示すように、排気流路6の温度が第2閾値以上となると(S260におけるYES)、図10(c)のように、一次燃料供給部70の噴射量を定格噴射量である第2噴射量とするとともに、図10(e)のように、二次燃料供給部76の噴射を開始する(S212)。
【0058】
かかる構成により、排気流路6の温度が燃料を十分に燃焼させる温度まで上昇したことを直接判断でき、正確にその温度に達した後、一次燃料供給部70および二次燃料供給部76の燃料を増加するので、未燃の燃料が排出されることもなくなる。
【0059】
また、排気流路6の温度が燃料を十分に燃焼させる温度まで上昇したことを直接判断しているので、燃料のセタン価が異なり排気流路6の温度推移が変化した場合であっても、待機時間t1等の設定変更すべきパラメータがない。したがって、セタン価の異なる燃料に対する汎用性を有していることとなる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の排気システムおよび燃料噴射方法によれば、セタン価に拘わらず、未燃の燃料の排出を低減することが可能となる。また、未燃の燃料が低減されることで、未燃の燃料による冷却効果も小さくなり、ディーゼル酸化触媒部9を活性温度に効率よく昇温し、ディーゼルパティキュレートフィルタ10においてフィルタ再生処理を迅速かつ安定的に行うことが可能となる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
なお、本明細書の燃料噴射方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、排気流路を流れる排気ガスに、バーナ装置で昇温された気体を混合し、触媒の酸化を補助する排気システム、および、その排気システムにおいてバーナ装置で燃料を噴射する燃料噴射方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 …ディーゼルエンジン(エンジン)
6 …排気流路
7 …バーナ装置
8 …流路温度検出部
9 …ディーゼル酸化触媒部(酸化触媒部)
10 …ディーゼルパティキュレートフィルタ(パティキュレートフィルタ)
58 …一次燃焼室
60 …二次燃焼室
70 …一次燃料供給部(燃料供給部)
76 …二次燃料供給部
78 …バーナ温度検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10