特許第6044223号(P6044223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044223光電変換装置、医療機器および光電変換装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044223
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】光電変換装置、医療機器および光電変換装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20161206BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01L31/10 A
   H01L27/14 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-206850(P2012-206850)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-63808(P2014-63808A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】工藤 学
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−284342(JP,A)
【文献】 特開平09−283518(JP,A)
【文献】 特開2010−177362(JP,A)
【文献】 特開2012−169517(JP,A)
【文献】 特開2011−124526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/20
H01L 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化処理が施された半導体層を含む半導体素子と、
カルコパイライト型半導体で形成された光電変換層と、
前記半導体層と前記光電変換層との間に850nm以上かつ1300nm以下の膜厚で窒化珪素により形成された水素脱離防止層であって、第1絶縁層と、前記第1絶縁層と前記光電変換層との間に形成されて前記第1絶縁層よりも厚い第2絶縁層とを含む水素脱離防止層と、
前記第1絶縁層の面上に形成され、当該第1絶縁層の導通孔を介して前記半導体層に導通する配線層と
を具備する光電変換装置。
【請求項2】
請求項1の光電変換装置を具備し、前記光電変換装置が撮像した画像から生体情報を推定する医療機器。
【請求項3】
半導体層を含む半導体素子を覆う第1絶縁層を窒化珪素により形成する工程と、
前記第1絶縁層の形成後に前記半導体層に対する水素化処理を実施する工程と、
前記第1絶縁層の導通孔を介して前記半導体層に導通する配線層を前記第1絶縁層の面上に形成する工程と、
前記水素化処理および前記配線層の形成の実施後に、前記第1絶縁層を覆う第2絶縁層を、前記第1絶縁層よりも厚い膜厚により、前記第1絶縁層と前記第2絶縁層とを含む前記水素脱離防止層の膜厚が850nm以上かつ1300nm以下となるように窒化珪素により形成する工程と、
ルコパイライト型半導体の光電変換層を前記水素脱離防止層の面上に形成する工程と
を含む光電変換装置の製造方法。
【請求項4】
前記光電変換層を形成する工程では、前記水素化処理を実施する工程での環境温度と、前記第2絶縁層を形成する工程での環境温度とを上回る環境温度のもとで、前記光電変換層を形成する
請求項3の光電変換装置の製造方法。
【請求項5】
前記水素化処理を実施する工程と、前記第2絶縁層を形成する工程とは、400℃以下の環境温度で実行され、
前記光電変換層を形成する工程は、500℃〜550℃の環境温度で実行される
請求項4の光電変換装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコパイライト型半導体を利用した光電変換技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスターとカルコパイライト型半導体の光電変換層とを基板の面上に形成した光電変換装置が例えば特許文献1に開示されている。薄膜トランジスターの半導体層を例えばポリシリコンで形成する場合、特許文献2に開示されるように、半導体層内に拡散された水素によりシリコンの未結合手を終端化(水素化)することで結晶欠陥を低減する水素化処理が実行され得る。特許文献2には、水素化処理が施された半導体層内の水素の脱離を防止する水素脱離防止層を窒化珪素(SiNx)により200nm〜400nm程度の膜厚に形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−151271号公報
【特許文献2】特開2003−188181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カルコパイライト型半導体は、膜質の劣化やリーク電流の増大を防止するために500℃〜550℃程度の高温環境下で成膜される。しかし、水素化処理後の半導体層が400℃以上の高温に加熱されると、特許文献2のように200nm〜400nm程度の膜厚の水素脱離防止層を形成した場合でも半導体層内の水素が脱離し、結果的に薄膜トランジスターの電気的特性が劣化するという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、カルコパイライト型半導体の光電変換層を形成する工程で水素化処理後の半導体層から水素が脱離することを有効に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の光電変換装置は、水素化処理が施された半導体層を含む半導体素子と、カルコパイライト型半導体で形成された光電変換層と、半導体層と光電変換層との間に850nm以上の膜厚で窒化珪素(SiNx)により形成された水素脱離防止層とを具備する。以上の構成では、半導体層と光電変換層との間に850nm以上の膜厚の水素脱離防止層が窒化珪素で形成される。したがって、水素脱離防止層を200nm〜400nm程度の膜厚に形成した場合と比較すると、膜質の劣化やリーク電流の増大を抑制するためにカルコパイライト型半導体の光電変換層を400℃以上(例えば500℃〜550℃)の高温環境下で形成した場合でも、水素化処理後の半導体層から水素が脱離して半導体素子の電気的特性が劣化することを有効に防止できるという利点がある。なお、「窒化珪素により形成された」とは、窒化珪素のみで成膜する場合のほか、窒化珪素を主成分として成膜する場合も包含する。
【0006】
本発明の好適な態様において、水素脱離防止層の膜厚は1300nm以下(更に好適には1100nm以下)である。以上の態様では、水素脱離防止層の膜厚が1300nm以下に設定されるから、水素脱離防止層を過度に厚く形成した場合と比較して水素脱離防止層の成膜不良(剥離や破損)を抑制できるという利点がある。
【0007】
本発明の好適な態様において、水素脱離防止層は、第1絶縁層(例えば絶縁層26)と、第1絶縁層と光電変換層との間の第2絶縁層(例えば絶縁層32)とを含み、第1絶縁層の面上に形成され、当該第1絶縁層の導通孔を介して半導体層に導通する配線層を具備する。以上の構成では、水素脱離防止層を単層で形成した場合と比較すると、第1絶縁層に形成される導通孔の全長を抑制して配線層と半導体層との間の導通不良を防止しながら、第1絶縁層と第2絶縁層とを含む水素脱離防止層の全体としては850nm以上の充分な膜厚を容易に確保できるという利点がある。以上の効果は、第2絶縁層を第1絶縁層よりも厚く形成した場合に格別に顕著である。
【0008】
以上の各態様に係る光電変換装置は、被写体を撮像する撮像装置として各種の電子機器に好適に利用される。電子機器の具体例としては、光電変換装置が撮像した静脈像を利用して生体認証を実行する生体認証装置や、光電変換装置が撮像した画像(例えば静脈像)から血中アルコール濃度や血糖値等の生体情報を推定する医療機器(血中アルコール濃度推定装置や血糖値推定装置等の生体情報推定装置)が例示され得る。
【0009】
本発明は、以上の各態様に係る光電変換装置の製造方法としても特定される。本発明の好適な態様に係る製造方法は、半導体層を含む半導体素子を覆う第1絶縁層を窒化珪素により形成する工程(例えば図5の工程P2)と、第1絶縁層の形成後に半導体層に対する水素化処理を実施する工程(例えば工程P3)と、水素化処理の実施後に、第1絶縁層を覆う第2絶縁層を、第1絶縁層と第2絶縁層とを含む水素脱離防止層の膜厚が850nm以上となるように窒化珪素により形成する工程(例えば工程P5)と、カルコパイライト型半導体の光電変換層を水素脱離防止層の面上に形成する工程(例えば工程P6)とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のひとつの実施形態に係る光電変換装置の平面図である。
図2】光電変換装置の断面図である。
図3】Nチャネル型のトランジスターの電気的特性(電圧-電流特性)と水素脱離防止層の膜厚との関係を示すグラフである。
図4】Pチャネル型のトランジスターの電気的特性(電圧-電流特性)と水素脱離防止層の膜厚との関係を示すグラフである。
図5】光電変換装置の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<光電変換装置100の構成>
図1は、本発明のひとつの実施形態に係る光電変換装置100の模式図である。光電変換装置100は、例えば生体認証のために生体の静脈像を撮像する撮像装置(静脈センサー)であり、図1に示すように基板10と複数の単位素子Uとを具備する。基板10は、ガラス基板や石英基板等の板状部材である。複数の単位素子Uは、基板10の面上に行列状に配列される。
【0012】
1個の単位素子Uについて図1に代表的に図示した通り、各単位素子Uは、定電位線112と検出線114との交差に対応して配置され、トランジスター12とトランジスター132とトランジスター134と光電変換素子14とを含んで構成される。光電変換素子14は、受光量に応じた電荷を発生する。定電位線112と検出線114との間にトランジスター12とトランジスター134とが直列に接続される。トランジスター12のゲート電極は光電変換素子14に接続され、トランジスター132はトランジスター12のゲート電極と定電位線112との間に接続される。
【0013】
トランジスター12のゲート電極の電位は、トランジスター132がオン状態に制御されることで定電位線112の電位に初期化されてから光電変換素子14の受光量に応じた電位に変化する。したがって、トランジスター134がオン状態に制御されると、光電変換素子14の受光量(トランジスター12のゲート電極の電位)に応じた電流値の検出信号が定電位線112からトランジスター12とトランジスター134とを経由して検出線114に出力される。すなわち、単位回路U内の各トランジスター(12,132,134)は、検出信号の入出力の制御(光電変換素子14の駆動)に使用される半導体素子である。なお、単位素子Uの具体的な構成は任意である。
【0014】
図2は、光電変換装置100のうち1個の単位素子Uに対応する部分の断面図である。図2に示すように、光電変換装置100は、回路層20と絶縁層32と受光層40とを基板10の面上に積層した構造である。回路層20は基板10と受光層40との間に介在し、絶縁層32は回路層20と受光層40との間に介在する。
【0015】
回路層20は、下地層22と図1のトランジスター12と絶縁層24と絶縁層26とを含んで構成される。下地層22は、トランジスター12を形成する下地として好適な薄膜であり、例えば窒化珪素(SiNx)で基板10の表面に形成された第1層221と、例えば酸化珪素(SiOx)で第1層221の表面に形成された第2層223との積層で構成される。なお、下地層22を省略することも可能である。
【0016】
トランジスター12は、半導体層51とゲート絶縁層52とゲート電極53と第1配線層54と第2配線層55とを含む薄膜トランジスターである。半導体層51は、例えばポリシリコン等の半導体材料で下地層22の面上に島状に形成される。半導体層51には、シリコンの未結合手(ダングリングボンド)を水素により終端化することで結晶欠陥を低減する水素化処理が施されている。ゲート電極53は、ゲート絶縁層52を挟んで半導体層51のチャネル領域に対向する。
【0017】
絶縁層24は、半導体層51とゲート電極53とを覆う絶縁性の膜体(層間絶縁層)であり、基板10の全域にわたり略一定の膜厚に形成される。絶縁層24は、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の成膜技術により例えば酸化珪素(SiOx)で形成される。他方、絶縁層26は、絶縁層24を覆う絶縁性の膜体(層間絶縁層)であり、基板10の全域にわたり略一定の膜厚T1に形成される。絶縁層26は、窒化珪素(SiNx)で形成される。
【0018】
第1配線層54は、トランジスター12のソース電極およびドレイン電極の一方に相当し、第2配線層55は、トランジスター12のソース電極およびドレイン電極の他方に相当する。第1配線層54および第2配線層55の各々は、絶縁層26の面上に形成され、絶縁層26および絶縁層24を貫通する導通孔(コンタクトホール)を介して半導体層51に導通する。
【0019】
絶縁層32は、回路層20(絶縁層26)を覆う絶縁性の膜体であり、外気や水分からトランジスター12を保護するための保護層(パシベーション層)として機能する。絶縁層32は、絶縁層26と同様に窒化珪素(SiNx)で形成され、基板10の全域にわたり略一定の膜厚T2で分布する。絶縁層32の膜厚T2は絶縁層26の膜厚T1を上回る(T2>T1)。
【0020】
窒化珪素(SiNx)で形成された絶縁層26および絶縁層32は、水素化処理が施された半導体層51内の水素の脱離を抑制する水素脱離防止層30として機能する。具体的には、絶縁層26および絶縁層32自体が半導体層51からの水素の脱離を阻害するほか、絶縁層26および絶縁層32に含有される水素が半導体層51に供給されることで結果的に水素の脱離が抑制される。水素脱離防止層30の膜厚Tは、絶縁層26の膜厚T1と絶縁層32の膜厚T2との合計値(T=T1+T2)である。
【0021】
図2の受光層40は、図1を参照して説明した光電変換素子14を含む。光電変換素子14は、第1電極41と第2電極42との間に光電変換層43を介在させた受光素子である。第1電極41は、例えばモリブデン(Mo)等の低抵抗な導電材料で光電変換素子14毎に個別に形成され、絶縁層32と絶縁層26と絶縁層24とを貫通する導通孔を介してトランジスター12のゲート電極53に導通する。
【0022】
光電変換層43は、カルコパイライト型半導体で形成された光吸収層であり、受光量に応じた電荷を発生させる。本形態のようにカルコパイライト型半導体の光電変換層43を利用した構成によれば、例えばアモルファスシリコン等で光電変換層43を形成した場合と比較して、可視光域や近赤外域を含む広範な波長域にわたり高い受光感度を確保できるという利点がある。カルコパイライト型半導体としては、例えばCuInSey(CIS)やCu(In,Ga)Sey(CIGS)等が好適である。図2から理解されるように、絶縁層26と絶縁層32とで構成される水素脱離防止層30は、トランジスター12の半導体層51と光電変換素子14の光電変換層43との間に介在する。
【0023】
第1電極41および光電変換層43が形成された絶縁層32の表面は絶縁層45で覆われる。第2電極42は、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)等の光透過性の導電材料で絶縁層45の面上に形成されて複数の単位素子Uにわたって連続する。第2電極42は、絶縁層45に形成された開口部46を介して光電変換層43に接触する。受光時に光電変換層43に発生した電荷に応じた検出信号が光電変換素子14毎に検出線114から外部装置に出力される。
【0024】
光電変換層43の膜質の劣化やリーク電流の増大を防止する観点から、光電変換層43は500℃〜550℃程度の高温環境下で成膜される。しかし、水素化処理後の半導体層51が400℃以上に加熱されると、半導体層51内の水素が脱離してトランジスター12の電気的特性が劣化するという傾向がある。図3および図4は、トランジスター12および水素脱離防止層30の形成後(受光層40の形成前)に約500℃で3時間にわたりアニール処理を実行した場合のトランジスター12の電気的特性(ゲート-ソース間の電圧Vgsとドレイン-ソース間の電流Idsとの関係)を示すグラフである。図3にはNチャネル型のトランジスター12の特性が図示され、図4にはPチャネル型のトランジスター12の特性が図示されている。
【0025】
図3および図4では、アニール処理の実行前の特性(初期特性)と、水素脱離防止層30の膜厚Tを相違させた複数の場合の各々におけるアニール処理の実行後の特性とが対比的に図示されている。膜厚Tの各条件は以下の通りである。
条件1:T=200nm [T1=0nm,T2=200nm]
条件2:T=550nm [T1=350nm,T2=200nm]
条件3:T=850nm [T1=350nm,T2=500nm]
条件4:T=1100nm [T1=600nm,T2=500nm]
【0026】
水素脱離防止層30の膜厚Tを200nmに設定した条件1では、アニール処理時の加熱を原因とする半導体層51からの水素の脱離に起因して、トランジスター12の電気的特性はアニール処理前(初期特性)と比較して顕著に劣化する。また、水素脱離防止層30の膜厚Tを550nmに増加させた条件2でも、トランジスター12の電気的特性の劣化は顕在化することが図3および図4から確認できる。他方、水素脱離防止層30の膜厚Tを850nmに設定した条件3や膜厚Tを1100nmに設定した条件4では、条件1および条件2と比較して、アニール処理時の水素の脱離に起因したトランジスター12の電気的特性の劣化が充分に抑制されることが図3および図4から確認できる。
【0027】
以上の知見を考慮して、本実施形態の光電変換装置100では、水素脱離防止層30の膜厚Tが850nm以上に設定される。他方、水素脱離防止層30の膜厚Tが厚過ぎると膜内の残留応力が顕著となり、絶縁層26や絶縁層32が成膜後に剥離ないし破損する可能性がある。本願発明者の試験によれば、水素脱離防止層30を1300nm程度の膜厚Tに形成した場合(T1=600nm,T2=700nm)には、絶縁層26や絶縁層32について剥離や破損等の成膜不良が発生しないことが確認された。以上の傾向を考慮して、水素脱離防止層30の膜厚Tは850nm以上かつ1300nm以下に設定される。もっとも、図3図4における条件3(T=850nm)と条件4(T=1100nm)とを対比することで確認できるように、膜厚Tを1100nmに設定した場合でも、トランジスター12の電気的特性の劣化を防止する効果は、膜厚Tを850nmに設定した場合と同等である。したがって、トランジスター12の特性劣化の防止と水素脱離防止層30の成膜不良の防止とを両立する観点からすると、水素脱離防止層30の膜厚Tを850nm以上かつ1100nm以下に設定した構成が格別に好適である。
【0028】
<光電変換装置100の製造方法>
図5は、以上に説明した光電変換装置100の製造工程図である。最初の工程P1では、下地層22と半導体層51とゲート絶縁層52とゲート電極53と絶縁層24とが基板10の面上に形成される。以上の各要素の形成には公知の技術が任意に採用される。半導体層51は例えばポリシリコンで形成される。
【0029】
工程P1の実行後の工程P2では、絶縁層24を覆う絶縁層26が窒化珪素(SiNx)により略一定の膜厚T1に形成される。絶縁層26の形成には公知の成膜技術が任意に採用され得るが、例えばCVD(特にプラズマCVD)が好適である。
【0030】
工程P2の実行後の工程P3では、半導体層51に対する水素化処理が実行される。水素化処理は、半導体層51のシリコンの未結合手を水素で終端化して結晶欠陥を低減する熱処理(水素化アニール)であり、例えば350℃〜400℃の窒素雰囲気下で実行される。
【0031】
工程P3の実行後の工程P4では、第1配線層54および第2配線層55が低抵抗な導電材料で形成される。第1配線層54および第2配線層55の各々は、絶縁層26および絶縁層24を貫通する導通孔を介して半導体層51に導通する。
【0032】
工程P4の実行後の工程P5では、絶縁層26を覆う絶縁層32が窒化珪素(SiNx)により形成される。すなわち、絶縁層26と絶縁層32とを含む窒化珪素(SiNx)の水素脱離防止層30が生成される。具体的には、絶縁層26と絶縁層32とで構成される水素脱離防止層30が850nm以上かつ1300nm以下(更に好適には1100nm以下)の膜厚Tとなるように、絶縁層32が略一定の膜厚T2で形成される。絶縁層32の形成には公知の成膜技術が任意に採用され得るが、例えば絶縁層26の形成と同様にCVD(特にプラズマCVD)が好適である。半導体層51からの水素の脱離を防止するために300℃〜400℃の温度で絶縁層32は形成される。
【0033】
工程P5の実行後の工程P6では、絶縁層32の面上に第1電極41が形成されたうえで第1電極41の面上に光電変換層43がカルコパイライト型半導体(CIS,CIGS)で形成される。前述の通り、光電変換層43は、膜質の劣化やリーク電流の増大を防止する観点から500℃〜550℃程度の高温環境下で生成される。光電変換層43の成膜には、例えばスパッタリングや真空蒸着等の公知の成膜技術が任意に採用され得る。工程P6における光電変換層43の形成後に絶縁層45および第2電極42とを順次に形成することで図2の光電変換装置100が製造される。
【0034】
以上に説明したように、本実施形態では、半導体層51と光電変換層43との間に窒化珪素(SiNx)で形成された水素脱離防止層30の膜厚Tが850nm以上に設定される。したがって、水素脱離防止層30を200nm〜400nm程度の膜厚に形成する特許文献2の技術と比較すると、カルコパイライト型半導体の光電変換層43を500℃〜550℃程度の高温環境下で形成した場合でも、水素化処理後の半導体層51から水素が脱離してトランジスター12の電気的特性が劣化することを有効に防止できるという利点がある。すなわち、光電変換層43の膜質の劣化やリーク電流の増大の防止と、トランジスター12の電気的特性の劣化の防止とを両立することが可能である。
【0035】
また、本実施形態では、水素脱離防止層30の膜厚Tが1300nm以下(好適には1100nm以下)に設定される。したがって、水素脱離防止層30を過度に厚く形成した場合と比較して水素脱離防止層30の成膜不良(剥離や破損)を抑制できるという利点がある。
【0036】
なお、以上の例示では、水素脱離防止層30を絶縁層26と絶縁層32との積層で構成したが、水素脱離防止層30を単層で形成することも可能である。例えば、絶縁層26を850nm以上の膜厚T1に形成して絶縁層32を省略した構成(以下「単層構成」という)も採用され得る。しかし、単層構成では、第1配線層54や第2配線層55を半導体層51に導通させるために絶縁層26に形成される導通孔の全長が長くなるから、第1配線層54や第2配線層55と半導体層51との導通不良(例えば第1配線層54や第2配線層55の断線)が発生する可能性がある。他方、図2のように水素脱離防止層30を複数層(絶縁層26および絶縁層32)で形成した構成によれば、単層構成と比較すると、絶縁層26に形成される導通孔の全長を抑制して第1配線層54や第2配線層55と半導体層51との間の導通不良を防止しながら、絶縁層26と絶縁層32とを積層した水素脱離防止層30の全体としては850nm以上の充分な膜厚Tを容易に確保できるという利点がある。前述の形態では、絶縁層32が絶縁層26と比較して厚く形成される(T2>T1)から、第1配線層54や第2配線層55と半導体層51との導通不良を抑制できるという効果は格別に顕著である。
【0037】
<変形例>
以上に例示した形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。
【0038】
(1)図5に例示した各工程の順序は適宜に変更され得る。例えば、前述の形態では、絶縁層26を形成する工程P2と絶縁層32を形成する工程P5との間に半導体層51の水素化処理(工程P3)を実行したが、絶縁層26および絶縁層32の形成後(工程P5の実行後)に半導体層51の水素化処理を実行することも可能である。
【0039】
(2)前述の形態では、トランジスター12のゲート電極53に光電変換素子14(第1電極41)を接続したが、光電変換素子14の接続先は適宜に変更される。例えば、トランジスター12の第1配線層54や第2配線層55に光電変換素子14を接続した構成も採用され得る。もっとも、回路層20に形成される半導体素子はトランジスター12に限定されない。例えばダイオード等の半導体素子を回路層20に形成した構成にも本発明は適用される。また、前述の形態では、基板10の表面に形成されたトランジスター12(薄膜トランジスター)を例示したが、半導体基板を基板10として利用した構成では、トランジスター12を基板10に直接的に形成することが可能である。
【0040】
(3)前述の各形態では、生体認証用の静脈像を撮像する光電変換装置100(静脈センサー)を例示したが、本発明の用途は任意である。例えば、光電変換装置100が撮像した生体の静脈像から血中アルコール濃度を推定するアルコール検出装置や、光電変換装置100が撮像した生体の静脈像から血糖値を推定する血糖値推定装置等の医療機器にも本発明は適用され得る。撮像結果を利用した血中アルコール濃度の推定や撮像結果を利用した血糖値の推定には公知の技術が任意に採用され得る。また、印刷物から画像を読取る画像読取装置に本発明を適用することも可能である。なお、画像読取装置に本発明を適用する場合には可視光が撮像光として好適に利用される。
【符号の説明】
【0041】
100……光電変換装置、10……基板、U……単位素子、12……トランジスター、14……光電変換素子、20……回路層、22……下地層、24……絶縁層、26……絶縁層(第1絶縁層)、32……絶縁層(第2絶縁層)、30……水素脱離防止層、40……受光層、41……第1電極、42……第2電極、43……光電変換層、45……絶縁層、51……半導体層、52……ゲート絶縁層、53……ゲート電極、54……第1配線層、55……第2配線層。
図1
図2
図3
図4
図5