特許第6044236号(P6044236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044236
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】給湯装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 30/04 20060101AFI20161206BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20161206BHJP
   F25B 17/08 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F25B30/04
   F28D20/00 G
   F25B17/08 D
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-218224(P2012-218224)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-70831(P2014-70831A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
【審査官】 鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−296091(JP,A)
【文献】 特開昭61−205758(JP,A)
【文献】 特開2012−127526(JP,A)
【文献】 特開2012−172900(JP,A)
【文献】 特開2012−220165(JP,A)
【文献】 特開2014−040959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 17/08
F25B 30/04
F28D 20/00
F24H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器から熱媒が供給され、供給された熱媒を吸着する吸着器と、
前記蒸発器から熱媒が供給され、供給された熱媒が固定化されるときに該熱媒の蒸発潜熱以上の反応熱を放出し、該熱媒が脱離するときに蓄熱する化学蓄熱材を備え、前記吸着器の再生温度以上の熱を前記吸着器に放熱可能な蓄熱反応器と、
前記吸着器から熱媒が供給され、供給された熱媒を凝縮する凝縮器と、
前記吸着器、前記蓄熱反応器、及び前記凝縮器の少なくとも1つと熱的に接続されて熱交換することで給湯する給湯部と、
を備えた給湯装置。
【請求項2】
更に、前記蓄熱反応器の前記化学蓄熱材を加熱する熱源を備えた請求項1に記載の給湯装置。
【請求項3】
前記吸着器は、前記蒸発器から前記蓄熱反応器に熱媒が供給されて前記蓄熱反応器から放出された反応熱で加熱されたときに熱媒を脱離し、かつ前記蒸発器から供給された熱媒を吸着し、前記給湯部は、前記吸着器の吸着熱を水と熱交換することで給湯し、
前記凝縮器は、前記吸着器から脱離した熱媒を凝縮し、かつ前記給湯部は、前記凝縮器での凝縮熱を水と熱交換することで給湯する請求項1又は請求項2に記載の給湯装置。
【請求項4】
前記蒸発器から前記蓄熱反応器に熱媒が供給され、前記給湯部は、前記蓄熱反応器から放出された反応熱を水と熱交換することで給湯する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項5】
前記蓄熱反応器の化学蓄熱材は前記熱源により加熱され、前記給湯部は、加熱された蓄熱反応器の顕熱の一部を前記吸着器に付与し吸着器から脱離した熱媒を凝縮したときの凝縮熱を水と熱交換することで給湯する請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項6】
前記蒸発器から前記吸着器に熱媒が供給され、前記給湯部は、前記吸着器から放出された吸着熱を水と熱交換することで給湯する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項7】
前記蓄熱反応器の化学蓄熱材は前記熱源により加熱され、該加熱により蓄熱反応器から脱離した熱媒は前記凝縮器で凝縮され、前記給湯部は、前記凝縮器から放出された凝縮熱を水と熱交換することで給湯する請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項8】
前記蓄熱反応器は、前記化学蓄熱材として、金属酸化物及び金属塩化物から選択される少なくとも一種を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項9】
前記化学蓄熱材が、アルカリ金属の酸化物及び塩化物、アルカリ土類金属の酸化物及び塩化物、並びに遷移金属の酸化物及び塩化物からなる群から選択される請求項8に記載の給湯装置。
【請求項10】
前記熱媒が水であり、前記化学蓄熱材が酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化バリウムから選択される請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項11】
前記熱媒がアンモニアであり、前記化学蓄熱材が、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化マンガン、塩化コバルト、及び塩化ニッケルから選択される請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項12】
前記吸着器は、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、及び粘土鉱物からなる群から選択される吸着材を有する請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項13】
前記蓄熱反応器の熱媒固定化時に放出される反応熱の熱量が、前記吸着器の熱媒吸着時に放出される吸着熱の熱量の2倍以上である請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の給湯装置。
【請求項14】
前記給湯部から所定の閾値温度以上の給湯温度で給湯するときには、前記蒸発器から前記蓄熱反応器に熱媒が供給され、前記給湯部は、前記蓄熱反応器の反応熱を水と熱交換することで給湯し、
前記給湯部から所定の閾値温度未満の給湯温度で給湯するときには、前記給湯部は、前記吸着器において熱媒が吸着するときの吸着熱を水と熱交換し、かつ前記凝縮器において熱媒を凝縮させるときの凝縮熱を水と熱交換することで給湯する請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の給湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材を利用した給湯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質である化学蓄熱材は、従来より広く知られており、種々の分野で利用が検討されている。例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))は、脱水に伴なって蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴なって放熱(発熱)する性質がある。また、アルカリ土類金属に属するカルシウムやマグネシウム等は、アンモニアとの反応で、アンモニアが固定化されるときは放熱し、アンモニアが脱離するときに蓄熱する性質がある。
【0003】
給湯システムは、従来から化石燃料を使用したタイプが広く利用されている。このようなシステムは、化石燃料の燃焼により得られた顕熱を給湯に利用するため、熱の利用効率が100%を超えることはなく、100%の利用効率を実現することも難しいというのが実情である。例えば、灯油式やガス式の給湯システムでは、一般にエネルギーの消費効率を示すCOP(Coefficient Of Performance)値が1を上回ることはない。
【0004】
COP値は、与えられるエネルギー(例えば熱量)により、どの程度のエネルギー(熱量)の出力が可能であるかを表す成績係数のことである。燃焼して熱エネルギーを得る化石燃料を用いたシステムは、顕熱ロスが著しく大きく、COP値は一般的に低い値となる。
【0005】
COPを高める技術の一つとして、一対の吸着器、凝縮器及び蒸発器を備えた吸着式ヒートポンプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなヒートポンプを利用した給湯技術としては、近年、COPが1を超える熱駆動式の給湯システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−125713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来から提案されている吸着式ヒートポンプでは、吸着器における吸着時と脱着時の温度差が大きい等の場合、顕熱ロスが大きくなり、熱の利用効率としては高くない。しかも、一対の吸着器における吸着、脱着のタイミングが別々に決定されるため、連続的な熱生成が行なえない。
【0008】
また、近年報告されている給湯システムは、ガス等の化石燃料を利用したものであり、化石燃料基準の効率からみると必ずしも高効率なシステム構成とは言い難い。また、ヒートポンプタイプでも、電気エネルギーを利用するため、一次エネルギー換算では効率がよいとは言い難い。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、顕熱ロスが少なく熱の利用効率に優れており、給湯温度に応じて効率良く給湯する給湯装置を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の知見に基づいて達成されたものである。即ち、
従来から提案されている一対の吸着器、凝縮器、及び蒸発器を備えたシステム構成において、吸着器に代えて化学蓄熱器を利用した構成にすると、化学蓄熱器の化学蓄熱材において発現する多大な吸発熱の利用が可能になるため、給湯温度に応じた給湯効率の改善が図れると共に、外部から供給しなければならない熱エネルギー(顕熱)を軽減することができるとの知見である。
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の給湯装置は、
熱媒を蒸発させる蒸発器と、蒸発器から熱媒が供給され、供給された熱媒を吸着する吸着器と、蒸発器から熱媒が供給され、供給された熱媒が固定化されるときに該熱媒の蒸発潜熱以上の反応熱を放出し、該熱媒が脱離するときに蓄熱する化学蓄熱材を備え、吸着器の再生温度以上の熱を吸着器に放熱可能な蓄熱反応器と、吸着器から熱媒が供給され、供給された熱媒を凝縮する凝縮器と、吸着器、蓄熱反応器、及び凝縮器の少なくとも1つと熱的に接続されて熱交換することで給湯する給湯部と、を設けて構成されたものである。
【0012】
本発明においては、蓄熱反応器において熱媒を反応させて反応熱を生成し、この反応熱を吸着器の再生に利用する。このとき、蒸発器では熱媒の蒸発潜熱分の吸熱作用が生じる。例えば酸化カルシウムを用いた蓄熱反応系では、CaO+HO(熱媒)→Ca(OH)+Q[反応熱]の反応により得られる反応熱Qは大きく、「(反応熱Q)>>(蒸発器の吸熱)」となる(例えば、蒸発器の吸熱量の2.5倍)。
吸着器は凝縮器と接続され、吸着器に蓄熱反応器での反応熱が加えられると、吸着器に吸着されている熱媒が脱離する。脱離した熱媒は凝縮器で凝縮され、その凝縮熱は温水として回収される。さらに、吸着器において熱媒脱離が終了し完全に再生すると、吸着器は蒸発器と接続される。蒸発器において反応熱を利用して気化した熱媒が吸着器に供給され吸着されると、その吸着熱(温熱)は、温水として回収される。すなわち、例えば蓄熱反応器で100の反応熱を得た場合を考えると、例えば100の反応熱を吸着器に与えて熱媒を脱離、凝縮させることで凝縮熱を得て100の温水が生成される。さらに、蒸発器と吸着器とを接続し、吸着器に気化した熱媒を供給して吸着熱を得ることで、100の温水が生成される。このように、熱と熱媒のやり取りを繰り返し行なうことで、化学蓄熱材の反応で蓄熱反応器に生成される熱エネルギー(反応熱Q)から(顕熱を無視した場合)温水を従来の2倍量取り出すことが可能になる。
なお、吸着器の再生とは、吸着器の吸着材に吸着している熱媒を、熱の付与により吸着材から脱離(脱着)することをいい、再生温度は、吸着材から脱離が起きる温度である。
【0013】
本発明に係る給湯装置では、更に、蓄熱反応器の化学蓄熱材を加熱する熱源が設けられた構成が好ましい。発熱反応を繰り返した化学蓄熱材を再生するため、外部から加熱するための熱源を設けることで、化学蓄熱材の発熱反応を継続的に維持することができる。
【0014】
本発明に係る給湯装置において、吸着器は、蒸発器から蓄熱反応器に熱媒が供給されて蓄熱反応器から放出された反応熱で加熱されたときには、熱媒を脱離し、かつ蒸発器から供給された熱媒を吸着したときは、給湯部は、前記吸着器の吸着熱を水と熱交換することで給湯する。さらに加えて、凝縮器は、吸着器から脱離した熱媒を凝縮し、かつ凝縮時の凝縮熱を利用し、給湯部は、凝縮器での凝縮熱を水と熱交換することで給湯する態様に構成することができる。
このような態様によると、蒸発器での蒸発潜熱を利用して、その反応熱分に相当する吸着熱で温水を生成し、反応熱の一部を利用して吸着材の再生を行ない、脱着熱に相当する凝縮熱でその反応熱分に相当する凝縮熱で温水を生成するので、蓄熱反応器で得られた反応熱Qの無駄を省き、所望の給湯温度に対応する必要な熱量での給湯が行なえる。したがって、蓄熱反応器での反応熱より低い所望温度の給湯に必要な熱量を多く確保できる効果(増熱効果)があり、給湯量が増す。
【0015】
一方、本発明に係る給湯装置では、蒸発器から蓄熱反応器に熱媒が供給されたときに、給湯部は、蓄熱反応器から放出された反応熱を水と熱交換することで給湯してもよい。これにより、高温の給湯需要が生じた場合に迅速に給湯することが可能になる。
【0016】
本発明に係る給湯装置は、蓄熱反応器の化学蓄熱材が外部の熱源(ヒータ等)により直接加熱されたときに、給湯部は、加熱された蓄熱反応器の顕熱の一部を前記吸着器に付与し吸着器から脱離した熱媒を凝縮したときの凝縮熱を水と熱交換することで給湯することができる。すなわち、外部熱源により直接加熱された蓄熱反応器の顕熱の一部が吸着器に与えられると、吸着器では熱媒が脱離し、脱離した熱媒が供給された凝縮器において熱媒が凝縮され凝縮熱が生じると、給湯部はこの凝縮熱を水と熱交換して温水を給湯する。
化学蓄熱材を再生するときには、外部熱源により高温で加熱されるため(例えばCa(OH)の脱水反応では約400℃程度)、顕熱ロスが生じやすいが、この顕熱を有効に利用することで熱効率が向上し、給湯効率(COP)の点で有利である。
【0017】
本発明に係る給湯装置は、蒸発器から吸着器に熱媒が供給されたときに、給湯部は、吸着器から放出された吸着熱を水と熱交換することで給湯することができる。吸着器の放出熱は化学蓄熱材の反応熱に比べて大きくないが、給湯需要の給湯温度が比較的低いときには吸着熱で温水を給湯することができる。
【0018】
本発明に係る給湯装置では、蓄熱反応器の化学蓄熱材を外部の熱源により直接加熱した場合は、加熱によって蓄熱反応器から脱離した熱媒が凝縮器に送られて凝縮されることで、給湯部は、凝縮器から放出された凝縮熱を水と熱交換することで給湯することができる。この場合、凝縮器では、外部より化学蓄熱材を加熱した際の顕熱の一部に対応した凝縮熱が得られ、顕熱を有効利用できるので、所望とする温水を迅速に供給することが可能になる。
【0019】
本発明に係る給湯装置の蓄熱反応器は、化学蓄熱材の少なくとも一種として、金属酸化物及び金属塩化物から選択される化合物を用いて構成された態様が好ましく、アルカリ金属の水酸化物及び塩化物、アルカリ土類金属の水酸化物及び塩化物、並びに遷移金属の水酸化物及び塩化物からなる群から選択される化合物を有している態様がより好ましい。
【0020】
金属酸化物及び金属塩化物は、高い蓄熱密度(kJ/kg)が得られる点で好適であり、熱の有効利用に適している。アルカリ金属の水酸化物及び塩化物、アルカリ土類金属の水酸化物及び塩化物、及び遷移金属の水酸化物及び塩化物は、温熱及び冷熱の生成効率をより高める点で有用である。
【0021】
なお、蓄熱密度は、水やアンモニア等の熱媒の脱離により水酸化物又は金属塩化物1kgあたりに蓄熱される熱量(kJ)を示す。
【0022】
本発明においては、熱媒として水を用い、水の授受により蓄熱、放熱を行なう場合、化学蓄熱材としては、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、及び酸化バリウム(BaO)から選択されるものが好ましい。
【0023】
本発明においては、熱媒としてアンモニアを用い、アンモニアの授受により蓄熱、放熱を行なう場合、化学蓄熱材としては、塩化リチウム(LiCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化バリウム(BaCl)、塩化マンガン(MnCl)、塩化コバルト(CoCl)、及び塩化ニッケル(NiCl)から選択されるものが好ましい。
【0024】
本発明における吸着器は、熱媒を吸着する吸着材を設けて構成されていることが好ましい。吸着材としては、熱媒を物理吸着する物理吸着材を設けて構成された態様が好ましく、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、及び粘土鉱物からなる群から選択される物理吸着材を設けた構成がより好ましい。特に物理吸着材である活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、及び粘土鉱物は、熱媒脱離しあるいは脱離した熱媒を再吸着する場合に、熱媒1molの脱離あるいは吸着に要する熱量が化学吸着材に比べて小さく、少ない熱量で熱媒の授受を行なうことができる。
また、従来は熱の利用効率を高めるため貯湯槽を設けた例があるが、貯湯槽では放熱による顕熱ロス(熱エネルギー損失)が大きいのに対し、化学蓄熱材を利用した蓄熱では、バルブ等で熱媒移動が遮断される限り、半永久的に熱エネルギーを保持することが可能である。例えば一般に使用される貯湯槽に比べて約150倍の蓄熱密度を達成することができる。
【0025】
本発明において、蓄熱反応器の熱媒固定化時に放出される反応熱の熱量が、吸着器の熱媒吸着時に放出される吸着熱の熱量の2倍以上である場合が好ましい。単に外部熱源を用いた加熱によるのではなく、化学蓄熱材の反応熱が吸着器の吸着時における熱量より2倍以上であることで、蓄熱反応器の反応熱の一部で吸着器を加熱して熱媒を脱離させ、さらに他の一部で吸着器に蒸発器から熱媒を供給、吸着させることができる。これにより、2倍以上の増熱効果が期待される。
【0026】
本発明に係る給湯装置には、給湯部から所定の閾値温度以上(例えば50℃以上)の給湯温度で給湯するときには、蒸発器から蓄熱反応器に熱媒を供給し、給湯部は、蓄熱反応器の反応熱を水と熱交換することで給湯すると共に、給湯部から所定の閾値温度未満(例えば50℃未満)の給湯温度で給湯するときには、給湯部は、吸着器において熱媒が吸着するときの吸着熱を水と熱交換し、かつ凝縮器において熱媒を凝縮させるときの凝縮熱を水と熱交換することで給湯する構成とすることができる。
【0027】
本発明では、化学蓄熱材を用いた蓄熱反応器と吸着器とを配設することによって、例えば50℃以上の比較的温度の高い給湯需要があるときには、蓄熱反応器の反応熱を直接熱交換することで、高温の給湯を迅速に行なうことができる。逆に、給湯需要の給湯温度が例えば50℃未満の比較的低い温度域であるときには、蓄熱反応器での反応熱の一部を吸着器に与えて熱媒を脱離させ、凝縮器での熱媒凝縮時の凝縮熱で比較低温の温水を給湯することができる。このとき、温水の温度は化学蓄熱材の反応熱に比べて低いため、この低い温度の温水を多量に給湯することが可能であり、吸着器の再生が完了したときは蒸発器からの熱媒供給が可能で吸着器の吸着熱による温水の給湯も行なえる利点がある。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、顕熱ロスが少なく熱の利用効率に優れており、給湯温度に応じて効率良く給湯する給湯装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る蓄熱型吸着式ヒートポンプ給湯システムの概略構成を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態における給湯モードの1つを示す概略図である。
図3】本発明の実施形態における他の給湯モードを示す概略図である。
図4】本発明の実施形態における他の給湯モードを示す概略図である。
図5】本発明の実施形態における他の給湯モードを示す概略図である。
図6】本発明の実施形態における他の給湯モードを示す概略図である。
図7】本発明の実施形態の給湯制御ルーチンの一例を示す流れ図である。
図8】本発明の具体的な利用例(顕熱回収)の1つを示す図である。
図9】本発明の具体的な利用例(蓄熱利用)の1つを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図1図9を参照して、本発明の給湯装置の実施形態について具体的に説明する。但し、本発明においては、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0031】
本実施形態では、蓄熱反応器の化学蓄熱材として酸化カルシウム(CaO)を、吸着器の吸着材としてシリカゲルを用い、熱媒として水を用いた蓄熱型吸着式ヒートポンプ給湯システム(以下、単に「給湯システム」又は「本実施形態の給湯システム」ともいう。)を一例に詳細に説明する。
【0032】
本実施形態の給湯システム100は、図1に示すように、蓄熱反応器10と、蓄熱反応器と熱的に接続されている吸着器20と、蓄熱反応器及び吸着器への熱媒供給が可能なように接続された蒸発器30、蓄熱反応器及び吸着器からの熱媒供給が可能なように接続された凝縮器40と、蓄熱反応器、吸着器、及び凝縮器とそれぞれ熱的に接続された給湯部50とを備えている。
【0033】
本実施形態の蓄熱反応器10は、化学蓄熱材として、酸化カルシウム(CaO)を備えており、熱媒である水が供給されることで、下記の反応を起こして反応熱を生じる。化学蓄熱材は、化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質であり、粉体を成形した成形物として反応器内に設けられていてもよい。
【0034】
化学蓄熱材であるCaOは、水和により放熱(発熱)し、脱水を伴なって蓄熱(吸熱)する構成となる。すなわち、CaOは、以下に示す反応により蓄熱、放熱を可逆的に繰り返することができる。
CaO + HO ⇔ Ca(OH) ・・・(a)
またこれに、蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、以下のようになる。
CaO + HO → Ca(OH) + Q ・・・(b)
Ca(OH) + Q → CaO + HO ・・・(c)
【0035】
本実施形態では、図1に示されるように、蒸発器30から水蒸気(HO)が供給されると、上記反応を起こして反応熱Qを生成する。生成した反応熱Qは、図2に示されるように、吸着器20との間の熱交換により、吸着器20に与えることができるようになっている。また、図4に示されるように、反応熱を直接給湯用の水と熱交換することで、高温の給湯が可能になる。
【0036】
化学蓄熱材としては、酸化物系の材料として、CaOのほか、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)などのアルカリ土類金属の無機酸化物や、酸化リチウムなどのアルカリ金属の無機酸化物、酸化アルミニウム(Al)、等の無機酸化物などが挙げられる。金属酸化物は、一種単独で用いるほか、二種以上を併用してもよい。
【0037】
上記以外の化学蓄熱材としては、蓄熱密度をより高める観点から、金属塩化物も好適である。金属塩化物は、熱媒としてアンモニア等を使用する場合に好適に用いられ、アンモニアの吸着時に発熱反応を生じる化合物を適用することができる。金属塩化物では、アンモニアが蓄熱材に固定化(吸着)されるとき(例えばMgClの場合、下記の可逆反応(1)において右方向に進む反応時)に放熱し、アンモニアが蓄熱材から脱離するとき(例えばMgClの場合、下記の可逆反応(1)において左方向に進め反応時)に蓄熱する。
MgCl・2NH+ 4NH ⇔ MgCl・6NH + Q[kJ] …(1)
【0038】
金属塩化物としては、例えば、アルカリ金属の塩化物、アルカリ土類金属の塩化物、及び遷移金属の塩化物などが好適であり、塩化リチウム(LiCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化バリウム(BaCl)、塩化マンガン(MnCl)、塩化コバルト(CoCl)、及び塩化ニッケル(NiCl)がより好ましい。金属塩化物は、一種単独で用いるほか、二種以上を併用してもよい。
金属塩化物の種類は、アンモニア圧や温度に合わせて適宜選定することができる。したがって、熱利用の対象に合わせ、アンモニア圧や温度を選定できる幅が広がる。
【0039】
上記の中では、水を熱媒とする系では、水和反応に伴なって放熱し、脱水反応に伴なって吸熱する水和反応性蓄熱材が好ましく、特に酸化カルシウム(CaO)好ましい。
また、アンモニアを熱媒とする系は、氷点下での運転が可能である。この場合、アンモニアの吸着温度が低い場合は、BaCl、CaCl、SrClを選択することができ、アンモニアの吸着温度が比較的高い場合は、MgCl、MnCl、CoCl、NiClを選択することができる。
【0040】
化学蓄熱材は、CaO等の例えば粒状物をプレス成形して得られた成形体として設けることができる。
成形方法については、特に限定はなく、例えば、化学蓄熱材及び必要に応じてバインダー等の他の成分を含む蓄熱材(又は蓄熱材を含むスラリー)を、加圧成形、押出成形等の公知の成形方法を適用することができる。成形時の圧力は、例えば20〜100MPaとすることができ、20〜40MPaが好ましい。
【0041】
蓄熱反応器10には、化学蓄熱材を加熱して脱水反応させて再生するための加熱手段として外部熱源60が熱交換管16を介して熱的に接続されている。外部熱源60により化学蓄熱材を加熱することで、化学蓄熱材の水(熱媒)との反応性が改善される。
外部熱源60としては、燃料を燃焼して加熱する燃焼器、電気ヒータ等のヒータ類などを使用することができる。
【0042】
熱交換管16は、無端の配管と、この配管内を流通する熱交換用流体とで構成されている。配管に取り付けられた図示しない循環用ポンプによって、配管中を熱交換用流体(例えば水又は水と水溶性溶剤(エタノール等のアルコールやエチレングリコール等のグリコールなど)との混合溶媒)が循環して流通することで、熱源60の熱を蓄熱反応器10に付与して加熱できるようになっている。
【0043】
吸着器20は、水(熱媒)を吸着する吸着材としてシリカゲル(物理吸着材)が配設されており、熱交換管12を介して蓄熱反応器10と熱的に接続されている。吸着器20は、蓄熱反応器10からの熱で吸着材が加熱されると、吸着材であるシリカゲルに吸着されている水(熱媒)を脱離し、脱離した水を凝縮器40に供給することができる。
【0044】
吸着材が用いられることにより、化学蓄熱材に比べて、熱媒の吸着(固定化)及び脱離に要する熱量をより小さくすることができ、低エネルギーでも熱媒の着脱が容易に行なえる。熱媒にアンモニアを用いた場合、アンモニア1molの吸着及び脱離に要する熱量は、化学蓄熱材(例えば、LiCl、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MnCl、CoCl、NiCl等)では40〜60kJ/molであるのに対し、物理吸着材では20〜30kJ/molに抑えることができる。
【0045】
吸着材としては、多孔体を用いることができる。多孔体としては、吸着(好ましくは物理吸着)によるアンモニアの固定化及び脱離の反応性をより向上させる観点から、細孔径が10nm以下の孔を有する多孔体が好ましい。細孔径の下限は、製造適性等の観点から、0.5nmが好ましい。多孔体としては、前記同様の観点から、平均1次粒子径が50μm以下の1次粒子が凝集して得られた1次粒子凝集体である多孔体が好ましい。平均1次粒子径の下限は、製造適性等の観点から1μmが好ましい。
【0046】
吸着材の例としては、本実施形態で用いられているシリカゲルのほか、例えば、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、粘土鉱物等が挙げられる。前記粘土鉱物としては、非架橋の粘土鉱物であっても、架橋された粘土鉱物(架橋粘土鉱物)であってもよい。粘土鉱物の例として、セピオライト等が挙げられる。
吸着材の比表面積は、BET法による比表面積で500m/g以上2500m/g以下(より好ましくは1000m/g以上2500m/g以下)であることが好ましい。
【0047】
本発明においては、熱媒の圧力や温度に合わせて、吸着材(好ましくは多孔体)の種類を適宜選定することができる。吸着による水の固定化及び脱離の反応性をより向上させる観点からは、シリカゲルを少なくとも含む態様が好ましい。また、吸着によるアンモニアの固定化及び脱離の反応性をより向上させる観点からは、活性炭を少なくとも含む態様が好ましい。
【0048】
吸着材(好ましくは物理吸着材)を用いた熱媒の授受により吸発熱する構成の場合、吸着材量中に占める吸着材の含有比率は、熱媒の固定化及び脱離の反応性をより高く維持する観点から、80体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましい。
【0049】
吸着材を成形体にして利用する場合、吸着材と共にバインダーを含有してもよい。バインダーを含有することで、成形体の形状がより維持され易くなるので、吸着による熱媒の固定化及び脱離の反応性がより向上する。バインダーとしては、水溶性バインダーが好ましい。水溶性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、トリメチルセルロース等が挙げられる。
また、吸着材及びバインダーに加えて、必要に応じて、他の成分を含有していてもよい。他の成分の例として、カーボンファイバーや金属繊維等の熱伝導性無機材料等が挙げられる。
【0050】
吸着材及びバインダーを用いて成形する場合、バインダーの含有比率は、成形体の形状をより効果的に維持する観点から、5体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましい。成形方法については、特に限定はなく、例えば、吸着材(及び必要に応じバインダー等の他の成分)を加圧成形、押し出し成形等の公知の成形手段により成形する方法が挙げられる。成形時の圧力は、例えば20〜100MPaとすることができ、20〜40MPaが好ましい。
【0051】
熱交換管12は、無端の配管と、この配管内を流通する熱交換用流体とで構成されている。配管に取り付けられた図示しない循環用ポンプによって、配管中を熱交換用流体(例えば水又は水と水溶性溶剤(エタノール等のアルコールやエチレングリコール等のグリコールなど)との混合溶媒)が循環して流通することで、吸着器20より熱量の高い蓄熱反応器の熱を吸着器20に付与できるようになっている。
【0052】
蒸発器30は、熱媒を気化し、気化した熱媒を供給可能に蓄熱反応器10及び吸着器20と接続されている。具体的には、蒸発器30には、バルブV1を有する熱媒供給管32の一端と、バルブV3を有する熱媒供給管34の一端とがそれぞれ接続されており、蒸発器30は熱媒供給管32、34を介して蓄熱反応器10、吸着器20と連通されている。
【0053】
熱媒供給管32の他端は、蓄熱反応器10と接続されており、バルブV1を開くことで、水蒸気(熱媒)は、熱媒供給管32を通じて蓄熱反応器10に供給される。このとき、蒸発器での蒸気圧が蓄熱反応器より高いため、バルブを開くことで熱媒の供給が可能である。また、熱媒供給により化学蓄熱材は発熱反応を起こして反応熱を生成するが、バルブV1を閉じておくことで、半永久的に熱エネルギーを蓄えておくことが可能である。
【0054】
熱媒供給管34の他端は、吸着器20と接続されており、バルブV3を開くことで、水蒸気(熱媒)は、熱媒供給管34を通じて吸着器20に供給される。このとき、蒸発器での蒸気圧が吸着器より高いため、バルブを開くことで熱媒の供給が可能である。また、熱媒の供給により、熱媒が吸着材に吸着されると発熱反応が生じて吸着熱を生成するが、バルブV3を閉じておくことで、半永久的に熱エネルギーを蓄えておくことが可能である。
【0055】
また、蒸発器30は、熱交換管36を介して冷熱需要の例であるエアコン室外機などの冷熱機器70と熱的に接続されている。蒸発器30では、熱媒の気化のために冷熱が生成されるため、熱交換管36を通じて熱交換することで、冷熱需要のある機器との間で熱の有効利用が図れる。
【0056】
熱交換管36は、熱交換管12と同様に、無端の配管とこの配管内を流通する熱交換用流体とで構成されている。配管に取り付けられた図示しない循環用ポンプによって、配管中を熱交換用流体(例えば上記同様に水又は水と水溶性溶剤との混合溶媒)が循環して流通することで、冷熱を冷熱機器70に供給することができる。
【0057】
凝縮器40は、熱媒供給管42、44により蓄熱反応器10及び吸着器20と熱媒供給が可能に接続されており、蓄熱反応器10及び吸着器20から供給された水蒸気(熱媒)を凝縮する。具体的には、凝縮器40には、バルブV2を有する熱媒供給管42の一端と、バルブV4を有する熱媒供給管44の一端とがそれぞれ接続されており、凝縮器40は熱媒供給管42、44を介して蓄熱反応器10、吸着器20と連通されている。
【0058】
熱媒供給管42の他端は、蓄熱反応器10と接続されており、バルブV2を開くことで、水蒸気(熱媒)が熱媒供給管42を通じて凝縮器40に送られる。このとき、凝縮器での蒸気圧が蓄熱反応器より低いため、バルブを開くことで熱媒の供給が可能である。凝縮器では、水蒸気を凝縮して水に戻す際に凝縮熱を生成し、この凝縮熱を熱交換することで温水の給湯が可能である。
【0059】
熱媒供給管44の他端は、吸着器20と接続されており、バルブV4を開くことで、水蒸気(熱媒)が熱媒供給管44を通じて凝縮器40に送られる。このとき、凝縮器での蒸気圧が吸着器より低いため、バルブを開くことで熱媒の供給が可能である。凝縮器では、上記のように凝縮熱を生成し、この凝縮熱を熱交換することで温水の給湯が可能である。
【0060】
凝縮器40には、バルブV5を有する熱媒流通管48の一端が接続されており、熱媒流通管48の他端は蒸発器30と接続されている。このように、凝縮器40と蒸発器30とは、熱媒流通管48により互いに連通されており、凝縮器40で凝縮し生成された水(熱媒)は熱媒流通管48を流通して蒸発器30に戻されるようになっている。
【0061】
給湯部50は、熱交換管を介して蓄熱反応器10、吸着器20、及び凝縮器30とそれぞれ熱的に接続されている。
蓄熱反応器10と給湯部50とは、熱交換管14を介して熱的に接続されている。蓄熱反応器10の化学蓄熱材が熱媒と発熱反応を起こすと、その反応熱を熱交換管14を介して直接熱交換に利用し、給湯部において高温の給湯を迅速に行なえるようになっている。
吸着器20と給湯部50とは、熱交換管22を介して熱的に接続されている。吸着器20に熱媒が吸着すると、その吸着熱を熱交換管22を介して水と熱交換し、給湯部において温水を給湯できるようになっている。
また、凝縮器30と給湯部50とは、熱交換管46を介して熱的に接続されている。凝縮器30に熱媒が供給されて凝縮されると、その凝縮熱を熱交換管46を介して水と熱交換し、給湯部において温水を給湯することができる。
【0062】
熱交換管14、22、46は、いずれも、無端の配管と、この配管内を流通する熱交換用流体とで構成されている。配管に取り付けられた図示しない循環用ポンプによって、配管中を熱交換用流体が循環流通することで、蓄熱反応器、吸着器、凝縮器の熱を給湯部50に供給できるようになっている。熱交換用流体には、例えば、水、又は水と水溶性溶剤(エタノール等のアルコールやエチレングリコール等のグリコールなど)との混合溶媒を用いることができる。
【0063】
本実施形態の蓄熱型吸着式ヒートポンプ給湯システム100は、蒸発器30から蓄熱反応器10に水蒸気(熱媒)を供給し、蓄熱反応器10において化学蓄熱材と水(熱媒)とを反応させて反応熱を生成する。この反応熱を吸着器20の再生に利用する。このとき、蒸発器30では、熱媒の蒸発潜熱分の吸熱作用が生じ、「(反応熱)>>(蒸発器30の吸熱)」となる。酸化カルシウムを用いた本実施形態の蓄熱反応は、下記の通りである。
CaO + HO(熱媒) → Ca(OH)+ Q[反応熱]
反応熱Q>>(蒸発器30の吸熱)
本実施形態では、蓄熱反応器10と蒸発器30とを接続し、吸着器20と凝縮器40とを接続する。蒸発器30では、熱媒である水を蒸発させて水蒸気を生成すると、吸熱が生じる。生成した水蒸気(熱媒)が供給されると、蓄熱反応器10では反応熱Qを生成する。蓄熱反応器10での反応熱Qが吸着器20に加えられると、吸着器20に吸着されている熱媒が脱離する。脱離した熱媒は、凝縮器40に送られ、凝縮器で凝縮される。この凝縮熱は、熱交換管46を介して水と熱交換し、給湯部50において温水として回収される。凝縮器で凝縮された熱媒は、凝縮器40から熱媒流通管48を流通して、蒸発器30に戻される。
次いて、吸着器20に吸着している熱媒が完全に脱離し吸着器20の再生が完了すると、吸着器20と蒸発器30とを接続し、蒸発器30から吸着器20に水蒸気(熱媒)が供給される。吸着器20では、供給された水蒸気が吸着すると、吸着熱(温熱)を生成し、生成した吸着熱は熱交換管22を介して水と熱交換し、給湯部50において温水として回収される。
本実施形態では、例えば蓄熱反応器10で100の反応熱Qを生成した場合を考えると、上記のように、例えば100の反応熱Qを吸着器20に与え、熱媒を脱離させ、脱離した熱媒を凝縮器40で凝縮させることで、100の凝縮熱を得て温水を生成する。さらに、蒸発器30から水蒸気(熱媒)を吸着器20に供給することで、100の吸着熱を得て温水を生成する。このようにして、化学蓄熱材10での発熱反応で蓄熱反応器に生成される熱エネルギー(反応熱Q)から、従来の2倍量の温水を取り出すことが可能になる。
以上のように、本実施形態の給湯システムでは、顕熱ロスが少なく熱の利用効率に優れており、給湯温度に応じて効率の良い給湯が行なえる。
【0064】
制御装置90は、給湯システムの全制御を担う制御手段であり、バルブV1〜V4、及び外部熱源などと電気的に接続されており、バルブや熱源、熱交換を制御して熱利用をコントロールできるように構成されている。
【0065】
次に、本実施形態の給湯システムを制御する制御手段である制御装置90による制御ルーチンのうち、給湯需要における給湯温度に合わせて給湯の仕方(給湯ルート)を選択する給湯制御ルーチンを中心に図7を参照して説明する。
【0066】
本実施形態の給湯システムの起動スイッチのオンにより制御装置90の電源がオンされると、システムが起動され、給湯ルートを制御するための給湯制御ルーチンが実行される。なお、システムの起動は、自動で行なう以外に手動で行なうようにしてもよい。
【0067】
本ルーチンが実行されると、まず給湯需要における給湯温度又は給湯量を判断するため、ステップ100において、要求されている給湯温度が所定の閾値温度T[℃]以上であるか否かが判定される。
【0068】
ステップ100において、給湯温度が閾値温度T以上であると判定されたときには、高温給湯を賄う必要があるため、ステップ120において、バルブV1を開き、蓄熱反応器10に蒸発器30により水蒸気(熱媒)を供給して発熱反応を開始することで、蓄熱反応器10において反応熱Qを得る。一方、ステップ100において、給湯温度が閾値温度T未満であると判定されたときには、ステップ220において、吸着器20の再生が必要であるか否かが判定される。
【0069】
ステップ140では、図4に示すように、蓄熱反応器10の反応熱Qを熱交換管14を介して直接水と熱交換し、高温給湯する。その後、本ルーチンを終了する。
【0070】
ステップ220において、吸着器20への熱媒吸着が不要と判定されたときには、吸着器の再生を継続できるため、図2に示されるように、バルブV1の開放に続いてバルブV4を開き、蓄熱反応器10の反応熱を熱交換管12を介して吸着器20に与える。反応熱で加熱された吸着器20では、吸着していた熱媒が脱離し、吸着材が次第に再生する。脱離した熱媒は、熱媒供給管44を通じて凝縮器40に送られ、次のステップ260において、凝縮時の凝縮熱を熱交換管46を介して水と熱交換する。このとき、給湯部50において、脱離した熱媒量分の温水を給湯する。その後、本ルーチンを終了する。
【0071】
次に、ステップ220において、吸着器20の再生が完了し熱媒を吸着器に供給する必要があると判定されたときには、図3に示すように、次のステップ320でバルブV3を開き、蒸発器30から水蒸気(熱媒)を吸着器に供給し、吸着材に吸着させる。このとき、吸着熱が発生するため、次のステップ340において、吸着器20での吸着熱を熱交換管22を介して水と熱交換し、吸着熱分の温水を給湯する。その後、本ルーチンを終了する。
【0072】
本実施形態の給湯システムでは、上記したように、以下に示す給湯モード(a)〜(e)を有している。給湯温度が50℃未満の比較的低温の給湯が要求されるときには、下記(a)〜(b)の給湯モードが、給湯温度が50℃以上の比較的高温の給湯が要求されるときには、下記(c)〜(e)の給湯モードが用いられる。また、下記のうち、蓄熱反応器から直接高温の給湯を得る給湯モード(c)以外は、一旦吸着器又は凝縮器との熱交換を経ており、本実施形態の給湯システムの持つ増熱効果を利用する。
(a)水源→吸着器20との熱交換→給湯(図3
(b)水源→凝縮器40との熱交換→給湯(図2
(c)水源→蓄熱反応器10との熱交換→給湯(図4
(d)水源→吸着器20との熱交換(図3)→蓄熱反応器10との熱交換→給湯(図5
(e)水源→凝縮器40との熱交換(図6)→蓄熱反応器10との熱交換→給湯(図5
【0073】
以下に、本実施形態の給湯システムでの給湯モードの例を図2図6を参照して詳述する。
【0074】
図2は、バルブV1、V4を開いて(バルブV2、V3は閉状態)、蒸発器30と蓄熱反応器10とを接続すると共に、吸着器20と凝縮器40とを接続し、蓄熱反応器と吸着器との熱交換を経て、吸着器の吸着材から脱離した熱媒の凝縮により得られる凝縮熱を利用して給湯するものである。この場合、蓄熱反応器10で生成した反応熱Qで吸着器20が加熱され、その熱量に対応した凝縮熱で給湯する。
このとき、水(熱媒)の反応量を1[mol]、水とCaOとの反応熱Qを113[kJ/mol]、水の蒸発潜熱を45[kJ/mol]とすると、各器では下記の熱が生成する。
蒸発器(冷熱):45[kJ]
蓄熱反応器(温熱):113[kJ]
ここで、冷熱温度を25℃とする。ここでは、水での熱交換を想定し90℃での取り出しを想定する。凝縮器40と吸着器20とを接続し、蓄熱反応器で生成した反応熱113[kJ]と温度90℃の温水とを吸着器20に投入する。吸着器20は、給湯温度45℃から90℃まで昇温させるものとする。凝縮器40では、吸着器での昇温に対応する凝縮熱が発生するため、給湯部50において給湯温度45℃の温水を回収する。吸着熱を45[kJ/mol]、吸着器20の熱容量を0.5[kJ/℃]とすると、吸着器で脱離した水量は1.95[mol]となる。各器での熱のやり取りは、
吸着器(吸着熱+顕熱):113[kJ]
凝縮器(凝縮熱):88[kJ]
なお、蒸発器30では、水蒸気(熱媒)の供給に伴ない冷熱が発生するため、熱交換管36を介して熱的に接続されているエアコン室外機等の冷熱機器(冷熱需要)に対し、冷熱の利用が可能である。
【0075】
図3は、バルブV3を開いて(バルブV1、V2、V4は閉状態)、蒸発器30と吸着器20とを接続し、吸着器20に水蒸気(熱媒)が吸着する際の吸着熱を利用して給湯するものである。このとき、蒸発器30では冷熱が発生するため、熱交換管36を介して熱的に接続されているエアコン室外機等の冷熱機器(冷熱需要)に対し、冷熱の利用が可能である。
このときの熱のやり取りは以下の通りである。
吸着器(吸着熱+顕熱):113[kJ]
蒸発器(冷熱):88[kJ]
【0076】
図2及び図3に示す給湯モードにおいて、N1[回]の操作で蓄熱反応器の反応が全て完了したとすると、以下に示す温熱201[kJ]が生成する。
消費した熱エネルギー:113[kJ]×N1
生成した熱エネルギー(温熱):201[kJ]×N1
よって、この給湯モードの場合、蓄熱した熱量に対して、COP=1.78での給湯が可能であることが分かる。また、このときの冷熱生成COPは、下記のようになる。
冷熱生成COP=(45[kJ]+88[kJ])/(113[kJ])
=1.18
【0077】
次に、給湯温度の高い給湯を行なう場合を説明する。
この給湯モードでは、図4に示すように、バルブV1を開き(バルブV2〜V4は閉状態)、蒸発器30と蓄熱反応器10とを接続し、蒸発器からの水蒸気(熱媒)の供給により蓄熱反応器で発熱反応させる。その後、この反応熱を給湯部50において直接熱交換し、高温にて給湯する。この場合、上記の給湯モード(c)で蓄熱反応器との間の熱交換により直接給湯を行なうほか、給湯モード(d)〜(e)のように、給湯モード(a)や(b)で得られた温水をさらに蓄熱反応器との間の熱交換により昇温して給湯してもよい。
【0078】
次に、外部からの加熱により蓄熱反応器を再生する場合を説明する。
この給湯モードでは、図5に示すように、バルブV2を開き(バルブV1、V3、V4は閉状態)蓄熱反応器10と凝縮器40とを接続し、燃焼器である外部熱源60からの熱で蓄熱反応器10を加熱する。加熱温度は、化学蓄熱材の再生温度に照らし、例えば450℃とすることができる。蓄熱反応器の化学蓄熱材の再生温度の450℃まで昇温するのに必要な顕熱をQ1[kJ]とすると、下記の「(113[kJ]×N1)+Q1[kJ]」のうち、45[kJ]×N1の熱を凝縮熱として給湯に利用することができる。
蓄熱反応器:(113[kJ]×N1)+Q1[kJ]
凝縮器:45[kJ]×N1
この給湯モードでは、高温の給湯あるいは多量の給湯が必要な場合に、外部熱源を利用して蓄熱作用を行なうものである。すなわち、外部熱源60からの熱を蓄熱反応器10に投入して化学蓄熱材を再生し蓄熱する。このとき放出される熱媒を凝縮器40で凝縮し、この凝縮熱を給湯部50において水と熱交換し、温水として回収する。その後は、蓄熱反応器の化学蓄熱材は再生されているため、化学蓄熱材の反応熱を中心とした熱利用が可能である。
【0079】
また、図5のように蓄熱反応器の化学蓄熱材の再生が終了した後は、蓄熱反応器10に溜まっている顕熱Q[kJ]を回収し、この顕熱を吸着器20の再生に利用することができる。
具体的には、図6に示すように、バルブV4を開き(バルブV1〜V3は閉状態)、吸着器20と凝縮器40とを接続し、回収した顕熱Qを熱交換管12を介して吸着器20に与える。吸着器20は、吸着されている熱媒を脱離し、脱離した熱媒は凝縮器40に送られ凝縮される。ここで生成した凝縮熱を給湯部50において水と熱交換し、温水として回収する。この給湯モードでは、回収した顕熱113[kJ]、温度90℃の温水を吸着器20に投入する。吸着器20は、給湯温度45℃から90℃まで昇温させるものとする。凝縮器40では、吸着器での昇温に対応する凝縮熱が発生するため、給湯部50において給湯温度45℃の温水を回収する。吸着熱を45[kJ/mol]、吸着器20の熱容量を0.5[kJ/℃]とすると、吸着器で脱離した水量は1.95[mol]となる。各器での熱のやり取りは、
吸着器(吸着熱+顕熱):113[kJ]
凝縮器(凝縮熱):88[kJ]
図5図6の給湯モードを繰り返し行なうことで、給湯効率が高められる。
図5及び図6の給湯モードを繰り返し、N2[回]の操作を行なって蓄熱反応器の顕熱の回収が全て完了したとすると、以下に示す温熱[kJ]が生成する。
顕熱回収による熱エネルギー:113[kJ]×N2
生成した熱エネルギー(温熱):(45[kJ]×N1)+(201[kJ]×N2)
【0080】
以上から、本実施形態では、45℃の給湯において、図2図3図5、及び図6に示す給湯モードにより以下に示す給湯効率が達成される。
投入した熱エネルギー:113[kJ]×(N1+N2)
生成した熱エネルギー(温熱):(246[kJ]×N1)+(201[kJ]×N2)
よって、エネルギーの消費効率を示すCOP(Coefficient Of Performance)値は、下記式で表される(式中、N1=400回、N2=100回)。
このように、外部熱源を利用した給湯システムにおいて、高効率な給湯が可能となる。
COP={(45[kJ]×N1)+(201[kJ]×N2)}/(113[kJ]×N2)
=3.37
【0081】
また、このときの冷熱生成効率を示す冷熱生成COPの値は、下記式で表される。
冷熱生成COP=(蒸発器の冷熱生成量)/(顕熱量)
=(88[kJ]×N2)/(113[kJ]×N2)
=0.78
また、総蓄熱量は、下記の通りである。
総蓄熱量=N1×113[kJ]=400×113[kJ]=45[MJ]
【0082】
ここで、具体的な実施態様として、上記の総蓄熱量、及び顕熱11.25[MJ]でのシステムを想定する。
蓄熱量0[MJ]から完全に再生を行なう場合、56.25[MJ]の熱を投入する。給湯需要(風呂を想定)に対して28[MJ]を利用することとし、11.25[MJ]の顕熱回収時の増熱作用で風呂を沸かすとすると、
11.25[MJ]×3.37 = 約38[MJ]
となり、28[MJ]の給湯が可能である。残りの10[MJ]で暖房利用が可能である。同時に、11.25[MJ]×0.78=約8.8[MJ]の冷房が利用可能になる。
顕熱回収時に風呂を沸かすとすると、図8の斜線部分を補うことが可能であるため、給湯と冷房又は暖房とを同時に利用する際に蓄熱反応器の再生を行なうことが望ましい。仮に冷暖房のエネルギーが不足するときは、蓄熱反応器から賄うことが望ましい。
【0083】
次に、具体的な実施態様として、蓄熱量45[MJ]からの利用を想定する。
給湯需要(風呂を想定)に対して28[MJ]を利用することにすると、
28[MJ]/1.78(温熱生成COP)=15.7[MJ]
の蓄熱エネルギーが放出されると同時に、
15.7[MJ]×1.18(冷熱生成COP)=18.5[MJ]
の冷熱利用が可能になる。ここで、45[MJ]の蓄熱がなされていた場合、図9に示されるように、冷房利用時、冷暖房利用なしの時は、約3日分の給湯と冷房が可能である。つまり、顕熱回収を含めて4日に1度、冷房利用時に蓄熱することが望ましい。
また、暖房利用時は、温熱を60+28=88[MJ]の利用となるため、88[MJ]/1.78(温熱生成COP)=49.4[MJ]となり、一回の蓄熱では1日分を賄えない場合があるが、いずれのタイミングで蓄熱し顕熱回収しても高効率なため、蓄熱量が0に近づいたときに蓄熱すればよい。
【0084】
本実施形態の給湯システムでは、上記したように化学蓄熱材を用いた蓄熱反応器を備えることで、給湯需要に応じた所望の高温、中温の給湯が選択可能であり、所望の給湯を効率よく取り出すことが可能である。また、一旦給湯した後に追い炊きする場合、燃焼器等の外部熱源を使用せずに追い炊きが可能であり、また蓄熱反応器を利用した構成であることで、追い炊き時にも増熱効果が得られる。
【0085】
また、本実施形態の給湯システムでは、電気エネルギーや動力エネルギーのみならず、化石燃料を用いることが可能である。さらに、貯湯槽を設ける必要がないため、装置の大幅な小型化を図ることができる。
【0086】
上記の実施形態では、化学蓄熱材としてCaOを、水を吸着する吸着材として物理吸着材であるシリカゲルを用いた場合を中心に説明したが、これらに限られず、CaO及びシリカゲル以外の上記した他の化学蓄熱材、吸着材を用いた場合にも、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0087】
10・・・蓄熱反応器
20・・・吸着器
30・・・蒸発器
40・・・凝縮器
50・・・給湯部(給湯需要)
60・・・熱源
70・・・冷熱機器(冷熱需要)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9