(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044242
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】連続式焼鈍設備の水冷装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/573 20060101AFI20161206BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
C21D9/573 101Z
C21D9/56 101B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-220167(P2012-220167)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-70272(P2014-70272A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康博
(72)【発明者】
【氏名】土屋 翔
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−035634(JP,A)
【文献】
特開昭63−057727(JP,A)
【文献】
特公昭56−052094(JP,B2)
【文献】
実開昭56−138869(JP,U)
【文献】
実開昭58−083453(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00
C21D 9/52− 9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続式焼鈍設備の急冷帯に配置される水冷装置であって、前記水冷装置は、
クエンチタンクと前記クエンチタンク内で、間隔を設けて対向配置される、2台のクエンチノズルを有し、前記クエンチノズルは複数のノズルと前記ノズルに冷却水を供給する水供給管を備え、前記2台のクエンチノズルの各々の水平方向両端部は、前記クエンチタンク内に設けられた支持回転機構によって、前記水冷装置で鋼帯を水冷する場合は前記ノズルが前記2台のクエンチノズル間で前記鋼帯を挟んで対向し、前記水冷装置で鋼帯を水冷しない場合は前記ノズルが前記鋼帯を挟んで背向するように、回転可能に支持され、前記支持回転機構は、前記クエンチノズルの両端部を支持する機構の少なくとも一方に、前記クエンチノズルが膨張した際の膨張代を吸収する空隙を有していることを特徴とする連続式焼鈍設備の水冷装置。
【請求項2】
前記2台のクエンチノズルは、前記ノズルの反対側となる外壁面が前記外壁面と空隙を有して取り付けられた防熱板で覆われていることを特徴とする請求項1記載の連続式焼鈍設備の水冷装置。
【請求項3】
前記支持回転機構が、前記クエンチタンク内で前記クエンチノズルを水平軸まわりに回転可能に支持する支持構造体と前記クエンチノズルを回転させる回転機構を備え、前記回転機構は、前記クエンチノズルのノズルを前記2台のクエンチノズル間で対向、または背向させるように前記クエンチノズルの水平方向両端部の少なくとも一方に取り付けたウォームホイールと、前記ウォームホイールに噛み合うウォームと前記ウォームを回転させる駆動機構を有し、前記駆動機構が前記支持構造体に取り付けられていることを特徴とする請求項1または2記載の連続式焼鈍設備の水冷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式焼鈍設備の急冷帯に配置される水冷装置で冷却水を噴射するノズルの変形防止に優れるものに関する。
【背景技術】
【0002】
図4は鋼帯の連続式焼鈍設備1の構成を説明する図で、コイルからペイオフリール2で払い戻された鋼帯aは、予熱帯4と加熱帯5で所定の温度に加熱された後、鋼種に応じて急冷帯6で冷却され、過時効帯7、冷却帯8で所望する強度に調整されテンションリール10で巻き取られる。
【0003】
連続式焼鈍設備1を通過する鋼帯aは、テンションリール10により張力が負荷され、入側ルーパー3と出側ルーパー9で連続式焼鈍設備1内を通過する鋼帯aが確保される。
【0004】
図5は急冷帯6の構造を説明する図で、所定の温度に加熱された鋼帯aはクエンチタンク12内で、クエンチノズル11のノズル(図示しない)から噴出する冷却水によって両側から急冷された後、シールロール13、リンガーロール14によって水きりした後、ドライヤー15で乾燥され、次工程に進む。
【0005】
急冷帯6における冷却機構として、水溶液による水冷装置や水冷ロール装置が利用されている。
図6は、水溶液による水冷装置に用いる、水浴中の鋼帯の表面の蒸気膜を破壊するために水を噴出させるクエンチノズルの概略構成を説明する垂直方向断面図で、鋼帯aは図の上から下方向に移動する。
【0006】
図6は鋼帯aを中心として左右対称に配置されるクエンチノズルの片側を示す図である。クエンチノズル11は、水浴中の鋼帯の表面の蒸気膜を破壊するために水供給管17からの水を噴出させるノズル16を用いる。
【0007】
水冷装置で水冷しない操業の場合には、水冷装置内の雰囲気ガスの温度が約250℃で、ノズル先端16aが鋼帯a(約550〜700℃)からの輻射熱に曝され、輻射熱により加熱されないノズル後端16bとの温度差で生ずる熱膨張の差によりノズル16が変形するおそれがある。
【0008】
特許文献1はライン上流側から水冷ロール装置と水溶液による水冷装置を直列に配したものを提案している。水冷装置を使用しない場合のノズル変形を防止するため、水冷装置のチャンバー内のスプレーノズルの背方にノズルボックスを設け、その中にスプレーノズルを後退させ、更にノズルボックス内に後退したスプレーノズルとストリップの間に熱遮蔽板を挿脱可能に装入できる構造とすることが記載されている。
【0009】
実操業において水冷装置を使用しない場合は、クエンチノズルを炉外へ搬出することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−35634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1記載の水冷装置は、チャンバー内のスプレーノズルの背方に設けたノズルボックス部内にスプレーノズルを後退させ、更に熱遮蔽板を用いるが、ノズル先端はストリップに対向したままで、輻射熱に長時間曝された場合の影響が懸念される。スプレーノズルを後退させるのみでは、ストリップ側となるスプレーノズルの先端側のみが輻射熱に曝されて、後端側との熱歪によって変形する。
【0012】
また、ノズルを水冷装置から取り出して炉外へ搬出する方法は、その効果は確実に得られるが、ノズルの装入、搬出作業の間に炉を開放するため、連続式焼鈍設備の操業が休止し、生産性が大きく低下する。
【0013】
そこで、本発明は、連続式焼鈍設備の急冷帯において水冷をしない場合であっても、高温の鋼帯に曝される、冷却水を噴出させるノズルが変形しない水冷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.連続式焼鈍設備の急冷帯に配置される水冷装置であって、前記水冷装置は、
クエンチタンクと前記クエンチタンク内で、間隔を設けて対向配置される、2台のクエンチノズルを有し、前記クエンチノズルは複数のノズルと前記ノズルに冷却水を供給する水供給管を備え、前記2台のクエンチノズルの各々の水平方向両端部は、前記クエンチタンク内に設けられた支持回転機構によって、前記水冷装置で鋼帯を水冷する場合は前記ノズルが前記2台のクエンチノズル間で前記鋼帯を挟んで対向し、前記水冷装置で鋼帯を水冷しない場合は前記鋼帯を挟んで背向するように回転可能に支持され、前記支持回転機構は、前記クエンチノズルの両端部を支持する機構の少なくとも一方に、前記クエンチノズルが膨張した際の膨張代を吸収する空隙を有していることを特徴とする連続式焼鈍設備の水冷装置。
2.前記2台のクエンチノズルは、前記ノズルの反対側となる外壁面が前記外壁面と空隙を有して取り付けられた防熱板で覆われていることを特徴とする1記載の連続式焼鈍設備の水冷装置。
3.前記支持回転機構が、前記クエンチタンク内で前記クエンチノズルを水平軸まわりに回転可能に支持する支持構造体と前記クエンチノズルを回転させる回転機構を備え、前記回転機構は、前記クエンチノズルのノズルを前記2台のクエンチノズル間で対向、または背向させるように前記クエンチノズルの水平方向両端部の少なくとも一方に取り付けたウォームホイールと、前記ウォームホイールに噛み合うウォームと前記ウォームを回転させる駆動機構を有し、前記駆動機構が前記支持構造体に取り付けられていることを特徴とする1または2記載の連続式焼鈍設備の水冷装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、連続式焼鈍設備の急冷帯用の水冷装置として、水焼入れを行わない操業の場合でも、通板する鋼帯の輻射熱で、ノズルが変形しないものが得られ、急冷帯で水焼入れを行う操業と水焼入れを行わない操業とを炉の開放無しで連続して切り替えることができ、生産性が著しく向上し、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例に係る水冷装置におけるクエンチノズルと鋼帯との配置関係を示す図。
【
図2】本発明の他の例に係る水冷装置におけるクエンチノズルと鋼帯との配置関係を示す図。
【
図3】本発明の一実施例に係る水冷装置におけるクエンチノズルの支持回転機構の構成を説明する図。
【
図4】本発明を適用する連続式焼鈍設備を説明する図。
【
図5】
図4に示す連続式焼鈍設備の急冷帯の一部構成を説明する図。
【
図6】従来の水冷装置におけるクエンチノズルと鋼帯との配置関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面を用いて詳細に説明する。本発明は前
図4、5で説明する連続式焼鈍設備の急冷帯に配置される水冷装置の構造に関し、当該水冷装置は、クエンチタンク12とクエンチタンク12の内部で、間隔を設けて対向配置される、2台のクエンチノズル11(前
図6に概略構造を示す)を有する。
【0018】
図3は本発明に係る水冷装置のクエンチタンク12(図示しない)の内部構造を1台のクエンチノズル11を用いて説明する概略図で、クエンチノズル11の水平方向両端部は、クエンチタンク12内に設けられた支持回転機構によって水平軸まわりに回転可能に支持されている。
【0019】
支持回転機構は、クエンチタンク12内でクエンチノズル11を水平軸まわりに回転可能に支持する支持構造体23とクエンチノズル11を回転させる回転機構を備える。支持構造体23はクエンチタンク12に脚部の先端が固定された門形構造で、両側の脚部の間で、クエンチノズル11を水平軸まわりに回転可能に支持する支持機構(図示しない)を両側の脚部に有している。
【0020】
支持機構は、例えば、回転軸受け構造で、水冷をしない操業の場合に、クエンチノズル11が膨張しても回転可能なように膨張代を吸収する空隙を有する。
【0021】
回転機構は、クエンチノズル11の水平方向の端部に取り付けたウォームホイール21bと、ウォームホイール21bに噛み合うウォーム21aとウォーム21aを回転させる駆動機構を備える。駆動機構はモータ20と減速機19で構成され、支持構造体23に取り付けられている。回転機構は、クエンチノズル11の水平方向両端部の少なくとも一方に取り付ける。
【0022】
急冷帯の水冷装置で鋼帯(図示しない)を水冷する場合は、回転機構の駆動機構で2台のクエンチノズル11を、ノズル16が鋼帯を挟んで対向するように回転させる(前
図6)。
【0023】
急冷帯の水冷装置で鋼帯を水冷しない場合は、
図1に示すように、回転機構の駆動機構で2台のクエンチノズル11を、ノズル16が鋼帯aを挟んで背向するように回転させる(
図1は鋼帯aを中心として左右対称に配置されるクエンチノズルの片側を示す図である)。
【0024】
本発明によれば、ノズル16と鋼帯aとの間の距離が長くなり、更にノズル16と鋼帯aとの間にクエンチノズル11を構成する外壁や水供給管17が挟まれるため、鋼帯aからノズル16への輻射熱が遮られるとともに、ノズル16におけるノズル先端16aとノズル後端16bとの温度差も小さくなり、ノズル16の変形が抑制される。
【0025】
クエンチノズル11でノズル16の反対側となる外壁面を防熱板18で覆うと更に鋼帯aからの輻射熱の影響が軽減されて好ましい(
図2)。防熱板18は,防熱板18とクエンチノズル11との間に空隙が生じるように支持部材22を介してクエンチノズル11に取り付ける。
【実施例】
【0026】
図5に示す水冷装置を用いて、鋼帯aに対してクエンチノズル11を
図6に示すように配置して、鋼帯aを急冷しない操業を行った。ノズル16に40kgf/mm
2以上の熱応力が生じて、ノズル先端16aとノズル後端16bの間に座屈が発生し、クエンチノズル11を水冷装置の外に出さなければならなかった。
【0027】
一方、本発明により、鋼帯aに対してクエンチノズル11を
図1に示すように配置し、鋼帯aを急冷しない操業を行った場合ではノズル16の熱応力を6kgf/mm
2以下に低減でき、ノズル先端16aとノズル後端16bの間での座屈発生が防止され、クエンチノズル11を水冷装置の外に出す必要はなかった。
【0028】
本発明によれば、水焼入れを行う操業と急冷を行わない操業との切替時間を半減できるようになった。
【符号の説明】
【0029】
1 連続式焼鈍設備
2 ペイオフリール
3 入側ルーパー
4 予熱帯
5 加熱帯
6 急冷帯
7 過時効帯
8 冷却帯
9 出側ルーパー
10 テンションリール
11 クエンチノズル
12 クエンチタンク
13 シールロール
14 リンガーロール
15 ドライヤー
16 ノズル
16a ノズル先端
16b ノズル後端
17 水供給管
18 防熱板
19 減速機
20 モータ
21a ウォーム
21b ウォームホイール
22 支持部材
23 支持構造体
a 鋼帯