特許第6044246号(P6044246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044246
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】溶融金属の精錬方法及びその設備
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/32 20060101AFI20161206BHJP
   C21C 5/46 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C21C5/32
   C21C5/46 101
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-221925(P2012-221925)
(22)【出願日】2012年10月4日
(65)【公開番号】特開2014-74201(P2014-74201A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】駒形 大輔
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸雄
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−246017(JP,A)
【文献】 特開平11−036009(JP,A)
【文献】 特開平06−057320(JP,A)
【文献】 鉄鋼便覧 第II巻 製銑・製鋼,日本,日本鉄鋼協会,1979年10月15日,第3版,468頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面に中央噴射孔を有し、該中央噴射孔の中心軸を中心とした、前記先端面上の同心円の周上に複数の周囲噴射孔が配置され、かつ、前記周囲噴射孔の中心軸が、前記中央噴射孔の前記中心軸に対して傾斜している上吹きランスを、下記の式(1)を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置し、
前記周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上として、前記中央噴射孔と前記周囲噴射孔とから、精錬用気体を前記浴面に吹き付けて前記溶融金属を精錬することを特徴とする溶融金属の精錬方法。
ε=h/H>0.025・・・(1)
ここで、h:水平面へ投影された前記中央噴射孔の周縁と、水平面へ投影された前記複数の周囲噴射孔の周縁との間の最短距離[m]、
H:静止時の溶融金属の浴面から、上吹きランスの設置時の前記先端面までの距離となるランス高さ[m]、
である。
【請求項2】
前記周囲噴射孔の中心軸が、前記上吹きランスの中心軸と交わって形成されるノズル傾角αは、10〜30°であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項3】
溶融金属を収容する精錬容器と、
先端面に中央噴射孔を有し、該中央噴射孔の中心軸を中心とした、前記先端面上の同心円の周上に複数の周囲噴射孔が配置され、かつ、前記周囲噴射孔の中心軸が、前記中央噴射孔の前記中心軸に対して傾斜している上吹きランスと、を備え、
前記上吹きランスが、下記の式(1)を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置され、前記周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γが0.8以上となるように構成されていることを特徴とする溶融金属の精錬設備。
ε=h/H>0.025・・・(1)
ここで、h:水平面へ投影された前記中央噴射孔の周縁と、水平面へ投影された前記複数の周囲噴射孔の周縁との間の最短距離[m]、
H:静止時の溶融金属の浴面から、上吹きランスの設置時の前記先端面までの距離となるランス高さ[m]、
である。
【請求項4】
前記周囲噴射孔の中心軸が、前記上吹きランスの中心軸と交わって形成されるノズル傾角αは、10〜30°であることを特徴とする請求項3に記載の溶融金属の精錬設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の噴射孔が先端面に形成されている上吹きランスを用いて、精錬容器に収容されている溶融金属に精錬用気体を吹き付けて溶融金属を精錬する溶融金属の精錬方法及びその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属である溶銑を収容する転炉(精錬容器)に、上吹きランスを挿入して、該上吹きランスの先端面に形成される噴射孔から精錬用気体を上吹きすることで、また必要に応じて、転炉に精錬用気体を底吹きすることで、主として脱炭を目的とした精錬(以下、「転炉吹錬」という)が行われている。該転炉吹錬では、溶銑予備処理の発達により、転炉において脱燐反応を行なう必要性が少なくなっており、転炉での生成スラグ量が急激に低減してきている。これにより、転炉に収容されている溶銑上にはスラグ層が形成されにくくなっており、精錬用気体として使用される酸素ガスを溶銑に接触させるために、スラグ層を貫通させるような高圧で酸素ガスを噴射する必要がなくなってきている。
【0003】
ところで、スラグ層は、噴射された酸素ガスの気流が溶銑に衝突することによって生じる溶銑の飛散(以下、「スピッティング」という)を抑えていたが、上述の通り、スラグ層が形成されにくくなったため、スピッティングが顕著に生じるようになった。スピッティングによって、転炉口、上吹きランス、更には、転炉の周りに配設されている排ガス設備への地金付きが増加してしまい、転炉吹錬の操業に悪影響が生じるとともに、スピッティングに伴う鉄ダストの発生も増加し、発生した鉄ダスト分、転炉吹錬により得られる溶鋼の歩留まりが低下してしまう。
【0004】
近年、このスピッティングを抑制するために、噴射孔を、上吹きランスの先端面に複数形成することで、一つの噴射孔当りの精錬用気体速度を下げて、溶銑浴面に対する衝突エネルギーを分散させることが行なわれている。ところが、噴射孔が先端面に複数形成されている上吹きランスでは、噴射孔の個数が多くなり過ぎると、噴射孔からの精錬用気体の複数の気流同士が干渉し合い、合体してしまう可能性が生じる。合体した気流のエネルギーは増加してしまうため、気流の合体によってスピッティングの量が増加してしまうことが知られている。
【0005】
この気流の合体によるスピッティングの発生を防止するために、特許文献1には、上吹きランスの寸法や操業条件から幾何学的に計算される浴面火点面積のオーバーラップ率がある閾値以下となるように上吹きランスを設計し、更に、上吹きランスの先端中央部にスピッティングを払い落とすことを目的としたキャビティ形状に影響を及ぼさない程度の小口径ノズルを設けた上吹きランスが提案されている。また、特許文献2には、火点面積のオーバーラップ率を下げ、かつソフトブロー化を目的として、火点の総面積が火点の最外周を囲む円の面積の75%以上とし、中心孔を有することを特徴とする上吹きランスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−165313号公報
【特許文献2】特開2002−285224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に提案されている上吹きランスから生じる噴流は、火点のオーバーラップ率を計算する際、送酸噴流が直進することを前提として火点面積を算出している。従って、計算された火点面積のオーバーラップ率が、実際より小さく見積もられるので、オーバーラップ率が小さくなるように、すなわち安全側に設計した上吹きランスにおいても、実際には、オーバーラップ率が想定より高くなってしまい、スピッティングを抑えにくくなるという問題がある。
【0008】
特許文献2に提案されている上吹きランスでは、周囲孔(周囲噴射孔)と中心孔(中央噴射孔)のスロート径やノズル出口径は可変としているが、火点の総面積が火点の最外周を囲む円の面積の75%以上とすることで、必然的に中心孔の径が周囲孔の径と同じ、或いはそれ以上となるため、周囲孔からの気流と中心孔からの気流が接近し、気流が相互に干渉して、ひいては合体することでスピッティングの増加に繋がるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶融金属を収容する精錬容器の上側に上吹きランスを設置し、該上吹きランスの先端面に設けた複数の噴射孔から、溶融金属の浴面に精錬用気体を吹き付けて、溶融金属の精錬処理を実施する際に、各噴射孔から噴射される気流の合体をより確実に抑制することによって、スピッティングを抑えることを可能とする精錬処理に関する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、先端面に形成される中央噴射孔からの気流と、該中央噴射孔の中心軸を中心とした先端面上の同心円の円周上に形成される複数の周囲噴射孔からの気流とが相互に干渉して、合体する現象が、気流同士の距離、すなわち、中央噴射孔の周縁と複数の周囲噴射孔の周縁との間の最短距離hに強く相関しており、最短距離hが大きいほど気流同士の干渉及び合体が緩和され、スピッティングを抑えることができることを見出した。
【0011】
更には、本発明者らは、静止時の溶融金属の浴面から上吹きランスの先端面までのランス高さHが大きすぎると、溶融金属に衝突するまでの気流長さが増加するため、気流同士の干渉及び合体が進行し易くなり、複数の気流は完全に合体した後に溶融金属に衝突する可能性が高くなり、スピッティングの更なる発生につながることを見出し、一方で、ランス高さHが小さいと、気流群が合体する前に、気流が溶融金属に衝突するのでスピッティングが低減できることを見出した。
【0012】
本発明者らは、以上のことを考慮して、ランス高さHと最短距離hとの関係に着目して、ランス高さHに対して最短距離hの比を所定値より大きくすることで、中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流との相互干渉または合体に起因するスピッティングの発生を抑えることができると推察し、本発明の完成に至った。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]先端面に中央噴射孔を有し、該中央噴射孔の中心軸を中心とした、前記先端面上の同心円の周上に複数の周囲噴射孔が配置され、かつ、前記周囲噴射孔の中心軸が、前記中央噴射孔の前記中心軸に対して傾斜している上吹きランスを、下記の式(1)を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置し、前記中央噴射孔と前記周囲噴射孔とから、精錬用気体を前記浴面に吹き付けて前記溶融金属を精錬することを特徴とする溶融金属の精錬方法。
ε=h/H>0.025・・・(1)
ここで、h:前記中央噴射孔の周縁と、前記複数の周囲噴射孔の周縁との間の最短距離[m]、
H:静止時の溶融金属の浴面から、上吹きランスの設置時の前記先端面までの距離となるランス高さ[m]、である。
[2]前記周囲噴射孔の中心軸が、前記上吹きランスの中心軸と交わって形成されるノズル傾角αは、10〜30°であることを特徴とする上記[1]に記載の溶融金属の精錬方法。
[3]溶融金属を収容する精錬容器と、先端面に中央噴射孔を有し、該中央噴射孔の中心軸を中心とした、前記先端面上の同心円の周上に複数の周囲噴射孔が配置され、かつ、前記周囲噴射孔の中心軸が、前記中央噴射孔の前記中心軸に対して傾斜している上吹きランスと、を備え、前記上吹きランスが、上記式(1)を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置されていることを特徴とする溶融金属の精錬設備。
[4]前記周囲噴射孔の中心軸が、前記上吹きランスの中心軸と交わって形成されるノズル傾角αは、10〜30°であることを特徴とする上記[3]に記載の溶融金属の精錬設備。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る溶融金属の精錬方法及びその設備によって、上吹きランスの先端面に形成されている中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流とが相互に干渉し、ひいては合体することを抑えることができるので、多孔化によるソフトブロー化を達成しつつ、それらの気流の干渉または合体に起因するスピッティングを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の溶融金属を精錬する精錬設備の概略断面図である。
図2】上吹きランスと、精錬容器に収容される溶融金属の静止浴面との関係を示す概略説明図である。
図3】下側から視た先端面を示す上吹きランスの底面図である。
図4】上吹きランスから噴射される気流の軌跡を示す模式図である。
図5】気流直進度γと比ε(=h/H)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明の溶融金属の精錬する精錬設備の概略断面図である。精錬設備1は、上吹きランス2と、溶融金属3を収容する精錬容器4とを備えている。上吹きランス2は、円管状のランス本体5と、該ランス本体5の先端に溶接などで接続されるランスチップ6とを有している。ランス本体5は、特に円管に限られず、ランス本体5の水平断面は楕円形状であってもよい。図1に示すように、精錬用気体7が上吹きランス2に供給される。溶融金属3の浴面9に面するランスチップ6の先端面8には、複数の噴射孔が形成されており、上吹きランス2の内部を通過する精錬用気体7が、前記複数の噴射孔から前記浴面9へ噴射される。
【0017】
図2は、上吹きランス2と、精錬容器4に収容される溶融金属3の静止浴面との関係を示す概略説明図である。図2では、上吹きランス2は断面が示されている。ランス本体5は、多重管構造、少なくとも3重管を有する構造をしており、その内部には、精錬用気体7(図1参照)が通過する精錬用気体流路11が形成されており、該精錬用気体流路11を囲むように、上吹きランス2を冷却するための冷却水が通過する給水流路12と排水流路13が形成されている。また、ランスチップ6は、該ランスチップ6がランス本体5の先端に接続されたときに、給水流路12と排水流路13とに連通する連通部14と、精錬用気体流路11に連通する、精錬用気体を噴射させるための噴射孔を形成する複数のノズルと、を有している。また、該複数のノズルが形成されているランスチップ6の先端部分は、円錐台を逆さにした形状を有しており、浴面9に面する円錐台の表面部分が、ランスチップ6の先端面8となる。先端面8は、水平面となる円錐台の上底面である中央面24と、斜面となる円錐台の円錐面25とを有している。
【0018】
図2に示すように、精錬容器4に収容されている溶融金属3の静止時の浴面9に対して、直線状のランス本体5(上吹きランス2)が直交するように、つまり鉛直方向に、上吹きランス2を、上側から精錬容器4の上部に挿入する。上吹きランス2は、先端面8に中央噴射孔21を有していて、精錬容器4に挿入された状態において、先端面8を下側の水平面から視た、先端面8の中心位置23には、ランスチップ6を貫通する中央噴射孔21が1つ形成されている。中央噴射孔21は、ランス本体5内の精錬用気体流路11に連通しており、精錬用気体7が中央噴射孔21から噴射される。中心位置23が中央面24に含まれており、中央噴射孔21が、中央面24に形成されていればよい。
【0019】
先端面8には、ランス本体5の外側から中央面24に向けて、該中央面24に対して斜面となった円錐面25が形成されているため、円錐面25の法線方向は、鉛直方向に対して、前記ランス本体5の中心軸より外側に向いている。周囲噴射孔22は、その中心軸(精錬用気体7の気流の方向)が、ランス本体5の中心軸に対して傾斜するように、先端面8の一部である円錐面25に形成されている。このため、周囲噴射孔22から噴射される精錬用気体7の気流が、中央噴射孔21から噴射される精錬用気体7の気流の外側へ向かうため、中央噴射孔21からの精錬用気体7の気流に干渉されにくい。周囲噴射孔22の中心軸が、上吹きランス2(ランス本体5)の中心軸と交わって形成されるノズル傾角α(図4参照)は、10〜30°とすることが好ましい。ノズル傾角αが10°より小さいと、周囲噴射孔22からの気流と中央噴射孔21からの気流とが相互により干渉しやすくなり、ノズル傾角αが30°より大きいと、周囲噴射孔22からの気流が精錬容器4の側壁に衝突し、精錬容器4を形成する耐火物が損耗する恐れがある。
【0020】
上吹きランス2の精錬用気体流路11には精錬用気体供給管(図示せず)が接続されており、精錬用気体7(図1参照)が、精錬用気体供給管を通じて精錬用気体流路11に供給される。精錬用気体7を精錬用気体流路11から中央噴射孔21及び複数の周囲噴射孔22へ送って、精錬用気体7を浴面9へ噴射して、各噴射孔からの精錬用気体7の気流を生成する。なお、本実施形態では、精錬用気体7として酸素ガスを用いるが、溶融金属3の精錬処理を行なうために用いることが可能な気体であれば、酸素ガスに限られることはない。
【0021】
図1に示す精錬容器4には、図示しない出湯口が設けられており、上吹きランス2から、精錬用気体7である酸素ガスを、溶融金属3の浴面9に吹き付けて、溶融金属3と、それに含まれる物質、例えば、炭素の酸化を促進して、溶融金属3の精錬処理を行なう。溶融金属3へ精錬用気体7を吹き付け始めてから所定の時間経過したら、または、溶融金属3に含まれる物質の濃度、例えば、炭素の濃度が所定の値となったら、精錬容器4を傾動して、溶融金属3を出湯口から出湯して、溶融金属3の精錬処理を終了する。
【0022】
図3は、下側から視た先端面8を示す上吹きランスの底面図である。図3は、先端面8の下側に仮想的に形成された水平面に、鉛直方向に投影された先端面8を示しているともいえる。図3に示すように、水平面から上吹きランス2(先端面8)を視て、中央噴射孔21の中心軸を中心とした、先端面8上の同心円の円周上に、周囲噴射孔22が複数形成されている。図3では、その円周を点線で示している。先端面8の中央面24を水平面から視ると、中央噴射孔21は略円形である。円錐面25に平行な下側の面から、円錐面25を視ると周囲噴射孔22も略円形ではあるが、中央噴射孔21の中心軸に対して、中心軸が傾斜するように、周囲噴射孔22が円錐面25に形成されているので、周囲噴射孔22を水平面から視た場合の周囲噴射孔22の形状は楕円形である。複数の周囲噴射孔22の楕円の中心が、点線の円周上に配置されていることになる。なお、本実施形態では、中央噴射孔21及び周囲噴射孔22はともに、各噴射孔が形成されている面と平行な面から視た時には円形であるが、形状は特に円形に限られず、楕円形などでもよい。
【0023】
水平面から視た、中央噴射孔21の周縁と周囲噴射孔22の周縁との最短距離hと、浴面9から上吹きランス2の先端面8までのランス高さHとが、下記の式(1)を満足するように、上吹きランス2の先端面8を設計し、かつ、ランス高さH[mm]を調整すると、中央噴射孔21からの気流と、周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉して、合体することを抑えることができる。これにより、ソフトブロー化を実現しつつスピッティングを抑える。
ε=h/H>0.025 ・・・(1)
最短距離h[mm]は、水平面へ鉛直方向に投影された中央噴射孔21の周縁と、同様に水平面へ鉛直方向に投影された複数の周囲噴射孔22の周縁との間の最短距離であるといえる。また、(1)式において、εとは、ランス高さH[mm]に対する最短距離hの比である。
【0024】
水平面から視た場合の、中央噴射孔21を中心とした、複数の周囲噴射孔22が配置されている円の直径p[mm]と、楕円形の周囲噴射孔22の短径ds[mm]と、円形の中央噴射孔21の直径dc[mm]とにより、最短距離hを下記の式(2)で算出することが可能である。
h=1/2×(p−ds−dc) ・・・(2)
(2)式により、最短距離hを算出して、先端面8における、中央噴射孔21と周囲噴射孔22とのサイズ及び位置を決めてもよい。
【0025】
本発明者らは、最短距離hとランス高さHとが、噴射孔から噴射される気流同士の干渉及び/または合体の現象に影響し、更に、最短距離hとランス高さHとは、例えば、最短距離hを小さくすると、各噴射孔からの複数の気流が合体しやすくなるが、ランス高さHを小さくすると、複数の気流が合体しにくくなるという、それぞれ相反する性質を有しているため、最短距離hとランス高さHとの比εが、ある閾値より大きければよいことを導いた。具体的には、本発明者らは、数値流体解析による検討を重ねた結果、比ε>0.025であれば、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流との干渉が緩和され、スピッティングが抑えられることを導いた。
【0026】
周囲噴射孔22の数が多すぎると、隣り合う周囲噴射孔22同士の干渉及び合体が促進され、少なすぎると、浴面9への衝突エネルギーの分散効果が低減するため、周囲噴射孔22の数を3個以上5個以下とすることが好ましい。また、ランス高さHを小さくし過ぎると、気流1つあたりの動圧が増加し、上記衝突エネルギーの分散効果が薄れるので、ランス高さHは、1600mm以上となることが望ましい。
【0027】
操業の初期や末期などで、精錬用気体7の供給量を最大値まで増大させる必要性が生じた際には、それぞれの目的に即した適正な膨張条件で精錬することが可能なように、周囲噴射孔22を形成する周囲噴射孔ノズルは、入口部にスロートを有するラバールノズルであることが好ましい。また、中央噴射孔21からの気流と、周囲噴射孔22からの気流との干渉の観点から中央噴射孔21からの精錬用気体7の流量(m/秒)を大きくする必要はない。従って、不適正膨張を発生させることにより動圧を低減することが効果的であり、中央噴射孔21を形成する中央噴射孔ノズルをストレートノズルとすることが好ましい。
【0028】
上記の実施形態の上吹きランス2では、先端部分を、円錐台を逆さにした形状としたが、本発明はこの形状に限られず、例えば、先端部分を直方体形状として、先端面8全体を、水平または平らとしてもよい。先端面8全体が水平または平らであっても、先端面8を、その下の水平面から視て、複数の周囲噴射孔22が、中央噴射孔21の中心軸を中心とした先端面8上の同心円の円周上に配置されており、周囲噴射孔22の中心軸が、中央噴射孔21の中心軸に対して傾斜している上吹きランス2であれば、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流との干渉及び合体を緩和し得る。
【0029】
また、数値解析ソフトウェア上で、各噴射孔の寸法や位置などの設計条件及び流量を変更しつつ、中央噴射孔21及び周囲噴射孔22から精錬用気体7を噴射するシミュレーションを行い、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが、相互に干渉し、合体したか否かを次のように判定する。
図4は、上吹きランス2から、特に周囲噴射孔22から噴射される精錬用気体7の気流の軌跡を示す模式図である。図4に示すように、周囲噴射孔22の中心軸上の先端位置を含む水平面をX平面とし、中央噴射孔21の中心軸を含みかつX平面に直交する鉛直面をZ平面とする。周囲噴射孔22の中心軸上の先端位置からZ平面に向けて垂線を下ろして、該垂線が交わるZ平面の点を原点Oとして、これらのX平面とZ平面とを一点鎖線で示している。また、周囲噴射孔22の中心軸を延長させて仮想的に形成される周囲噴射孔延長中心線32を二点鎖線で示しており、周囲噴射孔22の中心軸に沿って噴射される気流の軌道線33を、点線で示している。
(1)図4に示すように、周囲噴射孔22の中心軸上の先端から「0.8×ランス高さH」分下方の水平面30を想定する。図4では、水平面30を細線で示している。
(2)中央噴射孔21の中心軸を延長させて仮想的に形成される中央噴射孔延長中心線31から、周囲噴射孔延長中心線32と前記水平面30との交点までの距離Xlinearを算出する。
(3)周囲噴射孔22から、軌道線33と前記水平面30との交点までの距離Xjetを算出する。
(4)気流直進度γとして、Xlinearに対するXjetの比、すなわち、Xjet/Xlinearを算出する。
【0030】
気流直進度γが0.8以上となれば、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していない、または、仮に、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していたとしても、それらの気流が合体していないと判定することが可能であり、気流が相互に合体していない、複数の孔からの気流によるソフトブロー化が実現されたと想定することができる。
【0031】
以上のようにして、最短距離hに対するランス高さHの比ε=h/Hが0.025より大きいことを指標として、予定するランス高さHに応じて、上吹きランス2の先端面8を設計し、かつ、予定したランス高さHを満足するように、ランス高さHを調整することで上吹きランス2を設置することで、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流との干渉及び合体を緩和することが可能となり、スピッティングが抑えられる。
【実施例】
【0032】
図1に示す精錬設備を用いて、溶融鉄(溶融金属)の精錬処理のシミュレーションを複数回実施した。シミュレーション及び数値流体解析は、ANSYS FLUENTを用いた。
【0033】
上吹きランス2の先端面8の構造について、図2に示すように、中央噴射孔21が形成されている中央面24を水平とし、周囲噴射孔22が4個又は5個形成されている円錐面25を設定した。中央面24の水平面に対して円錐面25の角度は、周囲噴射孔22が4個では14°、周囲噴射孔22が5個では13°とした。周囲噴射孔22のノズル傾角αも周囲噴射孔22が4個では14°、周囲噴射孔22が5個では13°とした。
【0034】
複数回のシミュレーションの各々における、上吹きランス2の特に先端面8の設計事項を次のように変更した。
【0035】
中央噴射孔21及び周囲噴射孔22は、ともにストレートノズルとし、中央噴射孔21を中央面24の下の水平面から視た形状を円とし、その直径dcを周囲噴射孔22が4個では20〜46mm、周囲噴射孔22が5個では20〜80mmとし、周囲噴射孔22を、円錐面25と平行な面から視た形状を円としたため、水平面から視た周囲噴射孔22の形状は楕円となり、その楕円の短径dsを周囲噴射孔22が4個では81〜98mm、周囲噴射孔22が5個では71〜80mmとした。また、複数の周囲噴射孔22の中心が配置されている、中央噴射孔21を中心とした円周の円の直径pを周囲噴射孔22が4個では291mm、周囲噴射孔22が5個では244mmとした。
【0036】
シミュレーションでは、精錬用気体7としては酸素ガスを用いた。シミュレーションの各々で、上吹きランス2の精錬用気体流路に供給する酸素ガス流量を、65000Nm/時、50000Nm/時、及び、40000Nm/時の3段階に変更し、ランス高さは1600mm、2000mm、2500mmの3段階に変更した。複数のシミュレーションでは、気流直進度γと比ε(=h/H)とを取得しておいた。
【0037】
本発明者らは、スピッティングの量と気流直進度γとの関係について、鋭意検討している。その結果、スピッティングの量と気流直進度γと気流の衝突により得られる浴面9の窪みの形状との間には、相関関係が存在することを見出している。具体的には、気流直進度γが大きくなるほど、スピッティングの量は減少するという知見を得ている。すなわち、気流の衝突によって気流直進度γが小さくなる程、溶融金属3の浴面9に形成される窪みの深さLと窪みの幅Dとの比L/Dが小さくなり、スピッティングの量が増加する傾向にある。一方、気流直進度γが大きくなる程、浴面9に形成される窪みの深さLと窪みの幅Dの比L/Dは大きくなり、スピッティングの量が減少する傾向にある。この気流直進度γと浴面9の窪みの形状比L/Dとの関係は、前述した気流の合体の有無が関係していると、本発明者らは推測している。そして、気流直進度γが0.8以上となれば、前述したように気流相互の合体がなくなり、スピッティングは相当量抑えられることが、経験上把握できている。以上のことから、本実施例では、スピッティング量に代わり、気流直進度γにて検討を行っている。
【0038】
図5は、各シミュレーションで得られた気流直進度γと比ε(=h/H)との関係を示すグラフである。図5のグラフからわかるように、比ε(=h/H)が0.025を超えると、気流直進度γが0.8以上となった。気流直進度γが0.8以上となった場合には、周囲噴射孔22及び中央噴射孔21からの気流が、相互に干渉することが抑えられているため、周囲噴射孔22及び中央噴射孔21からの気流が合体することが防がれることがわかった。
【0039】
以上のようにして、比εが0.025を超えるように、上吹きランス2の先端面8上に中央噴射孔21及び周囲噴射孔22を設計し、かつ、上吹きランス2の位置(ランス高さH)を調整すれば、周囲噴射孔22及び中央噴射孔21からの気流が、相互に干渉し、合体することを抑えることが可能であり、スピッティングが抑えられる。
【符号の説明】
【0040】
1 精錬設備
2 上吹きランス
3 溶融金属
4 精錬容器
5 ランス本体
6 ランスチップ
7 精錬用気体
8 先端面
9 浴面
11 精錬用気体流路
12 給水流路
13 排水流路
14 連通部
21 中央噴射孔
22 周囲噴射孔
23 中心位置
24 中央面
25 円錐面
30 水平面
31 中央噴射孔延長中心線
32 周囲噴射孔延長中心線
33 軌道線
図1
図2
図3
図4
図5