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特許6044252インクジェットプリンターのインク供給制御方法およびインクジェットプリンター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044252
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】インクジェットプリンターのインク供給制御方法およびインクジェットプリンター
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20161206BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B41J2/175 171
   B41J2/175 143
   B41J2/175 303
   B41J2/01 401
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-226677(P2012-226677)
(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2014-76630(P2014-76630A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116665
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100164633
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(72)【発明者】
【氏名】占部 雄一
【審査官】 有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−076596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが内包された可撓性のインクパックを加圧する加圧ポンプを駆動して前記加圧ポンプの加圧量を予め設定した設定加圧量に到達させる加圧動作を行い、
前記設定加圧量に到達させた後、前記加圧ポンプを停止し、
前記加圧ポンプを停止した加圧停止時点からの経過時間を計測し、前記加圧停止時点からのインクジェットヘッドによるインク使用量を取得し、
前記加圧停止時点からの前記経過時間およびインク使用量に基づいて予測加圧量を算出し、
前記予測加圧量が前記設定加圧量よりも低い下限加圧量以下となると、印刷データを受信してから前記インクジェットヘッドにより前記印刷データの印刷が開始されるまでの印刷準備時間よりも短い時間の間、前記加圧ポンプを駆動して前記設定加圧量に到達させることを特徴とするインクジェットプリンターのインク供給制御方法。
【請求項2】
前記加圧ポンプが停止した時点からの経過時間と前記加圧ポンプの加圧量の変化とを関係付けた加圧量変化情報を記憶保持し、
前記予測加圧量を、前記加圧量変化情報に基づいて算出する請求項1に記載のインクジェットプリンターのインク供給制御方法。
【請求項3】
前記下限加圧量以下になった後、前記加圧ポンプを駆動して前記設定加圧量に到達させる請求項1または2に記載のインクジェットプリンターのインク供給制御方法。
【請求項4】
前記インクパックのインク残量を監視し、
前記インク残量が所定のインク残量に達したことが検出されていない場合には、前記設定加圧量を第1加圧量として、前記下限加圧量を前記第1加圧量よりも低い第2加圧量とし、
前記インク残量が前記所定のインク残量に達したことが検出されている場合には、前記下限加圧量を前記第1加圧量よりも高い第3加圧量とし、前記設定加圧量を第3加圧量よりも高い第4加圧量とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のインクジェットプリンターのインク供給制御方法。
【請求項5】
インクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクが内包された可撓性のインクパックを加圧して前記インクを前記インクジェットヘッドに連通するインク流路に供給する加圧ポンプと、
前記加圧ポンプの加圧量を予め設定した設定加圧量に到達させる加圧動作及び前記加圧ポンプの停止を制御する加圧制御部と、
前記加圧ポンプが停止した加圧停止時点からの経過時間を計測する計測部と、
前記加圧停止時点からの前記インクジェットヘッドによるインク使用量を取得するインク使用量取得部と、
前記加圧停止時点からの前記経過時間および前記インク使用量に基づいて予測加圧量を算出する加圧量予測部と、を有し、
前記加圧制御部は、前記予測加圧量が予め設定した下限加圧量以下となると、印刷データを受信してから前記インクジェットヘッドにより前記印刷データの印刷が開始されるまでの印刷準備時間よりも短い時間の間、前記加圧ポンプを駆動して前記設定加圧量に到達させることを特徴とするインクジェットプリンター。
【請求項6】
前記加圧ポンプが停止した時点からの経過時間と前記加圧ポンプの加圧量の変化とを関係付けた加圧量変化情報を記憶保持する記憶部を有し、
前記加圧量予測部は、前記加圧量変化情報に基づいて算出する請求項に記載のインクジェットプリンター。
【請求項7】
前記加圧制御部は、前記下限加圧量以下になった後、前記加圧ポンプを駆動して前記設定加圧量に到達させる請求項またはに記載のインクジェットプリンター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクパックを加圧ポンプで加圧して、インクパック内のインクをインクジェットヘッドに連通するインク流路の側に供給するインクジェットプリンターのインク供給制御方法およびインクジェットプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
かかるインクジェットプリンターは特許文献1に記載されている。同文献では、インクジェットプリンターにセットされるインクカートリッジが、インクを内包する可撓性のインクパックと、このインクパックを収容する剛性のケースと、ケースとインクパックの間に形成された加圧室を備えている。インクジェットプリンターは、加圧ポンプによって加圧室内に空気を送り込むことによりインクパックを加圧している。
【0003】
同文献では、加圧ポンプは、自己の加圧量を検出するための圧力センサーを備えている。圧力センサーは、ポンプ部から加圧室に向かって圧送される空気を導入する導入室と、導入室の壁面を構成するとともに導入室内の圧力によって変位するダイヤフラムと、ダイヤフラムの変位を検出する光学センサーユニットを備えている。光学センサーユニットによってダイヤフラムが導入室から外側に押し出された位置に変位したことが検出されると、圧力センサーは、加圧ポンプの加圧量がインクを送り出すのに十分な第1の加圧量であることを検出する。光学センサーユニットによりダイヤフラムが導入室の内側に窪んだ状態に変位したことが検出されると、圧力センサーは、加圧ポンプの加圧量が第1の加圧量よりも低い第2の加圧量であることを検出する。
【0004】
ここで、加圧ポンプの加圧量は、時間の経過に伴い減少する。また、加圧ポンプの加圧量は、インクジェットヘッドによるインク使用量、すなわち、インクパック内のインク残量の減少により低下する。加圧ポンプの加圧量が低下すると、インクパック内のインクをインク流路の側に送り出すことができなくなるので、特許文献1のインクジェットプリンターでは、加圧ポンプの加圧量が第2の加圧量であることが検出されると、加圧ポンプを駆動して、加圧室内に空気を送り込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−190410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インクジェットプリンターの中には、一定期間、外部の機器から印刷データの供給がない場合に、搭載するモーターやセンサーなどへの給電を停止してCPUなどの制御部だけを動作させる省電力モードに移行するものがある。このようなインクジェットプリンターでは、加圧ポンプの加圧量を圧力センサーからの出力のみに基づいて管理していると、省電力モード中に加圧ポンプの加圧量を把握することができなくなるという問題がある。例えば、省電力モードで動作している期間が長くなると、時間の経過に伴って加圧ポンプの加圧量が第2の加圧量よりも低下した状態となる場合が発生するが、省電力モード中は圧力センサーからの出力がないので、制御部では加圧ポンプの加圧量を把握することができず、圧力センサーからの出力に基づいて加圧ポンプを駆動制御することもできない。この結果、省電力モード中に、加圧ポンプの加圧量を第2の加圧量よりも高い値に維持することが困難となる。
【0007】
ここで、インクジェットプリンターが省電力モードで動作しているときに、外部の機器から印刷データの供給があると、インクジェットプリンターは待機モードから抜け出して通常の動作モードに復帰する。動作モードに復帰すると、インクジェットプリンターは加圧ポンプをその加圧量が第1の加圧量となるまで駆動してインクパックからインク流路の側にインクを圧送可能な状態とし、しかる後に、印刷データの印刷を開始する。このような場合に、加圧ポンプの加圧量が第2の加圧量よりも著しく低下していると、加圧ポンプを第1の加圧量となるまで駆動する駆動時間が長くなり、印刷データの受信から当該印刷データの印刷を開始するまでの時間が遅延してしまうという問題が発生する。
【0008】
本発明の課題は、かかる問題点に鑑みて、加圧ポンプの加圧量を圧力センサーからの出力のみによらずに把握でき、加圧ポンプの加圧量をインクの圧送に必要な加圧量まで上昇させるための駆動時間によって印刷データの受信から印刷開始までの時間が遅延することを抑制或いは回避できるインクジェットプリンターのインク供給制御方法およびインクジェットプリンターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、インクが内包された可撓性のインクパックをする加圧ポンプを駆動して当該加圧ポンプの加圧量を予め設定した設定加圧量に到達させる加圧動作を行い、
前記設定加圧量に到達させた後、前記加圧ポンプを停止し、
前記加圧ポンプを停止した加圧停止時点からの経過時間を計測、前記加圧停止時点からのンクジェットヘッドによるインク使用量を取得し、
前記加圧停止時点からの記経過時間およびインク使用量に基づいて測加圧量算出し、
前記予測加圧量が前記設定加圧量よりも低い下限加圧量以下となると、記加圧ポンプを駆動することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、加圧ポンプの加圧量を、加圧ポンプの加圧動作、加圧動作を停止した加圧停止時点からの経過時間、およびインクジェットヘッドによるインク使用量に基づいて算出した予測加圧量で把握する。従って、圧力センサーからの出力のみによらず加圧ポンプの加圧量を管理できる。よって、インクジェットプリンターが圧力センサーへの給電が途絶える省電力モードで動作している間でも、加圧ポンプの加圧量(予測加圧量)に基づいて当該加圧ポンプを駆動制御することが可能となる。また、予測加圧量が下限加圧量となった場合には加圧ポンプを駆動してその加圧量を上昇させるので、加圧ポンプの加圧量が下限加圧量以下となることを回避できる。従って、下限加圧量を調整することにより、加圧ポンプの加圧量を下限加圧量から設定加圧量まで上昇させるのに必要な加圧ポンプの駆動時間を調整することができる。この結果、加圧ポンプの加圧量をインクの圧送に必要な加圧量まで上昇させるための駆動時間によって、印刷データの受信から印刷開始までの時間が遅延することを抑制或いは回避できる。
【0011】
本発明において、予測加圧量を精度よく算出して取得するためには、記加圧ポンプが停止した時点からの経過時間と前記加圧ポンプの加圧量の変化とを関係付けた加圧量変化情報記憶保持し前記予測加圧量を、前記加圧量変化情報基づいて算出することが望ましい。
【0012】
本発明において、前記下限加圧量以下になった後、前記加圧ポンプを駆動して前記設定加圧量に到達させることが望ましい。また、前記下限加圧量となった後、前記加圧ポンプを駆動して記設定加圧量に到達させるまでの前記加圧ポンプの駆動時間は、印刷データを受信してから前記インクジェットヘッドにより前記印刷データの印刷が開始されるまでの印刷準備時間よりも短いことが望ましい。このようにすれば、印刷データの供給を受けたときに、印刷データの印刷を遅滞なく開始できる。
【0013】
本発明において、外部の機器から印刷データの供給を受けたときに、前記予測加圧量が前記設定加圧量よりも低く前記下限加圧量よりも高い基準加圧量位置となっている場合には、前記予測加圧量が前記設定加圧量となるまで前記加圧ポンプを駆動することが望ましい。このようにすれば、印刷データを印刷している途中に加圧ポンプの加圧量が著しく低下することを回避できる。
【0014】
また、インクパックのインク残量が少なくなるとインクパックの背圧が急激に上昇するので、加圧ポンプの加圧量を一定としている場合には、インクパック内のインクを十分にインク流路の側に送り出すことができず、インク流路に送り出されることなくインクパック内に残留する残留インクを増加させてしまうことになる。かかる問題に対して、前記インクパックのインク残量監視し、前記インク残量が所定のインク残量に達したことが検出されていない場合には、前記設定加圧量を第1加圧量として、前記下限加圧量を前記第1加圧量よりも低い第2加圧量とし、前記インク残量が前記所定のインク残量に達したことが検出されている場合には、前記下限加圧量を前記第1加圧量よりも高い第3加圧量とし、前記設定加圧量を第3加圧量よりも高い第4加圧量とすることが望ましい。このようにすれば、インク残量が所定のインク残量に達してインクパックの背圧が上昇する際に、インクパックを加圧するための加圧ポンプの加圧量が第1加圧量から第2加圧量に上昇するので、インクパックの背圧の上昇に拘わらず、インクパック内のインクをインク流路の側に送り出すことができる。よって、残留インクを少なくすることができる。また、加圧ポンプを高圧で駆動するのは、インクパックのインク残量が所定のインク残量に達した後の期間だけなので、加圧ポンプの駆動時間が長くなることを抑制することができ、加圧ポンプの寿命の短縮を抑制できる。
【0015】
次に、本発明は、インクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクが内包された可撓性のインクパック加圧して前記インクを前記インクジェットヘッドに連通するインク流路に供給する加圧ポンプと
前記加圧ポンプ加圧動作及び前記加圧ポンプ停止を制御する加圧制御部と、
前記加圧ポンプが停止した加圧停止時点からの経過時間を計測する計測部と、
前記加圧停止時点からの前記インクジェットヘッドによるインク使用量を取得するインク使用量取得部と、
前記加圧停止時点からの記経過時間および前記インク使用量に基づいて測加圧量算出する加圧量予測部と、を有し、
前記加圧制御部は、前記予測加圧量が予め設定した下限加圧量以下となると、記加圧ポンプを駆動させるとを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、加圧ポンプの加圧量を、加圧ポンプの加圧動作、加圧動作を停止した加圧停止時点からの経過時間、およびインクジェットヘッドによるインク使用量に基づいて算出した予測加圧量で把握する。従って、加圧制御部は圧力センサーからの出力のみによらず加圧ポンプの加圧量を管理できる。よって、インクジェットプリンターが圧力センサーへの給電が途絶える省電力モードで動作している間でも、加圧制御部が加圧ポンプの加圧量(予測加圧量)に基づいて当該加圧ポンプを駆動制御することができる。また、加圧制御部は予測加圧量が下限加圧量となった場合には加圧ポンプを駆動してその加圧量を上昇させるので、加圧ポンプの加圧量が下限加圧量以下となることを回避できる。従って、下限加圧量を調整することにより、加圧ポンプの加圧量を下限加圧量から設定加圧量まで上昇させるのに必要な加圧ポンプの駆動時間を調整することができる。この結果、加圧ポンプの加圧量をインクの圧送に必要な加圧量まで上昇させるための駆動時間によって、印刷データの受信から印刷開始までの時間が遅延することを抑制或いは回避できる。
【0017】
本発明において、予測加圧量を精度よく取得するためには、記加圧ポンプが停止した時点からの経過時間と前記加圧ポンプの加圧量の変化とを関係付けた加圧量変化情報記憶保持る記憶部を有し、前記加圧量予測部は、記加圧量変化情報基づいて算出することが望ましい。
【0018】
本発明において、前記予測加圧量が前記下限加圧量となった前記加圧ポンプを前記追い加圧制御部が駆動させて当該予測加圧量を前記設定加圧量に到達させるまでの駆動時間は、印刷データを受信してから前記インクジェットヘッドにより当該印刷データの印刷が開始されるまでの印刷準備時間よりも短いことが望ましい。このようにすれば、印刷データの供給を受けたときに、印刷データの印刷を遅滞なく開始できる。
【0019】
本発明において、外部の機器から印刷データの供給を受ける通信部と、前記印刷データの供給を受けたときに、前記予測加圧量が前記設定加圧量よりも低く前記下限加圧量よりも高い基準加圧量位置となっている場合には、前記予測加圧量が前記設定加圧量となるまで前記加圧ポンプを駆動させる第2の追い加圧制御部と、を有していることが望ましい。このようにすれば、印刷データを印刷している途中に加圧ポンプの加圧量が著しく低下することを回避できる。
【0020】
本発明において、前記インクパックのインク残量が予め設定した残量以下となる所定のインク残量に達したか否かを監視するインク残量監視部を有し、前記加圧制御部は、前記所定のインク残量に達したことが検出されていない場合には、前記設定加圧量を第1加圧量として、前記下限加圧量を前記第1加圧量よりも低い第2加圧量とする第1加圧制御部と、前記所定のインク残量に達したことが検出されている場合には、前記下限加圧量を前記第1加圧量よりも高い第3加圧量とし、前記設定加圧量を第3加圧量よりも高い第4加圧量とする第2加圧制御部とを備えることが望ましい。このようにすれば、インク残量が所定のインク残量に達してインクパックの背圧が上昇する際に、インクパックを加圧する加圧ポンプの加圧量が第1加圧量から第2加圧量に上昇するので、インクパックの背圧の上昇に拘わらず、インクパック内のインクをインク流路の側に送り出すことができる。よって、残留インクを少なくすることができる。また、加圧ポンプを高圧で駆動するのは、インクパックのインク残量が所定のインク残量に達した後の期間だけなので、加圧ポンプの駆動時間が長くなることを抑制することができ、加圧ポンプの寿命の短縮を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、加圧ポンプの加圧量を、加圧ポンプの加圧動作、加圧動作を停止した加圧停止時点からの経過時間、およびインクジェットヘッドによるインク使用量に基づいて算出した予測加圧量で把握する。従って、圧力センサーからの出力のみによらず加圧ポンプの加圧量を管理できる。また、予測加圧量が下限加圧量となった場合には加圧ポンプを駆動してその加圧量を上昇させるので、加圧ポンプの加圧量が下限加圧量以下となることを回避できる。従って、下限加圧量を調整することにより、加圧ポンプの加圧量を下限加圧量から設定加圧量まで上昇させるのに必要な加圧ポンプの駆動時間を調整することができる。この結果、加圧ポンプの加圧量をインクの圧送に必要な加圧量まで上昇させるための駆動時間によって、印刷データの受信から印刷開始までの時間が遅延することを抑制或いは回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明を適用したインクジェットプリンターのインク供給系の説明図である。
図2】インク供給系の要部の斜視図である。
図3】加圧ポンプの斜視図である。
図4】インクジェットプリンターの制御系の概略ブロック図である。
図5】加圧量変化情報を示すグラフである。
図6】インク供給動作を示すフローチャートである。
図7】インク供給制御動作中の加圧ポンプの加圧量の変化を示すグラフである。
図8】インク供給制御動作中の加圧ポンプの加圧量の変化を示すグラフである。
図9】加圧ポンプを第1設定加圧量とした後の加圧量変化情報を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したインクジェットプリンターを説明する。
【0024】
図1は本実施の形態に係るインクジェットプリンターのインク供給系の説明図である。図2はインク供給系の要部の斜視図である。図3は加圧ポンプの斜視図である。インクジェットプリンター1は、外部の機器から印刷データの供給を受けると、印刷位置を経由する紙搬送路に沿って記録紙を搬送し、印刷位置を通過する記録紙に対してインクジェットヘッド2により印刷を施すものである。
【0025】
図1に示すように、インクジェットプリンター1のインク供給系は、インクジェットプリンター1に着脱可能に装着されたインクカートリッジ3と、インクカートリッジ3に収納されているインクを、インク流路4を介してインクジェットヘッド2に供給するインク供給機構5を備えている。
【0026】
インクカートリッジ3はインクを内包する可撓性のインクパック10と、このインクパック10を収容する剛性のケース11と、ケース11とインクパック10の間に形成された加圧室12を備えている。インク供給機構5は加圧ポンプ15と、加圧ポンプ15とインクパック10の加圧室12とを接続する空気圧送路16を備えている。インク供給機構5は、加圧ポンプ15によって空気圧送路16を介して加圧室12内に空気を送り込み、加圧室12内の空気圧によってインクパック10を押圧することにより、インクパック10内のインクをインク流路4の側に送り出す。
【0027】
インクカートリッジ3がインクジェットプリンター1のカートリッジ装着部17(図2参照)に装着されると、インク流路4の上流端4a(インクジェットヘッド2とは反対側の端)がインクパック10に着脱可能に接続される。より詳細には、インク流路4の上流端4aには針4bが設けられており、インクカートリッジ3がカートリッジ装着部17に装着されると、ケース11およびインクパック10に設けられた針挿口を介して針4bがインクパック10に差し込まれ、インクパック10内のインクがインク流路4の側に流出可能となる。また、インクカートリッジ3がカートリッジ装着部17に装着されると、空気圧送路16の下流端16a(空気圧送路16の加圧ポンプ15とは反対側の端)が加圧室12に着脱可能に接続される。より詳細には、インクカートリッジ3がインクジェットプリンター1に装着されると、ケース11に設けられた加圧室12の空気導入口11aと空気圧送路16の下流端16aの開口と連通した状態が形成される。
【0028】
図2に示すように、本例のインクジェットプリンター1では、カートリッジ装着部17に6つのインクカートリッジ3が装着される。加圧ポンプ15と6つのインクカートリッジ3のそれぞれとを接続する空気圧送路16は平面基板18上に構成されている。インクジェットヘッド2と各インクカートリッジ3とを接続するインク流路4は平面基板18上に構成された第1インク流路部分4cと、インク流路4部分の下流端16aとインクジェットヘッド2の間を接続する可撓性の第2インク流路部分4dを備えている。各インクカートリッジ3は重力方向でインクジェットヘッド2よりも下方に位置している。インクジェットヘッド2はインクノズルのノズル面2aを下方に向けた状態で配置されている。
【0029】
図3に示すように、加圧ポンプ15は、駆動源となるDCモーター20と、空気を加圧するためのジャバラポンプ部21と、ジャバラポンプ部21によって加圧された空気を空気圧送路16の側に噴出する空気供給口22(図1参照)を備えている。空気供給口22は空気圧送路16の上流端16bに接続されており、空気供給口22は空気圧送路16を介してインクカートリッジ3の加圧室12と連通している。
【0030】
また、加圧ポンプ15は、ジャバラポンプ部21と空気供給口22とを連通させているポンプ内空気流路23の途中に、自己の加圧量を検出するための圧力センサー24とレギュレーター25を備えている。圧力センサー24とレギュレーター25とは、ポンプ内空気流路23の空気圧送方向の上流側から下流側に向かってこの順番で配置されている。さらに、加圧ポンプ15は、ジャバラポンプ部21の加圧動作の回数、すなわち、ジャバラポンプ部21が圧縮された回数を検出するためのポンプセンサー26を備えている。ポンプセンサー26は、例えば、ジャバラポンプ部21が圧縮される毎に操作されるスイッチである。
【0031】
圧力センサー24は、図1に示すように、ジャバラポンプ部21から加圧室12に向かって圧送される空気を導入する空気導入室30と、空気導入室30の一つの壁面を構成するとともに空気導入室30内の圧力によって変位するダイヤフラム32と、ダイヤフラム32の変位を検出する光学センサーユニット33を備えている。
【0032】
ここで、ダイヤフラム32は、ダイヤフラム32に対向している空気導入室30の底面30aから離れる方向に膨らんで空気導入室30の容積を拡大させている外側位置32Aと、空気導入室30の底面30aに接近する方向に窪んで空気導入室30の容積を縮小させている内側位置32Bとの間を変位する。光学センサーユニット33は、ダイヤフラム32が外側位置32Aに配置された状態と内側位置32Bに配置された状態を検出する。光学センサーユニット33がダイヤフラム32の外側位置32Aへの配置を検出すると、圧力センサー24は、ジャバラポンプ部21による加圧量(加圧ポンプ15の加圧量)が第1設定加圧量(第1加圧量)P1となったことを示す第1信号を出力する。光学センサーユニット33がダイヤフラム32の内側位置32Bへの配置を検出すると、圧力センサー24は、ジャバラポンプ部21による加圧量(加圧ポンプ15の加圧量)が予め定めた第1基準加圧量(第2加圧量)Q1以下となったことを示す第2信号を出力する。第1基準加圧量Q1は第1設定加圧量P1よりも低い加圧量である。
【0033】
ここで、光学センサーユニット33としては、ダイヤフラム32の外面に取り付けた反射部材33aと、反射部材33aに対向する位置に配置された反射型フォトセンサー33bを備える構成のものを採用することができる。この場合、反射型フォトセンサー33bは反射部材33aに向かって検査光を照射するとともに、反射部材33aからの検査光の反射光を受光する。圧力センサー24は反射型フォトセンサー33bからの出力に基づいて反射型フォトセンサー33bと反射部材33aとの間の距離を取得することにより、ダイヤフラム32の位置(変位)を検出する。
【0034】
レギュレーター25は、ポンプ内空気流路23の側壁部分に設けられた開口35と、開口35を空気流路の外側から封鎖する封鎖部材36と、封鎖部材36を開口35を封鎖する方向に所定の付勢力で付勢するコイルバネなどの付勢部材37を備えている。
【0035】
レギュレーター25は、ジャバラポンプ部21による加圧量(加圧ポンプ15の加圧量)が、当該レギュレーター25の動作設定圧力以上となると動作して、その加圧量を低下させる。より詳細には、ジャバラポンプ部21による加圧量が動作設定圧力以上となると、付勢部材37の付勢力に抗して封鎖部材36が開口35を開く方向に移動して開口35から空気を流出させて、加圧ポンプ15の加圧量を低下させる。しかる後に、ジャバラポンプ部21による加圧量が動作設定圧力よりも低下すると、付勢部材37の付勢力によって封鎖部材36が開口35を閉じる方向に戻り、開口35を封鎖した状態となる。
【0036】
(制御系)
図4は、インクジェットプリンター1の制御系を示す概略ブロック図である。図5は加圧量変化情報を示すグラフである。図4に示すように、インクジェットプリンター1はCPUを備える制御部40を中心に構成されている。制御部40の入力側には、通信インターフェースを備える通信部41、加圧ポンプ15の圧力センサー24およびポンプセンサー26が接続されている。制御部40の出力側には記録紙を搬送するための紙送りモーター43、インクジェットヘッド2、加圧ポンプ15のDCモーター20が不図示のドライバーを介して接続されている。また、制御部40にはメモリー(記憶部)44が接続されている。通信部41は、外部の機器から印刷データを受信する。
【0037】
制御部40は、受信した印刷データを印刷する印刷動作を司る印刷制御部50、インクジェットヘッド2によるインク使用量を取得するインク使用量取得部51、インクパック10内のインク残量を取得するインク残量取得部(インク残量監視部)52、加圧ポンプ15を駆動制御する加圧制御部53、タイマーを備える計測部54、加圧ポンプ15の加圧量を予測する加圧量予測部55を備えている。計測部54は加圧ポンプ15が停止した加圧停止時点からの経過時間を計測する。
【0038】
印刷制御部50は、通信部41が印刷データを受信すると、紙送りモーター43を駆動して記録紙を印刷位置にセットする頭出しを行う。しかる後に、加圧ポンプ15の加圧量を監視して、加圧ポンプ15が基準加圧量に達している場合に、紙送りモーター43およびインクジェットヘッド2を駆動制御して印刷データの印刷を開始する。加圧ポンプ15の基準加圧量は、当該基準加圧量とインクジェットヘッド2のインクノズル開口に形成されるインクのメニスカス耐圧を合計した第1の圧力の方が、インクパック10の位置水頭、インクパック10の背圧、および、インク流路4の流路動圧とを合計した第2の圧力よりも大きくなるように設定されている。
【0039】
インク使用量取得部51は、インクジェットヘッド2から吐出されるインク滴のショット数を計数しており、このショット数に基づいてインクジェットヘッド2によるインク使用量を算出して取得する。
【0040】
インク残量取得部(インク残量監視部)52は、インクパック10に内包されたインクの規定インク量からインクジェットヘッド2によるインク使用量を減算してインクパック内のインク残量を取得する。また、インク残量取得部52は、このインク残量が、予め設定した残量以下となる所定のインク残量に達したか否かを監視している。所定のインク残量は、インクパック内のインク残量がゼロに近くなると検出される。
【0041】
加圧制御部53は、インク残量取得部52によってインクパック10内のインク残量が所定のインク残量に達したことが検出されていない場合に加圧ポンプ15を駆動制御する第1加圧制御部56と、インク残量取得部52により所定のインク残量に達したことが検出されている場合に、加圧ポンプ15を駆動制御する第2加圧制御部57を備えている。
【0042】
第1加圧制御部56は、通信部41が印刷データを受信したときに圧力センサー24が第2信号を出力する状態となっていると、圧力センサー24から第1信号が出力されるまで加圧ポンプ15を駆動して当該加圧ポンプ15を停止する。すなわち、第1加圧制御部56は、印刷データの受信時点で加圧ポンプ15の加圧量が第1基準加圧量Q1以下となっている場合に、加圧ポンプ15を駆動して、その加圧量を第1設定加圧量P1とする。
【0043】
ここで、印刷制御部50はインクパック10のインク残量が所定のインク残量に達したことが検出されていない場合(第1加圧制御部56によって加圧ポンプ15が駆動制御されている場合)には、印刷を開始する基準の基準加圧量を第1基準加圧量Q1としている。従って、通信部41が印刷データを受信した後に加圧ポンプ15が駆動されてその加圧力が第1設定加圧量P1に達すると、印刷制御部50は印刷データの印刷を開始する。
【0044】
第2加圧制御部57は、初期加圧部58、第1追い加圧部59および第2追い加圧部60を備えている。
【0045】
初期加圧部58は、インク残量取得部52によってインクパックのインク残量が所定のインク残量に達したことが検出されると、加圧ポンプ15を駆動してその加圧量を第2設定加圧量(第4加圧量)P2に到達させる初期加圧動作を行い、加圧ポンプ15を停止する。第2設定加圧量P2は、第1設定加圧量P1よりも高い値である。
【0046】
より具体的には、初期加圧部58は、インク残量取得部52によって所定のインク残量に達したことが検出されたときに圧力センサー24から第1信号が出力されている場合には、予め定めた所定回数だけジャバラポンプ部21を駆動して、加圧ポンプ15の加圧量を第2設定加圧量P2に到達させる。一方、インク残量取得部52によって所定のインク残量に達したことが検出されたときに、圧力センサー24から第1信号が出力されていない場合には、初期加圧部58は、圧力センサー24から第1信号が出力されるまでジャバラポンプ部21を駆動し、しかる後に、予め定めた所定回数だけジャバラポンプ部21を駆動して、加圧ポンプ15の加圧量を第2設定加圧量P2に到達させる。なお、本例のインクジェットプリンターは、加圧ポンプ15の加圧量が第2設定加圧量P2に到達したことを検出するセンサーを搭載していない。従って、初期加圧部58では、圧力センサー24から第1信号が出力された後にジャバラポンプ部21を所定回数駆動することによって、加圧ポンプ15の加圧量が第2設定加圧量P2に到達したものとみなしている。
【0047】
第1追い加圧部59は、加圧量予測部55が取得した予測加圧量が第1設定加圧量P1よりも低い下限加圧量(第3加圧量)R1以下となると、加圧ポンプ15を駆動させて予測加圧量を第2設定加圧量P2に到達させる第1追い加圧動作を行わせる。ここで、下限加圧量R1は第1設定加圧量P1よりも高い値である。また、下限加圧量R1は、予測加圧量が下限加圧量R1となった加圧ポンプ15を駆動させて第2設定加圧量P2に到達させるまでの駆動時間t(図8参照)が、印刷データを受信してからインクジェットヘッド2により印刷データの印刷が開始されるまでの印刷準備時間よりも短くなるように、設定されている。印刷準備時間は、例えば、通信部41が外部の機器から印刷データを受信した時点から、記録紙を印刷位置にセットする頭出しが完了するまでの時間である。
【0048】
第2追い加圧部60は、印刷データの受信時点で加圧量予測部55が取得した予測加圧量が第2設定加圧量P2よりも低く、下限加圧量R1よりも高い第2基準加圧量Q2以下となっている場合に、加圧ポンプ15を駆動させて予測加圧量を第2設定加圧量P2に到達させる第2追い加圧動作を行わせる。
【0049】
ここで、印刷制御部50は、インクパック10内のインク残量が所定のインク残量に達したことが検出されている場合(第2加圧制御部57によって加圧ポンプ15が駆動制御されている場合)には、印刷を開始する基準の基準加圧量を第2基準加圧量Q2としている。従って、通信部41が印刷データを受信した後に加圧ポンプ15が駆動されてその予測加圧量が第2基準加圧量Q2を上回る第2設定加圧量P2に達すると、印刷制御部50は印刷データの印刷を開始する。
【0050】
加圧量予測部55は、加圧ポンプ15の加圧量を、メモリー44に記憶保持されている加圧量変化情報61、加圧ポンプ15の加圧停止時点の後のインク使用量、および、加圧ポンプ15の加圧動作(初期加圧動作、第1追い加圧動作、第2追い加圧動作)に基づいて一定間隔で算出して、予測加圧量として、取得している。
【0051】
加圧量変化情報61は、加圧ポンプ15をその加圧量が第2設定加圧量P2となるまで駆動した後に加圧ポンプ15を停止し、加圧ポンプ15が停止した時点から減少する加圧ポンプ15の加圧量を実測し、実測の結果を加圧ポンプ15が停止した時点からの経過時間と加圧ポンプ15の加圧量の変化とを関係付けたものである。加圧量変化情報61をグラフで示した場合には、例えば、図5のように示される。本例では、経過時間と加圧ポンプ15の加圧量の変化(グラフの傾き)とをテーブルの形態でメモリー44に記憶保持している。
【0052】
加圧ポンプ15の加圧停止時点の後のインク使用量とは、予測加圧量を第2設定加圧量P2に到達させて加圧ポンプ15を停止した後にインクジェットヘッド2により使用されたインク使用量である。インク使用量取得部51は、予測加圧量を第2設定加圧量P2に到達させた後に加圧ポンプ15が停止する毎に、それ以降のインク使用量を新たに取得しており、加圧量予測部55はインク使用量取得部51が取得している値を参照して取得することができる。
【0053】
加圧ポンプ15の加圧動作とは、初期加圧動作、第1追い加圧動作および第2追い加圧動作のそれぞれの動作の間にジャバラポンプ部21が駆動(圧縮)された回数であり、加圧量予測部55は、ポンプセンサー26からの出力に基づいてこの値を取得することができる。
【0054】
ここで、加圧ポンプ15の第2設定加圧量P2は、加圧ポンプ15に搭載されているレギュレーター25が動作する動作設定圧力をSP、レギュレーター25の動作が前記動作設定圧力に対してバラつく圧力範囲を±α、加圧ポンプ15の加圧量が設定した加圧量に対してバラつく圧力範囲を±βとしたときに、以下の条件式(1)、(2)を満たしている。
P2>SP−α (1)
P2−β>SP−α (2)
【0055】
一般的に、レギュレーター25を搭載する加圧ポンプ15はレギュレーター25を動作させない範囲で、その加圧量の上限値が設定される。すなわち、加圧ポンプ15の加圧量を設定する場合には、レギュレーター25の動作の誤差の範囲(動作設定圧力に対してバラつく圧力範囲)を考慮して、所望とする加圧量からこの誤差の範囲分を差し引いた値を設定加圧量とすることが行われる。これに対して、本例では、レギュレーター25が動作してもインクの供給動作に影響がないので、レギュレーター25の動作の誤差の範囲を考慮せず、条件式(1)を満たすように加圧ポンプ15の第2設定加圧量P2を設定している。これにより、レギュレーター25の動作の誤差の範囲を考慮した場合と比較して、第2設定加圧量P2が高い値となる。従って、レギュレーター25の動作の誤差の範囲を考慮した場合と比較して、インクパック10を高い圧力で付勢できる。
【0056】
また、一般的に、レギュレーター25を搭載する加圧ポンプ15は、レギュレーター25を動作させないように、加圧ポンプ15の動作の誤差の範囲(加圧ポンプ15の加圧量が設定した加圧量に対してバラつく圧力範囲)を考慮して、その加圧量の上限値が設定される。すなわち、加圧ポンプ15の加圧量を設定する場合には、所望とする加圧量からこの誤差の範囲を差し引いた値を設定加圧量とすることが行われる。これに対して、本例では、レギュレーター25が動作しても、インク供給動作に影響がないので、加圧ポンプ15の動作の誤差の範囲を考慮せずに、条件式(2)を満たすように、加圧ポンプ15の第2設定加圧量P2を設定している。これにより、加圧ポンプ15の動作の誤差の範囲を考慮した場合と比較して、第2設定加圧量P2が高い値となる。従って、レギュレーター25の動作の誤差の範囲を考慮した場合と比較して、インクパック10を高い圧力で付勢できる。ここで、インクパック10を高い圧力で付勢すれば、インク流路4に送り出されることなくインクパック10内に残留する残留インクを少なくすることができる。
【0057】
(インク供給制御動作)
次に、図6乃至図8を参照してインク供給制御動作を説明する。図6はインク供給制御動作のフローチャートである。図7は所定のインク残量が検出されていない場合のインク供給動作時における加圧ポンプの加圧量の変化を示すグラフである。図8は所定のインク残量が検出されている場合のインク供給動作時における加圧ポンプの加圧量の変化を示すグラフである。
【0058】
図6に示すように、インクジェットプリンター1が動作すると、インク残量取得部52は、所定のインク残量に達しているインクパック10があるか否かを判定する(ステップST1)。ここで、いずれのインクパック10も所定のインク残量に達していない場合には、第1加圧制御部56が加圧ポンプ15の駆動制御を司る通常状態に移行するとともに、印刷データの供給を待つアイドル状態に移行する。
【0059】
ここで、通信部41が外部の機器から印刷データの供給を受けると(ステップST2)、第1加圧制御部56は、加圧ポンプ15の加圧量が第1基準加圧量Q1以下となっているか否かを確認する(ステップST3)。すなわち、圧力センサー24から第2信号が出力されているか否かを確認する。
【0060】
圧力センサー24から第2信号が出力されている場合、すなわち、加圧ポンプ15の加圧量が第1基準加圧量Q1以下となっている場合(図7の(ST3:YES)の場合)には、第1加圧制御部56は加圧ポンプ15を第1設定加圧量P1となるまで駆動し、しかる後に、加圧ポンプ15を停止する(ステップST4)。すなわち、第1加圧制御部56は圧力センサー24から第1信号が出力されるまで加圧ポンプ15を駆動させて、加圧ポンプ15を停止する。これにより圧力センサー24からは第2信号が出力されなくなる。印刷制御部50は、第2信号が出力されなくなると加圧ポンプ15の加圧量が基準加圧量(第1基準加圧量Q1)を上回ったと判断して、印刷データの印刷を開始する(ステップST5)。
【0061】
ステップST3において、加圧ポンプ15の加圧量が第1基準加圧量Q1を超えている場合(図7の(ST3:NO)の場合)には、圧力センサー24から第2信号が出力されていない。従って、印刷制御部50は、加圧ポンプ15の加圧量が基準加圧量(第1基準加圧量Q1)を上回っていると判断して、印刷データの印刷を開始する(ステップST5)。すなわち、第1加圧制御部56により加圧ポンプ15が駆動されることなく、印刷データの印刷が行われる(ステップST5)。
【0062】
次に、ステップST1において、インク残量取得部52によりインクパック10のインク残量が所定のインク残量に達したインクパック10があることが検出された場合には、加圧ポンプ15の駆動制御を第2加圧制御部57が司るニアエンド近傍検出状態に移行するとともに、印刷データの供給を待つアイドル状態に移行する。
【0063】
ここで、インクパック10のインク残量が所定のインク残量に達したインクパック10があることが検出されると、初期加圧部58が加圧ポンプ15を駆動させて初期加圧動作を行ない加圧ポンプ15の加圧量を第2設定加圧量P2に到達させる。すなわち、所定のインク残量に達したインクパック10があることが検出された時点では、加圧ポンプ15の加圧量が第1設定加圧量P1よりも圧力の高い下限加圧量R1に達していることはないので(ステップST6)、初期加圧部58は加圧ポンプ15を駆動させて、その加圧量を第2設定加圧量P2として当該加圧ポンプ15を停止させる(ステップST7)。
【0064】
その後に、通信部41が外部の機器から印刷データの供給を受けると(ステップST8)、第2加圧制御部57は、加圧ポンプ15の予測加圧量が第2基準加圧量Q2以下となっているか否かを確認する(ステップST9)。
【0065】
ステップST9において、予測加圧量が第2基準加圧量Q2以下となっている場合(図8の(ST9:YES)の場合)には、第2追い加圧部60は加圧ポンプ15を駆動させて予測加圧量を第2設定加圧量P2に到達させる第2追い加圧動作を行わせる(ステップST10)。ステップST10において、加圧ポンプ15が停止すると、予測加圧量として第2設定加圧量P2が取得される。すなわち、予測加圧量は、印刷制御部50が印刷開始の基準としている基準加圧量(第2基準加圧量Q2)を上回る。従って、印刷制御部50は印刷データの印刷を開始する(ステップST5)。一方、ステップST9において、予測加圧量が第2基準加圧量Q2を超えている場合(図8の(ST9:NO)の場合)には、印刷制御部50は印刷データの印刷を開始する(ステップST5)。すなわち、第2加圧制御部57により加圧ポンプ15が駆動されることなく、印刷が行われる。
【0066】
ここで、ステップST7において、加圧ポンプ15が停止すると、加圧量予測部55は一定間隔で加圧ポンプ15の加圧量を予測加圧量として取得する。そして、ステップST7以降に、印刷データの供給を受けていない場合には、加圧量予測部55が予測加圧量を取得する毎に、この予測加圧量と下限加圧量R1とが比較される(ステップST11、ステップST6)。
【0067】
その後、ステップST6において、予測加圧量が下限加圧量R1以下となったことが検出された場合(図8の(ST6:YES)の場合)には、第1追い加圧部59は、加圧ポンプ15をその予想加圧量が第2基準加圧量Q2となるまで駆動する第1追い加圧動作を行わせる。これにより、加圧ポンプ15の加圧量が下限加圧量R1となることが回避される。
【0068】
(作用効果)
本例によれば、加圧ポンプ15の加圧量を、加圧ポンプ15の加圧動作(ジャバラポンプ部21の加圧動作の回数)、加圧動作を停止した加圧停止時点からの経過時間、およびインクジェットヘッド2によるインク使用量に基づいて算出した予測加圧量で把握する。従って、インクパック10のインク残量が所定のインク残量に達した後の加圧ポンプ15の駆動制御を新たな圧力センサー24を設けることなく行うことができる。よって、インクパック10のインク残量が所定のインク残量に達した後において、加圧ポンプ15の加圧量を高い値で維持することができる。
【0069】
また、本例では、予測加圧量が下限加圧量R1となった場合には加圧ポンプ15を駆動させてその加圧量を上昇させるので、加圧ポンプ15の加圧量が下限加圧量R1以下となることを回避できる。ここで、予測加圧量が下限加圧量R1となった加圧ポンプ15を駆動させて当該予測加圧量を第2設定加圧量P2に到達させるまでの駆動時間t、すなわち、加圧ポンプ15の加圧量を下限加圧量R1からインクの圧送に十分な加圧量まで上昇させるための駆動時間tは、印刷データを受信してからインクジェットヘッド2により印刷データの印刷が開始されるまでの印刷準備時間よりも短い。従って、印刷データの供給を受けたときに当該印刷データの印刷を遅滞なく開始できる。
【0070】
なお、加圧ポンプ15の加圧量を高い値(第2設定加圧量P2)とした場合には、加圧量を低い値(第1設定加圧量P1)とした場合と比較して、時間の経過と共にその加圧量が低下し易くなる。かかる問題に対して、本例では、外部の機器から印刷データの供給を受けたときに、予測加圧量が第2設定加圧量P2よりも低く下限加圧量R1よりも高い第2基準加圧量Q2位置となっている場合には、予測加圧量が第2設定加圧量P2となるまで加圧ポンプ15を駆動させている。従って、印刷データを印刷している途中に加圧ポンプ15の加圧量が著しく低下することを回避できる。
【0071】
(その他の実施の形態)
上記の例では、インクパック10のインク残量がインクニアエンド近傍となっていない通常状態では、第1加圧制御部56は圧力センサー24からの第1信号および第2信号に基づいて加圧ポンプ15を駆動制御している。これに対して、通常状態においても、第1加圧制御部56が、加圧量予測部55の取得する予測加圧量に基づいて加圧ポンプ15を駆動制御することもできる。
【0072】
この場合には、第1加圧制御部56に、第2加圧制御部57と同様に、初期加圧部58、第1追い加圧部59および第2追い加圧部60を備える。
【0073】
そして、初期加圧部58は、インクジェットプリンター1の電源が投入された時点で、インク残量取得部52によって所定のインク残量に達したことが検出されていない場合に、圧力センサー24から第1信号が出力されるまで加圧ポンプ15を駆動させて、その加圧量を第1設定加圧量P1に到達させる初期加圧動作を行い、加圧ポンプ15を停止するものとする。
【0074】
また、第1追い加圧部59は、加圧量予測部55が取得した予測加圧量がこの下限加圧量(第2加圧量)R2以下となると、加圧ポンプ15を駆動させて予測加圧量を第1設定加圧量P1に到達させる第1追い加圧動作を行わせるものとする。下限加圧量R2としては、下限加圧量R2となった加圧ポンプ15を駆動させて第1設定加圧量P1に到達させるまでの駆動時間が、印刷データを受信してからインクジェットヘッド2により印刷データの印刷が開始されるまでの印刷準備時間よりも短くなるような値を、設定しておく。なお、下限加圧量R2としては、第1基準加圧量Q1よりも低い値を設定しておくこともできるし、第1基準加圧量Q1を下限加圧量R2と同じ値としておくこともできる。
【0075】
さらに、第2追い加圧部60は、印刷データの受信時点で加圧量予測部55が取得した予測加圧量が第1基準加圧量Q1以下となっている場合に、加圧ポンプ15を駆動させて予測加圧量を第1設定加圧量P1に到達させる第2追い加圧動作を行わせるものとする。
【0076】
ここで、第1加圧制御部56が加圧ポンプ15を駆動制御する間に加圧量予測部55が利用する加圧量変化情報61は、加圧ポンプ15をその加圧量が第1設定加圧量P1となるまで駆動した後に当該加圧ポンプ15を停止し、加圧ポンプ15が停止した時点から減少する加圧ポンプ15の加圧量を実測し、当該実測の結果を加圧ポンプ15が停止した時点からの経過時間と加圧ポンプ15の加圧量の変化とを関係付けたものとしておく。この場合における加圧量変化情報61は、例えば、図9のグラフのように示される。
【0077】
そして、加圧量予測部55は、図9に示される加圧量変化情報61、加圧ポンプ15の加圧停止時点の後のインク使用量、および、加圧ポンプ15の加圧動作(第1追い加圧動作、第2追い加圧動作)に基づいて加圧ポンプ15の加圧量を一定間隔で算出して取得する。
【0078】
このようにすれば、電源投入時に、一度、圧力センサー24からの出力に基づいて加圧ポンプ15の加圧量を検出した後には、加圧ポンプ15の加圧量を予測加圧量として把握できる。この結果、外部の機器から印刷データの供給が所定期間ない場合に、インクジェットプリンター1が紙送りモーター43や圧力センサー24などへの電力の供給を停止してCPUなどの制御部40だけを動作させる省電力モードに移行した場合でも、制御部40は省電力モード中に加圧ポンプ15の加圧量を把握して、加圧ポンプ15の駆動制御を行うことができる。
【0079】
従って、例えば、省電力モードで動作している期間が長くなると、時間の経過に伴って加圧ポンプ15の加圧量が第1基準加圧量Q1よりも大幅に低下した状態となることがあるが、このような場合に、予測加圧量に基づいて加圧センサーを駆動して、省電力モード中に加圧ポンプ15の加圧量が下限加圧量R2よりも低下することを回避できる。
【符号の説明】
【0080】
1・・インクジェットプリンター、2・・インクジェットヘッド、2a・・ノズル面、3・・インクカートリッジ、4・・インク流路、4a・・上流端、4b・・針、4c・・インク流路部分、4d・・インク流路部分、5・・インク供給機構、10・・インクパック、11・・ケース、11a・・空気導入口、12・・加圧室、15・・加圧ポンプ、16・・空気圧送路、16a・・下流端、16b・・上流端、17・・カートリッジ装着部、18・・平面基板、20・・DCモーター、21・・ジャバラポンプ部、22・・空気供給口、23・・ポンプ内空気流路、24・・圧力センサー、25・・レギュレーター、26・・ポンプセンサー、30・・空気導入室、30a・・底面、32・・ダイヤフラム、32A・・外側位置、32B・・内側位置、33・・光学センサーユニット、35・・開口、36・・封鎖部材、37・・付勢部材、40・・制御部、41・・通信部、43・・紙送りモーター、44・・メモリー(記憶部)、50・・印刷制御部、51・・インク使用量取得部、52・・インク残量取得部(インク残量監視部)、53・・加圧制御部、54・・計測部、55・・加圧量予測部、56・・第1加圧制御部、57・・第2加圧制御部、58・・初期加圧部、59・・第1追い加圧部、60・・第2追い加圧部、61・・加圧量変化情報、P1・・第1設定加圧量(第1加圧量)、P2・・第2設定加圧量(第4加圧量)、Q1・・第1基準加圧量(第2加圧量)、Q2・・第2基準加圧量、R1・・下限加圧量(第3加圧量)、R2・・下限加圧量(第2加圧量)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9