(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044258
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20161206BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/16 305
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-232382(P2012-232382)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-83705(P2014-83705A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年3月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】山口 廣信
【審査官】
有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−218682(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/068006(WO,A1)
【文献】
特開2007−074892(JP,A)
【文献】
特開2012−071466(JP,A)
【文献】
特開2007−237556(JP,A)
【文献】
特開2006−165303(JP,A)
【文献】
特開2001−257453(JP,A)
【文献】
特表2009−545180(JP,A)
【文献】
特開2008−311584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出させるノズルと、前記ノズルに対応して配設され、該ノズルから吐出させるためのインクを収容する圧力室と、前記圧力室に対応して配置され、該圧力室内のインクを前記ノズルから吐出させるための力を付与するアクチュエータと、前記アクチュエータに電力を印加するための電極に設けられた接続部材とを有する第1の基板と、
前記アクチュエータの前記接続部材と電気的に接続して前記電極に電力を供給するための配線を有する第2の基板とを有し、
前記第1の基板と前記第2の基板とが積層されることによって、互いに対向配置される前記第1の基板の前記接続部材と前記第2の基板の前記配線とが電気的に接続されるインクジェットヘッドであって、
前記第2の基板における前記第1の基板に対向する面で、且つ、前記接続部材と前記配線とが電気的に接続される部位に、前記接続部材の少なくとも先端側の周囲を取り囲む貫通孔を有する接続部材保持部が形成され、
前記接続部材が、前記接続部材保持部の前記貫通孔を通って前記配線に直接的又は間接的に電気的接続されていると共に、前記貫通孔内に、前記接続部材を保持するための固定材料が充填されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記固定材料は、導電性材料であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記接続部材はバンプであり、前記固定材料はバンプではないことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記接続部材はバンプであり、前記第2の基板の前記配線にはバンプが設けられておらず、
前記接続部材は、前記配線に直接的又は前記固定材料を介して間接的に電気的接続されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記接続部材は、前記貫通孔を通って前記配線に接触することによって該配線と直接的に電気的接続されており、
前記固定材料は、非導電性材料であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット
ヘッド。
【請求項6】
前記接続部材はバンプであり、前記第2の基板の前記配線にはバンプが設けられていないことを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記固定材料は、前記アクチュエータに対して非接触であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
1つの前記貫通孔内に複数の前記接続部材が収容されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記接続部材は、前記アクチュエータの表面に設けられた第1の接続部材と、前記第1の基板の表面に設けられた第2の接続部材とを有し、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に、前記第1の基板と前記第2の基板とにそれぞれ接し、前記第1の基板と前記第2の基板との間隔を一定に維持すると共に、前記第1の基板に接する面から前記アクチュエータを収容するための凹部が形成された第3の基板を有し、
前記接続部材保持部は、前記第3の基板の前記凹部における前記第1の接続部材に対応する該凹部の底部に形成され、前記第1の接続部材を収容するための貫通孔を有する第1の接続部材保持部と、前記第3の基板における前記第2の接続部材に対応する位置に形成され、該第2の接続部材を収容するための貫通孔を有する第2の接続部材保持部とを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記接続部材保持部は、ガラスプレートによって形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記接続部材保持部は、表面が絶縁処理された金属プレートによって形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記接続部材保持部は、セラミックスプレートによって形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
前記第2の基板は、前記配線の一部を絶縁保護する配線保護層を有し、
前記接続部材保持部を形成している部材は、前記配線保護層とは別に設けられていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項14】
前記接続部材保持部を形成している部材は、前記配線保護層上に設けられていることを特徴とする請求項13に記載のインクジェットヘッド。
【請求項15】
前記接続部材保持部を形成している部材の厚みは、前記配線保護層の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項13又は14に記載のインクジェットヘッド。
【請求項16】
前記接続部材保持部を形成している部材は、前記貫通孔の周囲を取り囲むように設けられていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関し、詳しくは、アクチュエータを有する基板と該アクチュエータに電力供給するための基板とが積層されるものにおいて、両基板間の電気的接続の信頼性を向上させたインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の微細なノズルからインクを吐出して各種の被記録材に記録を行うインクジェットヘッドは、より高精度、高精細な記録を可能とするために、ノズルのより一層の高密度配置が求められている。
【0003】
そこで、従来、ノズルの上方に圧力室を配置させることによって、ノズル配列方向の広がりを抑え、ノズルの高密度配置を可能としたインクジェットヘッドが提案されている(特許文献1、2)。このインクジェットヘッドは、圧力室の上壁を振動板とし、この振動板の上面にPZT等の圧電素子によって形成されるアクチュエータをそれぞれ積層することによってインクジェットヘッドの本体部分をなすヘッド基板を構成している。
【0004】
このヘッド基板に対しては、各アクチュエータに電力供給するための配線も高密度に形成する必要がある。このため、ヘッド基板とは別にアクチュエータに電力供給するための配線を備えた配線基板を形成し、この配線基板をアクチュエータの上方に積層するようにしている。このとき、ヘッド基板と配線基板との間を、アクチュエータを取り囲むように形成された樹脂材料からなる隔壁部材によって一定間隔に保ち、配線基板の各配線と各アクチュエータとの間の電気的接続を、アクチュエータ表面に設けられたバンプを配線と接触させることによって行うようにしたり(特許文献1)、アクチュエータ表面と配線基板の配線との間を接続する電気配線を、アクチュエータ表面から立ち上がるメッキ柱によって形成したりしている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−123515号公報
【特許文献2】特開2006−264322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようにヘッド基板と配線基板とを積層することによって形成されたインクジェットヘッドは、ヘッド基板側のアクチュエータと配線基板側の配線との間の電気的接続を行うため、アクチュエータ表面にバンプやメッキ柱からなる接続部材を突設し、その先端部を配線基板の配線と接触させるようにしている。
【0007】
これら接続部材と配線との間の固着状態は、専ら両者の金属原子同士が引きつけ合う力に依存している。このため、長期使用によって例えば樹脂材料からなる隔壁部材がインクと接触することによって膨潤した場合、ヘッド基板と配線基板に互いに離れる方向に力が加わり、接続部材と配線との界面に徐々に剥離力が作用し、次第に接続部材と配線とが引きつけ合う力に勝って電気的接続状態が解除されてしまうおそれがある。
【0008】
また、インクジェットヘッドには、使用時に走査移動や回転、昇降移動等の移動やアクチュエータの駆動による振動等が常に作用する。このため、ヘッド基板と配線基板との間の隔壁部材としてインク等と接触しても膨潤しにくい材料を使用したとしても、接続部材と配線とが引きつけ合う力だけで固着される構造では、使用時の振動等の作用によって、やはり接続部材と配線との界面に徐々に剥離力が作用し、長期使用によって電気的接続状態が解除され易くなり、長期的な電気的接続の信頼性を図る上では不十分であった。従って、このようなインクジェットヘッドでは、ヘッド基板と配線基板との間の長期に亘る電気的接続の信頼性を向上させることが重要な課題となっている。
【0009】
そこで、本発明は、アクチュエータを備えた基板と、このアクチュエータに電力供給するための基板とを積層することによって形成されるインクジェットヘッドにおいて、両基板間の長期に亘る電気的接続の信頼性を向上させることができるようにすることを課題とする。
【0010】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
1.
インクを吐出させるノズルと、前記ノズルに対応して配設され、該ノズルから吐出させるためのインクを収容する圧力室と、前記圧力室に対応して配置され、該圧力室内のインクを前記ノズルから吐出させるための力を付与するアクチュエータと、前記アクチュエータに電力を印加するための電極に設けられた接続部材とを有する第1の基板と、
前記アクチュエータの前記接続部材と電気的に接続して前記電極に電力を供給するための配線を有する第2の基板とを有し、
前記第1の基板と前記第2の基板とが積層されることによって、互いに対向配置される前記第1の基板の前記接続部材と前記第2の基板の前記配線とが電気的に接続されるインクジェットヘッドであって、
前記第2の基板における前記第1の基板に対向する面で、且つ、前記接続部材と前記配線とが電気的に接続される部位に、前記接続部材の少なくとも先端側の周囲を取り囲む貫通孔を有する接続部材保持部が形成され、
前記接続部材が、前記接続部材保持部の前記貫通孔を通って前記配線に直接的又は間接的に電気的接続されていると共に、前記貫通孔内に、前記接続部材を保持するための固定材料が充填されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
2.
前記固定材料は、導電性材料であることを特徴とする前記1記載のインクジェットヘッド。
3.
前記接続部材はバンプであり、前記固定材料はバンプではないことを特徴とする前記2に記載のインクジェットヘッド。
4.
前記接続部材はバンプであり、前記第2の基板の前記配線にはバンプが設けられておらず、
前記接続部材は、前記配線に直接的又は前記固定材料を介して間接的に電気的接続されていることを特徴とする前記2又は3に記載のインクジェットヘッド。
5.
前記接続部材は、前記貫通孔を通って前記配線に接触することによって該配線と直接的に電気的接続されており、
前記固定材料は、非導電性材料であることを特徴とする前記1記載のインクジェットヘッド。
6.
前記接続部材はバンプであり、前記第2の基板の前記配線にはバンプが設けられていないことを特徴とする前記5に記載のインクジェットヘッド。
7.
前記固定材料は、前記アクチュエータに対して非接触であることを特徴とする前記3〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
8.
1つの前記貫通孔
内に複数の前記接続部材が収容されていることを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
9.
前記接続部材は、前記アクチュエータの表面に設けられた第1の接続部材と、前記第1の基板の表面に設けられた第2の接続部材とを有し、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に、前記第1の基板と前記第2の基板とにそれぞれ接し、前記第1の基板と前記第2の基板との間隔を一定に維持すると共に、前記第1の基板に接する面から前記アクチュエータを収容するための凹部が形成された第3の基板を有し、
前記接続部材保持部は、前記第3の基板の前記凹部における前記第1の接続部材に対応する該凹部の底部に形成され、前記第1の接続部材を収容するための貫通孔を有する第1の接続部材保持部と、前記第3の基板における前記第2の接続部材に対応する位置に形成され、該第2の接続部材を収容するための貫通孔を有する第2の接続部材保持部とを有することを特徴とする前記1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
10.
前記接続部材保持部は、ガラスプレートによって形成されていることを特徴とする前記1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
11.
前記接続部材保持部は、表面が絶縁処理された金属プレートによって形成されていることを特徴とする前記1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
12.
前記接続部材保持部は、セラミックスプレートによって形成されていることを特徴とする前記1〜9のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
13.
前記第2の基板は、前記配線の一部を絶縁保護する配線保護層を有し、
前記接続部材保持部を形成している部材は、前記配線保護層とは別に設けられていることを特徴とする前記1〜12のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
14.
前記接続部材保持部を形成している部材は、前記配線保護層上に設けられていることを特徴とする前記13に記載のインクジェットヘッド。
15.
前記接続部材保持部を形成している部材の厚みは、前記配線保護層の厚みよりも厚いことを特徴とする前記13又は14に記載のインクジェットヘッド。
16.
前記接続部材保持部を形成している部材は、前記貫通孔の周囲を取り囲むように設けられていることを特徴とする前記1〜15のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アクチュエータを備えた基板とこのアクチュエータに電力供給するための基板とを積層することによって形成されるインクジェットヘッドにおいて、両基板間の長期に亘る電気的接続の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図5】バンプと配線との間に位置ずれが生じた場合を説明する図
【
図7】個別電極のバンプの高さと共通電極のバンプ高さが同じ場合を説明する図
【
図10】他の接続部材保持部の実施形態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0022】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドの断面図、
図2はアクチュエータ部分の拡大断面図、
図3は共通電極部分の拡大断面図、
図4は流路基板の平面図である。
【0023】
インクジェットヘッド1は、ヘッド基板10と配線基板20とが、両者間に流路基板30を挟んで積層一体化されている。ここで、ヘッド基板10が本発明における第1の基板、配線基板20が本発明における第2の基板、流路基板30が本発明における第3の基板である。配線基板20の上面には箱型のインクマニホールド40が設けられ、配線基板20の上面との間で、内部にインクが貯留される共通インク室41を形成している。
【0024】
ヘッド基板10は、図中下層側から、Si(シリコン)基板によって形成されたノズルプレート11、ガラス基板によって形成された中間プレート12、Si(シリコン)基板によって形成された圧力室プレート13、SiO
2薄膜によって形成された振動板14と有している。ノズルプレート11には下面に向けてノズル111が開口している。
【0025】
圧力室プレート13には、ノズル111から吐出させるためのインクを収容する複数の圧力室131が形成されており、ノズル111側と相反する上壁が振動板14によって構成され、その反対の下壁が中間プレート12によって構成されている。中間プレート12には、圧力室131の内部とノズル111とを連通する連通路121が貫通形成されている。
【0026】
ヘッド基板10の上面における各圧力室131に対応する位置に、それぞれアクチュエータ15が積層されている。アクチュエータ15は、薄膜PZTからなるアクチュエータ本体151が、その上面の個別電極152と下面の共通電極153とで挟まれている。共通電極153は振動板14の表面に全てのアクチュエータ15に共通となるように積層されており、この共通電極153上に、圧力室131に1対1に対応するように個別にアクチュエータ本体151とその上面の個別電極152とが積層されている。
【0027】
個別電極152上には、配線基板20に設けられた後述する配線と電気的に接続するための接続部材としてのバンプ16が、配線基板20に向けて所定の高さで突出するように形成されている(
図2)。また、共通電極153上にも、同じく配線基板20に設けられた後述する配線と電気的に接続するための接続部材としてのバンプ17が、配線基板20に向けて所定の高さで突出するように形成されている(
図3)。共通電極153上のバンプ17は、ヘッド基板10上の両端部に複数配置されている。ここで、個別電極152上に設けられたバンプ16が、本発明における第1の接続部材であり、共通電極153上に設けられたバンプ17が、本発明における第2の接続部材である。
【0028】
バンプ16が形成される個別電極152の上面は、アクチュエータ15がヘッド基板10上に厚みを有していることから、バンプ17が形成される共通電極153の上面よりも高い位置にある。従って、バンプ16とバンプ17の共通電極153表面からの先端の高さ位置がほぼ同一となるように、バンプ17自体の高さは、アクチュエータ15の高さ分だけバンプ16自体の高さよりも高く形成されている。
【0029】
配線基板20は、Si基板からなる基板本体21の上面に、SiO
2からなる配線保護層22を介して、個別電極152用の上部配線23aと共通電極153用の上部配線24aがそれぞれ形成されている。これら上部配線23a、24aは配線基板20の端部で上面に露出しており、
図1に示すように、配線基板20の端部において、駆動IC51が実装されたFPC(フレキシブルプリント回路基板)50がACF(異方性導電フィルム)によって電気的に接続されている。
【0030】
個別電極152用の上部配線23aは、基板本体21に形成された貫通孔211を通って基板本体21の下面に臨んでおり、該基板本体21の下面に形成された下部配線23bと導通している。下部配線23bは、SiO
2からなる配線保護層25によって絶縁保護されている。配線保護層25は、この下部配線23bの端部で切り欠かれており、その切り欠かれた部位から下部配線23bの一部がヘッド基板10側に向けて露出している。そして、配線保護層25から露出した下部配線23bに、アクチュエータ15上のバンプ16の先端が直接接触することによって電気的に接続されている。従って、これら配線基板20における上部配線23aと下部配線23bとで、駆動IC51からの電力(駆動信号)を個別電極152に印加するための配線を構成している。
【0031】
また、共通電極153用の上部配線24aは、基板本体21に形成された貫通孔212を通って基板本体21の下面に臨んでおり、該基板本体21の下面に形成された下部配線24bと導通している。下部配線24bは、SiO
2からなる配線保護層25によって絶縁保護されている。配線保護層25は、この下部配線24bの端部で切り欠かれており、その切り欠かれた部位から下部配線24bの一部がヘッド基板10側に向けて露出している。そして、配線保護層25から露出した下部配線24bに、共通電極153上のバンプ17の先端が直接接触することによって電気的に接続されている。従って、これら上部配線24aと下部配線24bとで、駆動IC51からの電力(駆動信号)を共通電極153に印加するための配線を構成している。
【0032】
各バンプ16、17は、例えば金属細線(ワイヤ)を用いて放電加熱により金属ボールを形成し、超音波アシストにより金属ボールを電極表面に接合させ、その後、金属細線を引きちぎることで形成されるスタッドバンプとすることができる。このようなスタッドバンプは、一般に、金属ボールから金属細線が引きちぎられることによって、根元に位置する金属ボール由来の台地状又はこぶ状の肩部を有し、側面が階段状の円錐形状をなしていると共に、頂部がこの肩部から突出する金属細線の一部によって突起形状をなしており、金属ボールの大きさを可変することによって、様々な高さのバンプを容易に形成することができる。
【0033】
ヘッド基板10と配線基板20とは各々別々に作製された後、ヘッド基板10の上面(アクチュエータ15が形成されている面)と配線基板20の下面(下部配線23b、24bが露出している面)とを対面させ、両者の間に流路基板30を挟んで積層一体化される。
【0034】
本実施形態における流路基板30は、ヘッド基板10と配線基板20とにそれぞれ接するように設けられている。このため、流路基板30は、これらヘッド基板10と配線基板20との間隔を一定に維持する間隔維持基板としても機能している。
【0035】
流路基板30としては、感光性接着樹脂、ガラスプレートの他、ヘッド基板10及び配線基板20に面する表面と後述する貫通孔内に臨む表面とがそれぞれ絶縁処理された金属プレート、セラミックスプレート等を用いることができる。中でもガラスプレート、金属プレート、セラミックスプレートが好ましい。
【0036】
ガラスプレートは、ヘッド基板10や配線基板20に使用されるSiと線膨張係数が近いため、インクジェットヘッド1の反りの発生を抑制することができる。しかも、パターニングによってブラスト加工やウェットエッチング等の加工も容易である。
【0037】
金属プレートは、材料選択を幅広くすることができ、ウェットエッチング等によって低コストに加工することができる。例えば42アロイ(ニッケルを42%含む鉄合金)は、シリコンやガラスと線膨張係数がほぼ同じであるため、好ましく使用することができる。表面の絶縁処理は、使用する金属材料に応じて電着塗装等の適宜公知の方法によって施すことができる。
【0038】
セラミックスプレートは、ブラスト加工によって容易に加工することができる。しかも、ガラスプレート、金属プレート、セラミックスプレートによれば、インク等と接触しても膨潤を起こすことがない。本実施形態ではガラスプレートを用いている。
【0039】
ヘッド基板10の上面には、各圧力室131の近傍に1対1に対応して該圧力室131へのインクの流入口132が開口している。また、配線基板20には、共通インク室41からのインクを各流入口132にそれぞれ個別に供給するための流路26が貫通形成されている。そして、流路基板30には、これら流入口132と流路26との間を連通する連通路31が、ブラスト加工により貫通形成されている。ブラスト加工は流路基板30の両面からそれぞれ行い、流路基板30の厚み方向中央で貫通させている。これにより、共通インク室41内のインクは、流路26、連通路31及び流入口132を通って圧力室131に供給される。
【0040】
流路基板30には、ヘッド基板10上の各アクチュエータ15に1対1に対応する位置に、該アクチュエータ15をそれぞれ個別に収容するための凹部32が、ブラスト加工によって、ヘッド基板10に接する面からアクチュエータ15の厚さ以上の深さで予め凹設されている。
【0041】
また、この凹部32の底部321には、アクチュエータ15のバンプ16に1対1に対応する位置に貫通孔33が形成されている。貫通孔33は、流路基板30の上面(配線基板20と接する面)からブラスト加工することによって予め形成されている。バンプ16の先端が電気的に接続されている配線基板20の下部配線23bは、この貫通孔33内に臨んでおり、バンプ16は、その先端側が貫通孔33を通って下部配線23bと接触して電気的に接続されている。
【0042】
この貫通孔33は、下部配線23bと電気的に接続されたバンプ16の先端側の周囲を取り囲んでおり、その内部には、下部配線23bと電気的に接続しているバンプ16を固定保持するための固定材料34が充填されている。これにより、貫通孔33内に収容されているバンプ16の先端側は、その周囲から固定材料34によって貫通孔33内に保持され、下部配線23bとの直接的な電気的接続状態が固定されている。従って、この貫通孔33の周辺の流路基板30は、本発明における第1の接続部材保持部を構成している。
【0043】
なお、
図2中の上方の図は、流路基板30に形成された連通路31、凹部32及び貫通孔33と、アクチュエータ15(個別電極152)及びバンプ16との配置関係を示す平面図を表している。また、
図4は、流路基板30に形成された連通路31、凹部32及び貫通孔33と、アクチュエータ15(個別電極152)及びバンプ16と、バンプ17と貫通孔35との配置関係を示す平面図を表している。
【0044】
一方、流路基板30における共通電極153上のバンプ17に対応する位置にも、貫通孔35が形成されている。貫通孔35は、流路基板30の両面からそれぞれブラスト加工され、流路基板30の厚み方向中央で貫通している。バンプ17の先端が電気的に接続されている配線基板20の下部配線24bは、この貫通孔35内に臨んでおり、バンプ17は、その全体が貫通孔35を通って先端で下部配線24bと接触して電気的に接続されている。
【0045】
この貫通孔35は、下部配線24bと電気的に接続されたバンプ17の周囲を取り囲んでおり、その内部には、下部配線24bと電気的に接続しているバンプ17を固定保持するための固定材料36が充填されている。これにより、貫通孔35内に収容されているバンプ17は、その周囲から固定材料36によって貫通孔35内に保持され、下部配線24bとの直接的な電気的接続状態が固定されている。従って、この貫通孔35の周辺の流路基板30は、本発明における第2の接続部材保持部を構成している。
【0046】
このように各バンプ16、17は、それぞれ固定材料34、36によって貫通孔33、35内に固定保持され、それぞれ下部配線23b、24bとの電気的接続状態が固定されているので、インクジェットヘッド1に振動等が作用しても、各バンプ16、17と下部配線23b、24bとの間の電気的接続状態は容易には解除されることはなく、長期に亘って電気的接続の信頼性を向上させることができる。また、たとえ流路基板30として感光性接着樹脂等のようにインク等と接触した際に膨潤し易い材料を用いたとしても、膨潤に起因する剥離力に対して、固定部材34、36によってバンプ16、17をその周囲から強固に保持して固定することができ、長期に亘って電気的接続の信頼性を確保することができる。
【0047】
固定材料34、36としては、貫通孔33,35内に容易に充填でき、バンプ16、17を収容した後に硬化することで、バンプ16、17を貫通孔33、35内に固定保持することができるものであれば特に問わない。ここでは各バンプ16、17は下部配線23b、24bと直接接触することによって電気的に接続されているため、固定材料34、36には必ずしも導電性は要求されない。従って、例えばエポキシ系接着剤等の非導電性材料を用いることができる。
【0048】
もちろん、各バンプ16、17と下部配線23b、24bとが直接的に電気的接続される場合であっても導電性材料を用いることに何ら制限はない。導電性材料としては、クリームはんだや導電性接着剤の他、エポキシなどの接着剤に金属粒子を分散させたもの(異方性導電性接着剤:ACP)等を用いることができる。クリームはんだは、すず、銅、銀等のはんだ粒子とフラックスを混ぜたものであり、貫通孔33、35内にも容易に充填することができる。充填直後は柔軟な状態であるため、その後に流路基板30を挟んでヘッド基板10と配線基板20とを積層した際、バンプ16、17を貫通孔33、35内に容易に挿入させることができる。その後、加熱を行うことによって硬化するので、バンプ16、17を貫通孔33、35内に強固に固定保持することができ、本発明において好ましく用いることができる。
【0049】
また、固定材料34、36としてこのような導電性材料を用いることで次のような効果もある。
【0050】
図5はバンプ16、下部配線23b及び貫通孔33との配置関係を示している。ヘッド基板10と配線基板20とが積層された際、(a)のようにバンプ16と下部配線23bと貫通孔33内で重なり合うように正確に位置決めされている限り、バンプ16と下部配線23bとは直接的に電気的接続されるため問題はないが、バンプ16又は下部配線23bに位置ずれが生じている場合、(b)のようにバンプ16と下部配線23bとが貫通孔33内で重なり合わないおそれがある。しかし、貫通孔33内に固定材料34として導電性材料を充填すれば、この固定材料34を介してバンプ16と下部配線23bとを間接的に電気的接続することができるので、断線の心配がない。貫通孔35におけるバンプ17と下部配線24bとの間でも同様のことがいえる。
【0051】
なお、これら固定材料34、36は、例えばディスペンサーを用いて各貫通孔33、35内に注入することによって充填することができる。
【0052】
ところで、配線基板20の下部配線23b、24bは同一面上に配置されているため、ヘッド基板10側のバンプ16、17の先端の高さ位置は全て同一に揃えられていることが望ましい。しかし、製造時にばらつきがあるとバンプ16、17の先端の高さ位置が同一にならない場合がある。例えば
図6は、アクチュエータ15上のバンプ16の高さが足りないために配線基板20の下部配線23bと直接接触していない状態を示している。この場合でも、固定材料34として導電性材料を用いることで、バンプ16と下部配線23bとを、この固定材料34を介して間接的に電気的接続することができる。これは貫通孔35におけるバンプ17と下部配線24bとの間でも同様のことがいえる。
【0053】
また、固定材料34、36に導電性材料を用いることで、バンプ16、17自体の高さをそれぞれ同じに形成することもできる。
図7に示すように、バンプ16、17自体の高さをそれぞれ同じように形成すると、バンプ16の先端の共通電極153の上面からの高さ位置は、アクチュエータ15の厚み分だけバンプ17の先端よりも配線基板20側に突出することになる。このため、バンプ16は下部配線23bと直接接触することができても、バンプ17は下部配線24bと直接接触することができなくなるおそれがある。しかし、バンプ17を収容している貫通孔35内に充填する固定材料36として導電性材料を用いることで、バンプ17と下部配線24bとを、この固定材料36を介して間接的に電気的接続することができる。バンプ17の先端の高さを、アクチュエータ15の厚み分を考慮して、バンプ16の先端の高さに揃えるように形成する必要がなくなるので、製造工程が簡略化できる。
【0054】
このようにバンプ16、17を固定保持する機能を有する流路基板30は、連通路31、凹部32及び貫通孔33、35がそれぞれ形成された後、配線基板20側に接合される。その後、各貫通孔33、35内に固定材料34、36が充填され、この流路基板30付きの配線基板20がヘッド基板10に対して積層される。このとき各バンプ16、17は、硬化前の固定材料34、36に突き刺さり、貫通孔33、35を通って下部配線23b、24bと接触して直接的に電気的接続される。その後、固定材料34、36は加熱工程を経て硬化され、バンプ16、17を貫通孔33、35内に固定保持する。流路基板30にガラスプレートを使用することで、Siを用いて作製されている配線基板20と、接着剤を使用せずに陽極接合することが可能である。
【0055】
以上の実施形態で示した共通電極153上のバンプ17は、
図4に示したようにヘッド基板10の両端部にそれぞれ3個ずつ設けられているが、本発明においてバンプ17の数は特に問わない。また、
図8に示すように、複数個のバンプ17をまとめて一つの大きな貫通孔35に収容するようにしてもよい。しかし、固定材料36の使用量を低減する観点からは、
図4に示したように、バンプ17毎に対応する複数の小さな貫通孔35を設けることが好ましい。
【0056】
また、流路基板30は、以上説明した実施形態のように1枚の基板によって構成されるものに限らず、複数の基板の積層物によって構成されるものであってもよい。複数の基板は同一材料で構成してもよいし、それぞれ異なる材料によって構成してもよい。
【0057】
図9は、流路基板30をそれぞれ材料の異なる2枚の基板301、302によって構成した例を示している。基板301は例えばガラスプレートによって形成し、基板302は感光性接着樹脂によって形成することができる。この場合、基板301にはバンプ16を収容するための貫通孔33と連通路31の一部となる貫通孔とを形成しておけばよい。一方、基板302には、連通路31の一部となる貫通孔とアクチュエータ15を収容するための凹部32となる貫通孔とを形成しておけばよい。いずれも貫通孔として形成することができるので、加工が容易である。また、図示しないが、バンプ17の部位でも、基板301、302の双方にそれぞれ貫通孔を形成することにより、バンプ17を収容するための貫通孔35を形成すればよい。
【0058】
本発明における接続部材保持部は、流路基板30に形成するものに限らず、各バンプ16にそれぞれ対応する位置のみに個別に設けるようにしてもよい。
【0059】
図10は、バンプ16と下部配線23bとの電気的接続部位のみに個別に接続部材保持部60を設けた例を示している。この接続部材保持部60は、上述した流路基板30と同様の基板材料によって形成することができる。接続部材保持部60の中央部には、バンプ16を収容する貫通孔33が形成され、その内部には固定材料34が充填されている。連通路31は、該連通路31の部位に対応するように設けられた柱状部70によって形成されている。この柱状部70は、例えば感光性接着樹脂によって形成することができる。
【0060】
この構成によれば、アクチュエータ15の周囲が取り囲まれないため、アクチュエータ15の放熱対策に有効である。また、バンプ17の部位にも同様にして接続部材保持部60を設けることができる。
【0061】
なお、本発明においてバンプ16、17と電気的に接続される下部配線23b、24bにも、バンプ16、17との更なる電気的接続の確実性を期すためにバンプを形成しておいてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1:インクジェットヘッド
10:ヘッド基板(第1の基板)
11:ノズルプレート
111:ノズル
12:中間プレート
121:連通路
13:圧力室プレート
131:圧力室
132:流入口
14:振動板
15:アクチュエータ
151:アクチュエータ本体
152:個別電極
153:共通電極
16:バンプ(第1の接続部材)
17:バンプ(第2の接続部材)
20:配線基板(第2の基板)
21:基板本体
211:貫通孔
212:貫通孔
22:配線保護層
23a:上部配線
23b:下部配線
24a:上部配線
24b:下部配線
25:配線保護層
26:流路
30:流路基板(第3の基板)
31:連通路
32:凹部
321:底部
33:貫通孔
34:固定材料
35:貫通孔
36:固定材料
301、302:基板
40:インクマニホールド
41:共通インク室
50:FPC
51:駆動IC
60:接続部材保持部
70:柱状部