特許第6044269号(P6044269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044269自励発振型D級アンプおよび自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044269
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】自励発振型D級アンプおよび自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/217 20060101AFI20161206BHJP
   H03L 7/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H03F3/217
   H03L7/00
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-239612(P2012-239612)
(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公開番号】特開2013-118628(P2013-118628A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2015年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-242040(P2011-242040)
(32)【優先日】2011年11月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090228
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】野呂 正夫
【審査官】 及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0188222(US,A1)
【文献】 米国特許第06518849(US,B1)
【文献】 特開2011−199485(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0298509(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00−3/72
H03L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自励発振型D級アンプの自励発振ループに配置されて、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段と、
前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号を取り出し、所定の基準周波数を有する基準周波数信号と前記取り出した信号とを周波数比較もしくは周期比較または位相比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行う周波数制御ループと
を具備する自励発振型D級アンプ。
【請求項2】
前記周波数制御ループが、前記取り出した信号の周波数および位相を前記基準周波数信号に同期させる周波数位相同期ループである請求項1記載の自励発振型D級アンプ。
【請求項3】
前記周波数制御ループが、位相同期制御を伴わない周波数制御ループである請求項1記載の自励発振型D級アンプ。
【請求項4】
自励発振型D級アンプの自励発振ループに配置されて、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段と、
前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号からその周波数または周期に相当する情報を取り出し、所定の基準周波数または基準周期に相当する情報と前記取り出した情報とを比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行う周波数制御ループと
を具備する自励発振型D級アンプ。
【請求項5】
前記自励発振型D級アンプが前記自励発振ループの帰還信号の位相回転による正帰還により自励発振するものであり、
前記ループ遅延量可変手段が前記自励発振ループに配置された可変遅延要素であり、
前記周波数制御ループが前記比較結果に応じて前記可変遅延要素の遅延量を制御して、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行うものである
請求項1から4のいずれか1つに記載の自励発振型D級アンプ。
【請求項6】
前記自励発振型D級アンプがアナログ入力信号および前記自励発振ループの帰還信号を積分する積分回路と、該積分回路の出力信号を入力して2値信号を出力するヒステリシスコンパレータとを具えて自励発振するものであり、
前記ループ遅延量可変手段が前記ヒステリシスコンパレータであり、
前記周波数制御ループが前記比較結果に応じて前記ヒステリシスコンパレータの基準電圧を制御して、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行うものである
請求項1から4のいずれか1つに記載の自励発振型D級アンプ。
【請求項7】
自励発振型D級アンプの自励発振周波数を制御する方法であって、
前記自励発振型D級アンプの自励発振ループに、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段を配置し、
前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号を取り出し、所定の基準周波数を有する基準周波数信号と前記取り出した信号とを周波数比較もしくは周期比較または位相比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行う自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法。
【請求項8】
自励発振型D級アンプの自励発振周波数を制御する方法であって、
前記自励発振型D級アンプの自励発振ループに、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段を配置し、
前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号からその周波数または周期に相当する情報を取り出し、所定の基準周波数または基準周期に相当する情報と前記取り出した情報とを比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行う自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自励発振型D級アンプおよび自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法に関し、自励発振周波数を安定化できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
D級アンプには他励発振型と自励発振型がある。自励発振型は他励発振型に比べて可聴周波数での帰還量を大きくできるためオーディオ性能面で有利である。自励発振型D級アンプは自励発振ループを具えて自励発振する。自励発振ループに自励発振を生じさせる方式として、自励発振ループの帰還信号の位相回転により正帰還を生じさせて自励発振するもの、アナログ入力信号と自励発振ループの帰還信号を積分する積分回路と該積分回路の出力信号を入力して2値信号を出力するヒステリシスコンパレータとを具えて自励発振するものなどがある。前者の自励発振方式を採用した従来技術として例えば下記特許文献1〜3に記載されたものがあり、後者の自励発振方式を採用した従来技術として例えば下記特許文献4に記載されたものがある。
【0003】
自励発振型は使用環境(温度、電源電圧変動等)、経年変化等で発振周波数が変動するため、複数台を近くで同時に動作させるとビート音(うなり)が出やすい。そこで、特許文献3,4では、自励発振型D級アンプの発振周波数の安定化を図る手法が提案されている。すなわち特許文献3に記載の技術では自励発振型D級アンプの回路の途中に外部発振器の信号を注入して、自励発振型D級アンプの発振周波数を強制的にこの外部発振器の周波数に同期(注入同期)させて、該発振周波数を安定化させるようにしている。特許文献4に記載の技術では自励発振型D級アンプ内に配置されているヒステリシスコンパレータの基準電圧を、入力信号電圧値と電力増幅器の駆動電圧値との演算により求めた電圧に可変制御して発振周波数を安定化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−112260号公報(第3図)
【特許文献2】特表2005−523631号公報
【特許文献3】特開2005−269580号公報(図1
【特許文献4】特許第3366677号公報(図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は前記従来技術とは異なる手法で自励発振周波数を安定化できるようにした自励発振型D級アンプおよび自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の自励発振型D級アンプは、自励発振型D級アンプの自励発振ループに配置されて、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段と、前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号を取り出し、所定の基準周波数を有する基準周波数信号と前記取り出した信号とを周波数比較もしくは周期比較または位相比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる(両周波数を完全に一致させることに限らない)制御を行う周波数制御ループとを具備するものである。これによれば、自励発振型D級アンプの自励発振ループを可変発振器とする周波数制御ループを構成することにより、自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を基準周波数信号の周波数に追随させて、自励発振型D級アンプの発振周波数を安定化することができる。
【0007】
この発明の自励発振型D級アンプにおいて、前記周波数制御ループは、例えば、前記取り出した信号の周波数および位相を前記基準周波数信号に同期させる周波数位相同期ループとして構成することができる。これによれば、自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号を基準周波数信号に周波数位相同期させることができる。周波数位相同期ループは、例えば、前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号と前記基準周波数信号とを位相比較し、その比較結果に応じたデューティ比のパルス信号を出力する位相比較器と、前記位相比較器から出力されるパルス信号を平滑して、該平滑した電圧に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御して、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号を前記基準周波数信号に周波数位相同期させる制御を行うループフィルタとを具備して構成することができる。
【0008】
この発明の自励発振型D級アンプにおいて、前記周波数制御ループは、例えば、位相同期制御を伴わない周波数制御ループとして構成することもできる。
【0009】
この発明の自励発振型D級アンプは、自励発振型D級アンプの自励発振ループに配置されて、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段と、前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号からその周波数または周期に相当する情報を取り出し、所定の基準周波数または基準周期に相当する情報と前記取り出した情報とを比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行う周波数制御ループとを具備するものである。これによれば、自励発振型D級アンプの自励発振ループを可変発振器とする周波数制御ループを構成することにより、自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を基準周波数に追随させて、自励発振型D級アンプの発振周波数を安定化することができる。ここで基準周波数または基準周期に相当する情報は、基準周波数信号から計測して得るほか、基準周波数信号を用いずにはじめから数値情報として与えることができる。
【0010】
この発明の自励発振型D級アンプは、例えば、前記自励発振型D級アンプが前記自励発振ループの帰還信号の位相回転による正帰還により自励発振するものであり、前記ループ遅延量可変手段が前記自励発振ループに配置された可変遅延要素であり、前記周波数制御ループが前記比較結果に応じて前記可変遅延要素の遅延量を制御して、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行うものとして構成することができる。この場合前記可変遅延要素は、例えば、前記自励発振ループのPWM信号が流れる経路中に配置された論理インバータ回路を具えて構成し、前記前記周波数制御ループは前記論理インバータ回路の動作電源電圧を可変制御して該論理インバータ回路の遅延量を制御するものとして構成することができる。また前記可変遅延要素は、前記自励発振ループに配置された可変時定数回路を具えて構成し、前記周波数制御ループは前記可変時定数回路の時定数を可変制御して該可変時定数回路の遅延量を制御するものとして構成することもできる。
【0011】
またこの発明の自励発振型D級アンプは、例えば、前記自励発振型D級アンプがアナログ入力信号および前記自励発振ループの帰還信号を積分する積分回路と、該積分回路の出力信号を入力して2値信号を出力するヒステリシスコンパレータとを具えて自励発振するものであり、前記ループ遅延量可変手段が前記ヒステリシスコンパレータであり、前記周波数制御ループが前記比較結果に応じて前記ヒステリシスコンパレータの基準電圧を制御して、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行うものとして構成することもできる。
【0012】
この発明の自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法は、自励発振型D級アンプの自励発振ループに、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段を配置し、前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号を取り出し、所定の基準周波数を有する基準周波数信号と前記取り出した信号とを周波数比較もしくは周期比較または位相比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行うものである。
【0013】
この発明の自励発振型D級アンプの自励発振周波数制御方法は、自励発振型D級アンプの自励発振ループに、該自励発振ループの遅延量を変化させるループ遅延量可変手段を配置し、前記自励発振型D級アンプの自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号からその周波数または周期に相当する情報を取り出し、所定の基準周波数または基準周期に相当する情報と前記取り出した情報とを比較し、その比較結果に応じて前記ループ遅延量可変手段を制御することにより、前記自励発振信号または該自励発振信号に対応した信号の周波数を前記基準周波数に追随させる制御を行うものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】自励発振ループの帰還信号の位相回転により正帰還を生じさせて自励発振する方式の自励発振型D級アンプにこの発明を適用した、この発明の自励発振型D級アンプの実施の形態1を示すブロック図である。
図2】実施の形態1(図1)の自励発振型D級アンプの帰還信号の取り出し位置を変更した変形例を示すブロック図である。
図3】実施の形態1の変形例(図2)の具体例1を示す回路図である。
図4図3の可変遅延要素14を構成する個々のCMOSインバータ32の回路図である。
図5図4のCMOSインバータ32の電源電圧対遅延時間特性を示す線図である。
図6図3の可変遅延要素14の回路図である。
図7図3の位相比較器26の動作波形図で、基準周波数信号に対して自励発振信号の位相が遅れているときのものである。
図8図3の位相比較器26の動作波形図で、基準周波数信号に対して自励発振信号の位相が進んでいるときのものである。
図9】実施の形態1の変形例の具体例1(図3)の回路を試作して行った周波数位相同期実験で観測された波形図で、無信号入力時の可変遅延要素14の出力位置での自励発振信号と、基準周波数信号を示す。
図10】同実験により観測された別の波形図で、1kHzの信号を入力したときの可変遅延要素14の出力位置での自励発振信号と、基準周波数信号を示す。
図11】実施の形態1の変形例(図2)の具体例2を示す回路図である。
図12】実施の形態1の変形例(図2)の具体例3示す回路図である。
図13】積分回路とヒステリシスコンパレータとを具えて自励発振する方式の自励発振型D級アンプにこの発明を適用した、この発明の自励発振型D級アンプの実施の形態2を示すブロック図である。
図14図3の回路において、周波数位相同期ループ33で構成した周波数制御ループに代えて、位相同期制御を伴わない周波数制御ループ73を配置したこの発明の自励発振型D級アンプの実施の形態3を示すブロック図である。
図15図14のカウント値比較器79の動作波形図で、基準周波数信号の周波数に対して自励発振信号の周波数が低いときのものである。
図16図14のカウント値比較器79の動作波形図で、基準周波数信号の周波数に対して自励発振信号の周波数が高いときのものである。
図17図3の回路の変形例を示す回路図である。
図18】この発明の自励発振型D級アンプの応用例1を示すブロック図である。
図19図18の分周回路82から出力されるクロック信号(基準周波数信号)A,B,C,Dを示す波形図である。
図20】この発明の自励発振型D級アンプの応用例2を示すブロック図である。
図21図20における受信周波数帯域に対する基準周波数信号fa、fbの切り換え内容の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《実施の形態1》
この発明の実施の形態1を図1に示す。これは自励発振ループの帰還信号の位相回転により正帰還を生じさせて自励発振する方式の自励発振型D級アンプにこの発明を適用したものである。入力コンパレータ20は、入力端子21から入力されるアナログオーディオ入力信号と帰還信号を入力し、両信号の信号レベルを比較して、両信号レベルの大小に応じて”1”、”0”の2値に変化する信号(アナログオーディオ入力信号をパルス幅変調したPWM信号となる)を出力する。入力コンパレータ20の出力信号は、ループ遅延量可変手段を構成する可変遅延要素14を経て出力部22に供給される。出力部22はスイッチング素子を具え、該スイッチング素子を前記2値信号でスイッチングして、該2値信号を電力増幅して出力する。出力部22から出力されるPWM信号はローパスフィルタ30でオーディオ信号が抽出されてスピーカ29に供給されて発音される。また出力部22の出力PWM信号はフィードバック回路24を経て入力コンパレータ20の帰還入力端に帰還入力される。入力コンパレータ20、可変遅延要素14、出力部22で構成される往路13aと、出力部22からフィードバック回路24を経て入力コンパレータ20に帰還する帰還路13bとで自励発振ループ13を構成する。自励発振ループ13は可聴周波数帯では、負帰還となっているが、可聴周波数帯よりも十分に高い周波数(例えば数100kHz)では、入力信号に対する帰還信号の位相回転が生じ、位相回転が180°となる周波数で、正帰還となって、自励発振する。可変遅延要素14は、入力される2値信号を遅延時間を可変に遅延して出力する。可変遅延要素14の遅延時間を変化すると、帰還信号の位相回転が180°となる周波数が変化するので、自励発振周波数が変化する。したがって、逆に、使用環境(温度、電源電圧変動等)、経年変化等が原因して、帰還信号の位相回転が180°となる周波数が自然に変動する場合には、この変動を打ち消すように可変遅延要素14の遅延時間を変化させることにより、自励発振周波数の変動を抑制することができる。
【0016】
位相比較器26は可変遅延要素14から出力される自励発振信号(PWM信号)と所定の基準周波数(数100kHz程度)のクロック信号(基準周波数信号)を入力し、両信号を位相比較して、その位相差(例えば立ち上がりタイミングの時間差)に応じたパルス幅(デューティ比)を有するパルス信号を出力する。ループフィルタ(ローパスフィルタ)28は位相比較器26から出力されるパルス信号を平均化して、該位相差に応じた直流信号に変換する。ループフィルタ28から出力される直流信号は可変遅延要素14に制御電圧として印加されて、可変遅延要素14の遅れ時間を制御する。すなわち基準周波数信号に対して自励発振信号の位相が遅れているときは可変遅延要素14の遅れ時間を短くし、基準周波数信号に対して自励発振信号の位相が進んでいるときは可変遅延要素14の遅れ時間を長くする。これにより自励発振信号は基準周波数信号に周波数および位相が同期する。すなわち位相比較器26、ループフィルタ28、自励発振ループ13は、自励発振ループ13をVCO(電圧制御発振器)とする周波数位相同期ループ(PLL回路)33を構成する。これにより自励発振ループ13の自励発振周波数は高精度に安定化される。
【0017】
なお位相比較器26に入力する自励発振信号は、可変遅延要素14から出力される自励発振信号に代えて、出力部22から出力される自励発振信号を用いることもできる。また位相比較器26にはPWM変調された自励発振信号をそのまま入力するのに代えて、該PWM変調された自励発振信号に同期した、デューティ比が一定のパルス信号を生成して入力することもできる。このようなデューティ比が一定のパルス信号は例えば、該PWM変調された自励発振信号を適宜分周(例えば2分周)することにより生成することができる。この場合には、基準周波数信号の周波数は自励発振の目標周波数を分周比で割った値に設定すれば、自励発振周波数を該目標周波数に制御することができる。またPWM変調された自励発振信号と、別途設けたVCOの出力信号を分周したパルス信号を位相比較して、両パルス信号が位相同期するように該VCOの発振周波数を制御するPLL回路を新たに設けることにより、該VCOの出力信号を分周したパルス信号を、該デューティ比が一定のパルス信号として生成して、PWM変調された自励発振信号に代えて用いることができる。これらの場合にはPWM変調による自励発振信号のデューティ比の変動にかかわらずデューティ比を50%にした、自励発振信号に対応した(例えば同期した)信号を位相比較器26に入力することができる。
【0018】
《実施の形態1の変形例》
この発明の実施の形態1(図1)の変形例を図2に示す。これは図1の実施の形態が出力部22から出力されるPWM信号をフィードバック回路24を介して入力コンパレータ20の帰還入力端に帰還したのに代えて、該PWM信号をローパスフィルタ30に通して可聴周波数域を抽出した信号をフィードバック回路24を介して入力コンパレータ20の帰還入力端に帰還するようにしたものである。図1と対応する部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。これによれば、ローパスフィルタ30が自励発振ループ13内に入っているので、ローパスフィルタ30の非線形特性に負帰還がかかり、歪率特性が改善される。なお図1図2では可変遅延要素14を自励発振ループ13の往路13aに配置したが、帰還路13bに配置することもできる(後述する図12の可変遅延要素およびフィードバック回路66参照)。
【0019】
《実施の形態1の変形例の具体例1》
実施の形態1の変形例(図2)の具体例1を図3に示す。これは可変遅延要素14を、複数のCMOSインバータ(論理インバータ回路)32を縦列接続して構成してなる2値信号の可変遅延回路で構成したものである。CMOSインバータ32は図4に示すようにpチャンネルMOS−FET34とnチャンネルMOS−FET36をゲートどうし、ドレインどうし互いにそれぞれ接続し、ソースに電源電圧VDD、VSSをそれぞれ印加し、入力端子38を介してゲートに信号を入力し、ドレインから出力端子40に入力信号の反転信号を出力する。CMOSインバータ32においては入力と出力との間に遅延時間が生じる。この遅延時間は図5に示すように、電源電圧VDD−VSSに依存し、電源電圧VDD−VSSが小さいほど遅延時間が大きい。そこでこの性質を利用して電源電圧VDD−VSSを可変制御することによりCMOSインバータ32の遅延時間を任意に制御することができる。CMOSインバータ32は1個あたり約3〜5nsの遅延時間が得られる。図3の可変遅延要素14はこのCMOSインバータ32を図6に示すように多段に縦列接続して、遅延時間の可変幅が広く得られるように構成したものである。したがってCMOSインバータ32の縦列接続段数は、周波数位相同期ループ33について実現しようとするロックレンジに応じて設定することができる。また可変遅延要素14の出力信号を入力信号と同相で取り出すか逆相で取り出すかに応じて、縦列接続段数を偶段にするか奇数にするかを設定する。なおCMOSインバータを利用した可変遅延回路については、本出願人の特許に係る特許第2679032号公報に詳しく説明されている。
【0020】
図3において、入力コンパレータ20は正負電源電圧±BLで動作し、入力端子21から入力されるアナログオーディオ入力信号を非反転入力端に入力し、帰還信号を反転入力端に入力し、両信号の信号レベルを比較して、両信号レベルの大小に応じて”1”、”0”の2値に変化するPWM信号を出力する。入力コンパレータ20の出力PWM信号は可変遅延要素14で可変遅延されて、出力部22に入力される。出力部22は2個の出力MOSFET44,46とこれらを駆動するFETドライバ48を具え、正負電源電圧±BH(BH>BL)で動作する。FETドライバ48はレベルシフト回路を内蔵し、可変遅延要素14から出力されるPWM信号を、MOSFET44,46を駆動する電圧にレベルシフトし、さらにMOSFET44,46を駆動する信号に変換して出力し、この信号でMOSFET44,46をスイッチング駆動する。MOSFET44,46の接続点から出力される電力増幅されたPWM信号はコイルL1とコンデンサC1によるLCローパスフィルタ30に供給されてオーディオ信号に変換され、出力端子(スピーカ接続端子)31に供給される。また出力オーディオ信号は帰還量を決める抵抗R1,R2と位相特性を補正するコンデンサC2で構成されるフィードバック回路24を介して入力コンパレータ20の帰還入力端に帰還入力される。
【0021】
可変遅延要素14から出力される自励発振PWM信号は位相比較器26に入力される。位相比較器26は基準周波数信号とPWM信号の位相差に応じたデューティ比でパルス信号S1,S2を出力する。すなわち図7に示すように基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているときは、パルス信号S1は基準周波数信号の立ち上がりから自励発振PWM信号の立ち上がりまでの期間だけ“0”から“1”に立ち上がり、パルス信号S2は“0”のままとなる。また図8に示すように基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるときは、パルス信号S1は“0”のままとなり、パルス信号S2は自励発振PWM信号の立ち上がりから基準周波数信号の立ち上がりまでの期間だけ“0”から“1”に立ち上がる。これらのパルス信号S1,S2はループフィルタ28に入力される。なお可変遅延要素14から出力される自励発振PWM信号はパルス幅が変動するので、位相比較器26から出力される個々のパルス信号のデューティ比は厳密には基準周波数信号と自励発振PWM信号の位相差に対応していないが、平均的には該位相差に対応したものとなるので、位相比較器26から出力されるパルス信号をループフィルタ28で平均化して得られる直流信号の電圧は基準周波数信号と自励発振PWM信号の位相差に対応したものとなる。また、前述のように自励発振PWM信号を分周して位相比較器26に入力すれば、位相比較器26から出力される個々のパルス信号のデューティ比を厳密に基準周波数信号と自励発振PWM信号の位相差に対応したものにすることができる。
【0022】
図3において、ループフィルタ28はチャージポンプ52を具えている。チャージポンプ52は電源+BLと接地電位間に電流源54、スイッチ(MOSFET)56,58、電流源60を縦列接続して構成される。スイッチ56,58はパルス信号S1,S2でスイッチング(“1”でオン、“0”でオフ)される。スイッチ56,58の接続点と接地電位間にはコンデンサC3が接続されている。したがってスイッチ56がオン(スイッチ58はオフのまま)されたとき(基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているとき)は、そのオン期間中コンデンサC3に一定の電流が流れ込んでコンデンサC3は充電される。またスイッチ58がオン(スイッチ56はオフのまま)されたとき(基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるとき)は、そのオン期間中コンデンサC3から一定の電流が流れ出してコンデンサC3は放電される。これにより、コンデンサC3の電圧は、基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているときは上昇し、基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるときは低下する。コンデンサC3の電圧はバッファトランジスタ62のベースに印加される。トランジスタ62のコレクタには電源電圧+BHが印加される。これによりトランジスタ62のエミッタにはコンデンサC3の電圧からトランジスタ62のベース・エミッタ間電圧を差し引いた電圧Vcontが得られる。この電圧Vcontはループフィルタ28から出力され、可変遅延要素14の各CMOSインバータ32の正側電源電圧(VDD)として印加される。各CMOSインバータ32の負側電源電圧(VSS)は図3の具体例では接地電位とされている。基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているときは電圧Vcontは上昇するので各CMOSインバータ32の遅延時間は短くなり(図5参照)、これにより自励発振PWM信号の位相が進められる。また基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるときは電圧Vcontは低下するので各CMOSインバータ32の遅延時間は長くなり、これにより自励発振PWM信号の位相が遅らされる。この制御の結果、制御開始当初(D級アンプの電源投入当初)は周波数位相同期ループ33の自励発振周波数が基準周波数からずれていても、該自励発振周波数が周波数位相同期ループ33のキャプチャレンジ内の周波数であれば、自励発振PWM信号を基準周波数信号に周波数および位相が同期した状態(位相ロック状態)に引き込むことができる。
【0023】
なお実施の形態1(図1)についても、帰還路13bの取り出し位置以外は図3の具体例と同様に構成することができる。
【0024】
《実施の形態1の変形例の具体例1の実験例》
図3の具体例回路を試作して周波数位相同期状態が得られることを確認する実験を行った。この実験では、電源電圧を±BL=±5V、±BH=±12Vにそれぞれ設定し、位相比較器26に入力する基準周波数信号(クロック信号)の周波数を384kHzに設定した。また出力端子31にスピーカは非接続(無負荷)で、入力端子21に信号を入力しない場合(無信号入力。出力端子31のスピーカ出力電圧は0V)と、1kHzの信号を入力した場合(出力端子31のスピーカ出力電圧は0.3V)について、基準周波数信号の波形と可変遅延要素14から出力される自励発振PWM信号の波形を観測した。観測結果を図9図10に示す。図9は無信号入力時の波形、図10は1kHzの信号を入力したときの波形である。いずれの場合も、自励発振PWM信号が基準周波数信号に位相ロック状態に引き込まれて位相同期していることがわかる。
【0025】
《実施の形態1の変形例の具体例2》
実施の形態1の変形例(図2)の具体例2を図11に示す。これは可変遅延要素14をRC直列回路による可変時定数回路で構成したものである。可変遅延要素14の時定数を可変制御することにより、この回路を通過するPWM信号の遅延時間を可変制御している。図3の具体例と対応する部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。入力コンパレータ20から出力されるPWM信号はインバータバッファ64を介して可変遅延要素14に入力される。可変遅延要素14は抵抗R3、コンデンサC10、バリキャップダイオードC11の直列接続回路で構成される。バリキャップダイオードC11には、ループフィルタ28の出力電圧(コンデンサC3の電圧)Vcontが高抵抗RBを介して逆電圧として印加されている。バリキャップダイオードC11は逆電圧Vcontが高くなるほど容量が減少する。基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているときはコンデンサC3の電圧Vcontは上昇するのでバリキャップダイオードC11の容量は減少し、これにより可変遅延要素14の時定数は短くなって自励発振PWM信号の位相が進められる。また基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるときはコンデンサC3の電圧Vcontは低下するのでバリキャップダイオードC11の容量は増大し、これにより可変遅延要素14の時定数は長くなって自励発振PWM信号の位相が遅らされる。この制御の結果、自励発振PWM信号は基準周波数信号に周波数および位相が同期する。
【0026】
《実施の形態1の変形例の具体例3》
実施の形態1の変形例(図2)の具体例3を図12に示す。これは図11のRC直列回路による可変時定数回路で構成した可変遅延要素14を、自励発振ループ13の往路13aに配置するのに代えて、帰還路13bに配置すると共にフィードバック回路24と一体化したものである。図11と対応する部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。可変遅延要素およびフィードバック回路66は、出力端子31と接地電位間に直列接続された抵抗R1,R2と、抵抗R1に並列接続された、コンデンサC2と抵抗R4の直列接続回路と、抵抗R1,R2の接続点と接地電位間に直列接続されたコンデンサC10とバリキャップダイオードC11とで構成される。可変遅延要素およびフィードバック回路66により自励発振ループ13の帰還量と位相補正量が設定される。バリキャップダイオードC11には、ループフィルタ28の出力電圧(コンデンサC3の電圧)Vcontが高抵抗RBを介して逆電圧として印加される。この逆電圧VcontによりバリキャップダイオードC11の容量が変化し、可変遅延要素およびフィードバック回路66の時定数が制御されて、自励発振ループ13の遅延量が所定値に制御される。すなわち基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているときはコンデンサC3の電圧Vcontは上昇するのでバリキャップダイオードC11の容量は減少し、これにより可変遅延要素およびフィードバック回路66の時定数は短くなって自励発振PWM信号の位相が進められる。また基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるときはコンデンサC3の電圧Vcontは低下するのでバリキャップダイオードC11の容量は増大し、これにより可変遅延要素およびフィードバック回路66の時定数は長くなって自励発振PWM信号の位相が遅らされる。この制御の結果、自励発振PWM信号は基準周波数信号に周波数および位相が同期する。なお、図11図12ではRC直列回路による可変時定数回路としてバリキャップダイオードを用いたC(コンデンサ、容量)変化形の時定数制御を行ったが、これに代えて、RC直列回路のR(レジスタ、抵抗)を変化させても良い。この場合、Rとしては、例えば、CdS光電セル等を用いたフォトレジスタが利用できる。
【0027】
《実施の形態2》
この発明の実施の形態2を図13に示す。これはアナログ入力信号と自励発振ループの帰還信号を積分する積分回路と該積分回路の出力信号を入力して2値信号を出力するヒステリシスコンパレータとを具えて自励発振する方式の自励発振型D級アンプにこの発明を適用したものである。この方式の自励発振型D級アンプは、積分回路の充放電速度とヒステリシスコンパレータの閾値との関係で決まるヒステリシスコンパレータの反転速度に応じた周波数で自励発振する。図3図11図12と対応する部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。特許文献4に記載の技術では自励発振型D級アンプ内に配置されているヒステリシスコンパレータの基準電圧を、入力信号電圧値と電力増幅器の駆動電圧値との演算により求めた電圧値に可変制御して発振周波数を安定化させるようにしているのに対し、この実施の形態ではヒステリシスコンパレータ72の基準電圧をループフィルタ28の出力電圧によって可変制御して発振周波数を安定化させるようにしている。アナログオーディオ入力信号は入力端子21から入力され積分回路68に供給される。積分回路68はオペアンプ70の非反転入力端に入力信号を入力し、反転入力端を抵抗R5を介して接地し、反転入力端と出力端との間にコンデンサC12を接続して構成される。出力部22の出力端は抵抗R6を介してオペアンプ70の反転入力端に接続されている。
【0028】
積分回路68の出力信号はヒステリシスコンパレータ72に入力される。ヒステリシスコンパレータ72は2台のコンパレータ74,76を具えている。コンパレータ74の非反転入力端とコンパレータ76の反転入力端には積分回路68の出力信号が入力される。コンパレータ74の反転入力端にはループフィルタ28の出力電圧Vcontを抵抗R7,R8で分圧した可変の電圧Vhが一方の基準電圧(閾値電圧)として入力される。コンパレータ76の非反転入力端は接地電位に接続され、これにより該非反転入力端には固定の電圧0Vが他方の基準電圧(閾値電圧)として入力される。したがってヒステリシスコンパレータ72には両基準電圧の差電圧Vhがヒステリシス電圧として与えられている。コンパレータ74,76の出力信号はSRフリップフロップ回路(以下「SR−FF回路」)78のS(セット)入力端子、R(リセット)入力端子にそれぞれ入力される。SR−FF回路78のQ出力端子の出力信号(PWM信号)は出力部22のFETドライバ48に入力される。FETドライバ48はこのPWM信号に応じて出力MOSFET44,46をスイッチングしてPWM信号を電力増幅する。出力部22から出力されるPWM信号はローパスフィルタ30でオーディオ信号が抽出されてスピーカ29に供給されて発音される。また出力部22の出力信号は、帰還路13bを介して積分回路68に帰還される。
【0029】
図13の自励発振型D級アンプの自励発振動作は次のようにして実現される。初めにアナログ入力信号Vinが0V(無信号)であったとする。SR−FF回路78のQ出力が“H”で、MOSFET44がオン、MOSFET46がオフとなっている期間では、コンデンサC12は+BH/R6の電流で−方向に充電され、ヒステリシスコンパレータ72の入力信号電圧が徐々に低下する。ヒステリシスコンパレータ72の入力信号電圧が基準電圧0Vよりも低下するとコンパレータ76の出力が“H”に反転し、SR−FF回路78はリセットされて、そのQ出力は“L”に反転する。これによりMOSFET44がオフ、MOSFET46がオンに反転する。その結果コンデンサC12は−BH/R6の電流で+方向に充電され、ヒステリシスコンパレータ72の入力信号電圧が徐々に上昇する。ヒステリシスコンパレータ72の入力信号電圧が基準電圧Vhよりも上昇するとコンパレータ74の出力が“H”に反転し、SR−FF回路78はセットされて、そのQ出力は“H”に反転する。これによりMOSFET44がオン、MOSFET46がオフに反転し、以後、以上の動作を繰り返し、自励発振する。アナログ入力信号Vinが0V(無信号)のときはコンデンサC12が−方向に充電される速度と+方向に充電される速度は等しいので、出力部22から出力されるPWM信号のデューティ比は50%となり、ローパスフィルタ30の出力オーディオ信号の信号レベルは0Vとなる。
【0030】
一方、アナログ入力信号Vinが+のときは、SR−FF回路78のQ出力が“H”で、MOSFET44がオン、MOSFET46がオフとなっている期間では、コンデンサC12はほぼ(+BH/R6)−(Vin/R5)の電流で−方向に充電され、SR−FF回路78のQ出力が“L”で、MOSFET44がオフ、MOSFET46がオンとなっている期間では、コンデンサC12はほぼ(−BH/R6)−(Vin/R5)の電流で+方向に充電される。したがってコンデンサC12が−方向に充電される速度は+方向に充電される速度よりも遅くなるので、MOSFET44がオンされている期間はMOSFET46がオンされている期間よりも長くなる。したがって出力部22から出力されるPWM信号のデューティ比は50%よりも高くなる。逆に、アナログ入力信号Vinが−のときは、SR−FF回路78のQ出力が“H”で、MOSFET44がオン、MOSFET46がオフとなっている期間では、コンデンサC12はほぼ(+BH/R6)+(Vin/R5)の電流で−方向に充電され、SR−FF回路78のQ出力が“L”で、MOSFET44がオフ、MOSFET46がオンとなっている期間では、コンデンサC12はほぼ(−BH/R6)+(Vin/R5)の電流で+方向に充電される。したがってコンデンサC12が−方向に充電される速度は+方向に充電される速度よりも速くなるので、MOSFET44がオンされている期間はMOSFET46がオンされている期間よりも短くなる。したがって出力部22から出力されるPWM信号のデューティ比は50%よりも低くなる。このようにして、出力部22からはアナログ入力信号Vinのレベルに応じたデューティ比を有するPWM信号が出力される。
【0031】
図13の自励発振型D級アンプの自励発振周波数の安定化動作は次のようにして実現される。位相比較器26はヒステリシスコンパレータ72から出力される自励発振PWM信号と所定の基準周波数(数100kHz程度)のクロック信号(基準周波数信号)を入力し、両信号を位相比較して、その位相差(例えば立ち上がりタイミングの時間差)に応じたパルス幅(デューティ比)を有するパルス信号を出力する。ループフィルタ28は位相比較器26から出力されるパルス信号を平均化して、該位相差に応じた直流信号に変換する。なお図13のループフィルタ28は、図3図11図12のループフィルタ28とは逆に、パルス信号S2でスイッチ56をオン、オフし、パルス信号S1でスイッチ58をオン、オフするものとする。これによりループフィルタ28の出力電圧は、基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているときは低下し、基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるときは上昇する。ループフィルタ28から出力される直流信号は抵抗R7,R8で分圧され、該分圧された電圧Vhがヒステリシス電圧としてヒステリシスコンパレータ72に印加される。基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が遅れているときはヒステリシス電圧Vhが低下するのでヒステリシスコンパレータ72の反転周期が短くなり、逆に基準周波数信号に対して自励発振PWM信号の位相が進んでいるときはヒステリシス電圧Vhが上昇するのでヒステリシスコンパレータ72の反転周期が長くなる。これにより自励発振PWM信号は基準周波数信号に周波数および位相が同期する。すなわち位相比較器26、ループフィルタ28、自励発振ループ13は、自励発振ループ13をVCOとする周波数位相同期ループ33を構成する。これにより自励発振ループ13の自励発振周波数は高精度に安定化される。
【0032】
《実施の形態3》
この発明の実施の形態3を図14に示す。これは図3の回路において、周波数位相同期ループ33で構成した周波数制御ループに代えて、位相同期制御を伴わない周波数制御ループ73を配置したものである。図3と対応する部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。周波数制御ループ73は図3の位相比較器26に代えて、所定時間Tごとに基準周波数信号のパルス数のカウントを繰り返す周波数カウンタ75と、該所定時間Tごとに自励発振PWM信号のパルス数のカウントを繰り返す周波数カウンタ77と、該所定時間Tごとに周波数カウンタ75,77の最終カウント値A,B(カウント値Aは基準周波数に相当する情報、カウント値Bは自励発振PWM信号の周波数に相当する情報)を比較して、両信号のカウント値A,Bの差に応じたパルス幅(デューティ比)のパルス信号S1,S2を出力するカウント値比較器79を具える。A>Bのとき(基準周波数信号の周波数に対して自励発振PWM信号の周波数が低いとき)は、図15に示すように、パルス信号S1はカウント値A(A1≒A2≒A3≒・・・),Bの差に応じた時間だけ(あるいは所定の一定時間だけ)“0”から“1”に立ち上がり、パルス信号S2は“0”のままとなる。またA<Bのとき(基準周波数信号の周波数に対して自励発振PWM信号の周波数が高いとき)は、図16に示すように、パルス信号S1は“0”のままで、パルス信号S2はカウント値A,Bの差に応じた時間だけ(あるいは所定の一定時間だけ)“0”から“1”に立ち上がる。A=Bのときはパルス信号S1,S2はともに“0”のままとなる。
【0033】
図14において、パルス信号S1,S2は図3の回路と同様にループフィルタ28に入力されて平均化され、ループフィルタ28から出力される電圧Vcontが可変遅延要素14の各CMOSインバータ32の正側電源電圧(VDD)として印加されて可変遅延要素14の遅延時間が可変制御される。この制御の結果、自励発振PWM信号の周波数は基準周波数信号の周波数に一致もしくは接近するように制御される。自励発振PWM信号の周波数が基準周波数信号の周波数に完全に一致しないために、複数台の自励発振型D級アンプを相互に近距離で同時に動作させたときにビートが生じたとしても、それが可聴周波数よりも低いビートであれば聴感上問題とならない。
【0034】
なお図14において、周波数カウンタ75に代えて基準周波数信号の周期を計測する周期カウンタ(そのカウント値は基準周期に相当する情報である)を配置し、周波数カウンタ77に代えて自励発振PWM信号の周期を計測する周期カウンタ(そのカウント値は自励発振PWM信号の周期に相当する情報である)を配置することによっても周波数制御ループ73を構成することができる。また図14では基準周波数信号のパルス数を周波数カウンタ75でカウントして基準周波数に相当する情報を得ていたが、基準周波数信号とカウンタ75を用いずにはじめから基準周波数に相当する情報あるいは基準周期に相当する情報を固定の数値情報として与えることもできる。また図11図12図13の各回路においても、位相比較器26に代えて、図14の周波数カウンタ(または周期カウンタ)75,77およびカウント値比較器79を配置することにより(または基準周波数信号および周波数カウンタ75に代えて、基準周波数に相当する情報あるいは基準周期に相当する情報を固定の数値情報として与えることにより)、位相同期制御を伴わない周波数制御ループを構成することができる。
【0035】
図3の回路の変形例》
図3の回路の変形例を図17に示す。図3の回路では自励発振ループ13のループゲインを上げて入力コンパレータ20に入力する入力信号波形を大きくすると、入力コンパレータ20は入力信号と帰還信号の信号レベルの比較がし易くなり、その結果入力コンパレータ20によるPWM変調の精度が上がり、オーディオ信号特性(歪率特性等)を向上させることができる。ただし図3の回路において自励発振ループ13の入力(入力コンパレータ20の手前)にアンプを挿入して広帯域にゲインを上げたのでは、自励発振周波数帯域のゲインも上がり、その結果自励発振の発振条件が変動して自励発振周波数が変わるなどの弊害が生じる。そこで図17の回路では自励発振ループ13の入力に広帯域のアンプでなく積分回路を挿入することにより、オーディオ帯域に対してはゲインを上げて、自励発振周波数帯域に対してはゲインを変動させないようにしている。
【0036】
図17において、入力端子21から入力されるアナログオーディオ入力信号は入力積分回路100に入力される。入力積分回路100はアナログオーディオ入力信号をオペアンプ102の非反転入力端に入力し、反転入力端を抵抗R2を介して接地し、反転入力端と出力端との間にコンデンサC13を接続して構成される。ローパスフィルタ30からの帰還信号はオペアンプ102の反転入力端に帰還入力される。入力積分回路100はアナログオーディオ入力信号の帯域(例えば20kHz以下)に対してはゲインを上げて、自励発振周波数帯域(例えば数100kHz)に対してはゲインを変動させない(ほぼゲイン1)特性に設定されている。自励発振周波数帯域に対して入力積分回路100のゲインをほぼ1にするためには、入力積分回路100のコンデンサC13と自励発振ループ13の帰還路13bのコンデンサC2をほぼ同程度の値に設定すればよい。このような特性の入力積分回路100を自励発振ループ13の入力に挿入することにより、自励発振の発振条件を入力積分回路100がない場合(図3の回路)に対して変動させることなく(一巡ループゲインを変えない)、図3の回路に比べてオーディオ帯域に対してゲインを上げることができる。入力積分回路100の出力信号はコンパレータ20(図3の入力コンパレータ20と同じもの)の非反転入力端に入力される。コンパレータ20の反転入力端は接地されている。コンパレータ20の入力信号に含まれるオーディオ帯域成分は入力積分回路100により信号波形が大きくされているので、コンパレータ20によるPWM変調の精度が上がり、オーディオ信号特性(歪率特性等)が向上する。一方、コンパレータ20の入力信号に含まれる自励発振周波数帯域成分は入力積分回路100をほぼゲイン1で通過するので、自励発振の発振条件を変動させない。したがって自励発振周波数が変わるなどの弊害は生じない。図17の回路において、以上説明した箇所以外の構成および動作は図3の回路と同じであり、図3と対応する部分には同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0037】
《応用例1》
この発明において周波数制御ループを周波数位相同期ループで構成した場合には、自励発振PWM信号を基準周波数信号に位相同期させることができるので、複数台の自励発振型D級アンプを相互に近距離で同時に動作させると、ビート音の発生を防止できる代わりに、各D級アンプの出力スイッチング素子が同時にオン、オフするので、スイッチングノイズのピークレベルが高くなる可能性がある。その対策としては、例えば、ビート音が目立たなくなる大出力時には周波数位相同期状態を一時的に解除して、D級アンプごとに自励発振周波数を異ならせ、これによりスイッチング素子のスイッチングタイミングをばらばらにして、EMC(Electro-Magnetic Compatibility:電磁両立性)対策すなわちノイズ低減を図ることが考えられる。あるいは周波数制御ループを位相同期制御を伴わない周波数制御ループで構成することにより、スイッチング素子のスイッチングタイミングをばらばらにして、EMC対策を図ることもできる。あるいは周波数制御ループを周波数位相同期ループで構成した場合にも、D級アンプ相互間で位相を相互にずらした基準周波数信号を使用することにより、周波数位相同期状態を維持したまま各D級アンプ相互間で出力スイッチング素子のスイッチングタイミングをずらして、EMC対策を図ることもできる。この最後の対策のシステム構成例を図18に示す。クロック発振器81からは所定周波数の基準クロック信号が発生される。この基準クロック信号は分周回路82で分周され、さらに複数系統の遅延回路で相互に位相がずらされて、図19に示すように、周波数が同じで位相が所定間隔(この例では90°)でずらされた複数のクロック信号(基準周波数信号)A,B,C,Dに変換される。自励発振型D級アンプ84A,84B,84C,84Dはこの発明による相互に同一構成の自励発振型D級アンプである。各D級アンプ84A,84B,84C,84Dは周波数位相同期ループで自励発振PWM信号を各入力される基準周波数信号A,B,C,Dに周波数位相同期させて駆動される。これにより、D級アンプ84A,84B,84C,84Dの出力スイッチング素子のスイッチングタイミングは相互にずらされるので、スイッチングノイズが分散され、ノイズのピークレベルが低下される。
【0038】
《応用例2》
D級アンプの発振周波数は数100kHz程度に設定される場合が多く、オートチューニング式AMチューナ等と組み合わされるD級オーディオアンプでは、受信周波数をオートスキャン(自動的にアップまたはダウン)させて放送局を探すときに、スイッチング周波数およびその倍音に当たる高調波周波数に同調する問題がある。そこで従来より、オートチューニング式AMチューナと組み合わされる他励発振型D級オーディオアンプでは、オートスキャン動作しているときに、各時点の受信周波数がスイッチング周波数およびその高調波周波数に重ならないように、受信周波数に応じてスイッチング周波数を切り換えるようにしている。この発明の自励発振型D級アンプによれば、自励発振型D級アンプにおいても、受信周波数に応じてスイッチング周波数(自励発振周波数)の切り換えを容易に行うことができる。この発明による自励発振型D級アンプにオートチューニング式AMチューナを搭載したチューナー搭載アンプの構成例を図20に示す。クロック発振器86からは所定周波数の基準クロック信号が発生される。この基準クロック信号はチューナーコントロールマイコン88に供給されて動作クロックとして用いられる。またこの基準クロック信号はAMチューナー部90に供給される。AMチューナー部90はチューナーコントロールマイコン88からの指令に基づき基準クロック信号を分周してPLL周波数シンセサイザにより任意の周波数の局部発振信号を生成する。局部発振信号の周波数により受信周波数が決まる。分周回路92は基準クロック信号を分周して、高低2種類の周波数の基準周波数信号fa、fbを生成する。スイッチ94はチューナーコントロールマイコン88からの指令により基準周波数信号fa、fbを択一的に選択して、この発明による自励発振型D級アンプ96に供給する。D級アンプ96はAMチューナー部90で復調されたアナログ信号を入力し、D級増幅部98でD級増幅し、ローパスフィルタ30でオーディオ信号を抽出して出力し、スピーカに供給する。またD級アンプ96はスイッチ94で選択された基準周波数信号を入力し、位相比較器26で基準周波数信号とD級増幅部98から出力される自励発振PWM信号とを位相比較し、その位相比較出力をループフィルタ28で平均化してD級増幅部98に与えることによりD級増幅部98の自励発振周波数および位相を制御して、自励発振PWM信号を基準周波数信号に周波数および位相を同期させる。チューナーコントロールマイコン88は受信周波数の近辺の帯域にスイッチング周波数およびその高調波周波数が入り込まないように、受信周波数に応じて基準周波数信号fa、fbを択一的に選択してD級アンプ96に供給する。
【0039】
チューナーコントロールマイコン88による、受信周波数帯域に対する基準周波数信号fa、fbの切り換え内容の一例を図21に示す。この例では基準周波数信号を、
・540kHz〜900kHz超の帯域:fa
・900kHz超〜1200kHz超の帯域:fb
・1200kHz超〜1600kHzの帯域:fa
に切り換えるようにしている。なお図20では周波数制御ループを周波数位相同期ループで構成したが、この応用例では自励発振周波数を基準周波数信号fa、fbの周波数に厳密に一致させる必要はないので、周波数制御ループを位相同期制御を伴わない周波数制御ループで構成することもできる。
【0040】
前記各実施の形態ではこの発明をオーディオ用D級アンプに適用した場合について説明したが、この発明はオーディオ用以外のD級アンプにも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
13…自励発振ループ、14…可変遅延要素(ループ遅延量可変手段)、26…位相比較器、28…ループフィルタ、33…周波数位相同期ループ(周波数制御ループ)、32…論理インバータ回路、66…可変遅延要素およびフィードバック回路、68…積分回路、72…ヒステリシスコンパレータ(ループ遅延量可変手段)、73…位相同期制御を伴わない周波数制御ループ、Vh…ヒステリシスコンパレータの基準電圧
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