(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0040】
なお、本明細書において、置換基の炭素数は、当該置換基が更に置換基を有する場合、その置換基の炭素数も含めた合計の炭素数を意味する。
また、以下の式(1)〜(3)、(4A)、(4B)、(5)、(a−1)〜(a−9)において、丸で囲まれたFLNは、C
60フラーレン骨格を表す。
【0041】
[フラーレンC
60誘導体]
本発明のフラーレンC
60誘導体は、下記式(1)で示される。
【0043】
(式中、丸で囲まれたFLNで表される構造はC
60フラーレン骨格を表し、R
1は水素原子又は置換されていてもよい炭素数1〜24の炭化水素基を表し、R
2はフェノール性水酸基を有する芳香族基を表す。R
xは、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜24の有機基を表し、nは2〜12の偶数である。2個のR
1は互いに異なっていても同一であってもよい。10個のR
2は互いに異なっていても同一であってもよく、R
2のフェノール性水酸基を有する芳香族基はフェノール性水酸基以外の置換基を有していてもよい。n個のR
xは互いに異なっていても同一であってもよく、R
x同士で連結してフラーレン骨格上の2個の炭素原子に結合する環状基を形成していてもよい。)
【0044】
「フラーレン」とは、閉殻構造を有する炭素クラスターであり、フラーレンの炭素原子数は、通常60〜130の偶数であり、その具体例としては、C
60、C
70、C
76、C
78、C
82、C
84、C
90、C
94、C
96及びこれらよりも多くの炭素原子を有する高次の炭素クラスター等が存在するが、本発明のフラーレンC
60誘導体は、炭素原子が60のフラーレンの誘導体であり、本明細書では、炭素原子数60のフラーレン骨格を、一般式「C
60」で表す。
【0045】
また、「フラーレン誘導体」とは、フラーレン骨格を有する化合物又は組成物の総称である。即ち、フラーレン誘導体には、フラーレン骨格上に置換基を有するものの他、フラーレン骨格の内部に金属や化合物等を内包するもの及び他の金属原子や化合物と錯体を形成したもの等も含まれる。
【0046】
<R
1について>
本発明のフラーレンC
60誘導体がC
60フラーレン骨格上に有するR
1は、水素原子又は置換されていてもよい炭素数1〜24の炭化水素基であり、2個のR
1は互いに異なるものであってもよく、同一であってもよいが、合成が容易であることから同一であることが好ましい。ここで、炭素数1〜24の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられ、アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であってもよい)アルキル基と、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの環状アルキル基が挙げられる。また、アルケニル基としては、具体的には、ビニル基、アリル基などが挙げられ、また、アルキニル基としては、具体的には、エチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。また、アリール基としては、具体的にはフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基、フリル基などが挙げられる。
【0047】
また、R
1の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、酸素、窒素、硫黄、ケイ素などの原子、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、又はフェニル基、トリル基、ナフチル基、ピリジル基などの芳香環基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、スルホニル基、リン酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アセトキシ基、アルデヒド基、エステル基、アシル基、イミド基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、アルキルシリル基、ホスフィン基などが挙げられる。また、ビニル基やアリル基のようなアルケニル基、エチニル基やプロパルギル基等のアルキニル基を有していてもよい。
【0048】
R
1としては、合成の容易さの点において、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、更に、耐酸化性の観点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、特に露光時のアウトガス低減の観点から、炭素鎖の短いメチル基であることが好ましい。
【0049】
<R
2について>
本発明のフラーレンC
60誘導体がC
60フラーレン骨格上に有するR
2は、フェノール性水酸基を有する芳香族基であり、10個のR
2は互いに異なるものであってもよく、同一であってもよいが、合成が容易であることから同一であることが好ましい。なお、R
2のフェノール性水酸基を有する芳香族基は、フェノール性水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0050】
R
2の芳香族基としては、炭素数6〜18の芳香族性を有する炭化水素基が好ましく、その具体的な例としては、フェニル基、ビニルフェニル基、ジビニルフェニル基、トリビニルフェニル基等のビニルフェニル基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、アセナフチレニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントレニル基、アントラセニル基、フルオラセニル基、アセフェナンチレニル基、アセアンチレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、テトラセニル基等の環状炭化水素基が挙げられる。
【0051】
これらの中で、原料調達の観点からフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナレニル基、ピレニル基が好ましく、合成の容易さからフェニル基、ナフチル基が特に好ましく、フェニル基がとりわけ好ましい。
【0052】
R
2のフェノール性水酸基を有する芳香族基が、フェノール性水酸基以外の置換基を有する場合、その置換基としては、後述のR
xの有機基が有していてもよい置換基として例示したものが挙げられる。
【0053】
R
2の芳香族基が有するフェノール性水酸基(即ち、芳香族基に直接結合しているヒドロキシル基)の数は、1〜3個であることが好ましく、合成が容易である観点からは1個であることが好ましく、また現像液溶解性や露光時のプロトン源の増大という観点では、2個もしくは3個が好ましい。
【0054】
芳香族基がC
60フラーレン骨格と結合する位置は限定されず任意であるが、例えばナフタレン骨格の場合、原料調達の観点や合成の容易さからβ−位で結合していることが好ましい。他の骨格に関しては、上記観点で好ましい結合位置を各々決めることができる。
【0055】
また、フェノール性水酸基が芳香族基に結合する位置についても任意であり、複数のフェノール性水酸基がある場合、その相対的な位置関係も任意であるが、例えばナフトール基の場合、原料調達の観点からamphi(アンフィ)の位置、即ちβ位(2位)でC
60フラーレン骨格と結合し、6位の位置にフェノール性水酸基が結合していることが好ましい。
【0056】
また、ヒドロキシフェニル基の場合は、p−ヒドロキシフェニル基又はm−ヒドロキシフェニル基であることが好ましく、ジヒドロキシフェニル基の場合は、3,4−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基であることが好ましく、トリヒドロキシフェニル基の場合は、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基であることが好ましい。
【0057】
本発明において、R
2は原料調達や合成の容易さの観点から、特にヒドロキシフェニル基であることが好ましく、とりわけp−ヒドロキシフェニル基であることが好ましい。
【0058】
本発明において、R
1とR
2の位置関係は任意であるが、下記式(6)で表わされるフラーレン骨格の部分構造(以下、「部分構造(6)」と称す場合がある。)を2箇所有することが、製造上容易であり、フラーレン誘導体の付加数の分布を制御できる点で好ましい。
【0060】
(上記式(6)中、C
1〜C
10は、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表し、C
1は前記R
1と結合しており、C
6〜C
10は各々独立に前記R
2と結合している)
【0061】
また、部分構造(6)の相対的な位置関係も任意であるが、これまでに合成例が報告されている位置が、製造上容易な点で好ましい。原料フラーレン誘導体の合成方法については、非特許文献のAngew.Chem.Int.Ed.2007,46,P2844−2847を参照することが可能である。
【0062】
<R
xについて>
本発明のフラーレンC
60誘導体がC
60フラーレン骨格上に有するR
xは、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜24の有機基を表し、n個のR
xは互いに異なっていても同一であってもよいが、合成が容易であることから、同一であることが好ましい。また、R
xは互いに連結してフラーレン骨格上の2個の炭素原子に結合する環状基を形成していてもよい。
【0063】
ここで、炭素数1〜24の1価の有機基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシフェニル基、アラルキル基、複素環基、アルコキシ基、エステル基などが挙げられる。
【0064】
上記有機基のうち、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基、メチルエチニル基、2−プロピニル基(プロパルギル基)等のアルキニル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トルイル基等が挙げられる。アルコキシフェニル基としては、メトキシフェニル基等が挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。複素環基としては、チエニル基、ピリジル基、フリル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。エステル基としては、エチルエステル基、ブチルエステル基などが挙げられる。
【0065】
上記の有機基は任意の置換基を有していてもよい。R
xの有機基が有していてもよい置換基としては、本発明のフラーレンC
60誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければよく特に制限はないが、具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、複素環基、アルコキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、ハロゲン原子、チオール基、チオエーテル基、アルコキシフェニル基、有機珪素基などが挙げられる。また、これらの置換基は更に置換基を有していてもよく、この置換基としても炭素数1〜24の上記のような有機基が挙げられる。
【0066】
R
xは互いに結合してC
60フラーレン骨格を構成する2つの炭素原子に連結していてもよい。
【0067】
なお、R
xが互いに結合している場合であっても、互いに結合していない場合であっても、2個のR
xが、C
60フラーレン骨格上の隣接する炭素原子に結合していることが、本発明のフラーレンC
60誘導体の効果、即ち、フラーレンC
60環のπ共役を切断して電子受容性を低減する上で好ましい。
【0068】
R
xの好適例としては、下記式(2)、(3)、(4A)、(4B)及び(5)で表される基から選ばれるものが挙げられ、フラーレンC
60誘導体中にはこれらの基の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
なお、以下において、「置換基を有していてもよい」と記載される置換基が有していてもよい置換基としては、R
xの有機基が有していてもよい置換基として例示したものが挙げられる。
【0070】
式(2)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基、および置換されていてもよい炭素数1〜10のアシル基からなる群より選ばれる置換基を表し、好ましくは、水素原子、カルボキシル基、tert−ブトキシカルボニル基、メチル基、フェニル基、アルコキシカルボニル−3−プロピル基である。nは2〜12の偶数である。
【0072】
式(3)中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、及び置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基からなる群より選ばれる置換基を表し、好ましくは、水素原子、ヒドロキシル基、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、トリメトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基などの芳香族基、トリメチルシリルメチル基、ジメチルフェニルシリルメチル基、メチルジフェニルシリルメチル基などの有機珪素基含有アルキル基である。nは2〜12の偶数である。
【0074】
式(4A)、(4B)中、R
7〜R
10は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基、および置換されていてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる置換基を表し、好ましくは、水素原子、ヒドロキシル基、メトキシ基などのアルコキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基,t−ブチル基などのアルキル基である。式(4A)中、R
11は、メチレン基を表す。nは2〜12の偶数である。
【0076】
式(5)中、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、及び置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基からなる群より選ばれる置換基であり、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基などのアルキル基、フェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、トリメトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、トリヒドロキシフェニル基などの芳香族基である。nは2〜12の偶数である。
【0077】
より具体的には、R
xとしては下記式(a−1)〜(a−9)で表される基から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、これらのうち、特に式(a−1)、(a−3)、(a−4)、(a−5)、(a−9)で表される基が酸化や熱に対する安定性の点で好ましく、とりわけ式(a−3)、(a−4)、(a−5)で表される基が合成の容易さの点で好ましい。
【0079】
上記式中、R
14〜R
16は、それぞれ独立に、水素原子、フェニル基、及び置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基からなる群より選ばれる置換基を表し、R
17は、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基、及び置換されていてもよい炭素数4〜18の有機珪素基含有アルキル基からなる群より選ばれる置換基を表し、R
18及びR
19は、それぞれ独立に、置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基、及び置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基からなる群より選ばれる置換基を表す。nは2〜12の偶数である。
【0080】
なお、式(a−2)におけるR
14、R
15としては、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、ベンジル基、フェニル基が好ましい。
式(a−3)におけるR
16としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、フェニル基が好ましい。
式(a−8)におけるR
17としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、ベンジル基、チオフェン基、ピリジル基、フェニル基、ナフチル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシナフチル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−メトキシキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、3,5−メトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、2−メトキシナフチル基、トリメチルシリルメチル基、ジメチルフェニルシリルメチル基、メチルジフェニルシリルメチル基が好ましい。
式(a−9)におけるR
18、R
19としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、ベンジル基、チオフェン基、ピリジル基、フェニル基、ナフチル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシナフチル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−メトキシキシフェニル基、3,4−メチレンジオキシフェニル基、3,5−メトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、2−メトキシナフチル基が好ましい。
【0081】
<nについて>
本発明のフラーレンC
60誘導体がC
60フラーレン骨格上に有するR
xの数を表すnは、2〜12の偶数、即ち、2、4、6、8、10又は12である。
【0082】
R
xは、本発明のフラーレンC
60誘導体に特徴的な置換基であり、このR
xにより、本発明のフラーレンC
60誘導体におけるフラーレンC
60環のπ共役が切断され、電子受容性が低減されることで後述のレジスト組成物における酸発生剤の酸発生効率の向上効果が得られる。
従って、nは2以上であることが必要とされる。
【0083】
なお、本発明のフラーレンC
60誘導体は、後述する本発明のフラーレンC
60誘導体の製造方法により製造することができるが、生成物中には、nが異なる複数のフラーレンC
60誘導体が混在するため、分析値としてのnはこれらの平均値として求められる。以下において、nの平均値を<n>と記載する。
【0084】
[酸解離性保護基について]
本発明のフラーレンC
60誘導体を後述の本発明のレジスト組成物としてのポジ型レジスト組成物に用いる場合、本発明のフラーレンC
60誘導体が有するヒドロキシル基、好ましくはR
2のフェノール性水酸基、の少なくとも一部が、酸発生剤により発生した酸の作用で解離する酸解離性保護基(「酸不安定基」とも称される。)で保護されている必要がある。即ち、R
2のフェノール性水酸基等のヒドロキシ基の水素原子がこの酸解離性保護基で置換されている必要がある。
【0085】
この酸解離性保護基としては、例えば、第3級(tert−)アルキル基、第3級アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシアルキル基、環状エーテル基等が挙げられる。
【0086】
<第3級アルキル基>
酸解離性保護基が第3級アルキル基である場合の具体例としては、tert−ブチル基、tert−アミル基等の鎖状の第3級アルキル基、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基等の、脂肪族環式基を含む第3級アルキル基等が挙げられる。また、脂肪族環式基は多環式基、単環式基のいずれでもよい。脂肪族環式基の具体的な例としては、シクロペンタン、シクロヘキサン等のモノシクロアルカンや、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロデカン、アダマンタン等のポリシクロアルカンから2個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。これら、脂肪族環式基はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、フッ素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0087】
<3級アルキルオキシカルボニル基>
酸解離性保護基が第3級アルキルオキシカルボニル基である場合、第3級アルキル基部位は、上記酸解離性保護基が第3級アルキル基である場合と同様のものを挙げることができる。第3級アルキルオキシカルボニル基の具体例としては、tert−ブチルオキシカルボニル基、tert−アミルオキシカルボニル基、2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0088】
<アルコキシカルボニルアルキル基>
酸解離性保護基がアルコキシカルボニルアルキル基の場合、下記式(X)で表される基が好ましい。
【0090】
(式中、R
30は、ヘテロ原子、或いは構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい直鎖状、分岐状又は環状アルキル基を表す。pは1〜3の整数である。)
【0091】
R
30がその構造中にヘテロ原子を含んでいてもよいとは、R
30のアルキル鎖上の水素原子の一部又は全部がヘテロ原子で置換されたものであってもよく、また、アルキル鎖を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されたものであってもよいことを意味する。R
30に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、フッ素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0092】
上記の通り、R
30のヘテロ原子を含む基としては、ヘテロ原子自体であってもよく、またヘテロ原子と炭素原子及び/又は水素原子とからなる基であってもよい。
【0093】
R
30が直鎖状アルキル基の場合、炭素数1〜5であることが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基等が挙げられ、原料調達の観点からメチル基、エチル基が好ましい。
【0094】
また、R
30が分岐状アルキル基の場合、炭素数4〜10であることが好ましく、具体的にはイソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基等が挙げられ、この中でも特にtert−ブチル基が好ましい。
R
30が環状アルキル基の場合、炭素数3〜20であることが好ましく、具体的にはシクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデカニル基、テトラシクロデカニル基、アダマンチル基等が挙げられ、この中でも特にアダマンチル基が好ましい。
【0095】
また、環状アルキル基の場合、式(X)中の酸素原子と結合している該環状アルキル基の炭素原子が、酸素原子以外に低級アルキル基と結合していることが好ましい。ここで、低級アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましく、特に原料調達の観点からメチル基、エチル基であることが特に好ましい。すなわち、R
30は2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基が特に好ましい。
【0096】
なお、式(X)中におけるpは1〜3の整数であり、原料調達の観点からpは1であることが好ましい。
【0097】
<アルコキシアルキル基>
酸解離性保護基がアルコキシアルキル基の場合、下記式(XX)で表される基が好ましい。
【0099】
(式中、R
31は、ヘテロ原子、或いは構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい直鎖状、分岐状又は環状アルキル基を表し、R
32は水素原子又は低級アルキル基を表す。)
【0100】
式(XX)中のR
31としては、式(X)中のR
30と同様のものが挙げられる。中でも、分岐状アルキル基、環状アルキル基が好ましい。
【0101】
式(XX)中のR
32は、水素原子又は低級アルキル基である。R
32の低級アルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基であって、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ペンチル基等が挙げられる。これらの中でも、原料調達の観点から、水素原子、又はメチル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0102】
<環状エーテル基>
酸解離性保護基が環状エーテル基の場合、具体的にテトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基等が挙げられる。
【0103】
これら、酸解離性保護基のうち、第3級アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアルキル基が好ましく、特に第3級アルキルオキシカルボニル基が好ましい。また、これら酸解離性保護基は、一種類を用いてもよく、また複数の種類を用いてもよい。複数の種類を用いる場合は、その種類と数、それぞれの酸解離性保護基の比率等は任意である。
【0104】
本発明のフラーレンC
60誘導体への酸解離性保護基の導入量については、ポジ型レジスト組成物としての機能を十分に発揮できる程度であればよく、特に制限はないが、例えば、10個のR
2のうちの個数mとして、1〜8個、特に2〜6個であることが好ましい。
酸解離性保護基の導入量が少な過ぎると酸解離性保護基を導入したことによるアルカリ現像液溶解性のコントラスト差を十分に得ることができず、多過ぎると感度が不足する場合がある。
【0105】
なお、酸解離性保護基を導入する反応では、酸解離性保護基の導入数mの異なる複数のフラーレンC
60誘導体が得られ、生成物中には、mが異なる複数のフラーレンC
60誘導体が混在するため、分析値としてのmはこれらの平均値として求められる。以下において、mの平均値を<m>と記載する。<m>は特に3〜8、とりわけ3〜6の範囲であることが好ましい。
【0106】
[フラーレンC
60誘導体の製造方法]
本発明のフラーレンC
60誘導体の製造方法には特に制限はなく、任意の方法に従って製造することができるが、例えば、本発明のフラーレンC
60誘導体の製造方法に従って、次のようにして製造することができる。
【0107】
本製造法は、以下の反応式に示す通り、原料のフラーレンC
60(I)に10重付加反応(工程(i))を行い、保護化されたフェノール性水酸基を有するフラーレン10重付加体(II)を合成し、その後、種々の付加反応(工程(ii))を行って、保護化されたフラーレン誘導体(III)を合成し、さらに、脱保護反応(工程(iii))を行うことで、本発明のフラーレンC
60誘導体(IV)を製造する方法である。ただし、工程(ii)の種々の付加反応と工程(iii)の脱保護反応は、反応の進行に支障がない限り、反応の順序が前後してもよい。
【0109】
ここで、各式中、丸で囲まれたFLNで表される構造はC
60フラーレン骨格を表し、R
1、R
2、R
x、nは、式(1)におけると同義である。Aは保護化されたフェノール性水酸基を有する芳香族基を表す。10個のAは互いに異なっていても同一であってもよく、Aの保護化されたフェノール性水酸基を有する芳香族基は、保護化されたフェノール性水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0110】
以下、本製造法を、工程(i)のフラーレン10重付加体(II)の製造方法と、工程(ii)の保護化されたフラーレン誘導体(III)の製造方法、及び、工程(iii)のフラーレンC
60誘導体(IV)の製造方法に分けて説明する。
以下に示す反応式において、丸で囲まれたFLNで表される構造、R
1、A、nは、上記の反応工程(i)〜(iii)を示す反応式におけると同義である。また、R
3、R
4は前記式(2)におけると同義であり、R
5、R
6は前記式(3)におけると同義であり、R
7〜R
10は前記式(4A)、(4B)におけると同義であり、R
14、R
15は前記式(a−2)におけると同義であり、R
16は前記式(a−3)におけると同義であり、R
17は前記式(a−8)におけると同義であり、R
18、R
19は前記式(a−9)におけると同義である。
【0111】
{工程(i):フラーレン10重付加体(II)の製造方法}
フラーレン10重付加体(II)は、特開2010−24221号公報に記載の方法に従って製造することができる。
【0112】
{工程(ii):保護化されたフラーレン誘導体(III)の製造方法}
工程(ii)における保護化されたフラーレン誘導体(III)の製造方法を、付加反応の種類に分けて説明する。
【0113】
<工程(iia):保護化されたインデン付加体(IIIa)の製造方法>
【化17】
【0114】
(インデン類)
工程(iia)における反応試剤としてのインデン類は、上記式(Y1)で表される化合物であり、式(Y1)中、R
7〜R
10は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基、および置換されていてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であってもよい。)のアルキル基、シクロヘキシル基などの環状のアルキル基、フェニル基などのアリール基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのアルコキシ基といった炭化水素基が挙げられる。これらの置換基は、工程(iia)において反応を阻害しない範囲で更に任意の置換基で置換されていてもよい。
中でも工業的に安価であり、原料調達が容易である観点から、インデンを用いるのが特に好ましい。
【0115】
なお、化合物(Y1)として、異なる2種以上のインデン類を用いてもよいが、精製の簡便性から、1種類のインデン類を用いることが好ましい。
【0116】
インデン類の使用量は、原料であるフラーレン10重付加体(II)に対して、下限は特に制限はないが、使用量が少なすぎると、本反応が平衡反応で、その平衡が原料側に偏るため、目的とする保護化されたインデン付加体(IIIa)の収率が低下する。そのため、インデン類の使用量は、通常、原料のフラーレン10重付加体(II)に対して3倍モル以上、好ましくは10倍モル以上、さらに好ましくは20倍モル以上である。インデン類の使用量の上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると、精製に負荷がかかり、製造コストも増大するため、通常は原料のフラーレン10重付加体(II)に対して1000倍モル以下、好ましくは500倍モル以下、さらに好ましくは200倍モル以下である。
【0117】
(反応溶媒)
工程(iia)では、反応溶媒を用いてもよいが、インデン類が液体である場合は、反応溶媒を用いずに、原料のフラーレン10重付加体(II)とインデン類だけで反応を行うことが好ましい。しかしながら、例えば原料であるフラーレン10重付加体(II)やインデン類が常温で固体の場合や、インデン類相互間の副反応が進行し、精製負荷が大きくなる場合等においては、反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒を使用する場合、上述のフラーレン10重付加体(II)、インデン類を好適に溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類は任意である。
【0118】
使用可能な溶媒としては、ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリルなど、ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど、エステル系溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;γ−ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類など、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテルなど、ハロゲン系溶媒としては、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなど、ハロゲン系芳香族炭化水素系溶媒としては、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなど、アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど、スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド、スルホランなど、環状式脂肪族炭化水素系溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環状式脂肪族炭化水素;その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサンなど;デカヒドロナフタレンなどの多環状式脂肪族炭化水素など、非環状式脂肪族炭化水素系溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカンなど、芳香族炭化水素系溶媒としては、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレンなど、アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ターシャリーブタノール、ヘキサノール、オクタノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。
【0119】
本反応は通常100℃以上の高温で行う必要があることから、上記の溶媒の中でも沸点が100℃以上の溶媒であるクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、トルエン、p−キシレン、o−キシレン、m−キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホランが好ましく、原料のフラーレン10重付加体(II)を好適に溶解させることができる観点から、1,2−ジクロロベンゼン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレンが特に好ましい。
なお、反応溶媒は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0120】
溶媒の使用量は、特に制限はないが、通常、上限は原料のフラーレン10重付加体(II)の50倍体積量以下、好ましくは10倍体積量以下、さらに好ましくは5倍体積量以下となるような量であり、下限はゼロ、即ち、無溶媒でも構わない。
【0121】
(操作及び反応条件)
上述の原料のフラーレン10重付加体(II)、インデン類、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒等を混合する順序や反応条件は、保護化されたインデン付加体(IIIa)が製造できる限り任意である。また、反応系には、反応の進行を阻害しない限り上述したもの以外の成分を含有させてもよい。
【0122】
反応時の温度条件は、反応が進行する限り特に制限されないが、原料のフラーレン10重付加体(II)、インデン類、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒を混合した後の反応系の温度を、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上として実施される。またその上限は、通常250℃、好ましくは200℃、より好ましくは180℃である。
【0123】
反応時間も制限されないが、原料のフラーレン10重付加体(II)、インデン類、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒を混合した後、通常30分以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは5時間以上で実施される。また通常2日以内、好ましくは24時間以下、さらに好ましくは12時間以下とするのが好ましい。
【0124】
反応終了後、通常は、生成した保護化されたインデン付加体(IIIa)を反応液から常法により単離する。単離操作は、各原料の種類によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液にイオン交換水等を加えて反応を停止させ、適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去、晶析することにより、生成物を単離する方法などが挙げられる。
【0125】
<工程(iib):保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)の製造方法>
保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)は、ヨウ化剤存在下、原料のフラーレン10重付加体(II)と1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類の付加反応(工程(iib−1))による方法と、原料のフラーレン10重付加体(II)と3−イソクロマノン類の付加反応(工程(iib−2))による方法により製造することができる。
【0127】
(式中、Xはハロゲン原子(フッ素原子を除く)又はメシル基、又はトシル基などの脱離基を表す。2個のXは互いに異なっていても同一であってもよい。Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
【0128】
<工程(iib−1):1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類を用いた保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)の製造方法>
(1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類)
工程(iib−1)における反応試剤としての1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類は、上記式(Y2)で表される化合物であり、式(Y2)中、R
7〜R
10は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基、および置換されていてもよい炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であってもよい。)のアルキル基、シクロヘキシル基などの環状のアルキル基、フェニル基などアリール基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのアルコキシ基等の炭化水素基が挙げられる。また、Xは、ハロゲン原子(フッ素原子を除く)又はメシル基、又はトシル基などの脱離基を表し、Yは酸素原子又は硫黄原子を表す。これらの置換基は、工程(iib)において反応を阻害しない範囲で更に任意の置換基で置換されていてもよい。
中でも工業的に安価であり、原料調達が容易である観点から、1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼンを用いるのが好ましい。
【0129】
なお、化合物(Y2)として、異なる2種以上の1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類を用いてもよいが、精製の簡便性から、1種類の1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類を用いることが好ましい。
【0130】
1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類の使用量の下限は特に制限はないが、使用量が少なすぎると、反応の進行が不十分となりやすく、目的とする保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)の収率が低下するため、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類の使用量は、通常、原料のフラーレン10重付加体(II)に対して2倍モル以上、好ましくは5倍モル以上、さらに好ましくは10倍モル以上が一般的である。1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類の使用量の上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると、精製に負荷がかかり、製造コストも増大するため、通常は原料のフラーレン10重付加体(II)に対して100倍モル以下、好ましくは50倍モル以下、さらに好ましくは20倍モル以下が一般的である。
【0131】
(ヨウ化剤)
工程(iib)においては、反応速度を高くするため、ヨウ化剤を用いることが好ましい。ヨウ化剤としては、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージドなどの四級アンモニウム塩のヨージド、N−エチル−N−メチルピロリジニウムヨージドなどの四級ピロリジニウム塩のヨージド、N−ブチル−N−メチルモルホリニウムヨージドなどの四級モルホリニウム塩のヨージド、N,N−ジメチルピペリジニウムヨージド、N−メチル−N−エチルピペリジニウムヨージドなどの四級ピペリジニウム塩のヨージド、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのアルカリ金属ヨウ化物などが挙げられる。好ましくは四級アンモニウム塩のヨージド、更に好ましくはテトラブチルアンモニウムヨージドである。これらは1種を単独で用いても、また、2種以上を併用してもよい。
【0132】
ヨウ化剤の使用量は、特に限定されないが、精製の負荷や、製造コストを考慮して、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類に対して通常10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、さらに好ましくは3倍モル以下である。一方、ヨウ化剤の使用量の下限は、反応促進の効果を考慮して、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類に対して、通常2倍モル以上、好ましくは2.2倍モル以上、さらに好ましくは2.5倍モル以上である。
【0133】
(反応溶媒)
工程(iib)は、一般に反応溶媒を使用して行う。用いる溶媒としては、上述のフラーレン10重付加体(II)、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類を好適に溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類及び使用量は任意である。
【0134】
ここで用いる反応溶媒としては、前述のインデン付加体(IIIa)の製造の説明において例示した溶媒を、反応阻害等の悪影響がない限り、特に制限なく用いることができる。
【0135】
また、本反応も通常100℃以上の高温で行う必要があるので、溶媒としては、前述と同様、沸点100℃以上のものが好ましい。
溶媒は、その使用量の下限が、通常、原料のフラーレン10重付加体(II)の5倍体積量、好ましくは10倍体積量、さらに好ましくは20倍体積量となるような量が使用される。
溶媒の種類や2種以上の溶媒を混合して用いる場合の比率等については前記と同様である。
【0136】
(操作及び反応条件)
上述の原料のフラーレン10重付加体(II)、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類、ヨウ化剤、並びに、反応溶媒等を混合する順序や反応条件は、保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)が製造できる限り任意であるが、ヨウ化剤存在下、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類が高濃度で存在すると、副反応が生起しやすくなるため、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類以外の原料を混合・加熱後、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類を少量ずつ分割して添加することが好ましい。
【0137】
反応時の温度条件は、反応が進行する限り特に制限されないが、上述の原料のフラーレン10重付加体(II)、1,2−ビス(ハロメチル)ベンゼン類、ヨウ化剤、並びに、反応溶媒等を混合した後の反応系の温度を、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上として実施される。またその上限は通常250℃、好ましくは200℃、より好ましくは180℃である。
【0138】
反応時間も制限されないが、原料のフラーレン10重付加体(II)、インデン類、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒を混合した後、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上で実施される。また通常2日以下、好ましくは24時間以下、さらに好ましくは12時間以下とするのが好ましい。
【0139】
反応終了後、通常は、生成した保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)を反応液から常法により単離する。単離操作は、各原料の種類によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液にイオン交換水等を加えて反応を停止させ、適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去、晶析することにより、生成物を単離する方法などが挙げられる。
【0140】
<工程(iib−2):3−イソクロマノン類を用いた保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)の製造方法>
保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)は、フラーレン10重付加体(II)と前記式(Y3)で表される3−イソクロマノン類との反応によっても製造することができる。フラーレンと3−イソクロマノン類との反応は広く知られており、例えば、フラーレンと3−イソクロマノン類の4,5−ジメトキシ−3−イソクロマノン(前記式(Y3)において、R
7及びR
10は水素原子、R
8及びR
9はメトキシ基、Yは酸素原子の化合物)との付加反応の例(Advanced Mater., 1993,5,854−856.)や、フラーレンと3−イソクロマノン類の4,5−ベンゾ−3,6−ジヒドロ−1,2−オキサチイン−2−オキシド(前記式(Y3)において、R
7〜R
10は水素原子、Yは硫黄原子の化合物)との付加反応の例(Tetrahedron Lett.,1995,36,8307−8310.)が知られている。これらの知見から、フラーレン10重付加体(II)と3−イソクロマノン類との付加反応を行うことで、保護化されたキノジメタン付加体(IIIb)の合成は可能である。
【0141】
{工程(iic):保護化されたメタノフラーレン誘導体(IIIc)の製造方法}
以下、下記式で示される工程(iic)における保護化されたメタノフラーレン誘導体(IIIc)の製造方法をR
3及びR
4の場合に分けて説明する。
【0143】
<工程(iic−1):R
3及びR
4が水素原子の場合:保護化されたジヒドロメタノフラーレン誘導体(IIIc−1)の製造方法>
【化20】
【0144】
ジヒドロメタノフラーレンはフラーレンC
60誘導体を原料として、非特許文献(J.Am.Chem.Soc.2011,133,8086−8089.)に従って合成することができる。この知見に従い、10重付加体(II)を原料とすることで、保護化されたジヒドロメタノフラーレン誘導体(IIIc−1)の合成は可能である。
【0145】
<工程(iic−2):R
3及びR
4がアルコキシカルボニル基の場合:保護化されたマロン酸エステル付加体(IIIc−2)の製造方法>
【化21】
【0146】
フラーレンマロン酸エステル付加体はフラーレンC
60を原料として、特許文献(特開2005−263795号公報)に従って合成することができる。この知見に従い、フラーレン10重付加体(II)を原料とすることで、保護化されたマロン酸エステル付加体(IIIc−2)の合成は可能である。
【0147】
<工程(iic−3):R
3がフェニル基、R
4がアルコキシカルボニル−3−プロピル基の場合:保護化されたPCBM付加体(IIIc−3)の製造方法>
【化22】
【0148】
保護化されたPCBM付加体(IIIc−3)は、塩基の存在下、原料のフラーレン10重付加体(II)とp−トシルヒドラゾン類の付加反応(工程(iic−3))による方法により製造することができる。
【0149】
(p−トシルヒドラゾン類)
工程(iic−3)における反応試剤としてのp−トシルヒドラゾン類は、上記式(Y4)で表される化合物であり、式(Y4)中、R
16は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数4〜10の芳香族基からなる群より選ばれる置換基を表す。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であってもよい。)のアルキル基、シクロヘキシル基などの環状のアルキル基、フェニル基、ピリジル基、チオフェン基など芳香族基といった炭化水素基が挙げられる。これらの置換基は、工程(iic−3)において反応を阻害しない範囲で更に任意の置換基で置換されていても良い。
中でも合成が容易であることから、p−トシルヒドラゾン類としてはアルキル4−ベンゾイル酪酸p−トシルヒドラゾンを用いるのが好ましく、メチル4−ベンゾイル酪酸p−トシルヒドラゾンが特に好ましい。
【0150】
異なる2種以上のp−トシルヒドラゾン類を用いてもよいが、精製の簡便性から、1種類のp−トシルヒドラゾン類を用いることが好ましい。
【0151】
p−トシルヒドラゾン類の使用量は、原料であるフラーレン10重付加体(II)に対して、下限は特に制限はないが、使用量が少なすぎると、反応進行が不十分となりやすく、目的とする保護化されたPCBM付加体(IIIc−3)の収率が低下する。そのため、その使用量としては通常、原料のフラーレン10重付加体(II)に対して2倍モル以上、好ましくは5倍モル以上、さらに好ましくは10倍モル以上である。上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると、精製に負荷がかかり、製造コストも増大するため、通常は100倍モル以下、好ましくは50倍モル以下、さらに好ましくは30倍モル以下である。
【0152】
(塩基)
塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウムなどの燐酸のアルカリ金属塩、n−ブチルリチウム、ターシャリブチルリチウムなどの有機リチウム塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムターシャリーブトキシドなどのアルカリ金属のアルコキシド塩、水素化ナトリウムや水素化カリウムなどの水素化アルカリ金属塩、トリエチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどの三級アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの四級アンモニウムヒドロキシドなどが用いられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0153】
これらの中で好ましくは、本反応において十分な塩基性を有する、アルカリ金属のアルコキシドであり、より好ましくは、工業的に安価なナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシドである。ここでアルカリ金属のアルコキシドは、粉状のものを用いてもよく、アルコール溶液等の液状のものを用いてもよい。また、アルカリ金属とアルコールを反応させて調製してもよい。
【0154】
塩基の使用量は、特に制限はないが、使用量が多すぎると、精製に負荷がかかり、製造コストも増大するため、p−トシルヒドラゾン類に対して、通常は10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、さらに好ましくは2.5倍モル以下である。使用量が少なすぎると、反応の進行が遅く、目的とする保護化されたPCBM付加体(IIIc−3)の収率が低下する。そのため、通常p−トシルヒドラゾン類に対して、1倍モル以上、好ましくは1.05倍モル以上、さらに好ましくは1.1倍モル以上である。
【0155】
(反応溶媒)
工程(iic−3)は、一般に反応溶媒を使用して行う。用いる溶媒としては、上述のフラーレン10重付加体(II)、p−トシルヒドラゾン類、塩基を好適に溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類及び使用量は任意である。
【0156】
ここで用いる反応溶媒としては、前述のインデン付加体(IIIa)の製造の説明において例示した溶媒を、反応阻害等の悪影響がない限り、特に制限なく用いることができるが、中でも、原料である10重付加体(II)を好適に溶解させることができる観点から、1,2−ジクロロベンゼン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレンが好ましい。
なお、反応溶媒は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0157】
溶媒の使用量は、特に制限はないが、多すぎると反応の進行が遅くなってしまうため、通常、原料のフラーレン10重付加体(II)の200倍体積量以下、好ましくは100倍体積量以下、さらに好ましくは80倍体積量以下となるような量が使用される。溶媒の使用量が少なすぎると試剤の溶解性が悪くなり攪拌が難しくなるとともに反応の進行が遅くなるので、通常、原料のフラーレン10重付加体(II)の10倍体積量以上、好ましくは20倍体積量以上、さらに好ましくは40倍体積量以上となるような量が使用される。
【0158】
(操作及び反応条件)
上述の原料のフラーレン10重付加体(II)、p−トシルヒドラゾン類、塩基、並びに、反応溶媒等を混合する順序や反応条件は、保護化されたPCBM付加体(IIIc−3)が製造できる限り任意である。また、反応系には、反応の進行を阻害しない限り上述したもの以外の成分を含有させてもよい。
【0159】
反応時の温度条件は、反応が進行する限り特に制限されないが、上述の原料のフラーレン10重付加体(II)、p−トシルヒドラゾン類、塩基、並びに、反応溶媒等を混合した後の反応系の温度を、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上として実施される。また通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。
反応時間も制限されないが、原料のフラーレン10重付加体(II)、p−トシルヒドラゾン類、塩基、並びに、反応溶媒を混合した後、通常1時間以上、好ましくは4時間以上、より好ましくは8時間以上で実施される。また通常5日以下、好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下にわたって反応させることが好ましい。
【0160】
反応終了後、通常は、生成した保護化されたPCBM付加体(IIIc−3)を反応液から常法により単離する。単離操作は、各原料の種類によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液にイオン交換水等を加えて反応を停止させ、適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去、晶析することにより、生成物を単離する方法などが挙げられる。
【0161】
<工程(iid):保護化された1,2−付加体(IIId)の製造方法>
以下、下記式で示される工程(iid)における保護化された1,2−付加体(IIId)の製造方法をR
5及びR
6の場合に分けて説明する。
【化23】
【0162】
<工程(iid−1):R
5及びR
6が水素原子の場合:保護化された水素化フラーレン誘導体(IIId−1)の製造方法>
【化24】
【0163】
水素化フラーレン誘導体はフラーレンC
60を原料として、特許文献(特開2004−231451号公報)に従って合成することができる。この知見に従い、フラーレン10重付加体(II)を原料とすることで、保護化された水素化フラーレン誘導体(IIId−1)の合成が可能である。
【0164】
<工程(iid−2):R
5及びR
6がヒドロキシル基の場合:保護化された水酸化フラーレン誘導体(IIId−2)の製造方法>
【化25】
【0165】
水酸化フラーレン誘導体はフラーレンC
60を原料として、特許文献(特開平7−48302号公報、特開2002−80414号公報、特開2004−168752号公報)に従って合成することができる。この知見に従い、フラーレン10重付加体(II)を原料とすることで、保護化された水酸化フラーレン誘導体(IIId−2)の合成が可能である。
【0166】
<工程(iid−3):R
5が水素原子、R
6がR
17の場合:保護化されたグリニャール試薬による付加体(IIId−3)の製造方法>
【化26】
【0167】
グリニャール試薬による付加体はフラーレンC
60を原料として、非特許文献(J.Am.Chem.Soc.2008,130,15429−15436.)に従って合成することができる。この知見に従い、フラーレン10重付加体(II)を原料とすることで、保護化されたグリニャール試薬による付加体(IIId−3)の合成が可能である。
【0168】
<工程(iie):保護化されたプラトー付加体(IIIe)の製造方法>
【化27】
【0169】
プラトー付加体はフラーレンC
60を原料として、非特許文献(J.Am.Chem.Soc.1993,115,9798−9799.)に従って合成することができる。この知見に従い、フラーレン10重付加体(II)を原料とすることで、保護化されたプラトー付加体(IIIe)の合成が可能である。
【0170】
{工程(iii):フラーレンC
60誘導体(IV)の製造方法}
【化28】
【0171】
付加反応後のフラーレン誘導体(III)は、Aの水酸基に保護基が導入された状態となっている。よって、得られた保護化されたフラーレン誘導体(III)に対し、保護基の種類に対応した脱保護剤を作用させ、保護基を脱離させる(この反応を「脱保護反応」という場合がある。)ことで、目的とする本発明のフラーレンC
60誘導体(IV)を製造することができる。この際、脱保護剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0172】
例えば、保護基がメチル基である場合、脱保護剤の例としては、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、トリメチルシリルヨージド等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、三臭化ホウ素、トリメチルシリルヨージドが好ましい。なお、これらの脱保護剤の取扱が困難な場合は、in situで発生させる方法を用いても構わない。
これらの脱保護剤の使用量は前記の保護基を脱離させることができる限り任意であるが、対応する保護基(メチル基)に対する割合で、通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、より好ましくは1.4倍モル以上、また、通常10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、より好ましくは3倍モル以下とすることが望ましい。脱保護剤の使用量が多過ぎると、製造コストの点で不利となる場合があり、脱保護剤の使用量が少な過ぎると、反応が完結しない場合がある。なお、脱保護剤を2種以上併用する場合、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0173】
上記の脱保護反応は、通常、保護化されたフラーレン誘導体(III)を有機溶媒に溶解又は懸濁させた状態で行う。反応に使用する有機溶媒は、脱保護反応を阻害したり、好ましくない反応を生じるものでない限り、任意に選択して構わない。有機溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン等のハロゲン系炭化水素;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;等が挙げられる。これらの有機溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0174】
保護化されたフラーレン誘導体(III)に対して使用する有機溶媒の量は任意であるが、有機溶媒中における保護化されたフラーレン誘導体(III)の濃度が、通常1mg/mL以上、好ましくは10mg/mL以上、より好ましくは15mg/mL以上、また、通常1000mg/mL以下、好ましくは500mg/mL以下、より好ましくは100mg/mL以下となるようにすることが望ましい。
【0175】
また、いずれの脱保護反応に関しても、反応が進行する限り、保護化されたフラーレン誘導体(III)、脱保護剤、有機溶媒等の混合順序、あるいは反応条件も特に限定されない。
ただし、その温度条件は、脱保護反応の種類によって大きく異なるが、操作の簡便性を考慮して通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常180℃以下、好ましくは120℃以下とすることが望ましい。
また、反応時間は、通常30分以上、好ましくは2時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは10時間以下とすることが望ましい。
【0176】
反応終了後、通常は、生成した本発明のフラーレン誘導体を反応液から常法により単離する。単離操作は、各反応の種類によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液にイオン交換水や亜硫酸水溶液等を加えて反応を停止させ、そのまま適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去することにより、生成物を単離することができる。
【0177】
得られた本発明のフラーレンC
60誘導体(IV)は、必要に応じて適宜、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、再結晶等の手法で精製してもよい。
【0178】
なお、本発明フラーレンC
60誘導体は、通常、プロトン核磁気共鳴スペクトル法(以下適宜「
1H−NMR」という場合がある。)、カーボン核磁気共鳴スペクトル法(以下適宜「
13C−NMR」という場合がある。)、赤外線吸収スペクトル法(以下適宜、「IR」という場合がある。)、質量分析法(以下適宜「MS」という場合がある。)、元素分析等の一般的な有機分析により、その構造を確認することができる。この他、フラーレン誘導体の結晶性がよい場合は、X線結晶回折法によって構造を確認できる場合もある。
【0179】
<酸解離性保護基の導入方法>
本発明のフラーレンC
60誘導体は、以下の(1)〜(4)の方法で、フェノール性水酸基に酸解離性保護基を導入することができるが、酸不安定基の導入方法は以下の例に限定されるものではない。
【0180】
(1)エステル化剤と反応させて、エステル化する。
(2)カーボネート化剤と反応させて、カーボネート化する。
(3)エーテル化剤と反応させて、エーテル化する。
(4)アセタール化剤と反応させて、アセタール化する。
さらに上記(1)〜(4)の方法の他にも、例えば特開2006−56878号公報等に記載の方法を参照することができる。
【0181】
[フラーレン誘導体溶液]
本発明のフラーレンC
60誘導体は、適切な溶媒に溶解させてフラーレン誘導体溶液とすることにより、様々な用途に用いることができる。
【0182】
本発明のフラーレン誘導体溶液における溶媒の種類は任意であるが、溶媒として有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒として任意の有機溶媒を用いることができるが、中でも、本発明のフラーレンC
60誘導体はヒドロキシル基を有し、エステル系溶媒等の極性有機溶媒に対して高い溶解性を示すので、極性を有する有機溶媒(極性有機溶媒)を使用することが好ましい。なお、溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0183】
極性有機溶媒の種類は制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール(アルコール系溶媒);アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル(エステル系溶媒);テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のエーテルアルコール;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の上記エーテルアルコール類と酢酸等の酸とのエステル化合物であるエーテルエステル(エステル系溶媒);N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0184】
中でも、工業的な用途で用いられることが多いことを考慮すると、本発明のフラーレン誘導体溶液に用いる溶媒として、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、エステル系溶媒を用いることが好ましく、特に、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)、乳酸エチル等のエステル系溶媒を用いることが好ましい。
【0185】
また、本発明のフラーレン誘導体溶液に用いる溶媒として、塩基性溶媒も好ましく用いられる。塩基性溶媒の種類は、本発明のフラーレンC
60誘導体が溶解するものであれば制限されないが、例えば、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、メチルジエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)−7−ウンデセン、ジメチルエタノールアミン等の塩基性有機溶媒;水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、アンモニア水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等のアルカリ水溶液等が挙げられる。なお、アルカリ水溶液の場合、その溶質の濃度は任意である。
【0186】
本発明のフラーレン誘導体溶液における本発明のフラーレンC
60誘導体の濃度は任意である。また、本発明のフラーレン誘導体溶液中、本発明のフラーレンC
60誘導体は溶媒に完全溶解していることが好ましいが、一部溶解できずに懸濁していてもよく、又は沈殿していても構わない。
【0187】
本発明のフラーレンC
60誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、本発明のフラーレン誘導体溶液は、本発明のフラーレンC
60誘導体及び溶媒に加えて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は1種のみを含有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
【0188】
本発明のフラーレンC
60誘導体を溶媒に溶解させることができれば、本発明のフラーレン誘導体溶液の調製方法に制限はないが、通常、所定の装置で攪拌しながら溶解させる手法、超音波を照射する手法等により調製することができる。また、本発明のフラーレンC
60誘導体及び溶媒、並びに必要に応じて用いられるその他の成分の混合順序も、特に制限はない。
【0189】
本発明のフラーレン誘導体溶液は、安定性、操作性等の観点から通常25℃で調製されるが、溶媒の沸点以下であれば、加熱しながら溶解させ、保管することができる。また、本発明のフラーレンC
60誘導体が析出する可能性があるが、25℃以下の低温下で調製、保管することもできる。
【0190】
[フラーレン誘導体膜]
本発明のフラーレンC
60誘導体は、エステル系溶媒等に高溶解性を示すため、通常は、本発明のフラーレン誘導体溶液を塗布し、溶媒を除去(例えば加熱乾燥等)することでフラーレン誘導体膜を製造することができる。この際用いる溶液には、本発明のフラーレンC
60誘導体、溶媒の他、本発明のフラーレンC
60誘導体が有する優れた物性を大幅に損なうものでなければ、他の任意の成分を含有していてもよい。なお、その他の成分は1種類のみを含有していてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
また、本発明のフラーレンC
60誘導体膜は、同一組成の単層膜であってもよく、異なる組成を有する膜が2層以上積層された多層膜であってもよい。
【0191】
本発明のフラーレン誘導体溶液の塗布方法としては、例えばスプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法など任意の方法を選択することができる。複数の方法を組み合わせて行ってもよい。また、塗布する基板にも制限はなく、例えば、有機被膜、シリコン基板、ポリシリコン膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜などのシリコン被膜、金属配線などの無機被膜が挙げられる。この際、1種の基板を単独で用いてもよく、2種以上の基板を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0192】
フラーレン誘導体溶液の塗布後、溶媒を除去するための方法は任意であるが、通常は塗布膜の加熱乾燥処理を行って溶媒を除去する。加熱乾燥処理は、通常80℃以上300℃以下で、通常10秒以上300秒以下の範囲で加熱を行うことが好ましい。本発明のフラーレンC
60誘導体は、通常の有機化合物に比べて熱安定性に優れるため、熱分解することなく安定な膜を形成することができる。また、加熱は、大気下、又はアルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。なお、不活性ガスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0193】
本発明のフラーレン誘導体膜における膜厚は、用途によって大きく異なり一律に限定はできないが、通常10nm以上であり、好ましくは30nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは300nm以下である。
【0194】
[用途]
本発明のフラーレンC
60誘導体、本発明のフラーレン誘導体溶液、及び本発明のフラーレン誘導体膜の代表的な用途として、後述のEUV光又はEB露光用レジスト組成物が挙げられるが、その他の用途の例を以下に具体的に説明する。ただし、本発明のフラーレンC
60誘導体の機能が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
【0195】
<フォトレジスト用途>
従来、フォトレジストは、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系又はノボラック系の樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤、感光剤等とを組み合わせた組成物が広く用いられている。本発明のフラーレンC
60誘導体は、通常、フォトレジストに使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、フラーレン誘導体単独でもレジスト膜を形成することが可能である。なお、フォトレジストの露光源としては、従来開発されているKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、極UV光(EUV)や電子線(EB)なども適用が可能である。
【0196】
このように本発明のフラーレンC
60誘導体をフォトレジストの分野に用いた場合、フラーレン骨格を有するため、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現ができる。また、本発明のフラーレンC
60誘導体又は本発明のフラーレン誘導体溶液を用いて形成したレジスト膜は、反射防止膜としての機能も有するので、多層膜の一層として、特に反射防止膜や塗布型のマスク材(ハードマスク)としても優れた機能を発揮することが期待される。
【0197】
<半導体製造用途>
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
【0198】
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行なう方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行なう方法;などが知られている。本発明のフラーレンC
60誘導体は、通常、上記の熱可塑性重合体、硬化性物質等に使用される溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、上記熱可塑性重合体に高濃度で充填することが可能である。
【0199】
このように本発明のフラーレンC
60誘導体をナノインプリント法に用いた場合、溶媒に対する本発明のフラーレンC
60誘導体の溶解性が高いので、本発明のフラーレンC
60誘導体の熱可塑性重合体中での凝集が抑制され、分子状分散となる。このため、高解像度を実現することが可能である。さらに、本発明のフラーレンC
60誘導体又は本発明のフラーレン誘導体溶液をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能であることから、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0200】
<低誘電率絶縁材料用途>
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来のより高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、かつ信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。本発明のフラーレンC
60誘導体は、通常、上記用途に使用される溶媒への溶解度が高いので、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度で他の材料と複合化することが可能である。また、フラーレン誘導体単独で成膜することも可能である。この際、本発明のフラーレンC
60誘導体は、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、複合化して用いる際にはフィラーとしての機械的強度の向上効果を有することができ、これにより、従来無かった優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
【0201】
<太陽電池用途>
有機太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるものの、エネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していないことが多い。この点を克服するためのものとして、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン並びにフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれとが分子レベルで混合するので、非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
【0202】
本発明のフラーレンC
60誘導体は、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いため、p型半導体と効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のフラーレンC
60誘導体は、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質を有している。従って、本発明のフラーレンC
60誘導体又は本発明のフラーレン誘導体溶液を用いることで、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。さらにこの高い溶解性を利用し、導電性高分子等の電子供与体層との層分離制御や誘導体分子の整列配向性・細密充填性などのモルフォロジー制御を可能にし、これにより特性の向上が実現できる上、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
【0203】
<半導体用途>
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的に、フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。
【0204】
本発明のフラーレンC
60誘導体は、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いことにより、塗布による成膜が容易であり、また、n型半導体としてのフラーレンの本質的な性質は保持している。これにより、本発明のフラーレンC
60誘導体は、低コスト、高性能な有機半導体として利用されることが期待できる。
【0205】
<原料中間体としての用途>
本発明のフラーレンC
60誘導体を出発原料として、例えば、上記式(1)におけるR
2中のフェノール性水酸基に特定の有機基(保護基)を導入する工程を経て、新たな機能を有するフラーレン誘導体を製造することができる。以下、その有機基の導入方法に関して代表例を記すが、以下の例に限定されるものではない。
【0206】
具体的な有機基の導入方法は、導入する有機基の種類に応じて様々である。その例を挙げると、以下のようなものが挙げられる。
(1)本発明のフラーレンC
60誘導体をエステル化剤と反応させて、エステル化する。
(2)本発明のフラーレンC
60誘導体をカーボネート化剤と反応させて、カーボネート化する。
(3)本発明のフラーレンC
60誘導体をエーテル化剤と反応させて、エーテル化する。
(4)本発明のフラーレンC
60誘導体をウレタン化剤と反応させて、ウレタン化する。
【0207】
さらに、上記(1)〜(4)の方法のほかにも、本発明のフラーレンC
60誘導体に有機基を導入する条件は、例えば特開2006−56878号公報等に記載の方法を参照することができる。
【0208】
[レジスト組成物]
本発明のEUV光又はEB露光用レジスト組成物(以下、「本発明のレジスト組成物」と称す場合がある。)は、本発明のフラーレンC
60誘導体又は該フラーレンC
60誘導体の水酸基を前述の酸解離性保護基で保護した誘導体(A)(以下、これらを「フラーレンC
60誘導体(A)」と称す。)を基材成分として含み、露光により酸を発生する酸発生剤(B)、含窒素有機化合物(C)、及び有機溶媒(D)を含有することを特徴とする。
【0209】
本発明のレジスト組成物に含まれるフラーレンC
60誘導体(A)は、酸の作用によりアルカリ現像液溶解性が増大するものであってもよく、また低減するものであってもよい。本発明のレジスト組成物は、フラーレンC
60誘導体(A)が前者の場合はポジ型レジスト組成物となり、後者の場合はネガ型レジスト組成物となる。即ち、本発明のレジスト組成物は、ポジ型レジスト組成物であってもよく、ネガ型レジスト組成物であってもよい。
【0210】
本発明のレジスト組成物は、ネガ型レジスト組成物である場合、通常フラーレンC
60誘導体(A)、露光により酸を発生する酸発生剤(B)並びに含窒素有機化合物(C)及び有機溶媒(D)に加えて、必要に応じて更に架橋剤成分(E)を含有している。
ネガ型レジスト組成物は、レジストパターン形成時に露光により酸が発生すると、当該酸が作用してフラーレンC
60誘導体(A)と架橋剤成分(E)との間で架橋が起こり、レジスト組成物が露光部においてアルカリ現像液可溶性から不溶性へと変化し、アルカリ現像が可能となる。
【0211】
本発明のレジスト組成物が、ポジ型レジスト組成物である場合は、通常フラーレンC
60誘導体(A)として前述の酸解離性保護基が導入されたものが用いられる。ポジ型レジスト組成物は、レジストパターン形成時に露光により酸が発生すると、当該酸が作用して酸解離性保護基が反応し、解離することによって、レジスト組成物が露光部においてアルカリ現像液不溶性から可溶性へと変化し、アルカリ現像工程が可能となる。
【0212】
<フラーレンC
60誘導体(A)の含有量>
本発明のレジスト組成物において、基材成分であるフラーレンC
60誘導体(A)の含有量は、酸発生剤(B)、含窒素有機化合物(C)、更に、ネガ型レジスト組成物の場合に含まれる架橋剤成分(E)が、それぞれ、フラーレンC
60誘導体(A)に対する好適範囲でレジスト組成物中に含有され、その量は有機溶媒(D)により、後述の好適な固形分濃度に調整される範囲において任意である。具体的には、レジスト組成物の塗布性と、感度やパターン形成性等のレジストとしての性能とのバランスの点において、レジスト組成物中の全固形分の合計に対して40〜98重量%、特に50〜90重量%であることが好ましい。なお、ここで「固形分」とは、レジスト組成物中の有機溶媒(D)以外の成分をさす。
【0213】
<酸発生剤(B)>
酸発生剤(B)は、EUV光又はEB露光により酸を発生させて、その作用により基材成分であるフラーレンC
60誘導体(A)のアルカリ溶解性を変化させるものである。
【0214】
本発明で用いる酸発生剤(B)としては特に限定されず、従来、化学増幅型レジスト組成物用の酸発生剤として提案されているものを使用することができる。このような酸発生剤としては、ヨードニウム塩やスルホニウム塩等のオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤、グリオキシム系酸発生剤、ジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ジスルホン系酸発生剤等が挙げられる。中でも、オニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤が好ましく、オニウム塩系酸発生剤がより好ましく、特にスルホニウム塩系(下記式(11))又はヨードニウム塩系(下記式(12))の酸発生剤が好ましい。
【0216】
(式(11)、(12)中、R
21〜R
23は、各々独立に炭素数1〜20の有機基を表し、R
24は直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基又はフッ素化アルキル基を表す。R
21とR
22は相互に結合して環を形成していてもよい。)
【0217】
式(11)中のR
21〜R
23、式(12)のR
21,R
22の炭素数1〜20の有機基としては、例えば、直鎖状、分岐鎖状又は環状の、アルキル基、アルケニル基、オキシアルキル基又はオキシアルケニル基や、置換基を有していてもよいアリール基、アラルキル基又はアリールオキシアルキル基が挙げられる。これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基等によって置換されていてもよい。また、R
21とR
22とは互いに結合して環を形成していてもよく、環を形成する場合はR
21とR
22はそれぞれ炭素数1〜10のアルキレン基を示す、即ち、S
+又はI
+を含めて員数3〜21の環を形成するものが挙げられる。また、R
21〜R
23は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0218】
R
21〜R
23の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロプロピルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基;2−オキシシクロペンチル基、2−オキシシクロヘキシル基、2−オキシプロピル基、2−シクロペンチル−2−オキシエチル基、2−シクロヘキシル−2−オキシエチル基、2−(4−メチルシクロヘキシル)−2−オキシエチル基等のオキシアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;p−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、o−メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、p−tert―ブトキシフェニル基、m−tert―ブトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、エチルフェニル基、4−tert―ブチルフェニル基、4−ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基等のアルキルフェニル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基、ジメチルナフル基、ジエチルナフチル基等のアルキルナフチル基、メトキシナフチル基、エトキシナフチル、ジメトキシナフチル基、ジエトキシナフチル基等のアルコキシナフチル基などの置換基を有するアリール基;ベンジル基、フェネチル基(フェニルエチル基)等のアラルキル基、2−フェニル−2−オキシエチル基、2−(1−ナフチル)−2−オキシエチル基、2−(2−ナフチル)−2−オキシエチル基等の2−アリール−2−オキシアルキル基等が挙げられる。
【0219】
これらの中でも、アリール基が好ましく、特にフェニル基やナフチル基が好ましい。
【0220】
式(11)及び式(12)中のR
24は、直鎖状、分岐鎖状又は環状の、アルキル基又はフッ素化アルキル基を表す。直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、通常炭素数1〜12であることが好ましく、また炭素数1〜8であることが更に好ましく、炭素数1〜4であることが最も好ましい。また、環状のアルキル基としては、炭素数4〜12であることが好ましく、また炭素数5〜10であることが更に好ましく、炭素数6〜10であることが最も好ましい。
【0221】
これらのアルキル基の水素原子の少なくとも一部はフッ素原子によって置換されていることが好ましい。フッ素原子への置換率は、通常10〜100%であり、好ましくは50〜100%である。特に水素原子をすべてフッ素原子で置換したパーフルオロアルキル基が、酸の強度(pKa)が強くなる観点で好ましい。
【0222】
酸発生剤(B)としては、これらの酸発生剤の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上組み合わせる場合は、その種類と比率は任意である。
【0223】
本発明においては、酸発生剤(B)として、特にフッ素化アルキルスルホン酸イオン又はジアルキルアリールヨードニウムイオンを与えるオニウム塩系酸発生剤を用いることが好ましい。
【0224】
本発明のレジスト組成物における酸発生剤(B)の含有量は、基材成分であるフラーレンC
60誘導体(A)に対して通常1〜50重量%が好ましく、3〜40重量%が更に好ましく、5〜30重量%が最も好ましい。上記範囲とすることで、EUV光又はEB露光によるパターン形成が充分に行われる。また、均一な溶液が得られ、保存安定性が良好となるため好ましい。
【0225】
<含窒素有機化合物(C)>
本発明のレジスト組成物は、ポジ型及びネガ型のいずれの場合においても、レジストパターン形状、引き置き経時安定性等を向上させるために、含窒素有機化合物(C)を含有する。この含窒素有機化合物(C)はこれまでに報告されている任意のものを使用すればよいが、環状アミン、脂肪族アミンが好ましい。特に、第2級脂肪族アミン、第3級脂肪族アミンが好ましく、第3級脂肪族アミンが最も好ましい。ここで脂肪族アミンとは、1つ以上の脂肪族基を有するアミンであり、その炭素数は1〜15が好ましい。
【0226】
含窒素有機化合物(C)の具体例としては、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン等の第1級脂肪族アルキルアミン;ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジ−n−ヘプチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の第2級脂肪族アルキルアミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、トリ−n−ヘプチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−ノニルアミン、トリ−n−デカニルアミン、トリ−n−ドデシルアミン等の第3級脂肪族アルキルアミン;ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジ−n−オクタノールアミン、トリ−n−オクタノールアミン等のアルキルアルコールアミン等が挙げられる。
【0227】
また、他の具体例としては、ピペリジン、ピペラジン等の脂肪族単環式アミン;1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]−オクタン、ヘキサメチレンテトラミン等の脂肪族多環式アミンが挙げられる。
【0228】
これらの中でも、炭素数5〜10の第3級脂肪族アミンが好ましく、特に炭素数8のトリ−n−オクチルアミンが好ましい。
【0229】
含窒素有機化合物(C)としては、これらの含窒素有機化合物の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上組み合わせる場合は、その種類と比率は任意である。
【0230】
本発明のレジスト組成物における含窒素有機化合物(C)の含有量は、基材成分であるフラーレンC
60誘導体(A)に対して通常0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%が更に好ましく、1〜5重量%が最も好ましい。含窒素有機化合物(C)の含有量が多すぎる場合はレジスト組成物中の酸を過剰に捕捉しEUV光感度又はEB感度が低くなることがあり、少なすぎる場合はレジスト組成物中の酸を充分に捕捉できずLER、LWR、解像度が悪化することがある。
【0231】
<有機溶媒(D)>
本発明のレジスト組成物は、ポジ型及びネガ型のいずれの場合においても、有機溶媒(D)を含有する。この有機溶媒(D)は使用する各成分を溶解させ、均一な溶液になるものであればよく、従来の化学増幅型レジスト組成物の有機溶媒としてこれまでに報告されている任意のものを使用することができる。
【0232】
有機溶媒(D)の具体例としては、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル化合物;前記多価アルコール類又は前記エステル化合物のモノメチルエーテル体、モノエチルエーテル体、モノプロピルエーテル体、モノブチルエーテル体等のモノアルキルエーテル体が挙げられる。
【0233】
また、ジオキサン等の環状エーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル等のエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族系有機溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド等のアミン類などが挙げられる。
【0234】
これらの中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、とりわけプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒が好ましい。
【0235】
有機溶媒(D)としては、これらの有機溶媒の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上組み合わせる場合は、その種類と比率は任意である。
【0236】
有機溶媒(D)の使用量は特に制限はないが、本発明のレジスト組成物を基板等に塗布可能な粘度及び濃度となるように、塗布膜厚に応じて適宜設定すればよい。有機溶媒(D)は、本発明のレジスト組成物の固形分濃度が通常0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲になるように用いられる。
【0237】
<架橋剤成分(E)>
本発明のレジスト組成物は、ネガ型レジスト組成物として用いる場合には、架橋剤成分(E)を含有することが好ましい。この架橋剤成分(E)は特に限定されず、従来の化学増幅型ネガレジスト組成物に用いられている架橋剤の中から任意のものを使用することができる。
【0238】
架橋剤成分(E)の具体例としては、2,3−ジヒドロキシ−5−ヒドロキシメチルノルボルナン、2−ヒドロキシ−5,6−ビス(ヒドロキシメチル)ノルボルナン、シクロヘキサンジメタノール、3,4,8−トリヒドロキシトリシクロデカン、3,4,9−トリヒドロキシトリシクロデカン、2−メチル−2−アダマンタノール、1,4−ジオキサン−2,3−ジオール、1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサン等のヒドロキシル基又はヒドロキシアルキル基を有する脂肪族環状炭化水素、又はその含酸素誘導体が挙げられる。
【0239】
また、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、グリコールウリル等のアミノ基含有化合物にホルムアルデヒド、又はホルムアルデヒドと低級アルコールを反応させ、該アミノ基の水素原子をヒドロキシメチル基、又は低級アルコキシメチル基等で置換した化合物が挙げられる。
【0240】
これらのうち、アミノ基含有化合物としてメラミンを用いたものをメラミン系架橋剤、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素等を用いたものを尿素系架橋剤、グリコールウリルを用いたものをグリコールウリル系架橋剤という。これらのうち、メラミン系架橋剤が特に好ましい。
【0241】
メラミン系架橋剤としては、メラミンとホルムアルデヒドを反応させて、アミノ基の水素原子をヒドロキシメチル基で置換した化合物、メラミンとホルムアルデヒドと低級アルコールとを反応させて、アミノ基の水素原子を低級アルコキシメチル基で置換した化合物等が挙げられる。具体例としては、ヘキサメトキシメチルメラニン、ヘキサエトキシメチルメラニン、ヘキサプロポキシメチルメラニン、ヘキサブトキシメチルメラニン等が挙げられ、なかでもヘキサメトキシメチルメラニンが好ましい。
【0242】
架橋剤成分(E)としては、これらの架橋剤成分の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上組み合わせる場合は、その種類と比率は任意である。
【0243】
本発明のネガ型レジスト組成物における架橋剤成分(E)の含有量は、基材成分であるフラーレンC
60誘導体(A)に対して通常1〜50重量%が好ましく、3〜40重量%が更に好ましく、5〜30重量%が最も好ましい。上記範囲とすることで、上記基材成分(A)との架橋反応が十分進行し、良好なレジストパターンが形成される上、レジスト組成物の保存安定性が良好であり、EUV光感度又はEB感度の経時的劣化が抑制される。
【0244】
<レジスト組成物の調製方法>
本発明のレジスト組成物の調製方法に制限はないが、基材成分であるフラーレンC
60誘導体(A)、露光により酸を発生する酸発生剤(B)、含窒素有機化合物(C)及び有機溶媒(D)、更に、ネガ型レジスト組成物の場合には架橋剤成分(E)を所定の装置で攪拌しながら溶解させる手法、超音波を照射する手法等により調製することができる。調製されたレジスト組成物は、必要に応じてフィルター濾過を行って精製してもよい。
【0245】
なお、本発明のレジスト組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、基材成分であるフラーレンC
60誘導体(A)、露光により酸を発生する酸発生剤(B)、含窒素有機化合物(C)及び有機溶媒(D)、更に、ネガ型レジスト組成物に用いられる架橋剤成分(E)以外の他の成分、例えば界面活性剤、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、着色剤、ハレーション防止剤、染料等が含まれていてもよい。
【0246】
[レジストパターン形成方法]
本発明のレジスト組成物を用いてレジストパターンを形成するには、通常、本発明のレジスト組成物を基板上に塗布してレジスト膜を形成する工程、形成されたレジスト膜を加熱処理する工程、加熱処理後のレジスト膜を選択的にEUV光又はEB露光する工程、及びEUV光又はEB露光後のレジスト膜を現像してレジストパターンを形成する工程を順次行う。なお、露光後のレジスト膜は、現像前に必要に応じて再度加熱処理してもよい。
【0247】
<レジスト膜を形成する工程:塗布工程>
本発明のレジスト組成物を、基板上に、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法などの任意の塗布方法を用いて塗布することによりレジスト膜を形成することができるが、塗布方法としては、均一な薄膜が形成できる観点でスピンコート法が好ましい。
【0248】
塗布対象となる基板に制限はなく、その寸法、形状は任意である。また、基板の材質にも制限はないが、例えば半導体集積回路の製造プロセスにおいては、通常シリコン(Si)基板、さらにSiC、窒化物半導体、ダイヤモンド等のワイドギャップ半導体、GaAsやAlGaAsなどの化合物半導体基板が用いられる。また、レジスト膜が形成される基板で、ドライエッチングなどにより所望のパターンに加工したい薄膜材料としては、ポリシリコン薄膜、又はポリシリコン薄膜と金属薄膜との積層膜、Al、W、Cu、Moなどの金属薄膜、Si酸化膜、Si窒化膜、Si酸窒化膜などの絶縁体薄膜などが挙げられる。また上記所望のパターンに加工したい薄膜材料上に有機膜を1nm以上、30nm以下、好ましくは3nm以上、25nm以下、最も好ましくは5nm以上、20nm以下に形成し、その上層に本発明のレジスト組成物のレジスト膜を形成することもある。
【0249】
さらにいわゆる多層レジスト構造における上層レジストとして本発明のレジスト組成物のレジスト膜が表面に形成されることもある。典型的な多層レジスト構造は、表面から上層レジスト、中間層、下層構造となる。又は、必要に応じてさらに層数が増えることもある。たとえば上記所望の加工対象薄膜上に、下層として塗布型カーボン膜、中間層として有機Si系膜、その上層に有機膜、最上層に本発明のレジスト組成物のレジスト膜といった順に形成される。下層としては塗布型カーボン膜の他に、スパッタにより形成されたカーボン膜、スピンコートにより形成され、熱処理を施した有機膜なども用いられる。また、中間層としては有機Si系膜の他にSi酸化膜、Si窒化膜、Si酸窒化膜、スピンオングラス(SOG)膜、TiN膜なども用いられる。
【0250】
通常、EUV光又はEBを用いる場合のレジスト膜厚は、10nm以上、200nm以下、好ましくは20nm以上、100nm以下、最も好ましくは30nm以上、80nm以下である。また、所望のパターンの最小加工寸法に応じても膜厚が決定される。
レジスト膜厚が薄すぎるとレジストパターンの寸法が所望の寸法から大きく変動する傾向があり、厚すぎると解像不良となる傾向がある。
【0251】
<レジスト膜を加熱する工程:プレベーク>
上記の本発明のレジスト組成物により形成したレジスト膜は、加熱することによりレジスト膜に含まれる有機溶媒を除去する。加熱温度は、通常70〜250℃、好ましくは90〜150℃の範囲で、10〜300秒間、好ましくは30〜150秒間、更に好ましくは60〜100秒間加熱する。加熱温度が低過ぎると有機溶媒の除去効率が悪く、高過ぎるとレジスト組成物が分解するおそれがある。加熱時間が長すぎると製造時の生産性が低下する傾向にあり、短すぎると熱が十分に伝わらず、加熱効果にばらつきが生じるおそれがある。
【0252】
<選択的にEUV露光する工程>
加熱により有機溶媒を除去した後のレジスト膜に対して、LPPと呼ばれる、レーザー光をSnやその化合物、Xeなどのターゲットに照射して発生させたプラズマからEUV光を取り出すEUV露光源;DPPと呼ばれる、WやSiCなどからなる電極に、Snやその化合物、Xeをその電極近傍に存在させて、高電圧をかけて放電により発生したプラズマからEUV光を取り出すEUV露光源;レーザー光をターゲットに照射しかつ放電させて生したプラズマからEUV光を取り出すEUV露光源;又は、放射光光源からEUV光を取り出すEUV露光源;等の光源を用いて、所望のマスクパターンを介して露光する。上記各EUV露光源の光源からEUV光を取り出すには反射型又は透過型のフィルターが使用される。
この際、露光量により、現像後形成されるレジストパターンの寸法が変動する。露光量は所望の寸法となる露光量が望ましいが、所望の寸法に対してプラスマイナス10%以内にする露光量が好ましく、プラスマイナス5%以内にする露光量が特に好ましい。このとき、所望の寸法となる露光量を、各パターン寸法における感度と称することがある。
【0253】
<選択的にEB露光する工程>
加熱により有機溶媒を除去した後のレジスト膜に対して、電子銃から発せられる電子線(EB)を照射して所望のパターンを描画して露光する。EBの加速電圧としては、1〜200kVが好ましく、10〜150kVが更に好ましく、30〜125kVが特に好ましい。上記範囲とすることで、高解像度のパターン形成と高い生産性を確保することができる。
【0254】
<再加熱する工程:ポストエクスポージャーベーク>
選択的EUV光又はEB露光後の膜に対して、必要に応じて露光により発生した酸をレジスト膜中に効果的に拡散させるために加熱してもよい。この場合の加熱温度は、通常70〜200℃、好ましくは80〜150℃の範囲で、10〜300秒間、好ましくは30〜150秒間、更に好ましくは60〜100秒間加熱する。加熱温度が低過ぎると酸の拡散効率が悪く感度が低下するおそれがあり、高過ぎると酸の拡散効率が高くなりすぎて、良好な解像度、LER,LWRが得られないおそれがある。加熱時間が長すぎると製造時の生産性が低下する傾向にあり、短すぎると熱が十分に伝わらず、加熱効果にばらつきが生じるおそれがある。
【0255】
<現像工程>
上記工程を施した膜に対して、アルカリ現像液を用いて現像処理することにより、レジストパターンを形成することができる。
【0256】
アルカリ現像液としては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)などのアルカリ水溶液が挙げられ、通常TMAH濃度0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、更に好ましくは2〜3重量%の水溶液を用い、10〜180秒間、好ましくは20〜120秒間、浸漬法、パドル法、スプレー法等の定法により現像が行われる。
本発明のレジストパターン形成方法が有する優れた特性を大幅に損ねるものでなければ、現像液の中に界面活性剤などの他の任意の化合物が含有されていてもかまわない。
アルカリ現像後は、通常純水による洗浄処理が行われる。
【0257】
なお、本発明に従って、EUV光又はEB露光を行うことにより、現在開発されている他の露光源を用いるよりも、解像度が小さい微細パターニングが可能である。
【実施例】
【0258】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0259】
なお、本明細書の記載において、「DMSO」はジメチルスルホキシドを表し、「ODCB」はo−ジクロロベンゼンを表す。また、「Me」はメチル基を、「AdM」は酸解離性保護基の2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチル基をそれぞれ表す。また、aはa=n/2の整数であり、nは式(1)中のnに相当し、2〜12の偶数を示す。
【0260】
〔フラーレンC
60誘導体の合成〕
[実施例1:C
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
8H
8)
aの合成]
【化30】
【0261】
<実施例1A:C
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
8H
8)
aの合成>
100ml二口フラスコにC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(1.55g、0.85mmol)、1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(0.22g、0.85mmol)、n−テトラブチルアンモニウムヨージド(4.38g、11.9mmol)、p−キシレン(40ml)を加え、窒素置換した後、130℃まで昇温した。130℃に到達後、1時間おきに1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼン(1.12g、4.26mmol)を5回に分けて分割添加し、さらに3時間撹拌を行った。室温まで冷却した後、シリカゲルのショートカラムに酢酸エチル/トルエン混合溶媒を用いて通し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をトルエン(6.2ml)に溶解させ、メタノール(155ml)で晶析を行った。懸濁液を吸引濾過し、50℃で恒量になるまで減圧乾燥することで、黄色固体としてC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
8H
8)
aを1.71g得た。
【0262】
得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLCを測定した。なお、
1H−NMRはCDCl
3を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLC、LC−MSは、500ppmのトルエン溶液を調製して測定した。
【0263】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl
3):δ6.0−8.1(br,Ph),2.3−4.8(br),0.5−0.9(br)
【0264】
HPLCの測定条件は以下の通りであり、HPLC測定の結果、リテンションタイム7.8−9.1minに、34.6(Area%)、9.1−10.8minに、62.7(Area%)のピークが、それぞれ観測された。
<HPLC条件>
カラム:YMC−Pack ODS−AM 150mm×4.6mmφ
温度:40℃
溶離液条件:0min:トルエン/メタノール=5/95,12min:トルエン/メタノール=40/60,25min:トルエン/メタノール=90/10
流速:1.0ml/min
注入量:1μl
【0265】
<実施例1B:C
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
8H
8)
aの合成>
50ml三口フラスコにC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
8H
8)
a(1.65g)、ODCB(16.5mL)を加え、窒素置換後、5℃まで冷却した後、BBr
3−塩化メチレン溶液(1.0mol/L、9.4mL)を加え、25℃まで昇温した。室温下で6時間攪拌した後、イオン交換水(15mL)で反応を停止させ、酢酸エチル(45mL)を加え、分液漏斗にて抽出した。有機層をイオン交換水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行った。濾液を濃縮しヘキサン(165mL)で晶析を行った。
また、残留溶媒であるODCBを効果的に除去するため、再度酢酸エチル(4mL)に溶解させ、ヘキサン(165mL)で晶析を行い、80℃で真空乾燥を3時間行なった結果、橙色固体としてC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
8H
8)
nを1.28g得た。
さらにこのC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
8H
8)
a(911mg)をシリカゲルのショートカラム(溶離液:トルエン/酢酸エチルの混合溶媒)を用いて、精製した後、濃縮し、トルエン(50mL)で晶析を行った。その後、100℃で真空乾燥を5時間行なった結果、橙色固体としてC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
8H
8)
aを794mg得た。
【0266】
得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLC、LC−MSを測定した。なお、
1H−NMRはDMSO−d
6を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、500ppmのテトラヒドロフラン溶液を調製して測定した。
【0267】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6):δ8.8−9.7(br,−OH),5.8−7.8(br,Ph),2.5−4.2(br),0.5−1.3(br)
1H−NMRより、ヒドロキシル基のプロトン比と芳香環のプロトン比が1:5.32であったことから、o−キシリル基の平均付加数<a>は3.3と見積もられた。
【0268】
HPLCの測定条件は以下の通りであり、HPLC測定の結果、リテンションタイム22.4minに、1.3(Area%)、23.6minに、11.4(Area%)、24.7minに、36.3(Area%)、25.9minに、47.1(Area%)、26.9minに、4.0(Area%)で、それぞれピークが観測された。
<HPLC条件>
カラム:SHISEIDO CAPCELL PAK C18 75mm×4.6mmφ
温度:40℃
溶離液条件:0min:テトラヒドロフラン/水=30/70,15min:テトラヒドロフラン/水=50/50,30min:テトラヒドロフラン/水=80/20
流速:1.0ml/min
注入量:1μl
【0269】
LC−MSの測定条件は以下の通りであり、LC−MS測定の結果、下記表1に示すように、n=1〜5までの付加数が確認された。
【0270】
<LC−MS条件>
LC:Waters Alliance
カラム:L−Column2 2.1×100mm
温度:40℃
溶離液条件:0min:0.1%蟻酸水溶液/THF、MeOH混合溶媒(1:1)=45/55,15min:0.1%蟻酸水溶液/THF、MeOH混合 溶媒(1:1)=0/100
流速:0.2ml/min
UV検出波長:310nm
MS:Waters LCT Premier XE
イオン化法:APCI(−)法
【0271】
【表1】
【0272】
<実施例1C:C
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
8H
8)
aの合成>
30ml三口フラスコにC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
8H
8)
n(80mg)、2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチルブロミド(36mg)、炭酸カリウム(400mg)、テトラヒドロフラン(2.4mL)を加えた後、6時間加熱還流を行った。室温に戻した後、セライト濾過により不溶物を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を酢酸エチル(10ml)に溶解させ、この有機層を1規定塩酸水(10ml)で1回洗浄し、さらに、中性になるまでイオン交換水で3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行った。濾液を濃縮し、ヘキサン(50mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を3時間行なった結果、橙色固体としてC
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
8H
8)
aを73mg得た。
【0273】
得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLCを測定した。なお、
1H−NMRはDMSO−d
6を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、500ppmのテトラヒドロフラン溶液を調製して測定した。
【0274】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6):δ8.7−9.7(br,−OH),5.7−7.8(br,Ph),4.3−4.9(br),2.5−4.2(br),0.5−2.4(br)
1H−NMRより、ヒドロキシル基のプロトン比と芳香環のプロトン比が1:8.58で、原料のo−キシリル基の平均付加数<a>は3.3であったことから、酸解離性保護基AdMの平均付加数<m>は3.8と見積もられた。
【0275】
また、HPLC測定の結果、リテンションタイム0.64−1.10minに、13.0(Area%)、1.10−1.44minに、25.6(Area%)、1.44−1.98minに、28.1(Area%)、1.98−2.86minに、19.5(Area%)、2.86−4.44minに、10.6(Area%)、4.44−7.08minに、3.2(Area%)で、それぞれピークが観測された。
<HPLC条件>
カラム:SHISEIDO CAPCELL PAK C18 75mm×4.6mmφ
温度:40℃
溶離液条件:0min:テトラヒドロフラン/水=70/30,20min 流速:1.0ml/min
注入量:1μl
【0276】
[実施例2:C
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
9H
8)
aの合成]
【化31】
【0277】
<実施例2A:C
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
9H
8)
aの合成>
50ml二口フラスコにC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(0.50g、0.27mmol)、インデン(6.37g、54.8mmol)を加え、窒素置換した後、165℃まで昇温し、18時間撹拌した。室温まで冷却した後、トルエン(10ml)に溶解させ、メタノール(200ml)で晶析を行った。吸引濾過後、得られた黄色固体をトルエン(10ml)に溶解させ、メタノール(200ml)で再度晶析を行った。懸濁液を吸引濾過し、50℃で恒量になるまで減圧乾燥することで、黄色固体としてC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
9H
8)
aを1.05g得た。
【0278】
実施例1Aと同様にして、得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLCを測定した。
【0279】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl
3):δ6.0−8.2(br,Ph),1.4−4.1(br),0.7−1.2(br)
【0280】
また、HPLC測定の結果、リテンションタイム6.5−10.0minに、54.9(Area%)、10.0−11.5minに、38.9(Area%)で、それぞれピークが観測された。
【0281】
<実施例2B:C
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
9H
8)
aの合成>
50ml二口フラスコにC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
9H
8)
a(0.80g)、ODCB(8mL)を加え、窒素置換後、5℃まで冷却した後、BBr
3−塩化メチレン溶液(1.0mol/L、3.3mL)を加え、25℃まで昇温した。室温下で11時間攪拌した後、イオン交換水(20mL)で反応を停止させ、酢酸エチル(60mL)を加え、分液漏斗にて抽出した。有機層をイオン交換水で3回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行った。濾液を濃縮しヘキサン(150mL)で晶析を行った。
また、残留溶媒であるODCBを効果的に除去するため、再度酢酸エチル(15mL)に溶解させ、ヘキサン(150mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を3時間行なった結果、橙色固体としてC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
9H
8)
aを0.46g得た。
【0282】
実施例1Bと同様にして、得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLC、LC−MSを測定した。
【0283】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6):δ8.8−9.7(br,−OH),5.8−7.8(br,Ph),2.5−4.2(br),1.5−5.0(br),0.6−1.2(br)
1H−NMRより、水酸基のプロトン比と芳香環のプロトン比が1:4.46であったことから、インデニル基の平均付加数<a>は1.2と見積もられた。
【0284】
HPLC測定の結果、リテンションタイム22.2minに、26.0(Area%)、23.2minに、36.9(Area%)、24.3minに、26.8(Area%)、25.1−30.0minに、10.2(Area%)で、それぞれピークが観測された。
【0285】
LC−MS測定の結果、下記表2に示す通り、n=0〜2までの付加数が確認された。
【0286】
【表2】
【0287】
<実施例2C:C
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
9H
8)
aの合成>
50ml三口フラスコにC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
9H
8)
a(150mg)、2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチルブロミド(86mg)、炭酸カリウム(750mg)、テトラヒドロフラン(4.5mL)を加えた後、6時間加熱還流を行った。室温に戻した後、セライト濾過により不溶物を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を酢酸エチル(15ml)に溶解させ、この有機層を1規定塩酸水(15ml)で1回洗浄し、さらに、中性になるまでイオン交換水で4回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行った。濾液を濃縮しヘキサン(50mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を3時間行なった結果、橙色固体としてC
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
9H
8)
aを146mg得た。
【0288】
実施例1Cと同様にして得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLCを測定した。
【0289】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6):δ8.7−9.7(br,−OH),5.7−7.9(br,Ph),4.3−4.9(br),0.5−4.2(br)
1H−NMRより、ヒドロキシル基のプロトン比と芳香環のプロトン比が1:11.22で、原料のインデニル基の平均付加数<a>は1.2であったことから、酸解離性保護基AdMの平均付加数<m>は4.6と見積もられた。
【0290】
また、HPLC測定の結果、リテンションタイム0.64−1.32minに、9.6(Area%)、1.32−1.79minに、21.2(Area%)、1.79−2.61minに、28.2(Area%)、2.61−4.08minに、23.4(Area%)、4.08−6.75minに、13.1(Area%)、6.75−8.28minに、2.89(Area%)、8.28−11.1minで、それぞれピークが観測された。
【0291】
[実施例3:C
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
11H
12O
2)
aの合成]
【化32】
【0292】
<実施例3A:C
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
12H
14O
2)
aの合成>
300ml三口フラスコにC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(3.00g)、メチル4−ベンゾイル酪酸p−トシルヒドラゾン(J.Org.Chem.1995,60,532−538に従って合成したものを使用した)(14.8g)、o−ジクロロベンゼン(150ml)を加え、窒素置換した後、80℃まで昇温した。80℃に到達後、ナトリウムメトキシド(2.3g)を添加し、さらに48時間撹拌を行った。室温まで冷却した後、シリカゲルのショートカラムを酢酸エチル/o−ジクロロベンゼン混合溶媒を用いて通し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をo−ジクロロベンゼン(10ml)に溶解させ、メタノール(300ml)で晶析を行った。懸濁液を吸引濾過し、80℃で恒量になるまで減圧乾燥して、中間体としてC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
12H
14O
2)
aを3.54g得た。
得られた固体を、再度o−ジクロロベンゼン(142ml)に溶解させ、水銀灯で光を照射しながら180℃で12時間加熱撹拌を行った。溶媒を減圧留去した後、メタノール(354ml)で晶析を行った。懸濁液を吸引濾過し、80℃で恒量になるまで減圧乾燥することで、黄色固体としてC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
12H
14O
2)
aを3.04g得た。
【0293】
得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLCを測定した。なお、
1H−NMRはCDCl
3を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、500ppmのトルエン溶液を調製して測定した。
【0294】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl
3):δ6.3−7.8(br,Ph),3.5−3.8(br),0.6−2.3(br)
【0295】
HPLCの測定条件は以下の通りであり、HPLCの測定結果、リテンションタイム2.8−4.9minに、37.9(Area%)、4.9−6.8minに、31.6(Area%)、6.8−8.9minに、30.5(Area%)で、それぞれピークが観測された。
【0296】
<HPLC条件>
カラム:YMC−Pack ODS−AM 150mm×4.6mmφ
温度:40℃
溶離液条件:0min:トルエン/メタノール=10/90,25min:トルエン/メタノール=60/40
流速:1.0ml/min
注入量:0.5μl
【0297】
<実施例3B:C
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
11H
12O
2)
aの合成>
100ml三口フラスコにC
60(C
6H
4OMe)
10Me
2(C
12H
14O
2)
n(1.0g)、ODCB(40mL)を加え、窒素置換後、5℃まで冷却したのち、BBr
3−塩化メチレン溶液(1.0mol/L、6.1mL)を加え、25℃まで昇温した。室温下で5時間攪拌した後、イオン交換水(40mL)で反応を停止させ、酢酸エチル(40mL)を加え、分液漏斗にて抽出した。有機層をイオン交換水で5回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた後、濾過を行った。溶液を濃縮しヘキサン(120mL)で晶析を行った。
150℃で真空乾燥を6時間行なった結果、黄色固体としてC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
11H
12O
2)
aを0.83g得た。
【0298】
得られた生成物に関して
1H−NMR、HPLC、LC−MSを測定した。なお、
1H−NMRはDMSO−d
6を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、500ppmのテトラヒドロフラン溶液を調製して測定した。
【0299】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6):δ12.0(br,−COOH)9.1−9.5(br,−OH),6.4−7.6(br,Ph),1.1−3.4(br)
1H−NMRより、水酸基のプロトン比と芳香環のプロトン比が1:5.14であったことから、フェニル基とカルボキシル−3−プロピル基が置換されたメチレン基の平均付加数<a>は2.3と見積もられた。
【0300】
HPLC測定条件は以下の通りであり、HPLC測定の結果、リテンションタイム4.3minに、45.3(Area%)、4.9minに、54.7(Area%)で、それぞれピークが観測された。
【0301】
<HPLC条件>
カラム:YMC−Pack ODS−AM 150mm×4.6mmφ
温度:40℃
溶離液条件:テトラヒドロフラン/水=1/1
流速:1.0ml/min
注入量:0.5μl
【0302】
LC−MSの測定条件は以下の通りであり、LC−MS測定の結果、下記表3に示す通り、n=1の付加数が確認された。
【0303】
【表3】
【0304】
<LC−MS条件>
LC:Agilent 1100
カラム:YMC Pack ODS−AM 3μm 4.6×150mmL
温度:40℃
溶離液条件:0min:水/THF=50/50
流速:1.0ml/min
UV検出波長:290nm
MS:Agilent 1100LC/MS
イオン化法:APCI(+)法
【0305】
<実施例3C:C
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2(C
11H
12O
2)
aの合成>
50ml三口フラスコにC
60(C
6H
4OH)
10Me
2(C
9H
8)
a(150mg)、2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチルブロミド(92mg)、炭酸カリウム(750mg)、テトラヒドロフラン(4.5mL)を加えた後、6時間加熱還流を行った。室温に戻した後、セライト濾過により不溶物を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を酢酸エチル(50ml)に溶解させ、この有機層を1規定塩酸水(20ml)で1回洗浄し、さらに、中性になるまでイオン交換水で5回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行った。濾液を濃縮しヘキサン(75mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を3時間行なった結果、橙色固体としてC
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
5OH)
10−mMe
2(C
11H
12O
2)
aを110mg得た。
実施例1Cと同様にして得られた生成物に関して
1H−NMRを測定した。
【0306】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6):δ9.0−9.8(br,−OH),6.0−8.0(br,Ph),4.3−5.0(br),0.7−2.3(br).
1H−NMRより、ヒドロキシル基のプロトン比と芳香環のプロトン比が1:9.23で、原料の平均付加数<a>は2.3であったことから、酸解離性保護基AdMの平均付加数<m>は4.4と見積もられた。
【0307】
[比較例1:C
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2の合成]
50ml三口フラスコにC
60(C
6H
4OH)
10(14.4g)、2−メチル−2−アダマンチルオキシカルボニルメチルブロミド(92mg)、炭酸カリウム(72g)、テトラヒドロフラン(432mL)を加えた後、7時間加熱還流を行った。室温に戻した後、セライト濾過により不溶物を除去し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を酢酸エチル(600ml)に溶解させ、この有機層を1規定塩酸水(375ml)で1回洗浄し、さらに、中性になるまでイオン交換水で5回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過を行った。濾液を濃縮しヘキサン(750mL)で晶析を行い、50℃で真空乾燥を3時間行なった結果、橙色固体としてC
60(C
6H
4OAdM)
m(C
6H
4OH)
10−mMe
2を18.05g得た。
実施例1Cと同様にして得られた生成物に関して
1H−NMRを測定した。
【0308】
1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,DMSO−d
6):δ9.0−9.8(br,OH,5.7H),6.0−8.0(br,Ph,40H),4.3−5.0(br,OCH
2COO),0.7−2.3(br,3級エステルのCH部分、C60−CH
3)
1H−NMRより、ヒドロキシル基のプロトン比と芳香環のプロトン比が1:5.7であったことから、酸解離性保護基AdMの平均付加数<m>は4.3と見積もられた。
【0309】
〔レジスト評価〕
[実施例4]
(i)実施例1Cのフラーレン誘導体(C
60(C
6H
4OAdM)
3.8(C
6H
5OH)
6.2Me
2(C
8H
8)
3.3)をPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート)/CHN(シクロヘキサン)=95/5(重量比)の混合溶媒に対して2.00重量%となるように添加し、スターラーにて攪拌した。
(ii)得られたフラーレン誘導体溶液に、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム塩ノナフレート(みどり化学製BBI−109)及びn−トリオクチルアミンをそれぞれフラーレン誘導体に対して20重量%並びに3重量%添加し、また、界面活性剤としてメガファックR−30(DIC製)をフラーレン誘導体に対して0.1重量%添加し、スターラーにて攪拌した。
(iii)攪拌後、孔径0.2μmのフィルターで濾過し、ポジ型レジスト組成物を得た。
【0310】
[実施例5]
(i)実施例3Cのフラーレン誘導体(C
60(C
6H
4OAdM)
4.4(C
6H
4OH)
5.6Me
2(C
11H
12O
2)
2.3)を使用する以外は、実施例4と同様にレジスト組成物を調製した。
【0311】
[比較例2]
比較例1のフラーレン誘導体(C
60(C
6H
4OAdM)
4.3(C
6H
4OH)
5.7Me
2)を使用する以外は、実施例4と同様にレジスト組成物を調製した。
【0312】
[EB感度評価]
以下の手順でレジスト膜を形成し、そのEB感度を評価した。
(1)実施例4、実施例5、比較例2で調製したレジスト組成物を、それぞれSi基板上に厚さ60nmとなるように1000rpmで30秒間回転塗布し(塗布工程)、110℃で90秒間、加熱処理を行った(プレベーク)。
(2)EB露光装置:JBX−6300JS(日本電子製)を用い、加速電圧50kVで露光を行い、露光時間を調整して露光量を変化させた(露光工程)。
(3)EB露光した膜を110℃で90秒間、加熱処理を行った(ポストエクスポージャーベーク)。
(4)現像液として、2.38wt%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、30秒間浸漬した(現像工程)。その後、リンス液として純水を用い、これに30秒間浸漬して現像液をすすぎ落とした(洗浄工程)。
(5)パターン形成後、段差測定を行い、露光した箇所のフラーレン誘導体膜が完全に除去できた最低露光量をフラーレン誘導体ポジ型レジストのEB感度とした。
以上の結果を表4に示す。
【0313】
【表4】
【0314】
表4から明らかなように、同等の保護化率(MAdM率)における実施例と比較例のEB感度を比較した場合(例えば、実施例4と比較例2、実施例5と比較例2)、本発明のレジスト組成物を用いた場合に感度を向上させることができることが分かる。
【0315】
[効果の説明]
本発明により製造された高度にπ共役が切断されたフラーレンC
60誘導体を含むレジスト組成物を用いることで、感度を向上させることが可能となった。