(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1から
図3を参照して説明する。
【0020】
(四輪駆動車の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るトランスファ装置が搭載された四輪駆動車の構成例を示す概略図である。この四輪駆動車2は、車体200に搭載された駆動源20の駆動力がトランスファ装置1を介して左右前輪201,202、及び左右後輪203,204に配分されるように構成されている。四輪駆動車2は、トランスファ装置1、トランスミッション21、フロントディファレンシャル22、前輪側のドライブシャフト231,232、リヤディファレンシャル24、及び後輪側のドライブシャフト251,252を含んで構成される駆動力伝達系を備えている。
【0021】
駆動源20は、例えば内燃機関であるエンジンからなる。ただし、電動モータによって、あるいはエンジン及び電動モータの組み合わせによって、駆動源20を構成してもよい。駆動源20が出力する四輪駆動車2の駆動力としてのトルクは、トランスミッション21で変速されてトランスファ装置1の入力軸10に出力される。
【0022】
トランスファ装置1は、入力軸10から入力されたトルクを第1の出力軸11及び第2の出力軸12に配分する。本実施の形態に係るトランスファ装置1は、第1の出力軸11及び第2の出力軸12の差動回転が規制されるロックモードと、この差動回転が許容される非ロックモードとを切り替え可能である。ロックモードと非ロックモードとの切り替えは、制御装置Cによって制御される。
【0023】
第1の出力軸11は、リヤディファレンシャル24を介して左右後輪203,204にトルクを伝達する。第1の出力軸11の一端部には傘歯車11aが設けられ、この傘歯車11aがリヤディファレンシャル24のデフケース240の外周部に固定されたリングギヤ241に噛み合っている。なお、
図1では、第1の出力軸11を1本の直線で示しているが、第1の出力軸11は例えば十字継手によって連結された複数のシャフトから構成されていてもよい。
【0024】
デフケース240には、その回転軸に直交するようにピニオンシャフト242が固定されている。デフケース240の内部には、ピニオンシャフト242に回転可能に支持された一対のピニオンギヤ243、及び一対のピニオンギヤ243に共に噛み合う一対のサイドギヤ244が収容されている。一対のサイドギヤ244のうち、一方のサイドギヤ244にはドライブシャフト251を介して左後輪203が連結され、他方のサイドギヤ244にはドライブシャフト252を介して右後輪204が連結されている。
【0025】
第2の出力軸12は、フロントディファレンシャル22を介して左右前輪201,202にトルクを伝達する。第2の出力軸12の一端部には傘歯車12aが設けられ、この傘歯車12aがフロントディファレンシャル22のデフケース220の外周部に固定されたリングギヤ221に噛み合っている。
【0026】
デフケース220にはピニオンシャフト222が固定されると共に、デフケース220の内部には、ピニオンシャフト222に回転可能に支持された一対のピニオンギヤ223、及び一対のピニオンギヤ223に共に噛み合う一対のサイドギヤ224が収容されている。一対のサイドギヤ224のうち、一方のサイドギヤ224にはドライブシャフト231を介して左前輪201が連結され、他方のサイドギヤ224にはドライブシャフト232を介して右前輪202が連結されている。
【0027】
(トランスファ装置の構成)
図2は、トランスファ装置1の構成例を示し、(a)は断面図、(b)は側面図である。
図2(a)では、トランスファ装置1の各構成要素を四輪駆動車2の前後方向に平行な第1乃至第3の回転軸線O
1,O
2,O
3を含む平面(仮想面)で切断した断面を示している。本実施の形態では、第1乃至第3の回転軸線O
1,O
2,O
3が互いに平行で、かつ直線状に並列している。すなわち、第1乃至第3の回転軸線O
1,O
2,O
3は、四輪駆動車2の車幅方向に平行な1本の水平線Hに直交している。
【0028】
トランスファ装置1は、第1の回転軸線O
1上で相対回転可能に配置された入力軸10及び第1の出力軸11と、第1の回転軸線O
1と平行な第2の回転軸線O
2上に配置された第2の出力軸12と、第1及び第2の回転軸線O
1,O
2と平行な第3の回転軸線O
3上に配置され、入力軸10から入力されたトルクを第1及び第2の出力軸11,12に配分する差動歯車装置13と、入力軸10と第1の出力軸11との間をトルク伝達可能に連結するクラッチ装置14とを備えている。
【0029】
入力軸10、第1の出力軸11、第2の出力軸12、差動歯車装置13、及びクラッチ装置14は、軸受90〜98によって回転可能に支持されている。軸受90〜98は、内輪と外輪との間に複数の玉が配置された玉軸受である。軸受90〜98のそれぞれの外輪は、車体200に固定されたトランスファケース(図示せず)に固定されている。
【0030】
入力軸10は、軸状の軸部100と、外周面にギヤ歯が形成された円板状のギヤ部101とを一体に有し、軸受90によって回転可能に支持されている。第1の出力軸11は、軸状の軸部110と、外周面にギヤ歯が形成された円板状のギヤ部111とを一体に有し、軸受93によって回転可能に支持されている。入力軸10のギヤ部101のピッチ円径、及び第1の出力軸11のギヤ部111のピッチ円径は、共にd
1で共通である。
【0031】
また、第2の出力軸12は、軸状の軸部120と、外周面にギヤ歯が形成された円板状のギヤ部121とを一体に有し、軸受98によって回転可能に支持されている。第2の出力軸12のギヤ部121のピッチ円径はd
2である。本実施の形態では、出力軸12のギヤ部121のピッチ円径d
2が第1の出力軸11のギヤ部111のピッチ円径d
1と同じ(d
1=d
2)である。
【0032】
差動歯車装置13は、遊星歯車機構からなり、入力軸10のギヤ部101と噛み合う歯車が形成された入力回転部材としての保持器30と、第1の出力軸11側にトルクを出力する有底円筒状の第1の出力回転部材31と、第2の出力軸12側にトルクを出力する第2の出力回転部材32と、保持器30に回転可能に保持されると共に第1の出力回転部材31及び第2の出力回転部材32との間に配置された複数の遊星歯車33とを有している。差動歯車装置13は、本発明の差動装置の一例である。
【0033】
保持器30は、円筒状の保持部300と、保持部300の軸方向の一端に形成されたギヤ部301とを一体に有している。保持部300の先端部(ギヤ部301とは反対側の端部)には、遊星歯車33を回転可能に支持する複数の保持孔300aが形成されている。遊星歯車33は、その一部が保持孔300aの内周側及び外周側に突出している。保持孔300aの内面300bは、遊星歯車33の外径に適合する内径を有する円弧状に形成されている。保持器30は、内面300bと遊星歯車33の外周面に形成されたギヤ部331の歯先面との摺動による摩擦抵抗によって、遊星歯車33の保持孔300a内での回転(自転)を規制する。
【0034】
第1の出力回転部材31は、有底円筒状に形成され、保持器30を収容する筒部310と、筒部310の一端に形成された底部311とを一体に有している。筒部310の内周面には、遊星歯車33のギヤ部331と噛み合う内歯312が形成されている。また、底部311の外周側にあたる筒部310の外周面には、ギヤ部313が形成されている。
【0035】
第2の出力回転部材32は、円柱状の軸部320と、軸部320の一端に形成されたギヤ部321とを一体に有している。軸部320は、保持部300に挿通され、その外周面には、遊星歯車33のギヤ部331と噛み合う太陽歯車322が形成されている。軸部320と保持器30の保持部300との間には軸受341が、軸部320と第1の出力回転部材31の底部311との間には軸受342が、それぞれ配置されている。
【0036】
保持器30は、軸受95及び軸受341によって回転可能に支持されている。第1の出力回転部材31は、軸受96及び軸受342によって回転可能に支持されている。第2の出力回転部材32は、軸部320の一端部及び他端部が軸受94,97によって回転可能に支持されている。
【0037】
保持器30のギヤ部301のピッチ円径、第1の出力回転部材31のギヤ部313のピッチ円径、及び第2の出力回転部材32のギヤ部321のピッチ円径は、共にd
3で共通である。本実施の形態では、保持器30のギヤ部301のピッチ円径、第1の出力回転部材31のギヤ部313のピッチ円径、及び第2の出力回転部材32のギヤ部321のピッチ円径が、出力軸12のギヤ部121及び第1の出力軸11のギヤ部111のピッチ円径よりも小さく設定されている(d
3<d
1=d
2)。
【0038】
保持器30、第1の出力回転部材31、及び第2の出力回転部材32は、第3の回転軸線O
3上で相対回転可能に支持されている。また、保持器30、第1の出力回転部材31、及び第2の出力回転部材32は、第1の回転軸線O
1と第2の回転軸線O
2とに挟まれる位置に配置されている。すなわち、保持器30、第1の出力回転部材31、及び第2の出力回転部材32は、第1の回転軸線O
1及び第2の回転軸線O
2を含む仮想面に少なくとも一部が交差するように配置されている。
【0039】
クラッチ装置14は、内部に収容空間を有する外側回転部材40と、外側回転部材40の収容空間に一部が収容された内側回転部材42と、外側回転部材40と内側回転部材42との間に配置された多板クラッチ43と、多板クラッチ43を押圧するための押圧力を発生するカム機構44と、カム機構44を動作させる磁力を発生させる電磁コイル45とを有している。外側回転部材40は軸受91によって、内側回転部材42は軸受92によって、それぞれ回転可能に支持されている。クラッチ装置14は、入力軸10と第1の出力軸11との間のトルク伝達を断接する差動ロック用のクラッチである。
【0040】
図3は、クラッチ装置14の構成を詳細に示す断面図である。外側回転部材40は、有底円筒状の第1ハウジング部材40Aと、第1ハウジング部材40Aの開口を塞ぐように配置された第2ハウジング部材40Bとを、例えば螺合によって一体化して構成されている。
【0041】
第1ハウジング部材40Aは、軸状の軸部401と、底部402と、筒部403とを一体に有している。軸部401は、底部402の中心部から、筒部403とは反対側の軸方向に突出している。軸部401の先端部には、スプライン嵌合部401aが形成されている。第1ハウジング部材40Aは、このスプライン嵌合部401aが入力軸10に形成された凹部100a(
図2に示す)にスプライン嵌合することにより、入力軸10と一体に回転する。
【0042】
第2ハウジング部材40Bは、第1乃至第3エレメント404〜406を溶接等によって互いに結合して構成されている。第1エレメント404及び第3エレメント406は鉄等の磁性体からなり、第2エレメント405はオーステナイト系ステンレス等の非磁性体からなる。第1エレメント404は第2エレメント405の外周側に、第3エレメント406は第2エレメント405の内周側に、それぞれ配置されている。
【0043】
内側回転部材42は、大径部421、中径部422、及び小径部423を一体に有し、大径部421は外側回転部材40の収容空間の内部に、小径部423は外側回転部材40の収容空間の外部に配置されている。内側回転部材42の大径部421側の端部と第1ハウジング部材40Aの底部402との間には、軸受461が配置されている。中径部422と第2ハウジング部材40Bの第3エレメント406との間には、ころ軸受462が配置されている。
【0044】
小径部423の先端部には、スプライン嵌合部423aが形成されている。内側回転部材42は、このスプライン嵌合部423aが第1の出力軸11に形成された凹部110a(
図2に示す)にスプライン嵌合することにより、第1の出力軸11と一体に回転する。
【0045】
多板クラッチ43は、外側回転部材40の筒部403の内周面に形成されたストレートスプライン部403aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する複数のアウタクラッチプレート431と、内側回転部材42の大径部421の外周面に形成されたストレートスプライン部421aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する複数のインナクラッチプレート432とを有して構成されている。アウタクラッチプレート431及びインナクラッチプレート432は、外側回転部材40及び内側回転部材42の回転軸(第1の回転軸線O
1)に沿って交互に配置されている。
【0046】
カム機構44は、所定の角度範囲で相対回転可能な第1カム部材441及び第2カム部材442、ならびに第1カム部材441と第2カム部材442との間に配置されたカムボール443とを有して構成されている。第1カム部材441を第2カム部材442には、周方向に沿って軸方向の深さが滑らかに変化するカム溝が形成され、カムボール443がこのカム溝を転動することにより、第2カム部材442が第1カム部材441に対して軸方向に移動する。
【0047】
第2カム部材442は、ストレートスプライン部421aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合し、内側回転部材42における大径部421と中径部422との段差部に配置された皿バネ444によって第1カム部材441側に付勢されている。第1カム部材441は、第2ハウジング部材40Bの第3エレメント406との間にスラストころ軸受446を介して配置された皿バネ445によって第2カム部材442側に付勢されている。
【0048】
電磁コイル45は、第1カム部材441との間に第2ハウジング部材40Bを挟んで配置されている。電磁コイル45は、ヨーク450に支持され、図略の配線によって制御装置C(
図1に示す)に接続されている。
【0049】
電磁コイル45に制御装置Cから励磁電流が供給されると、第1エレメント404、第1カム部材441、及び第3エレメント406を磁路とする回転磁界が形成され、第1カム部材441がその磁力によって第2ハウジング部材40Bに接触し、摩擦力が発生する。第1カム部材441が第2ハウジング部材40Bに接触した状態で外側回転部材40と内側回転部材42とが相対回転すると、第1カム部材441と第2カム部材442とが相対回転し、カムボール443がカム溝を転動することにより、第2カム部材442が皿バネ444の付勢力に抗して第1カム部材441から離間して多板クラッチ43側に移動する。
【0050】
これにより、アウタクラッチプレート431とインナクラッチプレート432とが第2カム部材442による押圧力を受けて互いに押し付けられて摩擦係合する。すなわち、外側回転部材40と内側回転部材42とが多板クラッチ43によってトルク伝達可能に連結される。つまり、クラッチ装置14は、軸方向に押圧されるアウタクラッチプレート431とインナクラッチプレート432と摩擦によってトルクを伝達する摩擦クラッチである。
【0051】
(トランスファ装置の動作)
次に、トランスファ装置1の動作について説明する。トランスファ装置1は、制御装置Cから電磁コイル45に励磁電流を供給するクラッチ装置14の作動状態と、この励磁電流を供給しない非作動状態とを切り替えることにより、動作モードが変化する。クラッチ装置14が作動した場合には、第1の出力軸11及び第2の出力軸12の差動回転が規制されるロックモードとなり、クラッチ装置14が非作動状態である場合には、第1の出力軸11及び第2の出力軸12の差動回転が許容される非ロックモードとなる。
【0052】
ロックモードでは、入力軸10及び第1の出力軸11の相対回転が規制され、入力軸10と第1の出力軸11とが直結された状態となる。これにより、差動歯車装置13の保持器30、第1の出力回転部材31、及び第2の出力回転部材32の差動回転が規制され、ひいては第1の出力軸11と第2の出力軸12との差動回転が規制される。すなわち、前輪側(左右前輪201,202)と後輪側(左右後輪203,204)との差動回転が規制される。
【0053】
非ロックモードでは、入力軸10と第1の出力軸11とのクラッチ装置14による直接的な連結が遮断され、入力軸10、第1の出力軸11、及び第2の出力軸12が差動歯車装置13を介して相対回転可能に連結された状態となる。この場合、第1の出力軸11と第2の出力軸12との差動回転、すなわち差動歯車装置13の第1の出力回転部材31と第2の出力回転部材32との差動回転は、保持器30の内面300bと遊星歯車33のギヤ部331との摩擦抵抗によって抑制される。これにより、差動歯車装置13の保持器30、第1の出力回転部材31、及び第2の出力回転部材32は、差動回転が可能であるが、その差動回転は摩擦抵抗によって制限されることとなる。すなわち、差動歯車装置13は、差動制限機能を有している。
【0054】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、次に示す作用及び効果が得られる。
【0055】
(1)差動歯車装置13の保持器30、第1の出力回転部材31、及び第2の出力回転部材32は、第1及び第2の回転軸線O
1,O
2に平行な第3の回転軸線O
3上で相対回転可能に支持され、かつ第1の回転軸線O
1と第2の回転軸線O
2とに挟まれる位置に配置されている。すなわち、差動歯車装置13が入力軸10、第1の出力軸11、及び第2の出力軸12の何れの回転軸線上にも配置されていないので、例えば差動歯車装置13を入力軸10又は第1の出力軸11の外周側における同軸上に配置した場合に比較して、トランスファ装置1を薄型化(四輪駆動車2の上下方向における小型化)することが可能となる。
【0056】
(2)入力軸10と第1の出力軸11との間にはクラッチ装置14が配置されているので、クラッチ装置14を作動させることにより、第1の出力軸11と第2の出力軸12との差動回転が規制され、トランスファ装置1がロックモードとなる。これにより、例えば積雪路等の低μ路の走行時においてスリップを抑制した安定走行が可能となる。
【0057】
(3)差動歯車装置13の入力回転部材31におけるギヤ部313のピッチ円径d
3は、入力軸10におけるギヤ部101のピッチ円径d
1よりも小さいので、ギヤ部313とギヤ部101との噛み合いにより、入力軸10の回転が増速されて入力回転部材31に伝達される。これにより、入力軸10から入力回転部材31に伝達されるトルクは、トランスミッション21から入力軸10に伝達されるトルクよりも小さくなるので、例えばピッチ円径d
3とピッチ円径d
1が等しい場合、又はピッチ円径d
3がピッチ円径d
1よりも大きい場合に比較して、差動歯車装置13のトルク容量を小さくすることができ、差動歯車装置13を小型化することが可能となる。
【0058】
(4)クラッチ装置14は、複数のアウタクラッチプレート431と複数のインナクラッチプレート432と摩擦によってトルクを伝達する摩擦クラッチであるので、入力軸10と第1の出力軸11とが相対回転している場合でも、電磁コイル45に励磁電流を供給することにより、入力軸10と第1の出力軸11との回転を同期させてトルク伝達可能に連結することができる。
【0059】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図4を参照して説明する。
【0060】
図4は、第2の実施の形態に係るトランスファ装置1Aの構成例を示し、(a)は断面図、(b)は側面図である。
図4において、第1の実施の形態について説明したものと共通する機能を有する構成要素については同一の符号を付して、その重複した説明を省略する。
【0061】
このトランスファ装置1Aは、入力軸10と第1の出力軸11Aとの間に第1のクラッチ装置14A及び第2のクラッチ装置14Bが直列に設けられている。第1の出力軸11Aは、第1の実施の形態における第1の出力軸11に相当するものであり、リヤディファレンシャル24のリングギヤ241に連結されている。
【0062】
第1のクラッチ装置14Aは、第1の実施の形態に係るクラッチ装置14と同様に構成されている。第1のクラッチ装置14Aにおける内側回転部材42は、第1の出力軸11Aに相対回転不能に連結されている。すなわち、第1のクラッチ装置14Aは、入力軸10と第1の出力軸11Aとの間のトルク伝達を断接する差動ロック用のクラッチである。
【0063】
第2のクラッチ装置14Bは、その外側回転部材41の構成が異なる他は、第1の実施の形態に係るクラッチ装置14と同様、多板クラッチ43、カム機構44、及び電磁コイル45を有して構成されている。第2のクラッチ装置14Bの外側回転部材41は、有底円筒状の第1ハウジング部材41Aと、第1ハウジング部材41Aの開口を塞ぐように配置された第2ハウジング部材41Bとを、例えば螺合によって一体化して構成されている。外側回転部材41は軸受99によって回転可能に支持されている。
【0064】
第1ハウジング部材41Aは、底部411と、底部411の径方向外側に突出して形成されたギヤ部412と、底部411から第1の回転軸線O
1に沿って延びるように形成された筒状の筒部413とを一体に有している。底部411には、第1の出力軸11Aの一端を挿通させる開口411aが形成されている。筒部413の内周面には、ストレートスプライン部413aが形成されている。このストレートスプライン部413aには、多板クラッチ43の複数のアウタクラッチプレート431(
図3参照)が軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0065】
第2のクラッチ装置14Bにおける多板クラッチ43の複数のインナクラッチプレート432は、第1の出力軸11Aの外周面に形成されたストレートスプライン部11Aaに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0066】
第2ハウジング部材41Bは、第1乃至第3エレメント414〜416を溶接等によって互いに結合して構成されている。第1エレメント414及び第3エレメント416は鉄等の磁性体からなり、第2エレメント415はオーステナイト系ステンレス等の非磁性体からなる。第1エレメント414は第2エレメント415の外周側に、第3エレメント416は第2エレメント415の内周側にそれぞれ配置され、第3エレメント416と第1の出力軸11Aとの間にはころ軸受462が配置されている。
【0067】
第1ハウジング部材41Aのギヤ部412は、第1の出力回転部材31のギヤ部313と噛み合っている。ギヤ部412のピッチ円径は、第1の実施の形態における第1の出力軸11のギヤ部111(
図2参照)のピッチ円径d
1と同じである。
【0068】
第2のクラッチ装置14Bの作動状態では、第1の出力軸11Aと差動歯車装置13の第1の出力回転部材31とがトルク伝達可能に連結され、第2のクラッチ装置14Bの非作動状態では、第1の出力軸11Aと差動歯車装置13の第1の出力回転部材31との連結が遮断される。すなわち、第2のクラッチ装置14Bは、第1の出力軸11Aと差動歯車装置13の第1の出力回転部材31との間のトルク伝達を断接する動力断続用のクラッチである。
【0069】
(トランスファ装置の動作)
次に、本実施の形態に係るトランスファ装置1Aの動作について説明する。トランスファ装置1Aは、制御装置Cから第1クラッチ装置14A及び第2クラッチ装置14Bの電磁コイル45に供給する電流のオン又はオフにより、(1)ロックモード、(2)後輪駆動モード、(3)四輪駆動モード、(4)フリーモードの4つのモードを切り替え可能である。以下、これらの各モードにおけるトランスファ装置1Aの動作について説明する。
【0070】
(1)ロックモード
ロックモードでは、第1クラッチ装置14Aの電磁コイル45及び第2クラッチ装置14Bの電磁コイル45に制御装置Cから励磁電流が供給され、第1クラッチ装置14A及び第2クラッチ装置14Bが共に作動する。これにより、入力軸10と第1の出力軸11Aとが相対回転不能に連結されると共に、差動歯車装置13における保持器30と第1及び第2の出力回転部材31,32との相対回転が規制される。すなわち、第1の出力軸11と第2の出力軸12との差動回転が規制され、ひいては前輪側(左右前輪201,202)と後輪側(左右後輪203,204)との差動回転が規制される。
【0071】
(2)後輪駆動モード
後輪駆動モードでは、第1クラッチ装置14Aの電磁コイル45に制御装置Cから励磁電流が供給されて第1クラッチ装置14Aが作動するが、第2クラッチ装置14Bの電磁コイル45には励磁電流が供給されない。これにより、入力軸10と第1の出力軸11Aとが相対回転不能に連結されるが、第2クラッチ装置14Bの外側回転部材41は第1の出力軸11Aに対して自由に回転可能な状態となる。したがって、差動歯車装置13の第1の出力回転部材31から第1の出力軸11Aへのトルクの出力がなされず、これに伴って差動歯車装置13の第2の出力回転部材32から第2の出力軸12へのトルクの出力もなされないこととなる。つまり、第1の出力回転部材31が自由に回転可能な状態となるため、遊星歯車33が保持器30の保持孔300a内において自転自在となり、遊星歯車33を介した保持器30から第2の出力回転部材32へのトルク伝達が行われず、第2の出力軸12へのトルクの出力がなされないこととなる。すなわち、後輪駆動モードでは、駆動源20の駆動力が第1の出力軸11Aを介して左右後輪203,204のみに伝達される。
【0072】
(3)四輪駆動モード
四輪駆動モードでは、第2クラッチ装置14Bの電磁コイル45に制御装置Cから励磁電流が供給されて第2クラッチ装置14Bが作動するが、第1クラッチ装置14Aの電磁コイル45には励磁電流が供給されない。これにより、入力軸10と第1の出力軸11Aの相対回転が許容されると共に、第2クラッチ装置14Bの外側回転部材41と第1の出力軸11Aとの差動回転が規制される。したがって、入力軸10に入力されたトルクは、差動歯車装置13によって第1の出力軸11A及び第2の出力軸12に配分される。この際、第1の出力軸11Aと第2の出力軸12との差動回転、すなわち差動歯車装置13の第1の出力回転部材31と第2の出力回転部材32との差動回転は、保持器30の内面300bと遊星歯車33のギヤ部331との摩擦抵抗によって抑制される。
【0073】
(4)フリーモード
フリーモードでは、第1クラッチ装置14Aの電磁コイル45及び第2クラッチ装置14Bの電磁コイル45の何れにも制御装置Cから励磁電流が供給されず、第1クラッチ装置14A及び第2クラッチ装置14Bが共に非作動状態となる。このため、入力軸10と第1の出力軸11Aとの間のトルク伝達が行われず、また差動歯車装置13の第1の出力回転部材31が自由に回転可能な状態となるため、第2の出力軸12へのトルクの出力もなされない。すなわち、駆動源20の駆動力が第1の出力軸11Aにも第2の出力軸12にも伝達されず、左右前輪201,202及び左右後輪203,204は自由に回転可能な状態となる。
【0074】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態について述べた作用及び効果に加え、四輪駆動車2の走行状態に応じて上記の4つのモードを選択することが可能となる。また、第1のクラッチ装置14A及び第2クラッチ装置14Bは、複数のアウタクラッチプレート431と複数のインナクラッチプレート432と摩擦によってトルクを伝達する摩擦クラッチであるので、入力軸10と第1の出力軸11A、及び第2クラッチ装置14Bの外側回転部材41と第1の出力軸11Aが相対回転している場合でも、電磁コイル45に励磁電流を供給することにより、これらの回転を同期させることができる。
【0075】
[他の実施の形態]
以上、本発明のトランスファ装置を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0076】
例えば、上記第1及び第2の実施の形態では、第1乃至第3の回転軸線O
1,O
2,O
3が同一平面上に含まれる場合について説明したが、これに限らない。つまり、第1の回転軸線O
1及び第2の回転軸線O
2を含む平面上に第3の回転軸線O
3が含まれていなくともよい。この場合でも、差動歯車装置13の保持器30、第1の出力回転部材31、及び第2の出力回転部材32の少なくとも一部が第1の回転軸線O
1と第2の回転軸線O
2とに挟まれる位置に配置されていれば、本発明の効果を得ることができる。
【0077】
上記第1の実施の形態では、入力軸10と第1の出力軸11との間にクラッチ装置14を配置した場合について説明したが、このクラッチ装置14はなくともよい。この場合、トランスファ装置1は、常に非ロックモードで動作する。
【0078】
上記第1及び第2の実施の形態では、差動歯車装置13が差動制限機能を有する遊星歯車機構からなる場合について説明したが、差動歯車装置13は、差動制限機能を有していなくともよい。また、差動歯車装置13は、例えばフロントディファレンシャル22やリヤディファレンシャル24と同様のべベルギヤ式のものであってもよい。またさらに、平行軸ギヤ式、フェースギヤ式、又はカム式、あるいはその他の機構を用いた差動装置であってもよい。
【0079】
上記第1及び第2の実施の形態では、クラッチ装置14、第1のクラッチ装置14A、及び第2クラッチ装置14Bが摩擦クラッチである場合について説明したが、これに限らず、例えばスリーブの軸方向移動によって2つの軸を連結する噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)であってもよい。この場合、2つの軸の回転を同期させるシンクロ機構を設けることが望ましい。
【0080】
上記第1及び第2の実施の形態では、クラッチ装置14、第1のクラッチ装置14A、及び第2のクラッチ装置14Bの多板クラッチ43を、電磁コイル45の電磁力によって作動するカム機構44によって押圧する場合について説明したが、多板クラッチ43を押圧する機構は、油圧や空圧、あるいは電動モータを用いたものであってもよい。
【0081】
上記第1及び第2の実施の形態では、第1乃至第3の回転軸線O
1,O
2,O
3が四輪駆動車2の前後方向に平行である場合について説明したが、これに限らず、第1乃至第3の回転軸線O
1,O
2,O
3が四輪駆動車2の車幅方向に平行であってもよい。
【0082】
上記第2の実施の形態では、左右後輪203,204のみに駆動源20の駆動力を配分する後輪駆動モードを選択可能に構成した場合について説明したが、後輪駆動モードに替えて左右前輪201,202のみに駆動源20の駆動力を配分する前輪駆動モードを選択可能に構成してもよい。この構成の変更は、例えば第1乃至第3の回転軸線O
1,O
2,O
3を四輪駆動車2の車幅方向に平行に配置し、第1の出力軸11Aをフロントディファレンシャル22に、第2の出力軸12をリヤディファレンシャル24に、それぞれ連結することによって可能となる。
【0083】
上記第1及び第2の実施の形態では、保持器30のギヤ部301のピッチ円径(d
3)が、入力軸10のギヤ部101のピッチ円径(d
1)及び出力軸12のギヤ部121のピッチ円径(d
2)よりも小さい場合(d
3<d
1=d
2)について説明したが、保持器30のギヤ部301のピッチ円径(d
3)が、入力軸10のギヤ部101のピッチ円径(d
1)及び出力軸12のギヤ部121のピッチ円径(d
2)より大きくてもよい(d
3>d
1=d
2)。この場合、入力軸10の回転よりも保持器30の回転が減速されるので、差動歯車装置13の各部(例えば遊星歯車33のギヤ部331の歯先面と保持器30の保持部300の内面)における焼き付き等の発生を抑制することが可能となる。また、保持器30のギヤ部301のピッチ円径(d
3)と入力軸10のギヤ部101のピッチ円径(d
1)及び出力軸12のギヤ部121のピッチ円径(d
2)とが同じであってもよい(d
3=d
1=d
2)。
【0084】
上記第1及び第2の実施の形態では、入力軸10のギヤ部101のピッチ円径及び出力軸11のギヤ部111のピッチ円径(d
1)と、出力軸12のギヤ部121のピッチ円径(d
2)とが同じである場合(d
1=d
2)について説明したが、入力軸10のギヤ部101のピッチ円径(d
1)と、出力軸12のギヤ部121のピッチ円径(d
2)と、出力軸11のギヤ部111のピッチ円径とがそれぞれ異なっていてもよい。この場合、フロントディファレンシャル22における減速比(第2の出力軸12とリングギヤ221との歯数比)やリヤディファレンシャル24における減速比(第1の出力軸11とリングギヤ241との歯数比)の調整により、直進走行時における左右前輪201,202と左右後輪203,204の回転速度を均等にすることができる。