(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記押圧部材により押圧された前記吸収部材が接触することによって、前記ノズル周辺領域に付与される圧力は、前記ノズル周辺領域以外の領域に付与される圧力より小さいことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
前記吸収部材の前記ノズル周辺領域に押圧された部分の圧縮率は、前記吸収部材の前記ノズル周辺領域以外の領域に押圧された部分の圧縮率よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
前記液体噴射ヘッドの前記ノズルを有する面には固定板が設けられ、当該固定板には、前記ノズル周辺領域と対応する部分に当該ノズル周辺領域を露出させる開口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の上記プリンターでは、ローラー部材で押圧してインク吸収部材をインク吐出面に押し当てた際に、ローラー部材の平坦な部分(溝部以外の部分)で押圧されるインク吸収部材のインク吐出口に対応する部分が、ノズル吐出面に相対的に強く押し当てられる。このため、インク吸収部材の繊維がノズル吐出面のうちインク吐出口の周辺領域(ノズル周辺領域)に強く擦れ、特にノズル吐出口の周辺領域が摩耗し易いという問題があった。
【0007】
通常、ノズル吐出面には撥液処理等の表面処理が施されているが、このノズル吐出面が摩耗して特にノズル(インク吐出口)に近いノズル周辺領域の撥液性が低下すると、ノズル吐出面に付着したインクミスト等のインクが濡れ広がり易くなる。ノズルから噴射されたインク滴がこの濡れ広がったインクに接触した場合、インク滴の飛翔曲がりを誘発し、インク滴の記録媒体上への着弾位置(ドット位置)のずれとなって印刷画質の低下を招く。特に液体が顔料インクである場合、インク吸収部材に吸収されたインク中の顔料粒子の砥粒効果によってノズル吐出面が一層摩耗し易くなる。もちろん、液体が、染料インク又はウエット液であっても、ノズル吐出面がインク吸収部材で比較的強く繰返し擦られれば、ノズル周辺領域の撥液性が低下するため、液体の種類に拘わらず、同様の課題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸収部材が液体噴射ヘッドのノズル面に液体の吸収のために接触することに起因するノズル周辺領域へのダメージを小さく抑えつつ、ノズル面に付着した液体を効果的に除去できる液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する液体噴射装置は、ノズル面に配置された複数のノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記ノズル面に接触して該ノズル面に付着した液体を吸収可能な吸収部材と、前記ノズル面に接触する側とは反対の側から前記吸収部材を押圧して当該吸収部材を前記ノズル面に接触させる押圧部材と、を備える液体噴射装置において、前記ノズル面のうちノズル周辺領域以外の領域は前記ノズル面のノズル周辺領域より突出した突出面であり、前記吸収部材が前記ノズル面に最後に接触する領域の全てが前記突出面であり、前記押圧部材により押圧された前記吸収部材が接触することによって、前記最後に接触する領域に付与される圧力が、前記吸収部材が前記ノズル周辺領域と前記突出面との両方に接触するときに当該ノズル周辺領域に付与される圧力よりも大きく、かつ当該突出面に付与される圧力よりも小さく設定されている。
上記課題を解決する液体噴射装置は、ノズル面に配置された複数のノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記ノズル面に接触して該ノズル面に付着した液体を吸収可能な吸収部材と、前記ノズル面に接触する側とは反対の側から前記吸収部材を押圧して当該吸収部材を前記ノズル面に接触させる押圧部材と、を備える液体噴射装置において、前記押圧部材は、前記ノズル面のうちノズル周辺領域以外の領域と対応する部分としての凸部と、前記ノズル面のノズル周辺領域と対応する部分としての凹部であって前記凸部よりくぼんだ凹部と、を有
し、
前記押圧部材により押圧された前記吸収部材が接触することによって、前記ノズル周辺領域に付与される圧力は、前記ノズル周辺領域以外の領域に付与される圧力より小さい。
【0010】
この構成によれば、押圧部材により押圧された吸収部材がノズル面に接触することによって、ノズル周辺領域に付与される圧力はノズル周辺領域以外の領域に付与される圧力より小さい。このため、吸収部材がノズル面に接触して液体を吸収するときに、ノズル周辺領域に与えるダメージを小さく抑えつつ、ノズル面に付着した液体を効果的に吸収できる。
【0011】
また、上記液体噴射装置では、前記吸収部材の前記ノズル周辺領域に押圧された部分の圧縮率は、前記吸収部材の前記ノズル周辺領域以外の領域に押圧された部分の圧縮率よりも小さいことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、吸収部材のノズル周辺領域に押圧された部分の圧縮率を、吸収部材のノズル周辺領域以外の領域に押圧された部分の圧縮率よりも小さくすることによって、吸収部材のノズル面を押圧する領域の違いに応じて圧力が適切に調整される。よって、吸収部材の接触時のノズル周辺領域へのダメージを抑えつつ、ノズル面に付着した液体を効果的に吸収除去できる。
【0013】
また、上記液体噴射装置では、前記ノズル周辺領域以外の領域は当該ノズル周辺領域よりも突出した突出面であり、前記吸収部材が前記ノズル面に対して払拭方向に最後に接触する領域の全てが突出面であり、前記最後に接触する領域に付与される圧力が、前記吸収部材が前記ノズル周辺領域と前記突出面との両方に接触するときに当該ノズル周辺領域に付与される圧力よりも大きく、かつ当該突出面に付与される圧力よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、吸収部材が突出面とノズル周辺領域との両方に接触してノズル面に付着した液体を払拭方向に順番に吸収する。そして、吸収部材がノズル面に対して払拭方向に最後に接触する領域の全てが突出面となる。吸収部材が突出面とノズル周辺領域との両方に接触する払拭過程で、突出面に接触していた吸収部材の部分の相対的に大きな圧力が、最後に接触する領域の突出面に接触するようになったときに低下するので、このとき吸収部材には液体を吸収する力(吸引力)が発生する。例えば、突出面から拭き取った未吸収の液体が存在する場合には、少なくともその一部を払拭の最後に吸収部材に吸収させることができる。また、例えば払拭方向に順番に液体を吸収してきた吸収部材の液体吸収量が比較的多い場合には、この吸収部材から最後に接触する領域で液体の一部が押し出されることを回避できる。
【0015】
上記液体噴射装置では、前記ノズル周辺領域以外の領域は、前記ノズル周辺領域より突出した突出面であり、当該突出面は、前記ノズル周辺領域より撥液性が低いことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、突出面上の液体は濡れ広がり易いので、吸収部材が突出面上の液体を吸収し易くなる。例えば撥液性が高く液体が濡れ広がらない構成であると、ノズル周辺領域と突出面との境界付近に液体が集まり易くなり、この部分で相対的に多くの液体を吸収した吸収部材の当該境界付近に対応する部分における液体吸収性能が低下する。しかし、撥液性が相対的に低い突出面上では液体が濡れ広がるので、吸収部材は突出面上の液体を効率よく吸収できる。
【0017】
さらに上記液体噴射装置では、前記液体噴射ヘッドの前記ノズルを有する面には固定板が設けられ、当該固定板には、前記ノズル周辺領域と対応する部分に当該ノズル周辺領域を露出させる開口が設けられていることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、押圧部材の押圧によって、固定板の開口の部分に付与される圧力が、固定板における開口以外の部分に付与される圧力よりも小さい。このような固定板を液体噴射ヘッドに設けるだけの比較的簡単な構成で、ノズル周辺領域とそれ以外の領域とに付与されるそれぞれの圧力を異ならせることができる。
【0019】
また、上記液体噴射装置では、前記押圧部材は、前記ノズル周辺領域と対応する部分に凹部を有し、当該ノズル周辺領域以外の領域と対応する部分に凸部を有することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、押圧部材に凹部と凸部を設けるという比較的簡単な構成で、押圧部材により押圧された吸収部材によって、ノズル周辺領域とそれ以外の領域とにそれぞれ付与される各圧力を異ならせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、液体噴射装置の一例であるインクジェット式のプリンターについて、
図1〜
図8を用いて説明する。
図1に示すように、プリンター11において上方側が開口する略矩形箱状をなすフレーム12の内側下部には、略四角板状の支持部材13が主走査方向X(
図1では左右方向)に沿って延びる状態で配置されている。記録媒体Pは、フレーム12の後側下部に設けられた搬送モーター14の動力により駆動される給送ローラー及び搬送ローラー対(いずれも図示略)によって、支持部材13上を主走査方向Xと直交する副走査方向Y(搬送方向)に搬送される。また、支持部材13の上方に架設されたガイド軸16には、キャリッジ17が主走査方向Xに往復移動可能な状態で支持されている。
【0023】
フレーム12におけるガイド軸16の両端部近くの各位置には、駆動プーリー18及び従動プーリー19が回転自在な状態でそれぞれ支持されている。駆動プーリー18には、キャリッジ17を往復移動させる際の動力源となるキャリッジモーター20の出力軸が連結されている。また、これら一対のプーリー18,19の間には、無端状のタイミングベルト21がその一部がキャリッジ17に連結された状態で掛装されている。したがって、キャリッジモーター20の動力によりタイミングベルト21が正逆転することにより、キャリッジ17はガイド軸16に沿って主走査方向Xに往復移動可能となっている。
【0024】
キャリッジ17の下部には液体噴射ヘッド22が設けられる一方、その上側には液体噴射ヘッド22に供給するインク(液体)を貯留する複数(本実施形態では5つ)のインクカートリッジ23が着脱可能な状態で搭載されている。そして、支持部材13上に給送された記録媒体Pに対して液体噴射ヘッド22からインク滴が噴射されることにより、記録媒体Pに画像等が印刷される。なお、本実施形態のプリンター11が印刷の対象とする記録媒体Pは、例えば紙、布、フィルムなどである。プリンター11は、例えばタオル、衣料(シャツ等)などの印刷も可能である。
【0025】
複数のインクカートリッジ23には、異なる色のインクがそれぞれ収容されている。一例としてシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)、白(W)の各色のインクが各インクカートリッジ23にそれぞれ収容されている。各インクカートリッジ23から供給されるインクを液体噴射ヘッド22から噴射することにより、記録媒体Pへのカラー印刷などが行われる。一例として、濃色の記録媒体Pの場合、白印刷(下地印刷)を行った後、その上にカラー印刷が行われる。なお、インクカートリッジ23の装着方式は、インクカートリッジ23がキャリッジ17に搭載される所謂オンキャリッジタイプに限らず、インクカートリッジ23がプリンター本体側のカートリッジホルダーに着脱可能に装着される所謂オフキャリッジタイプでもよい。
【0026】
また、
図1に示すように、フレーム12内においてキャリッジ17が非印刷時に待機するホーム位置HPの下側には、液体噴射ヘッド22のメンテナンスを行なうためのメンテナンス装置25が設けられている。メンテナンス装置25は、液体噴射ヘッド22を払拭するワイピング装置26、及び液体噴射ヘッド22をキャッピングするキャップ27aを備えたキャッピング装置27と、キャップ27a内を吸引して液体噴射ヘッド22のノズルから増粘インク等を吸引排出する際に駆動される吸引ポンプ(図示略)とを備えている。液体噴射ヘッド22がノズルクリーニング目的で印刷とは関係のないインク滴を吐出するフラッシングの際は、キャップ27aがインク滴の吐出先として使用される。
【0027】
図1に示すように、フレーム12においてキャリッジ17の背面側の位置には、キャリッジ17の移動量に比例する数のパルスを出力するリニアエンコーダー28がガイド軸16に沿って延びるように設けられている。また、プリンター11には印刷制御及びメンテナンス制御を司るコントローラー29が設けられている。コントローラー29は、リニアエンコーダー28の出力パルスに基づきキャリッジモーター20を駆動制御し、キャリッジ17の位置制御及び速度制御を行う。また、コントローラー29は、搬送モーター14を駆動制御し、記録媒体Pの給送及び搬送を行う。さらにコントローラー29は、メンテナンス実行条件が成立したと判断すると、キャリッジ17をホーム位置HP側の所定位置に移動させた後、ワイピング装置26及びキャッピング装置27のうち少なくとも一方を駆動させ、ワイピング及びクリーニングのうち必要なメンテナンスを行う。
【0028】
図2に示すヘッドユニット30は、キャリッジ17の下面部に取り付けられるもので、キャリッジ17に取り付けるためのブラケット部31と、ブラケット部31から下方へ突出する四角柱状の液体噴射ヘッド22とを備える。液体噴射ヘッド22は、ブラケット部31から下方へ突出する四角柱状の流路形成部32と、流路形成部32の下側に固定された四角板状のヘッド本体33とを備える。ヘッド本体33の
図2における下面には、複数列(一例として10列)のノズル列34が形成されている。また、ヘッド本体33の下面側には、複数(一例として5つ)の開口36a(貫通孔)を有する固定板の一例としてのヘッドカバー36が、ノズル列34を構成する各ノズル38(
図3参照)が形成されたノズル形成面35(本例では下面)を一部覆う状態で取着されている。複数のノズル列34は、1つの開口36aに所定列数(一例として2列)ずつ露出している。本例では、ノズル形成面35のうち開口36aにより露出する領域がノズル周辺領域37となっている。
【0029】
図3及び
図4に示すヘッドカバー36は、ノズル形成面35のうち開口36aにより露出させたノズル周辺領域37以外の部分を覆う状態で、係止等の固定構造により液体噴射ヘッド22に固定されている。
図3に示す液体噴射ヘッド22の底面全体が、ワイピング装置26の払拭の対象となるノズル面39となっている。このノズル面39は、ノズル周辺領域37(つまり開口36a内の領域)と、ノズル周辺領域37以外の領域であって、ノズル周辺領域37よりもヘッドカバー36の厚みに相当する分だけ突出している突出面40とを有する。ノズル周辺領域37と突出面40との間には段差41が存在し、ノズル面39は、ノズル周辺領域37の部分で凹部、突出面40の部分で凸部となる凹凸面となっている。なお、ヘッドカバー36は例えば金属製(例えばステンレス鋼等)である。
【0030】
図3に示すように、ノズル列34は、副走査方向Yに沿って一定ピッチで配置された多数個(例えば180個又は360個)のノズル38からなる。各ノズル列34は、インクカートリッジ23のインク色に対応する1色のインクをそれぞれ噴射する。もちろん、CMYKの4色及び白(W)以外の色を噴射してもよく、例えばライトマゼンタ、ライトシアン、ライトイエロー、灰、オレンジ等を噴射してもよい。また、液体噴射ヘッド22の色数は、CMYK4色、CMY3色、黒1色などでもよい。さらに、複数のノズル列34中にインクの噴射されない不使用ノズル列が存在してもよい。
【0031】
また、
図3に示すノズル形成面35には、インクをはじき易い撥液処理(撥インク処理)が施されており、その表面には撥液膜42(撥インク膜)が成膜されている。本実施形態で使用するインクは、一例として顔料インクである。顔料インクでは、その分散媒として使用される液中に多数の顔料の粒子が分散している。シアン、マゼンタ、イエローの顔料としては平均粒径約100nmの有機顔料、黒の顔料としては平均粒径約120nmのカーボンブラック(無機顔料)、白の顔料としては平均粒径約320nmの酸化チタン(無機顔料)などが採用できる。本例のインクは水系インクであり、分散媒である水の中に多数の顔料の粒子が分散している。このため、本例では、撥液膜42を、水系インクをはじく機能をもつ撥水膜としている。撥液膜42はノズル形成面35に対するワイピングが繰り返し行われることで徐々に摩耗し、撥液膜42が一定以上摩耗すると、その撥液性が低下する。なお、撥液膜42は、撥液コーティング膜でもよいし、撥液性の単分子膜でもよく、その膜厚及び撥液処理方法は任意に選択できる。
【0032】
この撥液性低下状態では、ノズル周辺領域37に対するインクミスト等の液体の濡れ角(接触角)が小さくなる。このため、ノズル周辺領域37に付着した複数のインクミストは濡れ広がって、比較的広い1つのインク滴(付着インク)に成長し易い。この結果、この種の付着インクが、ノズル38の周辺に存在したり、ノズル38の開口を一部塞いだり、さらにノズル38内へ流れ込んだりする虞もある。仮にこの状態でノズル38からインク滴を噴射すると、その噴射されたインク滴が付着インクと接触し、インク滴の飛翔曲がりを誘発する。この種のインク滴の飛翔曲がりは、記録媒体P上へのインク滴の着弾位置(つまり印刷ドット形成位置)が想定位置からずれる原因になり、印刷画質の低下を招く。このような理由から、ワイピングによる撥液膜42の摩耗はなるべく抑える必要がある。
【0033】
一方、ヘッドカバー36は金属プレートを所定形状に加工して製造され、その表面には撥液処理が施されていない。このため、突出面40は、ノズル周辺領域37よりも撥液性が低くなっている。つまり、突出面40に対するインクの濡れ角が、ノズル周辺領域37に対するインクの濡れ角よりも小さくなっている。
【0034】
図4に示すように、液体噴射ヘッド22は、主走査方向Xに一定ピッチで並列に配列された複数個(本実施形態では例えば5個)の記録ヘッド43(単位ヘッド)を有している。記録ヘッド43の下面となるノズル形成面35の周縁部はヘッドカバー36により覆われ、2列分のノズル38を含むノズル周辺領域37が、ヘッドカバー36に穿孔された開口36a(貫通孔)から露出している。各ノズル38は、流路形成部32内を通る各インク流路32aと連通し、さらに各インク流路32aは不図示の流路を通じて流路形成部32の上面から上方へ突出する複数本の供給管部30aに連通している。各供給管部30aは、キャリッジ17上のカートリッジホルダー(図示せず)に装着された各インクカートリッジ23の供給口と不図示の流路を介して連通される。よって、各インクカートリッジ23(
図1参照)からは、各供給管部30a及びインク流路32a等を通じて、対応する記録ヘッド43のノズル38へ対応する各色のインクが供給される。なお、オフキャリッジタイプの場合は、各供給管部30aはプリンター本体側のカートリッジホルダーに装着された各インクカートリッジの供給口(いずれも図示せず)とチューブを通じて接続される。また、液体噴射ヘッド22はノズル列を3列以上有する1つのヘッドからなる構成でもよい。
【0035】
図3及び
図4に示すように、液体噴射ヘッド22のノズル面39は、前述のように、ヘッドカバー36の下面における開口36aの周囲の部分からなる突出面40と、開口36aの部分で凹んで露出するノズル周辺領域37とを有する。なお、
図4では、ノズル面39の凹凸形状を分かり易くするため、ヘッドカバー36の厚みを実際よりも厚く誇張して描いている。
【0036】
次に
図5を用いて、ワイピング装置26について説明する。
図5に示すように、ワイピング装置26は、払拭方向に往復動可能なワイパーユニット46と、ワイパーユニット46を払拭方向へ移動可能に案内するレール部47とを備える。ワイパーユニット46は、ノズル面39に当接してインクを吸収する吸収部材の一例としての帯状の布シート50を搭載したワイパーカセット51と、ワイパーカセット51が着脱自在に装着されるワイパーホルダー52とを備える。ワイパーホルダー52は、その下部に固定されたガイド部52aを介してレール部47に沿って案内され、払拭方向(副走査方向Y)に往復動可能となっている。プリンター本体側(例えばフレーム12)には、動力源となる電動モーター54と、電動モーター54の動力を伝達する動力伝達機構55とが設けられている。
【0037】
図5に示すように、ワイパーホルダー52の側部にはラック・アンド・ピニオン機構56が設けられている。ラック・アンド・ピニオン機構56は、ワイパーホルダー52の側面にその長手方向が払拭方向に一致する向きで固定されたラックギア部56aと、このラックギア部56aと噛合すると共に動力伝達機構55を介して伝達される動力で回転するピニオンギア部56bとを有する。電動モーター54が正転駆動すると、ピニオンギア部56bが正転し、ラックギア部56aと共にワイパーホルダー52が
図5に示す退避位置から搬送方向Y上流側(
図5では左方)へ往動する。この往動後に停止した電動モーター54が次に逆転駆動すると、ラックギア部56aに噛合するピニオンギア部56bが逆転し、ワイパーホルダー52は搬送方向Y下流側(
図5では右方)へ復動し、
図5に示す退避位置に復帰する。
【0038】
図5に示すように、ワイパーユニット46は、ワイパーカセット51の上面部から上方へ突出する半円筒状の布ワイパー61を有する。そして、ワイパーユニット46が
図5に示す退避位置からレール部47に沿って払拭方向に移動することで、液体噴射ヘッド22のノズル面39に対する布ワイパー61のワイピング(払拭)が行われる。
【0039】
図5に示すように、ワイパーカセット51内には、繰出軸63と巻取軸64が払拭方向に所定の距離を隔てた状態で軸支されている。繰出軸63には、未使用の布シート50が巻装された繰出しロール65が装着されている。また、巻取軸64には、使用済みの布シート50が巻き取られた巻取りロール66が装着されている。両ロール65,66間に掛装された布シート50は、ワイパーカセット51の上面中央部の開口51a(
図6参照)から上方へ一部突出した押圧部材の一例としての押圧ローラー67の外周面に上側から巻き掛けられ、押圧ローラー67に巻き掛けられた部分で半円筒状の布ワイパー61を形成している。押圧ローラー67を軸支する支軸68はばね69により上方へ付勢され、布ワイパー61は上方へ付勢された状態にある。ワイパーユニット46は、これら各部63〜69により、ノズル面39に当接する側への付勢力を布ワイパー61に付与する機能、及び布シート50の押圧ローラー67に巻き掛けられた部分を使用済みのものから未使用のものへ交換するシート交換機能を有する。
【0040】
ここで、
図5に示すワイパーユニット46が往動終了位置にある状態では、例えば動力伝達機構55内の不図示のクラッチ機構により、ピニオンギア部56bへの動力の伝達が遮断されるとともに、繰出軸63と巻取軸64が動力伝達機構55と動力伝達可能に接続される。この状態では、電動モーター54から動力伝達機構55を介して伝達された動力により、繰出軸63と巻取軸64とが回転し、繰出しロール65から未使用の布シート50が繰り出されるとともに、巻取りロール66に使用済みの布シート50が巻き取られる。この間にキャリッジ17は払拭位置から退避する。そして、ここまでの払拭動作を終了した後、電動モーター54が逆転駆動すると、ワイパーユニット46は復動し、
図5に示す退避位置に復帰する。なお、クラッチ機構は、ラックギア部56aに対するピニオンギア部56bの噛合を解除し、かつ巻取軸64への動力伝達可能な状態に切り換え可能な機構でもよい。その他、公知のクラッチ機構を採用できる。
【0041】
図6に示す半円筒状の布ワイパー61の軸線方向長さは、液体噴射ヘッド22側のノズル面39の主走査方向X長さ(幅)よりも若干長くなっている。このため、布ワイパー61によりノズル面39全体を払拭することが可能になっている。押圧ローラー67は、ノズル面39の主走査方向X長さ(幅)よりも若干長い1つのローラーで構成されている。
【0042】
図6に示すように、押圧ローラー67は、ノズル面39に接触する側とは反対の側から布シート50を押圧し、布シート50をノズル面39に接触させる機能を有する。1本の押圧ローラー67は、凸部となる円筒状の大径部67aと、凹部となる円筒状の小径部67bとが軸線方向に交互に並ぶ段付きローラーとなっている。この押圧ローラー67は、ヘッドカバー36の突出面40と対応する部分が大径部67aとなり、ノズル周辺領域37と対応する部分が小径部67bとなっている。
【0043】
詳しくは、大径部67aは支軸68に対し液体噴射ヘッド22側の開口36a(
図2、
図3参照)の幅分の間隔を開けて軸線方向に複数個(本例では6個)配列されている。この構成により、布シート50の大径部67aに巻き掛けられた部分を、ノズル面39のうちの突出面40に相対的に大きな圧力で押し当てることが可能となっている。そして、布シート50の小径部67bに対応する部分を、ノズル面39のうち凹んで位置するノズル周辺領域37にその摩耗が抑えられる程度の相対的に小さな圧力で押し当てることが可能となっている。
【0044】
よって、
図5に示す電動モーター54が正転駆動すると、ワイパーユニット46が同図の退避位置から払拭方向に沿って往動する。この往動過程(払拭過程)では、布ワイパー61における押圧ローラー67の大径部67aと対応する部分が大径部67aからの押圧力により大きな圧力で突出面40に当接しつつ移動する。このとき、布ワイパー61における押圧ローラー67の小径部67bと対応する部分は、押圧ローラー67によって押圧されないので、突出面40に対する圧力より小さな圧力でノズル周辺領域37に当接しつつ移動する。そして、布ワイパー61による払拭動作終了後に、例えば液体噴射ヘッド22が払拭位置から退避し、その後、電動モーター54が逆転駆動されることで、ワイパーユニット46は退避位置に復動する。
【0045】
また、
図7(a)に示す布ワイパー61を構成する帯状の布シート50は、一例として不織布からなる。本例では、布シート50の材質に合成繊維を使用し、一例としてキュプラを用いている。もちろん、ポリエステル、レーヨン、アクリル、アセテート、ナイロン、ポリウレタン等の合成繊維の他、毛、絹、麻等の天然繊維を用いることもできる。また、布シート50は不織布に替えて織物であってもよい。
【0046】
図7(a)に示すように、布シート50のノズル面39に押圧されていない非押圧時(非払拭時)の厚さをAとする。また、
図7(b)に示すように、布ワイパー61がノズル面39に押圧されているときの布シート50の突出面40に対応する部分の厚さをB、ノズル周辺領域37に対応する部分の厚さをCとする。このとき、布シート50の各厚さの大小関係は、A>C>Bとなる。なお、ヘッドカバー36の板厚tは、例えば0.08〜0.15mmの範囲内の値をとる。
【0047】
本実施形態では、各厚さA〜Cは、一例として次の範囲内の値をとる。布シート50の非押圧時の厚さAは、例えば0.3〜0.5mmの範囲内の値をとる。また、布シート50の突出面40に押圧された部分の厚さBは、例えば0.2〜0.3mmの範囲内の値をとり、布シート50のノズル周辺領域37に押圧された部分の厚さCは、例えば0.3〜0.45mmの範囲内の値をとる(但しB<C)。例えば厚さA=4.0mmのキュプラ製の不織布からなる布シート50を使用する場合、ヘッドカバー36の板厚を例えば0.1mmとすると、厚さBが例えば0.25〜0.3mmの範囲内の値をとり、厚さCが例えば0.32〜0.37mmの範囲内の値をとることが好ましい。
【0048】
よって、布ワイパー61の払拭時における布シート50の圧縮率Kは次のようになる。布ワイパー61の突出面40を押圧する部分の圧縮率Kbは、Kb=(A−B)/A×100(%)で表され、ノズル周辺領域37を押圧する部分の圧縮率Kcは、Kc=(A−C)/A×100(%)で表される。A>C>Bの関係から、圧縮率は、Kb>Kcとなる。すなわち、布シート50におけるノズル周辺領域37を押圧する部分の圧縮率Kcが、布シート50の突出面40を押圧する部分の圧縮率Kbよりも小さくなっている。圧縮率Kが大きいほど布シート50によりノズル面39に付与される圧力(払拭圧)が大きくなる。このため、布ワイパー61のノズル周辺領域37に対応する部分によりノズル周辺領域37に付与される圧力が、布ワイパー61の突出面40に対応する部分により突出面40に付与される圧力よりも小さくなっている。一例として、A=4.0mm、B=0.25mm、C=0.35mmとすると、各圧縮率Kb,Kcは、それぞれKb=38(%),Kc=13(%)となる。圧縮率Kbが例えば30〜50%の範囲内の値で、圧縮率Kcが例えば10〜20%の範囲内の値であることが好ましい。
【0049】
また、圧縮率Kと密度は所定の関係にあることから、上記圧縮率Kb,Kcの関係から、布シート50のノズル周辺領域37を押圧する部分の密度は、布シート50の突出面40を押圧する部分の密度よりも小さくなっている。この密度の関係は、布シート50におけるノズル周辺領域37を押圧する部分の間隙率が、布シート50の突出面40を押圧する部分の間隙率よりも大きいことを意味する。
【0050】
図8(a)に示すように、布ワイパー61が同図の矢印方向へ移動してノズル面39を払拭する過程では、
図8(b)に示すように、布ワイパー61がノズル面39に接触する圧力(払拭圧)が、布シート50のノズル面39に対する接触部位が各段階で異なることに応じて相違する。
図8(b)に示すように、布ワイパー61が、液体噴射ヘッド22の同図右側に位置する待機位置Pwから同図の左方へ移動して払拭動作を行う過程の各段階における布ワイパー61のノズル面39に対する圧力を、同図を参照しつつ説明する。
【0051】
まず、布ワイパー61がノズル面39に対し最初に接触する
図8(b)に示す位置Paでは、布ワイパー61がノズル面39に接触する領域の全てが突出面40となる。このとき布ワイパー61はノズル面39(つまり突出面40)に対して圧力Poで接触する。次に布ワイパー61がノズル面39に最初に接触する領域を過ぎると、
図8(b)の位置Pbで示すように布ワイパー61はノズル周辺領域37と突出面40との両方に接触する領域に移行する。布ワイパー61は、
図8(b)の位置Pbの例で示すように、突出面40に対して圧力P1で接触し、ノズル周辺領域37に対して圧力P2で接触する。このとき、布ワイパー61のノズル周辺領域37を押圧する部分の圧力P2は、布ワイパー61の突出面40を押圧する部分の圧力P1よりも小さい(P2<P1)。
【0052】
さらにこの範囲の払拭を終えた後、布ワイパー61がノズル面39に対し最後に接触する
図8(b)に示す位置Pcでは、布ワイパー61がノズル面39に接触する領域の全てが再び突出面40となる。このとき、布ワイパー61は突出面40に対して圧力P3(=Po)で接触する。但し、この圧力P3は、布ワイパー61と突出面40との接触面積の変化に応じて変化する。ここで、払拭過程では押圧ローラー67の荷重をノズル面39が受ける。位置Pbでは押圧ローラー67の荷重をノズル周辺領域37へ一部分散されるものの主に突出面40が受け、位置Pcでは押圧ローラー67の荷重を突出面40が受ける。突出面40上の圧力P1を受ける部分の面積は、突出面40上の圧力P3を受ける部分の面積より十分小さい。よって、各圧力P1〜P3は、P1>P3>P2の関係にある。
【0053】
次に
図7及び
図8等を参照しつつ、ワイピング装置26を備えたプリンター11の作用を説明する。
シリアル式のプリンター11では、キャリッジ17が主走査方向Xに移動する途中で液体噴射ヘッド22のノズル38からインク滴を噴射して記録媒体Pに1走査分の記録を施す印字動作と、記録媒体Pを次の印字位置まで搬送する搬送動作とを交互に繰り返すことで、記録媒体Pへの印刷が進められる。この印刷中、ワイピング装置26のワイパーユニット46は
図5に示す退避位置に待機している。
【0054】
例えば印刷中の所定時期にコントローラー29は、ワイピングが必要か否かを判断し、ワイピングが必要と判断した場合、キャリッジモーター20を駆動制御してキャリッジ17を払拭位置に移動させる。コントローラー29は、リニアエンコーダー28の出力パルスを計数する不図示のカウンターの計数値を基に、キャリッジ17が払拭位置に到達して停止したと判断すると、電動モーター54を正転駆動させる。すると、ワイパーユニット46は退避位置からレール部47に案内されて払拭方向に往動する。
【0055】
払拭前のノズル面39は、印刷中に発生したインクミスト等が付着した状態にある。そして、ワイパーユニット46が往動することで、
図8(a)に示すように、布ワイパー61がノズル面39を払拭する。このとき、布シート50の押圧ローラー67の大径部67aに押圧された部分が突出面40に相対的に大きな圧力で押し付けられるので、突出面40上の付着インクは布ワイパー61に吸収され、ほぼ確実に拭き取られる。
【0056】
このとき、押圧ローラー67は開口36aと対応する部分が小径部67bとなっていて、布シート50のノズル周辺領域37と対応する部分が、押圧ローラー67により押圧されず、開口36a内へ強い押圧力で押し込まれることが回避される。この結果、布ワイパー61の開口36aと対応する部分は、突出面40と対応する部分が突出面40に接触する圧力(払拭圧)よりも小さな圧力でノズル周辺領域37に接触する。このとき、布シート50におけるノズル周辺領域37を押圧する部分の圧縮率Kcが、布シート50の突出面40を押圧する部分の圧縮率Kbよりも小さくなる。そして、布ワイパー61が
図8(b)の位置Pbに示す圧力P1,P2で接触する状態で払拭方向に移動することで、ノズル面39上の付着インクが布シート50に吸収されつつ拭き取られる。
【0057】
布ワイパー61が吸収したインク中には顔料の粒子が存在するため、この払拭中の布シート50がノズル周辺領域37に強い圧力で当接した状態で移動すると、顔料粒子の砥粒効果によりノズル周辺領域37がダメージを受ける。このようなダメージを受ける払拭が繰返し行われてノズル周辺領域37の撥液性が低下すると、インク滴の飛翔曲がりを誘発し、印刷画質の低下を招く虞がある。
【0058】
しかし、本実施形態では、布ワイパー61が突出面40に対する圧力よりも小さな圧力でノズル周辺領域37を払拭することから、ワイピングが繰返し行われても、ノズル周辺領域37の撥液性が低下しにくい。この結果、インク滴の飛翔曲がりが発生しにくく、比較的長期に亘り高い印刷画質で印刷できる。
【0059】
また、
図8(b)の位置Pbで示すように、布ワイパー61がノズル周辺領域37と突出面40との両方に接触する領域では、布ワイパー61は突出面40に対して圧力P1で接触し、ノズル周辺領域37に対して圧力P1より小さな圧力P2で接触する状態で払拭方向に移動する。さらにこの領域の払拭を終えた後、布ワイパー61がノズル面39に対し最後に接触する
図8(b)に示す位置Pcでは、布ワイパー61がノズル面39に接触する領域の全てが突出面40となり、布ワイパー61がそれまで突出面40を押圧していた圧力P1から、より小さな圧力P3に変化する。この結果、布ワイパー61には払拭方向の最後の領域でインクを吸収する吸引力が作用する。このため、突出面40から拭き取って未吸収のインクの少なくとも一部を払拭の最後の段階で布シート50に吸収させることができる。また、例えば払拭の最後の段階で布ワイパー61が突出面40に接触する圧力が大きくなることに起因して発生しうる布シート50からのインクのしみ出しを回避できる。
【0060】
また、突出面40はノズル周辺領域37に比べインクに対する撥液性が低いので、突出面40上の付着インクは比較的濡れ広がり易い。このため、突出面40上のインクは布ワイパー61の広いエリアを使って効果的に吸収される。仮に突出面40の撥液性が高いと、ノズル周辺領域37から段差41(開口36aの内壁面)を伝って突出面40側へ移動したインクが濡れ広がることなく段差41付近に集中し、布ワイパー61の段差41に対応する局所的なエリアにインクが集中的に吸収されるため、この部分のインク吸収性能が低下する。この場合、段差41付近のインクの拭き残りが発生し易くなる。しかし、本実施形態では、ノズル周辺領域37よりも撥液性の低い突出面40上のインクは濡れ広がり易く、その濡れ広がったインクを布ワイパー61が広範囲で吸収できる。この結果、ノズル面39上の段差41付近のインクの拭き残りが発生しにくい。
【0061】
上記実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)押圧ローラー67により押圧された布シート50によって、ノズル面39のうちノズル周辺領域37に付与される圧力を、ノズル面39のうちノズル周辺領域37以外の領域である突出面40に付与される圧力より小さくした。このため、ワイピング装置26による払拭時に、ノズル周辺領域37に与えるダメージを小さく抑えつつ、突出面40に付着したインクを効果的に吸収除去できる。この結果、撥液膜42の摩耗速度を低減できる。よって、ノズル周辺領域37の撥液性の低下に起因するインク滴の飛翔曲がりの発生を抑え、長期に亘って記録媒体Pに高画質の印刷を行うことができる。
【0062】
(2)払拭時に布シート50のノズル周辺領域37に接触する部分の圧縮率Kcを、布シート50の突出面40に接触する部分の圧縮率Kbより小さくした(Kc<Kb)。よって、布シート50が接触するノズル面39側の領域の違いに応じて各領域に付与される圧力が、ノズル周辺領域37に対する圧力が突出面40に対する圧力より小さくなるように、適切に調整される。例えば上記の圧力調整を行う方法として、布シートが接触するノズル面39側の領域の違いに応じて布の密度(間隙率)を領域毎に予め異ならせた特殊な布シートを使用することも考えられるが、このような特殊な布シートを使用しなくて済む。
【0063】
(3)布シート50がノズル面39に対して払拭方向に最後に接触する突出面40に付与される圧力P3が、その前段で布シート50がノズル周辺領域37と突出面40との両方に接触して行われる払拭過程において、ノズル周辺領域37に付与される圧力P2よりも大きく、かつ突出面40に付与される圧力P1よりも小さく設定されている。このため、上記払拭過程で布シート50によって突出面40に付与された圧力P1が、最後に圧力P3に弱まったときに、布シート50の圧縮状態が少し解放されるので、布シート50に吸引力が発生する。よって、例えば、突出面40から拭き取った未吸収のインクが存在する場合には、少なくともその一部を最後に布シート50に吸収させることができる。また、例えば払拭方向に順番にインクを吸収してきた布シート50のインク吸収量が比較的多い場合には、この布シート50から最後に接触する領域でインクの一部が押し出されることを回避できる。
【0064】
(4)突出面40はノズル周辺領域37より撥液性が低いので、ノズル周辺領域37から段差41を伝ったインクは、突出面40上に濡れ広がる。このため、布ワイパー61は突出面40上のインクを広いエリアを使って効率よく吸収できる。
【0065】
(5)液体噴射ヘッド22のノズル形成面35に取着されたヘッドカバー36に、ノズル周辺領域37と対応する部分にノズル周辺領域37を露出させる開口36aを形成した。よって、ヘッドカバー36に開口36aを設ける比較的簡単な構成で、布シート50のノズル周辺領域37と対応する部分と突出面40と対応する部分との圧縮率を適切に調整し、布シート50によってノズル周辺領域37と突出面40とに付与されるそれぞれの圧力を異ならせることができる。
【0066】
(6)押圧ローラー67は、ノズル周辺領域37と対応する部分に形成された小径部67bによりできた凹部と、突出面40と対応する部分に形成された大径部67aによりできた凸部とを有する。押圧ローラー67をこのような段付きローラーとした比較的簡単な構成で、ノズル周辺領域37と突出面40とにそれぞれ付与される各圧力を異ならせることができる。
【0067】
前記実施形態に限定されず、以下の態様で実施することもできる。
・押圧ローラーを段付きローラーとしたが、
図9に示すような段差のない円柱状のローラーからなる押圧ローラー70としてもよい。この構成でも、
図9に示すように、ノズル周辺領域37と対応する部分に開口36aを有するヘッドカバー36が液体噴射ヘッド22側に設けられているので、払拭時に圧縮される布シート50のノズル周辺領域37と対応する部分の圧縮率Kcが、布シート50の突出面40と対応する部分の圧縮率Kbよりも小さくなる。このため、払拭時に布シート50によりノズル周辺領域37に付与される圧力が、突出面40に付与される圧力よりも小さくなる。
【0068】
・布ワイパー61が
図8(a)の矢印方向へ移動してノズル面39を払拭する過程における各圧力P1〜P3の関係が、P1>P3>P2となるように払拭過程で押圧ローラー67の荷重を変化させてもよい。例えば、最後に接触する
図8(b)に示す位置Pcで押圧ローラー67の荷重を小さくして、払拭方向の最後の領域での布ワイパー61のインクを吸収する吸引力を大きくすることができる。また、このとき布ワイパー61の移動速度をそれまでの移動速度より遅くしたり、一時的に停止させたりすることにより、より確実に突出面40からインクを回収できる。
【0069】
・
図10に示すように、ヘッドカバー36は無くてもよい。つまり、液体噴射ヘッド22のノズル面39が、ノズル周辺領域37と、ノズル周辺領域37を囲む周囲領域72との間に段差のない平坦面であってもよい。この構成でも、
図10に示す押圧ローラー67として、ノズル周辺領域37に対応する部分が小径部67bとなり、周囲領域72に対応する部分が大径部67aとなるが段付きローラーを採用すれば、払拭時に周囲領域72に付与される圧力よりも小さな圧力でノズル周辺領域37を払拭できる。よって、ノズル周辺領域37へのダメージを小さく抑えつつ、ノズル面39からインクを効果的に吸収除去できる。なお、段差のないノズル面は、ノズル形成面35そのもので構成することに限定されず、ノズル38と連通可能なノズル孔が形成されたヘッドカバーを、液体噴射ヘッド22のノズル形成面35に取着して形成されてもよい。
【0070】
・布ワイパーは、ノズル面の下側にノズル面と平行状態に保持した布シートに、ノズル面側と反対側から押し付けた押圧ローラーを移動させることにより、布シートにインクを吸収する構成でもよい。例えば
図11に示すように、布ワイパー75は、ノズル面39と対向する位置にノズル面39と接触又は僅かに離間する状態でノズル面39と平行な状態に保持された布シート50と、布シート50のノズル面39側と反対側の面に押し当てられた状態で払拭方向(図中の矢印方向)に移動可能な押圧部材の一例としての押圧ローラー76とを備える。押圧ローラー76を回転可能に支持する支軸(図示略)は、払拭方向と平行な方向に移動可能な不図示のスライダー上にばね(図示略)を介して支持され、ノズル面39側に付勢されている。布ワイパー75は、ノズル面39全体に一度に当接できるだけの布シート50の領域をノズル面39と平行な姿勢に保持する機構と、この保持機構をノズル面39に対して接近・離間できるように昇降させる機構と、保持機構に保持された布シート50の部分を使用済みのものから未使用のものに変更するべく繰出し及び巻取り可能な機構とを備える。また、押圧ローラー76は、
図6と同じ段付きローラーで構成され、突出面40と対応する部分に形成された大径部76a(凸部)と、ノズル周辺領域37と対応する部分に形成された小径部76b(凹部)とを有する。
【0071】
・押圧ローラーは1本のローラー(段付きローラー)に替え、その支軸又は回転軸にその軸線方向に沿って突出面40と対応する幅のローラーを、ノズル周辺領域37の幅に相当する間隔をおいて複数個配置した構成のものでもよい。この構成によっても、布シート50のノズル周辺領域37に接触する圧力を、突出面40に接触する圧力よりも小さくできるので、ノズル周辺領域37へのダメージを抑えつつノズル面を効果的に払拭できる。
【0072】
・布シート50のノズル周辺領域37と対応する部分の密度を、ノズル周辺領域37以外の領域と対応する部分の密度よりも予め小さくした布シートを用いることで、布シート50のノズル周辺領域37とそれ以外の領域とに付与される圧力を異ならせてもよい。例えば、布シート50の幅方向(ノズル列と直交する方向)に、ノズル周辺領域37と対応する部分を繊維の低密度部、ノズル周辺領域37以外の領域と対応する部分を繊維の高密度部とした布シート50を使用する。この場合、円柱状の押圧ローラー等の押圧部材で布シート50をその幅方向に均一な荷重で押圧しても、布シート50によりノズル周辺領域37に付与される圧力を、ノズル周辺領域37以外の領域に付与される圧力よりも小さくすることができる。
【0073】
・押圧部材は、ノズル面に対応する押圧面を有し回転不能な押圧部材としてもよい。
・押圧ローラー67,70,76等の押圧部材は無くてもよい。布シートを張った状態でノズル面39に当接させるだけでも、ノズル周辺領域37に対応する部分に開口36aを有するヘッドカバー36が設けられていれば、布シート50のノズル周辺領域37に接触する圧力を、突出面40に接触する圧力よりも小さくすることはできる。また、布シートをノズル面39と接触させずノズル面39に付着したインクに接触させることで毛管力を利用してインクを吸収除去してもよい。
【0074】
・前記実施形態では、布ワイパーの往動時にノズル面39を払拭したが、復動時に払拭したり、往動と復動の両方で払拭したりする構成でもよい。また、布ワイパーの払拭方向を主走査方向Xに等しく設定してもよい。
【0075】
・例えば、ヘッドカバーの開口が全ノズル列を露出させる1つの開口である構成でもよい。また、ヘッドカバーの開口がノズル列の1つ毎に形成されていてもよい。
・ワイパーユニットはプリンター本体に固定し、キャリッジが払拭位置を通過することで、そのノズル面を払拭位置に待機するワイパー部に摺動させる構成でもよい。
【0076】
・吸収部材は、布であればよい。布は、多数の繊維を広く板状に加工したものを指し、織物、編み物、レース、フェルト、不織布などでもよい。さらに吸収部材は、液体の吸収性を有すれば、布以外でもよく、例えばスポンジ等の樹脂製の吸収性を有する多孔質材料でもよい。
【0077】
・液体噴射装置は、シリアルプリンターに限定されず、ラインプリンター及びページプリンターでもよい。
・記録媒体は紙、布、フィルムなどに限定されず、金属シート、セラミックシートなどでもよい。また、記録媒体は、平面状に限らず、立体物でもよい。
【0078】
・液体噴射装置は、インクを噴射するプリンター11に限定されず、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置であってもよい。なお、液体噴射装置から微小量の液滴となって吐出される液体の状態としては、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体は、液体噴射装置から噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体を含むものとする。また、物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなども含むものとする。液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造等に用いられる電極材や色材等の材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置であってもよい。また、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置であってもよい。