【実施例1】
【0013】
[システム構成]
まず、本実施例に係る水産資源管理システムの構成について説明する。
図1は、実施例1に係る水産資源管理システム1の構成を示す図である。
図1に示す水産資源管理システム1は、センサ30A〜30Cによって採取された実測データを用いて、水産資源と水産資源を捕食する捕食生物の数の推移を模擬実験するシミュレーション処理を実行するものである。なお、本実施例では、水産資源を淡水系に生息する「アユ」や「フナ」等の川魚とし、捕食生物を「カワウ」として川魚とカワウの数の推移をシミュレーションする場合を想定して以下の説明を行う。
【0014】
図1に示すように、水産資源管理システム1には、水産資源管理装置10と、センサ30A〜30Cと、クライアント端末50とが収容される。なお、
図1には、3つのセンサ、1つのクライアント端末50をそれぞれ図示したが、水産資源管理システム1は任意の数のセンサもしくはクライアント端末を収容できる。なお、以下では、センサ30A〜30Cの各装置を区別なく総称する場合には、「センサ30」と記載する場合がある。
【0015】
これら水産資源管理装置10、センサ30及びクライアント端末50の間は、ネットワーク7を介して相互に通信可能に接続される。かかるネットワーク7には、有線または無線を問わず、インターネット(Internet)、LAN(Local Area Network)やVPN(Virtual Private Network)などの任意の種類の通信網を採用できる。
【0016】
このうち、水産資源管理装置10は、上記のシミュレーションに関するサービスをクライアント端末50に提供するコンピュータである。かかる水産資源管理装置10は、上記のシミュレーション処理を実行するWebサーバとして実装することとしてもよいし、また、上記のシミュレーションに関するサービスをアウトソーシングにより提供するクラウドとして実装することもできる。他の一態様としては、パッケージソフトウェアやオンラインソフトウェアとしてシミュレーションプログラムを所望のコンピュータにプリインストール又はインストールさせることによっても実装できる。
【0017】
センサ30は、シミュレーションに用いる実測データを採取する装置である。かかるセンサ30の一態様としては、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子を用いた撮像装置を採用できる。例えば、センサ30は、アユやフナ等の川魚、川魚を捕食するカワウ、あるいは川魚の釣りを行う釣り人等の少なくともいずれか1つを撮像範囲に収容できるように、川魚の生息域に設定された複数の調査地点に点在して設置される。
【0018】
一例として、カワウの実測データを採取する場合には、カワウによる川魚の捕食が観測され、かつ川魚を捕食する前後で飛来するカワウを撮像範囲に収めることができる地点が調査地点として設定される。この場合には、センサ30と調査地点を飛来するカワウとの間に障害物等が映るのを抑制する観点からカワウが飛来する高さにセンサ30の設置位置を近づけるために、樹木や電柱の頂点付近、建物の屋根の付近などにセンサ30を設置することもできる。なお、以下では、センサ30によって調査地点の近傍が撮像された画像のことを「調査画像」と記載する場合がある。
【0019】
このように、センサ30は、上記の調査画像を取得する。かかる調査画像を経時的に取得した場合には、カワウが川魚を捕食している状態が映った画像が含まれる他、カワウが飛来している状態が映った画像が含まれる。そして、センサ30は、調査画像に写るカワウの飛来を画像認識処理によって検出し、飛来が検出されたカワウの数に調査地点を識別する識別情報やタイムスタンプを対応付ける。その上で、センサ30は、カワウの数、調査地点およびタイムスタンプなどの項目が対応付けられた実測データを水産資源管理装置10へアップロードする。かかる実測データのアップロードによって、水産資源管理装置10では、シミュレーションの開始時に水産資源、捕獲者および捕食生物の初期値等のパラメータを実測値をもとに設定できる。なお、ここでは、ネットワーク7の輻輳を抑制するために、センサ30側で画像認識処理を実行する場合を例示したが、センサ30に調査画像をアップロードさせ、水産資源管理装置10に画像認識処理を実行させることとしてもかまわない。
【0020】
クライアント端末50は、上記のシミュレーションに関するサービスの提供を受けるコンピュータである。例えば、クライアント端末50の一例としては、アユの保護を目的とする各種の組織、例えば漁業組合や地方自治体などにおいて水産資源を管理する部門の担当者を始め、担当者の上長や部門の管理者などによって使用される。以下では、担当者、上長および管理者を総称して「関係者」と記載する場合がある。かかるクライアント端末50の一態様としては、パーソナルコンピュータを始めとする固定端末の他、スマートフォン、携帯電話機、PHS(Personal Handyphone System)やPDA(Personal Digital Assistants)などの移動体端末も採用できる。
【0021】
上記のクライアント端末50には、水産資源管理装置10によって提供されるシミュレーションに関するサービスの提供を受けるフロントエンドとして機能するアプリケーション、例えばWebブラウザがインストール又はプリインストールされている。例えば、クライアント端末50は、Webブラウザなどを介して、関係者のアカウント名やパスワードなどのログインの認証情報の入力を受け付けた上でログインの認証情報を水産資源管理装置10へ送信する。これによって、関係者はログイン認証を受けることになる。この結果、ログイン認証に成功した場合、すなわちクライアント端末50の操作者が関係者であると認証された場合には、当該関係者が有する権限にしたがって上記のシミュレーションに関するサービスの一部または全部が水産資源管理装置10によって開放される。かかるログイン認証の成功後には、クライアント端末50は、例えば、シミュレーションに用いる各種のパラメータ、例えば川魚、カワウや釣り人の数の初期値などの設定操作を始め、シミュレーション結果、例えば川魚およびカワウの数の推移を閲覧する操作を受け付けることができる。
【0022】
なお、ここでは、センサ30及びクライアント端末50の両方がネットワーク7に接続されている場合を例示したが、水産資源管理装置10及びクライアント端末50の間は、LANやVLAN等の構内通信網で接続されることとしてもかまわない。
【0023】
[水産資源管理装置10の構成]
続いて、本実施例に係る水産資源管理装置10の機能的構成について説明する。
図2は、実施例1に係る水産資源管理装置10の機能的構成を示すブロック図である。
図2に示すように、水産資源管理装置10は、通信I/F(interface)部11と、記憶部13と、制御部15とを有する。なお、水産資源管理装置10は、
図2に示した機能部以外にも既知のコンピュータが有する各種の機能部、例えば各種の入力デバイスや音声出力デバイスなどの機能部を有することとしてもかまわない。
【0024】
通信I/F部11は、他の装置、例えばセンサ30やクライアント端末50との間で通信制御を行うインタフェースである。かかる通信I/F部11の一態様としては、LANカードなどのネットワークインタフェースカードを採用できる。例えば、通信I/F部11は、クライアント端末50からパラメータの設定操作やシミュレーション結果の閲覧要求などを受信したり、シミュレーション結果などをクライアント端末50へ送信したりする。また、通信I/F部11は、センサ30から実測データなどを受信したり、実測データのアップロード間隔の指示などをセンサ30へ送信したりする。
【0025】
記憶部13は、制御部15で実行されるOS(Operating System)やシミュレーションプログラムなどの各種プログラムを記憶する記憶デバイスである。記憶部13の一態様としては、フラッシュメモリなどの半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスクなどの記憶装置が挙げられる。なお、記憶部13は、上記の種類の記憶装置に限定されるものではなく、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)であってもよい。
【0026】
記憶部13は、制御部15で実行されるプログラムに用いられるデータの一例として、パラメータ情報13aと、水産資源情報13bと、捕獲者情報13cと、捕食生物情報13dと、推移情報13eとを記憶する。なお、上記の記憶部13は、上述した情報以外にも、他の電子データ、例えば水産資源が生息する生息域のモデルやモデルをブロックに分割する分割数などのシミュレーションに関する各種情報を併せて記憶することもできる。
【0027】
ここで、
図3〜
図5を用いて、上記の記憶部13に記憶される各種の情報の説明に先立ってシミュレーションが実行される淡水領域のモデルおよび淡水領域のモデルに配置する要素について説明する。
図3は、水産資源が生息する淡水領域のモデルの一例を示す図である。
図4は、淡水領域が分割されたブロックの一例を示す図である。
図5は、水産資源、捕獲者および捕食生物の関係の一例を示す図である。
【0028】
例えば、上記のシミュレーションの実行時には、
図3に示すように、水産資源であるアユやフナが生息する生息域が一辺7.5Kmの正方形の淡水領域に模式化されたモデルが仮想空間上に展開される。かかる淡水領域のモデルは、
図4に示すように、150×150の一辺50mのブロックに分割される。このように、仮想空間上に展開された淡水領域のブロックには、互いに
図5に示す関係を持つ模擬要素、すなわち水産資源である「アユ」や「フナ」、捕獲者である「釣り人」及び捕食生物である「カワウ」が配置される。なお、以下では、水産資源である川魚のうち「アユ」を「カワウ」から保護する観点からシミュレーションを実行する場合を想定する。
【0029】
これら「アユ」、「フナ」、「釣り人」及び「カワウ」は、次のような関係を有する。例えば、
図5に示すように、「カワウ」及び「アユ」の間には、「カワウ」が3月〜11月に淡水領域で生息する年魚の「アユ」を捕食するという関係がある。また、「カワウ」及び「フナ」の間には、「カワウ」が保護対象であるアユに比べて寿命が長い「フナ」を捕食するという関係がある。また、「釣り人」及び「アユ」の間には、遊漁料を支払ってアユ釣りのシーズンである6月〜11月に釣りを行う「釣り人」が「アユ」を捕獲するという関係がある。さらに、「カワウ」及び「釣り人」の間には、警戒心が強い「カワウ」が「釣り人」を避けながら川魚を捕食するという関係がある。
【0030】
このように、川魚である「アユ」及び「フナ」と「カワウ」といった二者の関係の他、「釣り人」という第三者との関係がシミュレーションのアルゴリズムに組み込まれる。
【0031】
なお、
図3には、一辺が7.5Kmの正方形を淡水領域のモデルとする場合を例示したが、一辺の長さはシミュレーションの対象とする水産資源の生息域に合わせて任意の長さとすることができ、モデルの形状も正方形に限定されず、矩形全般にシミュレーションを適用できる。また、
図4には、淡水領域のモデルを150×150のブロックに分割する場合を例示したが、関係者が要求するシミュレーションの精度に合わせてブロックの分割数を任意に設定することができる。また、
図5には、アユが川を下っている12月〜2月にカワウが捕食する対象を「フナ」とする場合を例示したが、カワウは雑食であるので、他の川魚、例えば「コイ」等を非保護対象の模擬要素としてもよく、他の生物や植物を模擬対象としてもかまわない。
【0032】
図2の説明に戻り、パラメータ情報13aは、シミュレーションに用いられる各種のパラメータに関する情報である。かかるパラメータ情報13aの一例としては、淡水領域のモデルが分割されたブロックに配置するアユ、フナ、カワウ及び釣り人の初期値などの「初期パラメータ」を始め、シミュレーションのアルゴリズムを左右する「模擬パラメータ」が挙げられる。上記のパラメータ情報13aのデータ構造の一例としては、パラメータが設定される「対象」、パラメータの「種別」及びパラメータの「値」などの項目が対応付けられたデータを採用できる。
【0033】
図6は、パラメータ情報13aの一例を示す図である。
図6には、1ヶ月単位でカワウの捕食および釣り人の捕獲がシミュレートされる場合に用いるパラメータが図示されている。
図6に示すパラメータ情報13aは、シミュレーションの開始時に20人の「釣り人」、50羽の「カワウ」、90000匹の「アユ」および90000匹の「フナ」が配置されることを意味する。また、
図6に示すパラメータ情報13aは、カワウが1ヶ月あたり150匹の川魚を捕食するまで活動を継続し、釣り人が1ヶ月あたり150匹のアユを捕獲するまで活動を継続することを意味する。なお、ここでは、1ヶ月単位でアユ、フナおよびカワウの数がシミュレートされる場合を想定しているが、シミュレーションが実行される期間の単位には任意の単位、例えば日次、週次、年次などを設定できる。
【0034】
さらに、
図6に示すパラメータ情報13aは、カワウの寿命が96ヶ月(=8年)であり、カワウの繁殖が生後24ヶ月から12ヶ月おきに営まれ、カワウの成鳥1匹あたり1匹のカワウが猛禽類等に捕食されずに成鳥として生き残り、カワウの産卵月が6月であることを意味する。また、カワウには、捕食や移動などの行動に伴って増減する「エネルギー」というパラメータが設定されており、
図6の例では、シミュレーションの開始時のエネルギーが75であり、最大で150まで増加することが定められている。さらに、
図6に示すパラメータ情報13aには、カワウがアユを捕食した場合にはエネルギーを「1」増加させ、カワウがブロックを1つ移動した場合にエネルギーを「2」減少させ、カワウがブロックを2つ移動した場合にエネルギーを「5」減少させ、カワウが自身の位置するブロックと隣接する隣接ブロックで川魚を補食した場合にエネルギーを「2」減少させるというアルゴリズムが定められている。
【0035】
また、
図6に示すパラメータ情報13aは、アユが淡水領域の全体で最大100000匹まで生息できることを意味する。これは、淡水領域でアユが増えすぎると、酸欠やエサ不足等で自然淘汰される事象をシミュレーションに反映させるためのアルゴリズムである。さらに、
図6に示すパラメータ情報13aは、アユの寿命が12ヶ月(=1年)であり、産卵月の12月に生き残ったアユ1匹あたり2匹のアユが産卵されることを意味する。
【0036】
また、
図6に示すパラメータ情報13aは、フナが淡水領域の全体で最大100000匹まで生息できることを意味する。これは、アユの場合と同様、淡水領域でフナが増えすぎると、酸欠やエサ不足等で自然淘汰される事象をシミュレーションに反映させるためのアルゴリズムである。さらに、
図6に示すパラメータ情報13aは、フナの寿命が120ヶ月(=10年)であり、産卵月の6月にフナ1匹あたり1匹のフナが産卵されることを意味する。
【0037】
図2の説明に戻り、水産資源情報13bは、仮想空間のブロック上に配置される水産資源に関する各種の情報である。かかる水産資源情報13bのデータ構造の一例としては、水産資源であるアユ及びフナの個体の各々を識別する識別情報ごとにアユまたはフナが淡水領域上で存在する座標の位置、アユまたはフナが存在するブロックの識別情報および月齢などの項目が対応付けられたデータを採用できる。なお、ここでは、淡水領域の座標の位置およびブロックの識別情報の両方が記憶部13に記憶される場合を例示したが、いずれか一方に絞って記憶することもできる。また、アユは、1年魚であるので、水産資源情報13bは必ずしも月齢の項目を持たずともよい。
【0038】
捕獲者情報13cは、仮想空間のブロック上に配置される捕獲者に関する各種の情報である。かかる捕獲者情報13cのデータ構造の一例としては、釣り人を識別する識別情報ごとに釣り人が淡水領域上で存在する座標の位置、釣り人が存在するブロックの識別情報などの項目が対応付けられたデータを採用できる。なお、記憶部13には、上記の水産資源情報13bと同様に、淡水領域の座標の位置およびブロックの識別情報のうちいずれか一方を捕獲者情報13cとして記憶することとしてもかまわない。
【0039】
捕食生物情報13dは、仮想空間のブロック上に配置される捕食生物に関する各種の情報である。かかる捕食生物情報13dのデータ構造の一例としては、カワウを識別する識別情報ごとにカワウが淡水領域上で存在する座標の位置、カワウが存在するブロックの識別情報、カワウの月齢およびカワウが持つエネルギーなどの項目が対応付けられたデータを採用できる。なお、記憶部13には、上記の水産資源情報13bと同様に、淡水領域の座標の位置およびブロックの識別情報のうちいずれか一方を捕食生物情報13dとして記憶することとしてもかまわない。
【0040】
推移情報13eは、シミュレーション結果として得られる水産資源および捕食生物の数の推移に関する情報である。かかる推移情報13eのデータ構造の一例としては、1ヶ月単位でアユ、フナ及びカワウの数がシミュレートされる場合には、月ごとにアユ、フナ及びカワウの数が対応付けられたデータが採用できる。
【0041】
制御部15は、各種の処理手順を規定したプログラムや制御データを格納するための内部メモリを有し、これらによって種々の処理を実行する。制御部15は、
図2に示すように、収集部16と、設定部17と、シミュレーション部18と、出力部19とを有する。
【0042】
このうち、収集部16は、センサ30から実測データを収集する処理部である。一態様としては、収集部16は、ネットワーク7を介して接続されたセンサ30A〜30Cの各々からセンサ30A〜30Cによってアップロードされた実測データを収集する。なお、収集部16は、クライアント端末50からの指示にしたがってセンサ30から実測データをアップロードさせる間隔を任意の間隔に設定することができる。
【0043】
設定部17は、パラメータ情報13aに含まれる初期パラメータを設定する処理部である。一態様としては、設定部17は、クライアント端末50によって設定操作がなされたアユ、フナ、カワウ及び釣り人の数を、シミュレーションの開始時のアユ、フナ、カワウ及び釣り人の初期値として設定する。他の一態様としては、設定部17は、収集部16によって調査地点ごとに収集された各センサ30の実測データにしたがって初期パラメータを設定することもできる。例えば、設定部17は、各調査地点の実測データに含まれるタイムスタンプが同一の時間帯に属するカワウの数を各センサ30間で集計し、時間帯ごとに集計されたカワウの数に相加平均や加重平均等の統計処理を実行する。その上で、設定部17は、統計処理によって得られたカワウの数を、シミュレーションの開始時に用いるカワウの初期値として設定する。これによって、シミュレーションに用いる初期値を実測値に基づいて設定できる結果、シミュレーションの精度向上を期待できる。
【0044】
シミュレーション部18は、水産資源の捕獲者の行動が定義されたアルゴリズムと水産資源の捕獲者及び捕食生物の間の相互関係が定義されたアルゴリズムとを用いて水産資源及び捕食生物の数をシミュレートする処理部である。
【0045】
一態様としては、シミュレーション部18は、クライアント端末50等からシミュレーションの開始指示を受け付けた場合に、シミュレーションを開始する。このとき、シミュレーション部18は、パラメータ情報13aに含まれる初期パラメータにしたがって上記の水産資源情報13b、捕獲者情報13c及び捕食生物情報13dを生成する。例えば、
図6に示すパラメータ情報13aの例で言えば、シミュレーション部18は、20人の「釣り人」、50羽の「カワウ」、90000匹の「アユ」および90000匹の「フナ」を仮想空間上の淡水領域のブロックへランダムに配置する。この結果、シミュレーションの開始時には、90000匹の「アユ」および90000匹の「フナ」の計180000匹分のレコードが水産資源情報13bとして生成され、釣り人20人分のレコードが捕獲者情報13cに生成されるとともに、カワウ50羽分のレコードが捕食生物情報13dとして生成される。
【0046】
このように、水産資源情報13b、捕獲者情報13c及び捕食生物情報13dが生成された後に、釣り人によるアユの捕獲を再現する第1のシミュレーション、カワウによる川魚の捕食を再現する第2のシミュレーション、さらには、アユ、フナ及びカワウの繁殖および寿命を再現する第3のシミュレーションが実行される。
【0047】
ここで、上記の第1のシミュレーション、第2のシミュレーション及び第3のシミュレーションは、各模擬要素の個体の単位で各個体の行動を再現する個体ベースモデルによって実現される。このため、各シミュレーションは、並列演算によって実行することができる。
【0048】
このうち、第1のシミュレーション部18aは、捕獲者による水産資源の捕獲を再現する第1のシミュレーションを実行する処理部である。一態様としては、第1のシミュレーション部18aは、捕獲者情報13cに含まれる釣り人ごとに第1のシミュレーションを1ヶ月単位で実行する。例えば、第1のシミュレーション部18aは、釣り人が存在するブロックと同一のブロックにアユが存在するか否かを判定する。このとき、同一のブロックにアユが存在しない場合には、釣り人は釣果を得ることができない。この場合には、第1のシミュレーション部18aは、当該釣り人を隣接ブロックへ移動させる。すなわち、第1のシミュレーション部18aは、捕獲者情報13cに含まれる釣り人のうち第1のシミュレーションを実行中の釣り人のブロックの識別情報を隣接ブロックの識別情報へ更新する。このとき、8つの隣接ブロックのうち釣り人が移動する隣接ブロックはランダムに決定される。
【0049】
一方、第1のシミュレーション部18aは、釣り人が存在するブロックと同一のブロックにアユが存在する場合に、当該釣り人が同一のブロックに存在するアユを捕獲する行動を再現する。すなわち、同一のブロックに存在するアユのうちいずれか1つのアユに関する水産資源情報13bのレコードがランダムに削除される。その後、第1のシミュレーション部18aは、釣り人の釣果が目標値である150匹に達するまで釣り人がアユを捕獲する第1のシミュレーションを継続する。なお、並列演算で実行されない場合には、全ての釣り人の釣果が目標値に達するまで第1のシミュレーションが釣り人ごとに繰り返し実行されることになる。
【0050】
第2のシミュレーション部18bは、捕食生物による水産資源の捕食を再現する第2のシミュレーションを実行する処理部である。一態様としては、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウごとに第2のシミュレーションを1ヶ月単位で実行する。例えば、第2のシミュレーション部18bは、カワウが存在するブロックと同一のブロックに釣り人が存在するか否かを判定する。このとき、同一のブロックに釣り人が存在する場合には、カワウは釣り人を警戒して川魚を捕食することができない。この場合には、第2のシミュレーション部18bは、当該カワウを隣接ブロックへ移動させる。すなわち、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウのブロックの識別情報を隣接ブロックの識別情報へ更新するとともにカワウが持つエネルギーを1つ減少させる。このとき、8つの隣接ブロックのうちカワウが移動する隣接ブロックはランダムに決定される。
【0051】
一方、第2のシミュレーション部18bは、カワウが存在するブロックと同一のブロックに釣り人が存在しない場合に、当該同一のブロックに川魚が存在するか否かをさらに判定する。このとき、第2のシミュレーション部18bは、同一のブロックに川魚が存在する場合に、当該カワウが同一のブロックに存在する川魚を捕食する行動を再現する。すなわち、同一のブロックに存在するアユまたはフナのうちいずれか1つの川魚に関する水産資源情報13bのレコードがランダムに削除される。このように、同一のブロックで川魚を捕食できた場合には、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウが持つエネルギーを1つ増加させる。
【0052】
また、第2のシミュレーション部18bは、同一のブロックに川魚が存在しない場合に、カワウがいるブロックの隣接ブロックに川魚が存在するか否かをさらに判定する。このとき、第2のシミュレーション部18bは、隣接ブロックに川魚が存在する場合に、当該カワウが隣接ブロックに存在する川魚を捕食する行動を再現する。すなわち、隣接ブロックに存在するアユまたはフナのうちいずれか1つの川魚に関する水産資源情報13bのレコードがランダムに削除される。このように、隣接ブロックで川魚が捕食された場合には、捕食によって一定のエネルギーは摂取されたものの、移動によってエネルギーが消費される。このため、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウが持つエネルギーを2つ減少させる。
【0053】
また、第2のシミュレーション部18bは、カワウがいるブロックの隣接ブロックにも川魚が存在しない場合に、当該カワウが存在するブロックからブロック間の距離が2つ隔てた遠隔ブロックへ移動させる。すなわち、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウのブロックの識別情報を遠隔ブロックの識別情報へ更新するとともにカワウが持つエネルギーを5つ減少させる。このとき、16つの遠隔ブロックのうちカワウが移動する遠隔ブロックはランダムに決定される。
【0054】
また、第2のシミュレーション部18bは、カワウがブロックを移動した場合に、当該カワウが持つエネルギーがゼロであるか否かを判定する。このとき、第2のシミュレーション部18bは、カワウが持つエネルギーがゼロである場合に、当該カワウの餓死を再現する。すなわち、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウのレコードが削除される。
【0055】
このように、第2のシミュレーション部18bは、カワウによる川魚の捕食やカワウの移動などの行動を再現しながらカワウが捕食した川魚の累計値が目標値である150匹に達するまで第2のシミュレーションを継続する。かかる捕食や移動の再現によって、カワウの数の推移をシミュレーションするにあたって自然死のみならず、エサ不足が原因となるカワウの餓死も再現できる結果、シミュレーションの精度を向上させることができる。
【0056】
第3のシミュレーション部18cは、水産資源及び捕食生物の繁殖および寿命を再現する第3のシミュレーションを実行する。一態様としては、第3のシミュレーション部18cは、パラメータ情報13aに設定された産卵月および産卵率にしたがってアユ、フナ及びカワウを繁殖させる。例えば、第3のシミュレーション部18cは、シミュレーションの経過時間が12月になった場合に、水産資源情報13bに含まれるアユのレコードを現存する全てのアユのレコードの2倍に増加させる。なお、アユは、1年魚であるので、上記の繁殖に寿命による自然死が組み込まれず、後述の寿命の監視は実行されない。また、第3のシミュレーション部18cは、シミュレーションの経過時間が6月になった場合に、水産資源情報13bに含まれるフナのレコードを現存する全てのフナのレコードの2倍に増加させる。また、第3のシミュレーション部18cは、シミュレーションの経過時間が6月になった場合に、捕食生物情報13dに含まれるカワウのレコードのうち月齢が24ヶ月に到達しているレコードの数だけ、現存するレコードに追加する更新を実行する。他の一態様としては、第3のシミュレーション部18cは、1ヶ月単位でフナ及びカワウの月齢を1つ加算し、各々の模擬要素が寿命になったか否かを監視している。例えば、第3のシミュレーション部18cは、12月になったフナに関する水産資源情報13bのレコードを削除する。また、第3のシミュレーション部18cは、月齢が120ヶ月になったフナに関する水産資源情報13bのレコードを削除する。また、第3のシミュレーション部18cは、月齢が96ヶ月になったカワウに関する捕食生物情報13dのレコードを削除する。
【0057】
集計部18dは、第1のシミュレーション部18a、第2のシミュレーション部18b及び第3のシミュレーション部18cのシミュレーション結果に基づいて、水産資源および捕食生物の数を集計する処理部である。一態様としては、集計部18dは、シミュレーション上の時間で1ヶ月が経過する度に、水産資源情報13bに含まれるアユのレコードの総数を集計し、水産資源情報13bに含まれるフナのレコードの総数を集計するとともに、捕食生物情報13dに含まれるカワウのレコードの総数を集計する。これによって、月別のアユの数の推移、月別のフナの数の推移および月別のカワウの数の推移が推移情報13eとして登録される。
【0058】
出力部19は、推移情報13eをクライアント端末50へ出力する処理部である。一態様としては、出力部19は、クライアント端末50からシミュレーション結果の閲覧要求を受け付けた場合に、記憶部13に記憶された推移情報13eを要求元のクライアント端末50へ出力する。他の一態様としては、出力部19は、水産資源管理装置10に接続された表示デバイスに推移情報13eを出力することもできる。
【0059】
ここで、
図7〜
図9を用いて、シミュレーション結果の一例について説明する。
図7は、カワウの推移の一例を示す図である。
図8は、アユの推移の一例を示す図である。
図9は、フナの推移の一例を示す図である。これら
図7〜
図9に示すグラフの縦軸は、個体の数を指し、横軸は時間(月)を指す。また、
図7〜
図9には、アユ、フナ、カワウ、釣り人に関する初期パラメータのうち釣り人の人数と釣り人の釣果の目標値とを3つの場合に分けてシミュレーションを行った結果が図示されている。
図7〜
図9に示すグラフのうち実線のグラフは、釣り人の人数を「20人」とし、釣り人の釣果の目標値を「150匹」とした場合のシミュレーション結果を指し、短い間隔の破線は、釣り人の人数を「20人」とし、釣り人の釣果の目標値を「200匹」とした場合のシミュレーション結果を指し、長い間隔の破線は、釣り人の人数を「25人」とし、釣り人の釣果の目標値を「150匹」とした場合のシミュレーション結果を指す。
【0060】
図7〜
図9に示すように、釣り人の人数を「20人」とし、釣り人の釣果の目標値を「200匹」とした場合、並びに、釣り人の人数を「25人」とし、釣り人の釣果の目標値を「150匹」とした場合には、カワウおよびアユがともに淡水領域から絶滅に近づいている一方で、フナは環境収容力の限界まで繁殖していることがわかる。一方、釣り人の人数を「20人」とし、釣り人の釣果の目標値を「150匹」とした場合には、カワウの繁殖を抑え、アユが安定して繁殖し、フナは環境収容力の限界まで繁殖していることがわかる。これらのことから、遊漁料を徴収して招く釣り人の人数は、20人程度とし、1人あたり1ヶ月間で150匹を上限として漁場を開放するのが好ましいと判断できる。また、釣り人の人数を「20人」とし、釣り人の釣果の目標値を「200匹」とした場合、並びに、釣り人の人数を「25人」とし、釣り人の釣果の目標値を「150匹」とした場合にも、適宜、アユを放流などして補充する必要があるのがわかる。したがって、上記のシミュレーション結果を閲覧する関係者は、水産資源を適切に管理することができる。
【0061】
なお、制御部15には、各種の集積回路や電子回路を採用できる。また、制御部15が有する機能部の一部を別の集積回路や電子回路とすることもできる。例えば、集積回路としては、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)が挙げられる。また、電子回路としては、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などが挙げられる。
【0062】
[処理の流れ]
次に、本実施例に係る水産資源管理装置10の処理の流れについて説明する。なお、ここでは、水産資源管理装置10によって実行される(1)第1のシミュレーション処理について説明した後に、(2)第2のシミュレーション処理について説明することとする。
【0063】
(1)第1のシミュレーション処理
図10は、実施例1に係る第1のシミュレーション処理の手順を示すフローチャートである。この第1のシミュレーション処理は、例えば、シミュレーション上の時間で所定の期間、例えば1ヶ月が経過する度に繰り返し実行される処理であり、釣り人単位で並列演算することができる。
【0064】
図10に示すように、第1のシミュレーション部18aは、釣り人が存在するブロックと同一のブロックにアユが存在するか否かを判定する(ステップS101)。このとき、釣り人が存在するブロックと同一のブロックにアユが存在する場合(ステップS101Yes)には、第1のシミュレーション部18aは、当該釣り人が同一のブロックに存在するアユを捕獲する行動を再現する(ステップS102)。
【0065】
一方、同一のブロックにアユが存在しない場合(ステップS101No)には、釣り人は釣果を得ることができない。この場合には、第1のシミュレーション部18aは、当該釣り人を隣接ブロックへ移動させる(ステップS103)。
【0066】
その後、第1のシミュレーション部18aは、釣り人の釣果が目標値である150匹に達するまで(ステップS104No)、上記のステップS101〜ステップS103の処理を繰り返し実行する。そして、第1のシミュレーション部18aは、釣り人の釣果が目標値である150匹に達すると(ステップS104Yes)、処理を終了する。
【0067】
(2)第2のシミュレーション処理
図11は、実施例1に係る第2のシミュレーション処理の手順を示すフローチャートである。この第2のシミュレーション処理は、例えば、シミュレーション上の時間で所定の期間、例えば1ヶ月が経過する度に繰り返し実行される処理であり、カワウ単位で並列演算することができる。
【0068】
図11に示すように、第2のシミュレーション部18bは、カワウが存在するブロックと同一のブロックに釣り人が存在するか否かを判定する(ステップS301)。このとき、カワウが存在するブロックと同一のブロックに釣り人が存在しない場合(ステップS301No)には、第2のシミュレーション部18bは、当該同一のブロックに川魚が存在するか否かをさらに判定する(ステップS302)。
【0069】
そして、同一のブロックに川魚が存在する場合(ステップS302Yes)には、第2のシミュレーション部18bは、当該カワウが同一のブロックに存在する川魚を捕食する行動を再現する(ステップS303)。すなわち、同一のブロックに存在するアユまたはフナのうちいずれか1つの川魚に関する水産資源情報13bのレコードがランダムに削除される。続いて、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウが持つエネルギーを1つ増加させる(ステップS304)。
【0070】
その後、第2のシミュレーション部18bは、カワウが捕食した川魚の累計値が目標値である150匹に達したか否かを判定する(ステップS305)。そして、目標値に達していない場合(ステップS305No)には、上記のステップS302の処理へ移行し、目標値に達した場合(ステップS305Yes)には、処理を終了する。
【0071】
一方、同一のブロックに川魚が存在しない場合(ステップS302No)に、第2のシミュレーション部18bは、カワウがいるブロックの隣接ブロックに川魚が存在するか否かをさらに判定する(ステップS306)。
【0072】
このとき、隣接ブロックに川魚が存在する場合(ステップS306Yes)には、第2のシミュレーション部18bは、当該カワウが隣接ブロックに存在する川魚を捕食する行動を再現する(ステップS307)。すなわち、隣接ブロックに存在するアユまたはフナのうちいずれか1つの川魚に関する水産資源情報13bのレコードがランダムに削除される。そして、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウが持つエネルギーを2つ減少させる(ステップS308)。
【0073】
その後、第2のシミュレーション部18bは、カワウが捕食した川魚の累計値が目標値である150匹に達したか否かを判定する(ステップS309)。そして、目標値に達していない場合(ステップS309No)には、上記のステップS306の処理へ移行し、目標値に達した場合(ステップS309Yes)には、処理を終了する。
【0074】
また、カワウがいるブロックの隣接ブロックにも川魚が存在しない場合(ステップS306No)には、第2のシミュレーション部18bは、当該カワウが存在するブロックからブロック間の距離が2つ隔てた遠隔ブロックへ移動させる(ステップS310)。そして、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウが持つエネルギーを5つ減少させる(ステップS311)。
【0075】
また、同一のブロックに釣り人が存在する場合(ステップS301Yes)には、カワウは釣り人を警戒して川魚を捕食することができない。この場合には、第2のシミュレーション部18bは、当該カワウを隣接ブロックへ移動させる(ステップS312)。そして、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウが持つエネルギーを2つ減少させる(ステップS313)。
【0076】
このように、ステップS311またはステップS313のようにカワウの移動が発生した場合には、第2のシミュレーション部18bは、当該カワウが持つエネルギーがゼロであるか否かを判定する(ステップS314)。
【0077】
そして、カワウが持つエネルギーがゼロである場合(ステップS314Yes)には、第2のシミュレーション部18bは、捕食生物情報13dに含まれるカワウのうち第2のシミュレーションを実行中のカワウのレコードを削除し(ステップS315)、処理を終了する。一方、カワウが持つエネルギーがゼロでない場合(ステップS314No)には、上記のステップS301の処理へ移行する。
【0078】
このように、第2のシミュレーション部18bは、カワウが捕食した川魚の累計値が目標値である150匹に達するか(ステップS305YesまたはステップS309Yes)、あるいはカワウが持つエネルギーがゼロになってカワウの削除が実行されるまで(ステップS315)、上記のステップS301〜ステップS314までの処理が繰り返し実行される。
【0079】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係る水産資源管理装置10は、水産資源の捕獲者の行動が定義されたアルゴリズムと水産資源の捕獲者及び捕食生物の間の相互関係が定義されたアルゴリズムとを用いて水産資源及び捕食生物の数を予測する。このため、本実施例に係る水産資源管理装置10では、捕食生物と水産資源の生態系に影響を与える第3の因子が反映されたアルゴリズムにしたがってシミュレーションを実行できる。しがたって、本実施例に係る水産資源管理装置10によれば、シミュレーションの精度を向上できる。かかるシミュレーションの精度向上によって、その水産資源の捕食体の追払いや養殖されたその水産資源の放流を計画的に定量的に行うことが可能になる。この結果、淡水における水産資源の管理を効率的に行うことができる。
【実施例2】
【0080】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0081】
[適用範囲]
上記の実施例1では、カワウとアユの関係を例示したが、水産資源はアユ以外の他の川魚、例えばイワナであってもよく、カワウの代わりにアユを捕食する動物がいる場合には、その動物を捕食生物とすることができる。
【0082】
[応用範囲]
上記の実施例1では、釣り人およびカワウの目標値を匹数としたが、アユとフナの各々に重さの指標を設定しておき、釣り人およびカワウの目標値を重さとすることもできる。これによって、カワウの食生活を実際の生態系に近づけることができる結果、シミュレーションの精度を向上させることができる。
【0083】
[分散および統合]
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、収集部16、設定部17、シミュレーション部18または出力部19を水産資源管理装置10の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、収集部16、設定部17、シミュレーション部18または出力部19を別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記の水産資源管理装置10の機能を実現するようにしてもよい。
【0084】
[シミュレーションプログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、
図12を用いて、上記の実施例と同様の機能を有するシミュレーションプログラムを実行するコンピュータの一例について説明する。
【0085】
図12は、実施例1及び実施例2に係るシミュレーションプログラムを実行するコンピュータの一例について説明するための図である。
図12に示すように、コンピュータ100は、操作部110aと、スピーカ110bと、カメラ110cと、ディスプレイ120と、通信部130とを有する。さらに、このコンピュータ100は、CPU150と、ROM160と、HDD170と、RAM180とを有する。これら110〜180の各部はバス140を介して接続される。
【0086】
HDD170には、
図12に示すように、上記の実施例1で示した収集部16、設定部17、シミュレーション部18及び出力部19と同様の機能を発揮するシミュレーションプログラム170aが予め記憶される。このシミュレーションプログラム170aについては、
図2に示した各々の収集部16、設定部17、シミュレーション部18及び出力部19の各構成要素と同様、適宜統合又は分離しても良い。すなわち、HDD170に格納される各データは、常に全てのデータがHDD170に格納される必要はなく、処理に必要なデータのみがHDD170に格納されれば良い。
【0087】
そして、CPU150が、シミュレーションプログラム170aをHDD170から読み出してRAM180に展開する。これによって、
図12に示すように、シミュレーションプログラム170aは、シミュレーションプロセス180aとして機能する。このシミュレーションプロセス180aは、HDD170から読み出した各種データを適宜RAM180上の自身に割り当てられた領域に展開し、この展開した各種データに基づいて各種処理を実行する。なお、シミュレーションプロセス180aは、
図2に示した収集部16、設定部17、シミュレーション部18及び出力部19にて実行される処理、例えば
図10〜
図11に示す処理を含む。また、CPU150上で仮想的に実現される各処理部は、常に全ての処理部がCPU150上で動作する必要はなく、処理に必要な処理部のみが仮想的に実現されれば良い。
【0088】
なお、上記のシミュレーションプログラム170aについては、必ずしも最初からHDD170やROM160に記憶させておく必要はない。例えば、コンピュータ100に挿入されるフレキシブルディスク、いわゆるFD、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」に各プログラムを記憶させる。そして、コンピュータ100がこれらの可搬用の物理媒体から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ100に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに各プログラムを記憶させておき、コンピュータ100がこれらから各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。
【0089】
以上の実施例を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0090】
(付記1)水産資源ごとに当該水産資源が生息する位置が対応付けられた水産資源情報と、前記水産資源を捕食する捕食生物ごとに当該捕食生物が存在する位置が対応付けられた捕食生物情報と、前記水産資源を捕獲する捕獲者ごとに当該捕獲者が存在する位置が対応付けられた捕獲者情報とを記憶する記憶部と、
前記水産資源情報および前記捕獲者情報を用いて、前記捕獲者が当該捕獲者の位置から所定の範囲内に存在する水産資源を捕獲する第1のシミュレーションを実行する第1のシミュレーション部と、
前記水産資源情報、前記捕獲者情報および前記捕食生物情報を用いて、前記捕食生物の位置から所定の範囲内に前記捕獲者が存在しない場合に、前記捕食生物が当該捕食生物の位置から前記所定の範囲内に存在する水産資源を捕食する第2のシミュレーションを実行する第2のシミュレーション部と、
前記第1のシミュレーション及び前記第2のシミュレーションの結果に基づいて、前記水産資源および前記捕食生物の数を集計する集計部と
を有することを特徴とするシミュレーション装置。
【0091】
(付記2)前記第1のシミュレーション部は、
前記捕獲者の位置から所定の範囲内に水産資源が存在しない場合に、当該捕獲者の位置を移動させた上で第1のシミュレーションを継続し、
前記第2のシミュレーション部は、
前記捕食生物の位置から所定の範囲内に水産資源が存在しない場合に、前記所定の範囲よりも広い範囲に存在する水産資源を捕食し、前記所定の範囲よりも広い範囲にも水産資源が存在しない場合に、当該捕食生物の位置を移動させた上で第2のシミュレーションを継続することを特徴とする付記1に記載のシミュレーション装置。
【0092】
(付記3)前記第2のシミュレーション部は、
前記捕食生物の位置から所定の範囲内に前記捕獲者が存在する場合に、当該捕食生物の位置を前記所定の範囲外に移動させた上で第2のシミュレーションを継続することを特徴とする付記1または2に記載のシミュレーション装置。
【0093】
(付記4)前記捕食生物情報は、前記捕食生物の捕食または移動に伴って増減する指標をさらに含み、
前記第2のシミュレーション部は、
前記捕食生物が前記水産資源を捕食する場合に前記指標を増加させ、前記捕食生物が移動する場合に前記指標を減少させ、前記指標が所定の閾値以下である場合に当該捕食生物を削除することを特徴とする付記3に記載のシミュレーション装置。
【0094】
(付記5)前記第2のシミュレーション部は、
前記捕食生物の移動量が大きいほど前記指標を減少させる度合いを大きくすることを特徴とする付記4に記載のシミュレーション装置。
【0095】
(付記6)前記第1のシミュレーション部は、
前記捕獲者によって捕獲された水産資源の量が所定の目標値になるまで前記第1のシミュレーションを継続し、
前記第2のシミュレーション部は、
前記捕食生物によって捕食された水産資源の量が所定の目標値になるまで前記第2のシミュレーションを継続することを特徴とする付記1〜5のいずれか1つに記載のシミュレーション装置。
【0096】
(付記7)前記水産資源がアユ及びフナであることを特徴とする付記1〜6のいずれか1つに記載のシミュレーション装置。
【0097】
(付記8)前記捕食生物がカワウであることを特徴とする付記1〜7のいずれか1つに記載のシミュレーション装置。
【0098】
(付記9)前記捕獲者が釣り人であることを特徴とする付記1〜8のいずれか1つに記載のシミュレーション装置。
【0099】
(付記10)コンピュータが、
水産資源ごとに当該水産資源が生息する位置が対応付けられた水産資源情報と、前記水産資源を捕獲する捕獲者ごとに当該捕獲者が存在する位置が対応付けられた捕獲者情報とを用いて、前記捕獲者が当該捕獲者の位置から所定の範囲内に存在する水産資源を捕獲する第1のシミュレーションを実行し、
前記水産資源を捕食する捕食生物ごとに当該捕食生物が存在する位置が対応付けられた捕食生物情報と、前記水産資源情報と、前記捕獲者情報とを用いて、前記捕食生物の位置から所定の範囲内に前記捕獲者が存在しない場合に、前記捕食生物が当該捕食生物の位置から前記所定の範囲内に存在する水産資源を捕食する第2のシミュレーションを実行し、
前記第1のシミュレーション及び前記第2のシミュレーションの結果に基づいて、前記水産資源および前記捕食生物の数を集計する
処理を実行することを特徴とするシミュレーション方法。
【0100】
(付記11)コンピュータに、
水産資源ごとに当該水産資源が生息する位置が対応付けられた水産資源情報と、前記水産資源を捕獲する捕獲者ごとに当該捕獲者が存在する位置が対応付けられた捕獲者情報とを用いて、前記捕獲者が当該捕獲者の位置から所定の範囲内に存在する水産資源を捕獲する第1のシミュレーションを実行し、
前記水産資源を捕食する捕食生物ごとに当該捕食生物が存在する位置が対応付けられた捕食生物情報と、前記水産資源情報と、前記捕獲者情報とを用いて、前記捕食生物の位置から所定の範囲内に前記捕獲者が存在しない場合に、前記捕食生物が当該捕食生物の位置から前記所定の範囲内に存在する水産資源を捕食する第2のシミュレーションを実行し、
前記第1のシミュレーション及び前記第2のシミュレーションの結果に基づいて、前記水産資源および前記捕食生物の数を集計する
処理を実行させることを特徴とするシミュレーションプログラム。