特許第6044364号(P6044364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044364
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】車両のサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 7/00 20060101AFI20161206BHJP
   B60G 9/04 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   B60G7/00
   !B60G9/04
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-13472(P2013-13472)
(22)【出願日】2013年1月28日
(65)【公開番号】特開2014-144682(P2014-144682A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100067873
【弁理士】
【氏名又は名称】樺山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100090103
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 章悟
(72)【発明者】
【氏名】水口 健夫
(72)【発明者】
【氏名】下里 俊爾
(72)【発明者】
【氏名】谷田 純児
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−111810(JP,U)
【文献】 特開2006−182142(JP,A)
【文献】 特開平09−030226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 7/00
B60G 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延設され、前端部が車体に連結されると共に後端部側で車輪を支持する左右一対のトレーリングアームを備える車両のサスペンション装置であって、
前記トレーリングアームは板状の部材から構成されると共に当該トレーリングアームに沿って配索されるケーブル部材を係合する係合部を備え、前記係合部は前記トレーリングアームの板面の一方側に膨出形成されかつ前後の位置で互いに対向する傾斜面を有し、前記前後の傾斜面にはそれぞれ前記ケーブル部材を前記トレーリングアームに貫通させた状態で係合可能な一対の係合孔が形成されることを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両のサスペンション装置において、
前記トレーリングアームはその周縁部が車幅方向に曲折形成されたフランジ部を有し、前記係合部は前記フランジ部が曲折された方向に向けて膨出するよう形成されていることを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両のサスペンション装置において、
前記係合部は穴部を有し、該穴部は前記一対の係合孔の間に設けられると共に、前記一対の係合孔の径よりも大きくかつ前記一対の係合孔と連通するよう形成されていることを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の車両のサスペンション装置において、
車両右側に配置される前記トレーリングアームと車両左側に配置される前記トレーリングアームとは、互いの前記係合部がそれぞれ同じ方向に向けて膨出された同一の形状であることを特徴とする車両のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置に関し、詳しくは、自身を貫通して配索されるケーブル部材が係止される係合部を有する板状のトレーリングアームを備えたサスペンション装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置を構成する部品として、車輪を支持する左右一対のトレーリングアームが知られている。このトレーリングアームには、パーキングブレーキを構成するパーキングケーブルやセンサ類のケーブル等が配索されている。このようなトレーリングアームの一例として、ケーブル部材であるワイヤハーネスをその上部においてクランプ部材によって係止する技術が、例えば「特許文献1」に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−30226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トレーリングアームには、コストの低減や軽量化のために平板状の板金部材から構成されたものがある。このような板金製のトレーリングアームの場合、パーキングケーブル等のケーブル部材がトレーリングアームの外部に露出するため、車両走行中においてケーブル部材に石等の異物が当たったりしないようにできるだけトレーリングアームの車幅方向内側の面に沿って配索することが好ましい。そのため、ケーブル部材がトレーリングアームの途中で車幅方向内側から外側へと貫通されてブレーキ等に配索される構成となっている。
【0005】
しかしながら、上記のような板金製のトレーリングアームの場合、トレーリングアームにケーブル部材を貫通させる際にケーブル部材が大きく湾曲して膨らんでしまうため、ケーブル部材に異物が当たったり、他の部材と引っかかったりして破損してしまう虞があった。ケーブル部材の湾曲による膨らみを抑えるために、ケーブル部材が貫通される部位の近傍でケーブル部材をクランプ部材等でトレーリングアームに固定して強制的に膨らみを抑制することもできるが、その場合、ケーブル部材が急角度で曲げられることになり破損の原因になる可能性がある上、クランプ部材等の部品が増加するためにコストアップに繋がるという問題があった。
【0006】
本発明は上述の問題点を解決し、コストアップすることなくケーブル部材を確実に保持することが可能な係合部を備えた板状のトレーリングアームを有するサスペンション装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車両前後方向に延設され、前端部が車体に連結されると共に後端部側で車輪を支持する左右一対のトレーリングアームを備える車両のサスペンション装置であって、前記トレーリングアームは板状の部材から構成されると共に当該トレーリングアームに沿って配索されるケーブル部材を係合する係合部を備え、前記係合部は前記トレーリングアームの板面の一方側に膨出形成されかつ前後の位置で互いに対向する傾斜面を有し、前記前後の傾斜面にはそれぞれ前記ケーブル部材を前記トレーリングアームに貫通させた状態で係合可能な一対の係合孔が形成されることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両のサスペンション装置において、さらに前記トレーリングアームはその周縁部が車幅方向に曲折形成されたフランジ部を有し、前記係合部は前記フランジ部が曲折された方向に向けて膨出するよう形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の車両のサスペンション装置において、さらに前記係合部は穴部を有し、該穴部は前記一対の係合孔の間に設けられると共に、前記一対の係合孔の径よりも大きくかつ前記一対の係合孔と連通するよう形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の車両のサスペンション装置において、さらに車両右側に配置される前記トレーリングアームと車両左側に配置される前記トレーリングアームとは、互いの前記係合部がそれぞれ同じ方向に向けて膨出された同一の形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膨出形成された係合部の前後の傾斜面に係合孔が設けられているので、パーキングブレーキやセンサ等に用いられるケーブル部材を無理に曲げることなくトレーリングアームに貫通させた状態で係合保持することができる。すなわち、ケーブル部材が係合部の近傍で大きく湾曲して膨らむことなく、ほぼ板面に沿った状態で貫通される。従って、無理な配索をせずに自然な状態でケーブル部材を確実に保持することができる。しかも、クランプ等の保持部材が必要ないので、コストも削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態を採用した車両の車体構造を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に用いられるトレーリングアームの概略斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に用いられるトレーリングアームの概略正面図である。
図4】本発明の一実施形態に用いられるトレーリングアームの係合部を説明する要部概略図である。
図5図4におけるA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態を採用した車両のサスペンション装置を示している。同図において白抜き矢印が車両の前方を示しており、符号1が右側のトレーリングアームを、符号2が左側のトレーリングアームをそれぞれ示している。トレーリングアーム1,2は、車両前後方向に延設され、その前端部はブッシュを介して車体を構成する図示しないサイドメンバに連結されている。そして、後端部側には図示しない車輪を支持しており、車輪の上下動に合わせて上下に揺動可能とされている。各トレーリングアーム1,2の車両後方側端部にはそれぞれアームブラケット3が取り付けられており、各アームブラケット3にはリヤアクスルパイプ4の両端が支持されている。各アームブラケット3の車両外側端部にはブレーキ等を留めるエンドプレート5がそれぞれ取り付けられており、さらにブレーキを介して車輪が取り付けられている。また、各アームブラケット3の上方には図示しないコイルスプリングの一端を受けるスプリングシート6がそれぞれ取り付けられている。そして、トレーリングアーム1にはパーキングブレーキの一部をなすケーブル部材としてのパーキングケーブル7が、トレーリングアーム2には同じくケーブル部材としてのパーキングケーブル8が、車両の内側方向から各トレーリングアーム1,2をそれぞれ貫通して車両の外側方向へと向けて配置されている。
【0014】
図2はトレーリングアーム1の概略斜視図であり、図3は同正面図である。トレーリングアーム1は各種部材が取り付けられる穴部等を複数有しており、その周囲には図2において紙面手前側である車幅方向に向けて曲折形成されたフランジ部1aが設けられている。そして、トレーリングアーム1の板面を構成する中央凸部1bはフランジ部1aと同方向に打ち出し形成されており、この中央凸部1bからさらにフランジ部1aと同方向に膨出形成されることにより係合部1cが形成されている。
【0015】
係合部1cは、図4に示すようにその中央部が紙面手前側に突出するように、すなわち図5(a)に示すように図4におけるA−A断面視で断面台形状となるように中央凸部1bから膨出形成されており、係合部1cの中央凸部1bに連続する前後の部位は傾斜面1fを構成している。係合部1cは、その中央にパーキングケーブル7が容易に通過可能である大きさの穴部1dを有しており、前後の傾斜面1fには、パーキングケーブル7が貫通可能な係合孔1eが一対で設けられている。そして、穴部1dと各係合孔1eとは、パーキングケーブル7の直径よりも細い溝部1gを介して連通されている。つまり、穴部1dの前後には、溝部1gを介して一対の係合孔1eが設けられている。この構成より、トレーリングアーム1を貫通すべく穴部1d内を通過させたパーキングケーブル7を、何れかの溝部1gを介して何れかの係合孔1eに嵌合させることで係合部1cに係合させることができる。したがって、パーキングケーブル7を係合孔1eに係合する際の作業が容易となる。ここで、パーキングケーブル7をトレーリングアーム1の車室側から外部側へと通す場合には、図5(a)に示すように図4において左側の係合孔1eにパーキングケーブル7が係合され、外部側から車室側へと通す場合には図4において右側の係合孔1eにパーキングケーブル7が係合される。
【0016】
上述の構成より、図4及び図5に示すように係合部1cを構成する2箇所の係合孔1eが各傾斜面1fにより中央凸部1bに対して所定の角度で傾斜すると共に前後方向で互いに対向配置されているので、係合部1cを貫通したパーキングケーブル7が中央凸部1bに沿う態様で何れかの係合孔1eに係合するため、各係合孔1eに係合したパーキングケーブル7に対して無理な外力が働きにくく、パーキングケーブル7をトレーリングアーム1に貫通させた状態で良好かつ確実に保持することが可能となる。これにより、パーキングケーブル7が係合部1cの近傍で大きく湾曲して膨らむことが防止され、自然な状態でパーキングケーブル7を保持することができる。さらに、クランプ部材等の保持部材を必要としないので、コストダウンを図ることができる。
【0017】
また本発明の構成によれば、図5(b)に示すようにトレーリングアーム2としてトレーリングアーム1と全く同形状のものを用いることができる。図5(b)において、トレーリングアーム2はトレーリングアーム1と同形状であることから、トレーリングアーム1の符号1を符号2に代えて示している。ここで、パーキングケーブル8をトレーリングアーム2の車室側から外部側へと通す場合には、図5(b)に示すように図4において右側の係合孔2eにパーキングケーブル8が係合され、外部側から車室側へと通す場合には図4において左側の係合孔2eにパーキングケーブル8が係合される。
【0018】
上述の構成より、一対で用いられるトレーリングアームとして、従来のように左右対称形状ではなく左右同一形状のものを用いることができ、板金部材の金型が1つで済むことからコストダウンを図ることができ、さらに組み立て時における左右取り違えミスを防止することができる。
【符号の説明】
【0019】
1,2 トレーリングアーム
1a,2a フランジ部
1b 板面(中央凸部)
1c,2c 係合部
1d 穴部
1e,2e 係合孔
1f,2f 傾斜面
7,8 ケーブル部材(パーキングケーブル)
図1
図2
図3
図4
図5