【実施例】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0019】
[システム構成]
以下では、本実施例に係る信号補正装置の実施例を、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本実施例に係る信号補正装置を備えたオーディオシステム100の構成を示すブロック図である。
【0021】
図1において、本オーディオシステム100には、DVD(Digital Video Disc又はDigital Versatile Disc)、BD(Blu-Ray Disc)プレーヤ等の音源1から複数チャンネルの信号伝送路を通じてデジタルオーディオ信号SFL、SFR、SC、SSL、SSR、SWF、SSBL及びSSBRが供給される信号処理回路2と、測定用信号発生器3とが設けられている。
【0022】
なお、本オーディオシステムは複数チャンネルの信号伝送路を含むが、以下の説明では各チャンネルをそれぞれ「FLチャンネル」、「FRチャンネル」などと表現することがある。また、信号及び構成要素の表現において複数チャンネルの全てについて言及する時は参照符号の添え字を省略する場合がある。また、個別チャンネルの信号及び構成要素に言及する時はチャンネルを特定する添え字を参照符号に付す。例えば、「デジタルオーディオ信号S」と言った場合は全チャンネルのデジタルオーディオ信号SFL〜SSBRを意味し、「デジタルオーディオ信号SFL」と言った場合はFLチャンネルのみのデジタルオーディオ信号を意味するものとする。
【0023】
更に、オーディオシステム100は、信号処理回路2によりチャンネル毎に信号処理されたデジタル出力DFL〜DSBRをアナログ信号に変換するD/A変換器4FL〜4SBRと、これらのD/A変換器4FL〜4SBRから出力される各アナログオーディオ信号を増幅する増幅器5FL〜5SBRとを備えている。これらの増幅器5で増幅した各アナログオーディオ信号SPFL〜SPSBRを、
図6に例示するようなリスニングルーム7等に配置された複数チャンネルのスピーカ6FL〜6SBRに供給して鳴動させるようになっている。
【0024】
また、オーディオシステム100は、受聴位置RVにおける再生音を集音するマイクロホン8と、マイクロホン8から出力される集音信号SMを増幅する増幅器9と、増幅器9の出力をデジタルの集音データDMに変換して信号処理回路2に供給するA/D変換器10とを備えている。
【0025】
ここで、便宜的に、オーディオ周波数帯域を、31Hz帯域〜16kHz帯域のオクターブバンド(所定の周波数を中心にして上限と下限との周波数の比率が1オクターブになる周波数の幅を意味する)にて分割する。そして、低域再生専用のスピーカ6WF(以下では適宜「サブウーファー6WF」と呼ぶ。)は、重低音(31Hz帯域)及び低音(63Hz帯域)を再生することとし、スピーカ6FL、6FR、6C、6SL、6SRは、重低音(31Hz帯域)以外のオーディオ帯域63Hz〜16kHz帯域を再生することとする。これにより、オーディオシステム100は、受聴位置RVにおける受聴者に対して臨場感のある音場空間を提供する。
【0026】
各スピーカの配置としては、例えば、
図6に示すように、ITU−R勧告(ITU-R BS775-1)に基づき、受聴位置RVの前方に、左右2チャンネルのフロントスピーカ6FL、6FRとセンタースピーカ6Cを配置する。また、受聴位置RVの後方に、左右2チャンネルのサラウンドスピーカ6SL、6SRを配置し、更にその後方に、左右2チャンネルのサラウンドスピーカ6SBL、6SBRを配置する。加えて、任意の位置に低域再生専用のサブウーファー6WFを配置する。オーディオシステム100に備えられた信号補正装置は、周波数特性、各チャンネルの信号レベル及び信号到達遅延特性を補正したアナログオーディオ信号SPFL〜SPSBRをこれら8個のスピーカ6FL〜6SBRに供給して鳴動させることで、臨場感のある音場空間を実現する。
【0027】
信号処理回路2は、デジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)等で形成されており、
図2に示すように、大別して信号処理部20と、係数演算部30とから構成される。信号処理部20は、DVD、BDその他の各種音楽ソースを再生する音源1から複数チャンネルのデジタルオーディオ信号を受け取り、各チャンネル毎に周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を施してデジタル出力信号DFL〜DSBRを出力する。係数演算部30は、マイクロホン8で集音された信号をデジタルの集音データDMとして受け取り、周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正のための係数信号SF1〜SF8、SG1〜SG8、SDL1〜SDL8をそれぞれ生成して信号処理部20へ供給する。マイクロホン8からの集音データDMに基づいて信号処理部20が適切な周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を行うことにより、各スピーカ6から最適な信号が出力される。
【0028】
信号処理部20は、
図3に示すようにグラフィックイコライザGEQと、チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8と、遅延回路DLY1〜DLY8とを備えている。一方、係数演算部30は、
図4に示すように、システムコントローラMPUと、周波数特性補正部11と、チャンネル間レベル補正部12と、遅延特性補正部13とを備えている。周波数特性補正部11、チャンネル間レベル補正部12及び遅延特性補正部13はDSPを構成している。
【0029】
周波数特性補正部11は、グラフィックイコライザGEQのイコライザEQ1〜EQ5、EQ7、EQ8(サブウーファー6WF以外のチャンネルに対応するイコライザ)の周波数特性を調整する。チャンネル間レベル補正部12は、チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8の減衰率を調整する。遅延特性補正部13は、遅延回路DLY1〜DLY8の遅延時間を調整する。このような周波数特性補正部11、チャンネル間レベル補正部12及び遅延特性補正部13により、所望の音場補正が行われる。
【0030】
ここで、WFチャンネル(サブウーファー6WFのチャンネル)以外の各チャンネルについては、63Hz〜16kHz帯域までをオクターブバンドにて分割した9つの帯域(各帯域の中心周波数をf1〜f9とする。)ごとに、イコライザEQの係数(イコライザ利得値/イコライザ係数)が決定されて、周波数特性の補正がなされる。なお、「f1=63Hz」、「f2=125Hz」、「f3=250Hz」、「f4=500Hz」、「f5=1kHz」、「f6=2kHz」、「f7=4kHz」、「f8=8kHz」、「f9=16kHz」である。
【0031】
オーディオシステム100は、動作モードとして自動音場補正モードと音源信号再生モードの2つのモードを有する。自動音場補正モードは、音源1からの信号再生に先だって行われる調整モードであり、システム100の設置された環境について自動音場補正を行う。その後、音源信号再生モードでDVDなどの音源1からの音響信号が再生される。
【0032】
図3を参照すると、FLチャンネルのイコライザEQ1には、音源1からのデジタルオーディオ信号SFLの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW12と、測定用信号発生器3からの測定用信号DNの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW11が接続され、スイッチ素子SW11はスイッチ素子SWNを介して測定用信号発生器3に接続されている。
【0033】
スイッチ素子SW11、SW12、SWNは、
図4に示すマイクロプロセッサで形成されたシステムコントローラMPUによって制御され、音源信号再生時には、スイッチ素子SW12がオン(導通)、スイッチ素子SW11とSWNがオフ(非導通)となり、音場補正時には、スイッチ素子SW12がオフ、スイッチ素子SW11とSWNがオンとなる。
【0034】
また、イコライザEQ1の出力接点には、チャンネル間アッテネータATG1が接続され、チャンネル間アッテネータATG1の出力接点には遅延回路DLY1が接続されている。そして、遅延回路DLY1の出力DFLが、
図1中のD/A変換器4FLに供給される。
【0035】
他のチャンネルもFLチャンネルと同様の構成となっており、スイッチ素子SW11に相当するスイッチ素子SW21〜SW81と、スイッチ素子SW12に相当するスイッチ素子SW22〜SW82が設けられている。そして、これらのスイッチ素子SW21〜SW82に続いて、イコライザEQ2〜EQ8と、チャンネル間アッテネータATG2〜ATG8と、遅延回路DLY2〜DLY8が備えられ、遅延回路DLY2〜DLY8の出力DFR〜DSBRが
図1中のD/A変換器4FR〜4SBRに供給される。
【0036】
更に、各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8は、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG1〜SG8に従って0dBからマイナス側の範囲で減衰率を変化させる。また、各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8は、位相特性補正部13からの調整信号SDL1〜SDL8に従って入力信号の遅延時間を変化させる。
【0037】
図5は、
図4に示す周波数特性補正部11、チャンネル間レベル補正部12及び遅延特性補正部13の構成を示すブロック図である。
【0038】
周波数特性補正部11は、各チャンネルの周波数特性を所望の特性となるように調整する機能を有する。
図5(A)に示すように、周波数特性補正部11は、バンドパスフィルタ11a、係数テーブル11b、利得演算部11c、係数決定部11d、及び係数テーブル11eを備えて構成される。
【0039】
バンドパスフィルタ11aは、イコライザEQ1〜EQ8に設定されている9個の帯域を通過させる複数の狭帯域デジタルフィルタで構成されており、A/D変換器10からの集音データDMを周波数f1〜f9と中心とする9つの周波数帯域に弁別することにより、各周波数帯域のレベルを示すデータ[PxJ]を利得演算部11cに供給する。「x」はチャンネル番号1〜8であり、「J」は周波数帯域番号1〜9である。なお、バンドパスフィルタ11aの周波数弁別特性は、係数テーブル11bに予め記憶されているフィルタ係数データによって設定される。
【0040】
利得演算部11cは、帯域毎のレベルを示すデータ[PxJ]に基づいて、自動音場補正時のイコライザEQ1〜EQ8の利得(ゲイン)を周波数帯域毎に演算し、演算した利得データ[GxJ]を係数決定部11dに供給する。即ち、予め既知となっているイコライザEQ1〜EQ8の伝達関数にデータ[PxJ]を適用することで、イコライザEQ1〜EQ8の周波数帯域毎の利得(ゲイン)を逆算する。
【0041】
係数決定部11dは、
図4に示すシステムコントローラMPUの制御下でイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節するためのフィルタ係数調整信号SF1〜SF8を生成する。係数決定部11dは、利得演算部11cから供給される周波数帯域毎の利得データ[GxJ]によって係数テーブル11eからイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節するためのフィルタ係数データを読み出し、このフィルタ係数データのフィルタ係数調整信号SF1〜SF8によりイコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を調節する。
【0042】
即ち、係数テーブル11eには、イコライザEQ1〜EQ8の周波数特性を様々に調節するためのフィルタ係数データが予めルックアップテーブルとして記憶されており、係数決定部11dが利得データ[GxJ]に対応するフィルタ係数データを読み出し、その読み出したフィルタ係数データをフィルタ係数調整信号SF1〜SF8として各イコライザEQ1〜EQ8に供給することで、チャンネル毎に周波数特性を調整する。
【0043】
なお、上記したフィルタ係数調整信号SFは、イコライザEQにて周波数特性を調整するために用いられる補正パラメータに対応する信号であり、「イコライザ利得値」に相当するものである(言い換えると「イコライザ係数」に相当する)。以下では、イコライザEQにて行われる周波数特性の調整を適宜「イコライザ補正」と呼び、イコライザEQにて周波数特性を調整するために用いられる補正パラメータ(イコライザ利得値)を適宜「イコライザ補正値」と呼ぶ。
【0044】
チャンネル間レベル補正部12は、各チャンネルを通じて出力される音響信号の音圧レベルを均一にする役割を有する。具体的には、測定用信号発生器3から出力される測定用信号(ピンクノイズ)DNによって各スピーカ6FL〜6SBRを個別に鳴動させたときに得られる集音データDMを順に入力し、その集音データDMに基づいて、受聴位置RVにおける各スピーカの再生音のレベルを測定する。
【0045】
チャンネル間レベル補正部12の概略構成を
図5(B)に示す。A/D変換器10から出力される集音データDMはレベル検出部12aに入力される。なお、チャンネル間レベル補正部12は、基本的に各チャンネルの信号の全帯域に対して一律にレベルの減衰処理を行うので帯域分割は不要であり、よって
図5(A)の周波数特性補正部11に見られるようなバンドバスフィルタを含まない。
【0046】
レベル検出部12aは集音データDMのレベルを検出し、各チャンネルについての出力オーディオ信号レベルが一定となるように利得調整を行う。具体的には、レベル検出部12aは検出した集音データのレベルと基準レベルとの差を示すレベル調整量を生成し、調整量決定部12bへ出力する。調整量決定部12bはレベル検出部12aから受け取ったレベル調整量に対応する利得調整信号SG1〜SG8を生成して各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8へ供給する。各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG8は、利得調整信号SG1〜SG5に応じて各チャンネルのオーディオ信号の減衰率を調整する。このチャンネル間レベル補正部12の減衰率調整により、各チャンネル間のレベル調整(利得調整)が行われ、各チャンネルの出力オーディオ信号レベルが均一となる。
【0047】
遅延特性補正部13は、各スピーカの位置と受聴位置RVとの間の距離差に起因する信号遅延を調整する、即ち、本来同時に受聴者が聴くべき各スピーカ6からの出力信号が受聴位置RVに到達する時刻がずれることを防止する役割を有する。よって、遅延特性補正部13は、測定用信号発生器3から出力される測定用信号DNによって各スピーカ6を個別に鳴動させたときに得られる集音データDMに基づいて各チャンネルの遅延特性を測定し、その測定結果に基づいて音場空間の位相特性を補正する。
【0048】
具体的には、
図3に示すスイッチ素子SW11〜SW82を順次切り換えることにより、測定用信号発生器3から発生された測定用信号DNを各チャンネル毎に各スピーカ6から出力し、これをマイクロホン8により集音して対応する集音データDMを生成する。測定用信号を例えばインパルスなどのパルス性信号とすると、スピーカ8からパルス性の測定用信号を出力した時刻と、それに対応するパルス信号がマイクロホン8により受信された時刻との差は、各チャンネルのスピーカ6とマイクロホン8との距離に比例することになる。よって、測定より得られた各チャンネルの遅延時間のうち、最も遅延量の大きいチャンネルの遅延時間に残りのチャンネルの遅延時間を合わせることにより、各チャンネルのスピーカ6と受聴位置RVとの距離差を吸収することができる。よって、各チャンネルのスピーカ6から発生する信号間の遅延を等しくすることができ、複数のスピーカ6から出力された時間軸上で一致する時刻の音響が同時に受聴位置RVに到達することになる。
【0049】
図5(C)に遅延特性補正部の構成を示す。遅延量演算部13aは集音データDMを受け取り、パルス性測定用信号と集音データとの間のパルス遅延量に基づいて、各チャンネル毎に音場環境による信号遅延量を演算する。遅延量決定部13bは遅延量演算部13aから各チャンネル毎に信号遅延量を受け取り、一時的にメモリ13cに記憶する。全てのチャンネルについての信号遅延量が演算され、メモリ13cに記憶された状態で、調整量決定部13bは最も大きい信号遅延量を有するチャンネルの再生信号が受聴位置RVに到達するのと同時に他のチャンネルの再生信号が受聴位置RVに到達するように、各チャンネルの調整量を決定し、調整信号SDL1〜SDL8を各チャンネルの遅延回路DLY1〜DLY8に供給する。各遅延回路DLY1〜DLY8は調整信号SDL1〜SDL8に応じて遅延量を調整する。こうして、各チャンネルの遅延特性の調整が行われる。
【0050】
[信号補正処理]
次に、本実施例に係る信号補正処理(自動音場補正処理)における基本的な原理について説明する。本実施例では、「サブウーファーEQフラグ」、「全チャンネルパワー合成フラグ」、及び「63Hz帯域0dB固定フラグ」を用いて各種の処理を行う。以下では、これらのフラグを用いた処理について具体的に説明する。
【0051】
(1)サブウーファーEQフラグ
本実施例では、WFチャンネル(サブウーファー6WFのチャンネル)以外の全てのチャンネルについて同一のイコライザ補正値(イコライザ利得値)を適用することで、チャンネル間の位相差を無くした音場補正を実現するためのモード(以下では「全チャンネル位相整合モード」と呼ぶ。)を用いる。そして、全チャンネル位相整合モードでは、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて所定の低音帯域に適用されたイコライザ補正値を、WFチャンネルにも適用すべく、サブウーファーEQフラグをオン(sw_eq_flag=1)に設定する。つまり、本実施例では、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて所定の低音帯域に適用されたイコライザ補正値をWFチャンネルにコピーして、WFチャンネルについてのイコライザ補正を行う。
【0052】
これにより、WFチャンネルを含めた複数チャンネルにおける位相整合を実現することができる。よって、WFチャンネルの再生帯域内の位相を他のチャンネルと一致させることができ、音響空間でも弱めあうなどの干渉のない、理想的な音場空間を実現することが可能となる。
【0053】
なお、上記した所定の低音帯域は、サブウーファー6WFの再生帯域に応じた帯域であり、例えば重低音(31Hz帯域)及び低音(63Hz帯域)を含む帯域である。また、サブウーファーEQフラグがオフである場合には(sw_eq_flag=0)、WFチャンネルについてはイコライザ補正が行われない。
【0054】
図7は、本実施例に係る全チャンネル位相整合モードを具体的に説明するための図を示している。
図7(A)及び(B)では、Cチャンネル、FLチャンネル、FRチャンネル、SLチャンネル、SRチャンネル、及びWFチャンネルのそれぞれに適用されるイコライザ補正値の具体例を示している。このイコライザ補正値は、イコライザEQによるイコライザ補正で用いられる補正カーブに相当し、横軸に周波数fが示され、縦軸にイコライザ補正値gainが示されたグラフにて表される。なお、
図7(A)及び(B)では、説明の便宜上、SBLチャンネル及びSBRチャンネルについては図示を省略している。
【0055】
図7(A)は、比較のために、通常の音場補正(全チャンネル位相整合モードが設定されていない場合に行われる音場補正)において用いられるイコライザ補正値の具体例を示している。通常の音場補正においては、各チャンネルごとにイコライザ補正値が決定されて適用される。また、通常の音場補正においては、WFチャンネルについてはイコライザ補正値が適用されない(つまりイコライザ補正が行われない)。
【0056】
図7(B)は、全チャンネル位相整合モードが設定されている場合に行われる音場補正において用いられるイコライザ補正値の具体例を示している。全チャンネル位相整合モードでは、Cチャンネルと、FLチャンネルと、FRチャンネルと、SLチャンネルと、SRチャンネルとで、同一のイコライザ補正値が決定されて適用される。また、全チャンネル位相整合モードでは、サブウーファーEQフラグがオンに設定されることで、WFチャンネルにもイコライザ補正値が適用される。具体的には、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて低音帯域B1に適用されたイコライザ補正値のみが、WFチャンネルにおける低音帯域B1にコピーされて適用される。例えば、低音帯域B1としては、63Hz帯域、125Hz帯域及び250Hz帯域(つまり低域3バンド)が用いられる。
【0057】
このように63Hz帯域、125Hz帯域及び250Hz帯域のイコライザ補正値のみをWFチャンネルに適用する理由は、以下の通りである。本実施例に係る構成は、例えば音にこだわる高級志向のユーザに利用されることを想定している。そのため、サブウーファー6WF使用時の再生帯域設定は、100Hz以下に設定されることが多いと考えられる。これは、100Hz以上の周波数に設定すると、音の方向性が検知しやすくなり、中低域以上の音像に影響を与えてしまうからである。このような使用のされ方を鑑み、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて63Hz帯域、125Hz帯域及び250Hz帯域に適用されたイコライザ補正値のみを、WFチャンネルにコピーしてイコライザ補正を施すこととした。これにより、必要以上の帯域をコピー及びイコライザ補正することなく、全チャンネル位相整合補正を実現することができると共に、計算機(DSP等)の処理量を軽減でき、コストを削減することが可能となる。
【0058】
なお、100Hz以上である125Hz帯域及び250Hz帯域についてもイコライザ補正値をコピーしてイコライザ補正を施しているのは、動作マージンという理由の他に、イコライザEQの隣接バンドへの影響を考慮したものである。
【0059】
(2)全チャンネルパワー合成フラグ
また、本実施例では、全チャンネル位相整合モードにおいて各チャンネルのイコライザ補正値を決定するに当たって、WFチャンネルの音響特性を敢えて使用せず、WFチャンネル以外のチャンネルの音響特性の測定結果のみを使用するために、全チャンネルパワー合成フラグをオン(all_ch_pow_mix_flag=1)に設定する。つまり、本実施例では、全チャンネル位相整合モードにおいて、WFチャンネルを除いた全チャンネルより同時に測定用信号を出力させることで、上記したようなイコライザ補正値(WFチャンネル以外のチャンネルで共通のイコライザ補正値)を決定する。なお、全チャンネルパワー合成フラグがオフである場合には(all_ch_pow_mix_flag=0)、全チャンネルから同時に測定用信号を出力させずに、各チャンネルから個別に測定用信号を出力させることで、各チャンネルで別々にイコライザ補正値が決定される。
【0060】
ここで、上記のようにイコライザ補正値を決定するに当たってWFチャンネルの音響特性を使用しないのは、WFチャンネルの音響特性を使用すると以下のような問題1、2が発生し得るからである。つまり、本実施例では、以下の問題1、2を回避するために、WFチャンネル以外のチャンネルの音響特性の測定結果のみを使用してイコライザ補正値を決定する。
【0061】
(問題1)
本実施例に係る構成は、例えば音にこだわる高級志向のユーザに利用されることを想定している。具体的には、比較的大きなスピーカ6を使用し、WFチャンネル以外のチャンネルの低域の信号をサブウーファー6WFに送るような処理を用いないユーザに利用されることを想定している。したがって、音源再生時には、WFチャンネルは、LFE(Low Frequency Effect)チャンネルのみの信号が入力され、それを出力することになる。LFEチャンネルは、独立したチャンネルであるので、例えば製作者の意図で映画の爆発音などの録音チャンネルとして効果的に利用される(逆にほとんど利用されない時もある)。仮に、WFチャンネルの音響特性も込みで使用することによって全チャンネルの周波数特性補正を行うと、WFチャンネルから相応の音が出ていることを見込んで補正することになる。そのため、音源再生時において、音源にLFEチャンネルの信号が記録されていない期間では、WFチャンネルから相応の音が出力されず、低域(具体的には63Hz帯域)が不足するような再生音になってしまう。
【0062】
(問題2)
WFチャンネルは重低音の帯域まで周波数帯域が延びているので、31Hz帯域まで補正が必要になってしまう。この状態で全チャンネル位相整合モードに設定した場合、全チャンネルで同一のイコライザ補正値が設定されるので、WFチャンネル以外のチャンネルも31Hz帯域においてイコライザ補正を施すこととなる。そのため、31Hz帯域においてプラス方向のゲインを有するイコライザ補正値が設定された場合には、再生できない帯域を無理に出力させようとすることで、スピーカ6に負担を与えたり、異音を感じさせたりすることになってしまう。
【0063】
(3)63Hz帯域0dB固定フラグ
また、本実施例では、全チャンネル位相整合モードにおいて各チャンネルのイコライザ補正値を決定するに当たって63Hz帯域を0dBに固定するために、63Hz帯域0dB固定フラグをオン(63hz_0db_fix_flag=1)に設定する。つまり、本実施例では、63Hz帯域を周波数補正帯域から敢えて除外して0dBに固定する。言い換えると、63Hz帯域のイコライザ補正値を0とする。なお、63Hz帯域0dB固定フラグがオフである場合には(63hz_0db_fix_flag=0)、63Hz帯域を0dBに固定せずにイコライザ補正値を決定する。
【0064】
1つの例(以下「第1の例」と呼ぶ。)では、63Hz帯域を0dBに固定してイコライザ補正値を決定する方法として、63Hz帯域に補正バンドが無いがごとくイコライザ補正値を決定する方法を用いることができる。他の例(以下「第2の例」と呼ぶ。)では、63Hz帯域において必要な利得分だけ全帯域の補正バンドの利得を減算して、イコライザ補正値を決定する方法を用いることができる。第2の例によれば、第1の例の63Hz帯域に補正バンドが無いがごとくイコライザ補正値を決定する方法と比較して、帯域間のレベルを維持することが出来る利点がある。
【0065】
逆に、第2の例では、63Hz帯域において必要な利得分だけ全帯域の補正バンドの利得から減算するので、イコライザのパラメータが全帯域に渡って63Hzの影響を受けることになる。仮に63Hzに絶対値の大きな利得が必要になるような場合には、全帯域に絶対値の大きな利得のパラメータが設定されてしまう事になる。このことは、あまり大きなイコライザ補正を全帯域に渡って施したくない、といった高級志向のユーザの要求を満たさないことになる。この点では、第1の例の方法が有利であり、あまり大きなイコライザ補正を全帯域に渡って施すということがなく、高級志向のユーザの要求を満すことが出来る。
【0066】
ここで、上記のように63Hz帯域を0dBに固定するのは、63Hz帯域を0dBに固定しないと以下のような問題3、4が発生し得るからである。つまり、本実施例では、以下の問題3、4を回避するために、63Hz帯域を0dBに固定して測定分析を行うことでイコライザ補正値を決定する。
【0067】
(問題3)
図8を参照して、問題3について説明する。
図8(A)及び(B)は、WFチャンネル以外のチャンネルの周波数特性の一例を示し、
図8(C)は、WFチャンネルの周波数特性の一例を示している。また、
図8(B)及び(C)中の破線A2は、63Hz帯域に適用されたイコライザ補正によるゲイン(プラス方向のゲイン)の例を示している。
【0068】
WFチャンネル以外のチャンネルは、31Hz帯域はほとんど応答が落ちている場合が多い(
図8(A)中の破線領域A1参照)。これに対して、WFチャンネルは、一般的に、WFチャンネル以外のチャンネルと比較してより低域の再生能力が高く、31Hz帯域まで再生可能な場合が多い(
図8(C)中の破線領域A4参照)。31Hz帯域まで再生可能なサブウーファー6WFに、63Hz帯域を0dBに固定する処理を行わずにイコライザ補正値のコピー及びイコライザ補正を行うと、31Hz帯域と63Hz帯域との間に比較的大きなレベル差が生じ得る(
図8(C)中の矢印A3参照)。その場合、レベル差の変化が認識されることで、サブウーファー6WFの音色に違和感が生じてしまう場合がある。他方で、WFチャンネル以外のチャンネルでは、31Hz帯域がもともとあまり出力されないので、63Hz帯域についてイコライザ補正を施しても31Hz帯域という比較対象がほとんど無いため、このような違和感は生じない(
図8(B)参照)。
【0069】
以上のように、サブウーファー6WFにおいては、31Hz帯域が十分に再生されるので、63Hz帯域についてイコライザ補正を施すと聴感上の問題が生じ得る。
【0070】
(問題4)
一般的に、WFチャンネルのレベルの調整は、ピンクノイズを再生し、レベルを計測することで行われるが、上述のように31Hz帯域と63Hz帯域との間に比較的大きなレベル差が生じてしまうと、比較的レベルの大きい帯域を支配的に重視して計測してしまう。そのため、レベルの大きい帯域では問題ない音量に調整されるが、差のついた分、レベルの小さい帯域では小さく聞こえる音量になってしまう。例えば、重低音が出力されない等の問題が生じ得る。
【0071】
[処理フロー]
次に、本実施例において行われる処理フローについて、
図9及び
図10を参照して説明する。
【0072】
図9は、イコライザ補正値設定処理を示すフローチャートである。このフローは、信号処理回路2において実行される。なお、当該フローは、前述した自動音場補正モードが設定されている場合に実行される。
【0073】
まず、ステップS11では、全チャンネル位相整合モードが設定されているか否かが判定される。この場合、システムコントローラMPUの指示に基づいて、当該判定が行われる。例えば、全チャンネル位相整合モードは、ユーザの選択によって設定される。
【0074】
全チャンネル位相整合モードが設定されている場合(ステップS11:Yes)、ステップS12において、全チャンネルパワー合成フラグがオンに設定されると共に(all_ch_pow_mix_flag=1)、63Hz帯域0dB固定フラグがオンに設定される(63hz_0db_fix_flag=1)。そして、処理はステップS14に進む。これに対して、全チャンネル位相整合モードが設定されていない場合(ステップS11:No)、ステップS13において、全チャンネルパワー合成フラグがオフに設定されると共に(all_ch_pow_mix_flag=0)、63Hz帯域0dB固定フラグがオフに設定される(63hz_0db_fix_flag=0)。そして、処理はステップS14に進む。
【0075】
ステップS14では、ステップS12又はステップS13で設定されたフラグ等に従って、イコライザ補正値が算出される。具体的には、全チャンネル位相整合モードが設定されている場合には、全チャンネルパワー合成フラグがオンに設定され、63Hz帯域0dB固定フラグがオンに設定されているため、以下の手順でイコライザ補正値が算出される。まず、信号処理部20において、スイッチ素子SWNをオンに設定し、スイッチ素子SW11〜SW51、SW71、SW81をオンに設定し(スイッチ素子SW61はオフに設定する)、スイッチ素子SW12〜SW82をオフに設定することで、WFチャンネルを除く全チャンネルから同時に測定用信号DNを出力し、マイクロホン8でこれを集音して集音データDMを信号処理回路2へ入力する。そして、係数演算部30内の周波数特性補正部11は、集音データDMに基づいてイコライザEQの特性を調整するためのイコライザ補正値を算出する。この場合、周波数特性補正部11は、63Hz帯域を0dBに固定してイコライザ補正値を算出する。63Hz帯域を0dBに固定する方法は、「(3)63Hz帯域0dB固定フラグ」のセクションで例示した方法を適用することができる。なお、上記のようにイコライザ補正値を算出する前に、WFチャンネルを除く全チャンネルについてチャンネル間レベル補正処理を行うことで、当該全チャンネルのレベルを一致させておくと良い。
【0076】
他方で、全チャンネル位相整合モードが設定されていない場合には、全チャンネルパワー合成フラグがオフに設定され、63Hz帯域0dB固定フラグがオフに設定されているため、以下の手順でイコライザ補正値が算出される。この場合には、各チャンネルから順に測定用信号DNを出力させることで、各チャンネルで個別にイコライザ補正値を算出する。具体的には、まず、信号処理部20において、スイッチ素子SWNをオンに設定し、スイッチ素子SW11をオンに設定し、スイッチ素子SW21〜SW81及びスイッチ素子SW12〜SW82をオフに設定することで、FLチャンネルのみから測定用信号DNを出力し、マイクロホン8でこれを集音して集音データDMを信号処理回路2へ入力する。そして、係数演算部30内の周波数特性補正部11は、集音データDMに基づいて、FLチャンネルに対応するイコライザEQ1の特性を調整するためのイコライザ補正値を算出する。この後、周波数特性補正部11は、WFチャンネルを除く全チャンネルについてイコライザ補正値を算出するまで、各チャンネルごとに順にイコライザ補正値を算出する。なお、全チャンネル位相整合モードが設定されていない場合(つまり63Hz帯域0dB固定フラグがオフである場合)には、周波数特性補正部11は、63Hz帯域を0dBに固定せずにイコライザ補正値を算出する。
【0077】
以上のように算出されたイコライザ補正値に従ってイコライザEQにてイコライザ補正が行われる。なお、オーディオシステム100においては、自動音場補正処理として、
図9に示したイコライザ補正値設定処理(言い換えると周波数特性補正処理)以外にも、チャンネル間レベル補正処理や遅延特性補正処理などが行われるが、これらについては説明を省略する。
【0078】
図10は、音源信号再生処理を示すフローチャートである。このフローは、信号処理回路2において実行される。なお、当該フローは、前述した音源信号再生モードが設定されている場合に実行される。
【0079】
まず、ステップS21では、全チャンネル位相整合モードが設定されているか否かが判定される。この場合、システムコントローラMPUの指示に基づいて、当該判定が行われる。
【0080】
全チャンネル位相整合モードが設定されている場合(ステップS21:Yes)、ステップS22において、サブウーファーEQフラグがオンに設定される(sw_eq_flag=1)。そして、処理はステップS24に進む。これに対して、全チャンネル位相整合モードが設定されていない場合(ステップS21:No)、ステップS23において、サブウーファーEQフラグがオフに設定される(sw_eq_flag=0)。そして、処理はステップS24に進む。
【0081】
ステップS24では、信号処理回路2内の信号処理部20が、ステップS22又はステップS23で設定されたフラグ等に従って、音源1からの信号を再生するための処理を行う。具体的には、信号処理部20は、DVD、BDその他の各種音楽ソースを再生する音源1から複数チャンネルのデジタルオーディオ信号を受け取り、各チャンネル毎に周波数特性補正、レベル補正及び遅延特性補正を施してデジタル出力信号DFL〜DSBRを出力する。この場合、スイッチ素子SW12〜SW82をオンに設定し、スイッチ素子SWN及びスイッチ素子SW11〜SW81をオフに設定する。
【0082】
より具体的には、信号処理部20は、全チャンネル位相整合モードが設定されている場合、つまりサブウーファーEQフラグがオンである場合には、WFチャンネル以外のチャンネルについては、同一のイコライザ補正値(
図9のフローで決定されたイコライザ補正値)によってイコライザ補正を行い、WFチャンネルについては、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて63Hz帯域、125Hz帯域及び250Hz帯域に適用されたイコライザ補正値をコピーしてイコライザ補正を行う。他方で、信号処理部20は、全チャンネル位相整合モードが設定されていない場合、つまりサブウーファーEQフラグがオフである場合には、WFチャンネル以外のチャンネルについては、各チャンネルごとに決定されたイコライザ補正値(
図9のフローで決定されたイコライザ補正値)によってイコライザ補正を行い、WFチャンネルについてはイコライザ補正を行わない。
【0083】
[変形例]
上記した実施例では、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて所定の低音帯域(63Hz帯域、125Hz帯域及び250Hz帯域)に適用されたイコライザ補正値のみをWFチャンネルに適用していたが、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて全周波数帯域(つまりオーディオ帯域63Hz〜16kHz帯域)に適用されたイコライザ補正値を全てWFチャンネルに適用しても良い。つまり、全周波数帯域において、WFチャンネルを含む全チャンネルで同一のイコライザ補正値を用いても良い。
【0084】
また、上記した実施例では、WFチャンネル以外のチャンネルにおいて63Hz帯域、125Hz帯域及び250Hz帯域に適用されたイコライザ補正値をWFチャンネルに適用していたが、イコライザ補正値をWFチャンネルに適用する帯域として63Hz帯域、125Hz帯域及び250Hz帯域を用いることに限定はされない。例えば、各種のサブウーファーが有する再生帯域や、サブウーファー以外のチャンネルが出力可能な最低帯域などに応じた種々の帯域を、WFチャンネル以外のチャンネルに適用されたイコライザ補正値をWFチャンネルに適用する帯域として用いることができる。
【0085】
また、上記した実施例では、63Hz帯域を0dBに固定していたが、0dBに固定する帯域として63Hz帯域を用いることに限定はされない。例えば、各種のサブウーファーが有する再生帯域や、サブウーファー以外のチャンネルが出力可能な最低帯域などに応じた種々の帯域を、0dBに固定する帯域として用いることができる。
【0086】
また、上記した実施例の他の例では、直線位相フィルタによって補正を行うことができる。その場合、通常通り自動音場を測定して補正パラメータを決定した後に、上記したイコライザを直線位相フィルタ化して、補正を実行すれば良い。これにより、全チャンネル直線位相のフィルタであれば、サブウーファーにイコライザを適用することなく、目的とする全チャンネル同位相を実現することができる。
【0087】
[適用例]
本発明は、例えばAVレシーバやホームシアターシステムなどに適用することができる。