特許第6044452号(P6044452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044452
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】歩行補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   A61H3/00 B
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-109103(P2013-109103)
(22)【出願日】2013年5月23日
(65)【公開番号】特開2014-226373(P2014-226373A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 英祐
(72)【発明者】
【氏名】中島 一誠
(72)【発明者】
【氏名】上村 真弘
【審査官】 武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−90739(JP,A)
【文献】 特開2012−213554(JP,A)
【文献】 特開2013−5881(JP,A)
【文献】 特開2013−13579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの大腿に取り付けられる大腿リンクと、
大腿リンクと揺動可能に連結されており、ユーザの下腿に取り付けられる下腿リンクと、
大腿リンクに対して下腿リンクを揺動させるアクチュエータと、
下腿リンクを取り付けた脚の着地を検知する接地センサと、
大腿リンクと下腿リンクの間の角度であって膝裏側の膝角度に対応するジョイント角度が、ジョイント角度の目標値の経時的変化を記述した目標軌道に追従するようにアクチュエータを制御するコントローラと、
を備えており、コントローラは、
正常歩行時の膝角度の経時的変化を記述した角度パターンであって、脚の離地の後に単調減少して歩行最小角度に到達し、その後単調増加して歩行最大角度に到達して着地に至る歩行角度パターンを記憶しており、
前記歩行角度パターンを目標軌道として設定したアクチュエータ制御の実行中、前記歩行最小角度から前記歩行最大角度に至る単調増加期間内に予め設定された正常着地限界角度に実際のジョイント角度が到達する前に接地センサが脚の着地を検知した場合、その後の目標軌道を、前記歩行角度パターンから、前記歩行最大角度よりも小さい低減角度まで単調増加するとともにその低減角度に到達した後は低減角度を保持する低減角度パターンに切り換えてアクチュエータの制御を継続する、
ことを特徴とする歩行補助装置。
【請求項2】
コントローラは、目標軌道を前記低減角度パターンに切り換えた後、前記低減角度パターンに沿って変化する実際のジョイント角度が当初の歩行角度パターン上のジョイント角度と一致した時点で再び歩行角度パターンに切り換えることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの歩行動作を補助する歩行補助装置に関する。特に、膝関節を自由に動かすことができないユーザの歩行動作を補助する歩行補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膝関節を自由に動かせないユーザの歩行動作を補助する装置が研究されている。そのような装置の一つのタイプは、ユーザの大腿と下腿に取り付けるリンク(大腿リンクと下腿リンク)が膝横に位置する回転ジョイントで連結されたリンク機構の装具を備える。回転ジョイントにはアクチュエータが連結されており、歩行動作に合わせて下腿リンクを揺動させる。自由に動かせない脚は一般的に患脚と呼ばれる。歩行補助装置は患脚に沿って装着した装具が動力で揺動し、患脚の動きをガイドする。
【0003】
少なくとも一方の脚が不自由な非健常者の歩行動作の補助においては、ユーザがバランスを失い、立脚の膝が曲がって崩れ落ちる可能性がある。特許文献2に開示された装置では、ユーザが崩れ落ちないように、ユーザの膝が深く曲がった場合には、大きいアシストトルク(膝を伸ばす方向に大腿リンクと下腿リンクを揺動させるトルク)を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−148637号公報
【特許文献2】特開2013−005881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の技術は、装具が補助している患脚が立脚の場合に患脚が自重を支えられるようにアシストトルクを増加させるものである。発明者らの観察によると、片脚を自由に動かせないユーザが歩行訓練を行う場合、健脚(健康な脚)による片脚立脚であってもバランスを崩すことがある。これは、遊脚が自由に動かせないことが健脚へも影響するためであると考えられる。
【0006】
ところで、大腿と下腿に装着したリンク機構で患脚の歩行動作を補助する場合、通常の歩行動作を再現するようにリンクを揺動させる。リンクを揺動させるためのジョイント角度の経時的変化は予め定められている場合が多い。患脚が遊脚の間、即ち、補助装置が遊脚の動きを再現している間に立脚が崩れて患脚が予定されたタイミングよりも前に着地すると、ユーザの動きと補助装置の動きが合致しなくなる。本明細書は、そのような場合、即ち、動きを補助している患脚が遊脚の間にユーザがバランスを崩して遊脚を予定よりも早く着地した場合に対処することのできる歩行補助装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
リンクに予め定められた動きをさせるには、リンク角度の目標値の経時的変化を予め定めておき、実際のリンクが目標値の経時的変化に追従するようにアクチュエータを制御する方法が一般的である。歩行補助の場合、装置のコントローラは、歩行時の膝角度の経時的変化を模擬した角度パターンを記憶し、実際のリンク角度がその角度パターンに追従するように制御する。角度制御で歩行補助装置を駆動すると、装置を装着した脚が予定よりも早く着地しても、そのまま当初の角度パターンに沿ってリンクを駆動してしまう。予定よりも早く着地したときは腰位置が正常な歩行時よりも低い位置にあることが多く、そのような場合に当初の正常な遊脚動作を再現する角度パターンでリンクを駆動させると装置が腰位置を不自然に押し上げる結果となる。
【0008】
そこで、本明細書が開示する歩行補助装置では、正常な歩行動作を再現する角度パターンでリンクを駆動するが、患脚が予定よりも早く着地してしまった場合には、それまでの角度パターンから、腰位置が高くならないように修正した臨時の角度パターンに切り換える。腰位置を正常歩行時より低く抑える角度パターンとは、着地後の膝角度の最大値が、正常時の角度パターンに既定されている膝最大角度よりも小さい値に制限された角度パターンである。予定よりも早く着地した脚の膝を正常時ほどには伸ばすことなく、通常の歩行時よりも小さい膝角度に保てば、腰の位置が低くなる。なお、本明細書では、膝裏側の角度を膝角度と称する。従って「膝角度が小さい」とは、膝が曲がっていることを意味する。
【0009】
本明細書が開示する歩行補助装置は、上記の制御により、患脚が予定よりも早く着地してしまった場合にはその後の腰位置を低く抑え、歩行動作が継続するようにユーザを補助する。
【0010】
本明細書が開示する歩行補助装置の構成を概説する。歩行補助装置は、脚の動きを物理的に補助するアクチュエータ付き装具とそのアクチュエータを制御するコントローラで構成される。装具は、大腿リンク、下腿リンク、着地センサ、及び、アクチュエータを有する。大腿リンクはユーザの大腿に取り付けられ、下腿リンクはユーザの下腿に取り付けられる。大腿リンクと下腿リンクは、回転ジョイントによって相互に揺動する。回転ジョイントは、リンクをユーザに取り付けたときにユーザの膝横に位置する。アクチュエータは、その回転ジョイントの回りに下腿リンクを回転させる。接地センサは、下腿リンクを取り付けた脚の離地と着地を検知する。
【0011】
コントローラは、大腿リンクと下腿リンクがなす角度(ジョイント角度)が、ジョイント角度の目標値の経時的変化を記述した目標軌道に追従するようにアクチュエータを制御する。本明細書では、ジョイント角度は、大腿リンクと下腿リンクの間の角度であって膝裏側の角度に対応するように定められる。ユーザの「膝角度」は、ユーザの脚を線画で表したときの大腿と下腿の間の膝裏側における角度で定義される。従ってジョイント角度とユーザの膝角度は基本的に等価である。コントローラは、正常な歩行時の膝角度(ジョイント角度)の経時的変化を記述した歩行角度パターンを記憶している。別言すれば、歩行角度パターンは、正常な歩行時の膝角度の経時的変化を想定して予め作成されたものである。歩行角度パターンは、膝角度(ジョイント角度)が、下腿リンクを装着した脚の離地時から単調減少して最小角度(歩行最小角度)に到達し、その後単調増加して最大角度(歩行最大角度)に到達して着地に至る、という経時的変化を辿る。
【0012】
コントローラは、歩行角度パターンをジョイント角度の目標軌道として設定したアクチュエータ制御の実行中、実際のジョイント角度が、歩行最小角度から歩行最大角度に至る単調増加期間内に予め設定された正常着地限界角度に到達する前に接地センサがその遊脚の着地を検知した場合、その後の目標軌道を、当初の歩行角度パターンから、最大角度が、歩行角度パターン上の歩行最大角度よりも小さい低減角度に制限されている角度パターン(低減角度パターン)に切り換えてアクチュエータの制御を継続する。低減角度パターンは、歩行最大角度よりも小さい低減角度まで単調増加するとともにその低減角度に到達した後は、低減角度を保持するように規定されている。
【0013】
本明細書が開示する歩行補助装置は、リンクを装着した脚(患脚)が実際に着地したタイミングが歩行角度パターン上で想定されている許容範囲よりも早かった場合、別言すれば、脚が実際に着地したときの実際のジョイント角度が、歩行角度パターン上で予め定められている正常着地限界角度に到達する前だった場合に、通常の歩行動作ほどには膝を伸ばさず(ジョイント角度を大きくせず)、腰位置を通常歩行時よりも低く抑える。脚が予定よりも早く着地した場合に不自然に腰位置を高めることをせず、その歩行周期は腰位置を低いままに保つことで、次の歩行周期でスムーズにもとの正常な方向動作に戻れるようにユーザをガイドする。
【0014】
前述したように、本明細書が開示する歩行補助装置は、患脚が予定よりも早く着地してしまったらその歩行周期では腰位置を低く保ったまま患脚を立脚として健脚を前へ進めることができる。好ましくは、その次の歩行周期で正常な歩行動作に戻れるのがよい。次の歩行周期で正常の歩行動作に戻すには、低減角度パターンに切り換えた後に、元の歩行角度パターンに戻す必要がある。それゆえ、コントローラは、目標軌道を低減角度パターンに切り換えた後、その低減角度パターンに沿って変化する実際のジョイント角度が、当初の歩行角度パターン上の膝角度と一致した時点で再び歩行角度パターンに切り換えるようにプログラムされていることが好ましい。このアルゴリズムは、低減角度パターンから歩行角度パターンに切り換えたときの患脚を補助するリンクの動きがスムーズである。
【0015】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例の歩行補助装置の模式的斜視図である。
図2】正常な歩行時の膝角度と脚姿勢の経時的変化を表す図である。
図3】目標軌道の切り換え処理を説明するグラフである。
図4】目標軌道の再度の切り換え処理を説明するグラフである。
図5】コントローラが実行する処理のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して実施例の歩行補助装置10を説明する。図1に、歩行補助装置10の模式図を示す。図1は、ユーザ90が歩行補助装置10を装着した状態を示している。本実施例では、ユーザ90は、一方の脚(右脚)は自由に動かせるが、他方の脚(左脚)の膝を自由に動かせない非健常者であると仮定する。歩行補助装置10は、歩行における患脚(左脚)の動きを補助するデバイスである。なお、以下、説明を簡単にするために、歩行補助装置10を、単に補助装置10と称する。
【0018】
まず、補助装置10を概説する。補助装置10は、特に患脚のリハビリを目的とし、歩行時の患脚の膝の動き(即ち膝関節の動き)を補助する。補助装置10は、連結された2つのリンク(大腿リンク2と下腿リンク3)を有しており、夫々がユーザの患脚96の大腿と下腿に沿って装着される。このリンク機構は、正常な歩行時の動きを再現するように揺動し患脚の動きを誘導する。補助装置10は、さらに、健脚片脚で立っている間に、ユーザが崩れ落ちそうになり患脚が予定よりも早く着地してしまった場合に、正常時の脚動作の再現を中断し、ユーザが姿勢を保持し易くなるように動作する。そして、次の歩行周期で元の正常歩行に戻れるようにする。
【0019】
補助装置10の機構を説明する。補助装置10は、ユーザの患脚96に装着する大腿リンク2、下腿リンク3、足リンク4、及び、コントローラ12で構成される。大腿リンク2は、患脚96の大腿92に取り付けられ、下腿リンク3は下腿94に取り付けられ、足リンク4は足95に取り付けられる。大腿リンク2と下腿リンク3は、回転ジョイント5によって相互に揺動可能に連結されている。下腿リンク3と足リンク4は、回転ジョイント7によって相互に揺動可能に連結される。回転ジョイント5は、補助装置10をユーザ90に装着したときに、患脚96の膝関節93の横に位置する。もう一方の回転ジョイント7は、患脚の足首関節の横に位置する。
【0020】
患脚の膝関節の隣に位置する回転ジョイント5にはモータ6(アクチュエータ)が内蔵されている。モータ6によって、大腿リンク2に対して下腿リンク3が揺動する。モータ6は、コントローラ12が制御する。モータ6には不図示の回転角センサが取り付けられており、コントローラ12は、その回転角センサのセンサデータでモータ6の回転角、即ち、大腿リンク2と下腿リンク3の間の角度を検知する。なお、本明細書では、大腿リンク2と下腿リンク3が膝裏側でなす角度をジョイント角度と称する。ジョイント角度は、患脚の大腿と下腿を線画で描いたときの膝裏側の角度(膝角度)と等価である。膝が伸びきった状態がジョイント角度=180度であり、膝を直角に曲げた状態がジョイント角度=90度である。
【0021】
足リンク4の裏側には、接地センサ8が備えられている。接地センサ8は、患脚の足が床面に接地しているか否かを判定するために設けられている。別言すれば、接地センサ8は、歩行時の患脚の離地と着地を検知する。接地センサは、例えば、ロードセルでよい。接地センサ8のセンサデータはコントローラ12に送られ、コントローラ12が、患脚が接地しているか否かを判定する。コントローラ12は、例えば、ロードセルの計測値が所定の閾値を超えたときに着地と判定する。このときの「所定の閾値」は、誤判定を防止するためのマージンである。
【0022】
コントローラ12は、ベルト14でユーザ90の腰に取り付けられている。コントローラ12とモータ6、及び、接地センサ8はケーブル16で電気的に接続されている。図示を省略しているが、コントローラ12とモータ6に電力を供給するバッテリは、例えばユーザ90が背負うバックパックに収納される。
【0023】
大腿リンク2、下腿リンク3、足リンク4、及び回転ジョイント5、7で構成されるリンク構造は、脚式ロボットの脚の構造と基本的に同じであり、補助装置10は、ユーザの患脚にロボットの脚を沿わせるように固定され、ロボットの脚で歩行時の脚の動きを再現し、その動きで患脚をガイドする。そのようにして、補助装置10は、歩行時の患脚96の膝関節の動きを補助する。大腿リンク2、下腿リンク3、足リンク4、及び、回転ジョイント5、7で構成される装着型デバイスは「装具」と呼ばれる場合がある。
【0024】
補助装置10による歩行補助の機能を説明する。歩行運動には膝の動き(膝角度の変化)が重要であるが、ユーザ90は患脚96の膝関節を自由に動かせないため、歩行動作がスムーズにできない。補助装置10のコントローラ12は、正常な歩行時の膝の動き、即ち、膝角度の経時的変化のデータを記憶しており、膝角度の経時的変化を回転ジョイント5で再現することにより、リンク機構が歩行時の脚の動きを再現する。リンク機構の動きが患脚をガイドし、歩行動作を補助する。次に、正常な歩行における膝角度の経時的変化を説明する。
【0025】
図2に、一歩行周期における膝角度の経時的変化を示す。グラフの上方の絵は、各膝角度における脚の姿勢を示している。線画で表した人の絵の実線の脚は左脚を表し、破線の脚は右脚を表す。また、符号Anが示す角度が膝角度に相当する。以下、左脚を中心に歩行時の膝角度の経時的変化を説明する。なお、図2は、歩行動作の傾向を示しているのであって、厳密な膝角度を記述しているのではないことに留意されたい。歩行動作には個人差があり、図2はその一例であって全ての歩行動作の膝角度が図2のグラフに厳密に一致するのではないことに留意されたい。
【0026】
時刻T1の姿勢(姿勢(a))をスタートとする。時刻T2は、左脚が離地するタイミングである(姿勢(b))。時刻T1からT2までの期間(A)は、左脚が後脚となる両脚立脚期間である。時刻T1では膝が伸びきっており、時刻T1から時刻T2まで、膝関節は徐々に小さくなる。時刻T2からT4までが左脚の遊脚期間である。この期間の前半(時刻T2から時刻T3までの期間(B))では、膝角度は、単調減少して最小角度まで小さくなる。歩行動作において最も小さい膝角度を歩行最小角度と称する。姿勢(c)は膝角度が歩行最小角度のときの脚の姿勢を表しており、このとき、左脚は立脚である右脚の横を通過する。遊脚期間の後半(時刻T3から時刻T4までの期間(C))では、膝角度は歩行最小角度から最大角度(膝が伸びきった状態)まで単調増加する。この最大角度を以下では、歩行最大角度と称する。膝角度が歩行最大角度に到達する前後で脚は着地する(姿勢(d))。図2では、図を単純化するために、時刻T4で最大角度に到達し、同時に着地に至るケースをモデルにしている。前述したように歩行動作には個人差があるため、時刻T4よりも前に着地するケースもあれば、時刻T4よりも後に着地するケースもある。また、歩行最大角度は180度に近いが、これにも個人差がある。歩行最小角度は、概ね120度である。
【0027】
時刻T4から左脚は立脚期間に移る。右脚のかかとが浮いて右脚が離地するのが時刻T5である。時刻T4から時刻T5までの期間(D)は左脚が前となる両脚立脚期間であり、この期間、左脚の膝角度はわずかに単調減少する(姿勢(e))。時刻T5で右脚が離地し、左脚は片脚立脚期間(期間(E))に移行する。この期間、左脚の膝角度は、前半の期間で歩行最大角度に到達し、後半の期間では歩行最大角度が維持される。この期間、脚の姿勢は、姿勢(f)、姿勢(g)と変化する。姿勢(g)は、姿勢(a)と同じであり、時刻T7移行は、これまで説明した膝角度の経時的変化が繰り返される。即ち、時刻T1からT7までが一歩行周期に相当する。
【0028】
このように、遊脚期間、即ち、脚が離地した後、膝角度は歩行最小角度まで単調減少し、その後、単調増加して歩行最大角度に至り、そして着地する。
【0029】
前述したように、膝角度は回転ジョイント5のジョイント角度と等価であり、膝角度の経時的変化はジョイント角度の経時的変化で表すことができる。コントローラ12は、図2に表した正常歩行時の膝角度の経時的変化を記憶している。この、正常歩行時の膝角度の経時的変化を以下では歩行角度パターンと称する。コントローラ12は、この歩行角度パターンをジョイント角度の目標軌道として与え、ジョイント角度が目標軌道に追従するようにモータ6を制御する。
【0030】
なお、コントローラ12は、ユーザの患脚が離地したことを接地センサ8のセンサデータで検知する。図2のグラフに示す歩行角度パターン上での離地タイミングはT2であり、コントローラ12は、患脚の離地を検知すると、その検知タイミングを歩行角度パターン上の離地時刻T2に合わせてモータ制御を開始する。補助装置10は、回転ジョイント5の動きが歩行角度パターンに追従するようにモータ6を駆動することでリンク(大腿リンク2と下腿リンク3)で正常時の脚の動きを再現し、リンクを装着したユーザの患脚を誘導する。こうして歩行動作が補助される。
【0031】
ユーザが疲れたり、何かにつまずいたりして、動作が正常な歩行動作から外れることがある。その典型的なケースに、片脚立脚時にバランスを失って遊脚を予定よりも早く着地させる、という場合がある。立脚が健常脚であってもバランスを失うことはよくある。これは、やはり、患脚を適切に動かすことができないことに起因すると思われる。
【0032】
患脚が遊脚のときにバランスを失うと、ユーザは、患脚を早めに着地させてバランスを保とうとする。このとき、立脚は崩れかけて膝が曲がっているため、ユーザの腰位置は通常の歩行時よりも低くなっている。補助装置が歩行角度パターンに沿って動作中であると、膝が伸びきっていない状態で着地した脚の膝を歩行最大角度まで伸ばそうとするため、補助装置は、腰位置を不自然に引き上げるように作用する。補助装置10は、そのような状況において腰位置を不自然に高く引き上げることなく、正常な歩行時よりも低く保ち、ユーザがバランスを回復させやすくする。そして、次の歩行周期で元の正常な歩行動作に戻れるようにユーザの脚動作をガイドする。補助装置10のそのような機能について説明する。
【0033】
図3は、図2における期間(B)と(C)、即ち、左脚(患脚)の遊脚期間を、時間軸を引き延ばして表した図である。また、図3では、患脚が予定よりも早く着地してしまった場合のジョイント角度の軌道変更の様子も表している。
【0034】
時刻T4が歩行角度角度パターン上での着地タイミングであるが、今、時刻Txで患脚が着地したとする。図3の姿勢(j)が、そのときの脚の姿勢を模式的に表している。姿勢(j)は、立脚であった右脚(破線)が崩れてしまい、体重を支えようとして患脚である左脚(実線)を着地した状態である。姿勢(j)がよく表しているように、このとき、立脚の膝が曲がったまま遊脚が着地するので、腰位置が低くなる。
【0035】
上記の状況において、コントローラ12は、その後の目標軌道を、これまで設定されていた歩行角度パターンから低減角度パターンに切り換える。ここで、低減角度パターンとは、最大角度まで単調増加するとともに、経時的変化におけるジョイント角度の最大角度が、歩行角度パターンにおける最大角度(歩行最大角度)よりも小さい角度(低減角度)に抑えられているパターンである。さらに低減角度パターンでは、そのパターン上での最大角度である低減角度に到達した後は、その低減角度が維持される。
【0036】
図3において時刻Txよりも右側の破線G2が、低減角度パターンを示す。なお、実線G1は、当初の歩行角度パターンを示す。コントローラ12は、着地を検知した後は、ジョイント角度の目標軌道をこの低減角度パターンに切り換える。別言すれば、コントローラ12は、ジョイント角度がこの低減角度パターンに追従するようにモータ6を制御する。その結果、図3の姿勢(k)によく示されているように、立脚となった左脚(患脚)の膝を少し曲げたまま、右脚を振り出す動作が実現される。図2図3の時刻T4における姿勢(図2の姿勢(d)と図3の姿勢(k))を対比すると理解されるように、正常歩行時では、時刻T4は着地タイミングであり、左脚の膝は伸び切っている。他方、図3の場合、左脚は膝をやや曲げて立脚となっているとともに、右脚は遊脚となって前方へ振り出されるところである。これは、図3のケースでは左脚が予定よりも早く着地したためにその後の動作が前倒しで実現されるからである。また、予定よりも早いタイミングでの着地の結果、体幹は前屈みとなるとともに、腰位置が低くなっている。
【0037】
補助装置10は、図3によく示されているとおり、目標軌道におけるジョイント角度の最大角度を正常歩行のときの最大角度(歩行最大角度)よりも小さくすることで、バランスを立て直そうとするユーザの動きに合致したリンクの動きを実現する。具体的には、補助装置10は、予定よりも早い着地を検知すると、歩行角度パターンに既定されているジョイント角度の最大角度(歩行最大角度)よりも小さい角度(低減角度)までジョイント角度を増加させ、その後、ジョイント角度を低減角度に維持するようにモータ6を制御する。
【0038】
なお、コントローラ12は、患脚が遊脚である間、膝角度(ジョイント角度)が特定の範囲にある間に着地を検知すると、上記したように目標軌道を低減角度パターンに切り換える。その特定の範囲を説明する。図3に示すように、正常な歩行動作を示す歩行角度パターン(グラフG1)には、正常着地限界角度と、回復限界角度が設定さている。いずれも、遊脚においてジョイント角度が歩行最小角度から歩行最大角度に単調増加する間に設定されており、正常着地限界角度は、正常時の最大角度(歩行最大角度)に近い箇所に設定されており、回復限界角度は正常時の最小角度(歩行最小角度)に近い箇所に設定されている。
【0039】
正常着地限界角度は、ジョイント角度がこの角度よりも大きくなっていれば、遊脚着地後もそのまま歩行が継続できると予想される角度に設定されている。コントローラ12は、ジョイント角度が正常着地限界角度を超えて大きくなっていれば、着地を検知してもそのまま歩行角度パターンを目標軌道としてモータ6を制御する。
【0040】
回復限界角度は、ジョイント角度がその角度に達していなければ、歩行動作を継続することができない、という角度に設定されている。コントローラ12は、ジョイント角度が回復限界角度に到達する前に着地が検知された場合には、これまでの歩行角度パターンへの追従制御を停止し、別の処理(異常時緊急停止処理)を実行する。異常時緊急停止処理については本発明の対象外であるので説明は割愛する。
【0041】
コントローラ12は、実際に計測されるジョイント角度が正常時の歩行最小角度から歩行最大角度に至る単調増加期間において、ジョイント角度が、予め設定された正常着地限界角度に達する前であって、かつ、回復限界角度を超えている間に着地が検知された場合に、上記した処理、即ち、低減角度パターンへの切り換えを行う。
【0042】
なお、正常着地限界角度、回復限界角度の判断は、ジョイント角度が正常時の歩行最小角度から歩行最大角度に至る単調増加期間内に行われる。
【0043】
低減角度パターンに切り換えた後の制御について説明する。コントローラ12は、目標軌道を低減角度パターンに切り換えた後、しばらくしたら、目標軌道を元の歩行角度パターンに戻す。そのときの処理を、図4を参照して説明する。図4は、歩行角度パターンと低減角度パターンを模式的に示したグラフである。期間(A)から(E)は、図2に示した各期間(A)から(E)と同じである。但し、図4では、予定よりも早く着地してしまった歩行周期Nと、その次の歩行周期N+1の一部を示している。歩行周期N+1の一部とは、左脚が後脚となる両脚立脚期間(期間(A))と、左脚の遊脚期間の前半(期間(B))である。また、実線のグラフG1は歩行角度パターンを示しており、破線のグラフG2は低減角度パターンを示している。
【0044】
今、時刻P1で接地センサ8が着地を検知したとする。なお、時刻P1におけるジョイント角度は、上記した回復限界角度と正常着地限界角度の間であるとする。コントローラ12は、時刻P1以降の目標軌道を、歩行角度パターンから低減角度パターンに切り換える。そうすると、患脚の膝角度は、当初予定された歩行最大角度よりも小さい低減角度までしか大きくならない。コントローラ12は、その後、しばらく、ジョイント角度をこの低減角度に保持する。コントローラ12は、目標角度を低減角度パターンに切り換えた後も、当初の歩行角度パターン上における経過時間を計測している。コントローラ12は、現在時刻における歩行角度パターン上の膝角度が低減角度パターン上の膝角度と一致したら、その時点で目標軌道を再び歩行角度パターンに切り換える。図4のポイントP2がその切り換えタイミングを示している。このポイントP2以降は、コントローラ12は、ジョイント角度が歩行角度パターンに一致するようにモータ6を制御する。こうして、ポイントP1からP2の期間は、膝がやや曲がり、腰位置が通常の歩行時よりも低い状態を維持して推移したのち、ポイントP2からもとの正常歩行に戻る。即ち、補助装置10は、元の歩行動作へユーザを円滑に誘導することができる。
【0045】
患脚が予定よりも早く着地して目標軌道を切り換える処理を、図5のフローチャートに沿ってもう一度説明する。図5のフローチャートは、患脚が遊脚の間、定期的に繰り返される処理である。なお、コントローラ12のプログラム中には、患脚が遊脚であるか立脚であるかを示すフラグ変数(脚状態フラグ)が用意されており、そのフラグに「遊脚」を示すデータが設定されている間、図5のフローチャートの処理が定期的に繰り返される。
【0046】
コントローラ12は、接地センサ8からのセンサデータを取得し、患脚が着地したか否かをチェックする(S2)。着地が検知されていない場合(S2:NO)、遊脚状態が続いているので処理を終了する。着地が検知された場合(S2:YES)、次にコントローラ12は、現時点でのジョイント角が、歩行角度パターンにおける歩行最小角度に到達しているか否かをチェックする(S3)。なお、図2に示した姿勢(c)が、歩行最小角度における脚の姿勢であり、正常な歩行動作においては患脚である遊脚が立脚の横を通過しているはずである。そのような歩行最小角度に到達する前に着地が検知されるということは明らかに異常な動作であるため、ステップS3の判断がNOの場合、コントローラ12は異常時の処理モード(S5)に移行する。なお、異常時の処理モードについての説明は割愛する。
【0047】
現在のジョイント角度が歩行最小角度を超えている場合(S3:YES)とは、目標軌道である歩行角度パターンにおいて膝角度が歩行最大角度に向けて単調増加する期間であることを意味する。コントローラ12は、次に、現在のジョイント角度が回復限界角度に到達しているか否かをチェックする(S4)。ジョイント角度が回復限界角度に到達する前に遊脚が着地してしまった場合も(S4:NO)、歩行動作を継続することが極めて困難な場合であるので、コントローラ12は、異常時の処理モードに移行する(S5)。
【0048】
現在のジョイント角度が回復限界角度を超えている場合(S4:YES)、コントローラ12は、現在のジョイント角度が正常着地限界角度に到達しているか否かをチェックする(S6)。正常着地限界角度を超えて着地が検知された場合は(S6:YES)、正常な歩行動作の範囲内での着地であるため、現在の制御、即ち、ジョイント角度を歩行角度パターンに追従させる制御を継続する。ただし、着地が検知されたので、これ以降は、立脚の制御モードに移行すべく、「立脚」を意味するデータを脚状態フラグに代入する(S8)。そしてこの処理を終了する。
【0049】
現在のジョイント角度が正常着地限界角度に到達してなかった場合(S6:NO)、正常な歩行動作を続けるのは好ましくなく、腰位置が低いまましばらく継続するのがよい。そこで、コントローラ12は、目標軌道を歩行角度パターンから低減角度パターンに切り換える(S7)。低減角度パターンは前述した通りである。ステップS7を実行した後であっても、コントローラ12は、ステップS8にて、脚状態フラグに「立脚」を意味するデータを代入する。
【0050】
脚状態フラグに「立脚」を示すデータが挿入されると、次回の繰り返しからは、図5の処理ではなく、立脚時の制御を規定したルーチンへ移行する。そのルーチンの説明は割愛する。
【0051】
以上の処理により、遊脚である患脚が予定よりも早く着地してしまった場合には通常の歩行時のように膝を伸ばすのではなく、膝をやや曲げて腰位置が低くなる姿勢へユーザをガイドする。そうすることで、患脚が遊脚のときにバランスを失って腰位置が低いまま予定よりも早く遊脚を着地したあと、腰位置を不自然に持ち上げることがなく、バランスを取り戻そうとするユーザを適切に補助することができる。
【0052】
実施例で説明したアルゴリズムは、患脚が予定よりも早く着地してしまった場合、元の歩行動作にスムーズに戻ることをアシストする。患脚が予定よりもずっと早く着地してしまうような場合、元の歩行動作には戻れない場合がある。膝角度が回復限界角度に到達していない期間がそのような期間に相当する。そのような例外的な場合は、異常時処理モードに移行する(図5のステップS5)。そこでは、歩行補助動作は中断し、ユーザが倒れないようにリンクを制御する。
【0053】
また、フローチャートには示していないが、図4を使って説明したように、補助装置10は、ジョイント角度の目標軌道を低減角度パターンに切り換えた後、低減角度パターンに沿って変化する実際のジョイント角度が当初の歩行角度パターン上のジョイント角度と一致した時点で目標軌道を再び歩行角度パターンに切り換える。そのようなアルゴリズムにより、バランスを崩して腰位置が低いまま立脚を一方前へ進めた後に、スムーズに元の歩行角度パターンによる歩行動作補助に移行することができる。
【0054】
実施例では、補助装置10は、左脚が患脚で右脚は健常であるユーザを対象とした。本明細書が開示する補助装置10は、両膝を自由に動かすことができないユーザに適用することができる。その場合は、両方の脚にそれぞれ補助装置10を装着すればよい。即ち、本明細書が開示する歩行補助装置は、膝関節を自由に動かすことができない脚に取り付けて用いられるものである。
【0055】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0056】
2:大腿リンク
3:下腿リンク
4:足リンク
5:回転ジョイント
6:モータ
7:回転ジョイント
8:接地センサ
10:歩行補助装置
12:コントローラ
14:ベルト
16:ケーブル
90:ユーザ
92:大腿
93:膝関節
94:下腿
95:足
96:患脚
図1
図2
図3
図4
図5