特許第6044457号(P6044457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044457
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/02 20060101AFI20161206BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20161206BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20161206BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   F02D41/02 301K
   F02D19/08 D
   F02D41/06 330A
   F02D45/00 364K
   F02D41/06 330B
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-113699(P2013-113699)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-231799(P2014-231799A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚越 崇博
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−267274(JP,A)
【文献】 特開平09−256854(JP,A)
【文献】 特開2011−132920(JP,A)
【文献】 特開2009−047055(JP,A)
【文献】 特開2008−261231(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/030924(WO,A1)
【文献】 特開2010−037968(JP,A)
【文献】 特開平05−340286(JP,A)
【文献】 特開平01−216040(JP,A)
【文献】 特開2008−082329(JP,A)
【文献】 特開2007−146826(JP,A)
【文献】 米国特許第5146882(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D41/00−45/00
F02D13/00−28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール混合燃料によって駆動される内燃機関の燃料噴射制御装置において、燃料噴射弁から噴射される燃料の量を制御する制御部を具備し、該制御部は、アルコール混合燃料のアルコール濃度が所定濃度よりも高い場合、クランキング開始後、初爆発生までの燃料噴射において、燃料噴射が行われる1サイクル当たりに前記燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量を、空燃比を可燃空燃比とする量よりも少ない量に制御する噴射量制御を実施する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、機関温度が高いほど前記所定濃度を高い濃度に設定する請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記アルコール濃度が高いほど、前記内燃機関のクランキング開始から始動完了までの期間に前記1サイクル当たりに前記燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量である始動時噴射量を増量し、該始動時噴射量の増量分は、該アルコール濃度が0%であるときに得られる発熱量に対して、前記アルコール混合燃料の蒸発量不足に起因する発熱量の不足分と、該アルコール混合燃料中のアルコール成分の気化により奪われる熱量分とを補う量である請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、アルコール混合燃料のアルコール濃度が前記所定濃度よりも高く、且つ、機関温度が所定温度よりも低い場合にのみ、前記噴射量制御を実施する請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記噴射量制御において、燃料噴射が行われる1サイクル当たりに前記燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量を、空燃比を可燃空燃比とする量よりも少ない範囲内で徐々に多くする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料供給制御装置が特許文献1に記載されている。この内燃機関では、アルコール混合燃料(以下、単に「混合燃料」)が使用される。このように混合燃料が使用される場合(以下「混合燃料使用時」)において、ガソリンのみが使用される場合(以下「ガソリン使用時」)の燃料噴射量と同じ量の燃料を機関始動時に噴射すると、ガソリン使用時に比べて、機関始動性が低下してしまう。そこで、特許文献1に記載の装置では、機関始動時において、混合燃料中のアルコール濃度と機関温度とに基づいて、アルコール濃度が高いほど燃料噴射量を増量し、また、機関温度が低いほど燃料噴射量を増量するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−178735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、混合燃料使用時において、クランキング開始後の1サイクル目において初爆を発生させようとすると、燃料噴射量をガソリン使用時の燃料噴射量よりも多くする必要がある。しかしながら、この場合において機関温度が低いと、燃料の一部が気化せず、これら気化しなかった燃料が燃焼せずに筒内に残留することがある。そして、この場合、1サイクル目において燃焼せずに筒内に残留した燃料の一部が2サイクル目まで筒内に残留することがある。こうした状況下において、2サイクル目においても、ガソリン使用時の燃料噴射量よりも多い量の燃料が噴射されると、筒内に多量の燃料が存在することになる。ここで、機関温度が1サイクル目の燃焼によって上昇しているため、多量の燃料が気化し、その結果、筒内空燃比が過剰にリッチになる。このため、2サイクル目の燃焼性が低下し、その結果、機関回転数が上昇しなくなってしまう。そして、こうした燃焼性の低下は、1サイクル目以降、数サイクルに亘って続くことがあり、この場合、機関始動時間が長くなってしまう。
【0005】
こうした事情に鑑み、本発明の目的は、アルコール混合燃料によって駆動される内燃機関において、短い機関始動時間を達成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルコール混合燃料によって駆動される内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。本発明の燃料噴射制御装置は、燃料噴射弁から噴射される燃料の量を制御する制御部を具備し、該制御部は、アルコール混合燃料のアルコール濃度が所定濃度よりも高い場合、クランキング開始後、初爆発生までの燃料噴射において、燃料噴射が行われる1サイクル当たりに前記燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量を、空燃比を可燃空燃比とする量よりも少ない量に制御する噴射量制御を実施する。これによれば、初爆後に筒内空燃比が過剰にリッチになることが抑制されるので、短い機関始動時間を達成することができる。
【0007】
なお、前記制御部は、機関温度が高いほど前記所定濃度を高い濃度に設定するようにしてもよい。これによれば、より短い機関始動時間を達成することができる。すなわち、機関温度が高いときには、アルコール混合燃料中のアルコール成分が蒸発しやすい。したがって、機関温度が高いほど所定濃度を高く設定しても、初爆後に筒内空燃比が過剰にリッチになることが抑制される。しかも、機関温度が高いほど所定濃度を高くすれば、前記噴射量制御の実施領域が小さくなる。このため、より短い機関始動時間を達成することができる。
【0008】
また、前記制御部は、前記アルコール濃度が高いほど、前記内燃機関のクランキング開始から始動完了までの期間に前記1サイクル当たりに前記燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量である始動時噴射量を増量するようにしてもよく、この場合、該始動時噴射量の増量分は、該アルコール濃度が0%であるときに得られる発熱量に対して、前記アルコール混合燃料の蒸発量不足に起因する発熱量の不足分と、該アルコール混合燃料中のアルコール成分の気化により奪われる熱量分とを補う量である。
【0009】
これによれば、より確実に、短い機関始動時間を達成することができる。すなわち、機関始動を完了させるためには、機関回転数を上昇させる必要がある。そして、このためには、機関回転数を上昇させるのに十分な発熱量を確保する必要がある。したがって、アルコール混合燃料が使用された場合において、アルコール混合燃料の蒸発量不足に起因する分と、アルコール混合燃料中のアルコール成分の気化により奪われる分とを補える分だけ、始動時噴射量が増量されれば、より確実に、機関回転数を上昇させることができる。また、前記アルコール混合燃料の発熱量の不足分は、アルコール混合燃料の蒸発量不足に起因する分と、アルコール混合燃料中のアルコール成分の気化により奪われる分とに分けて考えられるので、より精密に前記増量分を求めることができ、その結果、より確実に、短い機関始動時間を達成することができる。
【0010】
また、前記制御部は、アルコール混合燃料のアルコール濃度が前記所定濃度よりも高く、且つ、機関温度が所定温度よりも低い場合にのみ、前記噴射量制御を実施するようにしてもよい。これによれば、より確実に、短い機関始動時間を達成することができる。すなわち、機関温度が低い場合、アルコール混合燃料中のアルコール成分が蒸発しづらい。このため、短い機関始動時間を達成するためには、機関温度が低い間、前記噴射量制御を実施すべきである。したがって、機関温度が所定温度よりも低い間、前記噴射量制御が実施されれば、より確実に、短い機関始動時間を達成することができる。
【0011】
また、前記制御部は、前記噴射量制御において、燃料噴射が行われる1サイクル当たりに前記燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量を、空燃比を可燃空燃比とする量よりも少ない範囲内で徐々に多くするようにしてもよい。
【0012】
これによれば、より確実に、短い機関始動時間を達成することができる。すなわち、クランキング開始直後はアルコール混合燃料の気化量が少ないが、機関温度の上昇とともに徐々に気化量が多くなる。つまり、気化せずに次サイクルに持ち越されるアルコール混合燃料の量が徐々に少なくなり、筒内空燃比が過剰にリッチになりづらくなる。したがって、燃料噴射1回当たりに燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量を、空燃比を可燃空燃比とする量よりも少ない範囲で徐々に多くすれば、より確実に短い機関始動時間を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の概略図である。
図2図2は、増量補正係数を算出するマップの一例を示している。
図3図3は、減量補正係数を算出するマップの一例を示している。
図4図4は、始動時水温が閾値水温よりも低いときのアルコール濃度と始動時噴射量との関係を示している。
図5図5は、始動時水温が閾値水温よりも高いときのアルコール濃度と始動時噴射量との関係を示している。
図6図6は、機関温度と蒸発率との関係を示している。
図7図7は、始動時水温とエタノール濃度75%の混合燃料の蒸発燃料比率との関係を示している。
図8図8は、始動時の1サイクル目から2サイクル目に持ち越される燃料に関して説明するための図である。
図9図9は、始動時水温が−25℃であるときの混合燃料使用時の始動期間中の機関回転数の時間変化を示している。
図10図10は、従来ガソリン制御、従来混合燃料制御、および、第1実施形態の制御によるクランキング期間、始動燃焼期間、および、暖機運転期間中の筒内温度、燃料噴射量、筒内空燃比および機関回転数の推移を示している。
図11図11は、第1実施形態の始動開始フローを示している。
図12図12は、第1実施形態の燃料噴射制御フローを示している。
図13図13は、第1実施形態の始動完了判定フローを示している。
図14図14(A)は第1実施形態の制御による燃料噴射量の推移を示し、図14(B)は第2実施形態の制御による燃料噴射量の推移を示し、図14(C)は第3実施形態の制御による燃料噴射量の推移を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下で説明する内燃機関は、4サイクル・火花点火式・多気筒(直列4気筒)機関である。但し、本発明は、他の形式の機関にも適用することができる。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態の燃料噴射制御装置が適用された内燃機関10を示している。内燃機関(以下、単に「機関」)10は、機関本体部20と、吸気系統30と、排気系統40と、を具備する。
【0016】
機関本体部20は、シリンダブロック部及びシリンダヘッド部を含む。機関本体部20は、複数の気筒(燃焼室)21を備える。各気筒は、吸気ポート(図示せず)及び排気ポート(図示せず)と連通している。吸気ポートと燃焼室21との連通部は、吸気弁(図示せず)により開閉される。排気ポートと燃焼室21との連通部は、排気弁(図示せず)により開閉される。各気筒21には、点火プラグ(図示せず)が配設されている。
【0017】
吸気系統30は、インテークマニホールド31、吸気管32、複数の燃料噴射弁(燃料噴射部)33、及び、スロットル弁34を備えている。インテークマニホールド31は、複数の枝部31aとサージタンク31bとを備える。各枝部31aの一端は、それぞれ対応する吸気ポートに接続されている。各枝部31aの他端は、サージタンク31bに接続されている。吸気管32の一端は、サージタンク31bに接続されている。吸気管32の他端には、エアフィルタ(図示せず)が配設されている。吸気ポート、インテークマニホールド31及び吸気管32は、吸気通路を構成している。
【0018】
燃料噴射弁33は、各吸気ポートに設けられている。すなわち、燃料噴射弁33は、各気筒21に対応して一つずつ配設されている。スロットル弁34は、吸気管32内に回動可能に配設されている。スロットル弁34は、吸気通路の開口断面積を可変とするようになっている。スロットル弁34は、スロットル弁アクチュエータ(図示せず)により吸気管32内で回転駆動される。
【0019】
排気系統40は、エキゾーストマニホールド41、排気管42、及び、触媒43を備える。エキゾーストマニホールド41は、複数の枝部41aと集合部41bとを備える。各枝部41aの一端は、それぞれ対応する排気ポートに接続されている。各枝部41aの他端は、集合部41bに集合している。集合部41bは、複数(第1実施形態では、4つ)の気筒から排出された排ガスが集合する部分である。以下、集合部41bは、排気集合部HKとも称呼される。排気管42は、集合部41bに接続されている。排気ポート、エキゾーストマニホールド41及び排気管42は、排気通路を構成している。触媒43は、排気管42に配設されている。触媒43は、そこに流入する排ガス中の特定成分を浄化する。
【0020】
機関10は、熱線式エアフローメータ51、スロットルポジションセンサ52、水温センサ53、クランクポジションセンサ54、インテークカムポジションセンサ55、アクセル開度センサ58、及び、アルコール濃度センサ59を備える。
【0021】
エアフローメータ51は、吸入空気量(すなわち、吸気管32内を流れる吸入空気の質量流量)Gaに応じた信号を出力する。ここで、吸入空気量Gaは、単位時間当たりに機関10に吸入される吸入空気量を表す。スロットルポジションセンサ52は、スロットル弁開度(すなわち、スロットル弁34の開度)TAに応じた信号を出力する。水温センサ53は、水温(すなわち、機関10の冷却水の温度)THWに応じた信号を出力する。水温THWは、機関温度を代表するパラメータである。
【0022】
クランクポジションセンサ54は、クランク軸が10°回転する毎に幅狭のパルスを有する信号を出力するとともに、クランク軸が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力する。これら信号に基づいて、後述する電子制御装置70によって機関回転数NEが算出される。インテークカムポジションセンサ55は、インテークカムシャフトが所定角度から90度、次いで90度、さらに180度回転する毎に一つのパルスを出力する。後述する電子制御装置70は、クランクポジションセンサ54及びインテークカムポジションセンサ55からの信号に基づいて、基準気筒(たとえば、第1気筒)の圧縮上死点を基準とした絶対クランク角度CAを取得する。この絶対クランク角度CAは、基準気筒の圧縮上死点において「0°クランク角度」に設定され、クランク軸の回転角度に応じて720°クランク角度まで増大し、その時点にて再び0°クランク角度に設定される。
【0023】
排ガスセンサ56は、エキゾーストマニホールド41の集合部41b(排気集合部HK)と触媒43との間の位置において、「エキゾーストマニホールド41及び排気管42の何れか」に配設されている。排ガスセンサ56は、排ガス中の酸素濃度を検出する起電力式の酸素濃度センサである。アクセル開度センサ58は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの操作量Accp(アクセルペダル操作量、アクセルペダルAPの開度)に応じた信号を出力する。アクセルペダル操作量Accpは、アクセルペダルAPの操作量が大きくなるとともに大きくなる。
【0024】
アルコール濃度センサ59は、複数の燃料噴射弁33と燃料タンク(図示せず)とを接続する燃料供給管FPに配設されている。アルコール濃度センサ59は、燃料中のアルコール濃度(本実施形態では、エタノール濃度)に応じた信号Eを出力する。アルコール濃度センサ59は、燃料の誘電率に基づいてアルコール濃度を検出する静電容量式のセンサであってもよいし、燃料の屈折率及び透過率等に基づいてアルコール濃度を検出する光学式のセンサであってもよい。
【0025】
また、機関10は、スタータ61、及び、イグニッション・キー・スイッチ(IG−SW)62を備える。スタータ61は、機関10を外部から駆動して自力回転の補助をするものである。
【0026】
電子制御装置70は、「CPU、CPUが実行するプログラム、テーブル(マップ、関数)及び定数等を予め記憶したROM、CPUが必要に応じてデータを一時的に格納するRAM、バックアップRAM、並びに、ADコンバータを含むインターフェース等」からなる周知のマイクロコンピュータである。上記センサは、電子制御装置70に接続されている。また、電子制御装置70は、点火プラグ、燃料噴射弁33、及び、スロットル弁アクチュエータ52に接続されている。
【0027】
電子制御装置70は、目標タイミングにおいて混合気が点火プラグによって着火されるように点火プラグを駆動する。また、電子制御装置は、目標タイミングにおいて目標量の燃料が燃料噴射弁33から噴射されるように燃料噴射弁33を駆動する。また、電子制御装置70は、アクセルペダル操作量Accpが大きくなるほどスロットル弁開度TAが大きくなるようにスロットル弁アクチュエータ52を駆動する。また、電子制御装置70は、イグニッション・キー・スイッチ62からのスタータ動作要求信号を受信するとスタータ61を駆動する。
【0028】
燃料噴射制御装置80は、燃料噴射弁33及び電子制御装置70を備える。電子制御装置70は、CPUの内部に燃料噴射量制御部71を備える。燃料噴射制御装置80は、燃料噴射量制御部71により決定された燃料噴射量に基づいて燃料噴射弁33を制御する。
【0029】
(始動期間中の燃料噴射制御)
次に、始動期間中の燃料噴射制御について説明する。なお、始動期間とは、機関10のクランキング開始から始動完了までの期間である。具体的には、始動期間とは、クランキング開始から、機関回転数が始動完了回転数に到達するまでの期間、または、クランキング開始から、機関回転数が始動完了回転数に到達してから所定サイクルが経過するまでの期間である。また、以下の説明において、アルコール濃度は、混合燃料中のアルコール濃度を意味する。また、クランキング期間とは、クランキング開始から初爆発生までの期間である。
【0030】
第1実施形態では、ガソリン使用時(すなわち、機関10を駆動する燃料としてガソリンが使用される時)において所望の始動性の確保に必要な目標燃料噴射量が基準始動時噴射量Qbとして電子制御装置70に記憶されている。
【0031】
また、混合燃料使用時(すなわち、機関10を駆動する燃料として混合燃料が使用される時)においてガソリン使用時のクランキング期間と同等なクランキング期間を確保するために基準始動時噴射量Qbを増量する係数が始動時水温とアルコール濃度とに応じて予め実験等によって求められ、これら求められた係数が図2に示されているように始動時水温とアルコール濃度との関数のマップの形で増量補正係数として電子制御装置70に記憶されている。
【0032】
また、混合燃料使用時において所望の始動性を確保するために上記増量補正係数を減少させる係数が始動時水温とアルコール濃度とに応じて予め実験等によって求められ、これら求められた係数が図3に示されているように始動時水温とアルコール濃度との関数のマップの形で減量補正係数として電子制御装置70に記憶されている。
【0033】
そして、始動期間中、始動時水温とアルコール濃度とに基づいて図2のマップから増量補正係数が算出されるとともに、始動時水温とアルコール濃度とに基づいて図3のマップから減量補正係数が算出される。そして、減量補正係数を増量補正係数に乗算することによって得られる値が基準始動時噴射量Qbに乗算される。これにより、混合燃料使用時の始動時噴射量(すなわち、始動期間中の目標燃料噴射量)が算出される。そして、斯くして算出される始動時噴射量の燃料が所定のタイミングにて噴射されるように燃料噴射弁33が作動せしめられる。
【0034】
(増量補正係数)
なお、増量補正係数は、始動時水温が高いほど小さい値となる傾向にある。また、増量補正係数は、アルコール濃度が0%であるときに「1」であり、アルコール濃度が0%よりも高いときに「1」よりも大きい値であり、アルコール濃度が高いほど大きい値となる。
【0035】
(減量補正係数)
また、減量補正係数は、始動時水温が閾値水温THWth以下であり且つアルコール濃度が閾値濃度以下であるときに「1」であり、始動時水温が前記閾値水温THWth以下であり且つアルコール濃度が前記閾値濃度よりも高いときには「0」よりも大きく且つ「1」よりも小さい値であり、始動時水温が前記閾値水温THWth以下の一定温度である条件下においてアルコール濃度が高くなるほど小さい値となる。より具体的には、減量補正係数は、始動時水温が閾値水温以下であり且つアルコール濃度が閾値濃度以下であるときに、クランキング開始後の最初の燃料噴射において、筒内空燃比が可燃範囲内の空燃比(すなわち、筒内に蒸発した燃料が燃焼する範囲の空燃比であり、以下「可燃空燃比」)よりもリーンな空燃比になる程度の始動時噴射量が算出される値になっている。
【0036】
なお、減量補正係数は、始動時水温が前記閾値水温THWthよりも高いときには「1」である。また、前記閾値濃度は、始動時水温に応じて定まる濃度であり、図3において始動時水温に応じて実線L1で示されているライン上で変化する濃度であり、より具体的には、始動時水温が低いほど低い濃度となる。
【0037】
(アルコール濃度と始動時噴射量との関係1)
第1実施形態によれば、混合燃料使用時において始動時水温が前記閾値水温THWthよりも高いときには、始動期間中におけるアルコール濃度と始動時噴射量との関係は、図4に示されている関係となる。
【0038】
すなわち、アルコール濃度が0%であるときには、混合燃料はガソリンのみの燃料であるので、始動時噴射量は、ガソリン使用時の始動時噴射量と同じ量(すなわち、基準始動時噴射量)Qbである。そして、アルコール濃度が0%から或る濃度(以下「第1濃度」)C1までの範囲内の濃度であるときには、始動時噴射量は、アルコール濃度の上昇に伴って基準始動時噴射量Qbから或る量(以下「第1始動時噴射量」)Q1まで一次関数的に増大する。そして、アルコール濃度が第1濃度C1よりも高いときには、始動時噴射量は、アルコール濃度の上昇に伴って第1始動時噴射量Q1から二次関数的に増大する。
【0039】
したがって、言い方を変えれば、増量補正係数および減量補正係数は、始動時水温が前記閾値水温THWthよりも高いときには、始動期間中において、アルコール濃度と目標燃料噴射量との関係を図4に示されている関係とする値に定められているとも言える。
【0040】
なお、アルコール濃度の上昇に伴う始動時噴射量の増量分は、気化潜熱増量分と蒸発率増量分との合計である。ここで、気化潜熱増量分とは、アルコールの高い気化潜熱に起因する発熱量不足を補うための増量分である。すなわち、アルコールの気化潜熱は、ガソリンの気化潜熱よりも高い。このアルコールの高い気化潜熱に起因して、混合燃料使用時の発熱量は、ガソリン使用時の発熱量よりも小さくなる。こうしたアルコールの高い気化潜熱に起因する発熱量不足を補うための増量分が気化潜熱増量分である。一方、蒸発率増量分とは、アルコールの低い蒸発率に起因する発熱量不足を補うための増量分である。すなわち、アルコールの蒸発率は、ガソリンの蒸発率よりも低い。このアルコールの低い蒸発率に起因して、混合燃料使用時の発熱量は、ガソリン使用時の発熱量よりも小さくなる。こうしたアルコールの低い蒸発率に起因する発熱量不足を補うための増量分が蒸発率増量分である。
【0041】
なお、図4に示されている例では、気化潜熱増量分は、アルコール濃度が0%であるときには「0」であり、アルコール濃度の上昇に伴って一次関数的に増大する。一方、蒸発率増量分は、アルコール濃度が0%から第1濃度C1までの範囲内にあるときには「0」であり、アルコール濃度が第1濃度C1よりも高いときには、アルコール濃度の上昇に伴って二次関数的に増大する。したがって、第1濃度C1は、蒸発率増量分が発生するアルコール濃度のうち最も小さい濃度であると言える。
【0042】
(アルコール濃度と始動時噴射量との関係2)
一方、第1実施形態によれば、混合燃料使用時において、始動時水温が前記閾値水温THWthよりも低いときには、始動期間中におけるアルコール濃度と目標燃料噴射量との関係は、図5に示されている関係となる。
【0043】
すなわち、アルコール濃度が0%であるときには、混合燃料はガソリンのみの燃料であるので、始動時噴射量は、基準始動時噴射量(すなわち、ガソリン使用時の始動時噴射量)Qbである。そして、アルコール濃度が0%から或る濃度(以下「第1濃度」)C1までの範囲内の濃度であるときには、始動時噴射量は、アルコール濃度の上昇に伴って基準始動時噴射量Q0から或る量(以下「第1始動時噴射量」)Q1まで一次関数的に増大する。そして、アルコール濃度が第1濃度C1から或る濃度(第1濃度C1よりも高い濃度であり、以下「第2濃度」)C2までの範囲内の濃度であるときには、始動時噴射量は、アルコール濃度の上昇に伴って第1始動時噴射量Q1から或る量(以下「第2始動時噴射量」)Q2まで二次関数的に増大する。そして、アルコール濃度が第2濃度C2よりも高いときには、始動時噴射量は、アルコール濃度の上昇に伴って第2始動時噴射量Q2から逆二次関数的に増大する。つまり、アルコール濃度が第2濃度C2よりも高いときの始動時噴射量の増大率は、アルコール濃度が第1濃度C1と第2濃度C2との間の範囲内の濃度であるときの始動時噴射量の増大率よりも小さい。
【0044】
したがって、言い方を変えれば、増量補正係数および減量補正係数は、始動時水温が前記閾値水温THWthよりも低いときには、始動期間中において、アルコール濃度と目標燃料噴射量との関係を図3に示されている関係とする値に定められている。
【0045】
なお、図5に示されている例では、気化潜熱増量分は、アルコール濃度が0%であるときには「0」であり、アルコール濃度の上昇に伴って一次関数的に増大する。一方、蒸発率増量分は、アルコール濃度が0%であるときには「0」であり、アルコール濃度が0%から第1濃度C1までの範囲内にあるときには、アルコール濃度の上昇に伴って一次関数的に増大し、アルコール濃度が第1濃度C1から第2濃度C2までの範囲内にあるときには、アルコール濃度の上昇に伴って二次関数的に増大し、アルコール濃度が第2濃度C2よりも高いときには、アルコール濃度の上昇に伴って逆二次関数的に増大する。したがって、第1濃度C1は、蒸発率増量分がアルコール濃度の上昇に対して一次関数的に増大するアルコール濃度の領域と二次関数的に増大するアルコール濃度の領域との境界となる濃度であると言える。また、第2濃度C2は、蒸発率増量分がアルコール濃度の上昇に対して二次関数的に増大するアルコール濃度の領域と逆二次関数的に増大するアルコール濃度の領域との境界となる濃度であると言える。
【0046】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態によれば、混合燃料を使用する内燃機関において、短い機関始動時間を達成することができる。以下、その理由について説明する。なお、以下では、混合燃料中のアルコールがエタノールであり、その濃度が75%である場合を例に理由を説明する。また、始動時間とは、クランキング開始から始動完了までにかかる時間である。
【0047】
(エタノールとガソリンの蒸発特性)
図6は、機関温度(機関の冷却水温度)とエタノールの蒸発率との関係、および、機関温度とガソリンの蒸発率との関係を示している。なお、蒸発率は、燃料の総量に対する蒸発燃料の割合である。
【0048】
図6に示されているように、エタノールの蒸発率は、機関温度が約−15℃よりも低い場合、略0%であり、機関温度が約−15℃から約50℃までの範囲にある場合であっても、数%である。そして、エタノールの蒸発率は、機関温度が約50℃に達すると上昇し始め、その後、機関温度が高くなるにつれて約10%に向けて徐々に上昇する。そして、エタノールの蒸発率は、機関温度がエタノールの沸点である78℃に達すると95%まで一気に上昇し、その後、機関温度が高くなるにつれて100%に向けて上昇する。そして、エタノールの蒸発率は、機関温度が約175℃に達すると100%に達する。
【0049】
図6には表されていないが、−15℃程度の極低温においても、実際には、わずかにエタノールは蒸発する。これは、点火までの期間(吸気行程から圧縮行程の期間)に圧縮熱により筒内温度が上昇し、このとき燃料噴射弁から噴射された燃料が燃焼室内に流入し、前記圧縮熱のエネルギーを受けてエタノールが蒸発しているためと考えられる。
【0050】
一方、ガソリンは数百もの炭化水素成分の混合燃料であるため、機関温度が約−15℃よりも低い場合にも蒸発可能な成分が含まれている。そのため、ガソリンの蒸発率は、機関温度が約−15℃以下の極低温域から、機関温度の上昇に伴い、ほぼ比例的に上昇していく。そして、ガソリンの蒸発率は、機関温度が約175℃に達すると100%に達する。
【0051】
(始動時水温と蒸発燃料比率)
このようにエタノールの蒸発特性とガソリンの蒸発特性との違いから、始動時水温と蒸発燃料比率との関係は、図7に示されている関係になる。なお、蒸発燃料比率とは、混合燃料のうち蒸発した燃料に占めるエタノールまたはガソリンの比率である。
【0052】
図7に例示されているように、エタノール濃度が75%の燃料の蒸発燃料比率は、始動時水温が25℃であるときには約60%であり、始動時水温が−7℃であるときには約25%であり、始動時水温が−15℃であるときには約6%であり、始動時水温が−25℃であるときには略0%である。始動時水温が−25℃であるときには、エタノールの蒸発は僅かであるので、混合燃料使用時のクランキング時間をガソリン使用時のクランキン時間と同等にするには、ガソリン使用時の始動時噴射量に対して、少なくとも、混合燃料使用時の始動時噴射量を多くする必要がある。(図8および図8の説明を削除。)
【0053】
(始動時噴射量とクランキング期間)
ところが、本願の発明者の研究により、従来のように、混合燃料使用時の始動時噴射量をガソリン使用時の始動時噴射量(以下「第1所定量」)よりも大幅に多くすることは、所望の始動性の確保の観点からは好ましくないことが判明している。すなわち、始動時水温が−25℃であり、且つ、ガソリン使用時の始動時噴射量よりも大幅に多い始動時噴射量(以下「第2所定量」)の混合燃料が燃料噴射弁33から噴射されたとしても、クランキング開始後の1サイクル目の吸気行程において噴射された混合燃料のうち蒸発する燃料は、図8に示されているように、ほとんどがガソリンである。したがって、残りのガソリンと略全てのエタノールは、1サイクル目の膨張行程において燃焼せず、筒内に残留する。そして、この残留した燃料は、1サイクル目の排気行程において排気通路に排出されるか、または、図8に示されているように、筒内に残留したまま2サイクル目に持ち越される。
【0054】
そして、2サイクル目の吸気行程において、ガソリン使用時の始動時噴射量よりも大幅に多い量(第2所定量)の混合燃料が噴射されると、1サイクル目から2サイクル目に持ち越された混合燃料が加わり、筒内空燃比が想定空燃比(すなわち、1サイクル目から2サイクル目に混合燃料が持ち越されない場合の空燃比)よりもリッチになる。しかも、2サイクル目においては、1サイクル目の燃焼によって筒内温度が少なからず上昇しているので、混合燃料の蒸発率も上昇している。このため、筒内空燃比は、想定空燃比よりも過剰にリッチになる。その結果、蒸発燃料の燃焼性が低下し、出力トルクが想定トルク(すなわち、筒内空燃比が想定空燃比である場合の出力トルク)よりも小さくなってしまう。このため、機関回転数が想定回転数(すなわち、筒内空燃比が想定空燃比である場合の機関回転数)まで上昇しないばかりか、ほとんど上昇しないことになる。そして、2サイクル目においても、1サイクル目と同様に、混合燃料の一部が3サイクル目に持ち越される。そして、こうした現象が3サイクル目以降も継続する。
【0055】
このため、機関回転数は、図9に参照符号AおよびBで示されているように、想定通りには上昇しないばかりか、ほとんど上昇せず、その結果、始動時間が長くなってしまう。
【0056】
なお、図9は、イグニッション・キー・スイッチがオンにされた時点が時刻0であり、その1秒間は、気筒判別などの初期状態の検出が行われ、時刻0から1秒後にクランキングが開始され、時刻0から2秒後に初爆が発生した例を示している。
【0057】
(第1実施形態による始動性)
一方、第1実施形態によれば、始動時水温が−25℃である場合、始動期間中、混合燃料の始動時噴射量は、前記第2所定量よりも少ない量(以下「第3所定量」)に設定される。この第3所定量は、上述したように、クランキング開始後の最初の燃料噴射において筒内空燃比が可燃空燃比よりもリーンな空燃比となる量である。したがって、1サイクル目では、初爆は起こらない。しかしながら、1サイクル目から2サイクル目に持ち越される混合燃料の量が少ない。このため、2サイクル目以降、前サイクルから持ち越される燃料が少なく且つ現サイクルでの始動時噴射量が少ないため、いずれかのサイクルにおいて筒内空燃比が可燃空燃比よりもリッチになる前に、いずれかのサイクルにおいて筒内空燃比が可燃空燃比となり、その後も継続して筒内空燃比が可燃空燃比に維持される。その結果、機関回転数が継続的に上昇するので、短い始動時間が達成されるのである。
【0058】
(始動時間の比較)
第1実施形態の制御、従来ガソリン制御、および、従来混合燃料制御での始動時間について、図10を参照しつつ説明する。図10は、第1実施形態の制御、従来ガソリン制御、および、従来混合燃料制御における筒内温度、燃料噴射量、筒内空燃比および機関回転数の推移を示している。なお、図10において、実線(I)は第1実施形態の制御における推移、一点鎖線(G)は従来ガソリン制御における推移、点線(P)は従来混合燃料制御における推移を示している。また、始動時水温は−25℃である。また、いずれの場合も、時刻T0において、クランキングが開始され、時刻T4において、最初の燃料噴射が行われる。また、最初の燃料噴射が行われるサイクルが1サイクル目である。また、以下の説明において、始動完了までの燃料噴射量は、上述した始動時噴射量に相当する。
【0059】
(1)従来ガソリン制御
従来ガソリン制御によれば、1サイクル目(=時刻T4)では、噴射量Q3の燃料が噴射される。このとき、筒内温度は極低温であるものの、ガソリンの蒸発率は比較的高いので、筒内空燃比が可燃範囲内の空燃比(すなわち、蒸発燃料が燃焼する範囲の空燃比であり、以下「可燃空燃比」)となる。このため、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼し、初爆FEaが起こる。そして、この初爆によって機関回転数および筒内温度が大きく上昇する。なお、参照符号CRaは、クランキングの開始時刻T0から初爆の発生時刻T4までの期間を示しており、この期間は、従来ガソリン制御でのクランキング期間である。
【0060】
次いで、2サイクル目(=時刻T5)においても、噴射量Q3の燃料が噴射される。ガソリン使用時は、1サイクル目から2サイクル目に持ち越される燃料はほとんどない。したがって、2サイクル目においても、筒内空燃比が可燃空燃比となるので、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼する。したがって、機関回転数および筒内温度が上昇する。
【0061】
そして、3サイクル目(=時刻T6)において、機関回転数が始動完了回転数NEth(たとえば、700rpm)に到達する。これ以降も、燃料噴射量は噴射量Q3に維持され、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼するので、機関回転数は始動完了回転数に安定的に維持される。
【0062】
そして、機関回転数が始動完了回転数NEthに到達してから所定サイクルが経過するまで(すなわち、3サイクル目から5サイクル目まで)機関回転数が始動完了回転数に安定的に維持されているので、5サイクル目(=時刻T8)において、始動が完了したものと判断される。なお、参照符号PSaは、初爆FEaの発生時刻T4から始動完了時刻T8までの期間を示しており、この期間が従来ガソリン制御での始動燃焼期間である。
【0063】
そして、始動が完了したものと判断されると、燃料噴射量は、機関回転数をアイドル回転数NEid(すなわち、自立運転可能な回転数)に安定的に維持するために必要な噴射量Q2とされる。ここで、噴射量Q2は、噴射量Q3よりも少ない。つまり、始動燃焼期間後は、燃料噴射量が少なくされる。しかしながら、燃料噴射量が少なくされたとしても、筒内温度が高いこともあり、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼するので、機関回転数および筒内温度が徐々に上昇する。
【0064】
そして、9サイクル目(=時刻T12)において、機関回転数がアイドル回転数NEidに到達する。これ以降も、燃料噴射量は噴射量Q2に維持され、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼する。したがって、機関回転数はアイドル回転数に安定的に維持される。
【0065】
そして、機関回転数がアイドル回転数NEidに到達してから所定サイクルが経過するまで(すなわち、9サイクル目から15サイクル目まで)機関回転数がアイドル回転数に安定的に維持されているので、15サイクル目(=時刻T18)において、運転状態が通常運転状態に移行される。なお、参照符号WUaは、始動完了時刻T8から通常運転状態への移行時刻T18までの期間を示しており、この期間が従来ガソリン制御での暖機運転期間である。
【0066】
(2)従来混合燃料制御
従来混合燃料制御によれば、1サイクル目(=時刻T4)では、噴射量Q12の燃料が噴射される。ここで、噴射量Q12は、従来ガソリン制御での1サイクル目の噴射量Q3よりも大幅に多い。
【0067】
1サイクル目では、筒内温度は極低温であり且つ混合燃料の蒸発率は低いものの、大幅に多い量の燃料が噴射されるので、筒内空燃比は可燃空燃比となる。このため、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼し、初爆FEbが起こる。この初爆によって機関回転数および筒内温度が大きく上昇する。なお、参照符号CRbは、クランキングの開始時刻T0から初爆の発生時刻T4までの期間を示しており、この期間は、従来混合燃料制御でのクランキング期間である。
【0068】
次いで、2サイクル目(=時刻T5)においても、噴射量Q12の燃料が噴射される。従来混合燃料制御では、1サイクル目の燃料噴射量が大幅に多いことから1サイクル目から2サイクル目に持ち越される燃料が多く、且つ、2サイクル目の燃料噴射量も大幅に多いので、2サイクル目では、筒内空燃比が可燃空燃比とはならない。具体的には、筒内空燃比は、可燃範囲の下限値よりも小さい空燃比、すなわち、過剰にリッチな空燃比となってしまう。したがって、2サイクル目では、蒸発燃料が燃焼するものの、その燃焼性は低い。したがって、機関回転数が上昇せず、また、筒内温度はほとんど上昇しない。
【0069】
次いで、3サイクル目(=時刻T6)においても、噴射量Q12の燃料が噴射される。このときにも、2サイクル目から3サイクル目に持ち越される燃料が多く、且つ、3サイクル目の燃料噴射量も大幅に多いので、筒内空燃比が可燃空燃比とはならない。したがって、蒸発燃料が燃焼するものの、その燃焼性は低い。したがって、機関回転数は上昇せず、また、筒内温度はほとんど上昇しない。
【0070】
4サイクル目以降も、燃料噴射量が噴射量Q12に維持される。このため、筒内空燃比は可燃空燃比とはならず、蒸発燃料が低い燃焼性でしか燃焼しないので、機関回転数は上昇しない。しかしながら、蒸発燃料は少なからず燃焼するので、筒内温度は徐々に上昇し、7サイクル目(=時刻T10)において、筒内温度がエタノール成分の沸点Tbpに到達する。すると、7サイクル目において、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼する。したがって、機関回転数が上昇する。もちろん、筒内温度も上昇する。
【0071】
8サイクル目(=時刻T11)以降も、燃料噴射量は噴射量Q12に維持されるが、筒内空燃比は可燃空燃比となるので、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼し、機関回転数および筒内温度が上昇する。なお、7サイクル目で筒内温度がエタノール成分の沸点に到達し、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼するので、7サイクル目から8サイクル目に持ち越される燃料は少ない。
【0072】
そして、9サイクル目(=時刻T12)において、機関回転数が始動完了回転数NEthに到達する。これ以降も、燃料噴射量は噴射量Q12に維持され、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼するので、機関回転数が始動完了回転数に安定的に維持される。
【0073】
そして、機関回転数が始動完了回転数NEthに到達してから所定サイクルが経過するまで(すなわち、9サイクル目から10サイクル目まで)機関回転数が始動完了回転数に安定的に維持されているので、10サイクル目(=時刻T13)において、始動が完了したものと判断される。なお、参照符号PSbは、初爆FEbの発生時刻T4から始動完了時刻T13までの期間を示しており、この期間が従来混合燃料制御での始動燃焼期間である。
【0074】
そして、始動が完了したものと判断されると、燃料噴射量は、機関回転数をアイドル回転数NEidに安定的に維持するために必要な噴射量Q4とされる。ここで、噴射量Q4は、噴射量Q12よりも少ない。つまり、始動燃焼期間後は、燃料噴射量が少なくされる。しかしながら、燃料噴射量が少なくされたとしても、筒内温度が高いこともあり、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼する。したがって、機関回転数は徐々に上昇する。
【0075】
そして、15サイクル目(=時刻T18)において、機関回転数がアイドル回転数NEidに到達する。これ以降も、燃料噴射量は噴射量Q4に維持され、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼するので、機関回転数がアイドル回転数に安定的に維持される。
【0076】
そして、機関回転数がアイドル回転数NEidに到達してから所定サイクルが経過するまで(すなわち、15サイクル目から20サイクル目まで)機関回転数がアイドル回転数に安定的に維持されているので、20サイクル目(=時刻T23)において、運転状態が通常運転状態に移行される。なお、参照符号WUbは、始動完了時刻T13から通常運転状態への移行時刻T23までの期間を示しており、この期間が従来混合燃料制御での暖機運転期間である。
【0077】
(3)第1実施形態の制御
第1実施形態の制御によれば、1サイクル目(=時刻T4)では、噴射量Q6の燃料が噴射される。ここで、噴射量Q6は、従来ガソリン制御での1サイクル目の噴射量Q3よりも多く、従来混合燃料制御での1サイクル目の噴射量Q12よりも少ない。
【0078】
1サイクル目では、筒内温度は極低温であり且つ混合燃料の蒸発率は低く、しかも、燃料噴射量が少ないので、筒内空燃比は可燃空燃比とはならない。具体的には、可燃範囲の上限値よりも大きい空燃比(すなわち、リーンな空燃比)となる。したがって、1サイクル目では、蒸発燃料がほとんど燃焼せず、初爆は起こらず、機関回転数はさほど上昇しない。しかしながら、蒸発燃料は少なからず燃焼するので、筒内温度は上昇する。
【0079】
次いで、2サイクル目(=時刻T5)においても、噴射量Q6の燃料が噴射される。第1実施形態の制御では、1サイクル目の燃料噴射量が少ないことから1サイクル目から2サイクル目に持ち越される燃料が少なく、且つ、2サイクル目の燃料噴射量も少ないので、2サイクル目において筒内空燃比が可燃空燃比となる。したがって、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼し、初爆FEcが起こる。この初爆によって機関回転数および筒内温度が大きく上昇する。なお、参照符号CRcは、クランキングの開始時刻T0から初爆の発生時刻T5までの期間を示しており、この期間が第1実施形態の制御でのクランキング期間である。
【0080】
次いで、3サイクル目(=時刻T6)においても、噴射量Q6の燃料が噴射される。このときにも、2サイクル目から3サイクル目に持ち越される燃料は少ないので、筒内空燃比が可燃空燃比となる。したがって、蒸発燃料が高い燃焼性でもって燃焼するので、機関回転数および筒内温度が大きく上昇する。
【0081】
そして、4サイクル目(=時刻T7)において、機関回転数が始動完了回転数NEthに到達する。これ以降も、燃料噴射量は噴射量Q6に維持され、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼するので、機関回転数は始動完了回転数に安定的に維持される。
【0082】
そして、機関回転数が始動完了回転数NEthに到達してから所定サイクルが経過するまで(すなわち、4サイクル目から6サイクル目まで)機関回転数が始動完了回転数に安定的に維持されているので、6サイクル目(=時刻T9)において、始動が完了したものと判断される。なお、参照符号PScは、初爆FEbの発生時刻T5から始動完了時刻T9までの期間を示しており、この期間が第1実施形態の制御での始動燃焼期間である。また、図示した例では、筒内温度は、5サイクル目(=時刻T8)において、エタノール成分の沸点Tbpに近くなり、6サイクル目(=時刻T9)においてエタノール成分の沸点に達している。
【0083】
そして、始動が完了したものと判断されると、燃料噴射量は、機関回転数をアイドル回転数NEidに安定的に維持するために必要な噴射量Q4とされる。ここで、噴射量Q4は、噴射量Q6よりも少ない。つまり、始動燃焼期間後は、燃料噴射量が少なくされる。しかしながら、燃料噴射量が少なくされたとしても、筒内温度が比較的高いこともあり、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼する。したがって、機関回転数は徐々に上昇する。
【0084】
そして、10サイクル目(=時刻T13)において、機関回転数がアイドル回転数NEidに到達する。これ以降も、燃料噴射量は噴射量Q4に維持され、蒸発燃料は高い燃焼性でもって燃焼する。したがって、機関回転数はアイドル回転数に安定的に維持される。
【0085】
そして、機関回転数がアイドル回転数NEidに到達してから所定サイクルが経過するまで(すなわち、10サイクル目から16サイクル目まで)機関回転数がアイドル回転数に安定的に維持されているので、16サイクル目(=時刻T19)において、運転状態が通常運転状態に移行される。なお、参照符号WUcは、始動完了時刻T9から通常運転状態への移行時刻T19までの期間を示しており、この期間が第1実施形態の制御での暖機運転期間である。
【0086】
このように、第1実施形態によれば、始動完了時刻(=時刻T9)は、従来ガソリン制御での始動完了時刻(=時刻T8)よりも遅いものの、従来混合燃料制御での始動完了時刻(=時刻T13)よりも大幅に早い。また、始動燃焼期間PScは、従来ガソリン制御での始動燃焼期間PSaと同じであり、従来混合燃料制御での始動燃焼期間PSbよりも大幅に短い。したがって、第1実施形態の制御での始動時間は、従来ガソリン制御での始動時間よりも若干長いものの、従来混合燃料制御での始動時間よりも大幅に短い。
【0087】
(第1実施形態の始動開始フロー)
第1実施形態の始動開始フローの一例について説明する。このフローの一例が図11に示されている。CPUは、図11の始動開始ルーチンを、CPUの割り込み要求の時間間隔に同期して定期的に繰り返し実行する。CPUは、所定タイミングにおいて、ステップ10から処理を開始し、ステップ11において、イグニッションIGの状態がオフからオンに変化したか否かを判定する。なお、イグニッションIGの状態は、機関10を始動させるためにイグニッション・キー・スイッチ62が操作されるとオフからオンに変化する。
【0088】
ステップ11において、イグニッションIGの状態がオフからオンに変化したときには、CPUは、「Yes」と判定し、ステップ12〜ステップ15の処理を順に行い、ステップ16に進んで、本ルーチンを一旦終了する。
【0089】
すなわち、CPUは、ステップ12において、スタータ61を作動することによってクランキングを開始する(STon)。次いで、CPUは、ステップ13において、始動時水温THWを取得する。次いで、CPUは、ステップ14において、アルコール濃度Eを取得する。次いで、CPUは、ステップ15において、始動完了フラグをリセットする(XST←0)。
【0090】
一方、ステップ11において、イグニッションIGの状態がオフからオンに変化していないときには、CPUは、「No」と判定し、ステップ16に進んで、本ルーチンを終了する。
【0091】
(第1実施形態の燃料噴射制御フロー)
第1実施形態の燃料噴射制御フローの一例について説明する。このフローの一例が図12に示されている。CPUは、図12のルーチンを、任意の気筒のクランク角度が吸気上死点前の所定クランク角度となる毎に、その気筒に対して繰り返し実行する。前記所定クランク角度とは、たとえば、吸気下死点前90°クランク角度である。クランク角度が前記所定クランク角度に一致した気筒は「燃料噴射気筒」とも称呼される。CPUは、この燃料噴射制御ルーチンにより、指示燃料噴射量Qiの算出及び燃料噴射の指示を行う。
【0092】
任意の気筒のクランク角度が吸気上死点前の所定のクランク角度と一致すると、CPUは、ステップ20から処理を開始し、ステップ21において、始動完了フラグがリセットされている(XST=0)か否かを判定する。XST=0であれば、CPUは「Yes」と判定し、ステップ22〜ステップ25の処理を順に行い、ステップ27に進んで、本ルーチンを一旦終了する。
【0093】
すなわち、CPUは、ステップ22において、始動時水温THWとアルコール濃度Eとに基づいて図2のマップから増量補正係数Kiを算出する。次いで、CPUは、ステップ23において、始動時水温THWとアルコール濃度Eとに基づいて図3のマップから減量補正係数Kdを算出する。次いで、CPUは、ステップ24において、基準始動時噴射量Qbに増量補正係数Kiと減量補正係数Kdとを乗算することによって始動時噴射量Qsを算出する。次いで、CPUは、ステップ25において、始動時噴射量Qsの燃料を燃料噴射弁33から噴射させるための指示信号を燃料噴射弁33に送信する。
【0094】
一方、ステップ21において、XST=1であるときには、CPUは、「No」と判定し、ステップ26およびステップ25の処理を順に行い、ステップ27に進んで、本ルーチンを一旦終了する。
【0095】
すなわち、CPUは、ステップ26において、通常の目標燃料噴射量Qnを算出する。ここで、通常の目標燃料噴射量Qnとは、始動期間以外の期間において、機関回転数と機関負荷とに応じて決定される目標燃料噴射量である。次いで、CPUは、ステップ25において、目標燃料噴射量Qnの燃料を燃料噴射弁33から噴射させるための指示信号を燃料噴射弁33に送信する。
【0096】
(第1実施形態の始動完了判定フロー)
第1実施形態の始動完了判定フローの一例について説明する。このフローの一例が図13に示されている。CPUは、図13のルーチンを、CPUの割り込み要求の時間間隔に同期して定期的に繰り返し実行する。CPUは、所定のタイミングにおいて、ステップ30から処理を開始し、ステップ31において、機関回転数NEを取得する。
【0097】
次いで、CPUは、ステップ32において、ステップ31で取得した機関回転数NEが所定回転数NEth(たとえば、700rpm)以上である(NE≧NEth)か否かを判定する。ここで、NE≧NEthであるときには、CPUは、「Yes」と判定し、ステップ33および34の処理を順に行い、ステップ35に進んで、本ルーチンを一旦終了する。
【0098】
すなわち、CPUは、ステップ33において、始動完了フラグXSTをセットする(XST←1)。次いで、CPUは、ステップ34において、スタータ61の作動を停止することによってクランキングを終了する(SToff)。
【0099】
一方、ステップ32において、NE≧NEthではないときには、CPUは、「No」と判定し、ステップ35に進んで、本ルーチンを終了する。
【0100】
<第2実施形態および第3実施形態>
第2実施形態および第3実施形態について説明する。以下で説明されない第2実施形態の構成および制御は、それぞれ、第1実施形態の構成および制御と同じであるか、あるいは、以下で説明する第2実施形態の構成または制御に鑑みたときに第1実施形態の構成または制御から当然に導き出される構成および制御である。
【0101】
第2実施形態および第3実施形態の制御について説明する。第2実施形態の制御による燃料噴射量の推移が図14(B)に実線で示されており、第3実施形態の制御による燃料噴射量の推移が図14(C)に実線で示されている。なお、参考までに、第1実施形態の制御による燃料噴射量の推移が図14(A)に実線で示されている。また、各図において、一点鎖線は従来ガソリン制御による燃料噴射量の推移を示し、点線は従来混合燃料制御による燃料噴射量の推移を示している。これら推移は、図10に示されている推移と同じである。また、始動時水温は−25℃である。また、いずれの場合も、時刻T0において、クランキングが開始され、時刻T4において、最初の燃料噴射が行われる。また、最初の燃料噴射が行われるサイクルが1サイクル目である。
【0102】
また、図14において、燃料噴射量は、Q2<Q3<Q3.5<Q4<Q6<Q12の関係にある。ここで、噴射量Q3は、従来ガソリン制御での1サイクル目の燃料噴射量であり、噴射量Q12は、従来混合燃料制御での1サイクル目の燃料噴射量である。
【0103】
<第2実施形態の制御>
第2実施形態の制御によれば、図14(B)に示されているように、1サイクル目(=時刻T4)では、噴射量Q3.5の燃料が噴射される。2サイクル目(=時刻T5)では、噴射量Q6の燃料が噴射される。つまり、燃料噴射量が多くされる。第1実施形態と同様に、1サイクル目では、燃料噴射量が少ないので、筒内空燃比は可燃空燃比とはならず、初爆は起こらない。しかしながら、1サイクル目から2サイクル目に持ち越される燃料が少なく、また、2サイクル目において燃料噴射量が1サイクル目の燃料噴射量よりも多くされたとしても、この燃料噴射量は十分に少ない。したがって、2サイクル目において、筒内空燃比が可燃空燃比となり、初爆が起こる。
【0104】
そして、始動が完了したものと判断されるまで(すなわち、時刻T9まで)、燃料噴射量が噴射量Q6に維持される。そして、始動が完了したものと判断されると、第1実施形態と同様に、燃料噴射量が噴射量Q4とされる。すなわち、燃料噴射量が少なくされる。そして、機関暖機が完了したものと判断されるまで(すなわち、時刻T19まで)、燃料噴射量が噴射量Q4に維持される。そして、機関暖機が完了したものと判断されると、燃料噴射量が噴射量Q3.5とされる。すなわち、燃料噴射量がさらに少なくされる。
【0105】
これによれば、始動完了時刻(=時刻T9)は、従来ガソリン制御での始動完了時刻(=時刻T8)よりも遅いものの、従来混合燃料制御での始動完了時刻(=時刻T13)よりも大幅に早い。また、始動燃焼期間は、従来ガソリン制御での始動燃焼期間と同じであり、従来混合燃料制御での始動燃焼期間よりも大幅に短い。したがって、第2実施形態の制御での始動時間は、従来ガソリン制御での始動時間よりも若干長いものの、従来混合燃料制御での始動時間よりも大幅に短い。なお、この制御は、1サイクル目に噴射された燃料のうち、2サイクル目に持ち越される燃料の割合が高い場合において、始動時間を短くするという目的を達成する手段として有効である。
【0106】
<第3実施形態の制御>
第3実施形態の制御によれば、図14(C)に示されているように、1サイクル目(=時刻T4)では、噴射量Q2の燃料が噴射される。2サイクル目(=時刻T5)では、噴射量Q4の燃料が噴射される。つまり、燃料噴射量が多くされる。3サイクル目(=時刻T6)では、噴射量Q6の燃料が噴射される。つまり、燃料噴射量がさらに多くされる。第1実施形態と同様に、1サイクル目では、燃料噴射量が非常に少ないので、筒内空燃比は可燃空燃比とはならず、初爆は起こらない。また、1サイクル目から2サイクル目に持ち越される燃料が非常に少なく、また、2サイクル目において燃料噴射量が1サイクル目の燃料噴射量よりも多くされるが、この燃料噴射量は十分に少ない。したがって、2サイクル目においても、筒内空燃比は可燃空燃比とはならず、初爆は起こらない。そして、3サイクル目において、初めて、筒内空燃比が可燃空燃比となり、初爆が起こる。
【0107】
そして、始動が完了したものと判断されるまで(すなわち、時刻T10まで)、燃料噴射量が噴射量Q6に維持される。そして、始動が完了したものと判断されると、第1実施形態と同様に、燃料噴射量が噴射量Q4とされる。すなわち、燃料噴射量が少なくされる。そして、機関暖機が完了したものと判断されるまで(すなわち、時刻T20まで)、燃料噴射量が噴射量Q4に維持される。そして、機関暖機が完了したものと判断されると、燃料噴射量が噴射量Q3.5とされる。すなわち、燃料噴射量がさらに少なくされる。
【0108】
これによれば、始動完了時刻(=時刻T10)は、従来ガソリン制御での始動完了時刻(=時刻T8)よりも遅いものの、従来混合燃料制御での始動完了時刻(=時刻T13)よりも大幅に早い。また、始動燃焼期間は、従来ガソリン制御での始動燃焼期間よりも若干長いが、従来混合燃料制御での始動燃焼期間よりも大幅に短い。したがって、第3実施形態の制御での始動時間は、従来ガソリン制御での始動時間よりも若干長いものの、従来混合燃料制御での始動時間よりも大幅に短い。なお、この制御は、1サイクル目に噴射された燃料のうち、2サイクル目に持ち越される燃料の割合が非常に高い場合において、始動時間を短くするという目的を達成する手段として有効である。
【0109】
なお、上述した実施形態では、初爆発生から機関回転数が始動完了回転数に到達するまで、燃料噴射量は一定に維持される。しかしながら、この燃料噴射量は一定でなくてもよく、内燃機関の特性を考慮し、始動時間が最短(または、許容される程度に短い時間)となるように、サイクル毎に変更してもよい。
【0110】
たとえば、初爆が起こると、筒内温度が急激に上昇するので、初爆発生後のサイクルでは、混合燃料が蒸発しやすい。このため、初爆発生後も燃料噴射量が一定に維持されていると、筒内空燃比が可燃空燃比にならない(すなわち、筒内空燃比が過剰にリッチな空燃比になってしまう)場合がある。そこで、この場合、初爆発生後、燃料噴射量を少なくするようにしてもよい。
【0111】
あるいは、上述したように、初爆発生後は、混合燃料が蒸発しやすくなるので、次サイクルに持ち越される燃料が少なくなる。このため、初爆発生後も燃料噴射量が一定に維持されていると、筒内空燃比が可燃空燃比にならない(すなわち、筒内空燃比が過剰にリーンな空燃比になってしまう)場合がある。そこで、この場合、初爆発生後、燃料噴射量を多くするようにしてもよい。
【0112】
また、上述した実施形態において、クランキング開始後の最初の燃料噴射タイミングは、従来ガソリン制御および従来混合燃料制御でのクランキング開始後の最初の燃料噴射タイミングと同じである。しかしながら、上述した実施形態において、このタイミングを、従来ガソリン制御および従来混合燃料制御でのクランキング開始後の最初の燃料噴射タイミングよりも早いタイミングとしてもよい。
【0113】
以上、説明したように、内燃機関10の燃料噴射制御装置80は、アルコール混合燃料によって駆動される。また、内燃機関10の燃料噴射制御装置80は、燃料噴射弁33から噴射される燃料の量を制御する制御部(始動時噴射量制御部71)を具備し、該制御部71は、アルコール混合燃料のアルコール濃度が所定濃度よりも高い場合、クランキング開始後、初爆発生までの燃料噴射において、燃料噴射1回当たりに前記燃料噴射弁から噴射されるアルコール混合燃料の量を、空燃比を可燃空燃比とする量よりも少ない量に制御する噴射量制御を実施する。
【0114】
さらに、内燃機関10の燃料噴射制御装置80において、前記制御部71は、機関温度が高いほど前記所定濃度を高い濃度に設定する。
【0115】
さらに、内燃機関10の燃料噴射制御装置80において、前記制御部71は、前記アルコール濃度が高いほど前記始動時噴射量(第3所定量)を増量し、該始動時噴射量の増量分は、該アルコール濃度が0%(すなわち、ガソリンのみ)であるときに得られる発熱量に対して、前記アルコール混合燃料の蒸発量不足に起因する発熱量の不足分と、該アルコール混合燃料中のアルコール成分の気化により奪われる熱量分とを補う量である。
【0116】
さらに、内燃機関10の燃料噴射制御装置80において、前記制御部71は、アルコール混合燃料のアルコール濃度が前記所定濃度よりも高く、且つ、機関温度が所定温度よりも低い場合にのみ、前記噴射量制御を実施する。
【0117】
さらに、内燃機関10の燃料噴射制御装置80の前記制御部71は、前記噴射量制御において、燃料噴射1回当たりに前記燃料噴射弁33から噴射されるアルコール混合燃料の量を、空燃比を可燃空燃比とする量よりも少ない範囲内で徐々に多くする。
【0118】
これによれば、初爆後に筒内空燃比が過剰にリッチになることが抑制されるので、短い機関始動時間が達成される。
【0119】
なお、上述した実施形態では、混合燃料中のアルコールとして、エタノールを例示しているが、メタノール、ブタノール等のアルコール類であってもよい。また、上述した実施形態では、始動時水温として、クランキング開始時点の機関水温が使用されているが、始動期間中に定期的に取得される機関水温を使用してもよい。
【符号の説明】
【0120】
10…内燃機関、20…内燃機関本体部、21…気筒、30…吸気系統、31…インテークマニホールド、31a…枝部、31b…サージタンク、32…吸気管、33…燃料噴射弁(燃料噴射部)、34…スロットル弁、40…排気系統、41…エキゾーストマニホールド、41a…枝部、41b…集合部、42…エキゾーストパイプ、43…三元触媒、50…センサ系、51…エアフローメータ、52…スロットルポジションセンサ、53…水温センサ、54…クランクポジションセンサ、55…インテークカムポジションセンサ、56…排ガスセンサ、58…アクセル開度センサ、59…アルコール濃度センサ、61…スタータ、62…イグニッション・キー・スイッチ
図1
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