(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044488
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】コイルインシュレータの固定方法および固定構造、ステータ、ならびに、回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20161206BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20161206BHJP
H02K 1/04 20060101ALI20161206BHJP
H02K 15/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
H02K3/34 B
H02K3/46 B
H02K1/04 A
H02K15/10
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-179289(P2013-179289)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-50799(P2015-50799A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏之
【審査官】
柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−095492(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0113332(US,A1)
【文献】
国際公開第2010/140243(WO,A1)
【文献】
特開2000−341897(JP,A)
【文献】
特開昭48−007060(JP,A)
【文献】
特開2006−209330(JP,A)
【文献】
特開2006−161820(JP,A)
【文献】
特開平2−84702(JP,A)
【文献】
特開2010−161874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 1/04
H02K 3/46
H02K 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと該ステータコアに巻装されるコイルとの間に設けられて前記ステータコアに固定されるコイルインシュレータの固定方法であって、
環状または略円弧状をなすバックヨークと該バックヨークから径方向に突出するティースとを備えるステータコアであって、前記バックヨークの軸方向端面に前記ティースに対応して固定穴が形成されているステータコアを準備し、
前記ステータコアのティースの周囲に設けられるコイルインシュレータであって、加熱により軟化する絶縁性材料からなり、前記ティースの周囲に配置される本体部と該本体部から径方向に突設された固定部とを有するコイルインシュレータを準備し、
前記ティースの周囲に前記コイルインシュレータを嵌め込んで配置し、
前記固定穴を覆って位置する前記コイルインシュレータの固定部を加熱して軟化させ、前記固定穴に前記固定部を構成する絶縁性材料の一部を入り込ませた後に硬化させることにより、前記コイルインシュレータを前記ステータコアに固定するための突起を形成する、
コイルインシュレータの固定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコイルインシュレータの固定方法において、
前記コイルインシュレータの本体部は前記ティースを収容する筒状に形成され、前記固定部は前記コイルインシュレータの軸方向両端側に形成されるとともに前記固定穴はステータコアの軸方向両端面に形成される、コイルインシュレータの固定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコイルインシュレータの固定方法において、
前記固定穴は前記ステータコアの軸方向端面から奥側で広がった形状に形成されている、コイルインシュレータの固定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のコイルインシュレータの固定方法において、
前記ステータコアへの固定前に前記本体部に前記コイルが予め巻回された前記コイルインシュレータは、前記ティースの径方向先端側から前記ティースの周囲に嵌め込まれる、コイルインシュレータの固定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のコイルインシュレータの固定方法において、
前記固定穴に絶縁性材料が入り込んで形成される前記突起は、前記ティース部に対応して前記ステータコアの軸方向一端側当たり少なくとも1つ形成される、コイルインシュレータの固定方法。
【請求項6】
ステータコアと該ステータコアに巻装されるコイルとの間に設けられて前記ステータコアに固定されるコイルインシュレータの固定構造であって、
環状または略円弧状をなすバックヨークと該バックヨークから径方向に突出するティースとを備えるステータコアであって、前記バックヨークの軸方向端面に前記ティースに対応して固定穴が形成されているステータコアと、
前記ステータコアのティースの周囲に設けられるコイルインシュレータであって、加熱により軟化する絶縁性材料からなり、前記ティースの周囲に配置される本体部と該本体部から径方向に突設された固定部とを有するコイルインシュレータと、を備え、
前記コイルインシュレータの固定部は、前記ティースの周囲に前記コイルインシュレータを嵌め込んで配置された状態で前記固定穴を覆って位置する前記コイルインシュレータの固定部を加熱して軟化させて前記穴に前記固定部を構成する絶縁性材料の一部を入り込ませた後に硬化させることにより形成された突起を有する、
コイルインシュレータの固定構造。
【請求項7】
請求項6に記載のコイルインシュレータの固定構造において、
前記コイルインシュレータの本体部は前記ティースを収容する筒状に形成され、前記固定部は前記コイルインシュレータの軸方向両端側に形成されるとともに前記固定穴はステータコアの軸方向両端面に形成される、コイルインシュレータの固定構造。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のコイルインシュレータの固定構造において、
前記固定穴は前記ステータコアの軸方向端面から奥側で広がった形状に形成されている、コイルインシュレータの固定構造。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか一項に記載のコイルインシュレータの固定構造において、
前記ステータコアへの固定前に前記本体部に前記コイルが予め巻回された前記コイルインシュレータは、前記ティースの径方向先端側から前記ティースの周囲に嵌め込まれる、コイルインシュレータの固定構造。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載のコイルインシュレータの固定構造において、
前記固定穴に絶縁性材料が入り込んで形成される前記突起は、前記ティース部に対応して前記ステータコアの軸方向一端側当たり少なくとも1つ形成される、コイルインシュレータの固定構造。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載のコイルインシュレータの固定構造と、
前記ステータコアのティースへの嵌め込み前または嵌め込み後に、前記インシュレータの本体部の周囲に巻装されるコイルと、を備える、ステータ。
【請求項12】
請求項11に記載のステータと、
前記ステータにギャップを介して対向する回転可能なロータと、を備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機において、ステータコアと、ステータコアに巻装されるコイルとの間に設けられてステータコアに固定されるコイルインシュレータの固定方法および固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアのティースにコイルが巻装されて構成されるステータと、このステータに対してギャップを介して回転可能に設けられたロータとを備える回転電機が知られている。このような回転電機において、ステータに巻装されるコイルは、ステータコアとの間に例えば樹脂等の絶縁性材料からなるインシュレータを介在させることによって、ステータコアと電気的に絶縁されている。
【0003】
これに関連する先行技術文献として、例えば特許文献1(特開2012−95492号公報)には、電動機の固定子において、平面視で略H字状をなす分割コアの軸方向両端部にインシュレータをそれぞれ配置し、分割コアのコアバック部の端面に形成された固定用穴にインシュレータに形成された突起を侵入させるとともに、分割コアのティース部の先端面にインシュレータティース先端部に形成された係止用突起を係止することにより、分割コアのティース部およびインシュレータの周囲にコイルを巻回する際にインシュレータが分割コアに対して回転するのを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−95492号公報号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるインシュレータの固定方法では、分割コアの端面に形成された固定用穴に侵入させる突起がインシュレータに予め形成されていることから、インシュレータを分割コアに取り付ける際に突起が引っ掛かることによって破損することが起こり得る。また、インシュレータの突起と分割コアの固定用穴との間に寸法誤差に起因して隙間が形成される場合、インシュレータの固定状態が不安定になる可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、インシュレータをステータコアのティースに組み付ける際に固定用突起が破損を防止できるとともに、ステータコアの穴の内周面に固定用突起が密着した状態に嵌合することによりがたつきなく安定した固定状態を実現できる、インシュレータの固定方法および固定構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様であるコイルインシュレータの固定方法は、ステータコアと該ステータコアに巻装されるコイルとの間に設けられて前記ステータコアに固定されるコイルインシュレータの固定方法であって、環状または略円弧状をなすバックヨークと該バックヨークから径方向に突出するティースとを備えるステータコアであって、前記バックヨークの軸方向端面に前記ティースに対応して固定穴が形成されているステータコアを準備し、前記ステータコアのティースの周囲に設けられるコイルインシュレータであって、加熱により軟化する絶縁性材料からなり、前記ティースの周囲に配置される本体部と該本体部から径方向に突設された固定部とを有するコイルインシュレータを準備し、前記ティースの周囲に前記コイルインシュレータを嵌め込んで配置し、前記固定穴を覆って位置する前記コイルインシュレータの固定部を加熱して軟化させ、前記固定穴に前記固定部を構成する絶縁性材料の一部を入り込ませた後に硬化させることにより、前記コイルインシュレータを前記ステータコアに固定するための突起を形成する、ことを含む。
【0008】
本発明に係るコイルインシュレータの固定方法において、前記コイルインシュレータの本体部は前記ティースを収容する筒状に形成され、前記固定部は前記コイルインシュレータの軸方向両端側に形成されるとともに前記固定穴はステータコアの軸方向両端面に形成されてもよい。
【0009】
また、本発明に係るコイルインシュレータの固定方法において、前記固定穴は前記ステータコアの軸方向端面から奥側で広がった形状に形成されてもよい。
【0010】
また、本発明に係るコイルインシュレータの固定方法において、前記ステータコアへの固定前に前記本体部に前記コイルが予め巻回された前記コイルインシュレータは、前記ティースの径方向先端側から前記ティースの周囲に嵌め込まれてもよい。
【0011】
さらに、本発明に係るコイルインシュレータの固定方法において、前記固定穴に絶縁性材料が入り込んで形成される前記突起は、前記ティース部に対応して前記ステータコアの軸方向一端側当たり少なくとも1つ形成されてもよい。
【0012】
本発明の別の態様であるコイルインシュレータの固定構造は、ステータコアと該ステータコアに巻装されるコイルとの間に設けられて前記ステータコアに固定されるコイルインシュレータの固定構造であって、環状または略円弧状をなすバックヨークと該バックヨークから径方向に突出するティースとを備えるステータコアであって、前記バックヨークの軸方向端面に前記ティースに対応して固定穴が形成されているステータコアと、前記ステータコアのティースの周囲に設けられるコイルインシュレータであって、加熱により軟化する絶縁性材料からなり、前記ティースの周囲に配置される本体部と該本体部から径方向に突設された固定部とを有するコイルインシュレータと、を備え、前記コイルインシュレータの固定部は、前記ティースの周囲に前記コイルインシュレータを嵌め込んで配置された状態で前記固定穴を覆って位置する前記コイルインシュレータの固定部を加熱して軟化させて前記穴に前記固定部を構成する絶縁性材料の一部を入り込ませた後に硬化させることにより形成された突起を有する。
【0013】
本発明に係るコイルインシュレータの固定構造において、前記コイルインシュレータの本体部は前記ティースを収容する筒状に形成され、前記固定部は前記コイルインシュレータの軸方向両端側に形成されるとともに前記固定穴はステータコアの軸方向両端面に形成されてもよい。
【0014】
また、本発明に係るコイルインシュレータの固定構造において、前記固定穴は前記ステータコアの軸方向端面から奥側で広がった形状に形成されてもよい。
【0015】
また、本発明に係るコイルインシュレータの固定構造において、前記ステータコアへの固定前に前記本体部に前記コイルが予め巻回された前記コイルインシュレータは、前記ティースの径方向先端側から前記ティースの周囲に嵌め込まれてもよい。
【0016】
さらに、本発明に係るコイルインシュレータの固定構造において、前記固定穴に絶縁性材料が入り込んで形成される前記突起は、前記ティース部に対応して前記ステータコアの軸方向一端側当たり少なくとも1つ形成されてもよい。
【0017】
本発明の更に別の態様では、上記いずれかの構成のコイルインシュレータの固定構造と、前記ステータコアのティースへの嵌め込み前または嵌め込み後に、前記インシュレータの本体部の周囲に巻装されるコイルとを備えるステータが提供される。
【0018】
本発明のまた更に別の態様では、上記構成のステータと、前記ステータにギャップを介して対向する回転可能なロータとを備える回転電機が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るコイルインシュレータの固定方法および固定構造によれば、コイルインシュレータをステータコアのティースに組み付けた後に固定用突起が形成されることから組み付け時にコイルインシュレータの固定用突起が引っ掛かって破損するのを防止できる。
【0020】
また、固定用突起は加熱して軟化した絶縁性材料がステータコアの固定穴に入り込んだ後に硬化して形成されるため、固定穴の内周面に固定用突起が隙間無く密着した状態に嵌合することができ、これによりコイルインシュレータをステータコアにがたつきなく安定して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態であるコイルインシュレータの固定構造を含む回転電機の軸方向から見た部分端面図である。
【
図2】コイルインシュレータの(a)上面図、(b)正面図、および、(c)側面図である。
【
図3】コイルインシュレータの固定方法を示すフローチャートである。
【
図4】コイルが巻回されたコイルインシュレータがステータコアのティースに嵌め込まれた状態を示すステータの軸方向断面図である。
【
図5】コイルインシュレータの固定部が加熱・加圧されて固定用突起が形成された状態を示すステータの軸方向断面図である。
【
図6】コイルインシュレータの固定部の変形例を示す、
図4中のA部拡大図である。
【
図7】周方向に並んで複数の固定用突起が形成されるコイルインシュレータの変形例を示す、コイルインシュレータの上面図である。
【
図8】径方向に並んで複数の固定用突起が形成されるコイルインシュレータの変形例を示す、コイルインシュレータの上面図である。
【
図9】固定穴の軸方向奥部が略T字状に広がって形成されている変形例を示す、
図5中のB部拡大図である。
【
図10】固定穴の軸方向奥部が階段状に広がって形成されている変形例を示す、
図5中のB部拡大図である。
【
図11】軸方向に関して2つに分割されたコイルインシュレータを示す、
図2と同様の(a)上面図、(b)正面図、および、(c)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態であるコイルインシュレータ固定構造10を備える回転電機1の軸方向から見た部分端面図である。回転電機1は、略円筒状をなすステータ2と、ステータ2の径方向内側にギャップ3を介して設けられたロータ4とを備える。ロータ4は、回転電機1を収容するケース(図示せず)に回転可能に支持されている。ロータ4は、永久磁石を内蔵する回転子であってもよいし、または、永久磁石を含まないタイプの回転子であってもよい。
【0024】
ステータ2は、コイルインシュレータ固定構造10を構成するステータコア5およびコイルインシュレータ12と、ステータコア5に巻装されたコイル6とを備える。
【0025】
ステータコア5は、例えば電磁鋼板を略円環状に打ち抜き加工したものを多数枚積層して、カシメ、溶接等によって一体に連結されて構成される磁性板材の積層体である。ステータコア5は、略円環状をなすバックヨーク7と、バックヨーク7の内周側に径方向内方へ突出するとともに周方向に所定ピッチで形成された複数のティース8とを有する。これにより、周方向に隣接するティース8の間には、溝状のスロット9が軸方向両側および径方向内側に開口して形成されている。
【0026】
本実施形態では、各ティース8は、平面視で略台形状をなして形成されている。また、本実施形態では、各ティース8の内周側先端の角部には、周方向への張り出し部が形成されていない。これにより、ティース8の外形形状と略一致する筒状空間を含むコイルインシュレータ12を、ステータコア5の径方向内側からティース8に嵌め込んで組み付けられるようになっている。
【0027】
ステータコア5において、バックヨーク7の軸方向両側の端面には、固定穴11が形成されている。固定穴11は、各ティース8に対応して形成されている。固定穴11は、コイルインシュレータ12を構成する絶縁性材料の一部が入り込んで固定用突起を形成することにより、コイルインシュレータ12およびコイル6をステータコア5に固定するための凹部である。
【0028】
固定穴11は、ステータコア5を構成する少なくとも1枚の電磁鋼板に形成された貫通孔によって構成されている。固定穴11の深さは、コイルインシュレータ12の固定強度を確保するのに必要な係合状態が得られる程度に設定される。固定穴11は、ステータコア5内を軸方向にわたって貫通して形成されてもよい。ただし、ステータコア5のバックヨーク7の磁気特性への影響を考慮して、固定穴11の深さを設定することが好ましい。また、固定穴11は、後述するようにティース8にコイルインシュレータ12が組み付けられたときに、コイルインシュレータ12の固定部20によって覆われる位置に形成されている。
【0029】
さらに、固定穴11は、ティース8の周方向中心位置を通る径方向に沿った直線(以下、周方向中心線という)C上に形成されている。本実施形態では、固定穴11は、円形状の穴として形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば矩形状、楕円状等の他の形状の穴として形成されてもよい。
【0030】
なお、本実施形態ではステータコア5は、環状の磁性板材積層体として一体に形成されているものとして説明するが、
図1中に一点鎖線Dで示すように、バックヨーク7がティース8の両側で周方向に所定間隔に分断された分割コアからなってもよい。この場合、分割コアは、略円弧状のバックヨークとティースとで平面視が略T字状をなす。このような分割コアを環状に配列し、その外周側に円筒状ケースを焼嵌め、圧入等によって外装することにより一体に連結されステータコアが構成されもよい。また、ステータコア5は、磁性粉末を樹脂コーティングしたものを成形型で圧縮成形した圧粉磁心として形成されてもよい。
【0031】
コイル6は、例えば銅線に絶縁被覆された導線がコイルインシュレータ12に巻回されて構成されている。本実施形態ではコイル6は、各ティース8に集中巻き方式でそれぞれ巻装されている。また、コイル6を構成する導線の断面は、円形であってもよいし(
図5等参照)、あるいは、角形であってもよい。
【0032】
コイルインシュレータ12は、ステータコア5とコイル6との間を電気的に絶縁する機能を有する。また、本実施形態ではコイルインシュレータ12は、コイル6をステータコア5に固定する機能も有する。
【0033】
コイルインシュレータ12は、例えば樹脂等の絶縁性材料によって形成されている。これにより、ステータコア5とコイル6間を良好に絶縁することができる。より具体的には、コイルインシュレータ12は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)等の熱可塑性樹脂によって形成されている。このように熱可塑性樹脂で形成されることで、後述するようにコイルインシュレータ12の固定部を加熱および加圧してステータコア5の固定穴に樹脂材料を侵入させることにより固定用突起を形成することができる。
【0034】
図2は、コイルインシュレータ12の(a)上面図、(b)正面図、および(c)側面図である。コイルインシュレータ12は、矩形筒状をなす本体部14と、本体部14の径方向の両端部において周方向へ突出して形成された第1および第2フランジ部16,18と、第2フランジ部18の外側面に突設された固定部20とを備える。コイルインシュレータ12は、熱可塑性樹脂を用いて成形型で一体成形することができる。コイルインシュレータ12の本体部14は、第1および第2フランジ部16,18とともに、コイル6をティース8の周囲に絶縁状態で巻装するためのボビンを構成するものである。
【0035】
コイルインシュレータ12の本体部14の内部空間15は、平面視で略台形状をなすティース8を略隙間無く収容可能な形状および大きさに形成されている。これにより、コイルインシュレータ12がティース8の周囲に配置されたとき、ティース8の外周面に本体部14の内周面が密着して配置することができる。また、
図1に示すように、本体部14の径方向寸法はティース8よりも若干短く形成されている。これにより、コイルインシュレータ12がティース8に嵌め込まれたときティース8の先端が本体部14から少し突出した状態となるようにしてある。
【0036】
コイルインシュレータ12の第1および第2フランジ部16,18は、
図2(b)に示すように、平面視で長方形状の枠をなすようにそれぞれ形成されている。また、第1および第2フランジ部16,18の周方向両側の端縁部は、本体部14の軸方向断面に対して所定角度をなすように屈曲して形成されている。これにより、コイルインシュレータ12がティース8に組み付けられたとき、径方向外側の第2フランジ部18がティース8間に位置するバックヨーク7の内周側湾曲面に沿って当接した状態となり、コイルインシュレータ12の配置を安定したものにできる。また、第1フランジ部16が第2フランジ部18と略平行となるように屈曲していることで、第1および第2フランジ部16,18間のコイル巻回スペースを大きく確保することが可能になる。その結果、スロット9内でコイル6が占める占積率を向上させ、コイル6の銅損を低下させることができる。
【0037】
コイルインシュレータ12の固定部20は、
図1および
図2に示すように、第2フランジ部18の径方向外側の表面に略半円状に突出して形成されている。固定部20は、コイルインシュレータ12の軸方向の両端側に、ティース8の軸方向長さに相当する距離だけ離れて2つ形成されている。これにより、コイルインシュレータ12がティース8に組み付けられたとき、固定部20がステータコア5の軸方向端面上に略接触した状態に配置されるようになっている。
【0038】
また、コイルインシュレータ12の固定部20の厚さtは、本体部14や第1および第2フランジ部16,18よりも厚く形成されている。これは、後述するように、固定部20を加熱および加圧して固定用突起22を形成する際に、ステータコア5の固定穴11内に固定部20を構成する熱可塑性樹脂材料の一部が入り込むことを考慮して予め厚く形成されている。固定穴11の大きさや深さに応じて入り込む樹脂量が変わることから、固定部20の当初の厚さtは固定用突起22を形成した後の固定部20がコイルインシュレータ12およびコイル6の固定強度を確保および維持できる程度となるよう予め設定される。
【0039】
続いて、
図3〜
図5を参照して、ステータコア5へのコイルインシュレータ12の固定方法について説明する。この固定方法は、コイルインシュレータ固定構造10の製造方法であるともいえる。
図3は、コイルインシュレータ12の固定方法を示すフローチャートである。
図4は、コイル6が巻回されたコイルインシュレータ12がステータコア5のティース8に嵌め込まれた状態を示すステータ2の軸方向断面図である。
図5は、コイルインシュレータ12の固定部20が加熱および加圧されて固定用突起22が形成された状態を示すステータ2の軸方向断面図である。
【0040】
図3を参照すると、まず、ステップS10において、ステータコア5およびコイルインシュレータ12を準備する。コイルインシュレータ12には、コイル6が予め巻回されている。
【0041】
次に、ステップS12において、
図4に示すようにコイルインシュレータ12をステータコア5のティース8に径方向先端側から嵌め込んで組み付ける。このとき、第2フランジ部18がスロット9の底面すなわち径方向内周面に当接した状態に配置する。
【0042】
そして、ステップS14において、コイルインシュレータ12の固定部20を軸方向両側から図示しない加熱部材を押し付ける。これにより、固定部20が少なくともガラス転移点(Tg)以上に加熱されるとともに加熱部材によって加圧される。このとき、固定部20は、固定穴11に流動して入り込むことができる程度に軟化すれば融点まで加熱される必要はないが、融点以上に加熱されて溶融状態とされてもよい。このように加熱および加圧されることで、固定部20が軟化または溶融して、固定部20を構成する絶縁性樹脂材料の一部がステータコア5の固定穴11に入り込む。
【0043】
上述したようにステータコア5は電磁鋼板の積層体で構成される。そのため、軟化した樹脂材料が固定穴11に入り込むとき穴内部の空気は鋼板間の微小な隙間から逃げることができる。したがって、軟化した樹脂材料が穴内に存在する空気によって侵入を妨げられることはない。
【0044】
このようにして固定穴11に入り込んだ樹脂材料が硬化することにより、固定穴11に係止された固定用突起22がコイルインシュレータ12と一体に形成される。これにより、コイルインシュレータ12およびこれに巻回されたコイル6がステータコア5に固定される。ここで、樹脂材料の硬化は、自然冷却または強制冷却のいずれの方式で行ってもよい。
【0045】
上述したように、本実施形態によれば、コイルインシュレータ12をステータコア5のティース8に組み付けた後に固定用突起22が形成されることから、組み付け時に固定用突起22がステータコア5のティース等に引っ掛かって破損することがなく、コイルインシュレータ12の組付性が向上する。
【0046】
また、固定用突起22は加熱して軟化した絶縁性樹脂材料がステータコア5の固定穴11に入り込んだ後に硬化して形成されるため、固定穴11の内周面に固定用突起22が隙間無く密着した状態に嵌合することができ、その結果、コイルインシュレータ12をステータコア5にがたつきなく安定して固定することができる。
【0047】
また、軟化または溶融した樹脂材料が固定穴11に入り込んで硬化するとき、固定穴11の内周面に接着する接着剤として機能することから、単なる挿入や圧入の場合よりも固定用突起22が固定穴11に強固に係合し、その結果、コイルインシュレータ12およびコイル6の固定強度がより大きくなる。
【0048】
また、本実施形態では、コイルインシュレータ12だけでステータコア5への固定が完結するので、例えば、コイルおよびコイルインシュレータの外側を覆うモールド樹脂等の追加の固定部材が不要となる。このようにモールド樹脂等の固定部材が不要になることで、ステータ2の生産性向上、コスト低減、および、コイル6の放熱性の向上を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態におけるコイルインシュレータ12の固定構造10では、ステータコア5のバックヨーク7に形成された固定穴11にコイルインシュレータ12の固定用突起22を係止させて固定させている。したがって、コイルインシュレータ12を固定するために磁束経路となるティース8の断面積を減少させる構成を採用していないことから、ティース8の磁気特性に影響を与えることがない。また、固定穴11はバックヨーク7の軸方向両端側に形成されていることから、バックヨーク7の磁気特性に与える影響は限定的である。したがって、本実施形態のコイルインシュレータ固定構造10によれば、ステータコア5の磁気特性をほぼ維持しながら、コイルインシュレータ12をステータコア5に固定することができる。また、コイルインシュレータ12の固定構造10は、スロット9の断面積を減少させることもないからコイル6を配置するスペースを大きく確保することができる。その結果、回転電機1のトルク発生効率の維持または向上を図ることができる。
【0050】
次に、
図6〜
図11を参照して、上述した実施形態の変形例について説明する。
【0051】
図6はコイルインシュレータ12の固定部20の変形例を示す、
図4中のA部拡大図である。上記においては、コイルインシュレータ12の固定部20の厚さtを他の本体部14や第1および第2フランジ部16,18よりも厚く形成すると説明したが、
図6に示すように、図示しない加熱部材によって加熱される領域だけを例えば円錐台状等に突出させて厚く形成し、それ以外の部分は本体部14等と同じ厚みに形成してもよい。これにより、固定部20を構成する樹脂材料を低減できる利点がある。
【0052】
図7および
図8は、複数の固定用突起が固定部に形成される変形例を示す、コイルインシュレータの上面図である。上記においてはコイルインシュレータ12の固定部20に軸方向一端側当たり1つの固定用突起22を形成すると説明したが、これに限定されるものではなく、1つの固定部20当たり複数の固定用突起22を設けてもよい。例えば、
図7に示すコイルインシュレータ12aのように2つの固定用突起22a,22bを周方向中心線Cの両側に配置してもよいし、
図8に示すコイルインシュレータ12bのように2つの固定用突起22c,22dを周方向中心線Cに上に並べて形成してもよいし、あるいは、3つの固定用突起を三角状に配置してもよい。
図8に示すように径方向に並べて複数の固定用突起を形成する場合、径方向外側の固定用突起22dを太く、径方向内側の固定用突起22cを細くする等、形状や大きさや突出長さを異ならせてもよい。
【0053】
図9および
図10は、固定穴11の軸方向奥部が広がって形成されている変形例を示す、
図5中のB部拡大図である。固定穴11は、
図9に示すように、軸方向奥側で略T字状をなすように広がって形成されてもよいし、あるいは、
図10に示すように、軸方向奥側で階段状(またはテーパー状)に広がって形成されてもよい。このように固定穴11a,11bを奥で広くすることで、そこに入り込んだ樹脂によって形成される固定用突起22がアンカー効果によってコイルインシュレータ12を堅固に固定する効果が見込める。
【0054】
図11は、軸方向に関して2つに分割されたコイルインシュレータ12を示す、
図2と同様の(a)上面図、(b)正面図、および、(c)側面図である。上記においてコイルインシュレータ12は本体部14が矩形筒状をなして全体が一体成形されるとして説明したが、これに限定されるものではない。
図11に示すように、ティース8の軸方向一方側に配置される第1コイルインシュレータ部分12cと、同じティース8の軸方向他方側に配置される第2コイルインシュレータ部分12dとに2分割されてもよい。このように分割することで、ティース8の径方向内側の先端角部に周方向に張り出した張出部が形成されている場合に、第1および第2コイルインシュレータ部分12c,12dをティース8に対して軸方向から嵌め込んで配置することができる。この場合、各コイルインシュレータ部分12c,12dをティース8に嵌合配置してから固定用突起22を形成した後に、コイル6をコイルインシュレータ12の本体部14の周囲に巻回することになる(
図3中のステップS16参照)。
【0055】
なお、本発明に係るコイルインシュレータの固定構造は、上述した実施形態およびその変形例の構成に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲内で種々の改良や変更が可能である。
【0056】
例えば、上記においては、コイルインシュレータ12の固定部20を加熱および加圧して固定用突起22を形成すると説明したが、固定部20を構成する軟化した樹脂材料の一部がステータコア5の固定穴11に入り込むことができれば加圧せずに加熱のみを行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 回転電機、2 ステータ、3 ギャップ、4 ロータ、5 ステータコア、6 コイル、7 バックヨーク、8 ティース、9 スロット、10 コイルインシュレータの固定構造、11,11a,11b 固定穴、12,12a,12b コイルインシュレータ、12c 第1コイルインシュレータ部分、12d 第2コイルインシュレータ部分、14 本体部、15 内部空間、16 第1フランジ部、18 第2フランジ部、20 固定部、22,22a,22b,22c,22d 固定用突起、C 周方向中心線。