(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
図1は、本発明の一実施形態としての膜電極接合体の製造装置について示す模式図である。
図2は、
図1の製造装置で作製される膜電極接合体および膜電極接合体の作製後の破材について示す説明図である。なお、
図2(A)は平面図を示し、
図2(B)は側面図を示している。
【0015】
膜電極接合体(MEA)の製造装置1000は、搬送路に沿って順に設けられた接合部100と、第1のアキューム部200と、搬送ニップローラー300と、裁断機400と、第2のアキューム部500と、破材処理部600と、を備えている。なお、各部の動作は不図示の制御ユニットによって制御される。
【0016】
接合部100は、複数の膜電極接合体(MEA)が帯状に形成されたMEAシート(以下、「帯状MEAシート」とも呼ぶ)10Sを作製し、接合部搬送ニップローラー110によって第1のアキューム部200へ送り出す。帯状MEAシート10Sは、
図2に示すように、複数の触媒層積層電解質膜(CCM)が帯状に形成されたCCMシート(以下、「帯状CCMシート」とも呼ぶ)12Sの各CCMのアノード側の面(
図2(B)の下面)に、枚葉状(矩形状)のガス拡散層(GDL)18aが形成された積層体シートである。また、帯状CCMシート12Sは、
図2に示すように、電解質膜が連続的な帯状に形成された電解質膜シート(以下、「帯状電解質膜シート」とも呼ぶ)14Sのアノード側の面(
図2(B)の下面)に連続的な帯状のアノード触媒電極層16aSが形成されるとともに、カソード側の面(
図2(B)の上面)に枚葉状(矩形状)のカソード触媒電極層16cが形成された薄膜積層体シートである。
【0017】
帯状CCMシート12Sは、例えば、帯状電解質膜シート14Sのアノード側の面に帯状のアノード触媒電極層16aSを転写し、カソード側の面に枚葉状のカソード触媒電極層16cを転写することにより作製することができる。また、帯状CCMシート12Sは、帯状電解質膜シート14Sのアノード側およびカソード側の面に触媒電極層形成用の触媒インクを塗工することにより作製することもできる。また、帯状MEAシート10Sは、例えば、帯状CCMシート12Sの各CCMのアノード側の面に、枚葉状(矩形状)のGDL18aを加圧接合することにより作製することができる。
【0018】
なお、接合部100の具体的な構成は、帯状CCMシートの作製、および、帯状CCMシートとGDLとの接合による帯状MEAシートの作製を実行する種々の一般的な製造装置を適用することができるので、図示および説明を省略する。
【0019】
第1のアキューム部200(
図1)は、接合部100から連続して搬送されてくる帯状MEAシート10Sを蓄積するバッファである。第1のアキューム部200は、第1,第2の支持ローラー202,204と、第1の支持ローラー202と第2の支持ローラー204との間で帯状MEAシート10Sに荷重を掛ける錘206と、錘206からの荷重が掛かった状態の帯状MEAシート10Sの下端位置を検出する下限位置センサー208d及び上限位置センサー208uと、を備えている。下限位置センサー208dは、円柱状の錘206に接触する帯状MEAシート10Sの下端位置が、あらかじめ設定した下限位置にあることを検出する。また、上限位置センサー208uは、帯状MEAシート10Sの下端位置が、あらかじめ設定した上限位置にあることを検出する。下限位置センサー208d及び上限位置センサー208uは、例えば、種々の光電センサーを用いることによって構成することができる。
【0020】
接合部100から連続して搬送されてくる帯状MEAシート10Sは、錘206による荷重が掛かかっているため、第1の支持ローラー202と第2の支持ローラー204との間で、円柱状の錘206に接触する位置を下端位置として、搬送に応じて徐々に下側に垂れ下がる。帯状MEAシート10Sの下端位置が下限位置にまで下降すると下限位置センサー208dによって検出される。また、帯状MEAシート10Sが後述する搬送ニップローラー300によって裁断機400へ送り出されて、帯状MEAシート10Sの下端位置が上限位置まで上昇すると上限位置センサー208uによって検出される。これにより、第1のアキューム部200は、上限位置から下限位置までの範囲で、帯状MEAシート10Sを第1の支持ローラー202と第2の支持ローラー204の間で垂れ下がるようにして蓄積することができる。
【0021】
搬送ニップローラー300は、これを駆動するための駆動部(不図示)による回転動作および停止動作(以下、「間欠動作」とも呼ぶ)が制御ユニット(不図示)によって制御される。これにより、搬送ニップローラー300は、第1のアキューム部200に蓄積されている帯状MEAシート10Sを、間欠的に、裁断機400の裁断位置まで送り込むとともに、裁断後の帯状の破材10Sme(
図2)を第2のアキューム部500へ送り出す。なお、以下では、この間欠動作による搬送を「間欠搬送」とも呼ぶ。
【0022】
裁断機400は、帯状MEAシート10から下側裁断型402上に載置されたMEA10の部分を、上側裁断型404により型抜き裁断する。裁断された枚葉状のMEA10は、搬出装置(不図示)により吸着搬出される。裁断後の破材10Smeは、
図2に示すように。搬送方向に沿った余白X部および余白Y部と搬送方向と交差する余白Z部による梯子状となる。なお、実際には、接合部100には、欠陥等の品質を検査する検査部を有する場合があり、例えば、帯状CCMシート12Sのうち不良があったCCM12に対しては、GDL18aを接合しない場合がある。この場合、裁断機400では、GDL18aが形成されていない箇所についての裁断を行わないため、破材10Sme中には、
図2に示すように、梯子状の余白部となっておらず、CCM12が残っている箇所もあり得る。また、帯状CCMシート12Sの形成前の帯状電解質膜シート14Sに対して検査が行われて不良が検出された場合には、不良検出箇所に対して、触媒電極層およびGDLが形成されない場合もある。この場合も、裁断機400では、触媒電極層およびGDLが形成されていない箇所についての裁断は行われず、破材10Sme中には、梯子状の余白部となっておらず、電解質膜14が残っている箇所もあり得る。なお、本明細書において、余白部は、帯状MEAシートからMEAが切り抜かれた後に残された部材の部分であり、電解質膜、触媒電極層、GDLのうち少なくとも一つの部材が含まれている。
【0023】
MEA10が裁断された後の破材10Smeは、上述したように、搬送ニップローラー300による帯状MEAシート10Sの裁断機400への送り込みに合わせて、第2のアキューム部500へ送り出される。
【0024】
第2のアキューム部500は、第1のアキューム部200と同様に、第1,第2の支持ローラー502,504と、円柱状の錘506と、下限位置センサー508d及び上限位置センサー508uと、を備えている。裁断後の破材10Smeには、第1の支持ローラー502と第2の支持ローラー504の間で錘506によって荷重が掛けられている。このため、破材10Smeには搬送ニップローラー300又は裁断機400と第2のアキューム部500との間で引張力が加わる。これにより、裁断後の破材10Smeは、搬送ニップローラー300が帯状MEAシート10Sの裁断機400への送り込みを行った際において、破材10Smeに加わった引張力に応じて第2のアキューム部500に引き込まれる。この結果、第2のアキューム部500は、上限位置センサー508uで検出される上限位置から下限位置センサー508dで検出される下限位置までの範囲で、破材10Smeを第1の支持ローラー502と第2の支持ローラー504の間で垂れ下がるようにして蓄積することができる。
【0025】
なお、裁断機400と第2のアキューム部500との間に、搬送ニップローラー300と協働して、帯状MEAシート10Sの裁断機400への引き込みと、帯状の破材10Smeの第2のアキューム部500への送り込みと、を行う搬送ニップローラーを備えるようにしてもよい。
【0026】
破材処理部600は、破材搬送ニップローラー602と、破材回収ロール604と、を備えている。破材搬送ニップローラー602は、これを駆動する駆動部(不図示)による間欠動作が制御ユニット(不図示)によって制御されることにより、第2のアキューム部500に蓄積されている破材10Smeを破材回収ロール604へ送りだす。破材回収ロール604は、これを駆動する駆動部(不図示)による間欠動作が制御ユニット(不図示)によって制御されて破材搬送ニップローラー602と協働することによって、破材10Smeを巻き取り回収する。なお、破材回収ロール604に代えて破材回収箱を備えて、破材10Smeを九十九折にして回収するようにしてもよい。
【0027】
以上説明した本実施形態のMEAの製造装置1000は、以下で説明するように、破材搬送ニップローラー602の構造に特徴を有している。
【0028】
図3は、破材処理部に含まれる破材搬送ニップローラーの概略構成を示す説明図である。
図3(A)は、破材搬送ニップローラー602を搬送路下流側から見た概略正面図であり、
図3(B)は、
図3(A)のB−B断面を示す概略断面図である。破材搬送ニップローラー602は、上下一対の下側ローラー610および上側ローラー620と、巻き込み防止フォーク630と、を備えている。なお、
図3(A)は、上側ローラー620の内部構成を概略的に示すために、破線BLの上側部分について概略断面で示している。
【0029】
下側ローラー610は、駆動部からの回転力が伝えられる回転軸612と、回転軸612と一体に回転する金属製の下側ローラー部614と、を備える駆動ローラーである。上側ローラー620は、中心軸622と、中心軸622を中心に回転する金属製やプラスチック製等の上側ローラー部624と、上側ローラー部624の表面に設けられた複数(本例では3つ)のローラー表面部626a,626b,626cと、を備える従動ローラーである。ローラー表面部626a,626b,626cは、例えばゴムで形成されている。なお、上側ローラー部624の両側端部には中心軸622との間にベアリング628が設けられている。複数のローラー表面部626a,626b,626cは、隣り合うローラー表面部の間に溝Gaが形成されるように、それぞれ離間して配置されている。複数のローラー表面部626a,626b、626cは、下側ローラー610の回転に応じて一体的に回転する。
【0030】
溝Gaには、搬送路下流側において、それぞれ、巻き込み防止フォーク630の先部632が、上側ローラー部624の表面に対して小さなギャップを介して固定されるように、下側ローラー610側から中心軸622へ向かって挿入配置されている。
【0031】
図3(A)の左端のローラー表面部626aは、下側ローラー610の下側ローラー部614とともに、破材10Smeの余白X部をニップして送り出す。右端のローラー表面部626cは、下側ローラー610の下側ローラー部614とともに、破材10Smeの余白Y部をニップ(
挟持)して送り出す。中央のローラー表面部626bは、余白Z部(
図2)および裁断されずに残されたCCM等の部分をニップして送り出す。なお、以下では、各ローラー表面部626a,626b,626cを区別しない場合には、単に「ローラー表面部626」とも呼ぶ。
【0032】
図4は、比較形態としての破材搬送ニップローラーの概略構成を示す説明図である。
図4は、比較形態の破材搬送ニップローラー602Rを、
図3(A)と同様に、搬送路下流側から見た概略正面図である。比較形態の破材搬送ニップローラー602Rは、中心軸622に対して、それぞれ独立した3つの上側ローラー620a,620b,620cを備えるとともに、巻き込み防止フォーク630を備えていない点が、実施形態の破材搬送ニップローラー602(
図3)と異なっている。各上側ローラー620a,620b,620cは、それぞれの上側ローラー部624a,624b,624cの表面にそれぞれのローラー表面部626a,626b,626cが設けられた従動ローラーである。なお、
図4も、
図3(A)と同様に、3つの上側ローラー620Ra,620Rb,620Rcの内部構成を概略的に示すために、破線BLの上側について概略断面で示している。
【0033】
図5は、比較形態の破材搬送ニップローラーにおける破材搬送と実施形態の破材搬送ニップローラーにおける破材搬送とを比較して示す説明図である。破材10Smeの余白Y部の幅ayが基準幅a0よりも太くなり、余白X部の幅axが基準幅a0よりも細くなった場合を前提として説明する。なお、余白の幅の変化は、帯状MEAシート10Sが蛇行して裁断機400へ搬送されることや、シートの幅の変動、装置の寸法精度等の種々の要因によって変化する。
【0034】
図5(A)に示すように、比較形態の破材搬送ニップローラー602R(
図4)では、余白Y部のように、その幅ayが基準幅a0より太い部分では、下側ローラー610の周速Vy1と上側ローラー620aの周速Vy2とが等しく、これに応じた基準の送り量F0に等しい送り量Fyで破材10Smeの余白Y部が送り出される。これに対して、余白X部のように、その幅axが基準幅a0より細い部分では、その細さに応じて破材10Smeが下側ローラー610の回転に追従できずに滑りが生じる。これにより、余白X部の送り量Fxは基準の送り量F0すなわち余白Y部の送り量Fyよりも小さくなり、余白X部の送り量Fxと余白Y部の送り量Fyとに差が発生する。この場合、上側ローラー620cの周速Vx2は、余白X部の送り量の低下に応じて下側ローラー610Rの周速Vx1よりも小さくなる。
【0035】
ここで、上述したように破材回収ロール604は、破材搬送ニップローラー602Rと協働して破材10Smeを巻き取り回収するため、余白Y部における送り量に応じた引張力で破材10Smeを巻き取る。このため、余白X部では、送り量FXに対応する引張力よりも強い力で破材回収ロール604によって引っ張られることになり、過大な引張力が加わって破断に至り、破材搬送ニップローラー602Rからの破材10Smeの送り出しができなくなる可能性がある。
【0036】
これに対して、本実施形態の破材搬送ニップローラー602(
図3)では、上述したように、余白X部に対応するローラー表面部626aと余白Y部に対応するローラー表面部626cとが一体的に回転する。このため、
図5(B)に示すように、余白X部においても、対応するローラー表面部626aの周速Vx2が余白Y部に対応するローラー表面部626cの周速Vy2(=Vy2)と等しく、下側ローラー610の周速Vx1(=Vy1)と等しくなる。これにより、余白X部の送り量Fxが余白Y部の送り量Fxすなわち基準の送り量F0と等しくなり、破断の発生を抑制することが可能となる。
【0037】
図6は、巻き込み防止フォークの効果を示す説明図である。
図6(A)は巻き込みフォーク630が設けられていない場合を示し、
図6(B)は巻き込み防止フォーク630が設けられている場合を示している。上述したように、破材10Smeには、MEAが裁断されては余白部分が梯子状になった部分と、GDLが接合されないCCMの部分や触媒電極層が形成されない電解質膜の部分、MEAが裁断されなかった部分等と、が混在している(
図2)。GDLが接合されていないCCMや電解質膜の部分は、剛性が低く、伸びやすく、上側ローラー620のローラー表面部626に貼り付きやすい、という特徴がある。従って、
図6(A)に示すように巻き込み防止フォーク630が設けられていない場合には、破材10Smeに残っているCCMや電解質膜の部分が、上側ローラー620のローラー表面部626に貼り付き、上側ローラー620に巻き込まれて搬送ができなくなる、という可能性がある。ただし、複数のローラー表面部626a,626b,626cの隣り合うローラー表面部の間には溝Gaが設けられているので、この溝Gaに存在する空気の層によってローラー表面部への破材10Smeの貼り付きをある程度抑制することは可能である。しかしながら、破材10Smeの貼り付き度合いによっては上側ローラー620への巻き込みを防止できない可能性がある。
【0038】
これに対して、巻き込み防止フォーク630(
図3)が設けられている場合には、仮に、破材10Smeが巻き込まれ始めたとしても、
図6(B)に示すように、溝Gaに挿入固定された巻き込み防止フォーク630の先部632によって、ローラー表面部626に貼り付こうとする破材10Smeを剥がすことができるので、巻き込みを防止することができる。なお、巻き込み防止フォーク630が本発明の巻き込み規制機構に相当する。
【0039】
以上のように、実施形態のMEAの製造装置では、MEAが裁断された後に残された破材の余白の幅が細くても、破材搬送ニップローラー602によって破材の破断を抑制しつつ搬送して、破材を効率良く回収することができる。これにより、帯状MEAシートからMEAが切り抜かれた後の破材の余白量を少なくすることが可能であり、MEAを量産する上での歩留まりを向上させ、製品コストの低減に寄与することができる。
【0040】
上記実施形態の破材搬送ニップローラー602では、上側ローラー620の上側ローラー部624のローラー表面に3つのローラー表面部626a,626b,626cが設けられている場合を例に説明しているが、これに限定されるものではない。破材の一方の端部の余白部を下側ローラー610とともにニップするローラー表面部と、破材の他方の端部の余白部を下側ローラー610とともにニップするローラー表面部の、少なくとも2つのローラー表面部が設けられていればよい。
【0041】
また、上記実施形態では、帯状CCMシートのアノード触媒電極層側に枚葉状のGDLを貼り合わせて接合した後に、所定のサイズの枚葉状のMEAを裁断する場合を例に説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、カソード触媒電極側にも枚葉状のGDLを貼り合わせて接合した後に、所定のサイズのMEAを裁断するようにしても良い。また、帯状CCMシートを作製した後に、CCMをMEAとして所定のサイズの枚葉状のMEAを裁断するようにしてもよい。
【0042】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。