【文献】
坂本洋一(他3名),面異方性MnAlC磁石,National Technical Report,株式会社オーム社,1982年12月18日,第28巻 第6号,1171-1180頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
希土類磁石材料となる粉末であって、RE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる粉末を加圧成形して成形体を製造する第1のステップ、
前記成形体に異方性を与える熱間塑性加工を施して希土類磁石を製造する第2のステップからなり、
前記第2のステップにおける熱間塑性加工は、押出し加工をおこなって希土類磁石中間体を製造し、希土類磁石中間体に対して据え込み加工をおこなって希土類磁石を製造する2段階のステップからなり、
押出し加工では、成形体をダイスに収容し、該成形体を押出しパンチで加圧して成形体の厚みを減じながら押出して板状の希土類磁石中間体を製造するものであり、
据え込み加工では、板状の希土類磁石中間体をその厚み方向に加圧して該厚みを減じて希土類磁石を製造するものである希土類磁石の製造方法。
押出し加工で製造された板状の希土類磁石中間体において、押出し加工の際の押出し方向をL方向、押出し加工の際の押出し方向に直交する方向をW方向、L方向軸とW方向軸で形成される平面に直交する方向であって板状の希土類磁石中間体の厚み方向を容易磁化方向であるC軸方向とした場合に、
据え込み加工後の希土類磁石のW方向の残留磁化Br(W)と、L方向の残留磁化Br(L)の比で表される面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるように据え込み加工時のL方向の伸びとW方向の伸びを調整する、請求項1または2に記載の希土類磁石の製造方法。
据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率の比率:W方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となるようにL方向の伸びとW方向の伸びを調整する、請求項3に記載の希土類磁石の製造方法。
据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率の比率:W方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となるように据え込み加工時の型の寸法を調整し、該型に希土類磁石中間体を収容して据え込み加工をおこなう請求項4に記載の希土類磁石の製造方法。
据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率の比率:W方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となるように押出し加工にて製造された希土類磁石中間体のL方向軸とW方向軸で形成される平面の寸法を調整し、据え込み加工をおこなう請求項4に記載の希土類磁石の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ランタノイド等の希土類元素を用いた希土類磁石は永久磁石とも称され、その用途は、ハードディスクやMRIを構成するモータのほか、ハイブリッド車や電気自動車等の駆動用モータなどに用いられている。
【0003】
この希土類磁石の磁石性能の指標として残留磁化(残留磁束密度)と保磁力を挙げることができるが、モータの小型化や高電流密度化による発熱量の増大に対し、使用される希土類磁石にも耐熱性に対する要求は一層高まっており、高温使用下で磁石の磁気特性を如何に保持できるかが当該技術分野での重要な研究課題の一つとなっている。
【0004】
希土類磁石としては、組織を構成する結晶粒(主相)のスケールが3〜5μm程度の一般的な焼結磁石のほか、結晶粒を50nm〜300nm程度のナノスケールに微細化したナノ結晶磁石があるが、中でも、上記する結晶粒の微細化を図りながら高価な重希土類元素の添加量を低減すること(フリー化)のできるナノ結晶磁石が現在注目されている。
【0005】
希土類磁石の製造方法の一例を概説すると、たとえばNd-Fe-B系の金属溶湯を急冷凝固して得られた微粉末を加圧成形しながら成形体とし、この成形体に磁気的異方性を付与するべく熱間塑性加工を施して希土類磁石(配向磁石)を製造する方法が一般に適用されている。
【0006】
この熱間塑性加工に関しては、これまで様々な技術の開示がある。一般的な熱間塑性加工は、磁粉を成形した成形体(バルク体)をダイスに収容し、パンチで成形体を加圧する据え込み加工によるものである。しかしながら、この据え込み加工では、加工された希土類磁石において引張り応力が生じる最外周部位に必ずといってよいほど割れ(微小割れを含む)が発生することが大きな問題となっている。すなわち、据え込み加工の場合においては、希土類磁石の端面に作用する摩擦によって外周部が張り出し、このことによって引張り応力が生じる。この引張り応力に対し、Nd-Fe-B系の希土類磁石は引張り強度が弱いことからこの引張り応力に起因する割れの発生を抑えることが難しく、たとえば加工率が40〜50%程度で割れが発生すると言われている。また、歪みの分布は残留磁化(Br)の不均一さと等価であり、特に50%以下の歪み領域では残留磁化が著しく低く、材料歩留まりが低くなっている。この問題を解決するために摩擦抵抗を低減することが考えられるが、熱間で潤滑される従来の方法では液体潤滑による方法しかなく、開放系の据え込み加工では適用が困難である。
【0007】
このように希土類磁石に割れが生じてしまうと、配向度を高めるために形成された加工歪が割れた箇所で開放されてしまい、歪エネルギーを結晶配向に十分に向けることができなくなり、これが残留磁化の向上を妨げる理由となっている。
【0008】
そこで、このような据え込み加工の際に割れが生じるといった課題を解消するべく、特許文献1〜5には、成形体の全体を金属カプセル内に封入した後にこの金属カプセルを上下のパンチで押圧しながら熱間塑性加工をおこなうことにより、熱間塑性加工の際に問題となっている割れを解消しながら、希土類磁石の磁気的異方性を向上できると謳う技術が開示されている。
【0009】
特許文献1〜5で開示の技術では割れを解消できるとしているが、このように金属カプセルに封入する方法の場合には、冷却時に熱膨張の違いによって熱間塑性加工されてできた希土類磁石が金属カプセルによって強い拘束を受け、割れを生じさせてしまうことが知られている。このように金属カプセルを使用した場合でも割れが生じてしまうという課題を回避するべく、特許文献6には、多段階で据え込み加工をおこなうことで金属カプセルを薄くし、このことによって金属カプセルによる拘束力を低減する方法が開示されている。たとえば特許文献6では肉厚7mm以上の鉄板を用いた実施例の開示がある。しかしながら、肉厚7mm以上の鉄板では割れを完全に防ぐ程度にまで厚みが薄くなったとは言い切れず、実際に割れが生じることが知られている。さらに、据え込み加工後の磁石形状がニアネットシェープと言えず、仕上げ加工が全面必須となって材料歩留まりが低下することや、加工費用の上乗せ等による加工費増大といったデメリットが大きい。
【0010】
また、従来技術に無い程度に成形体の全面に金属カプセルを覆うようにしてこの金属カプセルの肉厚を小さくしていった場合に、歪速度が1/sec以上ではカプセルが破れてしまい、加工された希土類磁石には不連続な凹凸が生じて配向が乱れ、高い残留磁化が見込み難くなってしまう。
【0011】
そこで、従来一般に適用されている据え込み加工に変わって、熱間塑性加工として押出し加工を適用して成形体に歪みを付与する方法が考えられる。
【0012】
たとえば特許文献7には、予備成形体から押出し成形される永久磁石における押出し断面のX方向の寸法を絞り、これと直交するY方向の寸法を拡げることにより、予備成形体に対する永久磁石における押出し方向の歪みε
1と、Y方向の歪みε
2との歪み比ε
2/ε
1が0.2〜3.5の範囲となるよう押出し加工する方法が開示されている。なお、従来の押出し加工は一般に円環状に押出すものであるが、特許文献7で開示の方法は板状に押出すものである。
【0013】
すなわち、この方法は、圧縮方向とこれに垂直な方向の伸びを制御することで配向度を高めるものであるが、実際にこのような直交方向の伸びを精緻に制御するための成形型の形状は複雑なものとならざるを得ず、設備コスト増は必至となる。加えて、押出し加工は進行方向に均一な歪みを導入できるが、成形型との摩擦面積が大きく、加工品はその中心に低い歪み領域が形成され易い。この理由は、押出し加工は圧縮力とせん断力の付与のみによって加工を可能とするものであり、このことから引張りによる割れの発生を抑えることができるものであるが、このことは逆に言えば、常に摩擦がかかっているために押出し品の表面が高歪領域となり、中心が低歪領域となるためである。
【0014】
この押出し加工についてさらに言及するに、たとえばNd-Fe-B系の希土類磁石を熱間塑性加工によって結晶配向させるに当たり、800℃近い温度で200MPa程度の力が作用することから、高温高強度の材質の成形型が要求される。たとえば、インコネルや超硬などが成形型の素材として好適であるが、これらの超硬素材金属はいずれも難削材であり、加工コストが大きな負担となる。また、特許文献7で開示の技術のように板状に押出す押出し加工においては、その形状ゆえに押出し品の角部への応力集中が円環状の押出し品と比較して大きくなり、成形型の耐久性が低下して一つの成形型で生産できる量が少なくなってしまい、このことも加工コスト増の要因となる。実際に、特許文献7で開示の技術に関しては、加工品の性能向上が謳われているものの、押出し形状は三次元的な複雑形状であり、金型を分割しなければ加工できないことから、加工コストの増加はより顕著なものとなる。
【0015】
以上のことより、熱間塑性加工を経て希土類磁石を製造するに当たり、加工コストを増加させることなく、製造される希土類磁石の全領域おいて良好に歪みが齎され、配向度が高く、もって残留磁化の高い希土類磁石を製造することのできる製造方法の開発が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、熱間塑性加工を経て希土類磁石を製造するに当たり、加工コストを増加させることなく、製造される希土類磁石の全領域において良好に歪みが齎され、配向度が高く、もって残留磁化の高い希土類磁石を製造することのできる希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成すべく、本発明による希土類磁石の製造方法は、希土類磁石材料となる粉末であって、RE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる粉末を加圧成形して成形体を製造する第1のステップ、前記成形体に異方性を与える熱間塑性加工を施して希土類磁石を製造する第2のステップからなり、前記第2のステップにおける熱間塑性加工は、押出し加工をおこなって希土類磁石中間体を製造し、希土類磁石中間体に対して据え込み加工をおこなって希土類磁石を製造する2段階のステップからなり、押出し加工では、成形体をダイスに収容し、該成形体を押出しパンチで加圧して成形体の厚みを減じながら押出して板状の希土類磁石中間体を製造するものであり、据え込み加工では、板状の希土類磁石中間体をその厚み方向に加圧して該厚みを減じて希土類磁石を製造するものである。
【0019】
本発明の製造方法は、熱間塑性加工において、押出し加工、据え込み加工の順に熱間塑性加工をおこなうことで、押出し加工の際に生じ易い押出し加工品(希土類磁石中間体)の中央領域の低歪み領域に対し、次の据え込み加工によって高い歪みを付与することで、製造される希土類磁石の全領域に対して良好に高歪みを付与することができ、もって配向度が高く、残留磁化の高い希土類磁石を製造することができるものである。
【0020】
本発明の製造方法は、第1のステップとして、希土類磁石材料となる粉末を加圧成形して成形体を製造する。
【0021】
ここで、本発明の製造方法が製造対象とする希土類磁石には、組織を構成する主相(結晶)の粒径が200nm以下程度のナノ結晶磁石は勿論のこと、粒径が300nm以上のもの、さらには粒径が1μm以上の焼結磁石や樹脂バインダーで結晶粒が結合されたボンド磁石などが包含される。中でも、最終的に製造される希土類磁石の主相の平均最大寸法(平均最大粒径)が300〜400nm程度かそれ以下となるように熱間塑性加工前の段階の磁粉の主相の寸法が調整されているのが望ましい。
【0022】
液体急冷にて微細な結晶粒である急冷薄帯(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕等して希土類磁石用の磁粉を製作し、この磁粉をたとえばダイス内に充填してパンチで加圧しながら焼結してバルク化を図ることで等方性の成形体を得る。
【0023】
この成形体は、たとえばナノ結晶組織のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種で、より具体的にはNd、Pr、Nd-Prのいずれか一種もしくは二種以上)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる金属組織を有している。
【0024】
第1のステップにて製造された成形体に対し、第2のステップにて異方性を与える熱間塑性加工を施すことによって配向磁石である希土類磁石を製造する。
【0025】
第2のステップは、押出し加工をおこなうことで希土類磁石中間体を製造し、次にこの希土類磁石中間体に対して据え込み加工をおこなうことで希土類磁石を製造する2段階のステップから構成されている。
【0026】
押出し加工では、第1のステップにて製造された成形体をダイスに収容し、成形体を押出しパンチで加圧して成形体の厚みを減じながら押出して板状の希土類磁石中間体を製造する。この押出し加工においては、大きく2つの加工形態がある。その一つの加工方法は、板状の中空を有する押出しパンチを使用し、この押出しパンチで成形体を加圧して成形体の厚みを減じながら押出しパンチの中空に成形体の一部を押出して板状の希土類磁石中間体を製造する加工方法であり、いわゆる後方押出し方法(パンチの押出し方向と逆の方向に成形体を押出しながら希土類磁石中間体を製造する方法)によるものである。一方、他の一つの加工方法は、板状の中空を有するダイスを使用してこのダイスに成形体を収容し、中空を具備しないパンチで成形体を加圧して成形体の厚みを減じながらダイスの中空から成形体の一部を押出して板状の希土類磁石中間体を製造する加工方法であり、いわゆる前方押出し方法(パンチの押出し方向に成形体を押出しながら希土類磁石中間体を製造する方法)によるものである。いずれの方法であっても、この押出し加工では、押出しパンチにて加圧されてできた希土類磁石中間体において、この押出しパンチによる加圧方向と垂直な方向に異方性が生じてくる。すなわち、押出しパンチの有する板状の中空における板状の厚み方向に異方性が生じる。
【0027】
この段階で製造される希土類磁石中間体は、その中央領域において外側領域に比して低い歪み領域となっていることから異方性が不十分である。
【0028】
そこで、押出し加工にて押出されてできた板状の希土類磁石中間体において、異方軸方向となっている希土類磁石中間体の厚み方向に該希土類磁石中間体を加圧する据え込み加工をおこなう。このことにより、希土類磁石中間体の厚みを減じてその中央の低歪み領域に良好に歪みを付与して中央の異方性を良好なものとし、全体的に異方性が良好で残留磁化の高い希土類磁石が製造される。
【0029】
また、本発明による希土類磁石の製造方法の好ましい実施の形態として、押出し加工での加工率が50〜80%であり、据え込み加工での加工率が10〜50%である形態を挙げることができる。
【0030】
上記する二種類の加工における加工率の数値範囲は本発明者等の検証によって特定されたものである。押出し加工においては、加工率が50%より低いと押出し時点での残留磁化が低いため、次の据え込み加工における加圧量を大きくせざるを得なくなり、結果として製造された希土類磁石の外周に割れが生じ易くなる。一方、加工率が80%を超える範囲では押出し加工の際の歪みが大きすぎるために結晶組織に割れが生じ易く、結果として残留磁化が低下し易い。これらの検証結果より、押出し加工の際の加工率の上下限値が規定されている。
【0031】
一方、据え込み加工においては、加工率が10%未満では希土類磁石中間体の中心に歪みを十分に付与することができず、結果として全体的に高い残留磁化を有する希土類磁石を得られ難い。また、加工率が50%を越えると製造された希土類磁石の外周において引張り応力に起因した割れが生じ易い。これらの検証結果より、据え込み加工の際の加工率の上下限値が規定されている。
【0032】
なお、第2のステップにて製造された希土類磁石(配向磁石)に対し、Nd-Cu合金、Nd-Al合金、Pr-Cu合金、Pr-Al合金等の改質合金を粒界拡散し、保磁力が一層高められた希土類磁石としてもよい。Nd-Cu合金の共晶温度は520℃程度、Pr-Cu合金の共晶温度は480℃程度、Nd-Al合金の共晶温度は640℃程度、Pr-Al合金の共晶温度は650℃程度であり、いずれもナノ結晶磁石を構成する結晶粒の粗大化を齎す700℃〜1000℃を大きく下回っていることから、希土類磁石がナノ結晶磁石の場合に特に好適である。
【0033】
また、希土類磁石材料となる粉末のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種)に関し、REの含有割合が29質量%≦RE≦32質量%であり、製造された希土類磁石の主相の平均粒径が300nm以下であるのが好ましい。
【0034】
REが29質量%未満では熱間塑性加工時に割れが生じ易くなり、配向性が極めて悪くなること、REが32質量%を越えると熱間塑性加工の歪みは軟らかい粒界で吸収されてしまい、配向性が悪くなる上に主相率が小さくなるために残留磁化が小さくなることによるものである。
【0035】
また、本発明による希土類磁石の製造方法の好ましい実施の形態として、押出し加工で製造された板状の希土類磁石中間体において、押出し加工の際の押出し方向をL方向、押出し加工の際の押出し方向に直交する方向をW方向、L方向軸とW方向軸で形成される平面に直交する方向であって板状の希土類磁石中間体の厚み方向を容易磁化方向であるC軸方向とした場合に、据え込み加工後の希土類磁石のW方向の残留磁化Br(W)と、L方向の残留磁化Br(L)の比で表される面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるように据え込み加工時のL方向の伸びとW方向の伸びを調整するものである。
【0036】
希土類磁石の容易磁化方向(C軸方向)に異方性を付与するべく、このC軸方向に直交する平面を規定するL方向軸とW方向軸の双方の軸方向の異方性を無くす、もしくは可及的に少なくすることが本実施の形態の製造方法である。
【0037】
L方向は押出し加工の際の押出し方向であり、したがって、押出し加工によって製造された希土類磁石中間体においては、W方向への伸びはごく僅かであるのに対してL方向への伸びは大きい。そのため、希土類磁石中間体において、L方向の磁気特性は大きく改善される一方でW方向の磁気特性の改善は少ない。
【0038】
そこで、押出し加工に続く据え込み加工(鍛造加工)において、今度はL方向への伸びに対してW方向への伸びを大きくすることにより、製造された希土類磁石のL方向の磁気特性とW方向の磁気特性を同程度とすることができ、L方向軸とW方向軸で形成される面内の異方性を無くすことができ、結果としてこのL方向軸とW方向軸で形成される面に直交する容易磁化方向(C軸方向)の異方性を高め、希土類磁石の残留磁化:Brを向上させることができる。
【0039】
本発明者等の検証によれば、W方向の残留磁化:Br(W)と、L方向の残留磁化:Br(L)の比で表される面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるように据え込み加工時のL方向の伸びとW方向の伸びを調整することにより、高いC軸方向の残留磁化が得られることが特定されている。
【0040】
なお、面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるような据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率の比率:W方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となることも特定されている。
【0041】
ここで、据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率の比率:W方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となるように据え込み加工時のL方向の伸びとW方向の伸びを調整する方法の実施の形態として、製造される希土類磁石中間体を収容して据え込み加工をおこなう際の型の寸法を調整しておき、上記比率となるような寸法の型を使用する方法を挙げることができる。
【0042】
また、他の方法としては、押出し加工で製造された板状の希土類磁石中間体のL方向軸とW方向軸で形成される平面の寸法を調整しておく方法がある。すなわち、平面視矩形の希土類磁石中間体を側面拘束なしの状態で上下からパンチ等で押圧して潰した場合、上下のパンチと中間体の上下面との間に生じる摩擦力により、短辺に沿う方向への中間体の伸びは長辺に沿う方向への伸びに比して高い伸びを示す。この作用を利用するべく、据え込み加工時のW方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となるように、押出し加工で製造された板状の希土類磁石中間体のL方向とW方向の長さを調整し、寸法が調整された希土類磁石中間体に据え込み加工を実施するものである。
【発明の効果】
【0043】
以上の説明から理解できるように、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、熱間塑性加工において、押出し加工、据え込み加工の順に熱間塑性加工をおこなうことで、押出し加工の際に生じ易い押出し加工品(希土類磁石中間体)の中央領域の低歪み領域に対し、次の据え込み加工によって高い歪みを付与することで、製造される希土類磁石の全領域に対して良好に高歪みを付与することができ、もって配向度が高く、残留磁化の高い希土類磁石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】(a)、(b)の順で本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態1の第1のステップを説明した模式図である。
【
図2】第1のステップで製造された成形体のミクロ構造を説明した図である。
【
図3】(a)は製造方法の実施の形態1の第2のステップのうち、押出し加工方法を説明した模式図であり、(b)は
図3aのb―b矢視図である。
【
図4】(a)は押出し加工によって製造された希土類磁石中間体の一部を切断している状況を説明した模式図であり、(b)は第2のステップにおける据え込み加工方法を説明した模式図である。
【
図5】押出し加工および据え込み加工の際の加工品の歪み分布を説明した図である。
【
図6】製造された本発明の希土類磁石(配向磁石)のミクロ構造を説明した図である。
【
図7】製造方法の実施の形態2の第2のステップを説明した模式図である。
【
図8】加工率70%の押出し加工による希土類磁石の部位ごとの残留磁化向上率に関する実験結果を示した図である。
【
図9】加工率25%の据え込み加工による希土類磁石の部位ごとの残留磁化向上率に関する実験結果を示した図である。
【
図10】加工率70%の押出し加工および加工率25%の据え込み加工による希土類磁石の部位ごとの残留磁化向上率に関する実験結果を示した図である。
【
図11】押出し加工の加工率と残留磁化の関係に関する実験結果を示した図である。
【
図12】押出し加工と据え込み加工それぞれの加工率と残留磁化の関係に関する実験結果を示した図である。
【
図13】W方向の伸び率/L方向の伸び率と各方向の伸び率の関係を特定する実験結果を示した図である。
【
図14】W方向の伸び率/L方向の伸び率と容易磁化方向の残留磁化:Brの関係を特定する実験結果を示した図である。
【
図15】面内異方性指数とC軸方向の残留磁化:Brの関係を特定する実験結果を示した図である。
【
図16】W方向の伸び率/L方向の伸び率と面内異方性指数とC軸方向の残留磁化:Brの関係を特定する実験結果を示した図である。
【
図17】L方向の伸びとW方向の伸びの差が大きな場合における、希土類磁石のL方向およびW方向の結晶組織のSEM像を示した図である。
【
図18】L方向の伸びとW方向の伸びの差が小さな場合における、希土類磁石のL方向およびW方向の結晶組織のSEM像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照して本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態を説明する。なお、図示例はナノ結晶磁石である希土類磁石の製造方法を説明したものであるが、本発明の希土類磁石の製造方法はナノ結晶磁石の製造に限定されるものではなく、結晶粒の相対的に大きな焼結磁石(たとえば1μm程度の粒径のもの)等の製造に適用できることは勿論のことである。また、図示例の第2のステップにおける押出し加工は、板状の中空を有する押出しパンチを使用し、この押出しパンチで成形体を加圧して成形体の厚みを減じながら押出しパンチの中空に成形体の一部を押出して板状の希土類磁石中間体を製造する加工方法(後方押出し方法)であるが、図示例以外にも、板状の中空を有するダイスを使用してこのダイスに成形体を収容し、中空を具備しないパンチで成形体を加圧して成形体の厚みを減じながらダイスの中空から成形体の一部を押出して板状の希土類磁石中間体を製造する加工方法(前方押出し方法)であってもよいことは勿論のことである。
【0046】
(希土類磁石の製造方法の実施の形態1)
図1a、bはその順で本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態1の第1のステップを説明した模式図であり、
図2は第1のステップで製造された成形体のミクロ構造を説明した図である。また、
図3aは製造方法の実施の形態1の第2のステップのうち、押出し加工方法を説明した模式図であり、
図3bは
図3aのb―b矢視図である。さらに、
図4aは押出し加工によって製造された加工品の一部を切断して中間体を製造した状態を説明した模式図であり、
図4bは第2のステップにおける据え込み加工方法を説明した模式図である。
【0047】
図1aで示すように、たとえば50kPa以下に減圧したArガス雰囲気の不図示の炉中で、単ロールによるメルトスピニング法により、合金インゴットを高周波溶解し、希土類磁石を与える組成の溶湯を銅ロールRに噴射して急冷薄帯B(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕する。
【0048】
粗粉砕された急冷薄帯のうち、最大寸法が200nm程度かそれ以下の寸法の急冷薄帯Bを選別し、これを
図1bで示すように超硬ダイスDとこの中空内を摺動する超硬パンチPで画成されたキャビティ内に充填する。そして、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)加圧方向に電流を流して通電加熱することにより、ナノ結晶組織のNd-Fe-B系の主相(50nm〜200nm程度の結晶粒径)と、主相の周りにあるNd-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる四角柱状の成形体Sを製作する(第1のステップ)。なお、REの含有割合は29質量%≦RE≦32質量%であるのが望ましい。
【0049】
ここで、粒界相を構成するNd-X合金は、Ndと、Co、Fe、Ga等のうちの少なくとも1種以上の合金からなり、たとえば、Nd-Co、Nd-Fe、Nd-Ga、Nd-Co-Fe、Nd-Co-Fe-Gaのうちのいずれか一種、もしくはこれらの二種以上が混在したものであって、Ndリッチな状態となっている。
【0050】
図2で示すように、成形体Sはナノ結晶粒MP(主相)間を粒界相BPが充満する等方性の結晶組織を呈している。
【0051】
第1のステップで四角柱状の成形体Sが製造されたら、
図3で示す押出し加工をおこなった後、この押出し加工で製造された希土類磁石中間体に対して
図4で示す据え込み加工をおこない、この押出し加工および据え込み加工からなる熱間塑性加工によって希土類磁石(配向磁石)を製造する(第2のステップ)。以下、第2のステップをより詳細に説明する。
【0052】
まず、
図3aで示すように、ダイスDaに第1のステップで製造された成形体を収容し、高周波コイルCoでダイスDaを加熱して加熱状態の成形体S’を形成する。なお、成形体の収容に先んじて、ダイスDaの内面や押出しパンチPDの板状の中空PDaの内面には潤滑剤を塗布しておく。
【0053】
板状の中空PDaを具備する押出しパンチPDにて加熱状態の成形体S’を加圧し(Y1方向)、この加圧によって加熱状態の成形体S’はその厚みを減じながら一部は板状の中空PDaに押出されていく(Z方向)。
【0054】
ここで、この押出し加工の際の加工率は、(t0-t1)/t0で表され、60〜80%の加工率で加工されるのが望ましい。
【0055】
この押出し加工により、
図4aで示す希土類磁石中間体S”が製造される。この希土類磁石中間体S”のうち、厚みt1を有する板状の部分のみをカットし、正規の希土類磁石中間体として次の据え込み加工に適用する。
【0056】
すなわち、
図4bで示すように、上下のパンチPM(アンビル)間に厚みt1の希土類磁石中間体S”を載置し、高周波コイルCoでパンチPMを加熱し、希土類磁石中間体S”を加熱しながら上方のパンチPMで希土類磁石中間体S”の厚み方向に加圧し(Y1方向)、その厚みを当初のt1からt2に減じることで配向磁石である希土類磁石Cが製造される。
【0057】
ここで、この据え込み加工の際の加工率は、(t1-t2)/t1で表され、10〜30%の加工率で加工されるのが望ましい。
【0058】
なお、熱間塑性加工の押出し加工および据え込み加工の際の歪み速度は0.1/sec以上に調整されている。また、熱間塑性加工による加工率(圧縮率)が大きい場合、たとえば圧縮率が10%程度以上の場合の熱間塑性加工を強加工と称することができる。
【0059】
押出し加工および据え込み加工の際の加工品の歪み分布を説明した
図5から明らかなように、最初の押出し加工によって製造された希土類磁石中間体はその表面に高い歪み領域が形成される一方で、その中心は低い歪み領域となり、外側の領域に比して中心の異方性が不十分である。
【0060】
そこで、この希土類磁石中間体に据え込み加工をおこなうことで、表面の高い歪み領域は維持されながら、中心の低い歪み領域に良好に歪みが付与され、中心も高い歪み領域となり、製造された希土類磁石は全体的に高い歪み領域を有するものとなる。
【0061】
このように、第2のステップにおいて、押出し加工、据え込み加工の順に熱間塑性加工をおこなうことで、押出し加工の際に生じ易い希土類磁石中間体の中央領域の低歪み領域に対し、次の据え込み加工によって高い歪みを付与することで、製造される希土類磁石の全領域に対して良好に高歪みを付与することができ、もって配向度が高く、残留磁化の高い希土類磁石を製造することができる。
【0062】
押出し加工および据え込み加工の2段階の加工からなる熱間塑性加工により、製造された希土類磁石C(配向磁石)は、
図6で示すようにナノ結晶粒MPが扁平形状をなし、異方軸とほぼ平行な界面は湾曲したり屈曲していて、磁気的異方性に優れた希土類磁石Cとなっている。
【0063】
図示する配向磁石Cに関し、RE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種、もしくはこれらの中間生成物であるDi(ジジム))と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる金属組織を有しており、REの含有割合が29質量%≦RE≦32質量%であり、製造された希土類磁石の主相の平均粒径は300nmとなっているのがよい。REの含有割合が上記範囲にあることで、熱間塑性加工時の割れの発生抑止効果が一層高く、高い配向度を保証することができる。また、REの含有割合が上記範囲であることで、高い残留磁化を保証できる主相の大きさが確保できる。
【0064】
(希土類磁石の製造方法の実施の形態2)
次に、
図7を参照して希土類磁石の製造方法の実施の形態2を説明する。ここで、
図7は第2のステップの他の実施の形態を説明した模式図である。すなわち、製造方法の実施の形態2の第1のステップは製造方法の実施の形態1と同様であり、第2のステップに改良を加えたものである。
【0065】
第1のステップで製造された成形体Sは、容易磁化方向であるC軸方向と、このC軸方向と直交する面を形成するL方向軸およびW方向軸を有している。なお、第2のステップの押出し加工の際の押出し方向をこのL方向(L方向軸に沿う方向)、押出し加工の際の押出し方向に直交する方向をW方向(W方向軸に沿う方向)とする。
【0066】
第2のステップの押出し加工によって製造された希土類磁石中間体S”(厚みt
0)においては、押出し加工の際の押出し方向がL方向であることから、W方向への伸びが僅かであるのに対してL方向への伸びは大きい(L
0>W
0)。そのため、希土類磁石中間体S”において、L方向の磁気特性は大きく改善される一方でW方向の磁気特性の改善は少ない。そこで、押出し加工に続く据え込み加工において、今度はL方向への伸びに対してW方向への伸びを大きくすることにより(W
1−W
0>L
1−L
0)、製造された希土類磁石C(厚みt
1)のL方向の磁気特性とW方向の磁気特性を同程度とし、L方向軸とW方向軸で形成される面内の異方性を無くすことができる。そして、この結果、このL方向軸とW方向軸で形成される面に直交する容易磁化方向(C軸方向)の異方性を高め、希土類磁石の残留磁化:Brを向上させることが可能となる。
【0067】
そのために、希土類磁石中間体S”を収容する型の寸法を調整し、型に希土類磁石中間体S”を収容して鍛造し、据え込み加工後の希土類磁石CのW方向の残留磁化Br(W)と、L方向の残留磁化Br(L)の比で表される面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるように据え込み加工時のL方向の伸びとW方向の伸びを調整する。
【0068】
ここで、面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるような据え込み加工時のW方向の伸びとL方向の伸びの比率:W方向の伸び率/ L方向の伸び率は、およそ1〜2.5の範囲となることが分かっている。そこで、このような双方の伸び率となるように据え込み加工の際に使用する型の寸法を調整しておき、このように寸法の調整された型を利用して希土類磁石中間体S”を鍛造することにより、W方向の伸びと L方向の伸びを精緻に制御することができる。
【0069】
また、面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下、もしくはW方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲とするための他の方法として、押出し加工で製造された板状の希土類磁石中間体のL方向軸とW方向軸で形成される平面の寸法を予め調整しておく方法がある。
【0070】
平面視矩形の希土類磁石中間体を側面拘束なしの状態で上下からパンチ等で押圧して潰した場合、上下のパンチと希土類磁石中間体の上下面との間に生じる摩擦力により、短辺に沿う方向への中間体の伸びは長辺に沿う方向への伸びに比して高い伸びを示す。この方法は、このように長辺と短辺の伸びの違いを利用するものであり、据え込み加工時のW方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となるように、押出し加工で製造された板状の希土類磁石中間体のL方向とW方向の長さを調整し、寸法が調整された希土類磁石中間体に据え込み加工を実施するものである。
【0071】
[押出し加工と据え込み加工による効果を確認した実験とその結果]
本発明者等は、押出し加工と据え込み加工の組み合わせにより、希土類磁石が全体として残留磁化を向上できることを確認するための実験をおこなった。
【0072】
(試験体の製造方法その1)
希土類合金原料(合金組成はat%で、Fe-30Nd-0.93B-4Co-0.4Ga)を所定量配合し、Ar雰囲気中で溶解した後、その溶湯をφ0.8mmのオリフィスからCrめっきを施したCu製の回転ロールに射出して急冷し、合金薄片を製造した。この合金薄片をAr雰囲気中でカッターミルで粉砕篩し、0.2mm以下の希土類合金粉末を得た。次に、この希土類合金粉末を20×20×40mmのサイズの超硬ダイスに収容し、上下を超硬ポンチで封止した。次に、これをチャンバーにセットし、10
-2Paに減圧し、400MPaを負荷させ、高周波コイルで加熱して650℃に加熱してプレス加工した。プレス加工の後、60秒保持してダイスから成形体(バルク体)を取り出し、熱間加工用の成形体とした。
【0073】
次に、
図3で示すダイスに成形体を収容し、高周波コイルでダイスを加熱し、ダイスからの伝熱によって成形体を800℃程度に昇温させ、ストローク速度25mm/sec(歪速度1/sec程度)で加工率70%の押出し加工を実施した。その後、製造された中間体をダイスから取り出し、
図4で示すように板状の部分の中間体のみを切り出し、切り出した板状の中間体を
図4bで示すようにダイス(アンビル)上に載置し、同じく高周波コイルでアンビルを加熱し、ダイスからの伝熱によって中間体を800℃に加熱し、ストローク速度4mm/sec(歪速度1/sec程度)で加工率25%の据え込み加工を実施して希土類磁石の試験体を得た。
【0074】
図8は加工率70%の押出し加工による希土類磁石の部位ごとの残留磁化向上率に関する実験結果を示した図である。また、
図9は加工率25%の据え込み加工による希土類磁石の部位ごとの残留磁化向上率に関する実験結果を示した図である。さらに
図10は加工率70%の押出し加工および加工率25%の据え込み加工による希土類磁石の部位ごとの残留磁化向上率に関する実験結果を示した図である。
【0075】
図8より、押出し加工による加工品では、その表面の残留磁化に比して中心の残留磁化は10%程度低くなっている。一方、
図9より、据え込み加工による加工品では、その表面の残留磁化に比して中心の残留磁化が逆に10%程度高くなっている。そして、
図10より、これら押出し加工と据え込み加工による加工品は、その表面も中心も同程度の残留磁化となっており、押出し加工の段階で残留磁化の低い中心付近の残留磁化が据え込み加工によって向上し、全体的に同程度の高い残留磁化を有する加工品となっていることが実証されている。
【0076】
[押出し加工、据え込み加工のそれぞれの加工率の最適範囲を特定するための実験とその結果]
本発明者等はさらに、押出し加工、据え込み加工のそれぞれの加工率の最適範囲を特定するための実験をおこなった。この実験では、押出し加工と据え込み加工のそれぞれの加工における加工率を種々変化させて試験体を製作し、それぞれの試験体の磁気特性(残留磁化と保磁力)を測定した。押出し加工と据え込み加工のそれぞれの加工率とそれぞれの試験体の磁気特性の結果を以下の表1に示す。また、
図11は表1の中から押出し加工のみの場合を取り出してグラフ化したものであり、
図12は表1の結果を全てグラフ化したものである。
【0077】
[表1]
(注記)保磁力単位kOeをSI単位(kA/m)に換算する場合には79.6を乗じて保磁力を算出。
【0078】
表1および
図11より、押出し加工に関し、押出し加工の際の加工率が50%未満の範囲では、押出し時点での残留磁化が低いために据え込み加工時の加工量が大きくなり、結果として製造された希土類磁石の外周部に割れが発生する。一方、押出し加工の際の加工率が80%を超える範囲(
図11の領域II)では、押出し時点での歪みが大きすぎるために結晶組織に割れが発生し、結果として製造された希土類磁石の残留磁化が低下する。
【0079】
対して、押出し加工の際の加工率が50%〜80%の範囲(
図11の領域I)では希土類磁石の残留磁化が最も高くなる。しなしながら、希土類磁石の中心部分の歪み量が低いためにこの押出し加工のみでは希土類磁石の全ての領域を高い残留磁化とすることはできない。なお、押出し加工の際の加工率50%の方が90%よりも残留磁化の値が小さいが、その後に据え込み加工を加えることで残留磁化を高めることができ、また、押出し加工の際の加工率が90%の場合は割れが生じてしまい、据え込み加工を加えることができない。
【0080】
そこで、加工率が50%〜80%の範囲で押出し加工をおこなうとともに据え込み加工をおこなうものであるが、表1および
図12より、据え込み加工の際の加工率が10%未満の範囲(
図12の領域II)では、希土類磁石の中心に歪みを十分に付与することができず、希土類磁石の全ての領域を高い残留磁化とすることはできないことが、円柱モデルに対して単純に据え込み加工をおこなった場合の歪み分布を評価する本発明者等によるCAE解析から特定されている(その際の摩擦係数は0.3に設定)。
【0081】
一方、据え込み加工の加工率が50%程度よりも高い範囲では、希土類磁石の外周部において引張り応力に起因した割れが発生することが、領域IIと同様に本発明者等によるCAE解析から特定されている。
【0082】
このように、本発明者等による実験とCAE解析の結果より、加工率が50〜80%の範囲で押出し加工を実施し、次いで加工率が10〜50%の範囲で据え込み加工を実施することにより、割れを生じさせることなく、全体的に高い残留磁化を有し、磁気特性に優れた希土類磁石が得られることが実証されている。
【0083】
[据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率を変化させた際の磁気特性を検証した実験とその結果]
本発明者等は、希土類磁石の容易磁化方向(C軸方向)への異方性を高め、このことによって残留磁化の高い希土類磁石を製造するに当たり、押出し加工時に生じた押出し方向(L方向)とこれに直交する方向(W方向)の伸びの違いを据え込み加工時に緩和することにより、押出し加工で製造された希土類磁石中間体のL方向軸とW方向軸で形成される平面内における異方性を解消し、この平面に直交する方向(C軸方向)の異方性を高めることができるという技術思想に至った。そこで、据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率が異なる5つの試験体を製作し、W方向の伸び率/L方向の伸び率と各方向の伸び率の関係を特定し、さらに、W方向の伸び率/L方向の伸び率と容易磁化方向の残留磁化:Brの関係を特定した。
【0084】
(試験体の製造方法その2)
試験体の製造方法に関し、板状の部分の中間体のみを切り出すまでは既述する試験体の製造方法その1と同様であり、その後、高周波コイルでアンビルを加熱し、ダイスからの伝熱によって中間体を800℃に加熱し、ストローク速度4mm/sec(歪速度1/sec程度)で加工率30%の据え込み加工を実施して希土類磁石の試験体を得た。
【0085】
試験体に関し、
図7で示す希土類磁石のW方向の伸び率/ L方向の伸び率:{(W
1−W
0)/W
0}/{(L
1−L
0)/L
0}を0.4〜2.5までの5段階に制御した。以下、表2に各試験体のW方向、L方向の伸び率、W方向の伸び率/ L方向の伸び率等を示し、W方向の伸び/L方向の伸びと各方向の伸び率の関係を
図13に示す。
【0087】
次に、5つの試験体の残留磁化(C軸方向の磁化)を測定した。測定結果を以下の表3と
図14に示す。
【0089】
表1と
図14より、W方向の伸び率/ L方向の伸び率が1.0で変曲点を迎え、1.0〜2.5の範囲では高い値の残留磁化が保持されていることが確認できる。試験体No.3〜5の残留磁化が高いのは、L方向軸とW方向軸で形成される平面(C軸方向に直交する平面)内における面内異方性が小さくなっている結果である。
【0090】
なお、後述する別途の実験結果より、W方向の伸び率/ L方向の伸び率が2.5を超えた範囲では面内異方性指数が1.20を超え、1.20以下とする規定範囲を逸脱することより、W方向の伸び率/ L方向の伸び率の範囲は1.0〜2.5の範囲が好ましい範囲であると規定できる。
【0091】
[面内異方性指数と残留磁化の関係、W方向の伸び率/ L方向の伸び率と面内異方性指数の関係をそれぞれ特定した実験とそれらの結果]
本発明者等は、多数の試験体を作成し、面内異方性指数と希土類磁石の残留磁化(C軸方向の磁束密度)の関係を特定した。ここで、面内異方性指数とは、据え込み加工後の希土類磁石のW方向の残留磁化Br(W)と、L方向の残留磁化Br(L)の比で表される面内異方性指数:Br(W)/Br(L)のことである。実験の結果を
図15に示す。
【0092】
図15より、面内異方性指数が1.2で残留磁化の変曲点を迎え、1.2以下の範囲では1.37T前後の高い残留磁化が得られることが確認できる。この実験結果より、据え込み加工後の希土類磁石のW方向の残留磁化Br(W)と、L方向の残留磁化Br(L)の比で表される面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるように据え込み加工時のL方向の伸びとW方向の伸びを調整するものとした。
【0093】
次に、W方向の伸び率/ L方向の伸び率と面内異方性指数の関係についても検証した。実験結果を
図16に示す。
【0094】
図16より、W方向の伸び率/ L方向の伸び率と面内異方性指数の相関グラフと面内異方性指数1.2以下の範囲と、既述するW方向の伸び率/ L方向の伸び率の範囲1.0〜2.5はほぼ一致する。そして、W方向の伸び率/ L方向の伸び率が2.5を超える範囲では面内異方性指数が1.2を超えることが想定される。この結果より、面内異方性指数:Br(W)/Br(L)が1.2以下となるように据え込み加工時のL方向の伸びとW方向の伸びを調整する、あるいは、据え込み加工時のW方向の伸び率とL方向の伸び率の比率:W方向の伸び率/ L方向の伸び率が1〜2.5の範囲となるようにL方向の伸びとW方向の伸びを調整するものとした。
【0095】
[面内異方性指数の異なる試験体の組織観察とその結果]
本発明者等はさらに、表2,3で示す各試験体の面内異方性指数を特定した。その結果を以下の表4に示す。また、面内異方性指数が1.2を超える試験体No.1と1.2以下の試験体No.4の組織を観察した。それぞれのSEM像を
図17,18に示す。
【0097】
図17のSEM像より、面内異方性指数が1.2を超える試験体No.1では、L方向の配向状態は良好である一方でW方向の配向状態は悪く、結果としてC軸方向の残留磁化は1.337と低い値となっている。
【0098】
一方、
図18のSEM像より、面内異方性指数が1.2以下の試験体No.4では、L方向の配向状態、W方向の配向状態は同程度の配向状態であり、結果としてC軸方向の残留磁化は1.370と高い値となっている。
【0099】
この観察結果より、面内異方性指数が1.2以下と低く、面内の2軸の配向状態が同程度である場合に、C軸方向の残留磁化が1.37前後と高い希土類磁石が得られることが確認された。
【0100】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。