(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜
図10を参照して本発明の一実施形態について説明する。
<概略構成>
図1に示すように、車両用シートスライド装置1は、第1レールに相当するロアレール30と、第2レールに相当するアッパレール40と、係止部材20と、スプリング50とを備える。
【0015】
ロアレール30は、その長手方向Lに延出するとともに、車両フロア2上に固定されている。この長手方向Lは車両の前後方向と同一方向である。アッパレール40は、ロアレール30に対して長手方向Lに相対移動可能に、ロアレール30に装着されている。
【0016】
ロアレール30及びアッパレール40は、長手方向Lに直交する幅方向Wでそれぞれ対をなして配設されている。
図2に示すように、対をなすアッパレール40上には、乗員の着座部を形成するシート5が固定されている。
【0017】
両アッパレール40間には、解除ハンドル60が連結されている。この解除ハンドル60は、両アッパレール40からシート5の前方に操作可能に延出している。この解除ハンドル60が車両フロア2の方向に押し操作されることで、アッパレール40がシート5とともにロアレール30に対して移動可能となる。以下、車両用シートスライド装置1の構成について詳細に説明する。
【0018】
<ロアレール>
図3に示すように、ロアレール30は、ロア連結壁部32と、一対のロア側壁部31と、一対のロア折返し壁部33とを備える。
【0019】
ロア連結壁部32は直方板状に形成されるとともに、車両フロア2上に固定的に設置されている。ロア側壁部31はロア連結壁部32における幅方向Wの両側から略直角に折り曲げられるように形成されている。また、ロア折返し壁部33は、ロア側壁部31の先端側がロアレール30の内側に折り曲げられるように形成されている。
【0020】
図1に示すように、ロアレール30の両ロア折返し壁部33の基端(上端)には、それぞれの長手方向Lに沿って複数の四角形のロック孔33aが形成されている。これらロック孔33aは、一定間隔で形成されるとともに高さ方向H(幅方向W及び長手方向Lに対して直交する方向)における上方に開口している。
【0021】
図4に示すように、各ロック孔33aは、幅方向Wからみて車両フロア2の方向に向かうにつれて孔幅Wh1が小さくなる略台形形状で形成されている。すなわち、ロック孔33aにおける幅方向Wに対向する両側面33b,33c間の距離は車両フロア2の方向に向かうにつれて小さく形成されている。
【0022】
高さ方向H(係止爪の移動方向)に対してロック孔33aにおいて長手方向Lに対向する2つの側面33b,33cが交わる角度を歯部圧力角θa1,θa2と規定する。本例では、歯部圧力角θa2は高さ方向Hに対して時計回りに所定角度だけ回転した角度である。歯部圧力角θa1は高さ方向Hに対して反時計回りに所定角度だけ回転した角度である。
【0023】
<アッパレール>
図3に示すように、アッパレール40は、アッパ連結壁部45と、第1及び第2のアッパ側壁部44a,44bと、一対のアッパ折返し壁部46とを備える。
【0024】
アッパ連結壁部45は、上記ロア連結壁部32と同様に直方板状に形成されている。両アッパ側壁部44a,44bは、アッパ連結壁部45における幅方向Wの両側から車両フロア2の方向に略直角に折り曲げられるように形成されている。また、アッパ折返し壁部46は、アッパ側壁部44a,44bの先端側がアッパレール40の外側に折り曲げられるように形成されている。
【0025】
アッパレール40がロアレール30に組み付けられた状態においては、アッパレール40におけるアッパ側壁部44a,44b及びアッパ折返し壁部46間に、ロアレール30のロア折返し壁部33が位置する。このアッパレール40がロアレール30に組み付けられた状態においては、アッパレール40はロアレール30に沿って移動可能となるとともに、アッパレール40がロアレール30から当該ロアレール30と離間する方向に外れることが抑制される。
【0026】
また、
図1に示すように、アッパレール40における長手方向Lの中間には、それぞれの長手方向Lに並設された複数(3個)の係止爪用孔49a〜49cが形成されている。各係止爪用孔49a〜49cの間隔は、上記各ロック孔33aの間隔と略同一である。係止爪用孔49a〜49cは、幅方向Wに貫通するとともに、高さ方向Hに長く、僅かに湾曲した略長方形状で形成されている。また、係止爪用孔49a〜49cは、各アッパ側壁部44a,44bからアッパ連結壁部45の一部に及ぶ範囲に亘って形成されている。
【0027】
さらに、各アッパ折返し壁部46の先端(上端)には、それぞれの長手方向Lに並設された複数(3個)の嵌入溝46aが各係止爪用孔49a〜49cに対応する位置に形成されている。これら嵌入溝46aは、上方に開口している。これら嵌入溝46a及び係止爪用孔49a〜49cは、ロアレール30の隣り合う複数(3個)のロック孔33aと合致可能な位置に配置されている。
【0028】
また、各アッパ側壁部44a,44bには、幅方向Wに開口した軸収容孔47が形成されている。軸収容孔47は、係止爪用孔49a〜49cより解除ハンドル60側に形成されている。
【0029】
図4に示すように、軸収容孔47は、高さ方向Hにおける車両フロア2の方向に向かうにつれて孔幅Wh2が小さくなる略台形形状に形成されている。すなわち、軸収容孔47における幅方向Wに対向する両側面47a,47b間の距離は車両フロア2の方向に向かうにつれて小さく形成されている。
【0030】
高さ方向Hに対して軸収容孔47において長手方向Lに対向する2つの側面47a,47bが交わる角度を軸部圧力角θb1,θb2と規定する。本例では、軸部圧力角θb2は高さ方向Hに対して時計回りに所定角度だけ回転した角度である。軸部圧力角θb1は高さ方向Hに対して反時計回りに所定角度だけ回転した角度である。軸部圧力角θb1,θb2は、歯部圧力角θa1,θa2より大きく設定されている。
【0031】
また、
図1に示すように、アッパレール40における両アッパ側壁部44a,44bとアッパ連結壁部45との境界部分にはスプリング保持孔48が形成されている。このスプリング保持孔48は、軸収容孔47より解除ハンドル60側に形成されている。
【0032】
図8(a)に示すように、第2のアッパ側壁部44bの係止爪用孔49aにおける右下角部と、第1のアッパ側壁部44aの係止爪用孔49aにおける左上角部とを結ぶ直線の長さを爪側許容長さL1と規定する。この爪側許容長さL1は、係止部材20を長手方向Lに沿って回転させつつ、後述する係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLを係止爪用孔49a内に挿入させるために必要な長さである。他の係止爪用孔49b,49cの爪側許容長さL1は係止爪用孔49aよりも大きい。
【0033】
図9(a)に示すように、第2のアッパ側壁部44bの軸収容孔47における右下角部と、第1のアッパ側壁部44aの軸収容孔47における右上角部とを結ぶ直線の長さを軸側許容長さL2と規定する。この爪側許容長さL1は、係止部材20を長手方向Lに沿って回転させつつ、後述する回転軸部26を軸収容孔47内に挿入させるために必要な長さである。
【0034】
<転動部材>
また、
図3に示すように、各アッパ折返し壁部46及びこれに対向するロア側壁部31間には、前後一対の転動部材16が設けられている。アッパレール40は、ロアレール30との間で転動部材16を転動させる態様で、ロアレール30に対し長手方向Lに摺動自在に支持されている。
【0035】
<係止部材>
図1に示すように、係止部材20は、ロアレール30及びアッパレール40間に形成される空間に長手方向Lに沿うように設置されている。
【0036】
図5に示すように、係止部材20は、本体部21と、2組の係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLと、回転軸部26と、入力部28とが一体的に形成されてなる。この係止部材20は金属板がプレス加工されることで製造される。
【0037】
本体部21は長手方向Lに延出した略長方板状に形成されている。また、各係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLは本体部21における先端部23(解除ハンドル60と反対側の端部)に形成されている。係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLは、先端部23における長手方向Lに延出する両側面29L,29Rに形成されるとともに、幅方向Wに突出した角棒状に形成されている。一方の側面29Rに3つの係止爪22aR〜22cRが形成され、他方の側面29Lには3つの係止爪22aL〜22cLが形成されている。各係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLは、長手方向Lに沿って上記ロアレール30のロック孔33aと同一の間隔で配置されている。
【0038】
図6に示すように、長手方向Lからみて先端部23及び係止爪22aL〜22cLがなす長方形状における対角線の長さを爪側最大回転長さL3と規定する。本例では、爪側最大回転長さL3は先端部23の図中の左下角部と係止爪22aの右上角部との間を結ぶ対角線の長さである。この爪側最大回転長さL3が上述した爪側許容長さL1より大きいとき、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLの係止爪用孔49a〜49cへの挿入が可能となる。具体的な組み付け方法については後述する。また、入力部28は本体部21における先端部23と反対側の端部に形成されている。
【0039】
図1に示すように、係止部材20の回転軸部26は、その先端面26aが長手方向Lに沿うように、係止部材20の本体部21に対して車両フロア2の方向に湾曲して形成される。両回転軸部26は、幅方向Wにおいて対面している。
【0040】
図4に示すように、回転軸部26の先端面26aは、長手方向Lにおける両端側が曲面26bとして形成され、それら曲面26b間が長手方向Lに延出する平面26cとして形成されている。
図4の2点鎖線で示すように、両曲面26bは、係止部材20の回転中心O1を中心として描かれる同一の円弧に沿うように形成されている。その円弧の車両フロア2側の一部が除去されるように平面26cが形成されている。
【0041】
回転軸部26の両曲面26bは、軸収容孔47における2つの側面47a,47bに対して、長手方向Lの両側の2点P1,P2で内接する。従って、仮にアッパレール40又は係止部材20の製造ばらつきなどで軸収容孔47及び回転軸部26間に組付けばらつきが生じたとしても、片側の軸収容孔47及び回転軸部26が当接する2点P1,P2と、反対側の軸収容孔47及び回転軸部26が当接する1点又は2点とで支持されている。よって、アッパレール40内における係止部材20のがたつきを抑制することができる。
【0042】
図7に示すように、長手方向Lからみて本体部21及び一方の回転軸部26がなす外形の各頂点を結んだ直線のうち最大となる直線の長さを軸側最大回転長さL4と規定する。本例では、軸側最大回転長さL4は、一方の回転軸部26の左下の角部と、本体部21の右上の角部との間を結ぶ長さである。
【0043】
この最大回転長さL4が上述した軸側許容長さL2より大きいとき、後述するように、回転軸部26の軸収容孔47への組み付けが可能となる。具体的な組み付け方法については後述する。
【0044】
図4に示すように、両回転軸部26はそれぞれ軸収容孔47に挿入されている。そして、両回転軸部26の先端面26a(特に両曲面26b)が軸収容孔47の長手方向Lに対向する両側面47a,47bに接している。このため、各曲面26bが、各軸収容孔47の両側面47a,47bを転動することで、係止部材20が両回転軸部26(回転中心O1)を中心に回動可能となる。この係止部材20の回動に伴い、係止部材20の係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLは、ロアレール30のロック孔33aに嵌合した係止位置と、ロック孔33aから脱出した解除位置との間で移動可能となる。
【0045】
また、回転軸部26が軸収容孔47の側面47a,47bに接する点と、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLがロック孔33aの側面33b,33cに接する点とは、車両用シートスライド装置1の長手方向Lに沿って水平に設定されている。
【0046】
<スプリング>
図1に示すように、スプリング50は、1本の線材が略コ字状に曲げられて形成されている。また、スプリング50は、ロアレール30及びアッパレール40間に形成される空間であって係止部材20の上面(アッパ連結壁部45側の面)に位置する。
【0047】
スプリング50は、保持部51と、付勢部52と、当接部53と、逃げ部54とをそれぞれ2つずつ有する。スプリング50は、これら各部同士が離間する方向に弾性変形可能に形成される。
【0048】
保持部51は、長手方向Lに延出する線材の途中に、幅方向Wの外側に突出する略U字状で形成されている。すなわち、保持部51は一定の半径を有する半円状に形成されている。各保持部51は、アッパレール40の内側から各スプリング保持孔48に挿通される。これにより、スプリング50がアッパレール40内に保持される。なお、
図1のスプリング50は、アッパレール40内に保持されているときの状態を示している。
【0049】
付勢部52は、スプリング50の先端側に形成されるとともに、係止部材20の上面であって、係止部材20の先端部23を車両フロア2の方向に付勢する。
当接部53は、付勢部52と保持部51との間に位置するとともに、スプリング50における保持部51より付勢部52側において最も外側に位置する。よって、アッパレール40内にスプリング50が位置するとき、幅方向Wにおいて各当接部53が各アッパ側壁部44a,44bに付勢する。この付勢力によって、幅方向Wにおけるスプリング50の位置が決まる。また、当接部53が係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLに近い位置に設定されることで、付勢部52の係止部材20の上面に対する位置を所望の位置とすることができる。
【0050】
逃げ部54は、長手方向Lにおける保持部51の両側の線材が幅方向Wの内側に曲げられて形成される。この逃げ部54を通じて、各保持部51が各スプリング保持孔48に挿通されたとき、スプリング50における保持部51の両側が、各スプリング保持孔48の周縁部に当接することが抑制される。例えば、スプリング50における保持部51の両側が、各スプリング保持孔48の周縁部に当接すると、当接部53及び付勢部52の姿勢が係止部材20に対してずれるおそれがある。この点、逃げ部54を形成することで、当接部53及び付勢部52を所望の姿勢とすること、ひいてはスプリング50を通じて適切に係止部材20に付勢力を加えることができる。
【0051】
<シート位置調整に係る作用>
次に、シート5の位置を調整する際の作用について説明する。
解除ハンドル60に操作力が加えられていない状態においては、スプリング50からの付勢力を通じて、係止部材20の係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLは、ロアレール30のロック孔33a内に保持されている。これにより、ロアレール30に対するアッパレール40の移動が規制されている。
【0052】
ここで、解除ハンドル60を持ち上げるように操作すると、解除ハンドル60の先端部61が係止部材20の入力部28を車両フロア2側に押圧する。これにより、係止部材20の回転軸部26を中心とした
図4の反時計回りへの力がスプリング50及び係止部材20に加わる。係止部材20の入力部28を通じてスプリング50の係止部材20への付勢力を超える力が入力されると、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLがロアレール30から離間し、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLがロック孔33aから脱出する。このとき、ロアレール30に対するアッパレール40の移動が許容される。よって、シート5の車両前後方向における位置調整が可能となる。
【0053】
<係止部材20のアッパレール40への組み付けに係る作用>
係止部材20をアッパレール40へ組み付けるためには、各係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLを各係止爪用孔49a〜49cへ挿入し、各回転軸部26を各軸収容孔47へ挿入する必要がある。これら挿入は同時に行われる。
【0054】
ここでは、まず、各係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLを各係止爪用孔49a〜49cへ挿入する際の作用について説明する。
図8(b)に示すように、まず、一方側の各係止爪22aR〜22cRを第1のアッパ側壁部44aの各係止爪用孔49aにアッパレール40の内側から挿入していく。このとき、アッパレール40内において係止部材20が傾斜した状態にある。その挿入が完了すると、他方側の各係止爪22aL〜22cLを第2のアッパ側壁部44bの各係止爪用孔49aに挿入させるべく、
図8(b)の矢印で示すように、係止部材20を、一方側の各係止爪22aR〜22cR側を支点として図中の時計回りに回転させていく。このとき、爪側許容長さL1が爪側最大回転長さL3より大きく設定されることで、他方側の係止爪22aL〜22cLが、第2のアッパ側壁部44bにおける係止爪用孔49aの下縁部に接触して係止爪22aL〜22cLの係止爪用孔49a内への挿入が妨げられることが抑制される。よって、他方側の係止爪22aL〜22cLが、第2のアッパ側壁部44bにおける係止爪用孔49a内に挿入可能となる。
【0055】
例えば、爪側許容長さL1が爪側最大回転長さL3以下の場合、上記係止部材20を図中の時計回りに回転させていく際、他方側の係止爪22aL〜22cLの先端が、第2のアッパ側壁部44bにおける係止爪用孔49aの下縁部に接触する。よって、係止部材20をアッパレール40へ組み付けることができない。
【0056】
次に、各回転軸部26を各軸収容孔47へ挿入する際の作用について説明する。
図9(b)に示すように、まず、一方側の回転軸部26を第1のアッパ側壁部44aの軸収容孔47にアッパレール40の内側から挿入していく。このとき、アッパレール40内において係止部材20が傾斜した状態にある。その挿入が完了すると、他方側の回転軸部26を第2のアッパ側壁部44bの軸収容孔47に挿入させるべく、
図9(b)の矢印で示すように、係止部材20を、一方側の回転軸部26側を支点として図中の時計回りに回転させていく。
【0057】
このとき、軸側許容長さL2が軸側最大回転長さL4より大きく設定されることで、他方側の回転軸部26が、第2のアッパ側壁部44bにおける軸収容孔47の下縁部に接触して回転軸部26の軸収容孔47内への挿入が妨げられることが抑制される。よって、他方側の回転軸部26が、第2のアッパ側壁部44bにおける軸収容孔47内に挿入可能となる。
【0058】
例えば、軸側許容長さL2が軸側最大回転長さL4以下の場合、上記係止部材20を図中の時計回りに回転させていく際、他方側の回転軸部26が、第2のアッパ側壁部44bにおける軸収容孔47の下縁部に接触する。よって、係止部材20をアッパレール40へ組み付けることができない。
【0059】
<係止部材20に衝撃が加わったときの作用>
図10に示すように、係止部材20に対して車両フロア2方向に衝撃が加わったとする。ここで、歯部圧力角θa1,θa2より軸部圧力角θb1,θb2が大きく設定されている。このため、この衝撃に伴い回転軸部26に対して側面47a,47bを通じて加わる反力が、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLに対して側面33b,33cを通じて加わる反力よりも大きくなる。従って、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLより優先的に回転軸部26が軸収容孔47内において上方向に移動する。このように、回転軸部26が軸収容孔47内において上方向に移動することで、係止部材20が図中の時計回りに僅かに回転する。これにより、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLがロック孔33a内により深く入りこむ。このため、係止部材20の係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLは、ロアレール30のロック孔33aに嵌合した係止位置を保持する。
【0060】
以上、説明した実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)歯部圧力角θa1,θa2より軸部圧力角θb1,θb2が大きく設定されている。ここで、側面33b,33c,47a,47bの圧力角θa1,θa2,θb1,θb2が大きいほど、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cL又は回転軸部26が側面33b,33c,47a,47bに加える力が大きくなり、それに伴い係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cL又は回転軸部26が受ける反力も大きくなる。このため、例えば係止部材20に衝撃が加わった場合にも、上記の関係に圧力角を設定することで、回転軸部26が受ける反力が、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLが受ける反力よりも大きくなる。よって、衝撃が加わったときには、回転軸部26を先に軸収容孔47内で移動させることで、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLをロック孔33a内に保持させることができる。これにより、意図せず係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLがロック孔33aから脱出すること、ひいては不用意にロアレール30がアッパレール40に対して相対移動可能となることが抑制される。
【0061】
(2)回転軸部26が軸収容孔47の側面47a,47bに接する点と、係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cLがロック孔33aの側面33b,33cに接する点とは、車両用シートスライド装置1の長手方向Lに沿って水平に設定されている。これにより、ロック孔33aの2つの側面33b,33cにおける歯部圧力角θa1,θa2をそれぞれ同一に設定し、軸収容孔47の2つの側面47a,47bにおける軸部圧力角θb1,θb2をそれぞれ同一に設定することができる。
【0062】
これにより、ロック孔33a及び軸収容孔47の長手方向Lの形状が対称となる。よって、ロック孔33a及び軸収容孔47の形成が容易となる。また、ロアレール30の使用方向の自由度が向上する。具体的には、ロアレール30を車両フロア2に設置する際に、そのロアレール30の長手方向Lの向きを考慮する必要がなくなる。
【0063】
例えば上記実施形態と異なって、上記2つの接する点が水平でない構成では、係止爪が水平でなく傾いた状態でロック孔33内に位置することになる。この場合には、両歯部圧力角θa1,θa2を同一にするために、ロック孔33aの2つの側面33b,33cの角度を高さ方向Hに対して異なる角度に設定する必要があるため、結果としてロアレール30の長手方向Lの形状が対称とならず、ロアレール30の使用方向の自由度が低下する。
【0064】
(3)アッパレール40に係止部材20を組み付けるにあたって、一方側の係止爪22aR〜22cRを、第1のアッパ側壁部44aの係止爪用孔49a〜49cにアッパレール40の内側から挿入していく。その挿入後に、他方側の係止爪22aL〜22cLを第2のアッパ側壁部44bの係止爪用孔49a〜49cに挿入させるべく、係止部材20を回転させていく。このとき、爪側許容長さL1が爪側最大回転長さL3より大きく設定されることで、他方側の係止爪22aL〜22cLが、第2のアッパ側壁部44bにおける係止爪用孔49a〜49cの縁部に接触して係止爪22aL〜22cLの挿入が妨げられることが抑制される。よって、他方側の係止爪22aL〜22cLが、第2のアッパ側壁部44bにおける係止爪用孔49a〜49c内に挿入可能となる。このため、係止部材20をアッパレール40に容易に組み付け可能となる。
【0065】
(4)アッパレール40に係止部材20を組み付けるにあたって、一方側の回転軸部26を、第1のアッパ側壁部44aの軸収容孔47にアッパレール40の内側から挿入していく。その挿入後に、他方側の回転軸部26を第2のアッパ側壁部44bの軸収容孔47に挿入するように、係止部材20を回転させていく。このとき、軸側許容長さL2が軸側最大回転長さL4より大きく設定されることで、他方側の回転軸部26が、第2のアッパ側壁部44bにおける軸収容孔47の縁部に接触して回転軸部26の挿入が妨げられることが抑制される。よって、他方側の回転軸部26が、第2のアッパ側壁部44bにおける軸収容孔47内に挿入可能となる。このため、係止部材20をアッパレール40に容易に組み付け可能となる。
【0066】
(5)回転軸部26は、その先端面26aが長手方向Lに沿うように、係止部材20の本体部21に対して湾曲して形成される。また、回転軸部26の先端面26aが軸収容孔47の周面に沿って転動可能となるように、先端面26aにおける長手方向Lの両端に曲面26bが形成されている。この回転軸部26は係止部材20の本体部21と一体の板材からプレス加工によって形成することができる。よって、回転軸部26を有する係止部材20を容易に製造することができる。
【0067】
(6)回転軸部26における先端側が長手方向Lに沿って除去されることで、上記軸側最大回転長さL4を小さくすることができる。よって、回転軸部26を軸収容孔47へ挿入するための条件である軸側許容長さL2を軸側最大回転長さL4より大きく設定し易くなる。
【0068】
また、回転軸部26における2つの曲面26bを通じて回転軸としての機能が実現される。この構成では、
図4の2点鎖線で示す回転中心O1を中心として描かれる円柱状の回転軸と同様に機能させつつ、より簡易な構成を実現することができる。
【0069】
(7)軸収容孔47において、回転軸部26と接する2つの側面47a,47b間の距離は、高さ方向Hにおける車両フロア2の方向に向かうほど小さくなる。この構成によれば、回転軸部26の両曲面26bは、軸収容孔47における2つの側面47a,47bに対して、長手方向Lの両側の2点P1,P2で内接する。従って、仮にアッパレール40又は係止部材20の製造ばらつきなどで軸収容孔47及び回転軸部26間に組付けばらつきが生じたとしても、片側の軸収容孔47及び回転軸部26が当接する2点P1,P2と、反対側の軸収容孔47及び回転軸部26が当接する1点又は2点とで支持されている。よって、アッパレール40内における係止部材20のがたつきを抑制することができる。
【0070】
(8)第1のアッパ側壁部44aの係止爪用孔49a内における
図8(b)の上側端部に一方側の係止爪22aR〜22cRが押し当てられた状態で係止部材20が長手方向Lを回転軸として時計回りに回転されたとき、第2のアッパ側壁部44bの係止爪用孔49aは他方側の係止爪22aL〜22cLが侵入可能な大きさに形成されている。第1のアッパ側壁部44aの係止爪用孔49aも同様の観点で形成されている。この構成により、係止部材20をアッパレール40に容易に組み付け可能となる。
【0071】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態においては、両回転軸部26は、本体部21に対して湾曲して形成されていたが、例えば回転軸部26を幅方向Wに延出する円柱状に形成してもよい。この場合であっても、軸収容孔は、回転軸部26の高さ方向Hへの移動を許容する形状とする必要がある。
【0072】
・上記実施形態においては、回転軸部26は、その先端面26aが長手方向Lに沿うように、係止部材20の本体部21に対して車両フロア2の方向に湾曲して形成されていたが、回転軸部26は本体部21に対して略直角に曲げ形成されていてもよい。
【0073】
・上記実施形態においては、ロアレール30が車両フロア2に固定され、アッパレール40がロアレール30に対して相対移動可能に構成されていた。しかし、アッパレール40とロアレール30とを反対にしてもよい。
【0074】
・上記実施形態における車両用シートスライド装置1を車両以外に適用してもよい。
・上記実施形態における係止部材20の係止爪22aR〜22cR,22aL〜22cL及び係止爪用孔49a〜49cの数は適宜変更可能である。
【0075】
・上記実施形態においては、ロック孔33aの2つの側面33b,33cにおける歯部圧力角θa1,θa2がそれぞれ同一に設定され、軸収容孔47の2つの側面47a,47bにおける軸部圧力角θb1,θb2がそれぞれ同一されていたが、異なる圧力角に設定されてもよい。
【0076】
・上記実施形態における各圧力角θa1,θa2,θb1,θb2の値は一例であって、適宜変更可能である。
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
【0077】
(イ)前記第1の側壁部の係止爪用孔における前記長手方向及び前記幅方向に直交する高さ方向の一端部と前記第2の側壁部の係止爪用孔における前記高さ方向の他端部とを結ぶ仮想的な直線の長さを爪側許容長さとし、前記係止部材の本体部における前記係止爪が形成される前記長手方向に延出する両側面のうち一方の側面と、他方の側面に形成される前記係止爪の先端とを結ぶ仮想的な直線の長さを爪側最大回転長さとし、前記爪側許容長さを前記爪側最大回転長さより大きく設定したシートスライド装置。
【0078】
第2レールに係止部材を組み付けるにあたって、一方側の係止爪を、第1の側壁部の係止爪用孔に第2レールの内側から挿入していく。その挿入後に、他方側の係止爪を第2の側壁部の係止爪用孔に挿入するように、係止部材を回転させていく。このとき、爪側許容長さが爪側最大回転長さより大きく設定されることで、他方側の係止爪が、第2の側壁部における係止爪用孔の縁部に接触して係止爪の挿入が妨げられることが抑制される。よって、他方側の係止爪が、第2の側壁部における係止爪用孔内に挿入可能となる。このため、係止部材を第2レールに容易に組み付け可能となる。
【0079】
(ロ)前記第1の側壁部の前記軸収容孔における前記高さ方向の一端部と前記第2の側壁部の前記軸収容孔における前記高さ方向の他端部とを結ぶ仮想的な直線の長さを軸側許容長さとし、前記回転軸部が形成される前記両側面のうち一方の側面と、他方の側面に形成される前記回転軸部の先端とを結ぶ仮想的な直線の長さを軸側最大回転長さとし、前記軸側許容長さを前記軸側最大回転長さより大きく設定したシートスライド装置。
【0080】
第2レールに係止部材を組み付けるにあたって、一方側の回転軸部を、第1の側壁部の軸収容孔に第2レールの内側から挿入していく。その挿入後に、他方の回転軸部を第2の側壁部の軸収容孔に挿入するように、係止部材を回転させていく。このとき、軸側許容長さが軸側最大回転長さより大きく設定されることで、他方側の回転軸部が、第2の側壁部における軸収容孔の縁部に接触して回転軸部の挿入が妨げられることが抑制される。よって、他方側の回転軸部が、第2の側壁部における軸収容孔内に挿入可能となる。このため、係止部材を第2レールに容易に組み付け可能となる。
【0081】
(ハ)前記両回転軸部は、互いに前記幅方向に対面する態様で前記本体部に対して曲げられたように形成されるとともに、その先端面が前記軸収容孔を形成する側面に沿って転動可能に少なくとも一部が曲面状に形成されたシートスライド装置。
【0082】
この構成によれば、回転軸部は、互いに幅方向に対面する態様で係止部材の本体部に対して曲げられたように形成される。また、回転軸部の先端面が軸収容孔の周面に沿って転動可能となるように、先端面の少なくとも一部が曲面状に形成される。この回転軸部は係止部材の本体部と一体の板材からプレス加工によって形成することができる。よって、回転軸部を有する係止部材を容易に製造することができる。
【0083】
(ニ)前記回転軸部の先端面は、前記高さ方向に突出する前記回転軸部の先端側が前記長手方向に沿って除去された態様で形成される平面と、前記長手方向における前記平面の両側に形成されるとともに、前記幅方向からみて同一の仮想円弧上に位置し、前記軸収容孔の前記長手方向に対向する側面に転動可能に接触する2つの曲面とを有するシートスライド装置。
【0084】
この構成によれば、回転軸部における先端側が長手方向に沿って除去されることで、上記軸側最大回転長さを小さくすることができる。よって、回転軸部を軸収容孔へ挿入するための条件である軸側許容長さを軸側最大回転長さより大きく設定し易くなる。