(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記目標値は、前記主燃焼期間取得手段により取得される主燃焼期間が所定値よりも短い状況下において、点火時期が遅いほど、より大きくされることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
前記目標値は、前記主燃焼期間取得手段により取得される主燃焼期間が所定値よりも短い場合に、筒内の混合気の着火限界時の値を超えない範囲内で当該主燃焼期間に基づいて大きくされることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
前記目標値は、前記点火時期調整手段による調整によって前記第2の差が所定値以下となっている場合に、前記主燃焼期間取得手段により取得される主燃焼期間の長さに応じて変更されることを特徴とする請求項5または6に記載の内燃機関の制御装置。
前記目標値は、前記調整手段による調整によって前記第1の差が所定値以下となっている場合に、前記主燃焼期間取得手段により取得される主燃焼期間の長さに応じて変更されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1つに記載の内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1における内燃機関10のシステム構成を説明するための図である。
図1に示すシステムは、火花点火式の内燃機関10を備えている。内燃機関10の筒内には、ピストン12が設けられている。筒内におけるピストン12の頂部側には、燃焼室14が形成されている。燃焼室14には、吸気通路16および排気通路18が連通している。
【0026】
吸気通路16の吸気ポートには、当該吸気ポートを開閉する吸気弁20が設けられており、排気通路18の排気ポートには、当該排気ポートを開閉する排気弁22が設けられている。また、吸気通路16には、電子制御式のスロットルバルブ24が設けられている。
【0027】
内燃機関10の各気筒には、燃焼室14内(筒内)に直接燃料を噴射するための燃料噴射弁26、および、混合気に点火するための点火プラグ28が、それぞれ設けられている。さらに、各気筒には、筒内圧力を検出するための筒内圧センサ30が組み込まれている。
【0028】
さらに、本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40の入力部には、上述した筒内圧センサ30に加え、エンジン回転速度を取得するためのクランク角センサ42、および、吸入空気量を計測するためのエアフローメータ44等の内燃機関10の運転状態を取得するための各種センサが接続されている。また、ECU40の出力部には、上述したスロットルバルブ24、燃料噴射弁26および点火プラグ28等の内燃機関10の運転を制御するための各種アクチュエータが接続されている。ECU40は、それらのセンサ出力と所定のプログラムとに基づいて上記各種のアクチュエータを駆動することにより、燃料噴射制御および点火制御等の所定のエンジン制御を行うものである。また、ECU40は、筒内圧センサ30の出力信号を、クランク角度と同期させてAD変換して取得する機能を有している。これにより、AD変換の分解能が許す範囲で、任意のクランク角タイミングにおける筒内圧力を検出することができる。さらに、ECU40は、クランク角度の位置によって決まる筒内容積の値を、クランク角度に応じて算出する機能を有している。
【0029】
[実施の形態1におけるリーンリミット制御]
(点火時期と燃焼質量割合)
図2は、点火時期と燃焼質量割合の波形とを表した図である。
筒内圧センサ30とクランク角センサ42とを備える本実施形態のシステムによれば、内燃機関10の各サイクルにおいて、クランク角度(CA)ベースで筒内圧データ(筒内圧波形)を取得することができる。そして、公知の手法で絶対圧補正を行った後の筒内圧波形を用いて、
図2に示すような波形となる燃焼質量割合(以下、「MFB」と称する)を算出することができる。より具体的には、筒内圧データを用いて、任意のクランク角度θでの筒内の発熱量Qを次の(1)式にしたがって算出することができる。そして、算出された筒内の発熱量Qのデータを用いて、任意のクランク角度θにおけるMFBを次の(2)式にしたがって算出することができる。したがって、この(2)式を利用して、MFBが所定割合α(%)となる時のクランク角度(以下、「CAα」と称する)を取得することができる。
【0030】
【数1】
ただし、上記(1)式において、Pは筒内圧力、Vは筒内容積、κは筒内ガスの比熱比である。また、P
0およびV
0は、計算開始点θ
0(想定される燃焼開始点に対して余裕をもって定められた圧縮行程中(ただし、吸気弁20の閉弁後)の所定クランク角度θでの筒内圧力および筒内容積である。また、上記(2)式において、θ
staは燃焼開始点(CA0)であり、θ
finは燃焼終了点(CA100)である。
【0031】
ここでは、
図2を参照して代表的なクランク角度CAαについて説明する。筒内の燃焼は、点火時期にて混合気に点火を行った後に着火遅れを伴って開始する。この燃焼開始点、すなわち、MFBが立ち上がりを示す点をCA0と称する。CA0からMFBが10%となる時のクランク角度CA10までのクランク角期間(CA0−CA10)が初期燃焼期間に相当し、CA10からMFBが90%となる時のクランク角度CA90までのクランク角期間(CA10−CA90)が主燃焼期間に相当する。また、MFBが50%となる時のクランク角度CA50が燃焼重心位置に相当する。
【0032】
(SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御)
図3は、NOx排出量、燃費、トルク変動およびSA−CA10のそれぞれと空燃比(A/F)との関係を表した図である。
内燃機関の低燃費技術としては、理論空燃比よりも希薄な空燃比にて行うリーンバーン運転が有効である。
図3(A)、(B)に示すように、空燃比がリーンになるほど、燃費が良くなり、NOx排出量が減少する。ただし、空燃比をリーンにし過ぎると、燃焼が悪化することで、燃費が悪化する。その一方で、トルク変動は、
図3(C)に示すように、空燃比がリーンになるにつれて徐々に大きくなり、空燃比がある値を超えてリーンになると急激に大きくなる。ここでいうトルク変動とは、時系列のトルク値に対する変動値のことであり、さらに具体的には、時系列のトルク値に対して特定の周波数帯のフィルタ処理を実施し、当該フィルタ処理後の時系列のトルク値の振幅、標準偏差、あるいは絶対値の平均値として得られるものである。以下、混合気の希薄燃焼限界の空燃比、より具体的には、内燃機関10のドライバビリティの観点で限界となる閾値にトルク変動値が達する時の空燃比を、「リーンリミット」と称する。
【0033】
図3(A)〜(C)より、低燃費および低NOx排出を実現するためには、内燃機関10の状態を監視し、ドライバビリティが悪化しない範囲内で出来るだけリーンとなるように空燃比を制御すること、すなわち、リーンリミット近傍で空燃比を制御することが好ましいといえる。以下、このような空燃比の制御を「リーンリミット制御」と称する。
【0034】
従来のリーンリミット制御は、一般的には、トルク(またはトルク相当値)を統計処理することによって運転中のトルク変動を検出し、検出したトルク変動に基づいてリーンリミット近傍で空燃比を制御するというものである。しかしながら、従来の統計処理に基づくトルク変動を利用するリーンリミット制御は、時間がかかり、かつ、過渡運転に適用することが困難であり、その結果、実用性が低いものであった。また、上記従来の手法は、トルク変動を統計量として扱うために突発的に発生する燃焼悪化に対応することができず、内燃機関の振動騒音の悪化を防ぐことができないという課題も有していた。さらに、上記従来の手法では、全気筒一律の制御以外の態様では行うことが難しいという課題も有していた。
【0035】
そこで、本実施形態では、上記のような課題を解決して統計処理に依らない手法でのリーンリミット制御手法として、点火時期(SA)から10%燃焼点であるCA10までのクランク角期間(SA−CA10)に基づく燃料噴射量のフィードバック制御を気筒別に行うこととした。より具体的には、このフィードバック制御は、リーンリミット付近の所定の目標SA−CA10と、実SA−CA10との差に基づいて(より具体的には、当該差がゼロとなるように)燃料噴射量を調整するというものである。ここでいう実SA−CA10とは、点火時期から、筒内圧センサ(CPS)30とクランク角センサ42とを利用して得られる筒内圧データの解析結果から求められたCA10までのクランク角期間として算出される値である。
【0036】
ここで、本実施形態のリーンリミット制御のパラメータとしてSA−CA10を用いる利点について説明する。SA−CA10は、着火遅れを代表するパラメータである。
図3(D)に示すように、SA−CA10は、空燃比との相関性が高く、リーンリミット付近においても空燃比に対して線形性を良好に保持している。このため、SA−CA10の利用によって、リーンリミット近傍に空燃比をフィードバック制御し易くなる。
【0037】
また、SA−CA10は、次のような理由により、空燃比自体よりもリーンリミットの代表性が高いといえる。すなわち、リーンリミットとなる空燃比は運転条件(例えば、エンジン水温の高低)により変化するが、SA−CA10は空燃比よりも運転条件に応じて変化しにくいことが本件の発明者らの実験によって確認されている。言い換えると、リーンリミットとなる空燃比は混合気の着火要因に依るところが大きいため、着火遅れを代表するSA−CA10の方が空燃比自体よりも運転条件等による影響を受けにくいといえる。ただし、エンジン回転速度が変わると、1クランク角度当たりの時間が変化するため、SA−CA10の目標値である目標SA−CA10は、エンジン回転速度に応じて設定されていることが好ましい。より好適には、SA−CA10はエンジン負荷率によっても変化するため、目標SA−CA10は、エンジン回転速度に代え、或いはそれとともに、エンジン負荷率に応じて設定されていると良い。
【0038】
次に、本実施形態のリーンリミット制御の指標としてのクランク角期間を点火時期との間で特定するために用いる燃焼点(MFBが所定燃焼質量割合となる時の所定クランク角度)として、CA10が他の燃焼点と比べて好ましい理由について説明する。上記所定クランク角度としては、CA10に限らず、他の任意の燃焼点を用いることができる。そして、他の任意の燃焼点の利用時であっても、得られるクランク角期間は、上述した空燃比との相関性の高さおよびリーンリミットの代表性の高さという利点を基本的に有しているといえる。しかしながら、CA10よりも後の主燃焼期間(CA10−CA90)内の燃焼点を利用した場合には、得られるクランク角期間は、火炎が燃え広がる時に燃焼に影響するパラメータ(EGR率、吸気温度およびタンブル比など)の影響を大きく受けてしまう。つまり、この場合に得られるクランク角期間は、純粋に空燃比に着目したものではなく、外乱に弱くなる。このような外乱の影響を排除するために、クランク角期間を上記パラメータに応じて補正する構成とすることは、適合工数の増加となる。これに対し、初期燃焼期間(CA0−CA10)内の燃焼点を利用した場合には、得られるクランク角期間は、上記パラメータの影響を受けにくく、着火に影響する因子の影響が良く表れたものとなる。その結果、制御性が良くなる。その一方で、燃焼開始点(CA0)や燃焼終了点(CA100)は、ECU40が取得する筒内圧センサ30からの出力信号に重畳するノイズの影響によって誤差が生じ易い。このノイズの影響は、燃焼開始点(CA0)や燃焼終了点(CA100)から離れるにつれて小さくなる。したがって、耐ノイズ性と適合工数の削減(適合レスポテンシャル)とを考慮すると、本実施形態で用いるように、上記所定クランク角度としてはCA10が最も優れているといえる。
【0039】
(CA50を利用した点火時期のフィードバック制御)
図4は、リーンリミット付近の空燃比に対する、MBTとMBT制御時の燃焼重心位置(50%燃焼点であるCA50)との関係を表した図である。
図5は、リーンリミット時の空燃比と点火時期との関係を表した図である。
【0040】
図4(A)に示すように、MBTとなる点火時期は空燃比に応じて変化する。これは、空燃比の変化に応じて燃焼速度が変わるためである。より具体的には、空燃比がリーンになると、燃焼が遅くなる。その結果、より早く点火する必要があるため、MBTが
進角側の時期に変化する。特に、リーンリミット付近のリーン空燃比領域では、特に、微小な空燃比の変化に対しても、最適な点火時期が変化する。一方、MBTが得られる時のCA50は、
図4(B)に示すようにリーンリミット付近の空燃比ではほぼ一定となる。
【0041】
上述したSA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御によって目標SA−CA10と実SA−CA10との差がゼロとなるように燃料噴射量が調整されると、空燃比が変化する(吸入空気量を調整する場合も同様)。より具体的には、このフィードバック制御が実行されると、
図4(A)中に例示したように、ある目標SA−CA10に対応する空燃比に対し、ある振れ幅で空燃比が変動する。その結果、MBTもある振れ幅で変動することになる。一方、リーンリミット時の空燃比は、
図5に示すように点火時期の影響を受けて変化する。したがって、SA−CA10を利用した燃料噴射量の制御に伴う空燃比の変化によってMBTが変化しているにもかかわらず、変化前のMBTで点火時期が固定されたままであると、この点火時期は、現在の空燃比に応じた真のMBTから外れてしまう結果となる。例えば、MBTが進角側に変化しているにもかかわらず、変化前のMBTで点火時期が固定されたままであると、現在の点火時期は真のMBTに対して遅角側の時期となり、
図5に示す関係より、リーンリミット時の空燃比は、点火時期が真のMBTに制御されている時と比べてリッチとなる。その結果、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御によって空燃比がリーン側の値に振れた場合に、失火が発生してしまうことが懸念される。
【0042】
以上のことから、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御を行う場合(吸入空気量のフィードバック制御を行う場合も同様)には、当該フィードバック制御の実施に伴う空燃比の変化に起因するMBTの変化の影響を無くすための点火時期制御を気筒毎に行うことが好ましいといえる。そこで、本実施形態では、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御とともに、上記のMBTの変化の影響を無くすためにCA50を利用した点火時期のフィードバック制御を協調的に行うこととした。
【0043】
図4(B)を参照して上述したように、MBTが得られる時のCA50は、リーンリミット付近において空燃比に対してほぼ変化しない。したがって、MBTが得られるときのCA50を目標CA50として、筒内圧データの解析結果により得られるCA50(以下、「実CA50」と称する)と目標CA50との差が無くなるように点火時期を補正することにより、上記の空燃比変化の影響を受けずに点火時期をMBTに調整できるようになる。このように、CA50の利用は、この場合の点火時期の制御に適しているといえる。なお、ここでいうCA50を利用した点火時期制御は、必ずしもMBTが得られるように制御するものに限らない。すなわち、CA50を利用した点火時期制御は、いわゆる遅角燃焼時のようにMBT以外のある点火時期を目標点火時期とする場合にも、後述する目標点火効率に応じて目標CA50を設定することによって利用することができる。
【0044】
(目標点火効率に基づく目標SA−CA10の設定)
図5に示すように、点火時期をMBTに設定するか、或いはMBTよりも進角もしくは遅角した時期に設定するかに応じて、リーンリミット時の空燃比が変化する。そうであるのに、目標点火時期がMBTであるかMBTから離れた点火時期であるかに関係なく目標SA−CA10を一律に設定したのでは、次のような問題が生じ得る。すなわち、例えば、
図5中に示すMBTに対応するリーンリミット時の空燃比を想定して目標SA−CA10を設定した状況下において、目標点火時期がMBTよりも遅角側の時期とされた場合には、この目標点火時期の遅角化によりリーンリミット時の空燃比がMBT制御時と比べてリッチとなる。その結果、上記設定の目標SA−CA10のままでは、空燃比がリーン側に振れた時にリーンリミット時の空燃比よりも空燃比がリーンとなってしまい、失火が発生することが懸念される。
【0045】
そこで、本実施形態では、目標SA−CA10を、MBTからの目標点火時期の乖離量に基づいて設定することとした。以下の明細書中においては、点火時期がMBTである時に最大値を示し、かつ、MBTからの目標点火時期の乖離の度合いを示す指標として、目標点火効率を使用する。したがって、言い換えれば、目標SA−CA10は、目標点火効率に基づいて設定されることになる。
【0046】
(CA10−90に基づく目標SA−CA10の設定)
図6は、経年変化等の影響によるリーンリミットの変化を説明するために、燃費、トルク変動およびSA−CA10のそれぞれと空燃比(A/F)との関係を表した図である。
図7は、トルク変動とCA10−90との関係を表した図である。
【0047】
内燃機関10の経年変化等によって、主燃焼速度(主燃焼期間(CA10−90)の長短)が変化し得る。主燃焼速度の変化は、リーンリミットの変化に繋がる。ここでは、経年変化の一例として、筒内の壁面へのデポジットの堆積に伴うタンブル流の変化によって、主燃焼速度が初期のエンジン状態と比べて遅くなったケースを挙げる。
図6(B)に示すように、主燃焼速度が遅くなると、同一空燃比下でのトルク変動が増加し、その結果として、トルク変動が限界となる時の空燃比としてのリーンリミットがリッチ側の値に変化する。これに伴い、
図6(A)に示すように、燃費がA点の値からB点の値に悪化し、また、ここでは図示を省略しているが、NOx排出量も増加する。
【0048】
上記のようなリーンリミットの変化分を事前に想定して余裕を持たせてリーンリミット制御の目標値(本実施形態では、目標SA−CA10)を設定した場合、A点とB点での値の差分だけ燃費がロスし、NOx排出量が増加することを最初から許容する結果となる。このことを避けるためには、エンジン状態を把握して状況に応じて上記目標値を変化することが必要となる。しかしながら、先に述べた従来の手法によるトルク変動の直接的な検出には問題が多い。そこで、本実施形態では、次のような手法を用いて運転中にトルク変動を把握し、空燃比をリーンリミットにできるだけ近づけられるように目標SA−CA10を設定することとした。
【0049】
図7に示すように、主燃焼期間(ここでは、CA10−90によって定義)とトルク変動との間には相関がある。具体的には、CA10−90が大きくなるほど、トルク変動が大きくなる。したがって、筒内圧データに基づくMFBの算出結果を利用して得られるCA10−90(以下、「実CA10−90」と称する)に基づいて現在のトルク変動の度合いを把握することができる。そこで、本実施形態では、実CA10−90から所定の目標CA10−90を引くことにより得られる差(ΔCA10−90)に基づいて目標SA−CA10を変更することとした。詳細は
図8を参照して後述するが、上記の
図6に示すケースの場合、すなわち、経年変化に伴って実CA10−90(トルク変動)が大きくなった場合には、リーンリミット近傍に制御しようとしている空燃比を相対的にリッチ側の値に変更するために、目標SA−CA10が小さくされる。
【0050】
そのうえで、
図7に示す関係を利用して運転中にCA10−90からトルク変動を正確にかつ特別な補正を必要とせずに把握するためには、狙いとなる時期で点火時期が安定して制御されていることが好ましい。また、
図6(B)と
図6(C)より、SA−CA10の値が変化してもトルク変動が変化する。そこで、本実施形態では、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御によって実CA50と目標CA50との差が所定値CA
th1以下となっている状態であって、かつ、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御によって実SA−CA10と目標SA−CA10との差が所定値CA
th1以下となっている状態で、ΔCA10−90に基づいて目標SA−CA10を変更することとした。なお、CA50を利用したフィードバック制御とSA−CA10を利用したフィードバック制御の実行順序としては、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御を自由に行うのではなく、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御によって目標CA50と実CA50との差が所定値CA
th1以下となっている状態としたうえで、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御を行うこととした。
【0051】
(実施の形態1のフィードバック制御の概要)
図8は、本発明の実施の形態1に係る各種フィードバック制御の概要を説明するためのブロック図である。
先ず、SA−CA10を利用したフィードバック制御では、
図8に示すように、エンジン運転状態(具体的には、エンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率)に応じた目標SA−CA10が設定される。実SA−CA10は、筒内圧データの解析結果に基づいて、各気筒においてサイクル毎に算出される。
【0052】
このフィードバック制御では、目標SA−CA10と実SA−CA10との差が無くなるように燃料噴射量を調整するために、一例としてPI制御が使用されている。このPI制御では、目標SA−CA10と実SA−CA10との差と所定のPIゲイン(比例項ゲインと積分項ゲイン)とを用いて、当該差およびその積算値の大きさに応じた燃料噴射量補正率が算出される。そして、気筒毎に算出される燃料噴射量補正率が、対象となる気筒の燃料噴射量に反映される。これにより、内燃機関(ENG)10の各気筒に供給される燃料噴射量が上記フィードバック制御によって調整(補正)されることになる。
【0053】
上記のように筒内圧データの解析結果に基づいて取得される実SA−CA10は、所定のばらつき(必然的に発生する燃焼変動分)を含むため、生値を使用してもよいが、そうすると上記の燃料噴射量の補正量が安定しなくなる。そこで、ここでは、実SA−CA10に所定のなまし処理を実施することによって燃焼変動分を除去した後の値が燃料噴射量のフィードバック制御に使用される。このようななまし処理としては、例えば、今回の算出値を含む直近の所定数の実SA−CA10の算出値の時系列の移動平均をとる手法を用いることができる。なお、このようななまし処理に代え、想定される燃焼変動分に起因する実SA−CA10の算出値のばらつき幅相当を制御の不感帯として設定するようにしてもよい。すなわち、目標SA−CA10と実SA−CA10との差が上記ばらつき幅相当以下である場合には、燃料噴射量の補正を行わないようにしてもよい。
【0054】
次に、CA50のフィードバック制御について説明する。このフィードバック制御は、既述したように、目標CA50と実CA50との差に基づいて(より具体的には、当該差がゼロとなるように)点火時期を調整するというものである。目標CA50と実CA50との差が無くなるように点火時期を補正するために、このCA50を利用したフィードバック制御についても、一例としてPI制御が使用されている。このPI制御では、目標CA50と実CA50との差と所定のPIゲイン(比例項ゲインと積分項ゲイン)とを用いて、当該差およびその差の積算値の大きさに応じた点火時期補正量が算出される。そして、気筒毎に算出される点火時期補正量が、対象となる気筒の点火時期に反映される。これにより、内燃機関(ENG)10の各気筒における点火時期が上記フィードバック制御によって調整(補正)されることになる。なお、実CA50の算出に関しても、実SA−CA10のために上述したのと同様の理由により、所定のなまし処理が実施される。
【0055】
さらに、目標SA−CA10は、
図8に示すように、ΔCA10−90に応じて変更され得る。より具体的には、筒内圧データの解析結果に基づく実CA10−90と、エンジン運転状態に応じた値とされた目標CA10−90との差であるΔCA10−90が、所定値CA
th2よりも小さいかあるいは大きいかに応じて、エンジン運転状態に応じて設定された値に対して増減される。
【0056】
ΔCA10−90が所定値CA
th2よりも小さい場合、すなわち、実CA10−90が比較的小さいことで主燃焼速度が良好に高いといえる場合には、SA−CA10の制御にはリーンリミットに対する余裕があるといえる。そこで、この場合には、実SA−CA10をよりリーンリミットに近づけるために、エンジン運転状態に応じて設定された目標SA−CA10の値に対して所定値αが加算される。なお、SA−CA10の制御を燃料噴射量もしくは吸入空気量の調整にて行う場合には、実SA−CA10をよりリーンリミットに近づけることは、空燃比をよりリーンリミットに近づけることを意味する。
【0057】
一方、ΔCA10−90が所定値CA
th2よりも大きい場合、すなわち、実CA10−90が大きい(燃焼速度が遅いためにトルク変動が大きい)場合には、SA−CA10の制御にはリーンリミットに対する余裕があまりないといえる。そこで、この場合には、実SA−CA10をリーンリミットから遠ざけるために、エンジン運転状態に応じて設定された目標SA−CA10の値に対して所定値αが減算される。これにより、SA−CA10の制御を燃料噴射量もしくは吸入空気量の調整にて行う場合には、空燃比がリッチ側の値に制御されることになる。
【0058】
また、本実施形態では、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御の応答速度よりも、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御の応答速度が高くなるようにするために、これらのフィードバック制御で用いるPIゲインとなまし処理とに対して次のような配慮がなされている。すなわち、SA−CA10を利用したフィードバック制御で用いるPIゲインよりも、CA50を利用したフィードバック制御で用いるPIゲインの方が大きな値に設定されている。また、なまし処理に関しては、既述した移動平均を利用した手法を例に挙げて説明すると、SA−CA10を利用したフィードバック制御における移動平均に用いる筒内圧データの個数よりも、CA50を利用したフィードバック制御における移動平均に用いる筒内圧データの個数が少なくされる。
【0059】
なお、ΔCA10−90に基づく目標SA−CA10の変更は、基本的には、経年変化のように非常に緩やかに進行するCA10−90の変化を主に想定したものである。したがって、この目標SA−CA10の変更は、以下の
図9に示すルーチンの処理のように頻繁に行われるものであってもよいが、基本的にはこのような処理よりも非常に緩やかな処理によってなされるものであればよい。すなわち、例えば、目標SA−CA10の変更のために使用される所定値(αもしくは−α)は、他の上記2つのフィードバック制御よりも十分に長いスパンで行われる学習処理によって得られる学習値として記憶されるようにし、エンジン運転状態に応じて目標SA−CA10を設定する際に、そのような学習値が目標SA−CA10に反映されるようになっていてもよい。また、実CA10−90の算出に関しても、実SA−CA10等と同様の理由により、所定のなまし処理が実施される。既述した移動平均を利用した手法を例に挙げて説明すると、この実CA10−90の算出のための移動平均に用いる筒内圧データの個数は、実SA−CA10および実CA50の算出のための移動平均に用いる筒内圧データの個数よりも十分に大きくされる。
【0060】
(実施の形態1における具体的処理)
図9は、本発明の実施の形態1に係る特徴的なリーンリミット制御を実現するために、ECU40が実行するメインルーチンを示すフローチャートである。
図10は、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御に関する処理を規定したサブルーチンを示すフローチャートである。
図11は、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御に関する処理を規定したサブルーチンを示すフローチャートである。なお、
図9に示すルーチンは、各気筒において燃焼終了後の所定タイミングにて、サイクル毎に繰り返し実行されるものとする。
【0061】
図9に示すメインルーチンでは、ECU40は、先ず、リーンバーン運転中であるか否かを判定する(ステップ100)。内燃機関10では、所定の運転領域において理論空燃比よりもリーンな空燃比でのリーンバーン運転が行われるようになっている。ここでは、そのようなリーンバーン運転を行う運転領域に該当するか否かが判定される。
【0062】
ステップ100においてリーンバーン運転中であると判定した場合には、ECU40は、ステップ102に進み、
図10に示すサブルーチンの一連の処理を実行する。すなわち、ECU40は、先ず、クランク角センサ42とエアフローメータ44とを用いて、エンジン回転速度およびエンジン負荷率を取得するとともに、目標点火効率を取得する(ステップ200)。エンジン負荷率は、エンジン回転速度と吸入空気量とに基づいて算出することができる。ECU40は、内燃機関10の運転条件に応じて目標点火効率を定めたマップ(図示省略)を記憶しており、本ステップ200では、そのようなマップを参照して目標点火効率が取得される。
【0063】
次に、ECU40は、目標CA50を算出する(ステップ202)。目標CA50は、ステップ200において取得したエンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率に基づいて設定される。より具体的には、目標点火効率が1である場合、すなわち、MBTを目標点火時期とする場合には、MBTが得られる時のCA50が目標CA50として使用される。また、目標点火効率が1より小さい所定値である場合、すなわち、目標点火時期がMBTに対して進角側または遅角側の所定時期とされる場合には、目標CA50は、当該所定時期が得られる時のCA50が目標CA50として使用される。
【0064】
次に、ECU40は、筒内圧センサ30とクランク角センサ42とを利用して燃焼時に計測された筒内圧データを取得する(ステップ204)。次いで、ECU40は、取得した筒内圧データの解析結果を利用して実CA50を算出する(ステップ206)。実CA50の算出については、
図8を参照して既述した配慮がなされたなまし処理が実施される。
【0065】
次に、ECU40は、ステップ202および206において算出した目標CA50と実CA50との差を算出する(ステップ208)。次いで、ECU40は、ステップ208において算出された差と所定のPIゲイン(比例項ゲインと積分項ゲイン)とを用いて、当該差およびその積算値の大きさに応じた点火時期補正量を算出する(ステップ210)。上述したように、SA−CA10を利用したフィードバック制御で用いるPIゲインよりも、CA50を利用したフィードバック制御で用いるPIゲインの方が大きな値に設定されている。そのうえで、ECU40は、算出した点火時期補正量に基づいて、次のサイクルで使用する点火時期を補正する(ステップ212)。具体的には、CA50と点火時期との間には、ほぼ1対1の関係があり、例えば、目標CA50よりも実CA50が大きい場合(すなわち、目標CA50よりも実CA50が遅角している場合)には、燃焼を早めるために点火時期が進角されることになる。
【0066】
図9に示すメインルーチンにおいてステップ102の処理が実行された後は、ECU40は、目標CA50と実CA50との差(絶対値)が所定値CA
th1以下であるか否かを判定する(ステップ104)。その結果、上記差が所定値CA
th1以下ではないと判定した場合、すなわち、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御によって実CA50が目標CA50の近傍に十分に収束していないと判断できる場合には、ECU40は、今回の処理サイクルにおける処理を速やかに終了する。その結果、ステップ100の成立を条件として、同一気筒の次サイクルにおいてステップ102以降の処理が再び実行される。つまり、ステップ104の判定が不成立となったサイクルでは、ステップ106の処理で特定されるSA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御以降の処理は実行されない。
【0067】
一方、上記ステップ104の判定が成立する場合、すなわち、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御によって実CA50が目標CA50の近傍に十分に収束していると判断できる場合には、ECU40は、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御を実行するために、ステップ106に進む。
【0068】
ステップ106では、
図11に示すサブルーチンの一連の処理が実行される。すなわち、ECU40は、先ず、目標SA−CA10を算出する(ステップ300)。ECU40は、実験等の結果に基づいてエンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率との関係で目標SA−CA10を予め定めたマップ(図示省略)を記憶している。本ステップ300では、そのようなマップを参照して、ステップ200において取得したエンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率に基づいて目標SA−CA10が取得される。目標点火時期との関係に関し、目標SA−CA10は、目標点火効率に応じて(すなわち、MBTからの目標点火時期の乖離量に応じて)、MBTに対する点火時期の遅角量が大きいほど、基準値に対してより小さな値となるように設定され、逆に、MBTに対する点火時期の進角量が大きいほど、基準値に対してより大きな値となるように設定される。
【0069】
次に、ECU40は、点火時期を取得する(ステップ302)。ECU40は、エンジン負荷率とエンジン回転速度との関係で目標(要求)点火時期(基本的には、最適点火時期(以下、「MBT」と称する))を定めたマップ(図示省略)を記憶しており、本ステップ302では、そのようなマップを参照して点火時期を取得する。
【0070】
次に、ECU40は、実SA−CA10を算出する(ステップ304)。実SA−CA10は、ステップ302において取得した点火時期から、ステップ204において取得した筒内圧データの解析結果として得られるCA10までのクランク角期間として算出される。
【0071】
次に、ECU40は、ステップ300および304において算出した目標SA−CA10と実SA−CA10との差を算出する(ステップ306)。ECU40は、次いで、算出された差と所定のPIゲイン(比例項ゲインと積分項ゲイン)とを用いて、当該差およびその積算値の大きさに応じた燃料噴射量補正率を算出する(ステップ308)。そのうえで、ECU40は、算出した燃料噴射量補正率に基づいて、次のサイクルで使用する燃料噴射量を補正する(ステップ310)。具体的には、例えば、目標SA−CA10よりも実SA−CA10が大きい場合には、
図3(D)に示す関係より、空燃比が狙い値よりもリーン側にずれていることに相当するため、空燃比をリッチ補正するために燃料噴射量が燃料噴射量のベース値に対して増やされることになる。
【0072】
図9に示すメインルーチンにおいてステップ106の処理が実行された後は、ECU40は、目標SA−CA10と実SA−CA10との差(絶対値)が所定値CAP
th以下であるか否かを判定する(ステップ108)。その結果、上記差が所定値CAP
th以下ではないと判定した場合、すなわち、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御によって実SA−CA10が目標SA−CA10の近傍に十分に収束していないと判断できる場合には、ECU40は、今回の処理サイクルにおける処理を速やかに終了する。その結果、ステップ100の成立を条件として、同一気筒の次サイクルにおいてステップ102以降の処理が再び実行される。つまり、ステップ108の判定が不成立となったサイクルでは、ステップ110以降の処理は実行されない。
【0073】
一方、上記ステップ108の判定が成立する場合、すなわち、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御によって実SA−CA10が目標SA−CA10の近傍に十分に収束していると判断できる場合には、ECU40は、CA10−90を利用した目標SA−CA10の修正のための処理を実行するために、ステップ110に進む。
【0074】
ステップ110では、ECU40は、目標CA10−90を算出する。目標CA10−90についても、目標CA50と同様に、ステップ200において取得したエンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率に基づいて設定される。より具体的には、目標点火効率が1である場合、すなわち、MBTを目標点火時期とする場合には、MBTが得られる時のCA10−90が目標CA10−90として使用される。また、目標点火効率が1より小さい所定値である場合、すなわち、目標点火時期がMBTに対して進角側または遅角側の所定時期とされる場合には、目標CA10−90は、当該所定時期が得られる時のCA10−90が目標CA10−90として使用される。
【0075】
次に、ECU40は、ステップ204において取得した筒内圧データの解析結果を利用して実CA10−90を算出する(ステップ112)。実CA10−90の算出についてもは、
図8を参照して既述した配慮がなされたなまし処理が実施される。
【0076】
次に、ECU40は、ステップ110および112において算出した目標CA10−90と実CA10−90との差分であるΔCA10−90を算出する(ステップ114)。次いで、ECU40は、算出されたΔCA10−90が所定値CA
th2より小さいか否かを判定する(ステップ116)。この所定値CA
th2は、エンジン運転状態(ここでは、エンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率)に応じた目標CA10−90に対する実CA10−90の大きさの程度(主燃焼速度の程度)を判断するための閾値として予め設定された値である。
【0077】
上記ステップ116の判定が成立する場合、すなわち、実CA10−90が比較的小さいことで主燃焼速度が良好に高いといえる場合には、ECU40は、ステップ300において算出された目標SA−CA10の値に対して所定値αを加算する(ステップ118)。
【0078】
一方、上記ステップ116の判定が不成立となる場合には、ECU40は、次いで、ΔCA10−90が所定値CA
th2より大きいか否かを判定する(ステップ120)。その結果、本ステップ120の判定が成立する場合、すなわち、実CA10−90が大きい(主燃焼速度が遅い)場合には、ECU40は、ステップ300において算出された目標SA−CA10の値に対して所定値αを減算する(ステップ122)。
【0079】
次に、以上説明した
図9〜11に示すルーチンの処理に従うリーンリミット制御の効果について説明する。
【0080】
(SA−CA10を利用したフィードバック制御の効果)
先ず、本リーンリミット制御の中心となる
図11に示すサブルーチンの処理によれば、目標SA−CA10と実SA−CA10との差が無くなるように燃料噴射量のフィードバック制御が実行される。既述したように、SA−CA10はリーンリミット付近においても空燃比に対して線形性を有している。本実施形態の手法とは異なり、所定燃焼質量割合が得られる時の所定クランク角度のみを用いて当該所定クランク角度がある目標値となるように燃料噴射量を調整することとした場合には、次のような問題がある。すなわち、点火時期が変化すると、それに伴い、所定燃焼質量割合が得られる時の所定クランク角度が変化する。これに対し、点火時期が変化しても、点火時期から上記所定クランク角度になるまでのクランク角期間はほとんど変化しない。このため、燃料噴射量の調整のための指標として上記クランク角期間(本実施形態では、SA−CA10)を用いることで、上記所定クランク角度のみを用いる場合と比べ、点火時期の影響を排除して空燃比との相関性を好適に把握できるようになる。また、リーンバーン運転時や大量のEGRガスを導入して行うEGR運転時などの緻密な燃焼制御を必要とする運転時においては、現状の空燃比センサによる空燃比制御では、リーンリミット近傍で空燃比を正確に制御することは難しいという問題もある。したがって、本実施形態の手法によって目標SA−CA10と実SA−CA10との差に基づいて燃料噴射量を調整することで、リーンバーン運転時に空燃比をリーンリミット近傍に好適に制御できるようになる。
【0081】
また、本実施形態の手法は、既述した従来の手法のように統計処理を用いたものではないため、本手法によれば、迅速なフィードバック制御が実施可能となる。このため、過渡運転時にも良好に適用可能である。したがって、本手法によれば、幅広い運転条件において、リーンリミット制御が実現可能であり、その結果、燃費性能および排気エミッション性能を引き出せるようになる。また、気筒毎の制御も行えるようになる。
【0082】
また、本実施形態の手法によれば、エンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率のそれぞれに基づいて目標SA−CA10が設定される。これにより、これらのエンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率の変化の影響を考慮して、目標SA−CA10を適切に設定できるようになる。既述したように、リーンリミット時の空燃比は、点火時期の影響を受ける(
図5参照)。したがって、特に、目標点火効率に応じて(すなわち、MBTからの目標点火時期の乖離量に応じて)目標SA−CA10を設定することで、SA−CA10を利用したフィードバック制御に伴う空燃比の変化に起因するMBTの変化を考慮して、目標SA−CA10を適切に設定できるようになる。そして、その結果として、狙いの点火時期(MBT、またはMBTから進角もしくは遅角した時期)に応じたリーンリミットの設定が可能となり、内燃機関10のポテンシャルを最大限に引き出せるようになる。
【0083】
(CA10−90を利用した目標SA−CA10の設定の効果)
さらに、
図9に示すメインルーチンの処理によれば、ΔCA10−90が所定値CA
th2より小さいかあるいは大きいかに応じて(すなわち、実CA10−90の大きさに応じて)、目標SA−CA10が修正される。より具体的には、ΔCA10−90が小さいほど(実CA10−90が小さいほど)目標SA−CA10がより大きな値(空燃比としてはよりリーン側の値)に変更され、換言すると、ΔCA10−90が大きいほど(実CA10−90が大きいほど)目標SA−CA10がより小さな値(空燃比としてはよりリッチ側の値)に変更される。これにより、経年変化等により主燃焼期間(CA10−90)が変化したことでトルク変動限界が変化した場合であっても、主燃焼期間の変化に応じた適切なリーンリミットを選択できるようになる。特に、従来の手法のように、初期状態からの経年変化によるトルク変動の増加を想定して目標SA−CA10に対して余裕を設ける必要がなくなる。その結果、初期状態から適切にリーンリミットを設定することができ、初期状態において上記の余裕分に起因する燃費ロスおよびNOx排出量の増加を防止することができる。そのうえで、設計通りに着火は行われるが経年変化により主燃焼期間が長くなってしまった場合であっても、CA10−90を利用した目標SA−CA10の修正により、トルク変動を悪化させることなく、適切なリーンリミットを選択できるようになる。
【0084】
(CA50を利用したフィードバック制御の効果)
図10に示すサブルーチンの処理によれば、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御とともに、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御が実行される。この点火時期のフィードバック制御によれば、SA−CA10の制御に伴う空燃比の変化に起因してMBTに変化が生じた場合に、MBTが得られる時の値がリーンリミット付近において空燃比に応じてほとんど変化しないCA50を利用して(つまり、MBTと空燃比との関係を点火時期制御のために考慮する必要なしに)、点火時期を真のMBTに適切に制御できるようになる。換言すると、SA−CA10の制御に伴う空燃比の変化の影響を受けにくいCA50を用いて、SA−CA10の制御に伴う空燃比の変化に起因するMBTのずれを補正できるようになる。このように、燃料噴射量(空燃比)と点火時期の両方のフィードバック制御を協調して実施できるので、常に最適な燃焼を実現することができる。また、目標点火効率に応じて目標CA50を設定しているため、所定の点火効率の下でMBT以外の点火時期が目標点火時期として使われる場合であっても同様に、上記要因でのMBTのずれに起因する目標点火時期からの点火時期のずれを補正できるようになる。
【0085】
また、
図9に示すメインルーチンによれば、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御によって目標CA50と実CA50との差が所定値以下となっている場合に限って、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御が行われる。既述したように、SA−CA10の制御によって空燃比が変化することでMBTが変化し(
図4参照)、また、リーンリミット時の空燃比は点火時期の影響を受ける(
図5参照)。そうであるのに、SA−CA10を利用したフィードバック制御とCA50を利用したフィードバック制御とが独立して自由に実行されるようになっていると、これらのフィードバック制御が互いに干渉し合って、安定したフィードバック制御が行われにくくなる可能性がある(例えば、リーンリミットよりもリーンな空燃比に空燃比が制御されてしまうタイミングが生じてしまう可能性がある)。2つのフィードバック制御の協調を図るためには、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御に先立って、点火時期がMBTなどの目標点火時期近傍で安定して制御されていることが好ましい。また、点火時期の調整については基本的に燃焼に対して遅れが発生しないが、燃料噴射量の調整(特にポート噴射の場合)については、噴射してから燃焼に使われるまでに時間差がある。したがって、この点からも、点火時期のフィードバック制御が十分に収束している状態を基礎として、燃料噴射量のフィードバック制御を行う方が制御性が良いといえる。以上のことから、上記ルーチンによって実現される順番で2つのフィードバック制御を行うことにより、これらのフィードバック制御をより安定して行えるようになり、また、SA−CA10を利用したフィードバック制御を単独で行う場合と比べて、当該フィードバック制御によってリーンリミット近傍で空燃比をより適切に制御できるようになる。
【0086】
また、本実施形態の手法によれば、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御の応答速度よりも、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御の応答速度が高くなる。点火時期のフィードバック制御の応答性が良くないと、ステップ212の判定が安定して成立しにくくなり、その結果、SA−CA10を利用したフィードバック制御が継続的に実施されにくくなってしまう。これに対し、上記ルーチンによれば、点火時期のフィードバック制御が速やかに収束し易くさせられるので、ステップ212の判定が安定して成立し易くなる。これにより、2つのフィードバック制御を実行するループが継続的に成立し易くなるので、点火時期が適切な値に収束している状態でSA−CA10を利用したフィードバック制御が行われる機会を多く確保できるようになる。
【0087】
(CA10−90に基づく目標SA−CA10の変更に先立って、それぞれのフィードバック制御によってCA50およびSA−CA10をそれぞれの目標値付近に収束させることによる効果)
図9に示すメインルーチンによれば、ステップ104および108の判定がともに成立した場合に限って、CA10−90に基づく目標SA−CA10の修正がステップ116もしくは120の判定の成立を条件として実行される。
【0088】
既述したように、SA−CA10の制御によって空燃比が変化することでMBTが変化し(
図4参照)、また、リーンリミット時の空燃比は点火時期の影響を受ける(
図5参照)。そこで、ステップ104の判定が成立する状態(すなわち、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御によって点火時期が適切な値に収束している状態)でCA10−90に基づく目標SA−CA10の変更を行うことにより、SA−CA10の制御に伴う空燃比の変化に起因するMBTのずれの影響を受けずに、CA10−90に基づいて目標SA−CA10をより適切に設定できるようになる。
【0089】
また、フィードバック制御によって実SA−CA10が目標SA−CA10付近に十分に収束していないと、このことに起因して着火遅れの変化が主燃焼期間にも影響を与えてしまう可能性がある。そこで、ステップ108の判定が成立する状態(すなわち、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御によってSA−CA10が適切な値に収束している状態)でCA10−90に基づく目標SA−CA10の変更を行うことにより、SA−CA10に関するフィードバック制御が不十分なことに起因する影響を切り離して、経年変化等に起因する主燃焼期間の長短をΔCA10−90(実CA10−90)に基づいてより正確に把握できるようになる。これにより、CA10−90に基づいて目標SA−CA10をより適切に設定できるようになる。
【0090】
ところで、上述した実施の形態1においては、SA−CA10を利用したリーンリミット制御において、目標SA−CA10と実SA−CA10との差が無くなるようにフィードバック制御を利用して燃料噴射量を調整することとしている。しかしながら、本発明において、点火時期から所定燃焼質量割合が得られる時の所定クランク角度までのクランク角期間と、当該クランク角期間の目標値である目標クランク角期間との第1の差に基づく調整は、燃料噴射量に代えて、吸入空気量もしくは点火エネルギーに対するものであってもよい。さらには、燃料噴射量、吸入空気量および点火エネルギーのうちの複数が上記調整の対象とされていてもよい。具体的には、目標SA−CA10よりも実SA−CA10が大きい場合には、吸入空気量の調整であれば空燃比をリッチ補正するために吸入空気量を減らすこととなり、点火エネルギーの調整であれば着火遅れを短縮するために点火エネルギーを高めることとなる。なお、ここでいう吸入空気量の調整は、例えば、各サイクルにおいて筒内に吸入される空気量を高応答に制御可能な公知の吸気可変動弁機構を用いて行うことが好適である。また、点火エネルギーの調整は、例えば、点火プラグ28のために複数の点火コイルを備えるようにしておき、必要に応じて放電に用いる点火コイルの数を変更することによって行うことができる。なお、燃料噴射量もしくは吸入空気量が調整対象となる場合には、本制御によって空燃比が直接的に制御されることになる。
【0091】
また、上述した実施の形態1においては、CA50を利用した点火時期のフィードバック制御を行うこととしている。しかしながら、本発明における点火時期調整手段は、燃焼重心位置(CA50)を利用した点火時期の調整に代え、筒内圧最大クランク角度(θ
Pmax)を利用した点火時期の調整であってもよい。すなわち、燃焼期間中に筒内圧力が最大となるクランク角度であるθ
Pmaxについても、
図4(B)を参照して既述したCA50の性質と同様に、リーンリミット付近において空燃比に対してほぼ変化しないという性質を有している。したがって、このような性質を有するθ
Pmaxを利用して、例えば、実施の形態1において上述したものと同様の手法によって、目標θ
Pmaxと実θ
Pmaxとの差がなくなるように点火時期のフィードバック制御を行うようにしてもよい。なお、θ
Pmaxは、例えば、筒内圧センサ30とクランク角センサ42とを利用して取得した筒内圧データを利用して取得することができる。
【0092】
また、上述した実施の形態1においては、ΔCA10−90が所定値CA
th2よりも小さいかあるいは大きいかに応じて目標SA−CA10を修正することとしている。しかしながら、本発明における主燃焼期間の長さに基づくクランク角期間もしくはその相関値の目標値は、ΔCA10−90の大きさに応じて変更されるものに必ずしも限定されない。すなわち、当該目標値は、主燃焼期間の長さに応じて変更されるものであれば、例えば、実CA10−90と所定値との比較結果に基づくものであってもよい。なお、所定値は、エンジン運転状態(例えば、エンジン回転速度、エンジン負荷率および目標点火効率に基づく値とすることが好適である。
【0093】
なお、上述した実施の形態1においては、CA10が前記第1の発明における「所定クランク角度」に、目標SA−CA10が前記第1の発明における「目標値」に、目標SA−CA10と実SA−CA10との差が前記第1の発明における「第1の差」に、それぞれ相当している。また、ECU40がクランク角センサ42を用いてクランク角度を検出することにより前記第1の発明における「クランク角検出手段」が実現されており、ECU40が筒内圧センサ30とクランク角センサ42とを用いて取得した燃焼期間中の筒内圧データを使用して燃焼質量割合を算出することにより前記第1の発明における「燃
焼質量割合算出手段」が実現されており、ECU40が燃焼質量割合の算出結果を利用してCA10を取得することにより前記第1の発明における「クランク角度取得手段」が実現されており、そして、ECU40が上記ステップ306〜310の処理を実行することにより前記第1の発明における「調整手段」が実現されており、ECU40が上記ステップ112の処理を実行することにより前記第1の発明における「主燃焼期間取得手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、目標CA50と実CA50との差が前記第5の発明における「第2の差」に相当している。また、ECU40が上記ステップ206の処理を実行することにより前記第5の発明における「燃焼重心位置算出手段」が実現されており、そして、ECU40が上記ステップ208〜212の処理を実行することにより前記第8の発明における「点火時期調整手段」が実現されている。
また、上述した実施の形態1の変形例においては、目標θ
Pmaxと実θ
Pmaxとの差が前記第6の発明における「第2の差」に相当している。また、ECU40が筒内圧センサ30とクランク角センサ42とを利用して取得した筒内圧データを利用してθ
Pmaxを取得することにより前記第6の発明における「筒内圧最大クランク角度取得手段」が実現されており、そして、ECU40がCA50に代えてθ
Pmaxをパラメータとして上記ステップ208〜212と同様の処理を実行することにより前記第6の発明における「点火時期調整手段」が実現されている。
【0094】
実施の形態2.
次に、
図12および
図13を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施形態のシステムは、
図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU40に
図9に示すルーチンに代えて後述の
図13に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
【0095】
[実施の形態2におけるリーンリミット制御]
(CA10−90に基づく目標SA−CA10の設定)
上述した実施の形態1では、CA10−90に基づいて目標SA−CA10を変更することとしている。これに対し、本実施形態では、実施の形態1のリーンリミット制御を同様に行うようにしたうえで、CA10−90に基づく目標SA−CA10の変更に関し、さらに着火限界を考慮することとしている。
【0096】
図12は、トルク変動限界に加えて着火限界を考慮した場合における目標SA−CA10の設定を、MBT付近のCA50との関係で表した図である。
実施の形態1において既述したように、目標SA−CA10は、リーンリミット(内燃機関10のドライバビリティの観点でトルク変動が限界となる時の空燃比)近傍で空燃比を制御するための指標値として高い意義を有する値である。ある運転条件において、CA50とSA−CA10とが両者のフィードバック制御によってそれぞれの目標値に収束しているとした場合には、
図12に示すように、トルク変動が等しい等トルク変動ライン(細い破線)は、CA50が遅角するほど(言い換えれば、点火時期が遅角するほど)目標SA−CA10が小さくなる傾向を有するものとなる。
【0097】
ここで、内燃機関10の状態として、「初期状態A」と「状態B」とを想定する。初期状態Aでの目標SA−CA10は、
図12中に白丸印で示すように、初期状態Aでのトルク変動限界ライン(太い実線)を超えない範囲内で、MBT付近でCA50(点火時期)が遅角するほど小さくなるという傾向を有する(実施の形態1における目標点火効率に基づく目標SA−CA10の設定を参照)。状態Bは、初期状態Aに対し、燃焼を安定させるような変化(主燃焼速度が高くなる変化)が内燃機関10に生じた後の状態(例えば、タンブル流を強めるように筒内の壁面にデポジットが堆積した状態)であるものとする。なお、燃焼を安定させるような変化が生ずる要因としては、経年変化以外にも、例えば、デポジット除去のためにエンジン内部の洗浄を行うメンテナンスの実行が該当する。
【0098】
初期状態Aから状態Bへの内燃機関10の状態の変化(筒内環境の変化など)が生じた場合には、トルク変動限界ラインが、太い実線で示すラインから太い破線で示すラインに変化する。実施の形態1におけるCA10−90に基づく目標SA−CA10の変更によれば、このような変化が生じた場合、すなわち、ΔCA10−90が所定値CA
th2よりも小さいことで主燃焼速度が高い状況に該当する場合には、
図12中に白丸印から黒三角印への変化として表したように、変化後のトルク変動限界ライン(太い破線)を超えない範囲内で目標SA−CA10が大きくされる。
【0099】
その一方で、MBT付近において点火時期を遅角すると、主燃焼速度が低下するけれども筒内ガスがより高温かつ高圧となるタイミングで着火することになる。その結果、MBT付近においては、点火時期が遅角するほど、筒内の混合気の着火限界となる空燃比が高くなる。したがって、状態Bのように主燃焼速度が良好に高いといえる状態であることで点火時期を遅角しても主燃焼速度の低下によるトルク変動が発生しない状況であれば、着火限界が伸びた分に応じて、よりリーン側でも安定した運転が可能となる。このため、
図12に示すように、CA50(点火時期)が遅角するほど、着火限界時の目標SA−CA10が大きくなる。
【0100】
しかしながら、CA10−90に基づく目標SA−CA10の変更に関して
図12に示す着火限界ラインの傾向が考慮されていないと、主燃焼速度が良好に高い(CA10−90が小さい)ことで白丸印から黒三角印のように目標SA−CA10を大きくしようとした際に、CA50(点火時期)次第では、着火限界を超えてしまう可能性がある(
図12中の破線で示す三角印がこれに相当)。
【0101】
そこで、本実施形態では、ΔCA10−90が所定値CA
th2よりも小さい場合(実CA10−90が小さい場合)には、筒内の混合気の着火限界時の値を超えない範囲内で、CA10−90に基づいて目標SA−CA10を大きくすることとした。このような思想に基づく目標SA−CA10の変更は、換言すると、ある点火時期範囲(
図12中の左端から4つの黒三角印が属するCA50の範囲)では、ΔCA10−90が所定値CA
th2よりも小さい状況下(実CA10−90が小さい状況下)において、点火時期(CA50)が遅いほど目標SA−CA10をより大きな値に変更するものであるといえる。
【0102】
(実施の形態2における具体的処理)
図13は、本発明の実施の形態2に係る特徴的なリーンリミット制御を実現するために、ECU40が実行するメインルーチンを示すフローチャートである。なお、
図13において、実施の形態1における
図9に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0103】
図13に示すルーチンでは、ECU40は、ステップ116においてΔCA10−90が所定値CA
th2より小さいと判定した場合には、ステップ118において目標SA−CA10に所定値αを加算した後に、ステップ400に進む。
【0104】
ステップ400では、ECU40は、ステップ118の処理による加算後の目標SA−CA10が着火限界時の値よりも小さいか否かを判定する。ECU40は、
図12に示す着火限界ラインのような関係、すなわち、CA50(もしくは点火時期)との関係で着火限界時の目標SA−CA10の値(より厳密には、着火限界時の値に対して所定の余裕代を持たせた値)を定めたマップを記憶しており、本ステップ400では、そのようなマップを参照して、現在のCA50(点火時期)に応じた着火限界時の目標SA−CA10の値が取得される。
【0105】
上記ステップ400の判定が成立する場合、すなわち、上記加算後の目標SA−CA10が着火限界時の値に対して未だ余裕があると認められる場合には、目標SA−CA10のさらなる修正は行われない。一方、上記ステップ400の判定が不成立となる場合、すなわち、上記加算後の目標SA−CA10が着火限界時の値以上となる場合には、ECU40は、着火限界時の値を超えて目標SA−CA10が変更されるのを防止するために、目標SA−CA10の値を上記加算後の値から着火限界時の値に変更する(ステップ402)。
【0106】
以上説明した
図13に示すメインルーチンの処理によれば、実施の形態1において上述した効果に加え、次のような効果が得られる。すなわち、ΔCA10−90が所定値CA
th2よりも小さい場合(実CA10−90が小さい場合)には、筒内の混合気の着火限界時の値を超えない範囲内で、CA10−90に基づいて目標SA−CA10が大きくされる。これにより、実CA10−90が小さいことで主燃焼速度が良好に高い状況下において、着火限界を超えない範囲内で空燃比を出来るだけリーン側に制御し、リーンリミットを良好に拡大することができる。さらに付け加えると、
図12に示すように着火限界ラインとトルク変動限界ラインとの傾向が異なる点に着目して、CA10−90に基づいて目標SA−CA10を適切に設定できるようになる。
【0107】
ところで、上述した実施の形態1および2においては、SA−CA10を利用した燃料噴射量のフィードバック制御について説明を行った。しかしながら、本発明は、SA−CA10のように点火時期から所定燃焼質量割合が得られる時の所定クランク角度までのクランク角期間自体を直接的に用いるものに限らず、当該クランク角期間に代えてその相関値を用いるものであってもよい。
【0108】
また、上述した実施の形態1および2においては、燃焼質量割合(MFB)を算出するために、筒内圧センサ30とクランク角センサ42とを用いて取得した筒内圧データの解析結果を利用している。しかしながら、本発明における燃焼質量割合の算出は、筒内圧データを利用したものに必ずしも限定されるものではない。すなわち、燃
焼質量割合は、例えば、燃焼に伴って発生するイオン電流をイオンセンサによって検出し、検出したイオン電流を利用して算出されるものであってもよいし、或いは、筒内温度を計測できる場合には、筒内温度の履歴を利用して算出されるものであってもよい。